《当庁発表「事前登録手続について」第1、(8)(筆者注:会員社が発行する媒体に署名記事等を提供するなど、十分な活動実績・実態を有すると認められる者)に該当しないため》
東京地検の定例会見に出席できると聞いて「事前登録」を試みた筆者は、結局のところ上記のような無味乾燥な一文で登録不許可処分となった。日本新聞協会や日本雑誌協会など特定の団体に加盟した業者(会員社)の証明書がないとダメ――。東京地検検察広報官である森田茂男氏の説明は、要するにそういうことだった。いくら考えてもわからない理屈である。
記者という同じ職業に携わっていながら、ある会社と関係がある者は会見に出席することができて、それ以外の者は出席できない。その会社がどういう基準で選ばれているかはいっさい不明ときている。
東京地検の基準でいけば、たとえば薬局の業界紙である『薬事日報』は会見出席が認められる。「日本専門新聞協会」に属しているというのがその理由だ。一方、『週刊金曜日』はダメである。『薬事日報』と『週刊金曜日』と、どちらがより多くの検察に関連する報道をしているか、明白なのにもかかわらずだ。
やはりこういう扱いは「差別」という表現が的確だろう。「ハンセン病への偏見や差別をなくしましょう」などと大書きした垂れ幕を飾っている検察庁は、その足元で露骨な差別をやっている。そうとしか思えない。
差別されて気分のいい人はいないだろう。筆者も気分を害した。それでも当初は、あくまで「記者会見に出席できない」という扱いに腹が立ったくらいで、取材の実務面に関しては不便を感じることはないだろうと考えていた。会見に出席できなくても、東京地検がこちらの聞きたいことに答えてくれればそれでよい。「事前登録」はあくまで定例会見のためのもの。個別の取材については別だろう。そう考えていた。
ところが、すぐにこの考えが甘かったことに気づいた。「事前登録は定例会見のため」という東京地検の説明は真っ赤なウソだったのだ。ウソに気づいたのは以下の事件がきっかけである。
さる7月9日午後4時ごろ、朝日新聞のインターネットサイトで、偶然こんな見出しの記事を見つけた。
「感染研の元会計担当職員、収賄罪で起訴 東京地検特捜部」
国立感染研究所の職員・藤野信明氏(懲戒免職)が、業者から賄賂をもらった収賄罪で起訴された。そういう内容だった。記事を見た筆者が反射的に興味を抱いたのは、記事のネタ元だった。
「起訴」というのは刑事訴訟法上の司法手続きである。したがって情報が出うる経路は3つ。訴追する側の検察、被告人を裁く場である裁判所、そして被告人自身や家族・知人または弁護人の3つである。
筆者は電話をとり、東京地検にかけた。電話に女性職員が出た。要件を説明する。
「国立感染研究所の藤野さんが起訴されたという件についておうかがいしたいんですが」
「ああ、記者会見した件ですね」と女性は言った。
「記者会見やったんですか?」
「はい、2時半からやっています」 東京地検はこの日、つまり7月9日午後2時30分から記者会見をやって起訴を発表したのだという。情報の出所は東京地検だった。朝日新聞の記事は東京地検の発表をもとにして書かれたものだった。
引き続き女性職員に尋ねた。
「発表内容を確認したいので教えてください」
「あ、はい」
女性が口ごもった。
「発表されたんですよね」
「はい」
「正確な記事を書きたいので、発表内容を教えてください」
「失礼ですが……」
「ジャーナリストの三宅勝久といいます」
「ちょっと確認しますので少しお待ちください」
電話は保留音に変わった。そして数分後、男性の声に変わった。
「どうもどうも森田でございます」
聞き覚えのある声は森田広報官だ。フレンドリーな口調である。
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