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[21833] 【習作】 クリアのアトリエ (トトリのアトリエ・オリ主)
Name: コルネス◆2d774991 ID:593a0955
Date: 2010/09/12 12:09
 この作品についての注意書き

・錬金術等について、作者の独自解釈が含まれる可能性があります。
・時系列をイベントにあわせて変更すると思います。(初日のトトリの冒険が日帰り等)
・オリ主ものですが、現代知識や原作知識はありません。
・一部キャラが空気になるかもです。

 以上が大丈夫な方は下へお進みください。





 大きな釜が2つ置かれた部屋、他にも色々な薬品や器具が置かれていた。一つの釜の前には妹が立ち、それをかき回している。ちなみに俺は、今練金し終わった物をカゴにしまっていた。
 この部屋はとある事件のあとに増設された錬金部屋なんだが、ずっと昔からあるような気がする。まだ作られて1年もたっていないのにそんなことを思うほど、俺はよくこの部屋に居るわけだ。
 そんなとき隣から錬金術失敗の爆発音がして、部屋が派手にちらかった。 昨日もやったばかりなのにと思い、思わず嘆息してしまう。

「昨日俺が失敗したばかりだから姉さん余計に怒りそうだな……」
「うぅ、どこで間違えたのかなぁ…」

 そう話していると扉が開く音がした。姉さんがきたようである。 その表情は心配の色が濃く出ていた。

「二人とも大丈夫!?」
「あ、おねえちゃん」
「ふぅ、今度はトトリちゃんなのね。ケガはしてない?」
「うん、わたしは大丈夫」
「俺も平気」
「そう、よかった……」

 そう言うと姉さんの表情が心配から怒りに変わる。

「もう、一体何回爆発させたら気が済むの!?」
「別に爆発させたくて爆発させたわけじゃ… それにわたしは悪くないもん。ちゃんと教わった通りにやったし」

 確かにその通りなんだよな。トトリ曰わくあれがやりやすいらしいから、こっちもとやかく言えないし。
 あれで成功するのが未だに理解できないが……

「いっつもそんなこと言って。誰が後片付けすると思ってるの」
「おにいちゃん」
「……その通りなんだが普通そう言うか? 」
「クリアもトトリちゃんに甘すぎるのよ。二人合わせたら毎日のように爆発させるし……」

 こっちにも矛先がきた!
 ここの所お互い爆発物が多くて、しょっちゅう爆発させてたのは悪いと思ってるけど……

「今日という今日は怒ったんだから! 二人ともそこに正座しなさい!」
「あ、わたし用事思い出した。また後でね!」
「ちょま、俺を置いて逃げるな!」

 言うとすぐに部屋を出て行くトトリ。普段の行動はのんびりなのに、いざというときはすばやいんだよな。
 おかげで俺1人が矢面に立ちそうではあるが。まぁ丁度材料は切れてたし、取りに行ってくれてると思えばいいか……

「錬金術覚えてからすっかりおてんばになったんだから。まぁ、おかげで元気になったことは嬉しいんだけどね」
「そうだね。その錬金術も俺なんかよりうまくやれてるし」
「そうなの? 爆発の回数はトトリちゃんのほうが少し多いように思えるけど」
「やってることが違うから。俺がトトリと同じ事やったらもっと失敗してるよ」

 そういいつつ掃除の準備を始める。今回の爆発は少し強力だったらしく、掃除には時間がかかりそうだった。
 まぁ材料が切れてたから、丁度いいといえば丁度いいか。

「それじゃ、クリアだけでもお説教ね」
「……見逃してはくれない?」
「だーめ。終わったら手伝ってあげるからこっちきなさい」

 そういわれて連れて行かれる俺であった。
 ちなみに解放されたのはだいぶ後である。




 解放されてから掃除を終えるとすでに夕方なっていた。
 姉さんは途中から夕食の支度に出ていて今はおれ1人しかいない。
 夕食が出来るまで暇だし、錬金術の復習でもしようと思っていると声がかかった。

「お疲れ様、クリア」
「父さんいたんだ」
「今入ってきたんだけどね」

 ……扉が開いた気配しなかったんだけど。相変わらず気配のない人である。
 ちなみに、クリアと呼ばれている俺の名前だが正確にはクリューリア・ヘルモルト。呼びにくいから皆からはクリアと呼ばれている。

「それで、どうかした?」
「ツェツィから伝言。掃除して埃がついてるだろうから、ご飯の前にお風呂に入っときなさいだって」
「りょーかい」

 そう言って風呂に向かい脱衣所の前の鏡と向き合う。
 いつ見ても思うが、男らしくない顔つきだと思う。髪はトトリとかと同じ黒髪、瞳の色は父さんと同じ薄い茶色。ジーノなんかも顔つきでいえば女っぽいんだが、あいつの場合は体つきがしっかりしてるしなあ。
 まぁ、今はそんなこと気にしている場合でもない。すぐに夕食だろうから急いで風呂を済ませてくるとしますか。




 トトリは夕食の時間に帰ってこなかった。準備もせずに出る形だったから夕食はうちで食べると思ったんだが。
 姉さんもトトリの帰りを待って遅くまで起きてたんだが、今はすでに寝ている。
 俺は錬金術で遅くまで起きていることも多く、まだ起きて本を読んでいる。 遅くに帰ってきてだれも起きてないと寂しいだろうし、錬金術の復習をしておきたかったからだ。
 ちなみに、本を読んでいるといっても正確にはノートのようなものだったりする。ロロナ先生からもらった参考書もあるにはあるんだが、表現があいまいだったり長ったらしかったりと俺にはわかりにくかった。
 なのでロロナ先生やトトリにアドバイスをもらいながら、自分なりに書き直してみたわけだ。書き終わったのをロロナ先生に見せたら、元のより図解が多かったりで分かりやすいってほめられたし。
 そうしていると、そっと扉が開く音がしたのでそっちを向く。

「ただいまー…」
「おかえり。遅かったな」
「あ、おにいちゃんまだ起きてたんだ」
「誰かが逃げたおかげで錬金術の復習する時間がなかったからな」
「それは……ごめんなさい」
「まぁいいんだけどな。いい素材は取れたか?」
「うん、ばっちり! それでおねえちゃんはまだ怒ってる?」
「少し怒ってたかな。せっかく作った夕飯が冷めちゃうって」

 俺がそういうと。机に並べてある料理に目を向けるトトリ。
 もう冷めてるはずなのに、まだまだ美味しそうに見えるのはさすが姉さんだ。

「あう、また怒らせちゃった…… あ、今日のご飯おさかなのパイだったんだ」
「食べるだろ? どうする、温めるか?」
「あ、お願い。……明日謝っとく」
「そうしとけ。それじゃ、温めたら俺は寝るけどトトリもすぐ休むんだぞ」
「はーい」

 料理を温めアトリエの本棚に読んでいたものを戻すと、寝室に向かい眠りについた。
 姉さんとかに多少の迷惑もかけつつも、俺はこんな毎日を楽しく過ごしている。



[21833] 第1話
Name: コルネス◆2d774991 ID:593a0955
Date: 2010/09/13 20:04
 朝おきて顔を洗いに行ったあと朝食の準備を始める。うちの家事は基本的に俺と姉さんでやっていて、今日の朝食は俺の番なのである。
 まぁ、朝なのでそんなに手の込んだ物は作らないけど。

「おはよう、クリア」
「おはよう父さん」

 準備をしているうちに父さんが起きてきた。ちなみにトトリはまだ寝ていて、姉さんは洗濯をしている。
 あとはリビングに運ぶだけだったので、それを父さんに任せトトリを起こしに行くことにした。


「トトリ、起きてるか?」

 ノックの後、声をかけるが返事がない。想像通りなのでとっとと中に入りカーテンを開ける。
 すると日の光が入ってきて、それを嫌がるように毛布に包まろうトトリ。仕方がないので毛布も剥ぎ取る。

「ほら、もう意識はあるんだから顔洗って来い」
「うー、昨日寝たの遅いのに……」
「それは自業自得だろ。もう朝食出来てるんだから」

 そういうと、うぅーとかうなりながら顔を洗いにいこうとする。
 俺もその後に続いて朝食を食べに向かうのだった。




 朝食を食べ終え片づけをすると、アトリエに向かう。すると一足先についていたトトリが本を読んでいた。
 ちなみに俺のノートである。

「ちょっと聞いていいか?」
「うん、大丈夫」
「コンテナの仕分けってもう終わってるかと思ってさ」
「昨日のうちにやったから平気だよ」

 コンテナの仕分けってのはその名のとおり、コンテナの種類分けである。俺専用、トトリ専用、共有の3種類があり、ほしいものはあらかじめ専用に取っておくことになっている。
 もっとも、ほとんどのものは共有に入るのであるが。

「復習ばっちり! それじゃ調合開始!」
「俺も始めるとするか」

 今日は基本に帰って中和剤をやることにする。
 使用する素材は……


「やった! かんせーい!」

 あれから1時間と少し、トトリのほうは完成したようだ。
 そして俺の方も……

「こっちも……成功だ!」

 最近じゃまず失敗しなくはなったが、やはりうれしいものだった。
 少し浸っていると姉さんの声がした。

「よかった。今日は失敗しなかったみたいね」
「わ!? お、おねえちゃん見てたの?」

 俺もまったく気づかなかった……
 まぁ錬金術やってる最中は集中してるから仕方ないんだが。

「ええ。爆発しそうになったら急いで止めようと思って」
「わ、わたしだってそんな毎日失敗しないよ。ちゃんと先生に教わった通りにやってるし…」
「教わった通りに、ねえ…… 昨日もそんなこと言ってたけど」

 ロロナ先生の教えか…… かれこれ半年は合ってないんだよな。
 そう思いつつ当時を思い返す。


「よいしょ、よいしょ。こんな感じで平気ですか?」
「うん平気だよ。あとはそのまま、ぐーるぐーるかき混ぜ続けて」
「ぐーるぐーる……ですか?」

 そういわれても良く分からないんですが……
 仕方ないので自分なりにかき回し続ける。

「ああ、違うよ! それじゃぐるぐるぐるだよ! もっとこう、ぐーるぐーるだって」
「うーん…… もう少し遅くすればいいんですか?」
「そうじゃなくてぐーるぐーるって感じなんだけど……」

 それがわからないんけど……
 そんな風に、俺とロロナ先生が苦戦しているとそばで見ていたトトリが声をかけてきた。

「たぶんですけど、棒を下につけてかき回す感じじゃ……」

 試しにその通りにかき回してみる。
 そうすると、今まで感じられなかった手ごたえを感じられるようになる。

「そうそう、そんな感じ! 次はね……」


「横で聞いてて私には何を言ってるのかさっぱりだったけど」

 俺も半分以上わからなかったよ姉さん。
 トトリが横からアドバイスしてくれたからなんとかなったけど、最後のほうロロナ先生落ち込んじゃってたもんな。

「わ、わたしには分かりやすかったもん」
「トトリはあの教え方で理解できてたからな」
「おにいちゃん、私がアドバイスしないとさっぱりだったもんね」

 思わず顔が引き攣るのを感じる。本当にさらっと毒を吐く子である。
 まぁ、たびたび言われるおかげで慣れてきたけど。

「それにしても、変わった先生だったわよね」
「うん、それは否定できないけど……」
「ははは……」

 出会いが家の前での行き倒れだからなぁ。あのときは本当に驚いた。
 その後もいろいろやってくれるし……

「色んな人に錬金術を教えるために旅をしてるって言ってたけど、まだ続けてるのかしら?」
「うーん、どうなのかなあ…… たまには会いに来てほしいけど」
「一応、ロロナ先生が居なくなってから成長したと思うし、見てもらいたいよな」
「うん。元気かなぁ、ロロナ先生」
「元気にはしてるんじゃないか。あの人の元気ない姿って想像つかないし」

 そうこうして話に一区切りがつく。
 するとトトリが言いづらそうな顔で話を切り出してきた。
 
「えっと、おねえちゃん……」

 そういい淀んだあと、吹っ切ったのか姉さんに頭を下げてから言うのだった。

「昨日はごめんなさい!」
「もう……頭あげていいわよ、怒ってないから。トトリちゃんの分までクリアを叱っておいたしね。でも、これからはあんまり心配かけるようなことしちゃだめよ?」
「わかった!」

 こういうときにしっかり謝れるんだだからトトリはすごいと思う。普通怒られるかもしれない話題はあげたくないものなのに。
 それに、改めて謝るのってテレが入って言いにくしな。


「そうそう、二人とも。さっきゲラルドさんが来たわよ」
「ゲラルドさんって酒場の? なんで俺たちいたのに帰っちゃったの?」
「酒場のよ。帰ったのは二人が錬金術やってるって言ったから。急ぎの用事じゃないからあとで来てくれだって。」

 なるほど、気を使ってくれたのか。
 錬金術してるときに手を離すと失敗する可能性があがるからな。

「でも、用事ってなんなんだろ?」
「なんでも、二人に頼みたいことがあるみたい。そろそろお昼だから、食べたら酒場にいってきたら?」
「うん。後で言ってみる」

 トトリの返事にあわせて俺も了承するのだった。




 昼食後、酒場に向かっている俺とトトリ。
 その道中トトリが疑問の声をあげる。

「私とおにいちゃんが呼ばれるって何の用事だろ?」
「錬金術関係じゃないか? てか、そうだとうれしい」
「なんで?」
「依頼がくるってことは、それが必要とされてるってことだろ。それって1人前に近づいたって感じじゃないか」
「あ、なるほど。そうだといいね!」

 そう言ってにこにこ笑い出すトトリ。 本当にそうだといいんだけど。
 そう話しているうちにゲラルドさんのお店が見えてきたようである。近づいて酒場に入る俺たち。

「ゲラルドさん、こんにちはー」
「こんにちはー」

 ここに来るのも久々だが、相変わらず客がいない……
 たまに父さんがいってるみたいだけど、つぶれないか心配になってくる。
 まぁ、昼から酒場が繁盛するのも問題な気はするが。酒のにおいがあまりしないおかげで入りやすいし。

「おお、来てくれたか。適当に座ってくれ」
「はい。それで俺たちに頼みたいことってなんですか?」
「ああ、今から説明する。前々から考えていたことなんだが、今日から新しい仕事を始めることにしたんだ。今の仕事だけではとても食っていけないからな」

 やっぱり客入ってなかったんだ……

「はあ……お客さん全然いないですもんね」

 そしてトトリ、そういうことは思うだけにしとけ。

「そうはっきり言われるとつらいものがあるがな」
「あ、ごめんなさい!」
「まぁいい。その新しい仕事なんだが、アーランドからの依頼を回してもらうことにしたんだ」
「アーランドからの依頼、ですか?」

 考えても仕方ないので、聞いてみることにする。
 でも、口ぶりからして錬金術が必ず必要なわけではなさそうなのが少し残念だ。調合依頼とかならうれしかったんだけど。

「そうだ。アーランドでは住民の依頼を国がまとめて、それを冒険者や有志の人間に斡旋するシステムがあるんだ。そういった依頼の一部をこの村に回してもらうことにしたんだ。アーランドでは手に入りにくいものでも、こういう田舎の村では容易に手に入ることもあるしな。」
「はぁ……それはわかりましたけど、なんでその話を私たちに?」
「そりゃあ、お前たちにその仕事をやってもらいたいからさ。この村にはほとんど冒険者がいないしな」

 ……冒険者の仕事か、あまり気乗りしないな。
 まぁ、もう少し詳しく聞いてみるか。

「俺やトトリで出来るんですか? 冒険者資格もないからいける範囲は限られますし、倒せるモンスターだってぷにくらいしか……」
「大丈夫さ。難しい依頼は最初から断っておくし、なによりお前たちは錬金術士だろ。冒険者じゃ手に入れられないものでも、お前らなら作ることことが出来るだろ」

 錬金術士って言われるとやりたくなるんだよな。
 やっぱり少しでも錬金術士だと思ってくれるなら嬉しいし。

「なら……今まで通りに物を作って、その中から依頼品を納品する感じでもいいですか?」
「あぁ、それでいい」

 正直、そこまで気乗りしないけど依頼ってことはお金がもらえるだろう。
 切羽詰ってるわけではないけど、あって困るものではないし。

「それなら、トトリがいいなら大丈夫です」

 そう言ってトトリの顔を見ると、なにやら決心した顔になっていた。
 これは決まりかな。

「私もやりたい。ゲラルドさん、これからお願いします!」
「いい返事だ。それじゃ、これからは定期的に店に顔を出してくれ。依頼は不定期に入ってくるからな」

 そういうとゲラルドさんは奥に向かっていく。
 まだ何かあるのかと思ってると、なにやら紙も持って戻ってきた。

「早速だが、こなせるものはあるか?」

 そういって見せてくる紙には中和剤とマジックグラスの依頼があった。

「あ、これなら両方あります!」

 そう言ってうれしそうな顔をするトトリ。
 俺もこのくらいなら問題ないなと、気分がほっとする。
 
「依頼達成でいいか?」
「あぅ、家にあるんでとってきてもいいですか?」
「ああ、取って来い」

 そういうゲラルドさんに見送られ、俺たちは店を出て行った。




「おーい、トトリ!」

 店を出るとジーノが声をかけてきた。
 少し見ないうちに、また逞しくなっているのが妬ましい。

「って、クリアも一緒なんだな。やっと冒険行く気になったのか!」
「たまたま酒場に用があっただけだよ。それよりトトリ、依頼品は俺が持っていくからお前はジーノといってきていいぞ。帰るのは1週間後くらいでいいんだな?」
「ありがと。それで大丈夫だよ」
「えー、たまには一緒に行こうぜ。トトリだって平気なんだから大丈夫だって」
「こっちは姉さんの手伝いとかもしないといけないんだよ」
「それにジーノ君、今なら私のほうが強いよ」

 ……確かに錬金術の材料集めるようになってから強くなったよな。
 俺もいかないわけではないけど、トトリが行きたがるし、ぷにとはいえ戦うのが怖いので最近はトトリに任せきりだった。その分、アトリエの掃除なんかは全部俺がやってるんだけど。
 はぁ、いくら言い訳してもさすがに落ち込むな……。

「おい、トトリ。クリアのやつマジで落ち込んでるぞ」
「う、ごめんおにいちゃん。アトリエ掃除してくれたり感謝してるんだよ?」
「事実だから別にいいんだけどさ…… まぁ、気をつけていってこいよ」

 俺がそう言うと、二人は元気よく言うのだった。

「ああ、いってくる!」「いってきまーす!」

 そう言う2人を見送ってから、家に戻り酒場に依頼の品を持っていく。
 少しは体鍛えようかなと思いながら。



[21833] 第2話
Name: コルネス◆2d774991 ID:593a0955
Date: 2010/09/12 12:47
 トトリが冒険に出て1週間たった夕方、俺は姉さんと一緒に夕食の準備をしていた。
 この1週間は錬金術をしたりしていつも通りすごした。クラフトの錬金に失敗してまた姉さんに怒られたりしたが、それは割愛する。またゲラルドさんの酒場にも顔を出したが、依頼は入っていなかった。
 ガチャっという扉が開く音がした。トトリが帰ってきたのだろう。
 普段は1日くらい伸びたりするのに珍しいなと思っていると、声がかかった。

「ただいまー……」

 声からトトリが帰ってきたので正解だったとわかる。
 だが、どうも声のトーンがいつもと違う。まるで何かを伺うような……

「おかえり」
「おかえりなさい。夕ご飯、もうちょっと待っててね」
「う、うん……」

 やっぱりおかしい。予想はなんとなくつくが、聞いてみることにする。
 外れてくれるといいんだけど。

「どうしたんだ? 珍しく大人しいけど」
「え? べ、別にどうもしないよ?」
「そっか、ならいいけど」

 本当に言いたいならそのうち言い出すだろう。無理して聞く必要もない。
 そう思っていると、今度は姉さんが切り出して言った。

「ウソね。トトリちゃんが大人しいのは、悪いことした後か何かおねだりしたいときって決まってるもの」
「そ、そんなことないよ!」

 そう言うと不満そうな顔でうなるトトリ。こういう所がわかりやすいってのに。

「言いたいことがあるなら言ってみなさい」
「……言っても怒らない?」
「怒ったりしないわよ。よっぽどひどいことじゃなければね」

 するとトトリが言いづらそうに切り出した。
 予想、外れているといいんだが。

「じゃあ、取りあえず言うけど。あのね、もしも……もしもだよ? わたしが冒険者になりたいって……」

 その言葉で姉さんの空気が変わる。 今までは普段通り和やかだったのが怒気をはらんだものへと。

「ダメよ!」

 俺はやっぱりという気持ちだった。
 前々から、トトリは冒険者に興味を持っていた。それに加え、ゲラルドさんの酒場で冒険者の仕事を請け負うことになったのが原因だろう。
 断っておくべきだったかもしれない。……いや、それは問題の先延ばしか。

「そ、そんな怖い顔しなくても。だから、もしもって……」

 涙目で訴えるトトリ。反対は予想していたのだろうが、ここまでされるとは思っていなかったようだ。

「もしもでもなんでもダメ! 何をバカなこと言ってるの!」
「バ、バカってひどい! 全然バカじゃないもん!」
「バカよ!あなたが冒険者なんて無理に決まってるじゃない。運動は苦手だし、力仕事は出来ない。頭だってそんなによくないし。
 そんなダメダメなところがちょっとかわいいけど……」
「そ、そこまで言うことないでしょ!? 何も出来なくない、錬金術が出来るもん! おにいちゃんは賛成してくれるよね!?」

 ……トトリには悪いとおもうが。

「俺も反対だ」

 そういう俺にショックを受けたようにしているトトリ。俺は賛成してくれると思ってたんだろうな。
 そう思うのも無理はないかもしれない。依頼を受けるのも了承したし、トトリが冒険者になれば色々な材料が手に入るだろう。そうすれば錬金出来るものの幅は増えるから。
 だが、それでも承諾できない。

「そんな……おにいちゃんも反対なの?」
「ああ、お前には危ないことをしてほしくない。今だってジーノと二人だから出来てるようなもんじゃないか」
「今はそうかもしれないけど…… でも、いつかはお母さんみたいな冒険者になるもん!」

 その言葉につい感情的になる俺。怒鳴るのはダメだと思っていたのに歯止めがきかなくなる。

「じゃあその母さんはどうなったんだよ!」

 その言葉に対してトトリも言い返してくる。そこからは怒鳴り合いのようなものだった。

「お母さんだって、わたしが探してくるよ!」
「探したって見つかるわけがない。もう何年経つと思ってるんだ! きっと母さんはもう……」
「そんなことない! きっと、どこかで迷子になってるだけだもん!」
「ダメといったらダメだ!」
「そうよ、トトリちゃん。ダメなものはダメなの!」

 そう否定する俺と姉さんを睨むトトリ。 それと合わせるように叫んできた。

「二人ともわからず屋! 大嫌い!」

 そして自分の部屋にかけていった。
 その一言で冷静さを少し取り戻した俺と姉さんが呼び止める。

「トトリ!」「トトリちゃん!」

 しかし、振り返る気配はなかった。
 追いかけたいが……、今は逆効果だと冷静になってきた頭で考える。

「……私だって、言いたくて言ってるわけじゃないのに」
「でも、少し言いすぎちゃったな……」

 そう言って落ち込む俺と姉さん。
 そこに声がかかる。

「久しぶりの大ゲンカだったね。だめだよ、家族なんだから仲良くしないと」

 驚き振り向くと、そこに父さんが立っていた。
 ……マジで気配がしなかったんだが。

「大嫌いって、トトリちゃんに大嫌いって言われた……」

 そういって泣き出す姉さん。俺も泣きはしないが大嫌いには堪えた。
 明日、顔合わせずらいな……

「ああ、お前まで泣いてどうするんだ。ところで、今日の夕食は……」
「1日くらい食べなくたって死にゃしないわよ!」

 そういうと、姉さんも自室に駆け出す。
 あえて空気を読まなかったんだろうが、今のはないと思うよ父さん……

「はぁ……作りかけが勿体無いから俺が作るよ。作ったら二人の部屋に持っていってもらっていい?」
「あぁ、わかった」

 気乗りしないが作ってしまおう。それで、食べたらすぐに寝よう。




 翌朝、昨日あんなことがあったにも関わらず俺も姉さんも家事をしていた。姉さんは朝食を作り俺は洗濯をする。そんななか、どうやってトトリと顔を合わせる顔考えるがいい案は浮かばない。
 それが終わりリビングに戻ると、珍しくすでに起きてるトトリと父さんがいた。そのことに一瞬入るのに躊躇するが、入らないわけにも行かない。
 そして、なぜか姉さんがいなかった。トトリには声をかけ難いので父さんに尋ねることにする。

「父さん、姉さんは?」
「多分自分の部屋じゃないかな」

 そういってトトリに目を向ける父さん。それだけでなんとなく理由を察することができる。 ついでに、俺が朝食を作らないとならないことも察した。姉さん、二連続はないよ……
 仕方なく朝食を作ろうとキッチンに向かう。ちょうどトトリのそばを通り過ぎるとき声がかかった。

「あの、おにいちゃん」
「なんだ?」
「昨日はごめんなさい……」

 そう謝ってくるトトリ。……トトリは昨日のことあまり引きずっていないみたいだし、こっちも気にし過ぎちゃだめだな。
 大嫌いだってその場の勢いだって分かってるし。

「俺も方も言い過ぎたよ。昨日は悪かったな」

 そう謝る俺に驚いたようにするトトリ。

「え、それじゃあ冒険者になっても……」
「それはダメだ」

 そう言うと不満そうな顔になった。おそらく、姉さんにも似たようなことを言ったんだろう。いないわけだ。

「どうして? このあたり冒険するのは止めないのに……」
「このあたりの魔物は大して強いのがいないからな。」

 そういい切る俺に、まだ何か言いたそうにしているトトリ。だが、この話題を続けるつもりはない。

「ほら、朝食作るからまた後でな。それともトトリがつくるか?」

 俺がそういうとしぶしぶ席に戻っていく。
 朝食の方は姉さんが途中までやっていてくれたおかげですぐに終わりそうだった。




 それからしばらく、トトリは家にいて錬金術の修行をしていた。
 もっとも、次に冒険にいく準備を兼ねていたらしく、爆弾中心ではあったが。俺もトトリに頼まれて傷薬を中心に作った。冒険の準備だと思うと微妙な気もしたが、傷薬を持たせないわけにもいかない。
 付近への冒険まで制限するのはかわいそうだし。
 そしてトトリが冒険に出てしばらくした日のことだ。アトリエで調合をしていると姉さんの悲鳴が聞こえてきた。
 驚いて悲鳴の元へ向かうと、そこには大きなとかげが佇んでいた。しばらく硬直していると、とかげから声が聞こえてきた。

「驚かせすぎちゃったみたいね。あたしよ、あたし」

 とかげが動くと、その背後からメル姉が現れた。……今度もすごいのも持ってきたものだ。
 そしていつも通りの格好を目にして、相変わらず凄いなと思う。そこを指摘すると、からかわれるのが目に見えるので言わないが。

「はあ、メルヴィか。あんまり驚かせないでよね」
「だからごめんってば。クリアも久しぶりね」
「うん、久しぶり。よくそんなの運んでこれたね……」

 見ただけなのでなんともいえないが、100キロはあると思う。しかもここらには居ないモンスターだ。
 何日運び続けたのやら……

「怪力は私の取り得だからね。それより、さっきトトリ達と会ったわよ」
「トトリちゃん達元気だった?」
「ええ。戦いぶりも少しみたけど、ここらのモンスターなら楽勝だと思うわ」

 そこで一区切りつけ、メル姉は表情をまじめなものに変える。

「でさ、話してるの聞いちゃったんだけど、あの2人冒険者目指してるんだってね」

 その話題で俺と姉さんの空気も変わる。

「ええ、知ってるわ。でもトトリちゃんを冒険者なんかにさせない」

 それを無視してメル姉は続けた。

「あの2人、来月には馬車でアーランドまでいくつもりみたいよ」
「それも止めるわ」

 それに賛同するようなことを俺も続けた。
 それを聞くと、メル姉はため息をつく。俺と姉さんはそれにムッとするが、話は続いた。

「もし止めても、あの子は近いうちにアーランドに行くと思うわ。馬車代くらいなら自力で稼げるだろうしね」

 その言葉に俺も姉さんも反論できなかった。 トトリならやりかねない……そう思ったからだ。
 そんな俺達に声がかかる。

「行かせてあげてもいいんじゃないかな」

 声の主は父さんだった。
 その声にはいつにはない力が籠もっていて……そのまま父さんは続けた。

「あんまり縛っちゃかわいそうだよ。それに……、ギゼラなら笑って送り出すはずだから」

 その言葉にはっとする。そうする母さんが簡単に思い浮かんだからだ。
 
「それに、しばらく私がついていってあげるからさ。それなら安心でしょ?」

 それに続けメル姉が言う。
 そんな2人の言葉に、思わず嘆息してしまう。こっちの気も知らないでと思わないわけではない。
 だがここで送りださなかったら、母さんに張り倒される気がした。それに、俺や姉さんが止めてもトトリは出て行ってしまう。なぜかそう思えてしまった。
 それなら気持ちよく送り出してやるべきなのかもしれない。

「はあ、わかったよ」
「クリア!?」

 驚くそぶり見せる姉さん。だが、その目には先ほどまであった強い拒絶の意志はない気がした。

「トトリが来月まであきらめず努力してたら俺もあきらめる」

 だが、条件を加える。
 そこで区切り姉さんの方を向いて続けた。

「それでさ、もし行くことになったら姉さんも付いていってあげてほしいんだ」
「え?」

 驚いた顔をする姉さん。同様に他の2人も驚いているようだ。かまわず続ける。

「いくらメル姉がついてるとはいっても、何があるかわからない。付いていけなくなることもあるかもしれない。そんな時、姉さんが一緒なら俺も安心だから」
「それならクリアが付いていっても……」
「俺が一緒だからって安心できる?」

 そういうと困った顔をする姉さん。まぁ、心配が2倍になるだけだからな。
 それに対して姉さんは、小さい頃から強かった。母さんの血を強く継いでるのか幼少の頃はケンカで負け知らずだったのだ。
 何より、姉さんは冒険者になりたがってた。
 俺の考えがわかったのか、メル姉と父さんも背中を押す。

「いいんじゃない? 家事だってクリア1人で十分なんでしょ?」
「トトリを頼んだよ、ツェツィ」

 そんな2人の言葉を聞き、姉さんは俺に問い返してくる。

「クリア、本当にいいのね?」

 返事なんて決まっている。俺は笑顔で答えを返す。

「うん。家のことは俺と父さんに任せてくれて平気だよ」

 その言葉に父さんが頷くと、姉さんは苦笑とともに了承する。その表情は、やはりというかうれしそうで。そんな姉さんにメル姉は笑顔で抱きつくのだった。
 この日から旅立ちの日まで、姉さんはメル姉と特訓に励むことになる。そして父さんも俺と家事の特訓をするのだった。



[21833] 第3話
Name: コルネス◆2d774991 ID:593a0955
Date: 2010/09/13 17:47
 あれから一月あまりが過ぎ、今日は馬車出発の前日だった。
 姉さんの訓練は順調に進み、メル姉からもお墨付きをもらっている。現に付近のモンスターと戦ってみた感じ、負ける気がしなかったとか。当然ながら、その特訓はトトリに隠れて行われたわけだが。
 ちなみに、父さんの家事もそこそこ順調だった。料理だけは一朝一夕ではどうにもならないので、俺の担当となったが。
 トトリの方はと言うと、結局あきらめず今日まで頑張っていた。
 今は父さん、姉さんと3人でトトリの帰りを待っている。
 時間は日が傾きもう夜になる頃。普段ならそろそろ帰ってくる頃だ。

「ただいま……」

 扉の開く音とともにトトリの声がし、俺たちはおかえりと返す。
 だが、案の定というか元気がない。10万コールなんてそりゃあ溜まらないよな。
 メル姉によると、ペーターさんが馬車の値段を10万コールと言ったらしい。それを律儀に信じた二人は、頑張って溜めようとしたわけだ。
 少し考えればおかしいと気づきそうなものなんだが、それに気づかないのが抜けてるというか。

「はぁ……」
「どうしたの?元気ないわね」

 その姉さんの問いかけにも返事はない。
 ……メル姉の話を聞いておいてよかったと思う。こんな元気のないトトリは見ていたくない。

「メルヴィから聞いたわよ。冒険者になれなかったのがそんなに悔しい?」

 その問いにも答えはない。目には涙がたまってきていた。

「別に、今回ダメだったからって一生なれないわけじゃないのよ」
「だって……すごくがんばったんだもん。わたしも、ジーノ君も。でも……」

 そう言うと、とうとう泣き出してしまった。泣くほど悔しかったってことなんだな。
 もう告げてもいいんじゃないだろうか。あまり泣かせたままではいたくない。
 同じように思ったのか、姉さんはそれを手渡した。

「もう、しょうがないんだから。はい、これ」

 その中にあるのは馬車代の800コール。トトリと姉さんの分だ。
 
「え……、お金?」

 それには俺が答えた。

「そういうことだ、姉さんと一緒にいってこい。冒険者免許もらったら帰って来るんだぞ」

 その言葉に目を丸くするトトリ。

「いいの……? って、お、お姉ちゃんと!?}

 そう言うと姉さんの方を見る。これには本当に驚いたようで、あわあわと口をパクパクさせ言葉を紡げないでいた。
 本当によく表情が変わる。そんなところがかわいいんだけどな。

「ええ、よろしくねトトリちゃん」

 そう言って微笑む姉さん。そんな姉さんにトトリは表情をほころばせる。

「やった! お姉ちゃん!」

 その言葉の勢いのまま、姉さんに飛びつくのだった。


 少したち、なんとか落ち着きを取り戻したトトリは手渡した袋の中を見た。
 そこで今まで喜びに満ちていた目に、少し影がさす。

「これじゃ、馬車のお金足りないかも……」

 その言葉に苦笑する俺たち。それを代表して父さんは言った。

「それで足りるはずだよ。片道1人200コールだから」

 そう教えても、トトリはまだまだ不安そうだ。

「でも、ジーノ君が10万コールかかるって……」
「きっと、ペーター君にかつがれたんだね」

 かつぐって父さん……10万なんて冗談で言ったに決まってるのに。……ペーターさんに恨みでもあるのか?
 まぁ、姉さんに付く悪い虫とか思っててもおかしくないけど。

「かつがれたってどういうこと?」
「あの子はサボり癖がひどくてね。仕事をしたくない時は、いつも無茶苦茶な金額を言うんだ。村の人間は大抵知ってることなんだが…」
「そうだったの? ひどいよ、わたし本気で落ち込んでたのに!」

 姉さんもトトリがだまされてた形になったのを怒ってるのか、フォローする気配がない。
 さすがにペーターさんがかわいそうなので弁明しとく。

「でも、今回のは冗談だったんじゃないか?」
「え、なんで?」
「かつぐにしても、通常料金の100倍以上なんて誰もやらないよ。普通はおかしいと気づくからな」

 その表情に気まずそうに目を泳がせるトトリ。まぁ、これで学んでくれればいいんだが。
 変な詐欺に引っかかっても困るし。

「多分、最初に冗談で言った金額をジーノが信じちゃったんじゃないか? その誤解を解かなかったのはペーターさんが悪いけどさ」

 まぁ、知ってて教えなかった俺たちの言えた話ではないが。10万コールでも諦めないか見たかったって言う理由があるにはるんけどさ。

「でも、それだったらお金もらわなくても大丈夫かも」
「いいよ、使って。姉さんの馬車代もあるし、冒険者になれば色々必要だろ」

 なおも渋るトトリにいいからと金を押し付ける。いざって時にあって困るものじゃないし、資金不足で怪我しましたとか笑えないから。

「それじゃ、すぐ夕飯にするな。明日は早いんだろうし、食べたらすぐ休むんだぞ」
「あ、その前にジーノ君にも教えてあげなきゃ」

 いってきます!と告げて、外に出て行くトトリ。さっきまでの元気の無さが嘘のようだ。

「すっかり元気になっちゃって、現金なんだから」
「いいんじゃないか。落ち込んでるより、ずっとあの子らしい」

 それは本当にそう思う。一時期はを思うと余計に……

「姉さん、明日からトトリをお願いね。でも無茶もしないで」
「ええ、任しておいて」

 その言葉はとても力強くて。俺を安心させてくれるだった。




 翌朝、旅立ちの準備を終え、家族でペーターさんの馬車に向かい歩いていた。
 空はよく晴れて、気持ちのいい天気だった。絶好の旅立ち日和だ。
 道中はしばらく出来なくなる家族の会話を楽しんでいた。帰ってきたら何が食べたいだとか、アーランドについたらロロナ先生に会えるかもといった他愛もないことばかりを。
 ちなみに、ロロナ先生のことは言われて思い出した。少しだけ行きたかったかもと思ったのは内緒だ。
 そうしていると馬車が見えてくる。ジーノとメル姉はすでにいるみたいだ。

「おーい、トトリー!」

 その声とともに元気よく駆け寄ってくるジーノ。後ろからはメル姉も歩いてきている。
 ちなみにペーターさんは姉さんがいるためか、近づいてきていない。そのせいで勘違いされてるってのに。

「おはよう、ジーノ君!」
「ジーノ君、今日からよろしくね」
「そっか、今日からトトリの姉ちゃんも一緒なのか。へへ、二人とも俺が守ってやるからな!」

 胸を張ってジーノが言う。

「ジーノ、二人を頼んだからな」

 俺の言葉にも「任せとけ!」と威勢良く返してきてくれる。頼もしい限りだが、威勢だけで終わらないことを祈る。
 その会話が聞こえたのか、ペーターさんが近づいてきた。その顔はひどく動揺しているように見える。

「ツェ、ツェツィさんも来るだって!?」

 そういや、知らなかったんだな。まあペーターさんもプロだし、緊張して事故とかはないと思うが……

「ええ、嫌かも知れないけど……お願いねペーター君」
「い、嫌だなんてことは……」

 そう言いよどみ、落ち着きなくキョロキョロするペーターさん。……激しく不安になってきた。

「ペーターさん、緊張するのもいいですけど事故起こさないでくださいよ」
「お、おお。俺の馬車が事故なんて起こすわけないだろ」

 ……ダメだ、マジで不安かもしれない。メル姉も似たような表情してるし。

「……不安だわ、不安すぎる。やっぱりあたしも一緒にいこうかしら」
「わああ、来るな。お前は絶対来るな!」

 そんな風に言い合ってる二人を、どこか羨ましそうに見ている姉さん。昔はペーターさんともよく遊んでいたのによそよそしくなったのを寂しがっていたもんな。

「二人とも、相変わらず仲いいわね」

 その言葉に若干気まずそうに、だがどこか照れたように会話をやめる二人。
 メル姉とペーターさんがなんだかんだと仲がいいってのは俺も同意だ。本当に仲が悪ければあんな風に口を聞けるわけがない。
 そもそも、メル姉は嫌いな人間は無視するタイプだと思うし。

「それで、メル姉は本当についてくの?」
「ついて行きたくなっちゃったけど、食料足りないでしょ? 馬車での移動じゃあたしの出番もないと思うし、やめとくわ」

 4人分の食料しか用意してないはずだからな。メル姉は大食いだから、ついていったら確かに厳しいかも。

「じゃあ早くいこうぜ、ペーター兄ちゃん!」
「そう慌てんなって。もう少しゆっくりしてからでも……」

 やる気無さそうに返事をするペーターさん。だが――

「ペーター君、昼食の都合もあるし早く出ちゃわない?」

 姉さんが言うと、すばやく御者台に向かうペーターさん。先ほどのだらけきった返事が嘘のようだ。
 それに続き馬車に向かうトトリ達。

「それじゃ、3人とも気をつけてな」
「がんばってきなさいよ!」
「無事に帰って来るんだよ」

 そうやって俺たち送り出す。三人はいってきますと笑顔で返し馬車に乗り込む。
 その後も馬車から身を乗り出し、こちらから見えなくなるまで手を振り続けていてこちらも振り返すのだった。

「言っちゃったね」
「寂しそうな顔すんじゃないの。すぐ戻ってくるわよ」

 一月程度だし寂しくなんてないと思っていたんだけど、馬車が見えなくなると無性に寂しくなった。
 陳腐な言い方だが、大事な何かが抜け落ちたというか。でも……

「クリア、帰ろうか」

 ……父さんだっているし、何より寂しいのは父さんも同じなはずだ。そう思うと少しだけ気分があがる。

「そうだね、お昼も用意しないといけないし。メル姉も食べていかない?」
「そうね、ご馳走になろうかしら。おいしい料理期待してるわよ!」

 そのまま俺の家まで3人で歩いていく。
 ちなみにメル姉はその日の昼だけではなく、度々うちに料理を食べに来てくれた。もしかしたらこのために残ってくれたのかも、なんてね。


(あとがき)
 ここまでは展開の都合で原作場面の焼きなおしが多くなってしまいましたが、次からオリジナル場面を増やしていければと思います。
 また、キャラの口調におかしな点や文章の読みづらい箇所などがありましたら、感想の方に書いていただけると助かります。



[21833] 第4話
Name: コルネス◆2d774991 ID:593a0955
Date: 2010/09/18 03:02
 トトリと姉さんが出発してから二週間ほどすぎた。
 その間も俺は錬金術の修行を続けている。幸い中和剤なら大抵のものが材料になるので、それを中心にやっていた。そのせいでコンテナの中が中和剤だらけだったりするんだが。ゲラルドさんからの依頼で納品もしているが、それでもたまっていく一方だ。 まあ、コンテナのなかはどういう原理かものが痛まないから問題ないんだけどな。
 ただ、最近は物足りなく感じてきた。というのも、中和剤の調合に手ごたえがなくなってきたのだ。クラフトを調合したいところなのだが材料がない。家を任された身としては、取りに行くのは気が引けるし……
 まあそれはおいといて、昼食を食べ終えた俺はパメラのところに向かっていたりする。調合に使う薬品がきれたからだ。
 当たり前だが、釜をかき回しているだけで水が中和剤になったりしない。なったりするような水なんて危険すぎるしな。その反応を促す薬品を買いに行くわけだ。
 そろそろ村の広場に着きそうという時、ボロボロになった人影が視界の隅に移った。赤がよく映える服はところどころ焦げ、持っている荷物もボロボロ、足取りもふらついていて覚束ない。……ぶっちゃけロロナ先生だった。

「先生、大丈夫ですか!」

 急いで俺が駆け寄ると、先生も気づいてこちらを向いた。顔のほうも疲れがみえて、色々とすごかった。

「あ、クリア君……」

 そう言って泣きそうな顔をしている先生。だが、その中には喜びが見られる気がした。そう、迷子の子供が親を見つけたときのような。
 ……これでも姉さんより年上なんだよなぁ。正直言って俺より年下にしか見えないんだけど。

「おなかすいた……」

 そういうとその場に倒れこむ先生。しかも、すぴーすぴーとか寝息をたててるし。
 少しあきれたものの放置しておくわけにもいかないので、おぶって家まで運ぶことにする。……少しだけ役得かもと思ったりした。




 家に着くと、まずはロロナ先生を姉さんのベッドに寝かせる。その後は父さんに風呂と着替えを準備してもらい、俺は食事の準備をした。
 幸い、昼食のおかずが余っていたのですぐに出来る。するとにおいにつられたのか、先生が起きてきた。

「おはようございます先生」
「うん、おはよう。これ、食べても大丈夫?」

 そう言うとものほしそうに料理を見る。食事を前にした子犬のみたいな表情で……最初から先生のために作ったんだけど、こんな顔されたら断れる気がしない。

「ええ、先生のために作りましたから」

 俺がそういうと、席に着くなりものすごい勢いで料理を平らげていく。出会ったときもそうだったけど、大人の女性がする食べ方ではないと思う。なぜか見苦しくみえないんだけど。
 しばらくは話しかけてもろくな返事が返ってなさそうなので、一言断ってから姉さんのベッドの掃除に向かう。こういっちゃなんだが、今のロロナ先生はかなり汚れているのだ。ベッドを見ると案の定結構汚れていたので、シーツを交換しておく。
 それが終わり、シーツを洗濯物に放り込んでから戻ると、ロロナ先生の食事はひと段落着いていた。

「もう大丈夫ですか?」
「ごめんね、また迷惑かけちゃって……」

 先生は申し訳なさそうな顔でそう言った。最初も似たように行き倒れてたなと思い苦笑してしまう。

「気にしないでいいですよ。錬金術教えてくれた恩は、これくらいじゃまだまだ返せませんから」

 その言葉で次は笑顔を見せてくれる。こんな風によく表情が変わるところがトトリと似ていて、師弟なんだなあと少しうらやましく思えた。

「クリア君、まだ錬金術続けててくれてるんだ! それじゃあ、トトリちゃんもまだやってるんだよね?」
「当然続けてますよ。多分天職なんじゃないですかね?」

 それに安心してか、さらに笑顔を深くする先生。本当に笑顔が似合う人だと思う。ヘタレてる顔もかわいいけどさ。

「そういえばトトリちゃんはどこに居るの?」
「今はアーランドに行ってます多分2週間くらいで戻ってくるんじゃないですかね」

 そういや、ここに先生がいるって事はトトリは会えてないわけか。残念がってるだろうな。

「アーランドに? 何か用事でもあるの?」
「冒険者免許を取りに行ってます」

 俺がそういうと、何かが引っかかったのか恐る恐るといった感じで聞いてきた。

「トトリちゃんって冒険者になっても錬金術は続けてくれるんだよね……?」

 俺はそれに苦笑する。先生だって冒険者紛いのことやってるって言うのに。

「むしろ錬金術があるから冒険者をやるんですよ。冒険者にとって錬金術はすごく有用ですから」

 その言葉で先生は安心したのか、再び笑顔を見せてくれるのだった。


「先生、お風呂沸いてますけどどうしますか?」

 そこで今まで話すタイミングを見ていたのか、父さんが現れた。いたけど気づかなかったんだろうなあ。先生は慣れてないせいか、驚いて椅子から落ちちゃってるし。

「うー、いたいよー……」
「はあ、大丈夫ですか?」

 その言葉に、なんとか椅子に戻ることで答えとする先生。

「んー、クリア君悪いんだけど錬金術は後でいいかな?」
「大丈夫ですよ。薬品が切れちゃったんでパメラ屋さんに買いにいかないとダメですし」

 俺のその言葉に驚いた表情を見せる先生。どうしたのか少し疑問を抱く。今の会話に驚く箇所はないと思うが。

「パメラ屋さんって……パメラこの村にいるの!?」
「薄い紫の髪の人で合ってるなら」

 俺のその言葉にそっかーと言って納得する先生。どうやら知り合いらしい。言われてみると、どこか波長が似ているかもしれない。

「できたら私も付いてっていいかな?」
「わかりました。それじゃ待ってますね」

 そういうと、風呂に入りに行く先生。
 それを見送り何して待ってようかと思っていると、なぜか先生が戻ってきた。

「クリア君、暇だったらこれ読んでてもらっていい? 後で教えるときにそのほうがいいだろうし」

 そう言って渡してきたのは一冊の本。言葉からするに、錬金術の本だろう。一部焦げているが、鞄の状態からしてよくそれだけですんだものだと思う。
 願ってもない申し出なので、俺は即座に頷くのだった。




 先生の用意が終わると俺たちはパメラ屋さんに向かった。先生の今の格好は姉さんの普段着で、普段と違い少し大人っぽく見えた。まあ、それでも俺と同じか少し上くらいだけど。
 ちなみに、さっきの本は先生のお手製のものだったらしく、わからないところが多かった。今までの錬金術やロロナ先生に教えられてた経験からか以前よりは理解できるようになったけど。
 まあ、それは後で聞くことにするつもりだ。メモも取れない環境じゃ聞いても無駄が多いし。

「そういえば、なんであんなにボロボロだったんですか?」
「あー、それはね……。この村に向かおうと思ったら道を忘れちゃって、何週間もさまようことになったんだ。それだけならよかったんだけど、確か3日前くらいかな? 野営で火を起こしたときに、持ってた鞄から爆弾が転がり落ちちゃってね……」
「それは、なんというか……」

 つくづくドジというか、運が悪いというか。
 そんな風に話しているとパメラ屋さんに着いたので中に入ることにする。

「こんにちはー」
「パメラ、久しぶりー!」

 ……反応がない。普段なら奥から出てくるんだけど、出かけてたりするんだろうか。

「留守ですかね?」
「いや、これは多分……」

 そういうとカウンターの方に向かう先生。するとなぜか、くまのぬいぐるみに話しかけはじめた。

「パメラ、起きて! パメラってば!」

 そう言って、ぬいぐるみをゆすり始める先生。前からずれてたけど、これはさすがにない。爆発に巻き込まれて頭を打ったのかと心配になり、止めに入ろうとする。だが止める前にそれは起こった。

「なぁに? せっかく気持ちよく寝てたのに……」

 ……普段と格好が少し違うが、パメラがいきなり現れたのだ。しかも浮いてる。

「って、ロロナじゃない。久しぶりねー」
「うん、久しぶりパメラ」

 何でか普通に挨拶してるしっ!

「いやいやいや、おかしいでしょ! 今まで居なかったのに急に現れたり、浮いてたり!!」

 父さんじゃあるまいし!

「幽霊なんだから当たり前じゃないかしら」

 幽霊って、あの幽霊? パメラが? なんで!?

「幽霊ってパメラが!? いつ死んじゃったの!?」
「いつだったかしら?」
「クリア君知らなかったんだね。それじゃあ混乱しちゃうのも無理ないか」
「先生知ってたんですか!? いったいパメラはいつどうして……」

 その後も俺はしばらく混乱し、立ち直るのに時間がかかるのだった。……このときのことは本当に申し訳ないと思っている。




「えっと、つまりパメラは村に来たときから幽霊で、今までの体は錬金術で作った人形みたいなものだと」
「そうそう、何か質問ある?」

 なんとか落ち着いた俺はロロナ先生から説明を受けていた。正直疑問だらけであるが、パメラが死んだんじゃなかったのは、素直によかったと思えた。すでに死人だったことのをよかったと言うのも何か違う気もするが深く考えない。
 本人が気にしていないのを、こっちで悩んでも仕方ないし。

「じゃあ1つだけ。パメラの体を錬金術で作ったっていってましたけど、表情や体温まで出てたのってどういう原理なんですか?」

 物語に出てくる生きてる人形ですら表情や体温がないものばかりだ。なのにパメラにはそれがあるのがどうしても気になった。
 ちなみに、幽霊云々は深く考えないことにした。この二人に聞いても、答えが返ってこないかさらにわからなくなるだけだろうし。

「それは、師匠だからとしか……」
「師匠って先生の錬金術のですよね? そんなすごい人ならいつか会ってみたいです。」

 俺から見て雲の上なロロナ先生のさらに上に居る人。どんな人か興味あるし、もしかしたら錬金術を見せてもらえるかもしれない。
 だが、俺の言葉にすごい微妙な顔つきをする先生。言いづらそうに視線をさまよわせてから言葉を続けた。

「えっとね。師匠は今どこにいるか分からなくて。それに、クリア君やトトリちゃんを出来れば会わせたくないというか……絶対ろくなことにならないし」
「えっと、例えば?」
「ごめんね、思いつかないというか、考えたくないというか……」

 その言葉でそれ以上聞くのをやめることにした。先生の反応から錬金術を見せてもらうのは不可能だということだけはよくわかったし。

「ねえ、お話終わったなら三人でお茶でも飲まない?」

 そう言うのはパメラ。そういえば、食事も当たり前にしてるんだった。理由は聞いても無駄だろうと思い、他の事を聞く。

「先生、俺もいつかああいう錬金術できるようになりますかね?」
「うん、クリア君なら出来るようになるよ!」

 先生が笑顔で即答してくれるのが少しだけうれしい。
 まだまだ自分が未熟だということがわかり、余計に錬金術を学ぶ気概が沸いてきた。家に帰ったらロロナ先生から色々教えてもらいたいなと思う。
 そんなことを思っていると、すでに奥にいる二人から呼ばれた。とりあえずはお茶を楽しもうと思い、急いで奥に向かうのだった。



[21833] 第5話
Name: コルネス◆2d774991 ID:593a0955
Date: 2010/09/29 22:53
 夕食後、俺はアトリエでロロナ先生から錬金術を教わろうとしていた。
 本当は夕食の前にも少し教わりたかったんだが、それは無理だった。というのも、パメラとのお茶が長引きすぎたからだ。
久々に再開したというのと、元来から二人とも話す方なので夕刻くらいまで続いてやっとお開きになった。それから教わろうとすると、夕食の支度が間に合わないので食べてからとなったのだ。

「それじゃあ、今日は遅いしクリア君の成長を見せてもらうね。新しいことは明日って事で」
「わかりました。なにをやればいいですか?」

 先生は顎に手をあて、少し悩む仕草をする。

「中和剤の調合見せてもらえるかな?」

 俺はそれに答え、調合の用意に入る。先生に見られてると思うと多少緊張するが、何度もやった調合だし大丈夫だろう。

「材料って何か指定あります?」
「何でも大丈夫だよ。どれ使ってもやることあんまり変わらないし」

 なら水でいいかな、一番慣れてて安いし。まずは水を釜の中にいれ、かき回せつつ黄色の薬品を少量……。
 最後に錬金術終了を知らせる光が起こり、一時間ほどの作業は終了となる。釜の中には中和剤は問題なく出来上がっていた。それに安堵しつつロロナ先生に感想を問うことにする。

「どうでしたか? それなりにうまくなったつもりなんですが」
「うん、うまくなってたと思うよ! 前と比べると手つきなんかも慣れてきた感じだったかな。これなら明日の調合もうまくいくはずだよ」

 満面の笑みでほめてくれるロロナ先生。自分でも成長してるとは思っていたけれど、先生にほめられたことで改めて実感がわいてくる。とは言っても油断はしない。トトリにすら負けてるわけだし、そんなことできるわけもないんだけどな。

「そろそろ夜も遅いし、続きは明日にしようか」
「そうですね、また明日よろしくお願いします」

 そういうとそれぞれの寝室に向かう。ちなみに、先生には昼間と同じく姉さんの布団で寝てもらうことになった。前はトトリの部屋で布団しいていたんだけど、二人とも今居ないしね。




 翌朝、朝食を食べ終えると再び錬金術に取り掛かることとなった。あと先生の服装は普段の格好に戻っている。

「それじゃ、まずはゼッテルでもやってみよう!」

 そう言う先生とともに準備に取り掛かる。材料のほうは先生の方で用意してくれていたのでそれを使用する。まあ、これの材料ならなんとか揃えられそうだけれども。

「早速やってみてもらっていいかな?」
「あ、出来たらなんですけど見本見せてもらってもいいですか」

 正直、今やってみたところで成功する気がしない。ぐーるっぐるぐるぐーるとか言われてもその、正直困る。
 ようは料理の本にある適量とか少々、あと中火と強火の微妙な匙加減みたいだってのはわかるんだ。でもパターンが多すぎて判別がまだつかない。いつかはつくようになりたいんだけど。

「やっぱりあの本分かりにくかったかな……?」
「その……、すいません」

 そういう俺にガックシといった感じに落ち込む先生。

「じゃあまずはお手本を見せるね……」

 いまだ少し落ち込んでいるが調合に取り掛かる先生。久々に見るがやはりものが違うと思う。薬品のさじ加減に迷いがなく、釜をかき回すのもよどみがない。その作業は二時間ほどかかったが、俺は片時も逃さず見ているのだった。

「よし、完成! 今のでわかったかな?」
「大体ですがわかりました。今ならやれると思います!」

 先生の調合を久々に見たせいか、不思議と今なら大抵のものが作れる気がした。幸い、先生の使っていた釜はトトリのなので俺の釜はすぐに使うことが出来る。

「それじゃあこの植物と水を釜にいれてくれるかな」

 指示に従いそれを行う。先生の持ってきた植物はマジックグラスなのだが、不思議といいにおいがしたした。

「次はこの青い粉をぱらぱらっといれて、ぐーるぐーるかき回して……」

 ……調合を始めてから一時間ほどが過ぎ、時間がたつにつれて冷静になってきた頭でこれは失敗するかもと感じ出ていた。正直指示の一部が分からないのだ。ただ、ここまできて止めるわけにもいかない。
 しばらく釜をかき回していると、急にそれが光を発し始める。それはこのところ見ていなかった失敗の兆候で。次の瞬間には部屋に爆音が響き渡っているのだった。
 爆発の衝撃自体は大したことがなかったので、俺は多少焦げるくらいですんだが。

「ったた、先生大丈夫ですか?」
「こっちは平気だよー クリア君も大丈夫?」

 そう言う先生は距離があったせいか、多少埃がかぶった程度ですんだようだった。

「なんとか大丈夫です。でも、失敗しちゃいましたね……」
「途中まではうまくいってたのにね……」

 何が失敗かと言われれば、最初から成功する要素がほとんどなかったとしかいえない。やる前はできそうな気がしたんだが、それはスポーツなんかでよくある、うまい人のを見た後は自分も出来そうだと錯覚するあれだったわけで。まあ、それで出来ちゃうこともあったりするんだけどな。

「やっぱ錬金術は勢いでやっちゃダメですね…… しっかり理解してから出ないと」
「そうかなー? 勢いでなんとかなっちゃうことも多いけど」
「それは先生だからですよ」

 苦笑してそういう俺に、疑問そうにしている先生。やっぱり自分が天才だってこと自覚してないんだろうなあ。自分が天才だと思ってる先生ってのも想像できないし、それでいいと思うけど。

「まあ、さっき見せてもらったおかげで大分理解できたのは確かですし、わからないところ聞いていいですか?」
「その前にさ、もう一度やってみない? 今度は成功するかもしれないし!」

 先生がそういうならと思いもう一度挑戦するが、結果は当然失敗だった。




 失敗の後片付けが終わると、お昼の時間が近づいてきていた。
 丁度切りもいいということで、続きは後にしてお昼の準備をすることにする。先生も手伝うと言ってくれたのでお願いしたが、腕の方は期待に反して普通だったのが残念だったが。絶対どっちかに極端だと思ったんだけどな。
 量のほうは俺と父さん、先生とメル姉の四人分を作っている。昨日は近場にモンスター退治に行っていてこなかったが、今日は来るようなことを言ってたのだ。一応先生にメル姉が来ても平気か聞いたが、返事は当然ながら了承だった。
 そしていいにおいも漂ってきて、そろそろ出来上がりというとき、扉が開く音と共にメル姉が入ってきた。

「邪魔するわよー」
「いらっしゃい。そろそろ出来るから、適当に座って待ってて」

 と、そこで先生の存在に気づいたのか進めていた足が微妙にぎこちなくなる。

「どうも、はじめましてー。わたしロロナっていいます」
「あ、いえ。こちらこそ初めまして……」

 返答もどこかぎこちないメル姉。まあ、気持ちはよく分かるのでフォローしておこう。

「俺やトトリに錬金術教えてくれた先生だよ。教わってからしばらくたったから、また見に来てくれたんだ」
「あぁ、あの噂の錬金術士の? へぇ……まさかこんなかわいい人だったなんて」
「かわいいってわたしが? や、やだなあ。全然かわいくないですよ!」

 そんなところがかわいいです。さすがに恥ずかしくて言えないけど。

「まあまあ、そんなに照れなくても。あたしはメルヴィアっていいます。クリアやトトリとは幼馴染みたいなもので」
「メルヴィアかぁ…… じゃあメルちゃんって呼んでもいいかな?」
「なんでもいいですよ。この年でちゃん付けなんて照れくさいですけど」

 そう言って照れ笑いを浮かべるメル姉。まあ、ちゃん付けは似合わないよなあ、むしろ姉御とかの方が……。そんなことを思っていたら表情に出ていたらしく、メル姉に睨まれたので誤魔化すために別の話題をあげる。

「えっとメル姉、先生の噂ってどんなのがあるの?」
「そうねぇ……」

 俺の言葉に対して、ロロナ先生の方を見て返答を悩むようにするメル姉。だが、それも僅かの間だった。

「色々あるけど、印象深かったのは『騎士を殴り倒した』とか『ドラゴンを爆殺した』とかかしら。だからもっとゴツイ感じの人かと思ってたのよね」

 笑いながらに言うメル姉。その表情からして冗談半分なんだろうが、先生の反応は違った。なにやらショックを受けてるらしく、「え、そんな噂が?」とか「自己紹介の後微妙な空気になったりしたのって……」とかつぶやいてる。

「メル姉、もしかしてその噂って有名だったり……?」
「冒険者の間では結構ね……てっきり知ってるとばかり思ったんだけど」

 知ってると思って言ったためか、微妙に気まずそうな顔をするメル姉。微妙な空気を断ち切るように、完成した料理を運び出す俺たちだった。




 昼食が終わり、メル姉が帰っていくとまた錬金術の勉強を開始する。
 ロロナ先生は昼食の最中、俺とメル姉の必死のフォローでなんとか立ち直ってくれた。そのフォロー中に根も葉もない噂ではないということも判明したりしたが、まあ気にしないようにする。
 俺は先生からもらった参考書を広げると、分からないところを質問していった。『ぐるっぐるっぐるっ』てどうやるのかと『どさっと』ってどれくらいなのかとかだ。それに対する先生の答えは「ぐるっぐるっぐるはぐるっぐるっぐるとしか」とか、「どさっとはいっぱいだよ!」とかで最初のうちは要領を得なかった。
 だが粘り強く何度も、場合によっては質問の方向を変えたり、細かく分けるなどしているうちに何とか理解できてきた。先生の方もそれを続けているうちに、俺がわからないところが分かってきたらしい。俺が質問を続けるうちに先生の答え方が分かりやすくなってきたからだ。
 そんな作業は夕飯を経て結局寝る間際続いたのだが、おかげで明日には調合をすることが出来そうだった。

「うー、こんなに頭使ったの始めてかも……」
「俺もです。今日はトトリの偉大さが身にしみましたよ……」

 おそらくだがこの何時間かかったか分からない作業、トトリが居れば30分くらいで終わっていたはずだ。

「でも、たまにはこんなのもいいんじゃないですか?」

 そういう俺に疑問げな顔を向ける先生。それに答えるように俺は続けた。

「俺にとってはトトリに言われて分かるよりも理解できた気がしますから。それに先生も教えるのにいい特訓になったんじゃないですか? 最後のほうはわかりやすくなってた気がします」
「え? 本当に!?」

 それに頷いて答えると、はしゃぎ喜ぶ先生。さっきまで疲れて萎れてたのが嘘のようだった。その後は明日に備えて眠りにつくことにした。


 そして翌日、支度が済むと早速調合に取り掛かる俺と、それを見ている先生。最初はかなり緊張したが、調合を始めるとすぐにそんなことは気にならなくなる。
 釜の回し方や薬品の量の調整などの難易度はクラフトと大して変わらず、やり方がわかっている今回は危なげなく事が進む。
 そして二時間あまりの調合時間はあっという間に過ぎて、錬金終了の合図と共に終わりを告げる。
 だが、終了したからといっても失敗品が出来てしまっている可能性はある。いつもの錬金終了後より何倍も大きい緊張を感じながらそっと釜をのぞきこむ。そんな俺の目に入ってきたのは……成功したゼッテルだった。
 ロロナ先生もいつの間に近づいてきたのか、釜を覗き込んでいる。その表情は笑顔だった。

「やったねクリア君、成功だよ!」
「はい、嬉しいです!」

 初めて錬金術を成功させたときの感じを思い出した。この感覚がきっかけで錬金術を好きになったんだっけかな。最初はトトリがやってるから負けたくないみたいな感じだった気がする。まあ、好きである理由なんて好きであるってだけでいいんだろうけど。
 その日は午後もゼッテルの調合をして、次の日はその感じを忘れないうちに自作のノートを作成するのだった。いくら参考書を理解したからといっても、この作業をやめるつもりはない。やっぱり自作の方が自分に分かりやすいように出来るし、なにより紙にまとめることでより考えがまとまるのだ。
 ノートが出来た次の日からは研磨剤調合に入る。ゼッテルのときと似たような方法で作り方を学んでいくのだが、今度のは難易度が高く五日ほどかかった。調合のやり方がわかっても、今までのより薬品を入れるタイミングがシビアだったりして失敗してしまったのだ。
 また、それが終わってもフラムの調合には入れなかった。なぜなら普通の錬金術なら失敗しても大して危険はないが、武器関係の錬金術の失敗は本当に危ないのだ。武器の暴発の危険性もあれば爆発の規模も上がる。うちの家が吹き飛んだのがいい例だ。なのでクラフトならともかく、それより強い爆弾を研磨剤の調合が安定しないうちにやらせるのは危険というわけだ。
 トトリが帰ってくるまでは研磨剤を安定させて作れるように努力を続けるのだった。




 そして、トトリが帰ってくる日になった。ペーターさんが予定通り馬車を進めているならば今日の夜には帰って来るはずだ。なので今日の午後は料理の準備に費やしお祝いの準備をした。消化がよくて食べやすいものにしようかとも思ったが、あの二人ならすぐ休みたがることもなさそうなので料理は豪勢にする。
 夕日も沈み準備も終わった頃、タイミングよくトトリと姉さんは帰ってきた。

「おにいちゃん、ただいま!」
「ただいま、クリア君」

 それに対して出迎えるのは俺と父さん。ロロナ先生にはサプライズってことで隠れてもらっている。

「二人とも冒険者になれたのかい?」
「あ、お父さん。見て見て、これ!」

 そういうトトリが差し出すのは冒険者免許。細かい部分は違うものの、母さんのとよく似ている。それに少しだけだが懐かしい気分になった。

「これが免許か、懐かしいね。おめでとうトトリ」

 そういう父さんに笑顔になるトトリ。

「姉さんの方も見せてもらっていい?」
「はい、これね」

 それを出す姉さんの表情もどこかうれしそうで。やっぱり姉さんも一緒に行ってもらってよかったと思うのだった。

「おめでとう姉さん」
「うん、ありがとうね」

 そこで、そろそろいいかなと思ったので合図を送ることにする。なんか出てきたいオーラが伝わってきた気がするし。

「そろそろ出てきてもらえますか?」

 トトリが「え?誰か居るの?」と疑問を口にする。そして出てきた先生を目にすると、口に手を当てて驚きを露にするのだった。

「久しぶりだね、トトリちゃん! 冒険者免許おめでとう!」
「あ、え、お久しぶりです? って、そうじゃなくて! なんで先生がいるんですか!?」

 それに対しては俺が説明する。トトリが行ってる間に先生が訪ねてきたこと。それから今日まで錬金術を見てもらっていたことなどだ。それにずるいと思っているのが表情に出ているトトリであったが、口に出すことはなかった。

「明日からはわたしにも教えてくれるんですよね?」
「うん、明日からがんばろうね!」

 そこで言葉を区切る先生。

「でね、一つ聞きたいんだけど、どうしてトトリちゃんは冒険者になろうと思ったの?」

 実はこの質問俺も聞かれている。だが俺が答えるのもどうかと思ったので、トトリに聞いてもらうことにしたのだ。よく考えたらしっかりトトリから理由聞いてないとも思ったし。
 トトリの口から語られることは母さんのことが大半を占めた。母さんが冒険者だったこと、今は行方不明であること、その母さんを探し出したいこと、自分が母さんと同じくらいの冒険者になれば喜んでくれるはずということ。他にも、錬金術のおかげで冒険者になることが出来たと先生にお礼を言っていたりもした。そして、その話を聞き終えた先生は……泣いていた。

「わ! な、なんで泣いてるんですか?」
「だ、だってトトリちゃん、すごく健気で……。よし、決めた! わたしもトトリちゃんのお手伝いする!」
「え? 先生がですか?」
「うん! まずは、明日から錬金術の勉強がんばろう!」

 それに対してうれしそうに返事をするトトリ。俺も先生が手伝ってくれるのは嬉しかったので笑みを浮かべる。
 その日の夕食は冒険者免許祝いに加えて先生の歓迎会というのも混ざり、本当に賑やかなものになったのだった。


(あとがき)
 ロロナ寄せ上げ疑惑は悩んだんですがカットでいきます。さすがに男の前でやるのはどうかと思ったんで。



[21833] 第6話
Name: コルネス◆2d774991 ID:593a0955
Date: 2010/09/29 22:53
 トトリが帰ってしばらくは俺もトトリも先生に錬金術を学んでいた。姉さんも近場にミューズを取りに行ってくれたりなどしてくれたが、基本冒険はしていない。
 また、ゲラルドさんやパメラが錬金術の本を手に入れてきてくれた。さすがに無料ではなかったので、全部買うことは出来なかったが、地道に金を溜めていずれは買おうとトトリと話したりもした。買った本の調合を出来るようにならないといけないから無理に買う必要もなかったといえばなかったし。
 その資金に加え、冒険者になると何かと金がかかるということなので、トトリが居ない間も納品依頼で出来そうなのがあったらやってくれと頼まれた。特に断る意味もないので、返事は当然了承だ。
 そんな風に過ごすと二週間ほどの時間はすぐに過ぎ、暦も七月に入った。七月ともなると、夏も本番になり、暑さも本格的になってきている。正午近いということもあり、窓から刺す日差しも厳しい。
 今はトトリと姉さんは冒険に出かけ、先生はクーデリアさんって人が心配してたとかでアーランドまで戻っている。なので家には俺と父さんしかおらず、俺はアトリエでトトリに頼まれたクラフト作りをこなしていた。トトリに冒険行っている間に作っとくものがないか聞いた結果、頼まれたものだ。
 にしても、この時期の錬金術は地味につらい。大釜に熱を通すためにかなり強い火をおこしており、それをかき回すため近くにいるので相当暑い。涼しくなる錬金術の道具ってないのかなとか、考えてしまうのも仕方ないことだと思う。
 そんな風に暑かったクラフト作りも一段落して、そろそろお昼という時だ。突然扉が開き人が入ってきた。

「見つけたわ!」

 その人物はトトリと同じ年くらいの少女だった。赤いマントみたいなのを羽織り黒髪をサイドにまとめている。顔立ちは少し大人びていて、かわいいというより美人といったほうがいいかもしれない。が、その少女はどこか困惑した顔でこちらを見ていた。
 見つけたわってことは誰かを探していたんだろうけど、アーランド辺りでトトリが知り合ったとかか?

「……なにか用かな?」

 とりあえず話を聞いてみることにした。すると少女は雰囲気を入ってきたときのどこか高飛車なものに戻した。

「失礼したわ。ここに錬金術士の女の子はいないかしら?」

 それに対して多少考えるそぶりを見せて返答する。

「ロロナ先生のことかな? それともトトリ?」

 多分トトリだと思うけど一応先生の名前もあげておく。すると少女は数秒顎に手を当て考える仕草を取る。

「本人はトトリと言っていたと思うわ」

 話の流れからして、トトリがアーランド知り合った人だろうか? それで分かれるときにうっかり住んでる場所を言いそびれたけど、この子はがんばって探し当てたと。まあ、錬金術士ってことで探せばなんとかなりそうだし。

「そっか。でも悪いんだけど今冒険に出ちゃってるんだ。いつ帰ってくるかはちょっとわからないんだけど」

 今回の冒険は冒険者免許取れたということで、かなりの遠出をしている。それと始めていくところというのもあり、いつ帰ってくるかは正確にはわからないんだよな。メル姉がついていってるから大丈夫だろうけど、少しだけ心配だ。

「そう……」

 そう言って残念そうにしている女の子。少し間が空き部屋の中を見回すと、あることに気づいたのか訪ねてきた。

「ここ、錬金術のアトリエよね? ということは……そういえばまだ名乗ってなかったわね。私はミミ・ウリエ・フォン・シュヴァルツラングよ」
「俺はクリアって言うんだけど……」

 名前からして貴族だろうか。今まで一度も会ったことないから取るべき態度がイマイチ分からない。まあ気にする必要もないのかもしれないけど。

「あなたも錬金術士なのかしら?」
「一応ね。まだまだ見習いだけど」

 何かを悩むようにしながらこちらを観察するように見てくる。その視線に若干居心地が悪くなるものの、目が真剣なので何も言えなかった。そのまま数十秒がすぎ少女はこちらに向かっていってきた。

「……男にしては貧弱すぎる気がするけど、まあ錬金術には関係ないわね」

 思わず顔が引きつる。自覚はしてるけど、初対面の人に脈絡もなくいわれるとさすがに……。

「喜びなさい、この私があなたを雇ってあげる」

 胸を張ってそう続ける少女。が、俺はそれに困惑することしか出来ない。

「ごめん、ミミさんってトトリの友達でアーランドから会いにきたわけじゃないの?」
「んな!? ただ冒険者免許を取るときに会っただけで、友達なんてことないわよ!」

 顔を赤くして否定するミミさん。これだと照れてるだけかイマイチ判別がつかないんだけど。

「ならどういう関係?」
「それは……そう、知り合いよ、ただの知り合い!」

 すごい照れ隠しっぽい。まあ悪い子じゃなさそうだし、これ以上の追求はかわいそうだからやめておく。

「そっか。知り合ってトトリが錬金術士だと知って雇いに来たと」
「そうよ」

 それでいないなら同じ錬金術士である俺でもいいやと。でも今の俺やトトリを雇って役に立つのかな? まだまだ見習いだし、作れるものなんてほとんど店で買えるようなものばかり。それなら先生雇ったほうがいい気がするけど。

「なるほど。でも、雇われるのは無理かな。まだまだ修行中の身だし、何よりこの家離れるわけにもいかない。トトリと姉さんの帰りを待ってなきゃいけないし」
「……そう。まあいいわ、トトリの方にも聞いてみればいいことだし」

 また来るわと言うとミミさんは去っていくのだった。最後のほうに見せた表情はどこか寂しそうだった気がした。




 あれから一週間ほど、ミミさんは毎日のようにうちに来ていた。最初のうちはあまり話をしなかったのだが、何度もきているうちにだんだん話すようになってきた。そのかいあってか、今日はうちで昼飯をくっていくこととなった。
 ちなみに、一度暇なのか聞いてみたら怒られたが、どう見ても暇だよなあ。

「へえ、けっこう美味しいじゃない」
「どうも。毎日作ってるからこれくらいはね」

 昼飯を一口食べたミミさんは珍しくそう褒めてくれた。まあ姉さんが冒険者になってから毎日のように作ってるから、以前よりうまくなってると思うし。
 錬金術の方を見ても最近は新しく入手した参考書に書いてあった小麦粉やら塩ばかりやってるせいで、全然錬金術っぽくないだのと言って来るのに。まあ、俺も錬金術っぽくないなあとは思うんだけど。

「でも、いい加減帰ってこないかしらね。こっちも暇じゃないのに」

 思いっきり暇じゃないかと思うが口にはしない。それに大して受け答えを続けていると扉が開き、それに続きトトリと姉さんが部屋に入ってきた。

「ただいまー」
「ただいま、クリア君」

 そう言うと、ミミさんに気づいたのか驚く二人。

「おかえり姉さん」
「お邪魔してるわ」

 そんな俺たちの声に我に返った二人は、俺のほうに近づいてきて小声でたずねて来る。

「えっと、おにいいちゃん? あの子っていったい……?」

 忘れちゃってるのかと思い苦笑する。まあトトリらしいかなと思い説明する。

「冒険者免許取りに行ったとき会ったらしいけど、覚えてないか?」

 俺がそういうと思い出したのか、頷く二人。

「まったく、帰ってくるのが遅いわ」

 そう言いつつ、こちらに近づいてくるミミさん。俺だけに対してじゃなく、誰に対してもこういう態度なんだなとある意味感心する。
 それに大して、まだ疑問が抜け切ってない二人が顔を向ける。

「え? いや、そんなこと言われても知らなかったし……」

 それに対して、尚も不遜な態度で返すミミさん。

「まあ過ぎたことをとやかく言うつもりはないわ。それより、これを見なさい!」

 そう言って取り出したのは……冒険者免許?

「……これって冒険者免許?」

 そういって困惑気味になるトトリ。俺も行動の意味がよくわからず困惑してたりする。そんなの見せる必要ないと思うけど……。

「そうよ。あの後すぐ、私ももらったんだから」
「へ、へぇ……」

 沈黙が続く。お互い冒険者免許に視線を落としたまま硬直する二人。かくいう俺も冒険者免許を見つめたまま何もいえないでいる。そこで空気を読んでか姉さんが言った。

「その冒険者免許がどうかしたの?」
「え? そりゃあもちろん……」
「もちろん?」

 そう聞くトトリに言葉につまるミミさん。また沈黙が続く。

「……あぁ、もういいわよ! なんでもない!」

 赤くなってそういうと話を打ち切るミミさん。結局なんだったのかよくわからなかった俺たちはそろって疑問げな表情だ。

「それより! トトリっていったかしら、あなたを雇ってあげるわ」
「え? 雇う?」
「これ以上の栄誉はないでしょう?」

 そう言われて困惑気味のトトリ。まあ気持ちはすごいわかる、俺のときより唐突だし。

「えっと、わたしだってやりたいこととかあるし、いきなり言われても困るっていうか……」
「そう。それじゃあダメなのね?」
「えっと、まだまだ未熟だし、その……ごめんなさい」

 そのトトリの言葉で引き下がるミミさん。一週間も待ったのにやけにあっさりしてる気がする。

「やけにあっさり引き下がるけど、いいのか?」
「この一週間あなたの錬金術見せてもらったけど、まだまだ日用品レベルなんですもの。雇って塩や小麦作られてもこっちが困るわ。トトリの方も聞いた感じそこまで差はないようだし、まあ成長待ちね。我ながら少し強引だったかもって思っていたし」

 なるほどと思い苦笑してしまう。確かに便利だし、万能性は高いけど他の技能で代用できることが結構多い。ロロナ先生とかがすごいから魔法の技術っぽく思ってる人が多いけど、そんなことないんだよな。
 それと、と言いトトリに向き直るミミさん。

「あなたが冒険に出るとき、手伝いが必要だったらいいなさい。手伝ってあげないこともないわ」

 そう言うと席に戻り食事を再開する。言われたトトリは最初呆けていたが、やがて笑顔になる。

「うん、よろしくね! えっと……」
「ミミ・ウリエ・フォン・シュヴァルツラングよ」

 そう名乗るミミさん。それに対し聞きなれない貴族名なためか、若干驚き気味に頬に手を当てるトトリ。

「わ、なんかお嬢様っぽい名前。……ん、ミミ?」
「なによ? 私の名前に文句でもあるの?」

 そう言って睨んでくるのに対し、首を振ることで否定するトトリ。

「あ、ううん。文句はないけど……ミミちゃん?」
「か、勝手にちゃん付けで呼ばないで!?」

 赤くなってそう言うミミさん。照れているのが丸分かりである。だが、それに大してさらにトトリは追撃をかける。こういうところは天然ゆえだなと思うけど、やられるほうとしてはたまったもんじゃないよなあ。

「かわいい! すごくかわいい名前だよ、ミミちゃん」
「か、かか、かわいいとか……。ああもう、好きにしなさい!」

 照れ隠しかまたは撤退のためか、すごい勢いでご飯を食べ始めるミミさんであった。



[21833] 第7話
Name: コルネス◆2d774991 ID:593a0955
Date: 2010/10/01 20:27
 夏の暑さも弱まり、若干涼しくなってきたときのことだ。俺はいつものように錬金術をしていた。ちなみに今日はロロナ先生も一緒に錬金術をしている。また、釜の数もあると便利だろうって先生が持ってきて3つに増えた。
 錬金が終わり、出来たものをコンテナの中に戻そうとしたとき、俺は違和感を覚えた。コンテナの中身が減っている気がするのだ。俺が空けてからは誰も空けてないはずなんだが……。
 少しコンテナの前で考え込んでいると、そんな俺に気づいた先生が声をかけてきた。

「クリア君、どうかしたの?」
「コンテナの中身が減ってる気がしたんで。多分気のせいだと思うんですけど……」

 そういうと腕を組んで考え込む先生。数秒たつと何か思い当たることがあったのか、こちらにたずねてきた。

「何がなくなってるかわかるかな?」
「えっと……ミューズが4つですね」
「それだと多分、トトリちゃんじゃないかな」

 その先生の言葉に疑問が浮かぶ俺。今トトリはアーランドにいってるからそんなこと出来るわけないんだけど。
 ちなみに、今アーランドに行っているのはトトリ、姉さん、ミミさん、ジーノの四人だ。メル姉はしばらくは一緒に冒険しないつもりらしい。いつまでもメル姉が一緒だと一人前にならないってのも理由の一部のようだったが、なにより大人数だと冒険がつまらないという部分を強調していた気がする。
 その感覚は俺にはイマイチわからないものだったが、冒険者四人には感じるものがあったらしく皆納得しているようだった。また、同様の理由で先生もついていかなかった。
 メル姉が抜けて大丈夫か多少の不安はある。だが、冒険に関しては素人の俺が口出しし過ぎるのもどうかと思い、メル姉の判断を信じることにした。今までの冒険でも大した怪我もなく帰ってきてたしな。

「どうやってですか?」

 手段を聞いたのは、錬金術を使った方法の可能性がかなり高いからだ。先生がこう言うってことはその方法があるってことだし。

「トトリちゃんに私のアトリエ使ってもいいよって言ったでしょ?」

 それに対して相槌で答える。あっちでも拠点があったほうが便利ってことで、トトリの出発前に使用許可を出していたはずだ。もっとも、今回は二三日休憩したら帰ってくると言っていたが。

「でね、向こうのコンテナとこっちのコンテナって繋がってるんだ。そのせいじゃないかな?」

 ……一瞬何を言ってるのか理解できなかった。だが、こういうことも度々ありなれてきたのですぐに落ち着いて考える。向こうのコンテナとこっちのコンテナが繋がっているっていうのは?
 うん、これはそのまんまの意味のはずだ。前々から容量無視しているおかしなコンテナだと思っていたが、まさかそんなことまで出来るとは。それで、向こうでトトリが取り出した影響で材料が減ったと。
 少しの間考え込んでしまったらしく、先生がこちらを不思議そうに見ていた。

「一応理解は出来ました。でも、どうやればそんなこと出来るんですか?」
「えっとね、ちゃんと説明すると結構難しいんだ。簡単に言うと、こう……がちゃって感じかな」
「がちゃ……ですか?」

 そんな俺の言葉に身振り手振りを交えながら伝えようとしてくれる先生。手の平と平を合わせて離したり、指先をくっつけたり離したりを繰り返している。
 だが、そうやられても理解することが出来なかった。もしこの理論が復旧したらすごい便利だよな、もしかしてゲラルドさんと冒険者の本部ってこれでアイテム引渡しとかしてるのかな、とか半ば逃避のようなことを考えてすらいた。
 まあ、先生も理解できるとはあまり思っていなかったようだ。

「だいたいこんな感じなんだけど、クリア君がもうちょっと錬金術に詳しくなったらちゃんと教えてあげるから」
「それでお願いします……」

 いつかはこんなものを作れるようになるのだろうか。さすがに自信がなく、少し不安になってくる。
 とはいっても、結局は勉強を続けるしかないわけで。ちょうどいいタイミングだと思い、前々からの問題を先生に相談をすることにする。

「相談なんですが、手に入りやすい材料で出来る難しい錬金術ってありますか?」

 今はまだ錬金術の材料は比較的手に入りやすいものなので困ることはあまりない。だが次の段階から手に入りやすい材料で出来るものがあまりないのだ。トトリが取ってきたものを少しもらうことは出来るが、そんなに多くもらうことも流石に出来ない。なので手に入りやすい材料で出来る錬金術が必須なのだが。
 そんな俺の言葉に先生は少し考えるが、すぐに思いついたのか何かを取りに部屋を出て行った。ちなみに、先生の部屋も長居するにあたり作った。もともと客室か新しく子供が出来たときのためか、部屋がいくつか余っていたのだ。
 数分ほど経つと先生は戻ってきて、なぜだが満面の笑顔でそれを見せてきた。

「じゃじゃーん! これなら大丈夫だよ!」

 そう言って手渡されたノートのタイトルは『ロロナのパイノート』だった。

「……パイってアップルパイとかのパイですか?」
「うん、もちろん!」

 やたらテンション高く返してくれる先生。だが、こちらは本日二度目の混乱中だ。確かに材料は簡単に手に入るだろうけど、錬金術で料理? 小麦粉やら塩やらも作ったけど料理とは……。
 だが、こちらのことはお構いなしで先生は続ける。

「錬金術で出来るパイの作り方! これなら材料だって簡単に手に入るよ!」

 そのテンションのままさっそくパイ作りに取り掛かろうと勧めてくる先生。それに流される形で俺はパイ作りを開始するのだった。




 パイ作りはなんと一回目で成功した。先生のレシピを初回で成功させたのはこれが始めてだったので、先生はとてもよろこんでくれた。
 まあ、パイ作りといっても色々あって、今回やったのはその中で一番簡単なプレーンパイだったんだが。それでも先生のレシピを見ただけで理解できたのはうれしかった。……ミートパイやベジパイは理解できそうになかったが。
 ただ、成功させたパイを見たときはうれしさよりももっと違う何かが湧き上がってきた。自分の中の常識がまた少し砕けた感じというか、まあそんなのだ。

「それじゃ、早速食べてみようか!」

 そう言って、いつの間にか用意していた皿にパイを切り分けていく先生。食べて大丈夫なのか激しく不安だ。
 そう悩んでいるうちにお茶の用意なども終えた先生が、早速パイを口に含む。とりあえず感想を聞いてみることにする。

「……どうですか?」
「うん、おいしいよ!」

 笑顔で答えてくれる先生。先生が普通に食べてるなら大丈夫だろう。そう思い、俺も思い切ってパイを口に含む。

「おいしい……」

 普通に食べれたことに思わず目を見開く。においも見た目も普通だったから当たり前なんだろうけど、やっぱり意外だった。
 作ったパイは俺と先生で食べきってしまった。少しだけあった忌避感も食べているうちに、すっかりなくなってしまっていたのだった。

「先生ってパイが好きだったんですね」
「あれ、知らなかったっけ?」

 それに頷いて答える。知ってたらパイを作ったのに。先生がきてからパイを作った記憶がほとんどないので、今度おさかなパイでも振舞おうかと思った。
 もう一つ気になることが出来たので、それも聞いてみる。

「パイが出来るってことは他の料理も錬金術で再現できるんですか?」
「うん。料理のレシピがあれば錬金術でほとんど作れるかな」

 つまり、料理のレシピを見れば錬金術に出来ると。……キャベツの千切りですら出来そうにないんですが。

「どうやったらレシピを錬金術に……?」
「それは……なんとなく、かな?」

 経験つめば分かるようになるよと言ってくる先生。まあ、今でもどうやればどういう反応が起きるのか分かってきたし、いづれできるようになるだろうと思うことにする。……やっぱり自信はないけど。
 それにしても、パイレシピのおかげでしばらく材料に困りそうにないのは素直にうれしかった。確かに最初は戸惑ったが、先生に改めて感謝する。

「先生、今日はありがとうございました」

 そう言い頭を下げると、驚いたように数度瞬きをした後やっぱり笑顔で返してくれるのだった。「先生だから当たり前だよ」と。




 トトリが帰ってきた日のことだ。帰ってくるとトトリもコンテナのことが気になったのか、すぐに先生に聞いていた。俺と同じくイマイチ理解できない風だったが。
 そして確認のためかコンテナを開けて……固まった。一度蓋を閉じると頭をぶんぶんと振り、再度中身を確認するが中身は変わっていないようだ。なんでそんな風にしているか、なんとなく想像つくが一応声をかける。

「トトリ、どうかしたか?」
「あ、おにいちゃん……」

 振り向いたトトリの顔には、大量の疑問符があるようだった。

「どうしてコンテナの中にパイが。しかもあんなにたくさん……」

 やっぱりかと思い、つい苦笑いしてしまう。パイ作りを教わってから、結構な頻度でパイ作りをしていた。難易度的に丁度良かったからだ。
 だが、そう毎日パイを食べるのは無理でメル姉やゲラルドさん、パメラ等村の人にもあげたりしたがそれでもたまる一方だった。今では2桁のパイがコンテナの中に存在している。
 まあ、幸いコンテナの中の物は腐らないし、先生なんかは好きなときにパイが食べれるとか喜んでいたが。
 そのことを説明すると、どこか呆れたような表情をしているトトリ。

「錬金術でパイってなんか錬金術っぽくないというか……。何より作りすぎだし」

 俺も最初はそう思ったなとか、大して経ってないのに懐かしく思えた。作りすぎっていうのは確かにそう思うが、いずれ作らなくなるから大丈夫だろう。結局トトリもパイ作りをして、さらにパイはたまっていくのだった。


(あとがき)
 明日零の軌跡発売ってことで、次の更新は少し遅れるかもしれません。



[21833] 第8話
Name: コルネス◆2d774991 ID:593a0955
Date: 2010/10/18 19:58
 トトリが帰ってきてから少し経った日のことだ。今日もいつもと同じようにアトリエにいた。トトリや先生も同じくアトリエにいて、三人で錬金術をしている。
 ただ、トトリと俺のやってることが大して変わらないのは少し気になってた。錬金術にかけてる時間倍以上違うはずなんだが、なぜだか差がつかない。もし同じだけ錬金術をしていたらって考えると……。
 そんな時にアトリエの扉を叩く音が聞こえてきた。ここに来る人は大抵ノックなどせずに入ってくるので、誰だろうかと疑問を覚える。……改めて考えると、他人の家にノックなしで入ってくるジーノやミミさんも大概だよなぁ。

「はーい?」
「やあ、お邪魔するよ」

 トトリのそんな呼びかけに答えるように、扉が開き一人の男が入ってきた。若干猫背気味の背に白衣と眼鏡をつけている人だ。少なくともこの村で見た覚えはない。

「わ、マークさん!?」

 その反応に、トトリの知り合いかと思っていると続いて先生が声を上げた。

「ああああ!!」
「先生も知り合いなんですか?」

 そんな俺の言葉にマークさんをきりっと睨んで先生は続ける。

「えっと、この人は……」

 そういってすぅはぁと深呼吸をし始める先生。その様子を不思議そうに眺めるのは俺を含めた3人だ。

「いのーのてんさいかがくしゃぷろふぇっさーまくぶりりん。あぅ、やっぱり言えない……」
「あ、やっぱり先生も言えないんだ」

 トトリ、お前も言えないのか……。まあ人名としちゃ長すぎると思うけど。
 先生が珍しく敵意を出すから少しだけ警戒したけど、この分だと安全っぽいな。敵意といっても小動物的なものだったし。

「それで何の用ですか?」

 このまま続けると確実にややこしくなる気がしたので、話を切り替えることにする。
 そんな俺の問いかけに軽い調子で返してくれるマークさん。プロフェッサーなんとかは長いので、最初にトトリが読んでた方を使うことにした。

「大したことじゃないよ。改めて挨拶しておこうと思っただけさ。最近街中でもぽつぽつお嬢さん、トトリさんのことだね。彼女の噂を聞くようになってきたからさ」
「わたしの噂を? えへへ、ちょっと嬉しいかも」

 そういってはにかむトトリ。
 ……錬金術とか冒険者の噂だといいんだけど。服装的なことだったらさすがに笑えないし。

「それでマークさんが来たのはトトリの噂が原因なんですか?」
「違う、異能の天才科学者プロフェッサー・マクブラインだ!」

 長くて呼びにくい気がするんだけど。ダメもとで聞いてみるか。

「……長いんでマークさんじゃダメですか?」
「いいよ」

 ダメだろうなと思ってたのに、即答で了承された。なら最初から否定しなきゃいいのに。

「実に的確で分かりやすい呼び方だ。今後は他の人からもそう呼んでもらうことにしよう」
「私も聞いとけばよかった……。それで噂がどうかしたんですか?」
「噂のおかげでお嬢さんも有名になってきた。なので、ここでライバル宣言をさせてもらう!」

 どうどうと宣言するマークさん。だが、俺もトトリも浮かぶのは疑問符だ。マークさんが錬金術士なはずがないし、それならライバルとかないと思うんだけど……。

「わたしに続いてトトリちゃんにまで! ダメだよ、トトリちゃんはわたしの生徒なんだから!」

 マークさんを睨みながらそう言う先生。身長差のせいで睨むのが上目遣いになってて全然怖くないんだけど。
 でも、先生もされてたのか。まあ有名人だしなあ。

「科学者と魔法使いが敵対するのは昔からの決まり事みたいなものじゃないか。それを止めるなんて出来やしないよ」

 ……ん、魔法使い?

「マークさんって魔法使いなんですか?」

 パメラみたいなのがいるくらいだし、いてもおかしくはないかもしれない。空とか飛べるなら少しあこがれるな。
 ……そういや、パメラも空飛んでたっけ。

「魔法使いは君達の方だろ? 僕は科学者さ」

 つまりマークさんは科学者で錬金術師が魔法使いだと。
 ……少しだけいらっときた。俺がここまで学んできたものを魔法の一言で片付けられるのはさすがに。

「……確かに科学者ってのは違うかもしれません。でも、魔法ではなく錬金術です」
「似たようなものだろう? ひょっとして違うのかい?」

 ……うん、誤解ってのはよくあることだよな。解けばすむことだし。

「おにいちゃん、もしかして怒ってる……?」

 そういうトトリはどこか怯えてるように見える。

「まあ、錬金術のことはよく知られてないからな。これから理解してもらうよ、うん」

 そう言ってからマークさんの方を見る。どこか腰が引けてる気がするが、気にしないで置く。
 マークさんに椅子に座るように勧めてから、俺も席につく。さて、お話を始めようか。




 ……話は二時間にほど続いた。
 トトリや先生も最初は話を聞いていたんだが、すぐに錬金術の作業に戻ってしまっていた。まあ二人には会わない話だったからな。

「こんなところですかね。大体わかりましたか?」
「ああ、僕が悪かった。どうやら誤解だったようだ」

 最初は勢いに任せて話始めた感じだったけど、話しているうちに楽しくなってきてついつい長引いてしまった。先生もトトリも感覚でやってるところがあるから、こういう理論方面の話ってあんまり出来なかったんだよな。
 その点マークさんは錬金術の知識はないが、その分科学の知識があるから話していていろいろ意見がもらえてよかった。マークさんの方も最初は胡散臭そうだったけど、話しているうちに乗ってきてくれたし。

「錬金術というのも色々面白そうだね。いつか科学と組み合わせてみるのも面白いかもしれない」
「ですね。俺でよければいくらでも協力しますよ」

 そういって握手をする俺とマークさん。
 話しているうちに俺の怒りもすっかり飛んでしまっていた。

「やっと終わったんだ……。なんというか、お疲れ様」

 話が終わったのを察したのか、トトリがこちらに近づいてきた。途中で抜けた時よりさらに呆れたような、というかどこか引いた雰囲気がするのは気のせいだろうか?
 そこで部屋を軽く見渡すと、先生がいつの間にか消えていた。

「先生はどこいったんだ?」
「『もう無理、聞いてるだけで頭痛くなるよぉ』とか言って部屋に戻っちゃった。……気持ちはよくわかるけど」

 最後の方はよく聞こえなかったが、どこかげんなりした感じでそういうトトリ。そこまでなるような話をしてたつもりはないんだけどな。
 そんなトトリにお構いなしに近づいて手を差し伸べるマークさん。

「お嬢さんの方もこれからよろしく頼むよ」
「え、わたしもですか!?」

 そういって驚いた顔をするトトリ。マークさんはそれにさも当然と言った風に返す。

「クリア君の話では錬金術は魔法より科学よりの技術というじゃないか。それならお互い協力するのは当然のことだろう?」
「そんな話になってたんだ……」
「僕の力が必要な時は協力しよう。無論、その逆も然りだ」

 そう言うってトトリの手を取ると握手を交わすマークさん。トトリや先生みたいな感覚派の人の意見も重要だし、人数が多いにこしたことはないからな。

「本当は君たちの先生にも挨拶したかったんだけど、いないんじゃ仕方ないか。それじゃ、また近いうちに」

 そういうとアトリエを出て行くマークさん。俺はそれを笑顔で見送る。

「最初はムカっとしたけど、話してみるとすごいいい人だったな」
「ああうん、そうだねー」

 トトリのそんな投げやりな返事も気にならないくらい機嫌がいい俺だったのであった。


(あとがき)
 零の軌跡クリアしました。かなり面白いので、PSP持ってる人は買っていただけると幸いです。
 そろそろジーノ必殺技習得時期なんですけど、ある程度無茶しても平気ですかね? 錬金術と必殺技をうまく絡ませるのが難しくて……。



[21833] 第9話
Name: コルネス◆2d774991 ID:593a0955
Date: 2010/11/21 08:44
 年が明けて少し経った頃のことだ。
 トトリと姉さんも年末年始はのんびりしようと思ったらしく、家でのんびりしている。俺もここのところはあまり錬金術をやらずにのびのびしていた。正確には錬金術をやってたら姉さんに止められて、それで休むことにしたんだが。曰く「年末くらいのんびりしなさい」と。
 今は部屋で錬金術関係ではなく娯楽小説を読んでいたりする。よくある冒険もので、その中に出てくる特殊な道具を錬金術で再現出来るかとかを考えながらなんだが。水面歩行の道具とか、先生なら出来そうに思えるんだけど。
 そんな時にリビングの方からトトリと姉さんの悲鳴が聞こえてきた。一瞬驚いたが、よく考えるとそんなに珍しいことでもないことに気づく。父さんに急に話しかけられたり、ゴキブリが出たりとかで悲鳴が上がることは結構あるし。
 それでも心配は心配なのでリビングの方に様子を見に行く。
 部屋を出て一つ角を曲がると見えてきたリビングには、トトリと姉さん、それに男の人がいた。
 黒いコートを着た人で、結構カッコイイ人だった。しかし一番特徴的なのがその鋭い目つきで、それのせいでカッコイイのが一転してすごい怖い顔になっている。
 悲鳴が聞こえたのはこの男の人のせいなのだろう。そのことが頭に浮かび警戒心が出てくるが、よく見るとトトリや姉さんと普通に会話していた。
 これなら大丈夫そうだなと思い、近づいて声をかける。

「姉さん、その人ってお客さん?」
「あ、クリア君。アトリエの方に行ったら誰もいなくて、それでこっちに回ってきたみたい」

 そう説明する姉さんは悲鳴を上げたのが気まずいのか、若干視線が泳いでいた。その間にトトリと男の人の会話も少し聞こえてきたが、どうやら前にトトリ達のことを助けたことがある人らしい。
 俺の方も男の人に挨拶しようかなと思っていると、後ろから先生の声が聞こえてきた。

「うわあ!」

 案の定悲鳴を上げる先生。その声を聞いて少し傷付いた顔をする男の人。
 だが、男の人の表情の変化に気づいてないのか先生は一転笑顔になり声をかける。

「って、ステルクさんじゃないですか。もう驚かせないでくださいよー」
「言われなれたつもりだが、こう何度も言われると堪えるな……」

 名前を知っているってことは先生とこの人は知り合いなのだろう。知り合いに悲鳴を上げられたとなると、きついよなぁ……。姉さんやトトリを合わせると三連続だし。

「……君は悲鳴を上げないのだな」

 俺の方を見てそういう男の人。それに対して苦笑で返す俺。姉さんすら悲鳴上げてたわけだし、フォローするに仕切れないわけで。
 そんな俺に対して1つ咳払いすると、ステルクさんは改めて切り出した。

「彼女がすでに名前を出したが、私の名前はステルケンブルクだ。ステルクでいい」
「ステルク、さん。あ、わたしはトトゥーリア・ヘルモルトっていいます。トトリでいいです」

 トトリに続いて自己紹介をする俺と姉さん。それを聞き終わると、ステルクさんは先生の方を見やる。

「噂程度には聞いていたが、まさか本当にいるとはな……」
「クリア君やトトリちゃんに錬金術を教えてるんですよ。」

 はにかんで答える先生。その言葉に対して思うところが、ステルクさんは少し間を置いた。

「しかし、君が先生とはな」

 その言葉には様々な思いが込められていそうだったが、何よりも不安だと言ってる気がした。先生もそう思ったのか頬を膨らませて怒った素振りを見せている。

「まだ下手な部分もありますけど、私なりに頑張ってるんですよ。そうだよねクリア君、トトリちゃん」

 それに対して肯定を示す俺とトトリ。そんな俺たちの態度が嬉しかったのか、ステルクさんは柔らかく笑うと先生に謝っていた。
 その表情は全く怖くなく、優しそうであったのが印象的だった。




「では今日のところはおいとまさせてもらおう」

 あれから会話を少し交わすとステルクさんは時間らしく帰る旨を告げてきた。それを引き止めようとするトトリと先生だったが、元からあまり時間がなかったと言うと渋々引き下がった。
 そして去り際に少し悩んだ素振りをみせてから、ステルクさんはこちらを見てきた。

「その、君は男で合ってるのだな?」
「はぁ、男ですけど」

 小さい頃ならまだしも、最近じゃ一目で男と分かるはずなんだけど。そんな疑問が顔に出てたのか、ステルクさんはあわてて付け加えてきた。

「すまない。男性の錬金術士というのが珍しかったものでな」

 先生にその師匠、トトリと俺以外の錬金術士は女性だし確かにめずらしいかもしれないが釈然としない。そう思いつつステルクさんを見ると、不自然に視線を逸らしている気がした。やっぱり他の理由があるんだろうか。
 俺が疑問に思ってることに気がついたのか、数度咳払いをするステルクさん。

「では、また近くにきたら寄らせてもらう。そのときは怖がらないでほしいものだがな」

 その言葉に苦笑を浮かべる女性3人。姉さんはともかく、先生とトトリはまた繰り返しそう気がする。その3人は反応に微苦笑を浮かべるとステルクさんは出て行くのだった。


(あとがき)
 短いですが今回はこのくらいで。なんとか伸ばそうかと思ったんですが、下手にいじると碌なことにならなさそうだったので。長さを好きに出来るのってネット小説の利点ですしね。
 あと、次回からはその他板に移ろうと思ってるのでよろしくお願いします。


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