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[21546] 美琴の憂鬱~御坂VS神裂
Name: sig#◆48de1ae3 ID:238980c2
Date: 2010/08/29 11:45
ついさっき終わった戦闘、それは神裂にとって特別な意味のある戦いではなかった。
だが少年にまたしても傷を負わせてしまった。
少年は気を失っていた。
戦いはし烈を極めた。
だが辛うじて勝利を収めることができた。

「全く・・・」
そういってため息を付いたのは、天草式十字凄教の女教皇にして必要悪の教会の一員、そしてその体に絶対的な戦闘力を秘める“聖人”でもある神裂火織である。
神裂は少年をおぶって、夜の公園を歩いていた。

この少年、上条当麻は事もあろうかその聖人同士の戦いに飛び込んできたのだ。
聖人同士の戦いでは、魔術攻撃に加え、その高い身体能力から物理的な攻撃が行なわれる。
いかにイマジンブレーカーが異能の力を消し去ろうとも一介の高校生に対応できるものではない。
「この少年は、聖人とか自分より強いとか、関係ないのですね」
そう、自分より強い相手が、戦う相手でも、助ける対象でも、この少年は立ち向かうのだ。

疲れたわけではない。
この公園を抜ければもうすぐ少年の部屋に着く。
何となくだ。なんとんなく神裂はベンチに少年を座らせると自分もその隣に腰を下ろした。
そして何となく少年の顔を見詰める。
神裂火織としては何となくだったと思う、いやそう思っていた。

バチッ
「?」
なにかが弾けるような音がした。
そう、電気製品がショートしたような音が。
「ショート?」
ここは学園都市だ。
いたるところにハイテク機器が設置されている。
しかもそれは試作品だったり、実験機器だったりする。
電子部品がショートしてぼやが発生するなんて事故は日常茶飯事だ。
そう、すぐそこにある自販機もしょっちゅう異常警報が鳴るときいている。

神裂は音のした方に視線を送った。
何もない、魔術師の気配も感じられない。
人の気配はある。
だが此処は公園だ、学園都市とはいえ夜の公園には、とある目的があって人が集まる。
人の気配なんて有ってあたりまえだ。



思わずスパークしてしまった。
お嬢様学校、常盤台中学の制服に身を包んだ少女は素早く茂みの影に身を隠した。
「アイツ。またこんな所で!!!」
茂みの隙間から、そっと少年ともう一人の様子を見る。
少年は気を失っているようだ。
となりに居るのは・・・・・
「うっ」
唸った。
腰には長い日本刀のような、いや間違いなく日本刀が下げてある。
しかし御坂美琴が唸った理由は他にあった。
上条当麻の隣に座っている人物は、いつもいつもいつもいつも、アイツと一緒にいて時に自分をいらつかせる少女達とは雰囲気が違う。
スラリとした足は長く、細いというより引き締まっている。
それが分かる理由は一目瞭然、彼女の履いているジーンズが片足の付け根から、切り取られて片方がない。しかもその切れ込みは骨盤の辺りまで上がっていて、かなりきわどいハイレグカットとなっている。
ウエストも細い。
胸の少し下辺りで引き絞られたTシャツが、ほんの少しだけ浮き出た腹筋をへその下あたりまで露出させていた。
「・・・エ、エロい、そしてデカイ」
ついつい自分の胸に手をあててしまうが比べようもない。
「あ~、もうイライラする~っ、
だいたい、なんであたしが隠れなきゃなんないのよ~」
そのとき、そのエロくてデカイ女性が動いた。その様子を見た瞬間。
「にゃっ」「バチっ」
美琴のへんな奇声とともに小さいスパークが起こった。美琴の意思とは関係なしに。



なんとなくの筈だった。
先程の戦闘で傷をおったのだろう、上条のこめかみに血がにじんでいる。
神裂がハンカチで血を拭こうと手を伸ばした。
傷を拭いていると、ふと気付いてしまった。
丁寧に傷を確認しながら拭いていたので、上条と神裂の顔がかなり近い。
顔を近づけたまま神裂の動きがとまった。
『はっ、こっこのシチュエーションは?!
しかも此処は夜の公園、人々がとある目的をもって集まって来る場所、しかも男女ペアで。
そして、この少年は男で私は・・・』
顔が熱い。
鼓動が高鳴る。
何となくだった行為が何となくではなくなってしまう。
『いけない、この少年はあの子と・・・』
そうは思うが止めることが出来ない。
自分が当麻に惹かれていることには自覚があった。
だが突然こんな気持になるとハ。

火織の唇が当麻のそれに近づいていく。
神裂はその立場から男性に対しては常に毅然な態度で接していた。
勿論、こんな経験は一切なかった。
遅いファーストキス、火織の思考が真白になる。



バチっ、
バチバチバチ
ドーーーーン
突然放電現象が起こり。近くの自販機や電灯、植え込みや街路樹までがこげて煙を上げている。
一瞬の衝撃があった。
だが直切的なダメージはない。
神裂は一瞬で思考を回復させた。
『敵?だが魔術師の気配は無かった。』
視線を上げると茂みに一人の少女立っている。少女の体からは断続的に小さいなスパークが発せられていた。
「?」
少女は立って居るだけで動かない。
攻撃をしてくる様子もない。
「超能力者?対するのは初めてだが・・・」
バチバチバチ
ドーーーーン
2回目の放電。
腰に下げていた太刀“七天七刀”を構え受けの姿勢をとる。
だが電撃はあらぬ方向に分散されて放電されている。
「?」
よく見ると電撃の少女は俯き加減でこちらを見てはいるが、どこか目がうつろだ。
体もふらふらと揺れているようだ。
だが、油断できない、これだけの電撃が直撃したらいかに聖人とはいえ、タダではすまない。
「七閃」
神裂が七天七刀を振るおうとした瞬間。

「御坂!」
いつのまに意識がもどったのか、当麻が叫んでいた。いやもう走っていた。美琴に向かって。




[21546] 美琴の憂鬱~御坂VS神裂 その2
Name: sig#◆48de1ae3 ID:238980c2
Date: 2010/09/01 22:18
“七閃”が炸裂した。
しかしその目標は美琴ではない。
それは、上条の足元の地面をえぐる。
「神裂?」
七閃が上条の足を止めた。
「近づいてはいけません!あなたにはあの電撃を処理できない」
「でも、あれは!」
美琴は断続的に電撃を放射している。
しかしそれは全く狙いを定めたものとは思えない。
“無差別攻撃”という表現がピッタリくる。
「あれは・・・違う」
美琴は無差別に被害をばらまくような事はしない。
アイツは精密な、狙い済ました攻撃を仕掛けてくる。
決して無関係な人間を傷つけようとはしない。
『能力が・・・暴走している?』
美琴の攻撃は広範囲を無差別に襲っておる。 
このまま電撃の範囲が広がっていけば、公園にいる人々が、いや美琴の能力を考えると周辺住民にも被害が出るかもしれない。
ナパームとか、気化爆弾とか、そういう単語が上条の頭をよぎる。
「アイツに、御坂にそんな真似をさせる訳には!」
上条は自分の右手を見る。
異能の力をことごとく消し去る右手、イマジンブレーカー。
美琴に触れることが出来れば暴走を止められる。
しかし、美琴の攻撃は余りにもランダムだった。
コントロールされた能力なら予測もできる。
戦闘の“プロ”ではないとしても、その方向性くらいは直感が教えてくれる。
だが、いま美琴が放つ電撃は全くコントロールされていない、まさしく自然の雷のごとくウネリ、その着弾ポイントの予測は困難だ。

「なぜ、こんなことに!」
能力の暴走は本人の抱えたストレスが原因となることが殆どだ。
まさに思春期まっただなかの中学生、高校生には良くあることだ。
家庭の事情?進路?友人関係?恋愛?
さまざまな要因が考えられる。
「一体、なんで突然?昨日は完璧に俺を狙い撃ちして来たっていうのに!」
昨日もきのうで、思い切り待ち伏せを食らって逃げ回った上条である。

ちょっと考えてみた。

家庭の事情?
家は裕福そうだし、
あの能天気な母親から溜め込むほどストレ貰うか?
それはもう言いたい放題ぶちまけていたような・・・。

進路?
もう常盤台中学って時点で将来有望だし、レベル5だろ?第三位だろ?
そういえば御坂のヤツこの前、俺の学校のパンフもってたな。
常盤台からうちの高校ってありえねェ

友人関係?
白井か?・・・あるかもしれねぇ。
俺?・・・右手使いすぎたか?でもああしないと上条さんは死んでましたよ。
あれ?でもあれって御坂も結構楽しんでいたような・・・?

恋愛?
・・・そんなの分かるか!
でも海原の時のことを考えると、御坂にはそんな対象はいない。か?
全くわからない。
上条は自分の事を棚に上げるのが得意なのだ。


「御坂!」
叫んでみても、聞いている様子がない。
そうしているうちにも、暴走は加速しているようだ。
美琴の体が青白く光っているように見える。
「あれって、やばくないか?」
暴走が酷くなると、自分自身を焼き尽くすことだってある。
「くそっ」
上条は焦った。

電撃が上条の足元に炸裂する。
同じ場所に続けて電撃が来ないと読んだ上条の右足が地面を蹴った。
蹴ったはずだった。美琴に向かって走ったはずだった。
しかし、地面に付いた足からカクッと力が抜ける。
上条は先程激しい戦いを終えたばかりだ。
激しく体を痛め、疲労し、勝てたのが不思議なくらいだ。
そんな体の損耗は頭になかったのだ。
転んだ、派手に転げた。
「しまった」
反射的に右手を地面についてしまった。
そして考えも甘かった。
電撃は同じポイントを再び襲う。
ランダムに同じ場所に来たのだ。
電撃が上条を襲う、地面に付いてしまった右手を掲げている暇などあるはずも無い。
バチッ、バチバチ。
ズガガガーン
上条の体ごと地面を襲った電撃はもうもうと砂煙を上げる。

上条の姿を覆った砂煙りを見ながら、
「あっ」
と、ほとんど意識のないはずの美琴が小さな声を上げた。
だが暴走はまだ終わっていない。

直撃は無かった。
なにかが、手足に絡み付いた感じがした瞬間、目の前の景色がながれた。
いや、上条が何かに引っぱられて移動したのだ。
「ワイヤー?」
神裂は放った七閃に殺傷能力を与えず、上条にからめて、引き寄せた。
細いワイヤーに手足が締め付けられて痛む、千切れそうだ。
だが電撃の直撃よりはましだ。
神裂は上条を引き寄せ抱きとめた。
そのまま、跳躍し電撃を避ける。

ピキッ
美琴はもうろうとした意識のなかで、コメカミのあたりから変な音が聞こえたよう気がした。

「うわっ、かっ、神裂さん、なにか顔のあたりに柔らかいものが・・・」
神裂は顔を真っ赤にしながら言った。
「しかたありません。非常事態です。」
『それに、それほどイヤな感じは・・・いや、私はなにを考えている?!』
上条は振り落とされないよう、神裂にしがみ付いている。
もうそれは、顔を押付けているようにしか見えない。

美琴はそれを見ていた。
「ぶつぶつぶつ」 なにやらつぶやいている。
「アンタは・・・アンタは・・・・
いつもいつもいつもいつも」
美琴の口から意味の有る言葉が出た。
意識が戻ってくる。
しかし、別の意味で意識がぶっ飛んでいる。
一般には頭に血が昇っている状態という。
次の瞬間、怒声が響いた。
「当麻のバカァーーーーー」
同時に電撃が指向性を持って放たれる。
初めて、下の名前で呼べた記念すべき瞬間、だが美琴の記憶には殆ど残っていなかった。

空中で上条はそれを聞いた。
「御坂の意識がもど・・・・
って、なんで特大の電撃がこっちへ?!」
上条は神裂の手を振り払うと右手を美琴に向けた。
この攻撃なら消せる。
もう何十回も、美琴の電撃を防いでいるのだから。

電撃は上条の右手に吸い込まれるように消えていく。

・・・当然だが上条は落ちる。
「あれ~おちるぅ~」
などと叫んではいるがそれ程焦ってはいない。
上条の期待とおり、地面すれすれで神裂が受け止めてくれた。
しかし・・・・。
着地地点は美琴の目の前。
そして、上条は神裂に再び抱きかかえられている。
しかもこんどは、お姫様抱っこ状態。

「・・・・」
「・・・・」

上条と美琴の目が合う。
美琴の頬が引きつる。
「ああああ。アンタ、そっ、そっ、そのエロい年上の女は!」
神裂を指差し確認する。
美琴も先程よりは冷静なようだ、だが。

「にゃッ」
バチッ、バチバチバチ。
先程の一撃でエネルギーを放出したせいで、一時的にストップしていた“暴走”がまた始まってしまった。
神裂は上条を抱えたまま再び跳躍する。

「あっ、あれ、力が・・・うまくコントロール・・・できない。」
力の放出が止まらない。
「そっ、そんな・・・これって、暴走?!」
美琴は自分の超能力が暴走していることに、ようやく気付いた。
愕然とした。
力のコントロールには自信があった。
いや、コントロール出来てこその超能力だと思う。
だが、自分はいま周辺に破壊をばらまいている。
ショックだった。
この力は誰かを守るために、救うために使いたい。そう思っていた。
そう、アイツのように。

『怖い・・・』
自分の超能力に対して、初めてそう感じた。
暴走の果てに自分が焼き尽くされることではない。
自分の大きな力、レベル5の力が他人を傷つけようとしている。
力が自分を裏切っているように感じた。
幼い日に提供した遺伝子が、不治の病で動けなくなった人々が再び走れるようになる、そう信じて提供した遺伝子が、全く別の目的、1万人ものクローニングとその虐殺の為に使用されたと知った時の絶望感にも似ている。
『けど、あの時に比べたら、どうってことない。
何とかする!
それに、アイツが見ている。
みっともないところなんて見せられない。』
折れそうになった心は再び立ち上がった。
『そう、アイツが見ている。私を見てくれている!』





[21546] 美琴の憂鬱~御坂VS神裂 その3
Name: sig#◆48de1ae3 ID:238980c2
Date: 2010/09/03 23:00
『そうだ、私を見てくれている!』
だが美琴にもいまの状況を打開できる手立ては思いつなかい。
思わず上条の方を見る。
・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・ピキッ!

「神裂、御坂にもう一度さっきみたいに、こっちに向けて電撃を撃たせることが出来ないかな?」
神裂に抱えられながら上条が言った。
「そうですね、先程もそうでしたが、あれだけのエネルギーを使えば超能力がほんの少しの間だとしても、枯渇するということですね。
しかし、その間に彼女までたどりつけますか?」
「それには考えがある、まあ神裂の協力は必要だが・・・」
当麻は作戦を簡単に説明した。
「取りあえず、どうやって御坂に撃たせるかだ。
どんな手段でもいい、ただ撃たせるだけでいい」
問われた神裂は少し考えた。
「あの・・・その・・・手段が無いわけではありませんが、その・・・リスクが」
「時間がない、この際多少のリスクには目をつむる、
で、どうするんだ」
少し間をおいて神裂が答えた。
「どっ、どんな手段でも良いのですね」
一瞬のためらいがあった。
「 ・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・こうするのです。」
たぶん、こうすることは、公園に入る前から頭の片隅で決めていたのだろう。
なんとなくという言い訳を自分にしながら。
公園に入る前、いや当麻が神裂と敵の聖人の間に割って入った時から。
自分はいつも守る側だった。
だが、守ろうとしてくれた。
教皇だって、聖人だって、神裂は女なのだ。
うれしかった。とても。



神裂は、上条の胸倉を掴んだ。
掴んで引き寄せる。
素早かった。

神裂は自分の唇を当麻に押付けた。
当麻の唇に。
素早く、しかし優しく。
「うっ」
当麻は目を見開いた。
真っ赤になった神裂の顔が視界一杯にひろがている。
瞬間、思考が真白になる。抵抗することも忘れた。
神裂は、更に強く唇を当麻に押付ける。
『なんだこれは、なんで?どうしてこうなる?』
変化した唇の圧力に真白になっていた当麻の思考が戻った。
神裂から離れようともがくが、聖人の力で押さえつけられては抗うこともできない。


当麻に作戦を聞いた時、神裂はこう考えた。
彼女が現れたタイミング。
彼女の言動。
さっきの電撃のときも。
あの少女はきっとこの少年のことを。
なら、さっきより強い刺激を与えれば・・・
少女が現れる前に自分の取った行動を思い出していた。
近づけた顔、合わせようとした唇。
しかし、寸でのところで触れることができなかった。
あの少女のせいで。
『私にだって、こんな思いがあっても良いではありませんか。』
言葉で伝えている分けではないが、直接感情をぶつけている美琴が少しうらやましくなったのだろう。
だからキスをした。
だからキスの時間が長くなった。

そして、押付けた唇を開き、ほんの少しだけ舌を入れた。


こんな時、自分は激昂すると思っていた。
「いや・・・」
美琴は一歩下がった。
膝が震えた。
「いやだ・・・・」
もう、暴走とか、みっともない所を見せたくないとか、どうでも良くなってしまった。
そんな後ろ向きな感情でも、気持は逆方向に高まっていった。
『いやだ、いやだ、いやだ』
もう限界だった。
「いやーーーーーっ」


神裂は唇をはなした。
当麻の唇との間に、糸のように透明な粘液が繋がっていた。
「かっ、神裂!おまえ・・・」
神裂は自らの行為に少し呆けているようだった。
視線はうっとりと当麻にむけられている。
赤らめた顔と相まって妙に艶っぽい。


神裂は、なんとか上条から視線外すことができた。
「うっ、うまく行きましたか。あの娘は?」
その視線を美琴に移してそう言った。
本当はもっと別の言葉を言いたかった。
だが、聖人であり女教皇であり、必要悪の教会である自分には許されないことだと思う。
ここで、作戦の一部ということにしなければ、取り返しのつかないことになってしまう。

「さっ、作戦?」
上条は絶句した。
作戦とはいえ、神裂はこんなことまでするのか?
いやいや、ちょっとまて、神裂のあの表情、それに潔癖症に近いあの神裂が、作戦と言ってもこんなことは???
いや、いくらなんでも俺に・・・ってことは無いはずなのだが?????
もう頭の中はぐちゃぐちゃだった。

「来ました」
高まった感情を抑え、神裂が呟く。
『私もまだまだだ、キスくらいであんなに感情が高ぶるなんて』
次の行動に入るため、腰をすえる。


美琴の無差別の放電は止まっていた。
代わりに体が眩しいくらいに青白く輝いている。
そして上がった美琴の悲鳴
「いやーーーーーー」
上条は我に返った。
「神裂!」
「はい」

美琴がこちらに向かって指向性の有る電撃を放つのと、神裂が上条を美琴に向かって投げつけるタイミングはほぼ同時だった。
上条が美琴に向かって飛ぶ、右手を突き出しながら。




[21546] 美琴の憂鬱~御坂VS神裂 その4
Name: sig#◆48de1ae3 ID:238980c2
Date: 2010/09/05 06:35
美琴がこちらに向かって指向性の有る電撃を放つのと、神裂が上条を投げつけるタイミングはほぼ同時だった。
上条が美琴に向かって飛ぶ、右手を突き出しながら。

美琴の悲鳴と共に巨大な電撃が放たれた。
それは美琴の感情の大きさをそのまま現したようだ。
放った後には虚脱感が襲ってきた。
電撃に隠れて、美琴の視界から上条の姿が消える。
『ああ、一人になっちゃった』
もう当麻はあの人と・・・
そうなら、もう逢うことなんて出来ない。・・・たぶん。
『暴走・・・止まらないや、でも・・・もういいかな』
そう思うと全身から力が抜けるようだ。


放り投げられた上条が美琴に向かって跳ぶ。
美琴の電撃は予想通り指向性を持って上条にせまった。
それが右手に触れた途端に消えていく。
しかし、あまりの巨大さに全てを消し去れない。
消しきれない電撃が回り込んで上条を襲う。
だが、回り込んだ電撃が上条に当たることはなかった。

上条のすぐ後ろを神裂が後を追うように跳んでいる。
神裂は、回りこむ小さい電撃に対し、地面にワイヤーをつき立てて避雷針とした。
美琴に向かって跳ぶ上条に並行して次々とワイヤーを突き立て、後方にあるワイヤーは回収していく。

美琴の視界から電撃が消えていく。
薄れゆく電撃の向こうに上条の姿が見えた。
右手を前にかざしてこちらに跳んで来る。
まるで、手を差し伸べているようだ。

美琴も思わす左手を差し出した。
上条の右手を受け止めるために。
『とうま』
心の中で上条の名を呼んだ。

しかし、美琴は上条の向こうに神裂の姿をみた。
全身が、ビクッと振るえ、差し出した左手を少し引き下げる。
だがその時にはもう当麻の右手は美琴の左手を握りしめていた。
「美琴!」
そう叫ぶと次の瞬間、当麻は美琴を抱きかかえた。
美琴を抱きかかえたまま、地面に転倒するとそのまま数十メートルは転がった。
上条は、聖人である神裂に放り投げられたのだ。
その慣性力は、簡単に殺しきれるものではない。
右手は美琴の左手を握ったまま、自分の体で美琴を庇うように転がった。

体が止まった。
上条は美琴の上に覆いかぶさるような体勢で横になっている。
右手の効果で暴走した電撃は発せられていない。
「みさか!無事か!」
問いかけるが返事がない。
「御坂?」
見ると、美琴の目は上条を見詰めてはいるが、その目からは大粒の涙がこぼれている。
「御坂?どうした。どこか怪我でも」
その問いに、実琴は空いている左手で顔を覆いかくし答えた。
「・・・・バカ」
呟くような小さな声で。


「作戦はうまく行ったようですね?」
まだ起き上がれない二人の傍らに立ち、彼らを見下ろしながら、神裂は落ち着いた声で言った。
まだ流れる涙をとめることが出来ず、左手で顔を隠していた美琴は思う。
『作戦?作戦ってなに?』

「神裂さん、さっきのは・・・ って大丈夫か御坂」
美琴は、上条の言った言葉に反応して、ビクンと一瞬カラダを振るわせた。が
「だいじょう・・・ぶ、たぶん」
こんな醜態を当麻いつまでも見せていたくはなかった。
ゆっくりと立ち上がろうとした。
「あれ?」
しかし、立ち上がれなかったのは上条だった。
立ち上がりかけた美琴を巻き込んで、もう一度転んでしまった。
こんどは尻餅をつく格好で座った美琴に背中を預けるよう倒れた。
体の向きは同じ方向を向いているので、繋いだ右手と左手は上条の前にある。
丁度、美琴が後ろから上条に抱きついているような感じになる。
美琴は思わずそのまま、繋いだ左手と上条に回した左腕に力をこめていた。
よく見ると上条の服にはいたるところに血痕がある。
ああ、またコイツは戦っていたんだ。
上条はそのまま眠りについた。
いや、気を失ったという方が適切かもしれない。
緊張の糸が切れたのだろう。
今夜の戦いは長すぎた。

『ふう』
神裂はため息を付いた。
「あなた、名前は?」
「御坂・・・美琴」
美琴は戸惑いながらも答えた。
「私は神裂火織と申します。」
改めて神裂をみると、うらやましいほどスタイルがいい、背も高く、美人だがどちらかと言うと凛々しいという表現があっている。
時々、上条が仲のよさそうな友達と話していたのを思い出す。
“やっぱ、おねいさんな感じがいいよなぁ~”などと言っていたような気がする。
美琴の胸に痛みが走った。
「あなたは、私とこの少年をどのような関係だと思いますか?」
神裂の問いに、美琴は視線をそらしつつも、搾り出すように言葉を発した。
「こっ、恋人・・・ですか」
言ってから唇を噛んだ。こんな言葉は言いたくなかった。
だが、神裂の答えは、
「違いますよ。
さっきの口づけは貴女に電撃を打たせるための作戦、それは私が思いつきで行なったこと。
・・・・彼からは何もしていません。」
美琴は思わず視線を神裂に戻した。
「ごめんなさい、あなた、この少年のことが好きなのですね。謝罪します。」
言われた美琴の顔が赤くなっていく。
しかし、美琴は見逃さなかった。
口調は穏やかであったが、太刀を握る神裂の手が白くなるほど強く握られていることを。
『ああ、やっぱりこの人も当麻のことが好きなんだ』
それを問うことは出来なかった。
神裂は言葉をつづける。
「ですが、たぶん彼には想い人がいると思いますよ。ただ彼自身も自分の気持ちに気付いてはいないようですが。」
何処か遠くをみて話しているようだ。
それは上条の部屋の有る方向であった。
美琴も同じ方向をみていた。




[21546] 美琴の憂鬱~行間
Name: sig#◆48de1ae3 ID:9b1b7c34
Date: 2010/09/20 06:50
「なあ、神裂」
あまり、ろれつが回っていない口調で上条が呼んだ。
「目を覚ましましたか」
上条は神裂の背中で目を覚ました。
だが目を覚ましただけで、体が動かない。
意識もはっきりしない、夢でも見ているようだ。
無理も無い。
聖人同士の激しい戦いに割って入ったのみならず、学園都市三位、レベル5の御坂美琴の暴走を止めたのだ。それも一晩のうちに。
上条の疲労は限界を超えていた。
もう、東の空が白み始めている。

ぼんやりとした意識のなかで、上条は先程の神裂の行為を思いだしていた。
「なあ神裂、おまえさっきは・・・」
「アレは、あくまで作戦の一部です。」
神裂は用意していた言葉で上条の言葉をさえぎった。

上条に口づけをしたのは、御坂美琴に電撃を撃たせる為の作戦。
それは間違っていないし、事実狙い通り美琴に電撃を打たせることが出来た。
しかし、それだけが理由だった分けではない。
だが、
「・・・それだけです」
言った言葉はそれだけだった。
『それだけ・・・じゃない、本当はもっと・・・』
思うだけで言えない言葉もあった。

上条はぼんやりとした頭で言った。
「さっきのあれ・・・舌が ブギャ」 
デリカシーのない言葉が発せられる前に、神裂の後ろ向きの頭突きが上条の顔面を捉えた。
「なっ、なにを言っているのですか。
ちょっと触れただけではないですか!」
声が大きくなってしまった。
冷静で居ようと思っていたのだが、上条の発言はいつも神裂の予想の斜め上を行く。
この少年と話しをしていると時々平静を保てなくなる。
だが不思議と悪い気分ではない。

神裂は、隣を歩く少女をチラチラと気にしながら言葉を続ける。
「あっ、あれは作戦だと言っているではありませんか!」
「いててて、だからって頭突きはあんまりなのでは?」  

そんな会話(と頭突き)をしたりされたりしていると、上条は不意に右手に圧力を感じた。
それまで体の感覚が希薄だったのだが、握られた手の圧力が強くなったことで感覚が戻ってきたようだ。
(もちろん、放たれた頭突きのおかげでもある)
見ると、神裂におぶられている上条の右手を、隣を歩く少女、御坂美琴がギュっと握っている。
ずっと上条の右手を握り続けていたのだが、意識のなかった上条には知るすべもない。
美琴はジッと上条を見ている。
ときどき何かいいたそうに口を動かすが、何も問いかけてはこない。
上条と美琴は少しの間、見詰め合っていた。

傍目から見ると、結構いいシーンなのだが勿論上条にそんな自覚はない。
美琴の視線に耐えられなくなったのか、上条が話かけた。
「あの御坂さん。
あなたは、何ゆえそんなに上条さんの手をギュッとしているのでしょう。」
「・・・・・・」
少しの間返事ができなかった。
美琴は、上条の顔を見ながら、考えに耽っていた。うわの空だった。
さっきのキスってけっこう・・・作戦って言ってたけど、とか、
当麻はこの神裂と名のる女性をどう思っているのだろうとか、
この女性が言った当麻の想い人ってとか、
考えている事は上条のことばかりだった。
だが、頭突きを食らったことへの同情はないようだ。

「おい、御坂?」
なにか、いつもの美琴と様子がちがう。
上条の問いに美琴は我にかえった。
「えっ、いや、あの・・・ばっ、ばっ、ば」
「ば?」
「バッ、ばか!仕方ないじゃない。
その、あの、暴走が止まらなくて、離したくても離せないというか、離したくないって言うか・・・」
ちょっと会話が戻った。
美琴の顔が急激に赤くなる。
喋った言葉は、尻すぼみで最後のほうは良く聞き取れなかった。
なんか、急に頭に来きた。
美琴は頬を膨らませていった。
「なっ、なによ、暴走したのだって、もとはアンタが!」
「えっ、俺のせい、なんで?」
ボッ
と、美琴は火が出るのではないかと思うほど顔に熱を感じた。
頬の赤みもこれ以上ないくらい増している。
その理由には心当たりがある。
「なななな、何でだっていいいいいじゃない。
とにかくっ、アンタのせいなの!バカーー」
「めっ、めちゃくちゃだっ」
と言いつつも。『よかった、いつもの御坂だ。』と上条はそう思った。
ぎゃぁぎゃぁ騒ぐ上条と美琴を見ていた神裂は、ため息をつく。
『やっぱり、うらやましいですね。』

ところで
「神裂さん?我々はいったい何処に向かっているのでしょう?」
そんなのは分かりきっている。
この先には自分の部屋がある。
・・・・なにかこのまま帰るとまずい気がする。
「あの・・・神裂さん、どちらへ?」
「あなたの部屋で、傷の応急処置をします。それに食事と睡眠も必要でしょう。」
「うわ、やっぱり!」
「なにかまずいことでもあるのですか?」
『おい、神裂、インデックスがおれの所にいるのは内緒なんだよ、全世界的に!』
小声で神裂に訴える上条だが。
『大丈夫でしょう。彼女なら。
あなたの“敵”ではないのでしょ』
『それはそうなんだが、べつの意味で上条さんのピンチっていうか、生命の危機って言うか、そんな予感が・・・』
などと話していると不意に右手を引っぱられた。
「なに、こそこそ話してんのよ」
いつもならビリビリしそうな美琴だが、今は上条の右手のせいで力がでない。
「おっととと」
落っこちそうになった上条はあまり力の入らない体で神裂にしがみ付いた。
いや、しがみ付いたのは神裂に、ではなく神裂のTシャツに、だ。
「キャッ」
「・・・・・・・」
上条はその声に固まってしまった。
あまりに可愛らしい悲鳴に。

一瞬だ、一瞬その大きめの胸が露になった。
レースの部分が結構多めの、薄いブルーの下着に包まれた胸が。

思わず上条を放りだしてしまった。
神裂は、再びTシャツに収まった胸を両腕で隠すようにして振り返った。
「みっ、みましたか?」
背おられていた上条に見えるはずもないのだが。
ぶるぶると顔を左右に振って。
「かっ、上条さんは何もみていません!
だいたい、それは何時ぞやの海の旅館でみ・・・、
ぶぎゃっ」
「あああ、あなたは、一度シメる必要があるようですね」
鞘付きではあるが、七天七刀の切先が上条に向けられる。その先端は小刻みに震えているようだ。
「かっ、神裂さん、ちょ、ちょっと落ち着いて、ね」

ぶちっ
なにかが切れるような音がしたような気がした。本当にそんな気がした。
二人同時に、上条の隣で腰を下ろしている少女を見た。
「ああっ、あんたたち!さっきから、わたしを無視てイチャイチャと、何しとるかーーーーっ」
「イチャイチャって、お前これの何処がイチャイチャにみえ・・・」
上条が視線を戻すと、神裂はこっちを向いて顔を真っ赤にしている。言葉もない。
上条もそれにつられたのか、さっきのディープなキスを思い出したのか、こちらも顔が赤くなった。
『なっ、なによこれ』
それを見た美琴は上条の右手を強引に引っぱった。
恐らく、考えるよりも早く。
「おわっ、御坂ひっぱりすぎだ!」
引っぱられた上条は立ちかけたたが、足に力が入らない。
上条と美琴がもつれ合う様に転倒・・・と思った瞬間、上条の体の前を鞘に包まれた七天七刀が支えた。
上条と美琴の間隔は30cmたらず。
『しまった。余計なこと・・・でしたか?』
その姿勢で止まってしまった。
3人の間に気まずい空気がながれた。

・・・・・取りあえず上条は、美琴と距離をとる。と言っても繋いだ手ははなしていない。

「そっ、そういえば御坂、
そろそろ力のほうも落ちついたんじゃないか?」
何とか話題を変えようとした。
美琴も、あまりの気まずさに耐え切れず上条の話題にのった。
だが、レールガンの機嫌はそんなに簡単には立ち直らない。
「なによ。そんなにあたしに手を握られるのが嫌なわけ?」
そう言いつつも握力を強める美琴だった。
「いや、そのなんだ。
いつまでも手を繋いでいるわけにも行かないだろ」
というのも、このまま手を繋いだまま部屋に帰るのは非常にまずい気がしたのだ。
美琴も自らもう少し繋いでいたいなどとはとても言えない。
「いっ、いいわよ、離すわよ」
ちょっと名残惜しそうに手を離す。
・・・・少し間をおいて。

「にゃっ」
バッチ、バチバチバチ
「おっ、おわっ」
慌てて美琴の手をとる。
「ふーっ、あっぶねー」
冷や汗をかく上条に
「まっ、まだ収まらないみたい」
その美琴の言葉にジト目向ける。
「おまえ、わざとやってないか?」
「いっ・・・いやね~そんなこと有るわけ無いじゃない、ははは」
と引きつった笑顔で答えた美琴だったが、本当のところは自分でも分からなかった。

そんなイベントを展開しつつ3人は上条の部屋に向かう。
もう朝日は昇りきっていた。




[21546] 美琴の憂鬱~気になるあの子は?
Name: sig#◆48de1ae3 ID:30b0a50e
Date: 2010/09/12 21:18
3人は上条の部屋の前まで来ていた。
美琴はちょっとドキドキしていた。
一人暮らしの、男の部屋になど入ったことがない。
本当なら部屋をかたづけてあげて、手料理なんか作ってあげたりして。
とそんな行為に憧れる美琴だが、どうにも邪魔な存在が一緒にいる。
「おろしますよ」
上条をおぶってここまで来た神裂だ。
神裂を横目でみる美琴だが、だからといって上条の部屋で二人きりになる勇気なんてなかった。


神裂の背中から降りたのはいい。
なんとか、立っていることも出来る。
だが、上条は部屋のドアの前で固まってしまった。
・・・・・・・
「早く入んなさいよ」
急かすのは、さっきからずっと上条の右手を握りしめている美琴だ。
少しの沈黙のあと。
「だーいじょうぶ!
ベッドの下にあーんなものや、こーんなものが有ったって気にしないから。」
などと、笑いながら上条の背中をバシバシ叩く実琴に対し。
「御坂、ほんっっっっとに、何があっても驚かないでくれるか?」
上条の真剣なまなざしに、一歩たじろいだ。
いったい、どんだけ凄いものがベッド下に?!
美琴はそれを受け入れることが出来るか、真剣に悩んでしまった。

そーっとドアを開ける。
その途端、何かが上条に突進してくる。
「とうま!」
上条の名前を呼んだその何かは上条に飛び掛った。
「ギヤーッ、いたたた、痛いってインデックス、
っていうか、噛み付きはもう卒業したはずじゃ?」
「もう、ひぃんぱひをとひょりこひて、ひゃたまにひてるんひゃよ」
噛み付いたまま喋っているのでなにを言っているのは分からないが、
「もう心配を通り越して頭にきているんだよ」
というのが、正解だろう。

上条の頭に噛み付いている白いシスターをみた美琴は指をさしたま固まった。
『ななな、なんでこのちっこいのがコイツの部屋にいるのよ!しかもこんな時間に!』
開いた口はパクパクするだけで、思った言葉はでてこなかった。
ただ、繋いだ手を無意識に、更に強く握り締めるだけだった。

インデックスは、口を離すと凄い勢いで視線を上条の右方向に向けた。
「それで、なんで短髪が一緒なんだよ、しかも手なんか握っちゃって!」
「そっ、それは、やんどころない事情というか、やむにやまれぬ理由があってだな、その・・・」
本当なのに言い訳をしているみたいだ。
「ふっふーん、あっ、あんた羨ましいんでしょ?
まっ、わたしはその、やんどころない事情ってやつで仕方なく手を繋いでいるだけであって、それ以上のことは・・・ない・・・と思う、たぶん」
ちょっとした意地悪と嘘のつけない性格が災いしたのか、美琴のセリフはまさに火に油だ。
「むっきー、羨ましくなんかないもん!
だいたいそのやんどころない事情ってやつで、わたしは一睡もしないで心配して心配して心配して一晩中待ってたんだよっ」
「一晩中って、あんたコイツの部屋に住んでるのかーーーって
・・・もしかして、ホントに?」
美琴に疑いの目を向けられた上条は
「いっ、やだなー御坂さん。
そんなわけ無いじゃないですか、ははは」
『おい、神裂もなんか言ってくれ』
上条は焦りつつ、神裂を肘でつつく。
上条の仕草に、インデックスは初めて神裂の存在に気付いた。
「あ~っ、いつかの凄くえっちなメイドさんが、また、とうまと一緒にいる!!」
インデックは上条からエロなどという下品な言葉使いを禁止されていた。
「凄くえっちで、メイドさん?!」
美琴は、最近メディアでよく聞く単語なようなそうでないような言葉に神裂を凝視した。
ギクゥ
今時、マンガにも出てこない効果音とともに神裂の顔から血の気がひいた。
「だだだ、だっ、だってあれは、土御門にそそのかされて、
精神状態が普通でなかったとういか、時間的にも余裕がなく、最大限のお礼をしなくてはならず、いやその・・・あなたの好みだと聞いて・・・」
ガーン
『そっ、そこまでするのか?この人は!
エッチでメイドがコイツの好み?
はたして、私に対抗できるだろうか?
はっ、対抗って何を考えているんだ、わたしは!』
もう、美琴は混乱の極みだ。

「まっ、まあそのなんだ、取りあえず中にはいろう。ちょっと4人は狭いけどな。」
話題がそれたところで、部屋に入ろうとした上条に、
「「さっきの件あとで説明「してもらうかも」「してもらうわよ」」
と二人に怒鳴られたのは言うまでもない。



「傷の手当をします。
とりあえず体を洗いましょう。」
落ち着く前にやる事はやってしまったほうがいい。
「そうだな、風呂場で・・・・」
神裂の指示でバスルームの向かおうとした上条の右手が引っ張られる。
「ちょっと、この状態でなにをするつもりよ」
不機嫌そうな美琴に、つないだ右手を眺めて、上条は言ってみた。
「いっしょに入る?」
「アンタは、なにを考えてるんだーーーっ」
「うわっ、そんな怒鳴るなよ、冗談だってば!」
危なくヒットしそうな美琴の右ストレートを何とかかわした上条であったが。
「・・・とうま、お風呂まで短髪の手をにぎったまま入るつもり?」
こちらのシスターもかなりご機嫌斜めなようで、その目はすわっている。
「いや、インデックスさん。説明するとだな。
御坂の超能力が暴走してだな、それを押さえるために御坂の手を取ったんだが、暴走がとまらないんで、手を離せないわけよ。」
ちょっと美琴の手を離してみた。
「にゃ」
バチバチチバチ
美琴の頭の上でスパークした。
「ひゃっ」
インデックスもちょっと驚いたようだ。
上条はすぐ美琴の手をとる。
それでもインデックスは怪しい目を実琴に向ける。
「・・・短髪、それわざとやってない?」
「なっ、なによ、そんなわけ無いじゃない、コイツと同じこといわないでよ」
・・・・
「「ふう」」
とりあえず、どうすることも出来ない状況にため息をつく二人だった。

「うむ、なあ御坂、そっと洗うからさ、服きたままついて来てくれないか、そっぽ向いてくれてたら俺はかまわないんだが」
「なっ、なによ、
せっ、せせせ背中くらいなら、ななな流してあげるわよ。」
顔を真っ赤にしながら美琴がいった。
「いっ、いや、とっ常盤台のお嬢様にそんなことをさせるわけには・・・」
美琴の様子に上条も、ちょっとドキッとしてしまった。
上条だって、照れてしまう年頃なのだ。

「話は決まりましたか?では入りましょう」
戻ってきた言葉は神裂からだった。
神裂はタオルを持っている。
「「・・・・・」」
上条と美琴はお互いに顔を見合わせた。

「「ええっ!」」



[21546] 美琴の憂鬱~三つ巴(みつデレ?)
Name: sig#◆48de1ae3 ID:30b0a50e
Date: 2010/10/02 03:06
真っ白だ。
当麻は真白な灰になった。
プライドと共に・・・・。

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「かっ、神裂さん、上条さんは体ぐらい自分で洗えますのことよ!」
「いけません。
洗うのは“体”、ではなく傷です。
丁寧に傷に入った砂なんかも洗い流さなくては。
あなたはどうせ、ヒイヒイ言いながらガシガシこするだけでしょう。
それでは治る傷もなおりませんよ。」
「ヒイヒイ言いながらガシガシこするってアンタ・・・。」
印象的な言葉に反応してしまう美琴であった。
ちょっと引いたポーズをする美琴だが、いまだに繋いだ手は離せない。
「おまえなぁ」
などとトホホな気分になっていると。

「左手だけでは不自由でしょう。」
といいながら神裂が上条のシャツのボタンを外しはじめた。
『うわ、これは・・・』
背のたかい神裂が胸のボタンに手をのばすと自然と、ほんの少し前かがみになる。
上条は、Tシャツの胸元の隙間から見える膨らみを思わず凝視してしまう。
ドスッ
ガブッ
美琴が上条のわき腹に肘打ちを放つのとインデックスが頭に噛み付くのは同時だった。
「「とうま」「あんた」鼻の下が伸びている「かも」「わよ」」
こんな時だけ二人は最高のコンビネーションを発揮する。
「??」
上条がどつかれて、屈みこんでいるのは分かるが、その理由がよく分からない神裂であった。
「ったく・・・おねえさん、上から胸が見えてるわよ。」
むだに大きな胸がという言葉を呑みこんで、美琴が忠告すると、神裂はTシャツの隙間から見える自分の胸と、うずくまる上条を交互にみた。
一瞬間をおいてから、顔を赤くして自分の胸を押さえて視線を逸らす神裂。
理不尽(と思う)な鉄拳制裁が落ちると思った上条だが神裂は黙ったまま赤い顔を逸らしている。
『・・・神裂のやつ、さっきの公園からなんか雰囲気が違うような?』 
ポヤ~っと神裂を見上げる上条。
そんな様子をみた美琴が上条の右手を強引に引っ張りよせた。
「こっ、コイツの傷はわたしが洗うから、おねえさんは消毒薬とか包帯とか用意して!」
「えっええ、そっそうですね、服が濡れずに助かります」
「えっ、服着て入るつもりだったの?」
ドス、ガブ
今日の二人のコンビネーションは最高だ。

神裂は以前、五和が買い置きしたはずの救急セットを探しはじめた。

「さささっ、さてっ、アアアンタ、服を脱がせるから、かかか覚悟しなさい」
美琴の言動にちょっと引いて。
「御坂さん言動が怪しいんですが・・・
おまえ、なんか無理してないか?
そうだインデックスに手伝ってもらえば・・・」
堂々と胸をそらして美事の前に立ったインデックスは、
「そうなんだよ、一回見られてるから、逆にとうまの裸なんか見たって全然へい・・・・」
と言ってしまってから、自分の言動に顔を真っ赤にして部屋の端まで後づさってしまった。
後ろを向いてもじもじしているインデクスと上条を交互に見て。
「あああんた、このちっこいのとやっぱりなにか・・・犯罪のにおいがする・・・」
「ちょっ、いっインデックスさん、なにかカン違いしていませんか?(当麻記憶喪失中)
上条さんは潔白です。純心無垢な上条さんにそんな行為が出来るはずがないじゃないですか!」
何の根拠もない言い訳をするが、インデックスは自分の発言に動揺して聞いてないようだし、美琴も聴く耳もたない。
「だーっ、なんだその犯罪者を見るような視線は!上条さん清廉潔白ですっ」

美琴は、神裂とインデックスをチラリと見る。
二人には大きな差を付けられているような気がした。
なにか、疎外感を覚える美琴だった。

「ふう、まったくアンタは・・・まあいいわ(よくないけど)取りあえずボタンを」
「そうだな、だけどお前も左手ふさがってたら不便だよな
別に手と手じゃなきゃいけないって分けじゃないし・・・
といっても服の上からとか、髪の毛越しに頭とか不安要素が残るしな
・・・やっぱここしかないか」
と言うと、上条は美琴と向かい合い、美琴のほっぺたに右手を移動させた。
『えっ、えええええ』
男女が向かい合って見詰め合う、男が女の頬に優しく手をそえる。
自然と二人の顔は近づいて、その唇が・・・
などと最近よんだ恋愛小説を思い出して美琴は顔を真っ赤にさせる。
一気にてんぱってしまった美琴に
「御坂?どうした?」
「はっ、はい」
思わず大きな声で返事をしてしまった。
「そっ、そうボタンねボタン、
あっあれ?あれれ、うまく外れない・・・」
すっかり動揺してしまった美琴はボタンを外すことができない。
「お前、結構ぶきっちょ?」
「そんな分けあるか!まってなさい、すぐにちゃちゃっと」
だが、なかなか外すことが出来ない。
美琴は一生懸命ボタンを外そうと、上条にこれ以上ないくらい接近してしまった。
ようやく一つ目のボタンを外したが。
「みなさい、ちゃんと外れ・・・」
と顔を上げると、上条の顔が直ぐ目の前にある。
もう顔から火が出そうだった。


「短髪、さっきからいったい何をやっているの?」
いつのまにかが戻って来たインデックスが、ずいっと美琴につめよる。
「ただボタンを外しているだけには見えないかも!」
美琴にジト目を向ける。
「ばっ、馬鹿言ってんじゃないわよ、
それ以上のなにがあるっていうのよ!!!」
そう叫んだ瞬間手に力が入ってしまった。
ぷちぷちぷち
「あっ・・・」
「御坂、おまえなにをやっているんだ?」
上条のシャツのボタンは全て宙をまった。
「っま、これはその・・・ははははっ・・・いやたまにはこういう事も・・・・
・・・ごめん。あとで付け直す。」
「おまえなぁ・・・まぁいいや、とりあえずシャツとTシャツを脱いでっと」
素早く美琴から手を離したり付けたりしながら上を脱いだ上条。
「・・・・」
美琴は上半身裸の上条を見て、今更ながらドキッとした。
しょっちゅう命がけのトラブルに巻き込まれて体を酷使しているせいか、結構引き締まった体をしている。
それに、上半身だけとはいえ男性の裸を、こんな至近距離で見るのは初めてだ。
「あのー、御坂さん、そろそろズボン脱ぎたいんですけど、その視線をどうにかしてもらえませんでしょうか?」
ぽや~っと上条に見とれてい美琴は、
「えっ、そっ、そうよね、目をつむればいい?」
「おまえもだインデクス、ってなんでお前は俺のズボンを脱がそうとしているんだ」
上条のベルトをカチャカチャやっているインデックスの頭にチョップを入れた。
「うーっ、短髪だけ当麻の服を脱がすなんて許せないかも。」
チョップに涙目になりながら訴えかけるインデックス。
「おまえ、いま結構、いやかなりやばい行為を行なっているんだけど自覚はある?」
上条の言葉にはっとなり、顔を赤く染めるインデックス。
「とっ、とうまのえっち」
「なっ、おまえ自分で!」
などと言っていると。

「あああ、あなあなあな。あなたたち何やっているんですか!」
神裂が救急セットをもって悲鳴のような声を上げた。
ベルトに手をかけたインデックスは上条と美琴の間にむりやり割り込んでいるので上条にペッタリ状態、しかも作業しやすいように膝立ちで顔の位置は・・・。
さらに後ろから美琴が押付けているように見える。
「いけません、そのようなことは!」
と神裂がインデックスを上条から引き剥がそうとした時、上条さんの不幸体質が・・・。

事態はスローモーションのように感じられた。
交通事故の当事者が感じるのと同じように。

引っ張られたインデックスはとっさに上条のベルトを掴む。
ぬけるベルト
すとんと落ちるズボン。
『大丈夫、もう今となってはトランクスタイプのパンツは見られること前提。』
と、上条の甘い思考もスローモーション
体ごと引っ張られたインデックスの足が美琴の足にヒット。
転倒する美琴
思わず上条にすがりつく美琴
美琴を支える上条の左手
右手は美琴の左手に移動
美琴の右手はあいてしまった
あいた右手で、思わず上条のそれを掴む美琴
上条の両手は塞がっている
どうすることもできない
倒れこむ上条と美琴
呆然と見守るインデックスと神裂
一瞬の静寂。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「あっ、あの・・・」
「「「いっっっやーーーーーっ」」」
三人の絶叫
「ふっ、不幸だ・・・」
もう叫ぶ気力もない。




[21546] 美琴の憂鬱~上条さん、あんたって人は
Name: sig#◆48de1ae3 ID:30b0a50e
Date: 2010/10/02 03:04
傷だらけだというのに更にダメージを受けた。
精神的にも、肉体的にも。


「いっ、いてててっ」
などと喚いている上条は、いま御坂美琴とバスルームにいる。
ちなみにインデックスは、なぜか一人神裂に先ほどの所業について説教をくらっていた。
(しかし、いかに聖人といえども10万3千冊の知識相手に説教はままならず言い争いの様相を呈していた)

美琴はぬるめのお湯で上条の傷を丁寧に洗ってくれている。
念のためことわっておくが、美琴は制服のままだ。
上条はトランクスタイプのパンツを履いたまま、更にその上にタオルをかけ、バスタブのフチに腰掛けている。
右目の下あたりがうっすらと紫色に変わっているのは美琴のストレートが直撃した痕だ。
「ふうぅぅぅ~ああ、不幸だ・・・」
どんより空気を身にまとう上条に
「まっ、まあ、そんなに気にする事ないわよ。
はははは・・は」
美琴はあきらかな作り笑顔でこたえる。
「・・・ああああっもう、悪かったわよ、その・・・
殴ったのも・・・その・・・みちゃったのも」
一応、謝ったつもりの美琴だが、ほんのりと頬を染めるだけで上条とは目を合わせることもできない。
「もう上条さんはお嫁にいけません。
ガラスのように上条さんのプライドは粉々に砕け散ってしいました。」
なんの抑揚も無く呟く上条。
「もうっ、見たこっちの方がショク大きいわよ、だっ大体そんな変なものが付いていたわけでもないでしょうに」
「なっ、なんですか今の問題発言は!
まっ、まさか誰かのと比較しておっしゃっているのでせうか!
ますます上条さんのプライドは風前の灯となってしまいますよ」
「わあぁーーーっ、何を口走ってっんのよ!
アンタの以外、誰のをみるってのよ!!!」
「俺の以外は?」
「そうよ、アンタの以外は見な・・・あれ?」
会話がとまった。
お互いを見詰める。
みるみる美琴の顔が真っ赤になっていく、もうこれ以上ない位に。
心臓が破裂しそうで、上条から距離を置きたかったが、手を離すと能力が暴走してしまうのでそうも行かない。
上条から視線を外し、そっぽを向きながら
「べべべっ、別に、アアアンタのなら見てもオオOKとか、また見たいとか、そそそういうことぢゃないんだからねっっ」
「み、御坂おまえ・・・」
「ななによ」
そーっと、視線だけを上条に向ける。
「おまえ、まさか・・・」
ドキッとした。
『えっ、えええっ』
まさか、当麻が言わんとしているのは。
顔がますます熱くなる。
『ままま、まさかまさかまさか』

「おまえ、案外えっちなん・・・・」
バキッ
こんどは左目付近に美琴のパンチがヒットした。

上条の傷をあらかた洗い終えた美琴は無言で使用したタオルを洗っている。
その頬はこれ以上ないくらい膨らんでいる。
「あの・・・御坂さん何がそんなにご立腹で・・・」
「なによ!」
「ひっ」
上条に向けられた目はかなり釣りあがっているように見える。
「おまえ、それって世に言う逆ギレってやつだぞ。まったく」と呟く上条に
『なによ、人の気もしらないで・・・』
と心の中で呟いた。

タオルを絞ったところで、全作業終了である。
少し気持を落ち付かせた美琴が、ためらいがちに言った。
「あのーさ、わっ私もシャワー使いたいんだけど」
もう、まる一日体を洗っていない。
しかも、いろいろ有りすぎて、汗でべとべとだわ、ほこりまみれだわで、とても女の子として許容できる状態ではない。
もう、我慢も限界なのだ。
一大決心をして、上条に言った言葉に帰ってきた返事は、
「おう、いくらでも使ってくれ」
・・・・・・・
「・・・あんた、意味分かってる?」
ふう、とため息をついた美琴が一応の確認をした。
「その・・・、シャワーを使うってことは、体を洗うってことで、その為には服を・・・その脱がないと・・・」
さっき気持を落ち着けたはずだが、また顔が熱くなってきた。
「そっ、それは見られてしまった上条さん対するお詫びの印がはいって・・・ブギャッ」
炸裂する御坂チョップ
「そんなわけあるか!アンタは目をつむったまま、バスタオルで顔ごと目隠しをしなさい!
いい、ぜっっっったい見るなっ!
男と女じゃ見られる重みが違うんだからね!」
と釘をさす美琴だが、能力が暴走してしまう以上、上条の右手が届く範を出るわけにも行かない。
やっぱり、緊張は隠せない。

服を脱いだ美琴は上条の右手を肩に乗せたままシャワーを浴びた。
当然上条にもシャワーがかかる。
いまさらながら、女の子と一緒にシャワーを浴びていると言う事実を実感してしまった。

で、こんなイベントに上条の不幸体質が影響しないわけが無い。

固形石鹸派の上条さんちのバスルームには当然数センチ角の平たい石鹸が置いてある分けだが、美琴はというと固形石鹸など使ったことがない。
まあ、固形石鹸が絶滅したわけでもないので実物を見たことがないとか、存在を全くしらないわけではないので、使用方法はわかる。
しかし、石鹸は濡れるとすべるのだ。
不用意に濡れた石鹸を掴んだ美琴は石鹸をツルっと落としてしまった。
反射的に石鹸を拾おうとして屈み込んだ美琴の肩から上条の右手が離れてしまう。
美琴的には、すぐに立ち上がって元の姿勢になれば問題なし!のはずだったが、目隠しをした上条はパニックだ。
暴走した電撃が襲ってくるはずである。
こんな、水だらけの場所で電撃などとんでもない話だ。
あわてて手を振り回して美琴の位置を探る。
しがし、“この時”の心配は杞憂に終わった。
・・・だが。

上条の手が再び美琴に触れた。
どうやら短時間だったため、再暴走することは無かったようだ。
が・・・右手の感触が肩に振れた時と違う。
なにか、こう、柔らかい。
「あれ?」
などと思いつつ、感触を確かめる為にニギニギしてしまった。
「やっ」
美琴の短い悲鳴が聞こえた。
いつもなら電撃、少なくともパンチが出るはずなのだが、この緊急事態に至って女の子らしい反射行動がでてしまった。
体を引いて上条の右手から離れようとする美琴
自分の所業に気付いていない上条は、さらに美琴を追い求め一歩歩み出る。
そして足元には美琴が再び取り落とした石鹸が・・・。

ガッシャーン
上条は美琴を巻き込みながら盛大に転んだ。
もう、シャンプーの容器やら、オケやらイスやらも巻き込んでそれはもう盛大に。
「いててて」
上条は美琴に覆いかぶさるように転んでいる。
顔を上げた上条の目には真っ赤に成った美琴の顔が映る。
目隠しにと巻いていたバスタオルは外れてしまっていた。
そして、あの柔らかい感触がまだ右手に残っている。
なにかよく分からないうちに右手を動かしてしまった。
ニギニギ
「あっ、んっ」
美琴の口から出た声は以外にも艶っぽかった。

美琴の声にキュンとなりつつも
ようやく事態を飲み込んだ上条。
「み、御坂さん、これは紛れもなく不可抗力でして・・・」
言い訳をする上条にたいし、美琴は何も言わずただただ顔を赤くして潤んだ瞳で見つめる。
なぜだろう、抵抗どころか身じろぎひとつ出来ない。
「み・・・」
上条が名前を呼んだ気がした。

そのとき、突然バスルームの扉が開いた。
転倒の音を聞いたインデックスと神裂だ。

「「・・・・・・」」
糾弾はなかった。しかし
バキ、ガブ、ドス、ゴキ
そんな音とともに再度ダメージを受ける上条。
そんな事態に悲鳴を上げるタイミングを失う美琴であった。

悲鳴を上げようと思ったのも、こんな所をこの二人に見られたからなのかもしれない。
上条と二人きりなら・・・
『なにを考えているんだ!わたしーーー』
自分の思考に悶絶する美琴であった

「ふっ、不幸だ」
上条の口からいつもの台詞がでた。
はたしてこれが不幸であるのか。
土御門や青髪に聞いてみたいところではある。



[21546] 美琴の憂鬱~上条さんちの食卓
Name: sig#◆48de1ae3 ID:30b0a50e
Date: 2010/10/03 20:45
なぜだろう、腹は立たない。
たとえば、とある科学者の女性がアイツの前でシャツを脱いだ時には憤りを感じた。
今回は自分の事だというのに・・・

美琴はポヤ~っと上条を見詰めながら食事をしている。
いや正確に言うと、食事をしているのは美琴ではなく上条だ。
さっきから、美琴はずっとこんな感じである。
先程のバスルームでのハプニングを責める様子もない。
いつもと違う美琴に、逆に緊張を強いられる上条。
そんな二人を見詰めるほか二名の視線にも、痛さを感じる。


4人はテーブルを囲んで神裂のつくってくれた朝食を取っている。
定番の一般家庭の朝食メニューである。
ご飯に味噌汁、焼き鮭に目玉焼きと簡単なサラダ、筑前煮とキンピラごぼうなんかもある。
こんな、工夫の余地さえ無いようなメニューであっても、天草式十字凄教の女教皇はその腕前を遺憾なく発揮していた。
筑前煮なんかは、上条が作り置きしていた物の味を調えて暖めただけではあるが、まるで別の料理のようだった。
五和といい・・・なにか、天草式十字凄教には料理に対する特別なカリキュラムでもあるのだろうか?

「かっ、上条さんの味付けにまだこんなに改善の余地があるとはっ!」
と、場の雰囲気を変えようと発言した上条だったが、テーブルに会話はない。
「・・・・・・・」
インデックスなんか、上条からまったく目を逸らさないのに(当然ジト目)、器用に食事だけはたいらげていた。
『おかしい、五和がご飯を作ってくれた時は、瞬時に機嫌回復したというのに・・・』
さらに隣に目をやると、神裂さえもこちらを睨みつけている。
『ふっ、不幸だ・・・』
何故だろう、インデックスは上条と彼女が短髪と呼んでいる女子中学生が話しをしていると、機嫌が悪くなるフシがあった。
だが、今回のお怒りは相当なもので、ご飯を咀嚼する時にも、上条に噛み付きアタックを敢行するのでは?と思わせるほど、歯からガチンガチンと音が聞こえてくる。
それにだ、神裂もだ、機嫌が悪すぎだ。
まあ、裸の中学生を押し倒している(ように見えた)場面を目撃し、インデックスに与える教育的影響なんたらで、上条に一時間近くお説教をした後なのである。
すぐ機嫌が良くなっても気持ちが悪いのだが・・・。

「あの、神裂さん、おかわりを頂けないでしょか?」
ダン
神裂は持っていた箸を逆手に持ち直すと、テーブルに打ち立てた。
「ひっ」
・・・立った。木の箸が。垂直に。
だが特筆すべきは箸が立ったことではない。
恐らくテーブルに刺さっているのだろう。
しかし
上条さんちのテーブルはガラス製なのだ。
箸は刺さっているが、そこ以外にはヒビ一つない。
『なっ、なにゆえに・・・』
アングリと開けた口を閉じることも出来ない。
なにか言いようのない悪寒を感じた上条である。


それでも神裂は、おかわりをしてくれた。
だが、差し出した茶碗は上条にではなく、直ぐ隣に座っている美琴が受け取った。


・・・・・・・
それは食事を始めたときのことだった。
上条は左手で箸を持ったのだが、箸という物はどうにも利き手以外では使えない。
ボロボロとこぼしまくっていた上条を見かねた美琴が
「あっ、あのさ、食べるの手伝ってあげる・・・。」
ポヤ~となっている美琴が、虚ろな瞳で上条に言った。
いつものノリで軽く言われたら、軽く断ったところなのだが、何故かその雰囲気に、何かしらの重みを感じてしまった。
そして
・・・・・・・・

「はい」
「ぱく」

まったくもって、インデックスと神裂はご機嫌斜めだ。
美琴はというと、頭がポヤ~となっていてあまり二人の視線を意識できていない。
上条の口におかずを運ぶことに、なにか癒しを感じてしまっていた。
ちなみに二人には、自分たちが新婚さん紛いな行為を行なっている自覚はない。

「あれ?御坂は食わないのか?うまいぜ。」
「えっ、わたし?」
美琴は持っていた箸をみた。
上条の口におかずを運んだ箸。
美琴は、その箸をみたまま固まってしまった。
『かかかか、間接・・・・』
唐突に意識してしまった。
さっきまでぽや~っとしていた意識が鮮明になってくる。
「そっ、そうね、いっ、いただこうかしら。」
緊張して振るえる手を伸ばす。
鼓動が早くなる。

しかし、その箸を見ていたのは美琴だけではなかった。

カチッと鯉口を切る音が・・・。
美琴がキンピラに箸を伸ばそうとした瞬間。

キン

一瞬の金属音
テーブルの上に2センチくらいの細い棒が落ちた。
箸の先端が落ちたのだ。
美琴が箸の先端をみると、真平らになっている。
鋭い刃物で切られた証拠だ。
「・・・・・・」
心当たりはあった。
それはエロくてデカイ(イロイロと)、凄くえっちなメイドさんこと、神裂火織というおねえさんだ。
美琴が見たときには、すでに鯉口まで“七天七刀”を納めているところだった。
目にも止まらぬ抜刀術・・・。
ぬるくなっていた意識が唐突に鋭さをます。
「あっ、あんたは・・・」
美琴が神裂を睨んだ。
だが睨まれた神裂は平然と食事を続けている。
『・・・ムカッ』
一瞬、動きを止めた美琴であったが、次の動きは速かった。
短くなった箸でキンピラをつまんで上条の口に押し込める。
箸ごと、口の奥まで。
「むがむが・・・」
なんの前フリも無く無理やり口におしこめられた上条だったが、なんとかそれを飲み込んだ。
返す刀、いや箸で素早くキンピラをつまんで自分の口に運ぼうとした箸の先端が、再び切り落とされた。
ぽとっ、と落ちるキンピラと箸の先。

ぷるぷると震える美琴。
もう一度、さっきより速く可能な限り素早く、短く切られた箸を伸ばす。

キン
こんどは箸の先端がおかずに届くまえに切り落とされる。

・・・カチン
この音は、どうやら美琴のコメカミあたりから発せられたようだ。
「なっなによ、自分は無理やりしたくせに・・・」
「あなた、すこしふしだらなのでは?」
こんどは神裂も美琴を睨み返す。
一触即発の雰囲気。

「はい、とうま、あーんして」
「あーん、ぱく」

「「!」」
美琴と神裂は同時に上条達を見た。

インデックスは、上条があーんした箸で当然のように、キンピラを取って自分の口に運ぶ。
「おいしいねー、とうま♡」
いつのまにか、インデックスの機嫌はなおっていた。
いや上機嫌だ
「うん、うまいな、
上条さんの味付けとは一線を隔す。
これは研究を要する・・・
って、おまえ箸使えるようになったんだ。」
「そうだよ、こもえが日本人のココロがどうとかで、デントーがなんとかで、もう特訓だったんだよ」
「おー、そうかそうか、ようやくお前も人の教えを請えるようになったのか、上条さんはうれしい!」
「・・・とうま、いま何気にバカにしなかった?」
「いいえ、とんでもない、上条さんは純粋に喜んでいるんですのことよ。」

・・・自然だ。

余りにも自然な展開の二人に、呆然とする美琴と神裂。
「「ふう・・・」」
二人は再び目を合わせ、同時にため息をついた。
神裂の不満はプシューと消えていった。
どうもインデックスが絡むと力が抜ける。

だが、レールガンの怒りは消えない。
いや、怒りの方向が変わった。
何気ない動作で美琴のエルボーが炸裂する。
ボクシングでいうとバッティングである。
「・・・・・・」
声も出せずにわき腹を押さえ悶絶する上条。
そう、美琴の不満は全て上条に向けられた。
『いったい、なにゆえに・・・・』
いつもの美琴らしくはあるのだが、上条の気持は複雑だった。

今日も上条は不幸・・・なのだろうか?



[21546] 美琴の憂鬱~おやすみ、とうま。
Name: sig#◆48de1ae3 ID:330d91ac
Date: 2010/10/15 20:32
「・・・ねむい」
お腹が膨れたら眠気が襲ってきた。
胃に食物が入ると、消化のため胃に血液が集まり、脳への供給は減少・・・
などと一般的なことではない。
そう、一般ではありえない出来事。
神の子と同義の力を行使する“聖人”と渡り合い、学園都市に7人しか居ないレベル5の超能力者、その第3位、御坂美琴の暴走を止める(現在進行形ではあるが)という、魔術サイドでも科学サイドでも、おおよそ不可能と思われる事だ。
タダでさえ、通常では考えられない疲労が蓄積されている上に、昨晩は寝ていない。
そして、ちょっとした(いや、かなりの)ドタバタがあったとは言え、ここは自分の部屋だ。
安心感がある。
睡魔が襲って来る条件としては十分すぎる。
「わたしもそろそろ限界「だわ」「かも」」
美琴とインデックスも、一睡もしていない。
美琴にいたっては、暴走は結構体力を消耗するってことを実感していた。
「「「ふうぁ~~~っ」」」

そんな様子を見ていた神裂が言った。
「では、ちょっと仮眠をとってください。
彼女の暴走の件について相談できる教師とやらには午後にでも会いに行ってください。」
神裂の言った“相談できる教師”とは、ある都市伝説の元となっていると思われる奇跡の女性、外見とは裏腹に頼りになる女教師である。
勿論上条の提案である。

眠気で、ぼ~っとなりそうな美琴であったが、
考えてしまった。
『寝る?
寝るのよね、もう限界だし
寝る、ねる、ネル・・・
?????
えっ、えええええ?
ちょ、ちょっと待ってよ、手繋いだまま・・・
寝る?一緒に??』
考えてしまったら、もう眠気なんて吹っ飛んでしまった。

暴走した能力を抑える為に、上条と美琴はいまだ繋いだ手を離すことが出来ない。
何度か試してみたのだが、手を離すと数秒で暴走が再開する。

美琴は昨日から、もうどの位ドキドキしたか分からない。
そっと上条の顔を覗き込む。
上条はもう半分、夢のなかのようだ。
ふと視線をスクロールさせると、すでにテーブルに突っ伏しているインデックスがいる。
もう少し視線を流す。
そこには、だまって上条を見詰める神裂がいる。


神裂火織は聖人である。
その強大な力であの子を、あの少年を守ろうとした。
しかしあの少年は戦いに飛び込んで来た。
実際に守られたのは神裂だった。
いかにイマジンブレイカーを持っていようと身体能力においては普通の高校生の上条が、敵の聖人と神裂の間に割って入ったのだ。
それは無謀なことだったのだろう。
そう思った。
しかし嬉しいとも思った。
命を掛けてまで自分を守りたいと思ってくれる少年が居ることを
神裂はだれかを守る事はあっても守られるという経験が極端にすくない。
そして、もう一つ。その少年が生きて日常に戻ってくれたことがとても嬉しい。


美琴は思わず視線を止めた。
神裂がウトウトとする上条を見て微笑んでいる。
何人(なんぴと)へも救いの手を伸ばす神の子と見紛わんばかりの暖かい笑顔で。
この女性は、昨晩から上条にはあまり笑顔を見せていなかったような気がする。
あんな行為をしてしまう相手に対してだ。
インデックスと呼ばれる少女には時折微笑んで見せてはいた。微笑めない人ではないようだ。
その微笑みは今、半寝状態の上条に注がれている。
何人(なんぴと)ではなく上条の為だけに。
美琴は何もかもを優しく包んでしまいそうな笑顔をみて、
『この人、こいつの前で笑わないなんて・・・
なんか・・・無理してる・・・』
チラリとテーブルでのびているインデックスを見る。
神裂は、自分は上条の恋人ではないといった。
上条には思い人が居るとも。
しかし、上条を見詰める神裂の視線には特別なものを感じる。
『あのキスは本気だった・・・』昨晩の事を思った。
その行為を神裂は“作戦”だと言った。
到底信じられない。
あの後の上条との会話を聞くと、本当にファーストキッスだったのかも知れない。
「わたしだって・・・」
『あれっ、わたしだって・・・なんだろう』
小さく呟いた言葉の後に、どんな言葉を繋げたいのか自分でも分からなかった。


それまで船を漕いでいた上条は突然に
「上条さんは寝ます。おやすみなさい」
と言うと、美琴を引っ張って立ち上がった。
「ちょちょちょっ、ちょっと待ってっ、
こっ、心の準備がって、あれ?
なんでアンタはバスルームに入ろうとしているのよ!」
「おやすみ~とうま」
「・・・って、あんたは何で当然のようにコイツのベッドに?!」
「うん?だっていつも・・・」
「いっ、何時も?」
上条の右手をグイッと引っ張る。
「あああ、あんたヤッパこのちっこいのと!!!!」
「・・・そういう短髪は、お風呂でとうまの寝込みを襲うつもり?」
半分閉じかかった瞼ではあるが、インデックスは確かに美琴を睨んでいる、結構怖い。
「なっ、なななにいってんのよ、
だいたい、襲われるとしたら私の方だって!
さっきだって・・・さっきは・・・その、あれは、抵抗できなかったというか、なんというか・・・・」
もう何を口走っているかわからない。
聞かれていないことまで喋っている気がする。

『とっ、とうまの身に危機がせまっている・・・』
インデックスの余裕も結構危うい。
額につめたい汗を感じた。
「とっ、とうま、きょきょきょ。」
インデックスも勇気をふりしぼった。
「きょ?」
「きょっ、きょうは、とっ隣にねねねね寝てもいい・・・かも」
いつのまにか、顔を真っ赤にしていた。
べつに、こんなに人口密度(4人だが)の多い部屋でなにか起こる分けでもないが、女の子にとって男性と同じベッドに横になるというだけで大事件である。
「えっ?」
上条は、インデックスがいつもベッドの隅で寝ていることを知っている。
そう、空いているその場所は上条の場所なのである。
だが、インデックスだって、そんなことは言わないし、実際上条が本当に潜り込んでくるなんて思っていない。
だけどそこはとうまの場所なのだ。
上条もそんなインデックスを見詰め返した。
「インデックス・・・お前・・・」
「とうま・・・」
互いに見詰め合う二人。
   ・
   ・
   ・
『えっ、ちょっ、ちょっと、
私は?私のことは完全スルー?
いや、ちょっと待って、お願いだから』
動揺する美琴
   ・
   ・
   ・
「じゃ、お前あっちな!」
などとインデックスに対し、バスルームを指差す上条。
ビキッ
インデックスのコメカミから不穏な響きの音が聞こえたような気がした。
「とうまは、短髪と二人でベッドに入るつもりなのーっ」
そう言われた上条は繋いだ右手をみた。
次いで美琴の顔をじっとた見た。
ボッ
見詰められた実琴も赤くなる。

美琴のパンチとインデックスの噛み付きは同時だった。

結局のところ。3人でベットに入った。
実琴とは右手を繋いだまま、インデックスも遠慮がちに左手を掴む。

少しの間こそ鼓動が高まったものの、直ぐに睡魔が襲ってきた。
もう限界を超えたところでギャーギャー騒ぎすぎたのだろう。
まるで修学旅行の一晩目のように突然眠りに落ちた。



二人より少し長い時間起きていた美琴は、部屋の隅で日本刀を抱えて座ったまま、黙ってこちらを見ている神裂に話しかけた。
「ねえ、おねえさん・・・・
本気に・・・ならない・・・と・・後悔・・・・す・・・・」
全てを語るまえに眠りに落ちた。
美琴だって、寝言のような自分の発言を覚えてなんていないだろう。



「本気・・・ですか・・・・」
神裂は、インデックスを見詰めていた。




[21546] 美琴の憂鬱~街角で
Name: sig#◆48de1ae3 ID:30b0a50e
Date: 2010/10/30 20:28
「行ってきます」
上条と美琴は、部屋を出た。
上条の担任は、電撃系の能力については専門ではないが、能力の根源となる法則、パーソナルリアリティなどについて造詣が深い。
女性であることも、美琴の暴走について相談するには良いと思う。
一応、常盤台中学なら優秀な教師もいるのでは?という提案には、
「こんな状況で学校に行ける分けないじゃない!
特に寮監の教師には絶対知られる分けにはいかない!!」
と美琴に猛反対されて却下となった。
レベル5が暴走したらどんな事態になるか。
それを考えると暴走者には、執拗なカウンセリングとか精密検査とかに名を変えた軟禁生活が待っているに違いない。
もっとも美琴の言った“現状”とは文字通り今の状態である。
「レベル5も大変だなー」
などと呟く上条にため息をつく美琴だった。
『コイツぜんぜん分かっていない・・・』

そんなこんなで、月詠小萌先生のアパートを訪ねることになっている。
今だに惰眠をむさぼるインデックスは連れて行かないほうが賢明だろう。
あとで噛み付き攻撃に曝されるかも、いや確実に噛みつかれるだろうが、なにかと美琴に食って掛かるインデックスは連れて行かないほうが平和的に行動できると考えた結果だ。
インデックスを神裂に任せて、二人は階下につながる階段に向かった。

美琴は洗濯され綺麗にアイロンを掛けられた制服を着ている。
神裂が「女の子の身だしなみは、特別な意味がありますから」
などといい、アイロンを掛けておいてくれたのだが、
美琴は何故か不満だったらしく、一応のお礼を言った後に「そんなこと自分でやるわよ、ったく」などと小声でブツブツ呟いていた。
女の子の機嫌の起伏原因など上条にはさっぱり分からない。
今日は日曜日なので上条は私服で構わないのだか、なんとなく美琴にあわせて制服を来ている。
その制服のYシャツにもキチッとアイロンがかけられていた。
ほんのちょっとした出遅れ感に美琴はため息をついた。
『コイツのシャツだって本当は私が・・・・』

部屋を出て数歩しか歩いていないというのに。
「ういーっ、上条当麻・・・って、御坂美琴が何故ここに!」
「つ、つつ土御門舞夏・・・何故ここに!」
突然呼びかけられた美琴は驚愕のあまり一歩下がった。
「質問を同じ質問で返すとは、常盤台のおねーさまも落ちたもんだなー。
わたしは時々、隣の兄貴の部屋に遊びにくるのだー」
「あっ、あにきって、あのどろどろの関係の!」
「なにを口走っているんだ。
それは愛読してるマンガの話で実際兄妹とは、クールなもんだぞー」
「そうか?お前の兄貴は案外・・・」
ベキッ
舞夏がなにをしたか分からないが上条の発言は途中で止まった。
うずくまる上条。

「そんなことより・・・」
上条の言葉を途中でさえぎった舞夏の視線は上条の右手と美琴の左手を凝視している。
「これはー」
「うっ」
どんな突っ込みがくるかと身構える美琴。
だが
「みさかー、このことは妹には内緒にしておくから、今度なんかおごってくれー
じゃーなー」
などと言うと、そそくさと行ってしまった。
「・・・・妹って、シスターズ?
あんた!妹ってなによ!よく来るの?」
「いや、たまーに状況報告に来るんだよ、
まあ、お茶もしないで帰っちまうんだがな」
「そっそう、そっか、ああそうなんだ、何もないんだ、何にもね、なにも・・・はは、ははは」
なにか、急に美琴の機嫌がよくなった。
「じゃぁ、行きましょうか!」
上条は美琴に引っ張られるように学生寮の外へでた。

街を歩く二人
美琴はちらっと上条の顔をみる。
取り立てて、手を繋いで外出することを意識している様子はない。
『何の反応もないって・・・なんか腹立つのよね。』
美琴は思い出していた。シスターズにこんなことを言われたことがある。
“お姉さまは何処までも素直になれないのですね・・・”と。
『”素直に“ねぇ』
視線をおろして繋いだ手を見る。
急に意識してしまった。
ちょっと緊張する。呼吸が早くなっているのがばれないかと更に緊張する。
『あーっ、躊躇するなんて私らしくない!』
思い切った。
一瞬手を離して繋ぎ方を変えた。
それまで握手のように指をそろえて握っていた手を、相手の内側から指を絡めるように握り変える。
当然互いの腕は交差し、距離が縮まる。
美琴はさらに思い切って、自分の体を上条の腕に押付けた。
「!!」
上条の体が一瞬で固まる。
それまで、上条だって意識していなかった分けではない。
だけど中学生相手に動揺しているところなんて見られたくなんかない。
平気なフリをしていただけなのだ。
20世紀中頃のロボットのよう、にぎこちなく美琴に向かって首を回した。
「みっ、御坂さん。これは一体どういう作戦なんでしょうかッ」
完全に動揺した。かなりの失言だ。
しかし、
ここまでやったんだから、上条だってその意味を理解できる。
なんて事を、美琴は思っていない。
ただ、もっとギュッと手を握りたい。
距離を縮めたいと思っただけだ。
美琴だって冷静だったら、“作戦”なんていわれて拳が飛ばないはずがない。
美琴は自らの行為に、首筋まで真っ赤になっている。
視線を上条に向けることなんて出来るはずも無い。
いつもの憎まれ口だって出てこない。
ただただ、下をむいて上条に身を寄せているだけだ。
「御坂?」
無言の美琴に疑問形で呼びかける上条に対し。
「いっ、いいの、私がしたいだけなんだから・・・」
ちょっと、いやかなり小さい声で言い返した。
「そっ、そうか?」
上条もそれ以上のことは聞かなかった。

次の曲がり角を曲がれば小萌先生のアパートがみえる。
と、不意に交差点を直進してきた人物とニアミス。
接触はしなかったが至近距離で止まった。顔と顔の距離25cm!
カッと顔を赤くするその人は上条の良く知る人物だ。
赤くなった顔は照れているのか、激昂しているのかイマイチ判断できない。
「あれ、吹寄。なぜにこんな所に?
しかも日曜なのに制服でなにを・・・・おわっ!」
一発目のパンチを辛うじてかわす上条であった。




[21546] 美琴の憂鬱~吹寄スペシャル
Name: sig#◆48de1ae3 ID:30b0a50e
Date: 2010/10/24 21:07
「上条当麻!貴様なぜミーティングに来なかった!」
上条の正面からビシッと指をさす吹寄。
「みーてぃんぐ?」
「今日の午前中に学校で、一端覧際のミーティングをすると言ってあっただろうが!」
「あっ」
上条の額から一筋の冷たい汗が流れる。
「貴様忘れていただろう!」
放たれた二発目はフェイントだった。
吹寄は正拳を突き出したまま上条の真横を通り過ぎ背後にまわる。
次の瞬間、左足を絡め右脇の下から首に腕を回した。
「ウガッ」
見事に決まったコブラツイスト。
「記憶力向上にはレシチンだ!ピーナツを食らえ!」
「むぐぐ」
コブラツイストを極めたまま殻付きのピーナツを上条の口いっぱい詰め込む。
本当はDHAを推したい吹寄だが、生魚を持ちあるく訳にはいかない、さりとてサプリメントで手軽な栄養摂取は好まない。
今日は妥協してピーナツのようだ。
「姫神が貴様と一端覧祭を回りたいというからスケジュールを調整しようと思ったのに!
貴様はずっと留守番だ!」
「だーっ、いたたたたっ、ごめんなさい
悪かった悪かったです吹寄さん!
ですが上条さんも突発的トラブルに巻き込まれて、それどころではなかったのです!!!」
口のピーナツをボロボロと落としながら言い訳をする。
「貴様は一端覧祭のミーティングを、それどころとかいうかっ!」
『はいっ、それどころではありません吹寄さん、
背中になにか柔らかいものが当たっていて・・・』
そんな事を意識してしまうともう会話にならない。
「・・・・・・・・」
「上条?どうした?」
突然黙りこむ上条に、ちょっとやりすぎたか?と少し力を抜いて声をかけた。
黙っていれば良いのだが、上条は意外と真摯なのだ。
「吹寄さん。落ち着いて聞いてくださいネ。
その・・・さっきから背中に不穏な感触が・・・」
「・・・・・」
吹寄は絡まったまま上条の背中・・・と背中に密着した胸を見下ろした。
「!!」
落ち着いてなどいられない。
「きっ、貴様というヤツは!」
「ギャーーーーッ
落ち着いて聞けって言ったのにー」
全力をで上条を締め上げる吹寄。
もう、頭に血が昇っていた。
更に強く胸を押付けている事実さえ意識からすっ飛んでいた。まさに前後不覚。
その顔は明らかに赤く染まってはいるが、またしても照れているのか激昂しているのか分からない。
「だっ、大体!不穏な感触とはなんだーーっ」
もう何を口走っているかさえ分からない。
「ふっ、吹寄さん!、突っこむところは、そこではありませんのことよーーって、いたい、いたいってーーー」
ギャーギャーさわぐ二人は、直ぐ近くで発せられた不穏な雑音に会話を止めた。

バチッ、バチバチッ

「?」
常盤台中学の制服を着た女の子は、ちょっとむくれ気味のご様子。
余りの展開に二人の間に割ってはいることもできない。
見ると、なにやら彼女の頭上で電光がスパークしている。
「うわっ、御坂!手っ、手を繋げっ!」
「あっ」
不意に気付いた。
いつの間にか繋いだ手が離れている。
美琴の暴走を抑えるには上条の右手に触れるしかない。
しかし、吹寄スペシャルはそう簡単に外せはしない。
我に返った美琴がコブラツイストで上を向いてしまった上条の手に飛びつく。
両手でしっかりとその手を握り締めた。
ガッチリ極まったコブラ状態に美琴が加わってもう綾取り状態だ。
「・・・御坂?御坂美琴さん?
常盤台のレールガン?なぜこんなところに?」
絡まったまま美琴を見る吹寄。
「は、ははは、こっこんにちは」
微妙な笑顔で挨拶をする美琴。
美琴にはこの女子高生に見覚えがあった。
あれは大覇星祭の玉入れ競技の時だった。
倒れた彼女を抱えて上条は叫んでいた。切れていたと言ってもいい。
普通、親しい間柄だったとしても日射で倒れた人間に絶叫などしない。
なら、日射病ではなかったのだろう。
あのときも、この人のために戦っていたのだろうか、命をかけて。
『・・・それとも特別な人なのかな?』


「上条、貴様ついに中学生に手を出してしまったと言うのか!
ウラーッ、罪の重さを痛みで思いしれっ」
「だーっ、背骨がっ背骨があー」
“罪”などと言われては美琴も面白くない。
「ちょっと!コイツ悪いことしてませんって
(まだ)付き合ってもいないし!
ちょっと裸見られたっていうか(私も見たけど)、胸さわられた(直に)くらいで・・・ってあれ?」
勿論( )内は聞き取れないような小声だ。
「・・・・・・やっちゃってください」
「うわっ、御坂っ、
ここは吹寄を説得する場面では?」
「ああ、そっか、ごめん
そうじゃないんです。
そんなの構わないっていうか、全然嫌じゃなかったし
むしろその・・・あの・・・あれ?」
言ってしまってから、美琴は思いっきり照れてしまった。
もう美琴から発せられる言葉はゴニョゴニョとしか聞こえないくらい小さい声になっていた。
「貴様やっぱり!」
「だーっ」
さらに力を加える吹寄、上条の背骨はもう1㎜とも耐えられない。
と、その時

「やややっ、上条ちゃん、吹寄ちゃん、
この往来で抱き合ってなにをしているのですか!」
「こっ、この状況が抱き合っているように見えますかっ
上条さんの背骨が悲鳴を上げているんです!
っだー、つか助けてーいてててて」


絡まった3人は、小萌先生のおかげ(説得?)で、ほどくことができた。
ここで当然の質問が美琴から発せられた。
「で、このお子ちゃまは何処の子?
はっ、まさかアンタの隠し子」
「ばっ、ばか!おまえ、
先生に対して失礼だぞ!」
「えっ、せっ先生って・・・・
ああっ、何年勤務しても、担当学年が変わっても生徒との歳の差が変わらない、しかも年下の教師がいるって、都市伝説やら七不思議やらなんかよく分かんないけど聞いたことある!」
「おっ、お前、触れてはいけない話題を・・・ぞぞっ」
振り返らならくてもわかる。
異様な負のオーラを感じる。

「かっ、上条ちゃん、いいのですよ
初めてのお子さんには先生は、寛大なのですよー」
持っていたタバコの箱がグシャリとつぶれる。
「でも、次は有りませんから注意してくださいねー」
にこっと笑う小萌先生の瞳は全く笑っていない。
ぞっとしたのは、上条と吹寄だけではなかった。


「取りあえず上がってください。
今日は上条ちゃんが来るって事前に電話もらってたので大丈夫なのですよー」
いつもなら、ビールの缶やらタバコの空き箱やら散乱しているのだが、今日に限ってはきちんとかたずけてあった。
「あの・・・さっきは失礼しました。」
「いいのですよー。それより大変でしたね
上条ちゃんの力も役にたつのですねー
そうそう、先生は御坂ちゃんの超能力についてアドバイスは出来ても上条ちゃんの能力について聞かれてもわかりませんから。あしからず。
そもそも、上条ちゃんの力は超能力かどうかも分からないのです」
先生は何気に吹寄に解説しているようだ。
美琴が暴走状態にあることは分かった、さっき危なく身をもって知る所だった。
だが、吹寄はいぶかしんだ。
「上条の力って?だってレベルはゼロだって・・・」
「そうなのですよー
本来超能力開発のカリキュラムを受けた人は何かしら、システムスキャンに引っかかるのですよ。
それがたとえレベルゼロでも、微弱な反応は検出されるはずなのです。
でも上条ちゃんにはその反応が一切検出されないのです。
そうですね、上条ちゃんの”力”は能力が一切検出されないってことですかねー」
「??」
「だから、御坂ちゃんにさわると反応がゼロになってしまうのですよー」
「????」
分かりやすい言葉で、微妙に核心には触れず、嘘は言っていない。ナイス小萌先生。
「システムスキャンで検出されない力はレベルに数えられないのです。
吹寄ちゃんが類希な統率力でクラスをまとめてもレベルに加算されないのと同じですねー」
吹寄整理は分かったような、分からないような。
「それで御坂ちゃんの暴走が食い止められている訳なんですが、上条ちゃんが触っていないとダメみたいですねー」
「そうなの?時に上条、何時から御坂さんの手を握っている?」
「・・・昨夜から」
「昨夜って、・・・寝る時とかどうしたのよ」
「いや、このまま・・・」
「このままって・・・」
吹寄が視線を移すと、そこでは美琴が小さくなって座っている。その頬はに朱を差しているように赤い。
モジモジとタタミの上にのの字なんか書いている。

「・・・きっ、きさまには、やはりトドメを!!!」




[21546] 美琴の憂鬱~美琴のコンプレックス
Name: sig#◆48de1ae3 ID:30b0a50e
Date: 2010/10/30 14:49
「そうですかー
そんなことがあったのですかー」
美琴は月詠小萌先生に、暴走に至るまでの経緯をはなした。
しかし、初対面の人間に自分の秘めた気持ちを話せる訳もない。
美琴に強烈な刺激を与えた出来事についても話すことは出来なかった。
思い出すと少し胸が痛む。
そんなことでカウンセリングになるのか?
とも思うが、意外なことに小萌先生は確信をついてきた。
「御坂ちゃんは、気になっちゃってるんですね。」
小萌先生は視線を美琴の左にずらした。
つられて美琴も左をみる。
今も手を繋いでいる上条と目があう。
ぷーーーっ
飲んでいたお茶を上条に向かって吹き出してしまった。
「おまえなぁ」ぼやく上条。
だが上条には小萌先生の言葉の意味が分かっていない。
美琴は上条と目を合わせたまま赤くなっていく。
「なななっ、なんで?」
視線を何とか小萌先生に戻した。
「それはもう、さっきから会話の節々に熱い視線を送っていれば、だれだってわかります。」
『わわわっ、わたしそんな事してた?』
さらに美琴の顔が赤くなる。
「???」
上条はそんな美琴を不思議そうに見詰めるだけだった。

小萌先生は、立ち上がると美琴の傍まで行って小声で囁いた。
「残念ですが、先生は御坂ちゃんだけを応援することは出来ないのです。」
「えっ?まっ、まさかコイツ先生となにか・・・」
「まあ、いろいろと・・・」
頬に手をそえ赤くなる小萌先生
「せっ、教師と生徒なのに・・・ですか」
何か、美琴のほうが照れてしまう。
「えっ、あれ?いやそういう意味ではないのです!
先生は先生として生徒さん全員に等しくって意味で!
・・・まあ、いろいろとあったことは有るンですけど」
「!」
驚愕の視線で上条をみる。
「あっ、いやだからそういう意味ではないのですーっ」
「・・・・」
「コホン、御坂ちゃん、
あなたはには上条ちゃんに対しコンプレックスがありますね。」
「コンプレクス?」
「そう、あなたはレベル5という力を誇示しているようで、じつは上条ちゃんに力のことで特別扱いしてほしくない。
超能力以外の自分も見てほしい」
やはり小萌先生、只者ではない。
「でも安心してください。それが御坂ちゃんに有利かどうか分かりませんが、上条ちゃんはレベルとか、余り気にしませんから」
「わっ、わたしはそんなこと・・・」
「という訳で、能力を使ったアピールでは御坂ちゃんを特別とは思ってくれませんよ
みんなと同じ土俵で勝負してください」
「勝負・・・」
美琴の脳裏には、日本刀ポニーテールの女性と、ちっこくて白いシスターが浮かんだ。
そして今同室している上条のクラスメートも。
「御坂ちゃん、自分の気持ちをぶつけてみれば暴走は止まると思うのです。
それがどんな結果であったとしてもです」
『どんな結果でも、か』

美琴の話は吹寄も聞いていた。
二人の内緒話のようなカウンセリングは聞き取れなかった。たぶん上条に聞かせられない女同士のカウンセリングといった所だろう。
しかし、概ね昨日から上条の身になにか有ったのかは分かった。
レベル5の女の子を守るため。
暴走による人的被害をださないため。
それは分かる、分かるのだが。
「上条、それはアンチスキルの仕事だろう。
お前がそんな無茶なことをする必要はないのではないか?」
「えっ」
声を上げたのは美琴のほうだった。
たしかに上条が危険を冒す必要はない。

いつもの事だった、そう思っていた。
美琴のピンチには上条が来てくれる。
そう思ってしまっていた。
だが、上条にだって上条の日常がある。
自分の日常を守るために誰かの日常を壊すわけに行かない。
それが永遠に失われる可能性だってある。
今回のトラブルだってそうだった。
「そっ、そうですよね、
危険ですよね・・・私は・・・」
美琴は俯いてしまった。
自分は上条に危険をもたらすだけの存在?
だとしたら・・・・

上条は繋いだ手にギュッと力を込めた。
「ちょっと待ってくれ吹寄、
アンチスキルなんて呼んでたら間に合わなかった。
美琴は目の前で苦しんでいたんだ
レベルがどうとか関係ない
手の届く限り手を差し延べる、それでいいじゃないか!」
言い切った上条を見詰める美琴の瞳は潤んでいる。

「だからって・・・
いつも、いつもいつもいつも
大怪我して、入院して
もし・・・もしも・・・もう逢えなくなったら
そう考えたら・・・
姫神は貴様を待っていたんだぞ
大覇星祭のナイトパレードの時だって!」
吹寄は思わず叫んでいた。
「そっ、それは行けなかった俺がわるかったよ。
だが今回は、美琴が・・・あの時だって」
そう、忘れていたことは申し訳ないとは思うが上条にだってどうしようもなかった。
「姫神だってきっと、分かってくれる。」
「そうじゃない!それだけじゃないのよ!」
ふりしぼった吹寄の声は震えているようだった。
見ると、目じりが輝いている。
『涙?』
上条は吹寄せが涙を流すところなんて見たことがない。
「姫神だけじゃないっ、貴様を待っていたのは!
わっ、私も・・・」
言葉はそこでとまった。
実行委員としてクラスをまとめ、一端覧祭を成功させる。
大覇星祭の時だってがんばった。
今回だって。
でも、少しなら、ほんの少しなら、自分だけの思い出をつくっても良いと思った。
その為に姫神を言い訳にした。
今回だけ一端覧祭のほんのひと時だけでいい、姫神やあのシスターの後でもいい、二人で居たかっただけだ。
でも上条は・・・。

あたりまえだ。
上条はそんなことは知らない。
なにも言ってない。
自分が勝手にスケジュールに入れ込みたかっただけだ。

「もういいっ!」
そういうと、吹寄は小萌先生の部屋から出て行ってしまった。
「おっ、おい!吹寄!」
上条は吹寄の後を追おうとするが、右手をひっぱられた。
見ると、美琴がひっぱっている。
「み・・・こと?」



[21546] 美琴の憂鬱~美琴の憂鬱
Name: sig#◆48de1ae3 ID:30b0a50e
Date: 2010/10/31 21:24
「ねえ、当麻」
美琴の瞳は何かを求めるように上条を見詰める。
「私は・・・」
「御坂?」
「私は、あんたの傍に居ないほうがいいのかな?」
声が震えている。
「なにをいって・・・」
ドキッ
潤んだ瞳、震える唇、繋いだ手も震えている。
思わず見詰め返してしまった。
『こっ、こいつ、こんなに・・・』
上条の鼓動が早くなる。
「わたしは、当麻を危険に巻き込んでばっかりだ。
私だって力を持ってる。
当麻の力になれるそう思ってた。
でも、実際、力になんかなっていない」
そう言うと今度は俯いてしまった。
「私に関わったばっかりに、大怪我して、入院して、死んじゃうかも知れなくって。
そしたら、そしたら私は・・・」
床には水滴が落ちていた。
ポン
当麻の左手が美琴の頭を撫でる。
「美琴・・・
そこに美琴の手があった、だから手を伸ばした
それでいいじゃないか」
「でも・・・
でも当麻には待っている人がいて
当麻を必要としている人がいて
それで、それで・・・」
美琴の頬はもうぐちゃぐちゃに濡れていた。
「わたし・・・わたしのせいで当麻がいなくなちゃったら
わたし、わたし・・・」
それ以上言葉が出てこなかった。
心が締め付けられる。
「なぁ、美琴
いつか鉄橋の上で話したよな
これは俺のしってる日常じゃない、非日常だって
でもな、今は・・・
いまはもう美琴と一緒にいるのが日常になっちまってるみたいだ」
「・・・当麻」
美琴の表情から険しさがきえた。
呆けたとも見える表情で上条を見上げる。
「それにな、そのとき約束したじゃないか
お前とおまえの周りの世界は俺が守るって
それはおれ自身も含まれているんだぜ」
「当麻・・」
美琴の口元が少しほころぶ
「ありがとう、当麻」
とても優しい笑顔。
「でもそれって、わたしとした約束じゃないわよ」
「いっ!あれ?そうだっけか?」
ちょっと照れくさい。
「ぷっ、もう、まったく」
『約束、まもってくれてる・・・』
濡れた目もとを拭きながら、にこやかに笑う。
美琴の頬はうっすらと桜色にそまっている。

『でも、わたしわだって守られっぱなしじゃない。
きっと、アンタの横に立って見せる』
笑顔の裏にはそんな決意もあった。


「さ、行くわよ!」
上条の手を引いて立ち上がる美琴
「おっ、おい御坂、どこいくんだ?」
「追うんでしょ、あのーえっと、吹寄さんだっけ?」
「あっああ、でもいいのか?」
『まったく、こいつときたら・・・』
一応美琴の状態を気遣っての言葉だとは思う。
だが、吹寄に対する美琴の気まずさを気遣った訳ではないだろう。
まして、さっきいった言葉の意味すら自覚していないに違いない。
『まっ、だからなんだけどね』

「いいからっ、行くわよ
あっ、小萌先生、ありがとうございました
こんどコイツとなにがあったか聞かせてくだい!
じゃ」
「???」
記憶喪失の上条には小萌先生と何があったかなんて覚えていない。
それまで“いいですねー、青春ですねー”などと微笑みながら(ニヤニヤと)二人を見守っていた小萌先生だが、
珍しく顔を真っ赤にして答えた。
「そっ、そんなことー」
美琴は最後まで聞かないで小萌先生のアパートから駆け出していた。
左手で上条の右手を力強く握り締めたまま。



吹寄制理は割りと大きめの通りを歩いていた。
街路樹の隙間からきらきらと木漏れ日がさしている。
右手に小さめの植物園のような施設が見える。
そこを少し過ぎたあたり。
『この辺だったかな』
そこは大覇星祭のとき、 “連行する”と言って、上条を引張って歩いた場所。
大覇星祭のときは、途中で倒れてしまったので余り多くの思い出は作れなかった。
そのせいだろうか、手を繋いで歩いたことを鮮明に覚えている。

さっき小萌先生の部屋で、上条はレベル5の手をギュッと握っていた。
レベル5の暴走を食い止めるため。
そんなことは分かっている。
危険があったところで、上条がそんな状況の人に手を差し伸べないはずがないのだ。
上条のことは、同じクラスになってからずっと見てきた。
だから分かる、分かるのだが
『だって、レベル5よ
中学生だからって・・・
敵う訳ないじゃない・・・』
学園都市におけるレベルというのは、単に超能力の格付けだ。
だが、人間的、社会的(学園的?)格付けと混同し乱用される場合がある。
そんな事は吹寄にも分かっている。
だがレベル5なのだ。
しかも常盤台のお嬢様。
そこらのアイドルやトップアスリートなどの著名人の比ではない。
ルックスも申し分ない。
そんな彼女なら誰だって欲しい。
『上条だって・・・』

さっき、小萌先生のアパートで、吹寄は自分が追詰めらているような気がした。
“危険だ”とか“必要ない”とか美琴にとってキツイ言葉だったろうと思う。
でも、言ってしまった。
なにか言わないと、あいつに手が届かなくなるような気がした。
『逆効果・・・だった、よね』
どうも感情的になってしまっていた。
あんな言い様では上条だって言い返したくなる。
「わたしらしく・・・なかった、かな」



「吹寄!」
しばらく、とぼとぼと歩いていると突然名前を呼ばれた。
振り返ると上条が走ってくるのが見える。
「・・・」
上条は自分を追ってきたのだろう。
嬉しい。
だが、あんな事を言って飛び出して来てしまったのだ、どんな顔をして逢えばいいのだろう。


見ると、駆けてくる人物は二人いた。
上条と・・・・あの中学生だ。





[21546] 美琴の憂鬱~美琴の覚悟
Name: sig#◆48de1ae3 ID:30b0a50e
Date: 2010/11/09 03:22
「上条・・・」
名前を呼んでみたが、それ以上の言葉は出てこなかった。
上条には何のてらいもないのだろうが、今も彼女と手を繋いでいる。
御坂美琴の暴走は続いている。
上条と美琴が手を繋いでいるのは仕方がないこと。
理屈では分かる、分かるのだが、
上条を前にして一歩さがってしまう。
「吹寄、おれは・・・」
上条の言葉は、自分の願いとは違うと思った。
聞く前からそう思ってしまった。
強く首を左右に振って上条の言葉を止めた。
吹寄に手を伸ばそうとした上条だが、それは出来なかった。
美琴が上条と吹寄の間に割り込んだのだ。
上条に背を向け、吹寄と正面から向かい合う。

すーっと息を吸い込むと、
「せんぱい!」
大き声で吹寄に向かって言った。
「はいっ」
思わず返事をしてしまった。
「・・・って?なにをいってるの。わたしは貴女の先輩じゃぁ・・・」
美琴は吹寄の言葉を遮って言葉を繋げる。
「わたし、卒業したら、おなじ高校に入ります。だから先輩でいいんです。」
「いっ?まじ?」
上条も初耳だ。

常盤台中学は、義務教育のうちに社会に、いや世界に通用する人材の育成を教育方針としている。
卒業して社会に出る者もいるが、卒業生は大半が能力研究機関付属の大学に大検(現高等学校卒業程度認定試験)取得で入学する。
順当な教育を希望する者でも、やはり研究機関付属大学の付属高校に入る。
上条と吹寄の通う、レベル0を受け入れるような高校に入学を希望することはまず無い。
(上条の高校の教育レベルが低いのではなく、能力者の受け入れ幅が広いだけ)
まして、レベル5の第三位である。
考えられない選択だ。

「あなた・・・本気?」
美琴はその問いに答えるように吹寄を指差した。
「先輩はズルイ!
(同級生なのをいいことに思わせぶりな態度で!コイツは分かってないけど)
入学したら、勝負よっ!」
「あなたは、そんな理由で・・・・(こんなヤツの為に人生を棒にふる気!)」
呆れる吹寄だが、お嬢様の考えることなど分からない。
人生で3年くらい寄り道をしてもいいという考えなのだろうか。
「(こんなヤツって・・・そういう先輩はどうなのョ?)」
「わたし?・・・わたしは・・・」
答えに窮する吹寄せに対し、
「わっ、私にとっては重要事項よ!」
美琴は右手を、胸に置いて主張する。
「(もっと、もっと、もっと近くなりたいの!)そう!アンタみたく!」
「わたしみたくって、あなたレベル5でしょ!常盤台のお嬢様でしょ!
そんな必要は・・・・
(そんなことしなくても、きっと上条は・・・)」
「もーっ、それがズルイっていってるのよ!レベル5とか、常盤台とか関係ない!
(少なくとも、こいつには関係ない。だいたい、アンタはこんなにコイツの近くにいるくせに)」
美琴の言葉にポカンとする吹寄
「(近くにいるって、私が?それはクラスメイトだから・・・)」
「(だから距離の問題じゃなくって! )
もっとこう、精神的っていうか、心の問題よっ!」
「(・・・私が?)」

上条は、時折こそこそと小声になる会話に、ついていけない。
「??お前らなにを話してるんだ?」
こいつら結構、仲いい??
などと思っていると。
「「あんたは」「貴様は」だまってて」
「はっ、はい」
同時に怒られてほとんど反射であやまった。

「(わたしだって、もっと近くに!だから・・・)だからアンタにわたしの覚悟をみせる!」
そう言い放つと、美琴は振り返った。
もう、顔は赤く染まっている。
「かくごっ」
小さく呟いた言葉は、自分自身に言い放ったのかも知れない。
繋いでいた手を振り払うと、両手で上条の頬を挟みこんだ。
『えっ』
素早かった。
強引に上条の顔をこちらに向けさせると、少し背伸びをして唇を押付けた。
上条は、動けない。
まるで、壊れものが自分に触れているような感じ。
とても柔らかな感触が上条の唇に伝わってくる。



美琴は覚悟などと言ったが、それ程考えた上の行為ではなかった。
余裕なんてない。
だが、押付けた唇を離すタイミングが分からない。
反面、もっと繋がっていたいとも思う。
二、三十秒は経っただろうか。
美琴はそっと、ゆっくりと唇を離す。
呼吸を止めていたせいだろう、息があらい。

「みっ、みこと?」
唇を離した美琴の目は潤んでいるように見える。

「あっ」
自らの行為に、高鳴った鼓動は収まらない。
火照った顔はますます熱を増す。




超能力の暴走は止まっていた。
だが。そんなことを考えている余裕はなかった。




[21546] 美琴の憂鬱~勝負の行方は?
Name: sig#◆48de1ae3 ID:30b0a50e
Date: 2010/11/13 18:53
いまも口づけの余韻が残っている。
美琴は、その余韻に浸るようにしばらくの間上条の瞳を見詰めていた。


ポト

持っていたカバンを落としてしまった。
吹寄は、胸の前できゅっと、拳を握り締めている。
目の前で上条と御坂美琴がキスをしている。
なにも出来ないまま、何も言えないまま、ただ見ているしかなかった。


「みっ、みこと?」
やっとのことで声を出した。
上条だって動揺する。
美琴の瞳を見詰めたまま動けない。
どう考えても、挨拶がわりに電撃を浴びせる人間に、この行為はありえない。
・・・はずなのだが、目の前の少女は唇を重ね、赤い顔で見詰め返してくる。


「みこと?」
「あっ」
もう一度呼ばれて、我に返る美琴。
「あっ・・・あの」
我に返って、急にテンパってしまった。
「わっ、わたっ、わた、わたし」
『言わなきゃ!言わなきゃ言わなきゃ言わなきゃ!』
思考が空回りしている。
「ああ、あ、あ、あん、あんん、あんた・・・のこっ、こと」
思うように言葉がでてこない。


勇気をふりしっぼった・・・が。


「きょっ、今日はこの辺で勘弁してあげる!」
「へっ」
美琴が切ったタンカは吹寄せに向けられていた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「とっ、とにかくっ」
額に汗をうかべながら、
「今はこれで!」
と言って、びしっと吹寄を指差した後、振り返って上条をみた。
「あああ、あんたも!・・あっ」
顔を見た途端、クラクラきた。
顔が熱い。
「いっ、いや・・・その」
カウンターパンチを食らったかのようだ。
マトモに顔も見れない。
「すっ」
一歩下がった。
「すっ?」
挙動不審な美琴に上条は途惑うばかり。
「すっ」
もう一歩下がった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・
見詰め合うこと十数秒。
突然口走った。
「さっ、さよならーっ」
とだけ言うと、凄いスピードで走って行ってしまった。
「???」
上条には、事の事態にまったく対応できないでいた。


『・・・だめだ、ヘタレだ、わたしは・・・』
走りながら美琴は思った。
肝心な言葉を口にすることが出来なかった。
“アンタのことが好き”と。
本当はどうしても言葉にしておきたかった。

ふ、と思った。
『あれ?なんか順番が逆なような?』
言葉の前に行動してしまう、美琴らしいと言えば、らしいかもしれない。


後には、上条と吹寄だけが残された。
あまりの出来事に、大混乱の上条。
美琴の去った方向を指差しながら、吹寄にむかってパクパクと口を動かすが言葉にならない。

二人を呆然と見ていた吹寄だが、そんな上条の様子を見て、ため息とも、嘲笑とも思えると息を漏らした。
そう、忘れていたのだ。
上条はこんなやつなのだ。
だがもう遅い、自分はこんな上条に想いをよせてしまっている。
吹寄は髪の毛を後ろに流しヘヤピンで留めた。

ツカツカと上条に近寄る。
上条の胸倉を掴むと
「貴様というやつは!」
そう言うと、一度頭を引いて勢いよく上条の額に自分の額をぶつけた。
ガツッ
「がぁ」
あまりの威力に目がちかちかする。
吹寄はもう一度頭を引いた。
もう一発、強烈なヤツが来る!と目を閉じて構える上条。
だが、衝撃はやってこなかった。

代わりに唇になにかが触れた。
さっきも似たような感触を経験したばかりだ。

そっと目を開けると、桜色に染まった吹寄の顔が、どアップで目の前にある。
美琴の時とは少し違っていた。
吹寄は強く唇を押付けてくる。
口は少し開き気味で、ぴったりと組み合っている。
もう少し頑張れば舌まで入ってしまいそうだった。
唇を吸われているような気分だ。

「ぷふぁ~」
唇を離す大きく呼吸をした。

「売られた勝負は買うのが私の流儀だ。」
と冷静な口調で言うものの、吹寄は首筋まで真っ赤にしている。
「あの・・・吹寄さん?
念のため聞きますけど・・・
勝負というのは?」
ゴン!
間髪を入れず2発目が炸裂した。
「とぼけた質問をするな。
結論など後でいい、今決められると勝負がなりたたない。」
目的は上条さんではなく、勝負ですか?
などという突っこみも今の上条には思い浮かばない。

「御坂と吹寄が俺を・・・・・・」
ぼそりと呟く。
決めるとか言われても、そもそも、前提からして上条の認識の外にあったのだ。
「キッ、キスなどというものは、好きでもないヤツには絶対にしないものだ」
覚えておけと言わんばかりに吹寄は言う。
「それと、明日の昼は購買部には行くな、
その・・・わたしが用意しておく」
もう、勝負は始まっていると言う事なのだろうが、
そっぽを向きながら、つっけんどんに言う言葉はもはや、照れ隠しとしか言いようがない。
「では、また明日」
吹寄も、キスの後を甘い言葉で・・・などというスキルを持ち合わせていない。
簡潔すぎるくらいに、会話を手短にまとめてしまった。
上条に背を向けて歩きだした吹寄は指で唇をふれて、さっきの感触を思い出していた。
その途端、ブワッと顔が熱くなる。
なぜか、早足でその場を後にした。


呆然と吹寄を見送る上条。
もう頭は混乱状態、
二人との行為がフラッシュバックする。
昨日の神裂とのことも。





そして、最後に上条の心に浮かんだのは、いつも一緒にいる小柄な少女の笑顔だった。



[21546] 美琴の憂鬱~黒子は?
Name: sig#◆48de1ae3 ID:30b0a50e
Date: 2010/11/22 22:47
「う・い・はっ・る~~~ん」
バッ
呼ばれた思うと、視界の下半分が紺色の薄い布地にさえぎられた。
「キッ、キャ~~~ッ」
響いたのはスカートを捲くられた初春飾利の悲鳴だ。
「今日は、ピンクのストライプか~」
などと、上機嫌な笑顔を浮かべるのは、スカートを捲くった手を高々と上げる女子中学生。
「も~っ、佐天さん!
いつもいつもいつも・・・・ってあれ?佐天さん?」
いつもなら、初春の下着をネタに勝手に盛り上がる佐天涙子だが、なぜか両手を上げたまま固まっている。
「佐天さん?どうしたんですか?」
「ねぇ初春・・・あれって御坂さん・・・だよね」
「えっ、どこですか?」
と、佐天の視線を追った先には、御坂美琴がいた。
そして二人は目撃してしまった。
「「〇×#△%□$!!!」」
おどろきの余り、日本人(恐らく外国人にも)に通じる言葉にはならなかった。


―その数分後―
御坂美琴は走っていた。
鼓動が激しいのは全力で走ったせいか、唇を重ねたせいか。
とにかく走って走って走って、常盤台中学学生寮の自室に駆け込んだ。
バンッ
勢い良く自室のドアを閉めると、そのドアに寄り掛かる。
目を閉じると、さっきの光景が目に浮かぶ。
そっと唇をなぞり、感触を思い出す。

一人で顔を赤くしていると、バスルームの扉がいきおいよく開き、白井黒子が飛び出してきた。
「お姉さまっ!
昨晩はいったいどうされましたの!
なんの連絡もなく帰って来ないなんて心配したんですのよ。
・・・まあ、不良に襲われたくらいで、どうにかなるお姉さまではないでしょうけど。
わたくしが、寮監をごまかすのにどんな苦労をっ・・・って、お姉さま?」
真っ赤になって荒く息をしている美琴、その潤んだ瞳を見て黒子は興奮・・・いや心配になった。
「くっ、黒子・・・わたし・・・」
美琴は両手を胸において、なにかを打ち明けようとしている。(と黒子は思った)
「ああああ、お姉さま・・・
お姉さまお姉さまお姉さま」
黒子も胸の前で手を合わせる。

「・・・あ~、黒子
取りあえず服を着てくれるかしら?」
黒子は全裸でバスルームから飛び出してきていた。
「あん、おねさまん、黒子はこのまま押し倒されてもかまい・・・あぎゃーーー」
“押し倒されても”と言いながらも、自分から押し倒す気まんまんの黒子を、あっさり電撃で迎撃した。・・・ごく軽く。
「暴走の後遺症はないようね・・・ってちがう!!」

美琴は黒子が部屋着を着るのを待って改めて告白する。
「黒子・・・わたし・・・
 その・・・しちゃった」
  ・
  ・
  ・
ピシッ
白井は突然の言葉に、固まった体にヒビまで入ったかのようだ。
突然の告白に考えがまとまらない。
「・・・しちゃったと申されますと、その・・・殿方にお体をおゆるしに・・・・」
「ちがーう・・・って、その・・・そこまでは流石に・・・初めてな訳だし、人の目の前っていうか、その・・・」
ちょっと下を向いてもじもじし始めた。
相変わらず顔は赤くそまっている。
『かっ、くぁわいーーーっ』
と己の欲望に溺れそうになる黒子だったが、
『って、そんな場合ではありませんわ!』
と冷静さを取り戻すと、
「人前っていったい?!
だいたい、誰と・・・
だーっ、あれか、またあの類人猿か!
この私をさしおいてっ!
かーっ、いったいお姉さまに何をっ」
・・・冷静ではなかった、逆位相の欲望に囚われるブラック黒子であった。

と、訳も分からず壁に頭突きを放っている黒子を止めたのは、携帯のコールだった。
呼び出し音は初春からのものだ。
「初春!なんですの!
わたくしは今、人生の最大の難関に・・・」
とわめき散らすが、電話の主はその言葉を聞いてはいない。
「(ちょっと、初春かわって、かわってって)」
「(あっ、ダメですよ、佐天さん、わたしが・・・)」
電話の向こうからは初春と佐天の声が小さく聞こえる
「初春?佐天さん??」

「すいません、電話遅れました。」
結局電話に出たのは佐天だった。
「30分ぐらい前なんですけどっ、
言わないほうがいいかなー、なんて思ったんですけどっ」
「いったい何ですの、いまわたくしは、とてつもなく重要な用件で・・・」
白井の言葉をさえぎるように佐天の声が響いた。
「みみみ、見ちゃったんですョ。」
「まったく、また都市伝説とか何とかの類なんでしょう?」
「いいんですか、そんな事言ってて!
御坂さんが、あの御坂さんがですね!」
『お姉さまが・・・・』
いま、美琴から
“わたし、しちゃったの”
なんて聞いたばかりだ、黒子は額から汗を流しながら
「(そっ、それで何があったんですの?)」
小声になって、携帯に呟く。
「みちゃったんですよ!御坂さんが
”キス” してるトコ!
しかも御坂さんから!
熱烈にっ!」

ヴゥワァーーーーン
美琴の“しちゃった”発言を実際の行為と結びつけた瞬間、黒子は目の前が真っ暗になったように感じた。
首だけ回して、泣きそうな、いや、もう涙ぽろぽろの顔を美琴に向ける

「白井さん!聞いてますか?
それがもう、強烈で!
大通りで、しかもライバルらしい女子高生の前で!
宣戦布告!」
「「きゃーっ」」
初春も佐天と電話の向こうで盛り上がっているようだが、黒子は
「ぼでいざばー」
“おねえさまー”と呼びたいとこだが、涙と鼻水と動揺でなにを言っているのか分からない。

「しらいさん、しらいさん!シャメ送りますネ、シャメ!」
ピロンと送られて来た写真には、バッチリ二人の記念が写っていた。
「・・・おでいざばー
ごでは、いっだいどーびゅーごどでびゅの!」
直訳すると
“お姉さま!これはいったいどう言う事ですの!”だろう。
そう言うと、意外と大きめの面積を持つ携帯の巻き込み式ディスプレイを広げて美琴に向けた。

そこには、上条の頬を両手で挟み、唇を押付けている美琴の姿が・・・

「ヴぁッ・・・ああっあんた!
ちょ、ちょ、ちょっと!
やっ、なっなんでそんな!
黒子!消して!今消して!直ぐ消して!」
焦って黒子に詰め寄る美琴。・・・だが。
「・・・あっ」
なにか思いついた。
「いっ、いやストップ!
消さないで!メールで送って!
それから消して!」
「消します。今消します!直ぐ消します!
そして無かったことに!」
ひたすら現実逃避の黒子と美琴は携帯を(正確にはシャメの画像を)めぐって揉みあいになった。

激しい格闘のすえ、勝者は・・・どちらなのだろうか?
ビリビリと感電気味の黒子は、美琴の足元でピクピクしている。
ぜいぜいと息を荒げている美琴の手には黒子の携帯が握られている。
電撃によりデータの飛んだ携帯が・・・。



荒い息が落ち着いた美琴は思いついた。
『あの画像、初春さんと佐天さんが・・・』
しかし、あの二人にビリビリする訳にもいかない。
しかも、あの二人のことだ。
『こっ、コイバナ・・・か!?』
美琴が最も苦手とするカテゴリー。
しかも自身のコト。
それを強要されるのは確実。


美琴のコメカミに冷たい汗が流れた。



[21546] 美琴の憂鬱~ガールズトーク
Name: sig#◆48de1ae3 ID:30b0a50e
Date: 2010/11/25 19:36
「日本刀?」
御坂美琴は警戒した。
まぁ、今となっては命のやりとりをするような関係ではない。
だが、ライバルであることには変わりがない。
その人は、常時日本刀を腰に下げている、何かとデカくてエロい長髪の女性。

だが、ここは普通のファミリーレストラン、そして日本刀を下げているのは、金髪に近い薄めの茶髪のウエイトレス、神裂とは雰囲気も違う。
『なんだ、違った』
ふう、と警戒を解く美琴。(不審には思わないのだろうか?)

バキッ、
『なに?痴話喧嘩?』
あちらでは、ウエイターがウエイトレスに殴られている。
それもグーで
二人の傍らでは小柄な女の子(でもウエイトレス)がおろおろしている。
なんか、アイツと私とあのちっこいのに似た感じかな?
美琴は、そんなことを考えてみたが、今回の話には関係がない(いや、マジで)

今日はいつもと違うファミレスで、初春と佐天との待ち合わせだ。

「よしっ」
ぱしっ、
美琴は自分の両頬を軽くたたいて気合を入れる。
目的は二つ。
初春の撮った現場写真の入手と、初春の携帯からの消去。

「お姉さま・・・覚悟はできたんでございますの?
フッ、フッ、フッ、フ」
ゾクッ
後ろからぴったりついて来る黒子の呟きと、怪しく光る瞳に、美琴は薄ら寒いものを感じる。
「かっ、覚悟ってなによ。」
「フフフフフ」
不気味に微笑む黒子に黒いオーラを感じる。
『とっ、取りあえずスルーしておこう』
ちょっと対応に苦慮する美琴だった。


美琴が目指すテーブルには、もう初春と佐天が待っていた。
「御坂さん!」
いつものように元気一杯手を振る佐天、隣にすわる初春も小さく手を振っている。
・・・いつもの通りすぎる光景に、逆に警戒してしまう。
「こっ、こんにちは、初春さん、佐天さん」
「「御坂さん!こんにちはっ!」」
同じ返事が返ってきた。
全く同じタイミングで、同じテンションで。
同じ姿勢で、同じく目をきらきらさせながら、見詰めてくる。
「はっ、はは、今日も元気ね・・・ふたりとも」
二人のテンションにたじろぐ美琴。

「お姉さま、そんなところに突っ立っていないで、お掛けくださいな。」
黒子はそういって美琴を初春たちの対面に座らせると、自分はムリヤリ、初春と佐天の間に割り込んだ。
テーブルは6人がけ、
美琴は、三人と向かいあう形になる。
『なっ、なに?この状況?』
いろいろと聞かれるとは思ったていたが、これは・・・
『はっ、尋問かっ?!』
美琴は妙な緊張感を覚えた。


「あの、初春さん。
さっきの、その・・・黒子に送った・・・」
美琴の言葉に、初春と佐天の瞳は同時に光った。
「だれなんですか?」
「名前は?」
「年上が好みなんでか?」
「どこの高校なんですか?」
「出会いは?」
「いつから?」
「デートなんか良くするんですか?」
「能力は?」




いっぺんに聴かれた。(マシンガントークは主に佐天)
答えに窮する・・・というか顔が引きつる美琴だった・・・が。

「あなたたち、いい加減にしなさい!ですの」
「えっ?」
美琴はちょっと驚いて黒子をみる。
意外にも二人をたしなめたのは白井黒子その人だった。
「そんなに一度に聴かれたらお姉さまだって、引いてしまいますわよ。
それに、答えづらい事だって有りますでしょうに」
「・・・黒子」
ちょっと感動した、持つべきものはパートナー。


「で、お姉さま、よろしいでしょうか」
感動のさめないうちに、黒子の口調がかわった。
「なっ、なによ」
引き気味に答える美琴。

「上条当麻、15歳
とある高校の一年生
登録されているレベルはゼロ、属性も不明
出身地は神奈川
成績は中の下といったところでしょうか?あまり良くありませんわね。
それに、よくトラブルに巻き込まれているようです。
今年の夏休みから怪我で入退院を繰り返しているようですわ。」
「あっ、アンタそれどこで?」
「お姉さま、ジャッジメントを舐めてもらってはこまります。」
「それって、職権?乱用じゃぁ」

「あーーーっ、」
思わず叫ぶ初春
「白井さん、それってこの前、捜査に必要だって、こっそりアクセスした統括理事会のデータぢゃぁ」
「そんな細かいことはこの際どうでもいいですの」
「どうでもって、結構あぶない橋わたったのに・・・」
とほほ、とため息をつく初春。
「いま、問題なのは、この殿方のことですの」
ピクッ
黒子の言葉に、美琴が小さく反応する。
「はっきり言いますわ。
この方は“バカ”です。
常盤台のエースにしてレベル5のお姉さまには、ふさわしくありませんの!」
「ちょっ、ちょっと待ってよ黒子、
なんでアンタがそんなこと言うのよ!」
「いえ、言わせていただきますわ。
お姉さまには、もっと高みを目指してほしいのです。
その為にはもっとお互いを切磋琢磨するような、知的な方が良いと思いますの。」
そう!わたくしの様に!とは、言えなかった自分をちょっとシャイかも?と思ったのは黒子の脳内だけの話。

美琴は、当麻のことをけなされて、ちょっとくやしかった。
「そんな、アイツだってバカって言われるほどじゃぁ・・・
そっ、そりゃ、夏休みの宿題ごときで悩んじゃったりするし。
一言多くて不良に追いかけられたり、
二千円札を自販機にのみこまれたり、
テニスボールふんずけて派手に転んだりするし、」
『あれ?ほんとにバカかも』なんて思いつつも
美琴は言葉を続ける。
「私のこと無視するし、
おせっかいだし、
来るなって言っても来ちゃうし、
助けなんか要らないっていってるのに
だれにも言ってないのに
だれにも言えないのに
ひとりで・・・苦しかった、だけど」
『あれ、私なに話してるんだろ』
「アイツは一番苦しい時にきてくれたし
私とは戦わないって
私の電撃を避けもしないで
だえど、だけど俺に任せろって
アイツ、お前とお前の周りの世界を守るって
なにより、私のこと、私より理解してた」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
3人は呆然と美琴を見ている。
いつのまにか、美琴の瞳にはきらきらと輝く液体が揺らめいていた。
そして、そのうちの一滴がほほをつたう。
『あれ?どうして・・・私、泣いてる・・・』
すっと、涙を拭くと、
「ごっ、ごめんなさい、
なんか、目にごみが・・・」
いかにも、な言い訳だが、それ以外はなにも思いつかなかった。
「御坂さん、彼のことよく見てるんですね」
と初春。
「それって、御坂さんのヒーローじゃないですか!」
と佐天
二人の言葉を聞いたとたん、カーッと顔が熱くなった。
赤くなった頬をかきながら美琴がいった。
「あの・・・そうかな」
しかし、黒子はめげない。
「しっ、しかし、ルックスも、特筆するほどとはいえませんし。
ゲコ太といい、きるぐまーといい、
お姉さまのセンスを疑ってしまいますわ!」
「いっ、いいじゃない、好きなんだから」



「「きゃーーーっ♡」」
突然の初春と佐天の悲鳴に、美琴は途惑った。
「えっ、なになに」
きょときょとしていると
「御坂さん、“好きっ”だなんて、もーっ」
「「うらやましいーーっ♡」」



「え、えっ、えーーーっ
いっ、今のはゲコ太ときるぐまーの話であってその・・・」
「「その??」」
「あっ、いや・・・その・・・好き、だけど、アイツのこと」
「「きゃーーーっ♡」」
耳まで真っ赤になる美琴。

「むっきーっ
やはり、あの若僧を亡き者にする以外には・・・」
そんな黒子の言葉に、美琴は。
「黒子、そんな事言ってるけど、
あの時、あのビルの最上階でアンタを助けたアイツを見てどう思った?」
「ぐっ」
ぐうの音がでてしまった。
あの日、結締との対決で黒子は敗北を喫した。
最後の時、それを覚悟した時、
4トンもの重量の転移、素人でも分かる空間の異常に臆せず立ち向かった少年。
たしかに、自分もその少年の姿を見たとき・・・・・・
「そっ、そんな、わたくしの事なんかどうでもいいですわ!
問題はお姉さまが!」
ちょっと、ほんの少しだけ、黒子の頬が赤くなったのを、初春は見逃さなかった。
「しっ、白井さん、まっまさか・・・
ライバル・・・」
「いっ、そんな!わたくしはお姉さま一筋でっ」
などと言いつつも顔の赤みは増してくる。
「だっ、ダメーッ、黒子っ、アイツは私の・・・わたしの・・・」
「「わたしの?」」
ハモる初春と佐天
こんどは、ぼわっと美琴が赤くなる。
数秒の沈黙の後
「さて冗談はこのくらいにして」
と、さっきまで赤かった黒子の顔は、すーっと元の顔色にもどる。
本当に演技だったらしい。
「「しっ、白井さん・・・恐るべし・・・」」
ちょっと引き気味の二人。

「くっ、黒子!あんたっ」
バチっと、美琴は頭の上で放電する。
「まあまあ、
御坂さん、ここで電撃はちょっと・・・」
制する初春。
「ちっ」と美琴
ちょっと、いやかなり悔しい。

「ときに、お姉さま
あの類人猿・・・いえ、殿方の周りには色々な方が居るようですが・・・
あの方にとってお姉さまは特別なのですか?」
 ・
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華やかなガールズトークが止まる。


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