北朝鮮
北朝鮮は23日、黄海上にある韓国の延坪島を砲撃し、民間人に被害を及ぼす重大な挑発行為に出た。 海上の南北境界線に当たる北方限界線(NLL)をはさみ、南北が対峙(たいじ)する黄海では南北艦艇銃撃戦や韓国哨戒艦沈没事件などが過去にも起きたが、北朝鮮が韓国の島に直接砲弾を撃ち込むのは朝鮮戦争休戦後初めてだ。ウラン濃縮による核開発問題に続き、危機を一気にエスカレートさせる北朝鮮の狙いはどこにあるのか。
◆突然の砲撃
23日午前10時。韓国軍は黄海で射撃訓練を開始した。22日から30日までの日程で、米空軍も参加して行う陸海空の軍事訓練「護国訓練」の一環。1996年以降、定例で行っている訓練で、特別なものではない。しかし、北朝鮮側は今回、異様な反応を示した。23日午前には「侵略訓練であり、北側領海に射撃する場合、座視しない」と警告する電話通知文を韓国側に送った。
午後2時34分。延坪島付近の海域に突如、ドーンという砲撃音が鳴り響いた。島民は韓国軍の訓練の音かと思っていたが、北朝鮮軍が放った数十発の砲弾のうち、一部が海上ではなく島に着弾した。森林や住宅から炎と黒煙が立ち上る。
韓国軍は直ちに、砲撃を行った北朝鮮の海岸基地に向け、自走砲で80発の対抗射撃を実施した。軍は、局地的な武力挑発に対するものとしては最上級の警戒態勢に入った。韓国側は北朝鮮側に電話通知文を送り、砲撃の中止を要求。交戦は午後2時55分、いったん止まったが、午後3時10分に再び起こり、同40分にようやく収まった。その後、北朝鮮軍の目立った動きは伝えられていない。
◆業煮やす?
韓国政府は対策会議を相次ぎ緊急招集し、対応に追われた。大統領府によると、北朝鮮の砲撃直後に報告を受けた李明博(イミョンバク)大統領は、緊急首席秘書官会議を開き、「交戦規則に基づき、断固対応しろ」と指示を下した。午後4時35分には、国防相、外交通商相、統一相らによる安保関係閣僚会議を主宰した。
同じ頃、米国のスティーブン・ボズワース政府特別代表(北朝鮮担当)は、韓国と日本で北朝鮮のウラン濃縮による核開発問題を議論した後、北京に向かっていた。ボズワース氏は23日朝、東京での記者会見で、北朝鮮がウラン濃縮を進めている中では、核問題を巡る6か国協議の再開は「考えられない」との厳しい認識を示していた。
北朝鮮が最近訪朝した米科学者らにウラン濃縮施設を公開したり、3回目の核実験を行う兆候ともとれる動きを見せていたのは、米国を対話に引き出す狙いとみられていた。しかし、ボズワース氏は表向きは、北朝鮮の挑発を相手にしない姿勢を明確にした。北朝鮮はこうした対応に業を煮やし、今回の無謀な軍事行動に出た可能性がある。
◆平和協定狙いも
「南朝鮮かいらいが、我々の再三の警告にもかかわらず、延坪島一帯のわが方領海に砲撃を加える無謀な軍事的挑発を働いた。軍事的挑発に、即時的で強力な物理的打撃で応じる軍事的措置を講じた」
北朝鮮の朝鮮人民軍は23日夜、攻撃を正当化する声明を発表した。北朝鮮は米国主導で設定されたNLLを認めず、延坪島周辺は自国領海内にあるという身勝手な主張によるものだ。
北朝鮮はこれまで、米朝対話の目的の一つとして、朝鮮戦争の休戦協定に代わる平和協定の締結を挙げてきた。独自の海上境界線を一方的に設定している北朝鮮にとって、この海域の緊張を高めることは平和交渉の必要性を強調することに役立つ。さらに、関係国には「朝鮮半島はいつでも紛争状態に陥る危険がある」との不安感を与え、交渉の突破口を作り出すきっかけにもなりうる。(ソウル 竹腰雅彦、仲川高志)(2010年11月24日10時08分 読売新聞)
*読売新聞 国際