リニアモーターカーはどこを走るのか?

週刊プレイボーイ99年10月26日号

完成すれば、東京・大阪をわずか1時間でつなぐ夢の超・新幹線「リニアモーターカー」。だが、その環境破壊、そして、10兆円もかかると予測される工費を巡り、国もJRも工事に着手せず、実験だけが延々と続けられている。

「このままじゃ死んでも死にきれません。リニアに何十兆円もの税金が使われ、『こんな金を使わせたのはKだ』なんて言われたら、私は孫子の代まで恨まれます」
 北海道札幌市在住の元国鉄技師・Kさん(86歳)は今、後悔の念を覚えている。1961年に書いた論文が、東京大阪間をわずか1時間で結ぶ夢のリニアモーターカー計画に結びついているからだ。
 61年、鉄道の高速化を考えていたKさんは、車両の浮上走行理論を雑誌に掲載した。
「国鉄の鉄道技術研究所の人たちがびっくりしましてね。翌年、研究所でリニア研究が始まったんです」
 本格実験は、77年、宮崎県の専用実験線で始まった。
 そのKさんは今、リニア計画に異を唱えている。その後、リニアは新幹線の40倍もの電力を消費することがわかったためだという。
「こんなに金とエネルギーを浪費する乗り物は認められません。もし運輸省が着工を決めたら、私は真っ向から反対するので、それまでは生かしておいてくれと医者に頼んでいるんです」
 リニアは現在、山梨県の大月市と都留市の間の18・2キロで走行実験中だ。超伝導技術(別表参照)での車両浮上走行では世界最先端をいく。


実験だけが繰り返される

 実験の主体は、基盤整備をする「JR東海」、実験を行う「鉄道技術総合研究所」(JR総研)、建設と土地買収を担当する「鉄道建設公団」(鉄建公団)の三者。運輸大臣が承認した実験線の総事業費は3035億円(うち、山梨県がJR総研に160億円融資)。
 山梨に新実験線誘致が決定したのは89年。実験は97年から始まり、2000年3月の終了時までには実用化への目途を立てる予定である。


国家プロジェクトなのか、民間プロジェクトなのか?

 ところが目前に来て、実用化の目途は全くの不透明になった。今年4月、運輸省は、実験走行を5年延長する指針を出したのだ。「建設コスト低減」や「長期耐久性の確認」などの追加実験が必要と判断されたためである。だが、「1年程度の延長はわかるが、なぜ5年も」といぶかしがる声が地元で上がっている。
 山梨実験線は、元々42・8qの長さを予定していたが、沿線の15%の土地が未買収ということもあり、現在の実験区間は18・4qのみ。
 この18・4キロを「先行区間」、実験線の未着工区間を「一般区間」と呼ぶが、運輸省の指針は、先行区間のみでの実験継続を定めたもの。つまり、一般区間への着工は棚上げされたままなのだ。
 実験総事業費3035億円のうち、すでに約2300億が費やされ、運輸省が金を出さない限り一般区間は着工されない。実験線は将来の営業線を兼ねると想定している県は、粘って一般区間建設を国に陳情してきた。
 ところが、県がこの10年間、「国家プロジェクト」と捉えていたリニア実験は、実は「民間プロジェクト」と位置付けられていたのだ。
 7月7日、自民党の「リニア中央エクスプレス建設促進議員連盟」は以下の表明を出す。

・実験線が、JR東海主体の「民間プロジェクト」である以上、残り600億円では一般区間の建設は不可能。実験そのものを国家プロジェクトに格上げする必要がある。
・2000年度より、一般区間の着工を5年以内に「目指す」。

 その5日後の12日、議員連盟、JR東海、運輸省との間で、この表明を踏まえ、「中央リニア新幹線」の早期着工を目指す調査実施などを盛りこんだ三者合意がなされた。
 県リニア交通局リニア推進局の三神雅彦課長を訪ねた。
――議員連盟の表明はやはりショックでしたか?
「初めはね。ただ、このままでは残りの着工は無理である以上、国による財源確保を目指した提案であると解釈し、県も合意を受け入れました」
――国会答弁では、国は過去一度も、リニア実験は「国家プロジェクト」という言葉を使っていないそうですが?
「そういう文言はないけど、あくまで解釈の問題です。実験線の場所を決めたのは国で、JRなどが作った計画を承認したのも運輸大臣。当然、国も国家プロジェクトとして臨んでいるとの前提で、県も160億融資したんです。用地買収だって、鉄建公団の委託を受けて住民と交渉したんです」
 実験線基点の村、境川村小山地区の住民組織「リニア対策委員会」会長の斎藤茂夫さんは、土地を売った時の経緯を次のように語る。
「もろ手挙げて賛成した人などいません。JRや総研、公団、県に『国家プロジェクト』のためにと、お百度を踏まれ、最後は、国のためにと泣く泣く土地を手放したんです」
 しかし、実験線の起点であるにもかかわらず、境川村で実験が始まる様子はない。買収された土地に柵が張られているだけである。
「もしリニアが走らなかったら、騙されたことになります。JR、総研、公団・・この問題に火をつけた人たちには責任とってもらいます! 土地だけの問題じゃないんです。この地区の皆が一体何十回話し合いを持ち、どれだけ精神を削ってきたことか。今さら民間プロジェクトだなんて・・」
 では、JR東海や運輸省はこの件をどう捉えているのだろう? まず、JR東海のO氏に尋ねてみた。
――リニアはいつ営業化するのですか?
「未定です。確かに、73年に、中央新幹線構想が基本計画路線として国に決定されましたが、将来、中央新幹線そのものが着工するのか、それがリニアになるのかの判断はまだ先のことです。私たちも国家的プロジェクトとの認識をしていますが、運輸省の手順を踏んで決定します」
――地元住民は実験線は将来の営業線を兼ねていると思っていますが。
「実験線はあくまでも実験路線で、基本計画路線よりも1ランク下なんです。つまり、技術完成を目指すための場所との位置付けになります」
 県やJR東海にすれば、主体は当然国ということになる。
 ただ、三神課長が「国も前向きなのでは」と評価するのが、三者合意のあと、運輸省が「中央リニア新幹線の調査費」について、来年度1億2000万円の予算要求をしたことだ。「国が初めて『中央リニア新幹線』という言葉を使った」と、山梨県は国家プロジェクトへの期待を繋いだのだ。
 そこで、運輸省鉄道局技術企画課の岩松氏に話を伺った。
――リニア実験は民間プロジェクトなのですか?
「はい。私たちも県や県民の方に国家プロジェクトと思われているのは知っていますが、今まで国家プロジェクトと表明したことはありません
――リニアを実用化したいとは考えているのですか?
「それは、国としても是非実用化したいですよ」
――今回、運輸省が初めて「リニア中央新幹線」という言葉でもって、その調査費を要求しました。国家プロジェクトとして動くとの解釈は?
「それは、リニアを導入した時に、どういう社会的影響があるかを、JRや関係自治体が、まず勉強しておこうということです。一日でも早く実用化への目途を『立ててほしい』ということで、私たちは、あくまでも民間事業を支援する立場なんです」
 それぞれの見解にはかなりの温度差があるようだ。


10兆円の工費?

 だが「究極はゼニの問題なんです」と三神課長が言うように、結局問題が財源不足に他ならないことは誰もが気づいている。
 旧国鉄時代の試算では、リニア中央新幹線の総事業費見積もりは約3兆円。だが、放送大学の森谷正規教授は次のように予測する。
「革新的技術は、必ず当初見積もりの数倍も出費がかかります。例えば、コンコルドで8倍。革新的技術がいらない瀬戸大橋だって2・5倍です。私は、このリニアは10兆円はかかると踏んでいます。実験線ですら、半分も作らないで殆どの予算を使ってますよね」
 確かに、バブルがはじけた今、JRも国も、間違っても「リニアを大阪まで走らす」と言える筈がない。
 実際、JR東海の葛西敬之社長はテレビのインタビューに「先行区間だけでも、当初想定した実験項目はクリアできる」と、一般区間での実験に乗り出さない旨述べている。
 また、三者合意のなかに「一般区間の建設を5年以内に目指す」との表現があるが、いつ着工とは明記していない。「目指す」では単なる努力目標で、着工されなくても誰も責任を問われることはない。
 
 それでもリニアが実現した場合だが、まず、これは採算が取れる路線なのだろうか。つまり、リニアには、10兆円とも囁かれる事業費の調達と、それを回収する採算性の確保という二重の問題がつきまとう。数年前、JR東海は「飛行機の運賃(1万5000円)以下にする」との見解も出していたが、それでは「のぞみ」(1万4000円)と変わらない。それが可能なのか?


原発増設? 電磁波は?

 さらに、克服すべき課題がいくつか指摘されている。
 まず、冒頭でKさんが指摘した電力消費。89年、新聞に「リニアの電力消費は新幹線の40倍」と投稿したところ、尾関雅則JR総研理事長(当時)は「K氏の誤解。3倍である」との反論を寄せた。
 この論争に対し、甲府市でリニア反対運動を展開する「市民によるリニア実験線検討委員会」代表の上野さかるさんは「何倍であれ、新幹線よりも電力を食うということが開発側が明らかにしました」と、今後の原発増への不安を表す。
 というのは、88年、上野さんは反原発運動の一環で、東京電力に原発増設中止の申し入れに行った時、対応に出た職員の言葉に驚いたのだ――「増やさないどころじゃないですよ。リニアのために増設するんですから」
 実際、東京電力広報担当者は89年8月、毎日新聞に「リニアには膨大な電力が必要。近い将来(山梨県は)全国有数の原発消費県になる」と表明した。確かに、根拠はないが、新潟県柏崎刈羽原発では、リニア実験開始後、原子炉2基が増設され、同原発から実験線への送電塔が400本以上も林立しているのだ。
 その高圧線は、100万ボルトと世界一の高圧だ。そして、リニア中央新幹線のための変電所は、20〜30qおきの設置予定だから、約1万本の送電塔が林立することを意味する。
 市民団体「高圧線問題全国ネットワーク」代表の掛樋哲夫さんは、高圧線からの電磁場を問題視している一人だ。
「高圧線近くでの居住制限などの法的規制はありません。先進国の高圧線問題で必ず問題になるのが、高圧線周辺での子どもの白血病です」
 例えば、大阪府門真市の古川橋変電所には15万ボルトの高圧線が集まっているが、周辺地区では、白血病患者が高圧線近くに集中するという事例がある。懸樋さんは、リニアを作る前に、徹底した論議が必要だと主張する。
 また、リニアのトンネル工事の影響で、大月市朝日小沢地区の水源が枯れた。そして、東京大阪間で想定されているトンネル区間は実に80%に及ぶのだから、水源への影響も無視できる問題ではない。


中国か月か

 以上のような問題が将来に横たわる。これらは解決されるのだろうか?
 7月の三者合意で、実験の5年間延長、一般区間着工を「目指す」とした意図について、前出の森谷教授は次のように分析してくれた。
「予定通り来年3月に実験終了しても次がない。一方、ここで計画中止ともいえない。5年延長というのは、問題の先送りですね。その間に、東海道新幹線の基盤が老朽化するなどの理由付けの機会を伺って、国費投入を期待するのだと思います。勿論、5年後の実験再延長もありえます」
 現状では、開通見込みのない「リニア中央新幹線」。だが続けられる実験。あと5年延長すると、実験は実に42年続くことになる。そして、国家プロジェクトではないにしろ、国は既に400億円近くも山梨実験に助成し、今後も巨費が投じられていく。
 今年4月、リニアは有人走行としては鉄道最速記録の時速552キロを樹立した。8月の親子試乗大会では、多くの親子が、わずか30秒間の時速450キロを堪能した。多くの人にとって、リニアはまさしくバラ色の乗り物だ。
 だが、実験線近くのある村人は自嘲気味に語る――「皆が踊らされました。バブルの時、リニアを誘致した金丸信代議士(山梨選出)を先頭に県市町村が踊り、我々も・・」
 果たしてリニアはどこに向かうのか。
 そんな中、この超伝導技術の意外な行き先を示唆する人がいる。山梨放送のディレクターは、リニア開発に携わった元国鉄技師A氏から、リニアの中国輸出の可能性を聞いている。中国では長い直線距離がとれ、費用のかかるトンネル工事も少ない。実際に中国からの視察もあったという。
 そして、もっと可能性のある話として、NASA(アメリカ航空宇宙局)が関心を示しているというのだ。山梨実験線には1000分の40(1q進んで40b上がる)という急勾配があるが、リニアには何の問題もない。この超伝導技術をもってすれば、空気抵抗ゼロ、重力が地球の6分の1の月では、どんな角度でもロケットを発射できる。あとは慣性力だけで地球まで飛ばせるという話である。
 来る21世紀、リニアは、バブルの負の遺産になるのか、走るのか。あながち、月で活躍する方の現実性が高いような気がする。

2006年末時点でも、まだ「実験」は続いている。以下、06年12月13日の朝日新聞です。
<リニア実験線「13年度までに」>
 国交省委員会が提言
 山梨リニア実験線(山梨県都留市など)で続けられている超伝導リニアの技術開発について、国土交通省・超伝導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会(委員長・正田英介東京理科大教授)は12日、13年度までに実験線全線(42・8キロ)を建設するとした提言をまとめた。全線建設の年度が提言で示されたのは初めて。

2007年12月25日  JR東海が自己負担を前提とした東海道新幹線のバイパス即ち中央新幹線の推進について表明
 JR東海は、平成19年12月25日、東海道新幹線バイパスに係る第一局面としての首都圏から中京圏間の路線の建設について、全国新幹線鉄道整備法による中央新幹線として自己負担を前提に手続き等を進めると発表しました。

2008年に入ると、JR東海は国に頼らずに建設費5兆円以上を負担することを表明。
                                    毎日新聞08年9月19日 地方版

リニア中央新幹線:Bルート実現求め要望書提出 上伊那期成同盟会が知事に /長野
 JR東海が直線ルート(旧Cルート)でのリニア中央新幹線建設を表明し、ルートから外れる見通しとなった上伊那地区の期成同盟会関係者が18日、県庁に村井仁知事を訪ね、上伊那・諏訪地区を経由する「Bルート」実現を求める要望書を提出した。
 小坂樫男・伊那市長は「県がリーダーシップを取ってほしい」と要望。知事は「重大な関心は持っている」と前置きした上で「しかるべき時期になったら動く」と述べるにとどめた。【神崎修一】
 

2008年10月4日 中日新聞朝刊

リニアの南ア貫通トンネルは15キロ JR東海想定、新幹線の3分の1

 2025年のリニア中央新幹線開業を目指すJR東海が、想定ルートで最難関としていた南アルプス貫通トンネルの長さについて、山間部でのリニアの 走行性能などを踏まえ、最長15キロ前後と見込んでいることが3日、分かった。10月中に国土交通省に提出する東京−大阪間の地形・地質調査結果ととも に、正式ルート決定に向けた重要な判断材料になる。
 旧国鉄は1987年の内部文書で、標高2000−3000メートル級の山脈直下を貫く南ア貫通トンネルについて、当時の新幹線の走行性能を前提にすると、最長47キロが必要としていた。
 一方で、磁力で車体を浮かして走るリニアは摩擦抵抗が小さく、上り斜面の高速走行性能が格段に進歩すると分析。より標高が高い山肌を開口部にすることで、トンネルの長さは新幹線の約3分の1の最長16キロ程度に抑えられるとしていた。
 JR東海はこれらのデータを基に、土木技術の進展などを検証。走行時の安全性などを総合的に踏まえ、現在の技術では最長15キロ前後での貫通が可能と想定した。
 国内では既に、JR北海道の青函トンネル(約54キロ)、東北新幹線の岩手一戸トンネル(約26キロ)などの建設実績があり、実際の掘削距離が仮に延びたとしても「技術的には問題ない」(幹部)としている。
 JR東海はこれとは別に90年から、南ア周辺を含む想定ルートの地形・地質調査を進めており、中央構造線(大規模断層)の影響を最小限にとどめる には、山脈の南縁へのトンネル設置が有効と判断。花こう岩などの固い地盤で地質が安定し、岩盤が崩れやすい「破砕帯」の規模が小さく、地質面でもトンネル 掘削に支障はないとみている。
 同社は近く、3つの想定ルートの地形・地質調査結果を国交省に提出する予定。同省はこれを受け、輸送力や施設の技術開発、建設費などの調査指示を年内にも出す方針で、リニア計画は実現への大きな節目を迎える。

 【リニアの想定ルート】 JR東海が1990年から地形・地質調査を進めているのは、南アルプスの北側を通り長野県の木曽谷を南下するAルート、 同県の伊那谷を通るBルート、南アルプス貫通で東京−大阪を最短距離でつなぐCルートの3ルート。葛西敬之会長は今年2月の講演で「リニアは南アルプスの 山の中をぶち抜く」と述べるなど、Cルートの採用に強い意欲を示している。これに対し、沿線自治体からはルート決定や中間駅について意見調整を求める声が 出ている。

 私は、この計画がずっと実験を繰り返すだけなのではと思っていました。しかし、にわかにその実現を匂わせる報道が08年10月7日にありました。
                                                     2008年10月7日朝日新聞
リニア新幹線「南アルプス直下ルート」  JR東海方針

 JR東海は、東京―名古屋で25年の開業を目指すリニア中央新幹線を、南アルプスをほぼ直線に貫くルートで建設する方針を固めた。建設費や乗車時間の面で有力だった直線ルートについて、課題だった地形や地質上の問題を克服できると確認できたため。今後の焦点は、別ルートを求める長野県など地元自治体との協議に移る。住宅地や山間部での環境問題も、課題になる可能性がある。
 JR東海は、来週にも直線ルートの建設は技術的に可能とする調査結果を国土交通省に報告する。
 同社は、リニアの路線として直線ルートと、南アルプスを北側に迂回(うかい)するルートの二つを検討。用地買収が容易なため建設費が安く、乗車時間も短い直線ルートを有力としてきたが、南アルプスを掘削するトンネル建設に技術的な課題が残っていた。今回、旧国鉄時代の74年から続けてきた地形・地質調査で、わき水や断層などの課題は技術的に克服できると国交省に報告することで、同社は直線ルートでの建設へ大きく踏み出す。

 リニア中央新幹線は、JR東海が独自資金で建設を進める。しかし、土地収用など法制面の支援を受けるには、国交省から建設主体の指名を受ける必要があり、その国交省は「地元との調整が必要」との立場。沿線自治体の長野県は県内をより長く通る北側への迂回を希望しており、JR東海は、地元への配慮を示しつつ直線ルートへの理解を求めていく構えだ。

 直線ルートの場合でも、甲府市付近や長野県南部の飯田市付近には、途中駅が建設される可能性が高い。「地元負担」としてきた途中駅の建設費などが、地元との協議の対象になりそうだ。
 JR東海は昨年12月、5.1兆円を投じて最高時速500キロのリニアを建設し、東京―名古屋を新幹線の半分にあたる40〜50分で結ぶと発表。これらの費用や所要時間は直線ルートを想定する一方で、ルートの最終選定は地形・地質などの調査も踏まえて決定する方針を示していた。
 ルート途上にある山梨県内の実験線も今年5月に延伸工事に着手しており、14年春までに現在の18.4キロから42.8キロに延ばす。東京の起点には品川駅、名古屋の起点には名古屋駅を想定している。名古屋への開業時までには、大阪に向けて着工することを目指している。
 JR東海は、リニアを輸送力が限界に近づいている東海道新幹線の「バイパス」と位置づけており、技術の海外輸出も視野に入れている。(山本知弘、山本精作)

「唯一可能なルート」 リニア新幹線  地元の反発覚悟

 リニア中央新幹線計画が、南アルプスを貫く直線ルートで進められることになった。JR東海が地元長野県の反発を覚悟で同ルートを選んだのは、経済合理性や建設用地の確保などを考えると、「事実上、唯一可能なルート」(同社首脳)だったからだ。
 南アルプスを北側に迂回し、同県諏訪地方を通るルートも想定されてきた。長野県内は長野新幹線が県北部の長野市まで通じ、諏訪など中南信は「取り残された」と感じている。このため県は、最南部だけを通る直線ルートではなく、県中央部近くも通る迂回ルートを強く求めてきた。
 JR東海も地元の意向は承知しているものの、所要時間では、「10〜20分は短い」とも言われる直線ルートがもともと有力だった。ルート別の詳細な建設費用の比較はこれからだが、建設資金の面でも「迂回ルートより直線ルートの方が建設費が1兆円近く安く済む可能性がある」(同社幹部)とも言われる。

 リニア特有の性能もある。最高速度500キロのリニアは急カーブに弱い。最高速度で曲がれるカーブは半径8キロ以上。東海道新幹線の2.5キロよりはるかに大きく、人口密度の高い諏訪地方で住宅地を縫って用地買収を進めることは極めて難しい。

 直線ルートは、トンネル建設費がかさむものの用地確保は容易だ。1キロあたり40メートルという急傾斜を登れるリニアの特性を生かせば、高い地点にもトンネルを設けることが可能だ。トンネル上の山塊の圧力を減らすことで費用を抑えられることも分かってきた。

 ただ、長野県の反発次第では建設は頓挫しかねない。JR東海は、東北新幹線などの整備根拠になった全国新幹線鉄道整備法に基づき、リニアを建設する方針だ。土地収用への支援や固定資産税の減免という利点もあるためだが、同法に基づく建設を国土交通省が認めるには、地元自治体の同意が前提になるからだ。

 迂回ルートに期待をかけてきた諏訪地方やその南の上伊那地方には、単線区間も残るJR中央線やJR飯田線への不満がある。JR東海が今後、地元の理解を求めていくうえで、甲府市付近と飯田市付近にできる可能性が高い途中駅の建設費の一部負担のほか、途中駅と在来線との接続、在来線高速化なども求められる可能性が高い。【山本精作】
2008年10月10日朝日新聞「声」より

 リニア新幹線国民的議論をペンション経営 深谷桂子 山梨県北杜市
 夢のまた夢と思っていた東京ー名古屋を結ぶリニア中央新幹線ですが、JR東海の自費建設案で現実味が増してきました。7日朝刊には、「『南アルプス直下』方針」との記事が路線図とともに掲載されました。
 北岳、甲斐駒ヶ岳などの百名山がある南アルプスの山腹にトンネルを掘り、リニア新幹線を通していいのでしょうか。
 貴重な動植物の宝庫でもある南アルプスは国立公園ですし、地元では「世界自然遺産」にという運動も行なわれています。南アルプスの自然は誰のものでもありません。リニア新幹線建設でどういう影響が出るのかはわかりませんが、自然を壊してしまってからでは戻せないのです。
 スローライフが叫ばれる昨今、リニア新幹線のその速さが、人々の生活をどれだけ幸せにするというのでしょう。JR東海がリニア新幹線建設にかける巨額の資金には、国民のためになるもっと別な使い道があるのではないでしょうか。
 リニア新幹線建設の是非については、国民全体で議論をすべきだと思います。

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