2010年11月22日


微生物による地球環境支配の姿: 海洋地殻深部より炭素を変換するバクテリアが発見される



(訳者注) 訳してみると思ったよりも長く、内容もやや難しい感じで、もしかしたら読むのが面倒なものになってしまった気もしたので、ものすごく簡単に要約しておきす。内容自体は個人的にもとても関心があるものですので、要約だけでもお読みいただければと思います。

話の大筋としては海洋地殻という地球の地下で微生物が発見されたというものです。
海洋地殻とは、海底の下にある岩盤のことで(下の図の1の部分)で、

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今回の場所はアトランティスマシフという海嶺近くの海底の下です。
地殻に関しては、そこを掘っていくような地質学的な調査は今までも行われていたのですが、「生物学的に」調査されることはなかったのだそうです。最大の理由は、「温度が100度も200度もあって、酸素がまったくないようなそんなところに生物などいないだろう」という考え方が主流だったからのようです。

で、調査してみたら、微生物が大量にいたと。

そして、どうもこれらは「窒素や炭素を分解する遺伝子を持っているらしい」と。
要するに、大気成分の変換を行っているらしい。

その何が重要なのかというと、「地殻」というのは地球全域にわたっているわけで、もし、この「大気の保管と変換」をおこなっているバクテリアが地球全体にいるのなら、地球の環境の形成に非常に大きな影響を今でも与えているのではないかと。

ここで、記事には書いていない、訳者の私個人の言葉で言わせていただけば、「地球環境は今も昔も微生物に牛耳られている」という想いを今回の発見でさらに強くしました。

地殻は何キロという比較的深い場所にあるので、地球の表面が災害で滅びようが、氷河期になったり、スノーボールアースになったりしても、地上ほどには影響は受けないと思います。なので、地球表面の生き物が一掃されても、次の生命の萌芽まで脈々と調整していくのではないですかね。このバクテリアたちは。

ちなみに、ここのバクテリアの寿命はわからないですが、以前、記事にした今年の夏に海中で発見されたバクテリアの寿命は「最低でも1億年」と推測されています。

記事はこれです。

1億年の冬眠サイクルをもつとされるバクテリアがスヴァールバル島沖合の海底で発見される (2010年09月21日)


ちなみに、下の記事では火星にメタンが存在する理由を「地中に微生物がいるからでは」というレポートの内容も報告していますが、大気の存在が確認されている太陽系の惑星は全部同じではと思っています。
つまり、太陽系の惑星のほとんど全部に微生物はいるのでは、ということです。

大きな生物(いわゆる人間とか宇宙人とか)は、星の環境に対して無力なので、いてもいなくてもあまり関係ないですが、微生物は星にとって重要で、どこの星でも同じ活動を行っているのではないでしょうか。

微生物は強いですしね。
ひとつの惑星の微生物を全滅させるには、分子レベルで星まるごと砕くしかありません。

なお、 In Deep でこれまでご紹介させていただいた「極限環境微生物」関係の記事は記事下にリンクさせていただきます。

長くなってしまいましたが、ここから記事です。





Life Found in Undersea Atlantis Massif
Nano Patents and Innovations 2010.11.20

海底のアトランティスマシッフで生命が発見される

海洋地殻(海底の岩盤)のもっとも深い層の中においての生物学的な活動を調査する最初の研究によって、驚くべき能力を持つバクテリアの存在が明らかとなった。このバクテリアは、炭化水素と天然ガスを食べて生き、そして、炭素を固定して保存する能力を持っている。

オンライン科学誌「PLoS One」に発表されたところによれば、水の沸点近くの温度においてさえ、かなりの数のバクテリアが存在することが示された。

最近調査がなされた、この大西洋にある海底山脈下の海底岩盤は、これまでおこなわれた微生物の活動状況の調査の中で、もっとも深い位置にある海洋地殻だ。

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「これは、これまでに誰も調査しなかったといってもいい新しい生態系です」と、オレゴン州立大学の海洋大気科学が専門のマーティン・フィスク教授は言う。

「多少のバクテリア等がいるのではないかとは我々も考えていましたが、今回の研究で示されたバクテリアの生体活動のリストは驚くべきものです。地球のずっと深い地下で、こんな活動が行われているとは」。


海洋地殻は地球の表面の約 70パーセントを覆っており、地質学に関しての調査は、ある程度おこなわれてきたが、しかし、生物学に関しては実質的に何もわかっていない。理由はいくつかあるが、まず調査が難しく、調査に多額の費用がかかるということ。そして、もうひとつの理由は、研究者たちは、そんな地下で(生物学的な活動は)ほとんど行われていないだろうと考えていたことにある。

地殻の堆積物と岩盤の温度は、その深さと比例して高くなる(深ければ深いほど、地底の温度は高くなるということ)。そして、現在では、生物学者たちは、生命が存在できる温度の上限は、約 250度だと考えている。

海底は、通常、沈殿物の浅い層を含む3つの層から成っている。

玄武岩は、固められたマグマから生じた。そして、よりゆっくり冷却し、大多数の海洋地殻を形成する「斑糲岩」層と呼ばれている玄武岩のさらにより深い層がある。地殻は、厚さがおよそ2マイル(3.2キロメートル)の位置までは、斑糲岩層さえに至らないが、大西洋のアトランティスマシッフ近くで、いつもより表面に近い斑糲岩の構造を見つけた。これにより、初めて、これらの岩の微生物学を調査できることになったのだ。


調査チームは、非常に深くて古い時代の岩に 4,600フィート(1.4キロメートル)以上の深さの穴を掘り調査した。そして、そこで広範囲にわたる生物学的活動を発見した。

バクテリアたちは炭化水素を分解していた。その中のいくつかは、メタンを酸化させることができるように見えた。そして、窒素と炭素のガスを固定して変換していくプロセスの遺伝子の活性化があった。

この発見は興味深い。

なぜかというと、深い海洋地殻の中で、炭素を貯めて固定するという役割や意味がわからないからだ。

大気中での温室効果ガスである二酸化炭素濃度の増加は、海中での二酸化炭素濃度を上げる。しかし、このレポートでは、深い海洋地殻に棲息する微生物の遺伝子には、その炭素を貯めて固定する能力があるように見えるとある。

また、この研究者は、火星の上で見つかるメタンも地質学的なものに由来するのかもしれなく、それらのメタンは、火星表面の地下の環境のバクテリアによって支えられているものかもしれないと注記している。

(訳者注) 少しわかりにくいですので、わかりやすく書きますと、「火星にもメタンがあることはすでにわかっているが、その理由は火星にも地下に微生物がいるからでは」ということです。


マーティン・フィスク教授はこう言う。

「これらの調査結果が、現在の地球の環境問題を解決する手助けになるわけではないでしょう。温室効果による温暖化や石油流出による海洋汚染などへの援助になるわけではありません。しかし、地球全体の下にある地殻で生物学的な行動がおこなわていることがわかったのです。そして、私たちはそのことを何も知らない・・・。私たちは研究しなければならないのです」。

レポートの研究者は、「この広範囲の海洋地下の環境での微生物の行動プロセスは海と大気の生物地球科学にかなり影響を与えている可能性がある」と書いている。

この研究は、アメリカ国立科学財団、米国エネルギー省、ゴードン&ベティ・ムーア基金、そして、統合国際深海掘削計画の援助を受けている。

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In Deep の過去記事の関連リンク:

地球の極限環境で生きる生命から太陽系の生命の存在を考える天文学会 (2010年10月01日)

米国ローレンス・リバモア国立研究所でも地球の生命が宇宙から来たアミノ酸だという研究発表 (2010年09月16日)

宇宙空間で553日生きのびた細菌の研究が英国オープン大学から発表される (2010年08月26日)

アルゼンチンで見つかった「極限環境微生物」から地球と宇宙の生命の由来を探る試みが始まる (2010年08月13日)

古代の地球で光合成の出現以前に酸素供給があった可能性 (2010年04月20日)


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