レアアース:中国への過剰依存を露呈 輸出手続き停滞問題

2010年9月24日 22時36分 更新:9月25日 0時28分

 日中関係の悪化に伴い、中国からの日本向けのレアアース(希土類)輸出手続きが滞った問題は、ハイブリッド車(HV)などハイテク製品を支える基幹原料の供給を中国に依存する日本の産業構造の脆弱(ぜいじゃく)さを浮き彫りにした。中国漁船の船長釈放で中国側の対応に変化も予想されるが、外交問題がこじれるたびに経済活動に影響が及ぶ「中国リスク」が露呈した格好。中国は今後も資源を「武器」にする姿勢を強めるとみられ、産業界は戸惑いを隠せない。【立山清也、宮崎泰宏、浜中慎哉】

 「中国政府は否定しているが、複数の商社から日本向けレアアースの新規契約や船積み手続きを止めるよう指示があったという情報が入っている」。大畠章宏経済産業相は24日の閣議後会見でこう指摘した。

 中国は7月、環境と資源の保護を理由にレアアースの輸出枠を対前年比で4割削減すると発表した。今回の手続き停滞は、7月からの輸出規制の影響なのか、事実上の禁輸措置なのかは明らかになっていないが、日本政府は「禁輸なら差別的措置を禁じた世界貿易機関(WTO)のルールに抵触する」と調査を継続する。

 中国の措置で影響を受けるのはレアアースを加工する化学メーカーや電子部品メーカー。7月からの輸出規制の影響は既に出ており、信越化学工業は、レアアースから作るエアコン用などの「高性能磁石」の価格を10月から平均2割値上げする。さらに今回の輸出手続き停滞について、「在庫は一定量確保しているが、長期になれば影響は大きい」(日立金属)と危機感を募らせている。

 HVや電気自動車(EV)にもレアアースは不可欠。ホンダや三菱自動車は、モーターの調達先となる部品メーカーへの確認を急いでいる。トヨタ自動車も「HVの普及が進むにつれ、レアアースの需給はさらに逼迫(ひっぱく)してくる」(幹部)と見通し、レアアースをできるだけ使わない製品への置き換えや、レアアースの再利用などを急ぐ方針だ。

 船長釈放で事態好転への期待感も出ているが、中国が、今後も「経済カード」で日本に揺さぶりをかけてくるリスクは消えない。ある経産省幹部は「日中関係が悪化するたびに日本製品の不買運動が繰り返されてきた。経済圧力で交渉を優位に運ぼうとする中国の常とう手段だ」と説明する。中国の資源外交に詳しい東京財団の平沼光研究員は「中国に対抗するには、レアアースの代替素材開発を急ぐなど、中国優位の状況に風穴を開ける戦略が必要だ」と指摘している。

 ◇「産業のビタミン」、ハイテク製品に不可欠

 レアアースは他の金属に混ぜると磁力が強くなったり、耐熱性が高まる特性があり、ハイテク製品の性能向上には不可欠で「産業のビタミン」とも呼ばれる。分離・精製が難しく、年間の生産量は鉄鉱石の17億トンなどを大きく下回る十数万トン程度と「まれ(レア)」な鉱物だ。世界生産の約97%は中国とほぼ独占している。

 代表的なレアアースの「ネオジム」は、ハイブリッド車(HV)やエアコン、冷蔵庫など家電製品のモーター用の磁石に使われている。HVなどに搭載されているニッケル水素電池には「イットリウム」、車の排ガスの浄化装置やレンズの研磨剤に「セリウム」が使われるなど、日本が競争力を持つ各種製品を陰で支えている。

 7月の中国による輸出規制を受け、ネオジムの価格は規制前の6月に比べほぼ2倍に高騰。日本はレアアース輸入の9割超を中国に頼るだけに危機感は強く、政府や商社は中国以外の調達先の開拓を進めている。また、日立製作所が磁石からレアアースをリサイクルする技術の開発に取り組むなど、各メーカーも対応を急いでいる。だが、こうした措置が効果を発揮するには時間がかかり、しばらくは「中国依存」を抜け出せそうにない。【弘田恭子】

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