韓国・延坪島(ヨンピョンド)に23日、北朝鮮の砲弾が着弾し、勃発(ぼっぱつ)した砲撃戦。民間人の犠牲もいとわない北朝鮮の攻撃に、祖国統一を願う在日コリアンの間には衝撃と無念の思いが駆け巡った。
大阪市北区の市中央公会堂ではこの日、北朝鮮による拉致被害者の早期帰国を求める集会が開かれていた。午後4時ごろ、砲撃戦について主催者が報告、会場はざわめいた。
拉致被害者、有本恵子さんの母嘉代子さん(84)=神戸市長田区=は「現体制の命令でなされた攻撃なら体制が維持されている証拠で、拉致問題の解決は遠のくと思う。恵子がどこで何をしているか分からないだけに、胸騒ぎが止まらない」と話した。同じく拉致被害者、横田めぐみさんの父滋さん(78)=川崎市=は「国際社会には通用しないやり方。それほど北朝鮮は困窮しているのか」と推し量った。鳥取県米子市の拉致被害者、松本京子さんの兄孟さん(63)は「これで南北間がぎくしゃくし、拉致問題にも影響が出るかもしれない」と危惧(きぐ)した。
在日韓国人の親睦(しんぼく)団体「在日本関西韓国人連合会」(大阪市)の李昌珍(リチャンジン)事務局長(44)は「あの水域は南北間の『火薬庫』と呼ばれる。中国とアメリカの勢力争いに利用され、戦争になるかもしれない」とショックが大きい。
在日コリアンの歴史を紹介する市民団体「近江渡来人〓楽部」(大津市)の代表で、在日韓国人2世の河炳俊(ハビョンジュン)さん(62)は「北でも南でもない第三極『在日』のアイデンティティーを作ろうとしてきたが、北朝鮮の行動に傷つけられた。努力をつぶされたようで悔しい」と憤った。
在日朝鮮人2世で約70回、北朝鮮に渡った経験がある東大阪市の女性(62)は「刺激的な報道は控えてほしい。今の北朝鮮は追い込まれたら牙をむくしかない状態。北朝鮮と韓国は二度と戦争をしないと信じている」と祈るような気持ちだ。
在日コリアンが多く居住する大阪市生野区のコリアタウン。韓国籍、朝鮮籍の人々が混在し、ここに「南北の対立」はない。砲撃戦のニュースに、いつも活気にあふれる街は悲しみに包まれた。
総菜を扱う店を営む韓国出身の黄敬淑(コウケイスク)さん(48)は「朝鮮籍の人とも仲良くやってきた。胸が痛くて話題にもできない」と目を潤ませた。
朝鮮籍の女性(92)は「戦争は絶対にいけない。私たちが身をもって知っているはずだ」と声を振り絞った。
コリアタウンには、近年に来日したコリアンも多い。キムチ店を営む韓国人女性(42)は「うちの店を手伝っている女性の息子さんは今、韓国で兵役に行っている。無事なのか、と心配していた」と語った。
関西国際空港にはこの日も、韓国からの便が次々と到着した。同僚と観光で訪れたソウルから帰国した大津市の会社員、中村沙織さん(26)は「現地では、飛行機が欠航になったり、出発が遅れるという話もあり、何が起きているのか心配だった。帰国できてよかった」とホッとしていた。
毎日新聞 2010年11月24日 大阪朝刊