児童虐待や育児ノイローゼが社会問題化する中、新米パパやママを音楽で応援する「歌う海賊団」が注目を集めている。「船長」で音楽作家のウチダトモヒロさん(41)=埼玉県川越市=は、妻を病気で亡くし男手一つで一人娘を育ててきた。「子育てに正解なんてない」。コンサート会場で発信するメッセージが、子供連れの親たちに元気を与えている。【伊藤一郎】
ウチダさんらはコンサート会場に集まった観客を「乗船クルー」と呼ぶ。発電機にちなみ、クルーたちの「発元気」を回すという曲でコンサートの幕が上がり、会場が一体感に包まれると、ウチダさんが語り出す。
<乗船してくれたパパやママ、子供たちをつい怒鳴っちゃうことってあるよな。おれ様だって同じだった。完ぺきな親なんてどこにもいない。子供だってちゃんと分かってる。全部ひっくるめて愛だぜ>
ウチダさんは97年に妻を脳腫瘍(しゅよう)で亡くし、4歳だった娘と2人暮らしを始めた。家事と仕事に追われ、ストレスから娘につらくあたっては、寝顔を見て謝ることもしばしばだった。経営していた防音工事店もうまくいかず一念発起して「夢」だった音楽の仕事への転身を図った。03年、ゲームアニメソングの音楽作家として遅咲きのデビューを果たした。
04年に小学校で教師をしている幼なじみから音楽の授業をしてほしいと依頼され、「夢と冒険」をテーマに海賊の衣装を着て自ら歌うことを思いついた。インターネットなどを通じて集まったメンバーで演奏したところ、子供たちの反応は上々だった。校長からも「続けたら」と励まされ、05年から「海賊団」として活動を始めた。
<時代の波は世知辛いけど 家族を守り続ける 大切な人の笑顔見たいから 今日も走る! がんばれパパ! がんばれママ!>
<忘れないで パパやママはいつも 心からキミの幸せだけを 願いながら 祈りながら 見つめているから 思い切り生きなさい>
自らの体験から、次第に「親子のきずな」をテーマとした歌が増えていった。
会場では、元気に踊る子供の横でハンカチを目に当てる母親の姿も目立つ。耳の不自由な子供も楽しめるよう手話も使う。「殺伐とした時代だからこそ親子のきずなを強め、『ニコニコ菌』を日本中に広めたい」。ウチダさんの思いだ。
自治体や幼稚園からの依頼があれば全国へ出張し、今は月4回のペースでコンサートを行っている。問い合わせは「Magic Port エンタテイメント」(049・231・7020)。
毎日新聞 2010年11月22日 11時56分(最終更新 11月22日 12時25分)