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北朝鮮:砲撃、韓国応戦 黄海・境界付近の島 兵士2人死亡、住民にも被害

 ◇安保理が対応協議へ

 【ソウル大澤文護、ニューヨーク山科武司】23日午後2時半(日本時間同)ごろ、韓国が黄海上の南北軍事境界線と定める北方限界線(NLL)まで約3キロの韓国領・延坪島(ヨンピョンド)に向け北朝鮮側から砲弾100発以上が発射され、このうち数十発が島内の韓国軍基地や民家に着弾した。韓国軍合同参謀本部によると兵士2人が死亡、兵士15人が重軽傷、民間人3人が軽傷。韓国軍は対岸約10キロに位置する北朝鮮黄海南道の海岸砲基地からの攻撃とみて約80発の砲撃で応戦し、日本政府関係者によると、北朝鮮側にも被害が出たとの情報がある。北朝鮮が韓国領土を砲撃し、人的被害が出たのは1953年の朝鮮戦争休戦以来初めてで、朝鮮半島情勢は緊迫の度を増している。

 北朝鮮による砲撃を受け、国連安全保障理事会は24日以降、緊急の会合を開いて対応を協議する見通しだ。

 延坪島はNLLの南側に位置し、島民約1660人のほか韓国軍兵士約600人が駐屯する。韓国メディアによると、北朝鮮の砲撃は約2時間断続的に行われ、約60~70軒の住宅が破壊された。島の各所で火災が発生し、住民は島内の防空壕(ごう)や、島の東約90キロの仁川港などに定期船や漁船で避難している。

 北朝鮮の朝鮮人民軍最高司令部は23日、韓国軍が先に砲撃してきたとする声明を発表。韓国軍が北朝鮮領海を侵犯したと主張し、「領海を0・001ミリでも侵犯するなら、今後もちゅうちょせず無慈悲な軍事的対応打撃を引き続き加える」と警告した。朝鮮中央通信が伝えた。

 北朝鮮は99年にNLLの「無効」を一方的に宣言し、NLLの南側に独自の「軍事統制水域」を設定して延坪島周辺海域を含む一帯を北朝鮮領海と主張してきた。韓国軍は22日から黄海で演習を実施しており、韓国メディアによると、北朝鮮は「北側海域で射撃をした場合、座視しない」との通知文を韓国側に送っていたという。

 韓国軍当局は「演習では北朝鮮の方角ではなく西に向けて砲撃していた」と主張しているが、北朝鮮側が自らの領海と主張する海域での演習に反発し、砲撃した可能性もある。

 李明博(イミョンバク)大統領は直ちに招集した安保関係閣僚会議で「二度と挑発することができないよう対応措置を取る」と発言。大統領府の洪相杓(ホンサンピョ)首席秘書官は「韓国に対する明白な武力挑発だ。追加挑発時には断固対応する」との声明を発表した。

 韓国政府は事態拡大の防止を呼びかける通信文を北朝鮮に送る一方、全軍に非常警戒態勢を発令し、戦闘機が上空で警戒。25日から南北軍事境界線に近い韓国・坡州(パジュ)で予定していた南北赤十字会談の延期を発表した。

 ◇後継固めへ軍事成果

 北朝鮮は最近、周辺国との緊張を高めるような行動を取ってきた。訪朝したヘッカー米スタンフォード大教授に、ウラン濃縮施設を公開して2000基の遠心分離機を稼働させていると主張▽衛星写真から得られた情報として核実験の準備をしているとみられる--などだ。今回の韓国・延坪島への砲撃もその延長線上にある。

 北朝鮮では、9月の朝鮮労働党代表者会で、金正日(キムジョンイル)総書記の三男正恩(ジョンウン)氏が「後継者」として認知。ただ、正恩氏は党中央軍事委員会副委員長という要職に就きながら軍事面での功績はない。後継体制固めに向けて何らかの軍事的成果が必要とされていた。砲撃指揮で「成果」とし、軍部の求心力アップを図る狙いだったとみられ、砲撃は限定的に終わる可能性がある。

 北朝鮮は食糧事情を含め経済状況が逼迫(ひっぱく)しており、国際社会との関係改善で経済の立て直しを図りたい考えがある。その手段の一つが、6カ国協議を通じ、米国などから援助を引き出すことだが、日米韓3カ国は北朝鮮に核開発放棄を求める立場を崩していない。

 「初のウラン濃縮施設」を米国人科学者に公開しても、米国のボズワース特別代表(北朝鮮問題担当)は22日、米政府の従来姿勢に「変更はない」と強調。日米韓の連携を求め、同じ狙いで23日には中国を訪問した。北朝鮮は、唐突な軍事行動で関係国の連携を揺さぶろうとした可能性がある。【西岡省二】

 ◇韓国、外交圧力強化へ

 韓国は今年3月、黄海上で起きた海軍哨戒艦沈没事件で、国連安保理に北朝鮮制裁決議の採択を求めた。しかし、「冷静な対応」を求めた中国やロシアの反対で採択は見送られ、北朝鮮の武力挑発抑止を図られなかった。

 しかし今回は、哨戒艦沈没事件と違い、北朝鮮による砲撃は明らか。韓国メディアも「今回の事態は北朝鮮軍が民間人の住む地域に照準を定めて砲撃した」と兵士らが死傷した過去の事件との違いを強調している。

 ただ、11月にソウルであった主要20カ国・地域(G20)首脳会議の成功で「先進国入り」に手応えを得た李明博(イミョンバク)政権にとって、戦闘の拡大はなんとしても食い止めたいのが本音。軍事的挑発に激しく反応をすれば、社会不安や経済停滞も招く。一報が伝わる直前の23日午後3時に取引を終えたソウル市場で1ドル=1137・5ウォンだった韓国ウォン相場は、韓国域外の先物取引市場で同1180ウォン程度に落ちた。

 民間人が多数巻き込まれたことから、政府は「断固たる姿勢」も国民に示さなければならない。韓国は、北朝鮮と友好関係にある中国やロシアなどの外交的圧力で北朝鮮を封じ込めようとするだろう。【ソウル大澤文護】

毎日新聞 2010年11月24日 東京朝刊

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