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[24323] それは幻想の物語 第二章 時を捕らえし暗殺者 東方 オリキャラ
Name: 荒井スミス◆735232c5 ID:d86d6c57
Date: 2010/11/14 21:37




さて、皆様どうも。

私、荒井スミスと申します。

第一章も終わり、いよいよ第二章が始まりました。

楽しみですね、ドキドキしますね。

少なくとも私は。



さて、それでは早速注意事項に移りたいと思いますはい。



この物語は、東方Projectの二次・・・・・・これ言わなくても分かるわな。

この物語は第二章と銘を打ってはいますが、この物語から読み始めても特に問題はございません。

私の話はそういう話になりますので。

もちろん第一章から読んでもらっても構いません。

ああ、これはちょっとした宣伝ですかね?

そして独自の解釈も多く含まれております。

今回の主人公は紅魔館のメイド長である十六夜 咲夜さんです。

ただし、表の・・・が付きますが。

表と言うからには裏も存在します。

この裏の主人公こそが真の主役でもあります。

今回の話は咲夜さんのヴァンパイア・ハンター説を元に、この私が電波を絞って考えた怪作になります。

ああ、そうそう大事な話を忘れてました。

今回は残酷な描写はそこまではありません・・・ただし。

残酷な展開は・・・・・・ありますので。

そこは十分にご理解いただきたい。

そして出来れば感想などを是非是非。



それでは皆様ッ!――――――ご堪能くださいまし、そしてッ!

――――――ゆっくりしていってね?



[24323] プロローグ 恐怖の代名詞
Name: 荒井スミス◆735232c5 ID:d86d6c57
Date: 2010/11/14 21:29






影は走っていた。

夜の森を音もなく走っていた。

何の迷いもなく、黒い影は走っていた。

速度を落とすことなく、しかし上げることもなく一定の速さを保ったまま。

黒い影は走っていた。

音を一切出さないその走りは、どこまでも穏やかなものだった。

気配を感じさせないそれは、動く闇と言ってもいいほどの静寂で森を駆け抜ける。

風のような速さで駆ける影は、目の前の一本の高い木にするりと駆け上った。

地上で駆けたその速さのまま、するりするりと登り、木の頂上に影は辿り着いた。

そして、影の前に霧に包まれた湖が現れた。

影はジッと霧の湖の、その先を見つめていた。

霧の向こう側にうっすらと見える紅い屋敷。

その名は紅魔館。

永遠に紅い幼き月の吸血鬼の治める悪魔の館である。

風が前触れもなく吹いた。

それまで霧によって遮られた月の光がその影を照らす。

そして月光に映し出されるは、黒い装束を身に纏った者だった。

黒装束のその者からは何も感じない。

なんの気配も発さない、ありとあらゆる無駄を無くしたそれは、一種の悟りのようなものさえ感じさせた。

その者はジッと、鷹のように、狩人のように鋭く、紅い屋敷を見ていた。




















「――――――行くか」




















今まで無言だったそれは、そう呟いて木から飛び降りた。

影はみるみるうちに地面に落ちていった。

そして影は地面に着くと同時に、一瞬も止まることなく、落ちた速度のまま走り出していった

目指すは紅魔館。

夜の王にしてこの幻想郷の恐怖の代名詞の一つ、吸血鬼の住む館。

常人なら聞いただけで恐れて震え上がるだろう。

しかし、しかしである。

恐怖の権化は何も、吸血鬼だけではない。

紅魔館を目指すこの影もまた、恐怖の象徴の一つである。

闇に住まい、影として生き、死となって現れ、そして消えていく。




















――――――人はそれを、アサシンと呼んだ。




















――――――物語は動き出す。

――――――それは幻想の物語。





































やっと始まった第二章。

プロローグは此処までです。

そしてこれだけは言っておきます。

どのような展開も――――――覚悟してください。

それでは!



[24323] 第一話 穏やかな日常
Name: 荒井スミス◆735232c5 ID:d86d6c57
Date: 2010/11/16 19:14






十六夜 咲夜は夢を見ていた。

意識はぼんやりとしていて、どんな夢なのかは、はっきりとは分からない。

夢の中の自分は、頭を撫でられていた。

撫でるその手はとても硬くて、ゴツゴツしていて。

でも、とても暖かかった。

誰が撫でているのかは――――――分からない。

でも今は、そんなことはどうでもいいと思った。

ただ、もうちょっとだけ・・・だが出来れば、このままずっと撫でていてほしい。

そしてその人物は、咲夜にこう言った。




















「――――――――よくやった。さすがは」




















「・・・・・・・・・夢、か」



眠りから覚めた咲夜は、ポツリとそう独り言を呟く。

寝ぼけ眼を軽く擦り、彼女の頭の思考は回り始める。

その日の最初に思い浮かんだのは、先ほどまで見ていた夢の事だった。



(頭を撫でられていた。けど誰が?・・・分からない・・・でも)



咲夜は胸に手を当て、自分の中に不思議な暖かさを感じ取る。



(何でかしら・・・懐かしい。そう感じるのはどうして?)



咲夜は頭を撫でていた人物を思い出そうとする。

だが、頭は霞がかかったようになり、その人物を思い出すことが出来ない。



(・・・・・・まあいい。どうせただの夢だし)



そう考え彼女はベットから出た後すぐに着替え、仕事の準備に掛かった。




















――――――そして、彼女の穏やかな優しいいつも通り一日が、始まりを告げたのであった。




















あの年老いた魔法使いが起こした異変に咲夜が関わってから数日程経った。

紅魔館はまた普通ののんびりとした日常に戻っていた。

変わった事といえば、その異変の後に異変を起こした張本人である魔法使いが度々来るようになったことか。

彼に三対一の勝負で負けてしまい、咲夜自身は彼に複雑な感情を持っていたが、それはそれ、これはこれ。

かの魔法使いもちゃんと客として扱う。

自分はこの紅魔館の、レミリア・スカーレットの完全瀟洒な従者なのだから。



(でもお嬢様をからかうのは勘弁してほしいわ。自分から突っ掛かって行って、それで返り討ちにあうだけなんだけどね。
 ・・・・・・ああでも、あの言い負かされて涙目になったお嬢様は・・・ふふ、ふふふふふ)



誰も見えない廊下で、いきなり不気味に笑う完全瀟洒な従者。

――――――はっきり言ってその・・・怖い。



(・・・ふふ・・・ふふふふふ・・・ふぅ・・・ああ、いけないいけない。早くお嬢様を起こしに行かなくては)



咲夜は不気味に笑うのを止めレミリアを起こしに行く。

興奮気味に、若干息をハアハアさせながら。

――――――だから、怖いって。





































咲夜はレミリアの部屋の前に来ると、軽く扉をノックする。



「失礼しますお嬢様。お目覚めの時間ですよ」



そして扉を開けて咲夜はレミリアの部屋へと入っていった。



「あら、おはよう咲夜」



するとそこには、既にもう全ての仕度を整えて起きているレミリアがいた。

そんなレミリアを見て、咲夜は驚愕する。



(お嬢様が、もう起きているだとッ!?そんなッ!?
 これではもうお嬢様の寝顔を見てハアハアしたり、着替えを手伝ってハアハアしたり、
 まだ寝ぼけていてうー☆と言ったのを聞いてハアハアしたり、
 しゃくや~と舌足らずに言ったりしたのを聞いてハアハアしたりするのが出来ないじゃないのッ!?)



顔には出さなかったが、咲夜は意気消沈していた。

――――――とりあえずそのハアハアするのは止めましょう。

――――――物凄く怖いから。



「どうしたの咲夜?何かあったの?」



物凄く悲しそうな顔で落ち込む咲夜を見て、レミリアは何事かと心配する。



「あ、いえ。今日はお早いお目覚めだと思いまして。いつもならまだお眠りになっている時間ですので」

「・・・・・・私だってたまには自分で早起きぐらいするわよ。
 それで咲夜、今来てもらってすぐで悪いんだけど、お茶を持って来てくれないかしら?」



従者の言い分に頬をぷくっと膨らませて不満な表情になるお嬢様。

それを見た従者は心の中でガッツポーズをしながら忠誠心を出す。

そして元気になった後、笑顔を浮かべて主の命に答える。



「分かりました。すぐに御用意致します」



完全瀟洒な従者はそう主の命に答え、さっそく仕事に掛かった。







































「美味しいわ咲夜。貴女が入れる御茶はいつも最高ね」

「ありがとうございます。お嬢様」



レミリアの言葉に礼を持って返す咲夜。

しかしそう褒めるレミリアは何故か複雑な表情になる。

その理由は?



「・・・でも何で玄米茶なのかしら?しかもどうしてそれを紅茶のカップで出すのかしら?」



これである。

咲夜は何を思ったか、今朝出した御茶は玄米茶。

レミリアはどうして玄米茶を、しかも紅茶のカップで出したのか自身の優秀な従者に問う。



「何故かたくさんありまして。これをこのままにしとくのも勿体無いと思いまして出しました。
 ・・・お気に召しませんでしたか?」



従者から帰ってきた答えはそんな間の抜けた返答だった。

この従者は普段は完璧なのだか、何時もどこか妙なところで抜けている時がある。

まあ、それを補うくらい普段は優秀なので、あまり気にはしないようにはしているのだが。

それでもやはり気になるものは気になるようだった。



「・・・美味しいんだけど、私としては紅茶が出て来ると思ってたのに玄米茶が出て来てその・・・なんだかなぁと思うのよ。
 なんていうか・・・コーヒーと思って飲んでみたらコーラだったって感じなのよね」

「申し訳ありませんお嬢様。コーヒーはありますが、生憎コーラはただいま品切れでして」

「いや、私コーラ飲みたいなんて言ってないからッ!?話が飛び過ぎだからッ!」

「え?そうなんですか?スッキリしていいとは思うんですが」

「うー・・・もういいわよ」

「分かりました。見かけたら買っておきますね」

「え?買うの?」

「なんだか私も飲みたくなってきて・・・・・・あの店にあるかしら?」

「・・・・・・たまに咲夜が何考えてるのか分からなくなるわ」

「主にお嬢様の事を考えてます。従者として当然です」

「私の何を考えてるのよ?」

「もう、お嬢様ったら・・・・・・そんな恥ずかしい事言えませんわ」

「なに顔赤くしていやんいやん体を動かしてるのよあんたはッ!なんか鳥肌が立つじゃないのよッ!」

「頭もスッキリしましたでしょう?」

「・・・・・・・・・ほんともういいわ」



そんなほのぼの?とした会話が続く。

少しして、レミリアは咲夜に訊ねる。



「ねえ、咲夜?今日は何かあったのかしら」

「何か、とは?」

「何だか今日の貴女、ちょっと変わってるなと感じたのよ。
 いや、さっきのあれはあれで変だけど、今日はなんか違う変な感じ・・・違和感があるのよ。」

「変わってる、ですか?」



レミリアの言葉に咲夜はキョトンと首を傾げる。



「ええ、そう。どこがと言われれば分からないのだけど・・・ただなんとなくそう感じたのよ」

「強いて言えば今日は・・・そうですね。・・・・・・夢を、見ましたね」

「夢?どんな夢かしら?」



レミリアは興味を惹かれ、彼女が見た夢がどんなものだったか訊ねる。

咲夜は自分が覚えている範囲の事をレミリアに話すことにした。



「夢の中で、誰かに頭を撫でられているんです」

「頭を撫でられる?誰に?」

「分かりません。分かるのは、その手はとても硬くてゴツゴツしていて、懐かしくて暖かい感じだったことぐらいですね」



自分の夢の内容を語る咲夜の顔は微笑んでいた。

それを見たレミリアは、珍しいもの見たなと内心少し驚いた。

たぶん今の咲夜は自分が笑っている事に気付いてないだろう。

恐らく、彼女は無意識の内に笑っているのだ。

レミリアはそれに興味を抱いて更に夢の内容がどんなものだったかを尋ねてくる。



「へえ、それから?」

「それだけです。ただ頭をずっと撫でられるだけの夢でした。でも・・・不愉快ではありませんでした。
 逆に、もっとしてほしい。・・・そう思いましたね」



不思議な夢だった。

心が温かくなる、とても優しい夢だった。

咲夜の表情はそれをありありと語っていた。

そんな咲夜を見て、レミリアは咲夜に尋ねる。



「そう・・・ねえ咲夜?」

「はい、何でしょう?」

「それは、良い夢だった?」

「・・・そうですね。良い、夢でした」



レミリアはただ一言、そうとだけ言ってカップに注がれた玄米茶を飲んだ。

その味は心を落ち着かせる、優しい味だった。





































それからはいつも通りの日常だった。

いつも通りの紅魔館の雑用雑事を済ませる。

サボりの門番にいつも通りの制裁を加える。

いつも通りのお嬢様の我侭に完璧に答える。

紫もやしの世話もした。

その使い魔の愚痴にもちょっと付き合った。

話が少し弾んだのは内緒だ。

違ったのは、妹様のご機嫌が良くて何の問題も無く御世話が済んだことくらいだろう。

何故か咲夜のことを微笑ましく見ていたが。

白黒の魔法使いがいつも通り襲撃をしてきたりもした。

気分が良かったので軽く撃退した。

そんなのんびりとした穏やかな日常が続いていった。






































そしてまた、そんないつも通りの一日に終わりが来ようとしていた。



(さて、後はまた軽く見回りでも済ませておきますか)



咲夜が最後の雑事に取り掛かっていた時のことだった。

館の空気が、ほんの僅かだが変わったのだ。



(・・・・・・・・・ッ!?侵入者ッ!?)



咲夜はその空気に侵入者の気配を感じる。

だがその気配は何かがおかしかった。



(この感じは・・・何故かしら?嫌な気配ね。いつもの悪戯妖精の感じではない。これは・・・もっと別の何か)



首筋をチリチリと刺すような空気を感じ、不安な気持ちが出て来る。

こんな気持ちは、咲夜が紅魔館に来てから初めてだった。

だが、考えていても仕方ない。

咲夜はそう判断し、気配の下へ向かって行った。




















――――――それは、彼女の穏やかな優しいいつも通り一日が、終わりを告げた瞬間であった。




































どうも、あら~いスミスです。

まず咲夜さんに注意を。

そのハアハアするのは止めましょう。

凄く恐いです。

そしてこれをご覧になった一部の読者の方々。

彼女を見てハアハアするのは止めましょう。

いろんな意味で恐いです。

でも一番恐いのは、こんな話を書いてる私でしょうか?

・・・・・・・・・きっとそうなんでしょうね。

だから何?って話でした。

さて、次回はいよいよ・・・・・・登場します。

それでは!



[24323] 第二話 そして時は動き出す
Name: 荒井スミス◆735232c5 ID:d86d6c57
Date: 2010/11/19 18:57






十六夜 咲夜は進入してきた気配の下へ向かう。

嫌な予感がする。

今まで味わったことの無い嫌な予感が。

彼女はその気配の下に少しずつ近付いていく。

段々と距離を詰めていく。

そうして近付く度に、彼女の嫌な予感は更に増していく。

何時の間にか額に冷や汗が流れ始めるが、咲夜はそれにも気付かない。

そして咲夜は進んでいく内に、あることに気付く。



(――――――この先はお嬢様の部屋だッ!)



自身の勘が最大限の警告を発する。

なんとしても急がねばならぬ、なにかが起こる前に早く・・・速く進めと咲夜を急かす。

彼女は急ぎ、ついにその気配の――――――影の下に辿り着く。



(・・・・・・影?いや・・・違うッ!)



彼女の前に現れたのは、黒い装束に身を包んだ人物だった。

そしてその人物は上手く巧妙に隠していたが――――――武装をしていた。

咲夜はその人物を見て、目を見開いて驚愕する。



(あの装束・・・まさかッ!?)



咲夜はその武装が何なのか、何処に何を装備しているのか分かった。

言おうと思えば、その影の人物が装備している武装――――――いや、暗器の名称を全て言うことが出来る。

何故そこまで分かるのか?

それは彼女がこの紅魔館の完全瀟洒なメイド長だから――――――という訳ではない。

何故なら――――――あれはかつて、自分がいた組織の武装だからだ。

かつての自分が、装備していた武装だからだ。

それはつまり、この目の前の影の人物が――――――



(あの組織の・・・教団の手の者かッ!?)



咲夜は戦慄した。

まだあの組織はお嬢様を諦めていなかったのかと驚愕するしかなかった。。

しかし――――――考えてみれば当たり前だ。

あいつ等がそう簡単に諦めることなどするはずもない。

蛇のようなしつこさには定評があったあの組織なら当然だ。

咲夜は目の前の人物を見定める。

あの姿と武装、そして此処まで気付かれずに来た力量から考えて、恐らくマスタークラスのアサシンだろう。

顔は――――――分からない。

布で面を隠し、目元もすっぽり被ったフードの影で見えなかった。

元々そうやって正体を隠し、なおかつ装備者の視線を隠す装備なので当然なのだが。

その一方、影――――――アサシンは、咲夜をただジッと見るだけで、なんの反応も示さなかった。

咲夜は内心焦りながらも、目の前のアサシンに話しかける。



「呆れたわね。まだお嬢様を諦めていなかったなんてね、暗殺者さん」

「・・・・・・・・・・・・」



咲夜は暗殺者に話しかけるが、目の前の影は黙ったままだった。

それを無視して、咲夜は話を続ける。



「どうして分かるのかって思ってるのかしら?それは――――――昔、私があなたのいる組織にいたことがあるからよ」

「・・・・・・・・・・・・」



ここまで言えば、咲夜が何者だったかはこの暗殺者にも分かるだろう。

だがそれでも何の反応も示さない。



(少なくとも、私の知っている者ではない・・・ということか)



咲夜はその事に少し安堵する。

どうやら知り合いを殺さなくてよさそうだ。

だがだからといって油断をする訳にはいかない。

そう思い咲夜は話を続ける。



「つまり私は組織の裏切り者ってわけよ。でもどうして今頃来たのかしら?
 私がお嬢様を・・・暗殺しようとして、もう何年も経ったのに・・・どうして今更のこのこと?」

「・・・・・・・・・・・・」



アサシンは咲夜の言葉を無視して音も無く構える。

答える必要は無いと言うかのように。



「問答無用・・・というわけね。そうでしょうね。貴方達は、そういう存在だものね」



咲夜も構え、相手を見定める。

相手は恐らく、組織のマスター・アサシン。

組織の上位の実力を持つ暗殺者だ。

だが、咲夜は慌てない。

何故なら、自分の実力は組織にいた頃から既に――――――組織の最強の存在として、鍛え上げられていたのだから。

例えマスタークラスの者であろうと、自分が負ける要素などありはしない。

此処に来たことを、じわりじわりと後悔させて殺す。

そんな彼女の嗜虐心が鎌首をもたげて、暗殺者に向けられる。




















「此処に来た事を――――――後悔するがいい、暗殺者ッ!」



そして――――――戦いが静かに、だが激しく始まる。





















咲夜とアサシンはお互い同時にナイフを投げる。

そしてナイフはお互い空中でぶつかり、甲高い悲鳴を上げて落ちる。

一発。

二発。

三発。

四、五、六、七、八発と続く。

その全てがお互いの急所を的確に狙ったものだった。

咲夜は続けて九発目のナイフを放とうとする。

だが、アサシンはいきなり何かを手に取り、それを地面に投げつける。

そして地面にぶつかった瞬間に煙が巻き起こる。



(煙玉かッ!)



煙を蔓延させ、アサシンは姿を消す。

咲夜は視覚に頼らずに、咄嗟に聴覚と触覚、そして鍛え上げた第六感で辺りの気配を探る。

そして次の瞬間、窓ガラスの割れるのを知覚する。

どうやら外に逃げたようだ。



「逃がすかッ!」



逃がす訳にはいかない。

悪魔の猟犬はその牙を剥き出してアサシンの後を追った。

必ず仕留めてみせると誓って、走り出す。






































二人は館の屋上にいた。

あれからまた数度打ち合いながら、咲夜が此処までアサシンを追い詰めたのだ。



「・・・・・・さあ、もう逃げ場はないわよ?」

「・・・・・・・・・・・・」



咲夜の言う通り、逃げ場はもう何処にも無かった。

だがそれでもアサシンは無言を貫き通す。

今まで一度も言葉を発することも無く、ただ黙って咲夜を見続けるだけだった。

咲夜も返事を期待などしていなかった。

何を言っても無駄だと分かっていたから。

そして咲夜はついに死刑宣告をアサシンに告げる。



「追いかけっこももう、此処でお終いよ。――――――これで決めさせてもらうわッ!」



咲夜は自身の能力を発動させ――――――世界の時を止めた。

彼女が自身の最強足る所以の力を発動させる。

空も、風も、影も、夜も、月も、星も、ピタリと活動を止める。

それは目の前の暗殺者も同様だった。



(急所に一撃ッ!これで――――――終わりだッ!)



止まった時の中で、咲夜はアサシンの急所目掛けて必殺の一撃を放つ。

そして――――――




















――――――キィンッ!と、金属音が響く。

――――――止まった時の中で影は動き、咲夜の必殺の一撃を防いだ。




















「そんな・・・・・・馬鹿なッ!?」



目の前の想定外の事態に、咲夜は錯乱するしかなかった。

自分の業が、能力が通用しない。

その事に咲夜は驚嘆し、思考を混乱させていく。

能力は完璧に発動したはずなのに、止まった世界の時の中で動けるなんて。

そんな事、ありえるはずがない。

この前の魔法使いの時は能力の発動を妨害されてしまったが、今回は違う。

自身の能力が発動して、それでもなお動くことが出来る存在。

そんな相手がこの世に――――――ッ!?



「グハァッ!?」

「・・・・・・・・・・・・」



アサシンは混乱する咲夜に一気に近付き、咲夜を蹴り飛ばす。

強烈な一撃で蹴り飛ばされ、二転三転と転がる咲夜。

そして止まり、彼女は急ぎ立ち上がろうとするが、上手くいかない。

肉体的なダメージより精神的なダメージの方が遥かに大きかったからだ。

アサシンは咲夜に近付く。

一歩。

二歩。

三歩と。



(不味いッ!・・・早く、立たないとッ!)



咲夜は体を動かそうとするが、上手く動かない。

それに焦り、余計に動きが悪くなり更に焦りが増していくという悪循環が生まれる。

アサシンはそれに構わずに更に咲夜に近付く。

四歩。

五歩。

六歩と。

そしてついに倒れる咲夜の前に立ち――――――初めてその硬い口を暗殺者は開いた。




















「――――――久しぶりだな、我が弟子よ」




















――――――そして時は動き出す。





































今回ついに今回の主人公達が出会いました。

表の主人公である咲夜さんと裏の主人公である彼女の師。

次の話は恐らく、皆様を驚かされるものになるでしょう。

たぶん、誰も見た事も書いた事も無いのではないかと。

その自信はあります・・・・・・たぶんですが。

それでは!



[24323] 第三話 暗殺者の掟
Name: 荒井スミス◆735232c5 ID:d86d6c57
Date: 2010/11/20 18:39






十六夜 咲夜はその言葉を聞いて戦慄した。

十六夜 咲夜はその声を聞いて驚愕した。

何故自分の能力が効かなかったのか、ようやく理解した。

そう、理解してしまったのだ。

自分が一体、何をしてしまったのかを。



「まさか・・・まさか我が師なの・・・です、か?」



咲夜は全身をブルブル震えさせて言った。

そこにはいつもの完全瀟洒なこの館の従者の姿は無かった。

そこには恐怖に震える一人の少女の姿しかなかった。

そんな彼女の言葉に、目の前のアサシンは頷き答える。



「その通りだ我が弟子よ。紛れも無く、私はお前の師だ。お前に武器を与え、業を与え、知恵を与えたお前の師だ」



男はどこまでも穏やかに、そして静かにそう咲夜に告げる。

それを聞いた咲夜は――――――急ぎ跪き、頭を垂れた。



「も、申し訳ありません我が師よッ!知らなかったとはいえ私は、私は貴方に刃を向けて殺めようとしてしまいましたッ!
 どうか、どうかお許しをッ!」



普段の彼女を知る者が見れば、開いた口が塞がらないだろう。

あの十六夜 咲夜が、自分の主以外にこのような態度を取るなど思いもしないだろう。

そしてそれを聞いた目の前のアサシンは、軽く首を横に振り、また彼女に話しかける。



「よい、気にするな。忘れたか?私はお前を鍛えた。その時、お前に刃を持たせ私を殺させようとした事があったのを忘れたか?
 そして、お前が私に致命傷を与えた事が一度でもあったか?」

「ですが師よ、我が師よ私はッ!」

「くどい。それ以上の発言は許さぬ」

「しかしッ!?・・・・・・く、分かりました」



そう言って彼女は黙る。

だがその表情には恐怖のそれがありありと浮かんでいた。

汗は止まらず、息をぜえぜえと苦しそうに吐き出し、ガチガチと振るえは治まらなかった。

自分の犯した罪を、自分で許せなかったのだ。

かつて忠誠を誓った相手に向かって、殺意をもって殺そうなどという愚行を行った自分自身が許せなかったのだ。

そしてなによりも――――――恐かったのだ。

眼前にいるこの師が自分に何をするのかが、それが恐くて恐くて・・・恐くて仕方なかった。

そんな心情を無視して、アサシンは彼女に話しかける。



「さて、我が弟子よ。お前に聞きたいことがある」

「な、何でしょうか我が師よ?」



彼女は震える声を必死に抑えて答えるが、恐怖しているのは誰が見ても明らかだった。

そんな彼女に、暗殺者は問う。



「お前は――――――何故、こうして生きているのだ?」

「ッ!?そ、それは」



彼女はこの質問に恐怖する。

氷の手で心臓を鷲掴みにされたような、そんな恐怖に彼女は支配される。

何故この質問に彼女が怯えるのか?

それは、この質問にはいくつかの意味が込められているからだ。

何故任務に失敗して、殺されずに生きているのか?

そして生きていたのなら何故、組織に戻ってこなかったか?

そして失敗し、その場に残るような状況で何故――――――自害をしなかったのか。

その三つの意味が、その一つの質問に込められていた。

アサシンは続けて、彼女に語りかける。



「お前に叩き込んで教えた我が教え、我等の掟を言ってみろ。今、此処でだ」

「・・・・・・・・・はい。
 一つ――――――罪無き者を無闇に殺すべからず。
 一つ――――――苦痛を与え殺すべからず。
 一つ――――――己が存在を悟らせるべからず。
 一つ――――――我等の恐怖を教えること忘れるべからず。
 一つ――――――仲間を危機に晒すべからず。
 一つ――――――仲間を裏切るべからず。
 一つ――――――自らの命ある限り任務を続ける。だが不可能なら生きて戻るのを忘れるべからず。そして――――――」

「そしてそれも不可能なら、その命を自ら絶つこと忘れるべからず。――――――自らの魂を汚されることの無きように。
 ・・・そうだったな、我が弟子よ?」

「は・・・はい」



彼女は怯え、跪いたまま答えた。

かつて咲夜が、十六夜 咲夜となる前。

名も無き一人の暗殺者、アサシンとして教え込まれた鉄の掟。

彼女のその手に、その肌に、その臓腑に、その細胞全てに叩き込まれた師の教え。

それは彼女を構成する根幹的なものだった。



「さて、我が弟子よ。お前はいくつ私の教えを破ったかな?」

「ッ!?私が・・・破った・・・?」



彼女は我が師であるアサシンからのその言葉に絶望する。

だが、それは紛れも無い事実だった。

それを無視して破り、彼女は今此処にいるのだから。

彼女は死人のように顔を白くする。

そこには生気など皆無だった。

それなのに冷や汗はダラダラとその量を増し、彼女の衣服をじんわりと濡らす。

奥歯はガタガタと鳴り、肺は必死に空気を求め、心臓はバクバクと響く。



「あ・・・ああ・・・あああ、あああ」



自分はとんでもなく恐ろしい事をしてしまった。

そんな思考が彼女の頭を支配する。



「どうした?我が弟子よ?」

「ッ!?いえッ!なんでもありませんッ!」



彼女の恐怖が若干だが晴れる。

師であるアサシンの声に反応し、条件反射でアサシンに答える。



「話を続けるぞ?よいな?」

「ハッ!」



彼女は改めて師に頭を垂れて跪き、はっきりとした声で返事をする。

迷いに支配された彼女の思考が、師の言葉によって払われたのだ。

今此処にいる彼女は、十六夜 咲夜という完全完璧で瀟洒な紅魔館のメイド長ではなかった。

そこにいたのは、名も無き一人のアサシンとしての“彼女”しかいなかった。



「ではもう一度言う。我が弟子よ。お前はいくつ私の教えを破ったかな?」

「そ、それは・・・」

「折角だ、一つずつ教えてやろう、我が弟子よ。まず一つ目は苦痛を与え殺すべからずだ。お前は私を一撃で仕留めようとしなかった。
 それは何故だ?正直に答えてみよ、我が弟子よ」

「・・・・・・侵入者に苦痛を与え、自らのしたことを思い知らせてやろうと・・・そう思い、行動しました」



声を必死に絞り出して彼女は答えた。

それを聞いたアサシンは、肩を落として落胆する。



「愚かな・・・たとえ殺す相手だとしても、余計な苦痛を与えることを禁じたのは、
 それが我等アサシンが殺す相手に出来る唯一の慈悲だからだ。
 余計な苦痛を与えずに冥土に送る為だ。それを忘れて・・・よくもそのような恥知らず行動をしたな、我が弟子よ」

「・・・申し訳、ありません」



彼女は何時の間にか涙を流していた。

自らの犯した失態に対する、後悔の涙を。

アサシンはそれに構わずに話を続ける。



「二つ目は己が存在を悟らせるべからずだ。お前は私の前にわざわざ姿を現したな。私が組織の、教団の人間だと知りながらだ。
 我等アサシンは戦いを避ける。自らの業を見せない為、自らの仲間を危機に晒さない為、そして自らの命を守る為だ。
 戦わずに、誰にも気付かれずに仕事を完遂させる。そしてその行った仕事を見せ付けて、我等アサシンの恐怖を教えること。
 恐れさせ、余計なことが出来ぬようにする為の恐怖の抑止。下手なことして何時我等に処分させられるかと恐怖させ思い知らせる為。
 それは無益な争いを少しでも抑える為にだ。さあ答えよ。何故自らの存在を晒した?」

「失念・・・しておりました・・・」



彼女は正直に答えた。

あの時、少し頭に血が上った為にその事に気を回さなかったのだ。

自身の能力でどうとでも対処出来る。

そんな傲慢な考えを自分が持っていたと考えただけでも自身に後悔し、腹が立つ。

そして彼女のそんな答えに、アサシンはまた落胆する。



「また私を失望させたな、我が弟子よ。お前は私の教えを忘れてしまったとみえる」

「そ、そのようなことは決してッ!」

「黙れ、まだ話の途中だ。許可無く発言するな。何処まで私を失望させるのだ、我が弟子よ?」

「し、失礼しましたッ!」

「続けるぞ。次はそう・・・罪無き者を無闇に殺すべからず。
 そして我等の恐怖を教えること忘れるべからず。これ以外の残り全てだ」

「ッ!?」



その言葉を聞いて咲夜は思わず今まで下げていた顔を上げる。



「分からないといった顔だな我が弟子よ。では教えてやろう。
 まずは自らの命ある限り任務を続ける。不可能なら生きて戻るのを忘れるべからずだ。
 これは前者はもちろんのことだが、後者は自らの仲間を危機に晒すべからずにつながる。
 生きて戻り、その状況を報告してどう対処するかの判断をして、余計な損害を出さない為だ。かつてそう教えたな、我が弟子よ?」

「はい・・・その通りです我が師よ」

「そしてそれが不可能なら、その命を自ら絶つこと忘れるべからず。――――――自らの魂を汚されることないように。
 これの意味も教えたな?言ってみるがいい我が弟子よ」

「・・・敵に捕まり情報を与えることが無いように。仲間を危機に晒さないようにする為に。
 辱めを受けて、自らの魂の尊厳を汚されないようにする為に。その為に命を自ら絶つ。それが――――――」

「――――――それが我等、アサシンの掟だ。そう教えたな、我が弟子よ?」

「その通りです・・・我が師よ・・・」



彼女はうな垂れて、自らの師の言葉に頷く。



「だがお前はそれをしなかった。自らの命を絶たず、こうして生きている。
 仲間に危機を晒すべからず。そして仲間を裏切るべからずという掟を、我が教えをお前はことごとく破ったな?」

「お言葉ですが我が師よッ!私は教団の詳しい情報は何一つッ!何一つとしてお嬢様に教えてはおりませんッ!」

「許可無く発言をする事は許さぬと言ったぞ我が弟子よ?お前が何と言おうとこれは変わらん。
 絶対にな。何故なら――――――お前はこうして生きている」

「それ・・・は・・・」



彼女はその言葉を聞いて言葉を失う。



「裏切りだよ、我が弟子よ。この掟は破ったのはもちろん。お前はこの掟に従った先人達をも裏切ったのだ。
 そして、その掟を教えたこの私をも裏切ったのだ」

「違いますッ!私は、我が師よッ!貴方を裏切ろうなど決してッ!」

「だがお前は先ほど言ったな?・・・お嬢様と。何故、殺すべき相手だった者をそう呼ぶのだ?」

「そ、それはッ!?」

「お前は私という師匠(マスター)の他に、あの小さき吸血鬼を主人(マスター)と呼んだな?
 これが、お前の決定的な裏切りの証拠だ。お前は、それを口にしたのだよ・・・我が弟子よ」

「それは・・・それは・・・ああ、あああ・・・」



彼女はその場に頭を抱えてうずくまる。

涙を流しに流し、嗚咽を漏らして泣く。

震える小さな声で、何度も何度も謝罪の言葉を口にする。

申し訳ありません、申し訳ありませんと何度も何度も。

それはまるで、許しを必死に請う童のようだった。

そんな彼女の姿を見て、アサシンは彼女に言葉をかける。



「だが・・・私も鬼ではない。お前が自らのその罪に苦しむのは、よく分かった。
 それにお前は今でも我が弟子であることは変わらない。そこで、私はお前に贖罪のチャンスを与えよう」

「ッ!?本当ですか我が師よッ!私は、一体何をすればッ!?」



そう言って咲夜は顔を上げて―――その顔を輝かせる。

許してもらえるのなら何でもする。

そういった顔だった。

アサシンは自らの剣を差し出す。

木目状の模様が浮かんだ、美しい片手剣。

それを目の前に出され、彼女は困惑する。

そして、アサシンは彼女に告げた。




















「――――――この剣でもってその命を絶て。それが、私がお前に与える罰だ」




















それを聞いて彼女は身を強張らせる。

当然だろう。

その言葉は、死刑宣告そのものだったのだから。



「我が師よ・・・それ、は・・・」

「命を絶て。そうすればお前の罪を私が許す。そしてお前の亡骸を持ち帰り、散って逝ったアサシンの戦士達の下に送ろう。
 そして誇りある我等アサシンの一人として祭ってやろう・・・我が弟子よ」



そんな師の言葉を聞いて、彼女は思う。

彼女は――――――許されたかった。

この誇り高きアサシンである我が師に。

かつて自らを育ててくれた恩師に、許されたかった。

だから彼女は――――――



「・・・・・・分かりました」



その剣を、受け取った。



「自らの罪、その手で裁くか?」

「・・・・・・・・・はい」



自らのこの命一つで罪を償えるのなら安いものだ。

彼女は涙を流したままの渇いた笑みを浮かべて・・・思った。

これで・・・許される。

そう思うだけでも心は軽くなり、嬉しくなり、自然と笑みが浮かんだのだ。



「・・・・・・・・・そうか」



最後にポツリと言ったその呟きは、彼女には聞こえなかった。

そして彼女は、手に取った剣で自らの命を絶とうとした。

――――――その時だった。




















「――――――止めなさい十六夜 咲夜。貴女の主、このレミリア・スカーレットが命じるわ」




















紅魔館の、そして十六夜 咲夜の主。

永遠に紅い幼き月、レミリア・スカーレットが赤い月を背にして咲夜にそう命じた。





































さて、如何だったでしょうか?

なんかもう咲夜さん凄いことになっちゃいましたな。

咲夜さんがこういうことするとは思わなかったでしょう?

さて、次はいよいよお嬢様の出番です。

カリスマな感じで出て来たお嬢様の活躍を・・・・・・期待していいのかなぁ?

それでは!



[24323] 第四話 二人のマスター
Name: 荒井スミス◆735232c5 ID:d86d6c57
Date: 2010/11/21 13:43






「こんばんは、暗殺者さん。良い夜ね。今日は月がとても赤くて――――――綺麗ね。そうは思わない?」



紅魔館の主、レミリア・スカーレットはアサシンに笑いながら対峙する。

赤い月を背に翼を広げ、空に君臨する様はまさしく夜を統べる王であった。

アサシンと咲夜はそれを下から見上げるようにして眺める。

レミリアは、アサシンの前で跪く咲夜を興味深そうに見る。



「それにしても・・・なかなか面白いことをしてるわね。咲夜、それは一体何の冗談かしら?」

「お嬢様、これは・・・」



咲夜は手にした師の剣を見て、自分が自害しようとしたところをレミリアに見られたことに困惑する。

そんな咲夜に、レミリアは続けて語りかける。



「貴女は私の物。私の完璧な従者。その貴女がどうしてそのようなことをしているのかしら?
 私にはまるで、その不届き者に従っているように見えるのだけれど?」

「そ、それは」



レミリアの問いに、咲夜はどう答えればいいか分からなかった。

レミリアと師を交互に見て、困惑の表情を露にする。

そんな中、影の人物が動く。



「私が命じたからだ、小さき吸血鬼よ。この者はただ、その命に従った。それだけのこと」

「・・・面白いことを言うのね貴方。ではどうして貴方の命を私の従者が聞くのかしら?」

「この者が我が弟子だからだ」



アサシンの言葉に若干レミリアは驚く。

だが、すぐに元の笑顔に戻り話を続ける。



「そうなの・・・貴方が。だったら礼を言うべきかしら?
 貴方が育てた彼女は随分と、いえ、こちらが求める以上の働きをしてくれたわ。
 この私の従者にとてもふさわしい働きを、ね」

「当然。それぐらい造作ない。この私が叩き上げ、鍛え上げ、力を、業を、知恵を与え磨いたのだ。
 ・・・もっとも、お前が我が弟子を真に扱いきれているかは怪しいものだがな、小さき吸血鬼よ」

「・・・なかなか言うじゃない。でもそれくらいの毒を吐いてもどうとも思わないわ。
 あのクソ忌々しい老いぼれ魔法使いに比べればね。ええそうよ、ちっとも気にならないわ」



レミリアはそう言うが若干頬を引きつらせる。

咲夜には分かる。

たぶん小さいとか言われて頭にきているんだ。

三日前、自分が趣味で買ってきたぶら下がり健康器具を使って背を伸ばそうとしているのを見た。

見つかった途端、うー☆と泣いて頭を抱えて逃げた。

忠誠心を大量に出して倒れたので覚えている。

気が付いたらいつの間にか、自分のベットにいたが。



「・・・では幼き吸血鬼よ。何故私の前にこうして現れる?」



――――――あ、呼び方変えた。



「こうして客人が来ているのに、もてなさないのは無礼でしょう?たとえそれが、招かれざる客だとしてもね」



アサシンの問いにレミリアは毅然とした態度で答える。



「見た目の幼さからは考えられん余裕だな、幼き吸血鬼よ」

「・・・・・・当然よ。私はこの館の主なのよ?」



レミリアはそう言うが、また若干頬を引きつらせる。

咲夜には分かる。

たぶん幼いとか言われて腹を立てているんだ。

二日前、自分の化粧道具を使ってお嬢様自身があれやこれや化粧をしていたのを咲夜は見ている。

あの魔法使いに、まるで背伸びする子供のようだと言われたのが悔しくて、それでやったのだと思う。

そんなことをしては、まさしくその通りだというのに。

見つかった途端うー☆うー☆と泣いて頭を抱えてまた逃げた。

忠誠心を大量に出したその後、サボり魔の死神と会ったのでよく覚えている。

同僚に仕事を任せてサボっていたようだった。

気が付いたらいつの間にか、また自分のベットにいたが。

手元に増血剤も置いてあった。



「・・・・・・吸血鬼よ。ではお前はどうもてなす?」



――――――あ、また呼び方変えた。



「それくらい分かりそうなものではなくて?低俗な暗殺者」

「・・・・・・だろうな」



アサシンは咲夜の手から剣を自らの手に戻す。

そして静かに二人は構える。

レミリアは空に君臨し、アサシンは地に佇みお互いを見定める。

そんな二人を見て、咲夜はレミリアに向かい叫ぶ。



「お、お嬢様ッ!お逃げ下さいッ!お嬢様では我が師には勝てませんッ!どうか他の方達とッ!」



レミリアは自身の従者からの無粋な横槍に顔をしかめる。



「・・・この私に逃げろと言うか、十六夜 咲夜?私はこの「お願いしますッ!どうかッ!どうかお逃げにッ!」・・・咲・・夜?」



ここまで反抗的な彼女はレミリアは初めてこの目で見た。

ここまで必死になって反抗する彼女は見たことが無かった。

そんな咲夜を自分は、レミリア・スカーレットは今まで一度として見たことが無かった。

そして咲夜は――――――師であるアサシンに跪き、すがるように言った。



「お願いです我が師よッ!どうかお嬢様いえ、この紅魔館の者達は見逃して下さいッ!
 死ねと言うなら私は今すぐ死にますッ!ですからどうかッ!」

「さ、咲夜ッ!?」

「・・・・・・・・・・・・」



もうレミリアは驚くしかなかった。

あの完全無欠の瀟洒な我が従者が、このようなことをするとは夢にも思わなかったからだ。



「黙っていろ、我が弟子よ。私は「いいえ黙りませんッ!こればかりは我が師といえども決してッ!」・・・・・・」



咲夜は師の言葉を遮り必死に懇願し続ける。

そして咲夜が続きを言おうとした――――――その時だった。



















「――――――黙れ、我が弟子よ」





















それは殺気だった。

アサシンは咲夜に、今まで見せなかったおぞましい程の強烈な殺気を叩きつける。



「――――――ッ!?あ、ああ、ああああ・・・あああ・・・」



その殺気で、咲夜は完全にその心が折れた。

何故ならその殺気は――――――彼女の人生の中で一番恐ろしい恐怖そのものだったからだ。

かつて修行の時に叩きつけられた殺気。

それは彼女のトラウマであり、どうしても克服出来なかった恐怖だった。

彼女はまるで、糸を切られた操り人形のようにその場に力無く座り込む。

もう彼女が何も出来ないと確認したアサシンは、レミリアを見据えて対峙する。



「待たせたな。では・・・始めるか」

「・・・よくも・・・よくも私の可愛い従者をッ!こんな風にしてくれたわねッ!」



アサシンの所業に、レミリアの堪忍袋の緒が切れた。

紅の魔力が彼女の体から怒りとなって溢れ出てくる。

その場を支配する魔力の風を、アサシンはただ受け流して立つだけだった。

猛り狂う吸血鬼に、アサシンは静かに問う。





















「自らの弟子を戒めただけのこと。何の問題があるのだ?」

「今は私の従者よッ!昔の飼い主は引っ込んでなさいッ!」



















――――――激昂した紅い月の王と、静かな黒い影の暗殺者が、踊る。





































カリスマはブレイクするもの、私はそう考えている。

というかブレイクさせずにはいられなかったんだ・・・・・・すまない。

さて、いよいよ二人の対決となります。

どのような結果になるか・・・・・・それは次回のお楽しみ。

それでは!



[24323] 第五話 猛る紅、静かなる黒
Name: 荒井スミス◆735232c5 ID:d86d6c57
Date: 2010/11/24 01:00




「まずは吸血鬼よ。先に謝罪を」



アサシンはレミリアに突然そう告げる。

戦いの前に何を言うのかと、レミリアは怪訝な表情を浮かべる。



「・・・一体何を?」

「お前を苦しませることなく黄泉に送るのは・・・出来そうにない。・・・すまない」



その言葉にまた、怒りの炎がギラつく。



「この私が、お前に、お前のような薄汚れた暗殺者風情に敗れると?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・思ってるのか?」



それは小さな声で、レミリアは最後しか聞き取れなかった。



「何ですって?」



レミリアのその問いに、アサシンは再度、今度ははっきりと告げる。



「人の肌の上に住まわせてもらってるダニ風情が、この私に勝てると思ってるのか?」



挑発の言葉を。

それを聞いて、レミリアの中の何かが完全にキレた。



「・・・いいだろう。お前はこの私が、徹底的に苦しませて、磨り潰して、原形すら残さない肉塊に変えてやるッ!」



そう言うや否や、レミリアは無数の弾幕をアサシンに向けて放つ。

通常の弾幕ごっこで使うような、決まったパターンで放たれる弾幕ではない。

完全に標的を狙った、殺意の籠められた弾幕がアサシンに容赦無く降り注ぐ。

しかしアサシンはその弾幕を最小限の動きでひらりひらりとかわす。

そしてアサシンもまた、攻撃に転ずる。

投擲用の銀のナイフを、弾丸の如き速さでレミリアの急所目掛けて放つ。

だが――――――



「カァッ!!!!」



咆哮と同時に放たれた魔力によって放たれたナイフは全て掻き消され消滅した。



「・・・・・・・・・・・・」

「なかなかやるようね。さすがは咲夜の師といったところかしら?でも駄目よ。そんなんじゃ私には勝てないわ。
 無様に地下手に這い蹲る貴方ではね」

「・・・・・・・・・ならば」



アサシンはそう言うや否や――――――空を飛び、レミリアに対峙する。



「あら?貴方飛べたの?」

「飛べないと誰が言った?」

「確かに・・・ねッ!」



レミリアの弾幕が再度アサシンに迫る。

だがアサシンはレミリアの弾幕をまたひらひらとかわす。

アサシンの白銀のナイフがレミリアに襲い掛かる。

レミリアもアサシンの投擲を、その魔力をもって弾く。

一進一退の、激し過ぎる攻防が続く。








































一方咲夜は、始めは恐怖に駆られて混乱していたが、徐々に落ち着きを取り戻し、二人の攻防を見守る。

お嬢様を助けなければ。

そう咲夜は考える。

だがしかし、もう一つの声が囁く。

我が師に刃向かってはいけない。

昔の自分がそう告げる。

どうすればいい?

私は一体どうすればいい?

二つの思いが、咲夜の中で激しくぶつかり合う。

そんな中、咲夜は師の動きが変わるの見た。



(不味いッ!あの動きはッ!)



咲夜は力の限りを込めて叫んだ。



「お嬢様ッ!――――――避けてッ!」





































「ッ!?」



レミリアはその咲夜の声を聞き、今まで受けていたその攻撃を反射的にかわす。

――――――ズガンッ!

飛来して来た物体が壁に突き刺さる。

突き刺さっていたのは――――――剣だった。



「まさか剣を投擲するとはね・・・先ほどの攻撃より、随分と威力がありそうね?」



壁に突き刺さった剣は、その刀身の大半が壁の中に納まっていた。

そしてその周りには、皹割れは一つたりとも走ってなかった。

これだけでその威力、貫通力と破壊力が容易に想像が出来るというものだ。

しかも鈍く輝く忌まわしいあの光。

あれは間違い無く銀の輝きだ。

吸血鬼を相手にするのなら、当然といえば当然なのだろうが。



「祝福儀礼を施した銀製の、投擲用に造られた飛剣だ。これはお前とて、ただでは済まん」

「ふん、だが私を仕留めるにはまだまだだよ」



口では余裕を語るレミリアではあったが、内心は冷や汗ものだった。

咲夜のあの声が無ければ――――――確実にやられていた。

さっきからそうだったのだが、このアサシンの攻撃は非常に読み辛かった。

殺気が――――――全く無いのだ。

そのためレミリアは下手な回避をせず、あえて防御をするしかなかったのだ。

だが先ほどの攻撃、いくら自分が不死の吸血鬼とはいえ、あれを喰らうのは不味過ぎる。

先ほどまでと同じような、ただ魔力で弾いて防御したままでは、ただでは済まなかった。



(・・・・・・防御・・・したまま?)



そこまで考えたところで、レミリアはある事に気付く。



(こいつはまさか・・・私に防御という選択を狙ってさせたのかッ!?そして、あの一撃を私に受けさせようとしたッ!?)



レミリアは改めて、自分の目の前のこの敵の恐ろしさを思い知る。

もしあの時の咲夜の声が無ければ、あの剣は間違い無く自身の体を貫通していた。

そう思うと、背筋にゾッと冷たいものが走る。



「ならばこうしよう」



アサシンの両手に先ほどと同じ飛剣がズラリと現れる。

アサシンはすかさずその飛剣を全て投擲し放つ。

レミリアは防御はせずに、迷わず回避する。

あれを防御してはいけない。

たとえあの威力の銀製の剣が急所に入ろうとも、自分は不死の吸血鬼だ。

一発喰らった程度では死にはしない。

だが連続して喰らうのは不味い。

そして、一発も喰らう訳にはいかない。

喰らえば最後、剣に貫かれ怯んだその瞬間に、あのアサシンは容赦無く銀の弾雨をこの身に浴びせることだろう。

そうなれば自身の永遠が終わる。

レミリア・スカーレットという永遠が終わってしまう。



(それだけならいいさ。むしろ本望だ。我が永遠を終わらせる愛しき怨敵は大歓迎だ。・・・・・・しかし)



レミリアは地上で自分達の戦いを見守る自身の従者をチラと見る。



(倒される訳にはいかない。私が死ねば、次は咲夜が殺される。それだけじゃない。
 フランにパチェ、美鈴に小悪魔・・・紅魔館の者達まで・・・・・・そうはいかないッ!)



自分だけが倒され、殺されるなら構わない。

だが自分が死ねば他の者達にまで被害が及ぶ。

負ける訳にはいかない。

守るべき者を守れずして何が王だ、何が支配者だ。



(しかし・・・癪だが、このままでは不味い。一気に――――――片を付けるッ!)



レミリアはそう考え――――――右手に魔力を練り上げる。

そして――――――真紅の魔槍がその姿を顕現させる。



「お前はなかなかに、いや恐ろしく強い。認めよう、その力。久々に楽しめたけど、もうお終い。
 これは付き合って楽しませてくれたその礼よ。
 この私の全力を味わう栄誉を、お前にくれてやるッ!」

「・・・・・・・・・・・・」



アサシンはただ黙ってレミリアの宣告を聞く。

レミリアの全力。

それは即ち彼女の能力、運命を操る程度の能力を使うということ。

強大な魔力の塊と化した真紅の魔槍。

それを運命を操り、絶対不回避のものにするレミリアの必殺の業であった。



「―――神槍「スピア・ザ・グングニル」―――これで・・・終わりよッ!!!!」



レミリアはアサシンに向かい、グングニルを神速の速さで投擲する。

まともにくらえば塵も残らないだろう。

神槍は男に向かい一直線に飛来する。

そして――――――




















アサシンは――――――その必殺の魔槍を――――――ひらりとかわした。




















その場で、その現実にもっとも驚いたのは他でもない、グングニルを投擲したレミリア本人だった。



「ば・・・馬鹿なッ!?何故だッ!?運命を操作して投擲した、必中の私のグングニルを・・・かわしただとッ!?」



レミリアはその信じられない事実に驚き、思考を僅かに狂わせる。

だがそれは、アサシンにとって十分過ぎる隙だった。

アサシンはレミリアにすぐさま迫る。



「しまっ・・・・・・くうっ!?アッ!」



そして――――――レミリアは自身の体に何か鋭い異物が突き刺さるのを感じた。

あのような隙を作った自分に腹を立て、すぐさま迎撃しようとするレミリア。

だが、途端に体から力が抜け、レミリアは地面に落下して大きくバウンドしてその場に倒れ伏す。



「ガァッ!!!」



落下の衝撃が小さな体を軋ませる。

だがこの程度でどうにかなるほど吸血鬼の体はやわではない。

レミリアはすぐに立ち上がろうとするが、どういう訳だか体に力が入らない。



(ち・・・力が・・・消えていくッ!?)



レミリアはアサシンをキッと睨み付ける。



「貴様・・・何をしたッ!?」

「・・・即効性の毒を塗った針をな。今のお前は力も魔力も出ないだろう」



レミリアの問いに、アサシンはそう答えた。

アサシンはスッとレミリアに近付いていく。

そして倒れるレミリアに向かい話しかける。

とても、穏やかに。



「先ほどとは違うな」

「何が・・・だ・・・?」

「今は私がお前を見下ろし、お前が地に伏している」

「・・・・・・ッ!」



王である自分が、このように無様に地面に倒れ伏す。

しかもそんな今の自分を、敵対する者は見下している。

それもただ見下しているだけではない。



(こいつ、この私を・・・・・・哀れんでいるのかッ!?)



彼女はそんなアサシンの視線を全身で感じ取った。

地に伏して、そして哀れみの目で見られる。

プライドの塊である彼女にとって、それは耐えられない屈辱だった。

だがそれでも、レミリアにはそれ以上に気掛かりな事があった。



「何故、かわせた。この私の・・・必中のグングニルを、どうやって?」



レミリアの最大の疑問。

それはこのアサシンが、レミリアが決定した死の運命から逃れたこと。

必殺必中の神槍「スピア・ザ・グングニル」

それをどうしてこのアサシンはかわせたのか?

アサシンは静かにその答えを告げた。




















「お前の定めた運命に・・・私の能力を使っただけのことだ」




















その言葉を聞いても、レミリアには理解が出来なかった。



「能力・・・ですってッ!?一体どうやってッ!?何の能力を使ってッ!?」

「今はそんなことを気にする時では――――――ない」



アサシンはレミリアに近付き、剣を抜きその胸に突き付ける。



「安心するがいい。苦痛は一切無い。これなら苦しませることなく、お前を黄泉路へと送り届けられる」

「お・・・のれ・・・」



体を動かそうとするがピクリともしない。

まるで糸の切れた操り人形のようだった。



「最後に言い残す言葉は、あるか?」



アサシンは穏やかに、静かに話しかける。

これから目の前の吸血鬼を殺すとは思えないぐらいに、その声は落ち着いていた。

そんな声を聞いて、レミリアは完全に自身が敗北したのだと認めざるを得なかった。

アサシンの問いに、レミリアは諦めたようにして答える。



「・・・・・・・・・・・・・・・頼む・・・みんなを」



皆を見逃してほしい。

せめてこの命と引き換えに、皆を見逃してほしい。

今の彼女に出来るのはそれだけだった。

そしてレミリアのその願いを聞いたアサシンは。



「送り届けてやろう。安心しろ。黄泉路への旅、一人にはさせん」



そんな無慈悲な答えを返した。



「き・・・キサマァァァァァァァァッ!!!!」



激昂に任せ体を動かそうとするが、依然変わらず動いてくれない。

悔しかった。

みんなが危ないというのに、それを守れない今の自分が悔しかった。

何が王だ、何が夜の支配者だ、何が永遠に紅い幼き月だッ!

そんな肩書き、皆を守れなければなんの価値も無いではないかッ!

目に涙を浮かべて流し、レミリアは無力な己を呪った。

そんなレミリアを見て、咲夜は必死に師に懇願する。



「お嬢様ッ!?お願いです我が師よッ!お嬢様をッ!お嬢様を殺さないでッ!」



咲夜は自らの師にそう叫び懇願するが、アサシンは黙ってレミリアを見るだけだった。

咲夜はお嬢様を助けなければと体を動かそうとするが――――――動かない、動いてくれない。

お嬢様を助けるということ。

それは自らの師に刃を向けるということだった。

咲夜はナイフを持ち、構えようとするが、体は強烈にその行動を拒否した。



(どうしてッ!?どうしてなのッ!?)



咲夜は自問自答するが、答えはもう分かっていた。

自分があの方に逆らえるわけがない。

たとえ出来たとしても、勝てるわけがない。

自分の能力は、あの方の能力には勝てないのだから。



「眠るがいい、穏やかに。誇り高き吸血鬼の王よ」



アサシンは剣の先をレミリアの心の臓前にピタリと付ける。

死の執行が下されようとしていた。



「お願い・・・誰か・・・誰か助けてッ!」



咲夜はそう願い叫ぶ。

そして、その願いは――――――




















「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」






















――――――虹の閃光が、聞き届けてくれた。





































どうも荒井です。

どうしてグングニル当たんなかったって、もちろん能力ですよ能力。

咲夜さんの時もそれでどうにかしたんです。

それとアサシンが言った人の肌の上に住まわせてもらってるダニ風情という言葉。

この言葉はドラキュラ紀元のヒロインである吸血鬼ジュヌヴィエーヴの言葉・・・だったと思う。

あれもう絶版なんだよなぁ・・・・・・はぁ。

さて、次回は美鈴がMEIRINな感じに・・・・・・なるかな?

それでは!



[24323] 第六話 闇を払うは虹の拳
Name: 荒井スミス◆735232c5 ID:d86d6c57
Date: 2010/11/24 21:44




突如現れた七色の閃光。

その一撃により、アサシンは吹き飛ばされレミリアから離れる。

空中で体制を立て直し、着地したアサシンから苦悶の呻きがこぼれる。



「グッ!?ぬ、ぅう・・・・・・」



どうやら相当なダメージを負ったようだ。

アサシンは堪らず膝をついて片手剣を支えにふらつく。

咲夜とレミリアの口から、その一撃を放った者の名が出る。



「美鈴ッ!」

「美・・・鈴・・・なの?」

「はいッ!私ですッ!」



紅 美鈴。

この紅魔館の守りの要である門番にして、武術の達人である。

彼女は申し訳なさそうな顔でレミリアに話しかける。



「・・・申し訳ありません。戦いに手を出すなというお嬢様の命に背きました。お許しを」



私自らが赴くから手を出すな。

彼女は主であるレミリアの命を破り、二人の戦いに手を出したのだ。

主の為とはいえ、その主の命を破ったのを、美鈴は申し訳なさそうな顔でレミリアに謝罪する。

律儀な門番だ。

そんな事を思いながら門番の主は苦笑する。

文字通り、苦しそうに笑いながら。



「いい、え、構わ、ないわ。御蔭、でこうして今、生きているのだから。・・・ありがとう、美鈴」

「ありがとうございます。咲夜さん?貴女も大丈夫ですか?」

「え、ええ。私は・・・・・・特に傷は負ってないわ」

「そうですか・・・よかった」



美鈴はそう言って、ひとまず安堵の溜め息を漏らす。

そして、先の一撃でもがき苦しむアサシンを見る。



「ぐぅ・・・・・・が、はぁ・・・き、さま・・・」

「どうです?空中に浮いて衝撃をいくらか軽減したようですが、それでも随分辛いでしょう?
 ありったけの気を練り上げて放った一撃でしたからね」



膝をつく暗殺者に美鈴は冷たく言い放つ。



「それだけに驚きです。あの一撃を受けてまだ、そうして原形を保っているのが。
 本来なら体に風穴が開いてるはず。・・・一体何をしました?
 貴方に気を流し込んだ時、そのほとんどが抵抗され入りきらなかった」



美鈴のその問いに、アサシンは息を整えて答える。



「・・・くぅ、あれで、か。やはりお前は恐ろしいな、闘士よ。出来ればお前とは、相見えたくはなかった。
 お前に気取られず忍び込むのは、骨を、折ったぞ」

「今も折りましたがね。しかし・・・嬉しいですね。貴方のような暗殺者にそこまで言われるのは。
 でも今は関係ありません。――――――我が主、我が友、我が家族に牙を向けたこと・・・後悔するがいいッ!」



言うや否や、美鈴は目にも映らぬ速さで暗殺者に迫る。



「させぬッ!!!!」



アサシンもすぐさま迎撃体制を整え迎え撃つ。

美鈴の気の篭められた神速の拳をギリギリでかわす。

かわすと同時に手にした片手剣を突き出す。

だが美鈴もアサシンの放つ剣のカウンターをいなして弾く。

そして両者はお互い後退し、相手の出方を伺う。

先に動いたのは――――――暗殺者の方だった。

暗殺者は先ほどレミリアに投擲した物と同じ飛剣を、ズラリと何処からともなく出し、その全てを放つ。



「クッ!?咲夜さんといい貴方といい、何処にそんなものをそんなに隠しているんですかッ!」



突風のように、暴雨のように、嵐のように迫るその剣を美鈴はかわし、拳で弾き、受け流す。

そして美鈴も気弾やクナイをアサシン目掛けて放ち迎え撃つ。

だがアサシンも同様にかわし、剣で弾き、また避ける。

油断を一切許さない、お互いギリギリの戦い。

美鈴は内心で歓喜し、この暗殺者に感謝した。

久々にここまでの業の使い手と戦えたことに感謝した。

美鈴の顔には何時の間にか、獰猛な笑みが貼り付けられていた。

その表情まるで、楽しくて楽しくて仕方ないと語っているようだった。





































一方咲夜は、二人の戦いをただ唖然として見ていた。

美鈴がここまで強かったのかという思いもあった。

だがそれ以上に咲夜は、我が師であるあの暗殺者がここまで苦戦するのに驚いていた。

いくら美鈴の一撃を受けたとはいえ、我が師であるアサシンが苦戦するのを彼女は初めて見た。

だがそれを見ていて、咲夜は師のある言葉を思い出す。



(お前は私を最強と勘違いしているようだが、そうではない。私はお前が思っている以上に弱い。
 だから見つからずに済むように、その為の業を磨いているのだ。我等は殺す者。戦う者ではないのだから)



その言葉を聞いた時、まだ幼かった咲夜はよく理解出来なかったが、今ならそれがよく分かる。

それを理解した途端、咲夜は思う。

もしかしたらこのまま、美鈴が我が師を打ち倒してくれるのではないかという期待。

だがそれと同時に思う。

我が師が倒れる姿を、倒される姿を見たくないという思い。

どうしてそんなことを思うのか、咲夜自身初めは分からなかった。

だが時が経つにつれ、その理由が分かる。

あの人は咲夜の師であり、親であり、理想であり、崇拝すべき掛け替えのない存在だったからだ。

もしかしたら、今でもそれは変わらないのかもしれない。

何故なら、こんなにもあの人のことを心配する自分が、今此処にいるのだから。



(私は・・・・・・私は一体・・・・・・どうすればいいの?)



咲夜は、彼女は、そう考え自問自答するしなかった。






































「・・・・・・しぶといですね、貴方」

「・・・・・・・・・・・・」



美鈴の言葉にアサシンは無言で返す。

暗殺者の飛剣のキレは、先のレミリアとの戦いと比べて僅かに鈍っていた。

美鈴の渾身の一撃をその身に受けたのだから当然ではある。

だが逆に言えば、美鈴のその一撃を受けて僅かしか鈍らせていないのだ。

体は激痛を伴っているはずなのにである。

恐らく、その精神力で耐えているのだろう。

美鈴は自分が今戦っている相手が紛れも無い強者であることを再確認する。

しかしこの僅かな差が暗殺者を不利に、そして美鈴に有利に働いた。

暗殺者は既に満身創痍になっており、徐々に動きのキレが無くなってきた。

ほんの少しだが、息を切らしているのが聞こえるのがその証拠だった。

そんな暗殺者に向かい、美鈴は挑発する。



「おや、だんまりですか?それだけ余裕が無い・・・そういうことですか?まあ、あの一撃を喰らったのが痛かったのでしょうね。
 もしそれが無ければ、貴方もここまで苦戦することはなかったのでしょうが」

「・・・・・・・・・・・・」



そんな挑発の言葉を受けてもアサシンは黙ったまま。

答える必要が無いのか、それとも答えるのも億劫なのか。

ただどちらにしても美鈴には関係無いが。



「さてどうします?降伏しますか?もちろんそんなことしても許しませんが」

「・・・・・・・・・いや、そんなことはせん」



暗殺者の口が開く。

それを聞いて、再度美鈴は問う。



「ではこのまま戦いますか?貴方に勝機なんてこれっぽっちもありませんが?」



このまま戦っても負けるのは目に見えている。

そんな事はアサシン自身も十分承知しているはずだ。

アサシンが美鈴の問いに答える。



「だろうな・・・・・・だから」



アサシンは――――――空中に黒い物体を投げる。




















「尻尾を巻いて――――――逃げさせてもらう」





















その瞬間、辺りに強烈な閃光と音の爆発に包まれる。



(これは一体ッ!?)



美鈴はそれをモロに浴びて暗殺者を見失う。

そんな中、黒い物体の正体に咲夜は気付く。



(クッ!?スタングレネードッ!?)



暗殺者は咲夜に向かい、そしてすれ違いざまに彼女に言った。



「次で終わりだ――――――我が弟子よ」

「ッ!?」



彼女はその言葉に身を強張らせる。

やがて光と音は消えて、静寂が戻る。

あの黒い影の暗殺者は、まんまと逃げたのだ。





































辺りに静寂が戻ると、そこに一人に少女が近付く。

此処の大図書館を治める魔法使い、パチュリー・ノーレッジだった。

彼女は倒れているレミリアの側に歩み寄る。



「レミィ、大丈夫?」

「・・・体が動かないだけで、傷事態はそれほど酷くない。痛みも全くと言っていい程無いわ」

「それだけ口が利ければ大丈夫ね。・・・全く、心配させないでよね」



そう言ってパチュリーは溜め息を吐く。



「手出し無用なんて言ったわりには、無様な結果ね」

「う、うるさいわねパチェッ!こうして生きているんだからいいでしょうッ!」

「あの魔法使いに言われたのを気にしての独断先行じゃないの?」

「そ、それは・・・・・・!?」



言いよどむレミリアを、パチュリーがギュッと抱きしめる。



「本当に、心配したのよ?貴女がいなくなるんじゃないかって心配だったんだから。
 無茶しないで。私達は・・・・・・家族も同然でしょ?」

「パチェ・・・」

「その家族をここまで心配なんか・・・させないでよ」

「・・・・・・ごめんなさい」



レミリアはそう言って抱きしめ返した。

暖かい。

生きている。

私は今、こうして生きている。

生きていたから、この温もりを感じることが出来る。

レミリアはそんな当たり前の事に感謝する。

生きてまた皆の顔を見れた事に心から感謝した。



「お嬢様ッ!大丈夫ですかッ!?」



少し遅れて、美鈴もレミリアの側に駆け寄って来る。



「美鈴・・・貴女もありがとう」



レミリアは自身を助けてくれた門番に感謝した。

彼女の御蔭でこうして生き延びる事が出来たのだから。



「いえ、いいんですよそんな。それより申し訳ありません、あの者を逃してしまいました。あの、パチュリー様?」

「・・・大丈夫。さっき館の周囲に結界を張ったわ。もしまた来るようなことがあっても、今回みたいな奇襲はもう、出来ないわ」

「そうですか・・・よかった。とりあえずは一安心ですか」



パチュリーのその言葉を聞いて美鈴はホッと胸を撫で下ろす。

この優秀な魔法使いが言うのなら間違い無いだろう。



「それより、咲夜は?あの子は?」

「そうだったッ!咲夜さん、大丈夫ですかッ!?」



美鈴は咲夜に近づき、安否を確認する。



「私は、大丈夫。軽い打撲くらいだから・・・」



咲夜は心配して自身に問いかけてくる美鈴にそう言って答えた。



「そうですか・・・ああもうッ!本当によかった」



美鈴は安堵して咲夜を抱き締める。

そして美鈴は気付く。

咲夜の体が、異様なほどに冷たくなっていることに。



「咲夜さんッ!?本当に大丈夫なんですかッ!?体が凄く冷たいですよッ!?」

「大丈夫・・・・・・大丈夫、だから」



咲夜はそう言うが、体はまだブルブルと震えていた。



「ごめんなさい美鈴。心配、かけてしまって」

「いいんですよ、そんなこと」



咲夜の震える体を美鈴は強く抱き締める。

暖かい。

体の震えが、少しだけ治まる。

その暖かさに安堵すると、咲夜に強烈な睡魔が襲い掛かってくる。



「本当に・・・ごめんなさい・・・私は・・・お嬢・・・さ・・・ま・・・もれ・・・」

「・・・咲夜さん?」

「・・・・・・スゥー・・・・・・スゥー・・・・・・」

「寝ちゃいました・・・か」



寝息を立てて咲夜は深い眠りについた。

無理もない。

今回の出来事での一番の被害者は、このメイド長だろう。

疲労が限界に達して、気を失って寝てしまったのだ。

美鈴はそんな眠った咲夜を起こさないように、抱き抱えて持ち上げる。

そんな二人に、レミリアは声をかける。



「まるでお姫様を救ったナイトみたいね、美鈴」

「からかわないでくださいよお嬢様。私は門番で、咲夜さんはメイドですよ。・・・まあ」



眠った咲夜の寝顔を見ながら、美鈴は思ったことをそのまま言う。



「お姫様みたいに可愛いのは、同意しますがね」

「あら?言うじゃないの美鈴」

「ははは。さあ、戻りましょうお嬢様、パチュリー様」

「ええ・・・そうね」

「夜風は寒いものね。風をひいたら大変だわ」

「それでは・・・行きましょう」



こうして、激しくも静かな夜は終わりを告げた。

咲夜は美鈴に抱き抱えられながらも、誰にも聞こえないか細い声で呟く。



「・・・・・・・・・・・・師よ・・・・・・私・・・は・・・」





































さて、ようやく一段落したとスミスは報告します。

さて、まだ予定ですが、第二章は前作のように戦いは激しいものにはなりません。

大体暗殺者が戦闘しちゃ駄目ですからね。

だから戦闘は激しくなりません・・・・・・・・・・・・たぶん。

それでは!


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