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「将来の職業は」塾で学び考える キャリア教育に乗り出す狙いと業界事情

塾の講義で将来の職業を考える中学生ら=東京都国分寺市の「俊英館」恋ケ窪校で2010年10月8日、井上俊樹撮影
塾の講義で将来の職業を考える中学生ら=東京都国分寺市の「俊英館」恋ケ窪校で2010年10月8日、井上俊樹撮影

 塾がキャリア教育に乗り出している。子どもたちに将来の職業を意識させることで、勉強への意欲を高めるのが狙いだ。新たなサービスが登場する背景には少子化による塾業界の競争もある。【井上俊樹】

 ◆勉強の動機付けに

 ビジネスマンにパイロット、教師、技術者……。ホワイトボードにさまざまな職場で働く大人の写真が次々と映し出される。「いくつでもいいから、興味がある仕事に印を付けてみて」。首都圏で約50校を展開する中堅進学塾「俊英館」(東京都板橋区)。8日夜、都内の教室で講師の岡卓也さんが声をかけると、受講する14人の中学3年生が机の上の資料に一斉に向かった。

 自動車レースのF1が好きだと言う男子生徒に、岡さんが「企業はなぜ大金を使ってF1に参入すると思う?」と質問すると、生徒は「宣伝のため」と答えた。岡さんは「その通りです」と言った後、一呼吸おいて続けた。「ただ、実際に現場で車を設計したり組み立てたりしている人たちは、きっと『おれが世界で一番速い車を作るんだ』と思って仕事しているはず。生きがいを持って働くというのは、そういうことなんです」

 休憩をはさんで2時間半。「キャリアデザイン講座」と題したこの講義は、今年度から始まった。中学1年から3年生を対象に年間5~6回、3年間で計17回を無料で開く。一連の講座を通して、具体的な職種やその職業に必要な資格、能力だけでなく、フリーターと正社員の違いや税金と社会保険制度など、幅広く社会の仕組みを学び、「働く」ことの意味を考えさせる。中学3年の男子生徒(15)は「パソコンが好きなのでIT関係で働きたいけれど、学校の先生にも興味がある。どうやったらなれるかが分かって役に立った」と言う。

 「志望校合格」が目的の塾が、なぜキャリア教育に乗り出すのか。俊英館マーケティング部の小池幸司部長は「生徒の気持ちを将来に向けることで、勉強をするという動機付けを図るのが狙い」という。俊英館が導入したプログラムや教材は、NPO法人「日本青少年キャリア教育協会」が4年前、主に公立の中学校や高校をターゲットに開発したものだが、この1~2年で塾にも広がり、全国で80社近くに販売したという。野口久弘事務局長は「塾は想定外。ニーズの大きさに驚いた」と話す。

 ◆知的好奇心を喚起

 進学塾大手の市進学院(東京都文京区)は旅行会社のJTBと組んで、幼稚園から小学4年生を対象に、田植えや地引き網、酪農などを親子で体験する月に1回の日帰りツアーを今年度から始めたが、狙いはやはり同じだ。市進ホールディングスの田代英寿社長は「嫌々塾に通っても、本人が勉強したいと思わなければ長続きしない。勉強が面白いと思わせるためには、大人の世界には楽しいことがたくさんあるということを見せて、知的好奇心を呼び起こす必要がある」と語る。

 塾に通う子どもたちに「勉強したい」と思わせねばならない状況について、受験業界に詳しい森上教育研究所(東京)の森上展安所長は「『大学全入時代』を迎え、超難関校を目指す一部の子どもを除けば、受験のために勉強するというプレッシャーが成り立たなくなった。しかも、現在のように有名大学を卒業しても就職が難しい時代になると、有名大学合格が勉強のための動機になりづらくなった」と話している。

 ◇少子化、不況…市場縮み、競争激化

 受験には必ずしも直結しない講座を開く例は他にもある。

 首都圏の難関中学を目指す進学塾として有名な「SAPIX小学部」(東京都中央区)は、04年度から小学5年生を対象にした有料の環境講座を年に6日開講しており、対象学年の塾生約5000人のうち4割弱が参加する。10年ほど前から目立つようになった理科実験教室は今や全国の進学塾の定番になった。

 こうした新たなサービスが次々生まれる背景にあるのが、塾業界の競争激化だ。民間の調査会社「矢野経済研究所」によると、09年度の学習塾・予備校市場は前年度比2・6%減の約9000億円。02年度に比べると1割近く減少した。同研究所は、不況の影響で入塾時期を遅らせたり、入塾自体をあきらめる家庭が増える一方で、生徒数確保のために値下げした塾が相次いだことなどが原因と分析する。業界側も「安売りだけでは早晩破綻(はたん)する。勉強だけではない、付加価値のあるサービスを提供していかないと業界自体が生き残れなくなる」(市進の田代社長)と危機感を強めている。

毎日新聞 2010年10月23日 東京朝刊

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