SCENE 1-1
その世界は血生臭かった。
戦場は生きた人間が内臓を食われる悲鳴と断末魔に満ちている。
ただの人は反応すら許されず殺される。
ある大地における有史以来の闘争はそういうものであった。
だが100年前を境にそれは二カ国間の戦争に変わる。
数多の人種がぶつかり合いその傍に異形がいる世界。
片方の国が勝利するために選んだ道。
それは異形へ忠誠を誓う事。
戦況はそうしなかったもう片方の国の劣勢となった――。
異形の呼び名は龍の末裔。
龍の末裔に従った国の名はセローデス。
対する国家はヴァンヴォドール。
海岸に近い場所に首都を置いていた事だけが不幸中の幸いであろう。
一方的に蹂躙され戦いですらなくなっていたヴァンヴォドールにある少年が現れ巻き返しは始まった。
少年は言う。
「毒を持って毒を制すればいい」
王は切り返した。
「汝はその技術の提供と引き換えに何を求める?」
少年が答える。
「僕が来た世界の、いや、母国の6700万人の人間がこの国へ移住させていただきたいのです。
国王陛下」
側近が騒ぎだす。
いかに気の遠くなる闘争で国民が激減していても受け皿にはなりえない。
食料の供給源自体いつ枯れるか分からないのだから当然であった。
「フェイト・アールウェンクスと申したか。
皆の者、沈まれ。
余はこの者の願いを聞き届ける」
「陛下ッ!?」
壮年の大臣は目をむいて驚いた。
承諾する筈が無い。
そう信じ、疑っていなかった事が窺える。
「セローデスを打ち倒したところでこの大地の民が渇望する平和は掴めぬ。
龍の末裔を打ち倒さぬ限りはな。
異国の民の力を信じてみようではないか。
何より余の双肩にはまだ生き残っている民草全ての命がある。
手段は選べぬ」
「そこまで申されるのでしたら」
「では、陛下。
僕の味方に敵の雑兵を捕縛する許可を」
「うむ――許す」
フェイトの仕草は長年王宮に仕えて来た騎士さながら。
どことなく演技らしいものはある。
しかし違和感はほとんどない。
謁見の間をフェイトは離れていく。
「フェイト様」
「暦、環。
認識阻害魔法は抜かりないだろうね?」
「はい」
遠くから見れば少女にしか見えない二人。
同じ服装。
常人と違うのは耳が人のそれでは無いところであろう。
「ならいいよ。
この世界の人間は人外の存在に敏感だ。
ばれたら何をされるか分からない」
言い終えるのを待って暦が口を開く。
「国王陛下からは許可を得られたのですか?」
「ああ、得られたよ。
彼らの首元には常に刃物が突きつけられているようなものだからね。
救済の手に飛び付かない道理はないよ。
ネギ君達に使った強制転移魔法とゲート崩壊が干渉しあってこんな結果になったのは想定外だけど。
魔法世界に帰還する方法はゼロじゃない。
龍の末裔。
この並行世界において一番魔法寄りの存在。
飛ばされた直後に見たあの戦闘で起きた事。
世界と世界の狭間を越えられるかは未知数だ。
でもこれに賭けるしか他に方法はない」
ただただ静かにフェイトはそういった。
「ですがフェイト様、その――見捨てませんよね……?
この世界の人々を」
「勿論だよ。
君達との出会いは何だったのか、ということになるしね。
とはいえ憎まれ役をやらないと助けるのは不可能だよ、栞」
「はい、分かっています」
エルフの耳を持つ少女の懇願めいた声。
ゆっくりとフェイトは栞と呼んだ少女に対し頷いた。
「私達だけで妖魔と呼ばれる魔物を捕縛できるでしょうか」
「不可能、とは言わないけど油断は駄目だよ、調。
上位種の龍の末裔は言うまでも無く下位の妖魔、それも最下級のそれでも人間の動体視力では何をされたのかも分からず殺される。
そして腸を食われ、外見をコピーされる。
血のつながりを持つ人間すら騙し得るレベルで食った人間の記憶と人格を学習する魔物らしいからね」
「畏まりました」
完全なる世界、コズモエンテレケイアの遺児と言える彼らはサウザンドマスターの息子ネギ・スプリングフィールドとその仲間と戦闘。
予期せぬアクシデントでここにいるようである。
飛ばされた世界の情報を油断なく収集し立ちまわっているようだ。
「この世界の戦争孤児をなくす方法は目星がついているのですか?」
「君の関心はそれだけかい? 焔」
「いえ……そんな」
「冗談だよ。 すまないね」
ツインテールの少女が問う。
目つきが鋭いのは地であるのか目上の相手に対し話しかけている時でさえか崩れない。
真剣だからこそ、であろう。
「不老不死にでもならないと無理だろうね。
旧世界とこの世界の戦争でこじれている民族間の関係は比較にならないほど複雑だから。
魔法世界のそれとも同レベルには扱えない。
でも帰還が不可能だった場合も想定して解決策を模索しておくべきだとも思う」
「ナギの息子とその仲間もこの世界に飛ばされているだろうか」
長身のローブを纏っている人物の発言。
声色から男性であるらしいことが分かる。
「完全に否定はできないね。
異世界に繋がる穴が複数、それも同時に開くなんてありえない。
彼女だけは死なれる訳にはいかない。
早急に探し出して欲しい」
「いいだろう」
「月詠、デュナミスと一緒に彼女を」
「分かりましたえ~」
一風変わった服装の刀を持つ少女は間延びした口調で応じた。
一撃の重さではなく手数を優先しているのか所持している二本の太刀は短い。
「妖魔の捕縛は暦と調に任せるよ」
「はい」
ほぼ同時に二人は頷く。
四人が与えられた指示を実行すべく動き出しその場を去った後。
眼前から視線を離さないままフェイトが口を開いた。
「そろそろ出てきたらどうたい?」
「ほう、気付いていたか」
物陰から出てくる人影。
黒衣に眼鏡という出で立ち。
帽子も黒色。
見える後頭部に髪の毛は無い。
「君はこの国の人間かな」
「いや、ヴァンヴォドールの密偵だ」
「は!?」
栞が呆気に取られたという顔をする。
敵側の動向を探る者が素性を即座に白状するなどありえない。
当然すぎる反応であった。
「あれを倒した僕達を引きこみたいのかな」
「分かっているじゃないか。
当然だ。
龍の末裔を数々の偶然が重なったからとはいえ撃破した勢力を野放しにはできない。
倒すよりは味方にすべきというのが龍の末裔の長の判断だ」
眼鏡で目の動きは分からない。
口元もさして動いていない。
(渡りに船だね。
実態を調べ無い事にはあの現象の詳細が分からない。
暦と調が帰還したら5人に接触してもらうつもりだったけど手間が省けた)
沈黙し返答をしてこないフェイトに焦れたのだろうか。
男は先んじて口を開く。
「こちらにつくのか、つかないのか?」
「そうだね――」
フェイトが紡ぎたした言葉。
持ちかけた提案はこの世界を揺るがす事になるのだと今は誰も知る由が無かった。
後書き
後書きは可、とのことで。
エンジェル伝説×ネギまが既出のためエンジェル伝説のキャラクターは出演させません。
CLAYMORE(ジャンプスクエア連載中)とのクロスオーバーとなります。
連載誌の冒頭が気に入ったらコミックのみ購読が自分のスタイルです。
従ってコミック発売で改訂する確率は高めです。
CLAYMORE原作で存在のみ言及されている場所を序盤の舞台に選んだのは原作展開をなぞらないためです。
敵>主人公のパワーバランスを崩さないスキルに関しては原作そのままではないストーリー展開で習得、とさせていただきます。
魔法世界編後のキャラ把握はあまり自信がありません。
やむを得ない独自設定があります。
原作設定解釈が誤っている箇所を発見した方はなるべく早く突っ込んでください。
受け止めて糧としますので…。
拙い展開がしばらく続くと思いますがよろしくです。