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2010年11月24日(水)付

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北朝鮮の砲撃―連携し、暴走を許すな

常軌をあまりに逸した、北朝鮮による軍事行動である。きのう、朝鮮半島西側の黄海に浮かぶ韓国領の大延坪島周辺に、北朝鮮から数十発の砲撃がいきなり加えられた。韓国軍が応戦した[記事全文]

修習生の給料―理念なき存続後が心配だ

司法修習生への給与の支払いが、あと1年続くことになりそうだ。民主、自民、公明3党が合意し、週内にも議員立法で裁判所法を改めるという。月二十数万円になる給与や手当をやめて[記事全文]

北朝鮮の砲撃―連携し、暴走を許すな

 常軌をあまりに逸した、北朝鮮による軍事行動である。

 きのう、朝鮮半島西側の黄海に浮かぶ韓国領の大延坪島周辺に、北朝鮮から数十発の砲撃がいきなり加えられた。韓国軍が応戦した。

 民家に着弾して炎が上がる映像が世界に流れた。韓国兵や民間人に死傷者が出た。退避命令を受けた島民は防空壕(ぼうくうごう)や韓国本土に逃げた。韓国軍は最高レベルの警戒態勢に入っている。

 北朝鮮の砲撃は明らかに朝鮮戦争の休戦協定に反する。国連安全保障理事会などで、国際社会が連携して対応を急ぐべきだ。まず大切なのは、事態をこれ以上に悪化させないことだ。

 南北双方に自制を強く求める。

 朝鮮半島は1953年の休戦以降も南北間に政治・軍事的に不安定な状態が続き、衝突も起こってきた。

 たとえば陸上では、68年に北朝鮮ゲリラが韓国大統領府(青瓦台)襲撃を図り、韓国軍と激しい交戦があった。軍事境界線を挟んで南北間の銃撃もたびたびあった。

 休戦ラインがはっきりしている陸上と違い、黄海上はさらに不安定だ。

 休戦後、米軍主体の国連軍が海上に北方限界線(NLL)を引き、事実上の境界線として機能してきた。北朝鮮は認めておらず、独自のラインを南側に食い込ませて引いている。

 この海域では、ワタリガニ漁が盛んな夏場、北朝鮮漁船がNLLを南に越えるなどし、それを機に南北艦艇が銃撃・砲撃戦をしてもきた。

 だが今回は、民間人が多く住む島への軍事攻撃である。到底、許されるものではない。

 韓国軍は現場海域で軍事演習をしていた。北朝鮮軍は「南朝鮮が軍事的挑発をし、断固とした軍事的措置を講じた」と報道し、軍事演習に対する行動だったことを主張している。

 過剰で身勝手な反応である。

 現場近くでは今春、韓国軍の哨戒艦が沈没した。米韓などの国際調査団は北朝鮮製の魚雷による攻撃だと鑑定した。また、北朝鮮は新たな核兵器開発に直結するウラン濃縮施設の存在を公表したばかりだ。

 北朝鮮では今年、健康不安にある独裁者・金正日(キム・ジョンイル)総書記の三男、正恩(ジョンウン)氏が後継者として選ばれた。もしも、今回の砲撃が後継体制の基盤固めや三男の権威付け、首脳部に対する軍部の「忠誠心競争」の結果だとすれば、あまりに独りよがりで危険である。

 韓国は人的な被害も出てつらい立場にある。だが、新たな挑発を北朝鮮に起こさせないために、現在の抑制的な姿勢を続けてほしい。日米をはじめ、世界がそれを支持するだろう。北朝鮮に最も影響力を持つ中国も、これまで以上に強い態度で、理不尽な行動を止めさせるよう動くべきだ。

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修習生の給料―理念なき存続後が心配だ

 司法修習生への給与の支払いが、あと1年続くことになりそうだ。民主、自民、公明3党が合意し、週内にも議員立法で裁判所法を改めるという。

 月二十数万円になる給与や手当をやめて、かわりに生活資金を無利息で貸与する。そう定めた改正裁判所法が今月1日に施行されたばかりだ。ドタバタ劇も極まれり、である。

 貸与の申請は既に行われ、全体の15%にあたる300人弱は手続きしていない。こうした「蓄えなどでやっていける」という人にもさかのぼって一律に支給する。財源はすべて税金だ。

 日本弁護士連合会が給費制存続を訴え、公明党が積極姿勢を見せた。ねじれ国会の下、同党をつなぎとめたい民主、自民両党が乗った。それが今回の方針変更の背景だ。

 そこには、法律家をどう育てるか、税金をいかに有効に使うかとかいった理念や哲学は見いだせない。

 法律家の養成や支援に国費を充てるのがおかしいと言うのではない。その役割を考えれば、社会が一定のコストを引き受けるのは理解できる。だがそれは、修習生全員に100億円近い現金を支給することではなかろう。

 過疎地で活動するなど公の使命を担った弁護士には、貸与したお金の返還を免除する。国選弁護の報酬を増やす。貧しい人が裁判を起こす時、国が援助する事業の予算を充実させる――。そんなメリハリのある税金の使い方を私たちは主張してきた。

 各党も、さすがに給費制の全面復活は納税者に理解されないと思ったようだ。貸与制への移行を1年先送りし、その間に法曹養成のあり方をあらためて議論するという。

 問われるのは「議論」の中身だ。日弁連の中には、この際、弁護士の数を抑える方向に政策を転換させ、権益を守ろうとする動きがある。もちろん数をただ増やせばいいわけではない。しかし、司法を使いやすく頼りがいのあるものにするという、司法制度改革の原点を忘れてはならない。

 もともと給費制の見直しは、法曹人口の拡大や法科大学院構想と一体のものとして、時間をかけオープンな場で議論を重ねて導き出された。

 これに対し日弁連執行部は今春から「金持ちしか法曹になれなくなる」と唱え、「借金があると利益第一に走り人権活動ができなくなる」と脅しともいえる言葉で存続を訴えた。

 その結果「1年延長」を勝ち取ろうとしているが、失ったものも小さくない。それぞれの立場でこの問題にかかわってきた法科大学院や法律家、そして一般国民からの信頼である。

 かつての司法界は、関係者の相互不信の中、改革や前進はほとんど見られず、存在価値を自らおとしめていた。あの時代に戻してはならない。

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