北朝鮮による韓国への砲撃は、今年3月に韓国海軍の哨戒艦が北朝鮮による魚雷攻撃で沈没した事件と同様の軍事的挑発と言っていい。米韓両国は北朝鮮を無視し対話に応じない「戦略的忍耐」という政策を取っており、北朝鮮は、その打破を狙っている。北朝鮮が最も大事にしているカードは、最近公表したウラン濃縮だ。今回の事件は、核開発の本気度を示し、関係国の目を覚まさせる追加的措置だ。
北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記は健康不安があり、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党中央軍事委員会副委員長への後継体制固めも含めた生き残り戦略の中で、事件を起こした。金総書記が砲撃の意思決定に関与しているとみられ、内部の混乱によるものと思わない。ボズワース米特別代表が訪中しているタイミングで、米韓や日本だけでなく中国へも本気度を示している。最終的には、米韓などとの関係を正常化し、朝鮮戦争の休戦協定に代わる平和条約締結など体制保証を得るのが目的だ。
韓国の軍事演習中を狙っており、言い訳も残した。北朝鮮は挑発をエスカレートさせていくとみられ、長期的には米韓も放置できなくなり、南北対話を行った後、米朝対話や6カ国協議開催に応じていく可能性がある。
北朝鮮の砲撃は韓国領土への無差別攻撃で、理解に苦しむ。これだけ大胆な行動を取れるということを内外に示して、金正日総書記の三男で後継者となる金正恩氏に対する軍の信用力を高める狙いがあるのではないか。北朝鮮が昨年実施した通貨ウォンのデノミネーション(通貨呼称単位の変更)がもたらした不満が国内で高まっていることが関係しているのかもしれない。
延坪島を選択したのは、北朝鮮と韓国の間で境界への考え方が異なるあいまいな地域である上、北朝鮮の海岸から近く、攻撃しやすかったからだろう。
韓国としては、北朝鮮がとった今回の行動が損になることだったと明らかにしなくてはならない。北朝鮮の韓国に対する攻撃は増すばかりで、感情的な批判が韓国国内でエスカレートする可能性がある。だが、北朝鮮の挑発に乗って強硬な対処をすると戦争に発展する恐れがあるので、対応は難しい。経済制裁や国際的な協調に基づいて北朝鮮への圧力を強めていくべきだ。
ウラン濃縮問題に続き、この攻撃で米国を交渉に引き出す作戦だとしたら逆効果だ。武力に基づく戦闘行為と言えるもので、人命が失われる悲惨な結果になり、国際的反発が起きるだけだ。
過去の事例を見ると、北朝鮮は指導者の後継が決まる時期に、軍事的な行動に出る傾向がある。
87年の大韓航空機爆破事件も、金正日総書記の後継が決まっていく時期に歩調を合わせるように起きており、軍が新しい指導者に対して忠誠心を示すとか、指導者側が軍の力を信じていることをアピールする狙いがあるのではないかと思われる。
今回の砲撃も、詳しい事情は分からないので分析は難しいが、金正恩氏が後継者に決まったことが関連しているのではないかと思われる。
また、北朝鮮は認めていないが、韓国海軍の哨戒艦が魚雷で破壊されたとされる今年3月の事件も、同様の理由によるものかもしれない。
ただ、きっかけとしてどちらかの国境侵犯があったのか、どちらが先に砲撃したのか、韓国側の情報だけでは断じきることはできない。
朝鮮戦争以降、北朝鮮が何日も続けて軍事行動を継続したことは過去に例がなく、今回も韓国側が慎重に対応すれば、状況が悪化することはないだろう。
しかし、もし韓国側が軍事的行動をエスカレートさせれば深刻な事態に陥ることが予想され、日本としても両国の動きを注意深く見守る必要がある。
毎日新聞 2010年11月24日 東京朝刊