【仁川(韓国北西部)西脇真一、ソウル大澤文護】韓国軍は24日、北朝鮮による砲撃を受けた黄海上の延坪島(ヨンピョンド)をはじめ周辺の韓国領の島々で、前日発令した最高度の警戒態勢を維持し、北朝鮮の再度の武力挑発の可能性に備えた。延坪島と、その西方に位置する白※島(ペクリョンド、※は令へんに羽)などと仁川港を結ぶ4航路の定期旅客船は、運航を全面的に中断した。延坪島からは漁船や、海洋警察の艦艇に乗船して避難する人が相次いでいる。
午前中の漁を終えた人々がくつろぐ漁港で突然、爆発音が響き、火柱が立った。北朝鮮の砲撃から一夜明けた24日、延坪島から漁船で避難してきた人々の証言で、北朝鮮の砲撃直後、修羅場と化した現場の様子が明らかになってきた。
避難住民らによると、北朝鮮の攻撃は、延坪島の漁港や住宅地が集まる島東南部に集中した。
24日午前1時過ぎ、漁船に乗って仁川に到着した金チョルチンさん(25)。彼は08年に北朝鮮を逃れて韓国に到着し、今は漁船員として働く「脱北者」の一人だ。砲撃が始まったのは、金さんが漁港近くで出港準備作業をしていた時だった。
「すぐ近くで爆発音が聞こえた。最初は、韓国軍の射撃訓練の誤爆かと思った」
しかし、すぐに砲弾が次々と頭上を越えていくのに気付いた。やがて街のあちこちに設置された緊急放送用の拡声器が「訓練ではありません。すぐに退避してください」と緊急事態を告げた。やがて、石油タンクなどの軍施設が炎上する様子が見えた。仁川港にたどり着いた金さんは「北朝鮮に生まれたのに、生まれ故郷からの攻撃で死にそうになった。何とも言えない心苦しさを感じる。同じ民族なのに、戦うなんてごめんだ」と語った。
漁港から離れた住宅地域にいたと言う住民は、韓国紙・朝鮮日報の取材に「100メートルごとに砲弾が一つずつ落ちてきたような気がした。あちこちに40~50センチの大きさの砲弾の破片が散らばっていた。直撃すれば、即死するだろうと思うと震えた」と語った。住宅地域で民宿を経営する40代の女性は「集落全体が煙に包まれ、すぐ横も見えなくなった。ひと言で言えば『火の海』だった」と恐怖の瞬間を思い返していた。
韓国メディアの報道によると、砲撃で島内の携帯電話の中継基地が、ほぼ壊滅した。そのため電話連絡ができなくなり、住民たちの不安をあおった。
仁川海洋警察によると、延坪島を23日夕方に出港した、運航停止直前の定期旅客船の215人のほか、24日未明までに19隻の漁船に乗って394人の住民が仁川に避難。だが1600人を超える住民全体の避難状況は把握できていないという。
韓国軍は、延坪島の住民に島内の軍施設も含めて安全な場所に身を寄せるよう「退避命令」を出したが、島からの「避難命令」は出していない。
中国と朝鮮半島に囲まれた黄海に浮かぶ韓国の島。西岸の港湾都市、仁川(インチョン)市にある仁川港から約90キロ西に位置し、北側の大延坪島と小延坪島からなる。砲撃を受けたのは人口が集中する大延坪島。島民約1660人のほか、韓国軍兵士約600人が滞在するとされる。島周辺はワタリガニの好漁場として知られ、島民の半数は漁業に従事している。南北の海上軍事境界線の北方限界線(NLL)に近く、カニを追う北朝鮮漁船と警備艇が境界線を越えたことをきっかけに、99年、02年の2度、南北の銃撃戦に発展。今年8月も北朝鮮側が砲撃を行ったが、韓国側には届かなかった。
毎日新聞 2010年11月24日 11時56分(最終更新 11月24日 12時15分)