相場英雄の時事日想:“漏れ”すぎた捜査情報……尖閣衝突事件を振り返る (2/2)
今後の捜査に支障も
「捜査の詳細が明らかにされるのは良いことではないか」「元記者の立場で、お前はどちらの味方だ」――読者からこんなおしかりが出てくるかもしれない。ただ、小説の取材を通じ出会った捜査関係者たちの話を聞くにつけ、「報じても良いネタ・悪いネタ」は確実に存在すると筆者は感じている。つまり、詳細を報じることにより、犯罪者に対して捜査の手法をさらしてしまう、あるいは逃げ道を作ってしまうことがあるからだ。
筆者は、巨額の身代金要求を伴うバスジャックをあつかった拙著『追尾』(小学館文庫)、市中の監視カメラを駆使して犯人を追跡する『偽計』(双葉文庫)などで、捜査関係者への取材をベースに据え、事件捜査の詳細を描写した。しかし、肝心のキモに関してはフィクションの要素で文面を埋めた。犯罪を助長したり、犯罪グループに利することはできないと考えたからだ。
本稿の冒頭に触れた現場捜査員の声は、“詳細に捜査情報と手法が開示されることで、捜査員が犯罪人に先回りをされてしまう”という懸念が含まれているのだ。また、こうした一連の捜査情報が組織上層部の“対永田町”の戦略に使われているのではないか、という不満も充満している。
捜査情報、捜査手法が公開されることになれば、一番苦労するのは実際に犯人を追跡する現場の捜査員であることは明白だ。彼らの士気が落ちてしまえば、巡り巡って犯罪検挙率の低下に通じるリスクもはらむ。海保保安官の一時的な身柄確保というイベントは、大きな代償を払ったと筆者はみる。
現政権の舵取りミスがもとで起こった動画流出事件は、最終的に今後の警察、現場捜査員の捜査に支障をきたす恐れがあると指摘したら言い過ぎだろうか。
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