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きょうの社説 2010年11月25日
◎日本祭いしかわ 見せた「文化立県」の底力
素晴らしい舞台やプレーに感動した観客が立ち上がって拍手を送ることをスタンディン
グ・オベーションという。観客一人ひとりの感動が共鳴し合い、自然発生的に起きる。出演者に対する最大級の賛辞といってよい観客総立ちの拍手が、米サンフランシスコ市で開催された「日本祭いしかわ2010」で見られたのは、石川県に質の高い日本文化が息づいている証明だろう。一地方だけで日本の伝統文化はもとより、第一級の現代文化まで幅広く海外に紹介でき る。これは簡単なようで、かなり難しい。生活の質を含めた文化土壌のすそ野の広さ、厚みがあってこそ可能だからである。「文化立県」の底力を示した8団体144人の出演者の頑張りに、日本からも大きな拍手を送りたい。 日本祭いしかわは、勝海舟や福沢諭吉を乗せた軍艦「咸臨丸」の渡米から150年を記 念した日米交流事業のフィナーレを飾った。華麗な十二単(ひとえ)の着付け、息を飲む吟剣詩舞、和太鼓の勇壮、日本舞踊のあでやかさ。生け花から合唱、バレエ、リズムダンスまで加わった舞台は、日本人の目には、見ようによっては「ごった煮」のように映るかもしれない。 だが、ウィーン、シドニー、ライプチヒ(ドイツ)などで公演を重ねるうちに、より洗 練され、演出にも工夫が凝らされようになり、重層的な日本文化の奥深さを知ってもらうための手法として定着してきた。スタンディング・オベーションは、一昨年のライプチヒ公演でも見られたという。サンフランシスコでも現地からの報道を見ると、石川県の芸能・芸術の多様さと厚みに触れた観客の素直な驚きや感動が伝わってくる。 生活のなかにごく自然にあるせいか、当たり前過ぎてつまらなく思えたり、時には古臭 く思えていたものが海外に出てみると驚くほど高く評価されていることに気付く。これまでも日本祭いしかわの舞台を見た外国人から「日本の文化が凝縮されている」などの感想が聞かれたが、そのことを一番実感したのは出演者自身ではなかったか。海外公演の成功を古里の文化を見直す機会にしたい。
◎北朝鮮の砲撃 安全保障に性根を据えよ
北朝鮮による韓国砲撃を受け、政府は菅直人首相を本部長とする対策本部を設置した。
北朝鮮と韓国の砲撃戦は今のところ拡大する気配はなく、本格的な戦争に突入する可能性は薄いとみられるが、だからといって決して気を緩めてはならない。政府の安全保障の能力、意思が最も鋭く問われる事態と心得て、あらゆるケースに対応できる態勢を取ってもらいたい。国会もそれに応じた対応が必要である。朝鮮戦争休戦以来初めて韓国の陸地を砲撃した北朝鮮の意図は、まだ不明確ながら、経 済制裁と軍事演習を共同で行う米韓両国を動揺させ、米国を対話の場に引っ張り出す一方、権力移行期にある北朝鮮の独裁体制を固める狙いがあるとみられている。 しかし、砲撃を恐れて米韓が譲歩することは考えられず、行き詰まりに焦る北朝鮮の矛 先が、米韓に歩調を合わせて制裁措置を取る日本に向けられ、たとえばテロ行為といった形で暴発する恐れも否定できない。独裁権力の継承で北朝鮮国内は不安定さを増すとみられ、黄海や日本海の軍事的緊張が日本に危機を及ぼす「周辺事態」へつながることも想定し、用心深く備える必要があろう。 菅首相は対策本部の初会合で、北朝鮮の砲撃を「許し難い蛮行」と非難し、各閣僚が緊 密に連携して情報収集に当たり、国民生活の安全確保に万全を期すよう指示した。そうした指示内容は当然としても、首相自身の言葉による断固とした北朝鮮非難と韓国支持の表明は、当日即座になされてしかるべきであったろう。 砲撃戦直後の菅首相の言動からは、安全保障上の脅威に対する毅然とした姿勢は感じら れず、一国の指導者としての危機管理能力に不安を禁じ得ない。現実化する北朝鮮の軍事的脅威を深刻に考えるなら、対策本部の設置ではなく、国家の緊急事態に対処する「安全保障会議」を招集する選択肢もあり得たのではないか。 また、北朝鮮への追加制裁措置を検討する方針であれば、朝鮮学校の授業料無償化手続 きの停止も避け得ない判断であろう。
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