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[24244] 【習作】Twin goddess(八木教広先生作品+ネギま)
Name: 北野◆ca8cf425 ID:72502d60
Date: 2010/11/11 21:34
SCENE 1-1

 その世界は血生臭かった。
 戦場は生きた人間が内臓を食われる悲鳴と断末魔に満ちている。
 ただの人は反応すら許されず殺される。
 ある大地における有史以来の闘争はそういうものであった。
 だが100年前を境にそれは二カ国間の戦争に変わる。
 数多の人種がぶつかり合いその傍に異形がいる世界。
 片方の国が勝利するために選んだ道。
 それは異形へ忠誠を誓う事。
 戦況はそうしなかったもう片方の国の劣勢となった――。
 異形の呼び名は龍の末裔。
 龍の末裔に従った国の名はセローデス。
 対する国家はヴァンヴォドール。
 海岸に近い場所に首都を置いていた事だけが不幸中の幸いであろう。
 一方的に蹂躙され戦いですらなくなっていたヴァンヴォドールにある少年が現れ巻き返しは始まった。
 少年は言う。

「毒を持って毒を制すればいい」

 王は切り返した。

「汝はその技術の提供と引き換えに何を求める?」

 少年が答える。

「僕が来た世界の、いや、母国の6700万人の人間がこの国へ移住させていただきたいのです。
 国王陛下」

 側近が騒ぎだす。
 いかに気の遠くなる闘争で国民が激減していても受け皿にはなりえない。
 食料の供給源自体いつ枯れるか分からないのだから当然であった。

「フェイト・アールウェンクスと申したか。
 皆の者、沈まれ。
 余はこの者の願いを聞き届ける」

「陛下ッ!?」

 壮年の大臣は目をむいて驚いた。
 承諾する筈が無い。
 そう信じ、疑っていなかった事が窺える。

「セローデスを打ち倒したところでこの大地の民が渇望する平和は掴めぬ。
 龍の末裔を打ち倒さぬ限りはな。
 異国の民の力を信じてみようではないか。
 何より余の双肩にはまだ生き残っている民草全ての命がある。
 手段は選べぬ」

「そこまで申されるのでしたら」

「では、陛下。
 僕の味方に敵の雑兵を捕縛する許可を」

「うむ――許す」

 フェイトの仕草は長年王宮に仕えて来た騎士さながら。
 どことなく演技らしいものはある。
 しかし違和感はほとんどない。
 謁見の間をフェイトは離れていく。

「フェイト様」

「暦、環。
 認識阻害魔法は抜かりないだろうね?」

「はい」

 遠くから見れば少女にしか見えない二人。
 同じ服装。
 常人と違うのは耳が人のそれでは無いところであろう。

「ならいいよ。
 この世界の人間は人外の存在に敏感だ。
 ばれたら何をされるか分からない」

 言い終えるのを待って暦が口を開く。

「国王陛下からは許可を得られたのですか?」

「ああ、得られたよ。
 彼らの首元には常に刃物が突きつけられているようなものだからね。
 救済の手に飛び付かない道理はないよ。
 ネギ君達に使った強制転移魔法とゲート崩壊が干渉しあってこんな結果になったのは想定外だけど。
 魔法世界に帰還する方法はゼロじゃない。
 龍の末裔。
 この並行世界において一番魔法寄りの存在。
 飛ばされた直後に見たあの戦闘で起きた事。
 世界と世界の狭間を越えられるかは未知数だ。
 でもこれに賭けるしか他に方法はない」

 ただただ静かにフェイトはそういった。

「ですがフェイト様、その――見捨てませんよね……?
 この世界の人々を」

「勿論だよ。
 君達との出会いは何だったのか、ということになるしね。
 とはいえ憎まれ役をやらないと助けるのは不可能だよ、栞」

「はい、分かっています」

 エルフの耳を持つ少女の懇願めいた声。
 ゆっくりとフェイトは栞と呼んだ少女に対し頷いた。

「私達だけで妖魔と呼ばれる魔物を捕縛できるでしょうか」

「不可能、とは言わないけど油断は駄目だよ、調。
 上位種の龍の末裔は言うまでも無く下位の妖魔、それも最下級のそれでも人間の動体視力では何をされたのかも分からず殺される。
 そして腸を食われ、外見をコピーされる。
 血のつながりを持つ人間すら騙し得るレベルで食った人間の記憶と人格を学習する魔物らしいからね」

「畏まりました」

 完全なる世界、コズモエンテレケイアの遺児と言える彼らはサウザンドマスターの息子ネギ・スプリングフィールドとその仲間と戦闘。
 予期せぬアクシデントでここにいるようである。
 飛ばされた世界の情報を油断なく収集し立ちまわっているようだ。

「この世界の戦争孤児をなくす方法は目星がついているのですか?」

「君の関心はそれだけかい? 焔」

「いえ……そんな」

「冗談だよ。 すまないね」

 ツインテールの少女が問う。
 目つきが鋭いのは地であるのか目上の相手に対し話しかけている時でさえか崩れない。
 真剣だからこそ、であろう。

「不老不死にでもならないと無理だろうね。
 旧世界とこの世界の戦争でこじれている民族間の関係は比較にならないほど複雑だから。
 魔法世界のそれとも同レベルには扱えない。
 でも帰還が不可能だった場合も想定して解決策を模索しておくべきだとも思う」

「ナギの息子とその仲間もこの世界に飛ばされているだろうか」

 長身のローブを纏っている人物の発言。
 声色から男性であるらしいことが分かる。

「完全に否定はできないね。
 異世界に繋がる穴が複数、それも同時に開くなんてありえない。
 彼女だけは死なれる訳にはいかない。
 早急に探し出して欲しい」

「いいだろう」

「月詠、デュナミスと一緒に彼女を」

「分かりましたえ~」

 一風変わった服装の刀を持つ少女は間延びした口調で応じた。
 一撃の重さではなく手数を優先しているのか所持している二本の太刀は短い。

「妖魔の捕縛は暦と調に任せるよ」

「はい」

 ほぼ同時に二人は頷く。
 四人が与えられた指示を実行すべく動き出しその場を去った後。
 眼前から視線を離さないままフェイトが口を開いた。

「そろそろ出てきたらどうたい?」

「ほう、気付いていたか」

 物陰から出てくる人影。
 黒衣に眼鏡という出で立ち。
 帽子も黒色。
 見える後頭部に髪の毛は無い。

「君はこの国の人間かな」

「いや、ヴァンヴォドールの密偵だ」

「は!?」

 栞が呆気に取られたという顔をする。
 敵側の動向を探る者が素性を即座に白状するなどありえない。
 当然すぎる反応であった。

「あれを倒した僕達を引きこみたいのかな」

「分かっているじゃないか。
 当然だ。
 龍の末裔を数々の偶然が重なったからとはいえ撃破した勢力を野放しにはできない。
 倒すよりは味方にすべきというのが龍の末裔の長の判断だ」

 眼鏡で目の動きは分からない。
 口元もさして動いていない。

(渡りに船だね。
 実態を調べ無い事にはあの現象の詳細が分からない。
 暦と調が帰還したら5人に接触してもらうつもりだったけど手間が省けた)

 沈黙し返答をしてこないフェイトに焦れたのだろうか。
 男は先んじて口を開く。

「こちらにつくのか、つかないのか?」

「そうだね――」

 フェイトが紡ぎたした言葉。
 持ちかけた提案はこの世界を揺るがす事になるのだと今は誰も知る由が無かった。


後書き

後書きは可、とのことで。

エンジェル伝説×ネギまが既出のためエンジェル伝説のキャラクターは出演させません。
CLAYMORE(ジャンプスクエア連載中)とのクロスオーバーとなります。
連載誌の冒頭が気に入ったらコミックのみ購読が自分のスタイルです。
従ってコミック発売で改訂する確率は高めです。
CLAYMORE原作で存在のみ言及されている場所を序盤の舞台に選んだのは原作展開をなぞらないためです。
敵>主人公のパワーバランスを崩さないスキルに関しては原作そのままではないストーリー展開で習得、とさせていただきます。

魔法世界編後のキャラ把握はあまり自信がありません。
やむを得ない独自設定があります。

原作設定解釈が誤っている箇所を発見した方はなるべく早く突っ込んでください。
受け止めて糧としますので…。
拙い展開がしばらく続くと思いますがよろしくです。



[24244] SCENE1-2
Name: 北野◆ca8cf425 ID:72502d60
Date: 2010/11/14 08:52
SCENE 1-2

 フェイト達が密偵と接触している頃、暦と調は受けた指示を実行すべく国境近くまで移動していた。
 認識阻害魔法で耳だけではなく全身を認識させなくする。
 それだけで二人の国境越えは問題ない筈だった。

「どういたしましたか?」

「あれ何だろう」

 調は暦の視線が一点に注がれている事に気付く。
 視線の先には背と背を合わせ立っている女性の像。
 翼が存在するあたり神像の類なのだろう。

「お姉ちゃん達テレサクレア像を知らないの?」

 特徴らしいものと言えば短髪でそばかすがあるという二点のみ。
 ありふれた服装の少女が二人を見上げている。

「え、ええ」

 戸惑いながらも暦は答えた。
 少女は心底不思議そうな顔を浮かべる。
 首をかしげ、紡ぎ出す言葉の語調は大げさなもの。
 子供特有のからかいの意図が見えるかのような。

「変なの。
 どんなに小さな子供でも美しさと愛に満ちた双子の女神様だって知っているのに」

「そうなのですか?」

「うん」

 二人が像について全く知識が無い事を確信し、優越感を抱いたような表情に変わった。
 童心とは得てして相手より上の立場に固執するもの。
 弱者を虐げる事に関しては大人より子供が残虐と言われるのもそのあたりであろう。

「向かって左がテレサ像で右がクレア像なんだよ」

 聞かれもしないのに少女は説明し出した。
 誰かに語りかけたいという欲求が無意味に表に出ているようだ。

「数百年前から祀られているってお母さんが言ってた。
 それでね、その頃の人がこの神は自分達のものだ、こっちは俺達のだって言いだして喧嘩がさらに大きくなってったんだって」

 調が先に暦を見る形で互いの顔を見た。
 戦争の激化、その要因。
 彼女らにとっては聞き逃せぬ話。
 見る間に顔に真剣さが見て取れるようになった。
 目的を忘れてしまったのではないか――。
 そう事情を知っている者が勘ぐる程に。

(喧嘩。
 殺し合いを自分達の喧嘩と同じに見ている……。
 負けた方に私達と同じ境遇の者が大量に出るのに。
 子供なのだから致し方ないのかもしれませんけど)

 閉じられている目が微弱に動いたかのように見えた。

「他の国にも神様の教えは広がったらしいけど。
 詳しい事は分かんない」

 伝わったと言わず広がった。
 年相応の知識しか持ち合わせてはいないらしい。

「ご飯ができるまでそう時間もかからないから――あら?」

 目と鼻の先の家から女性が出て来た。
 どうやら少女の母親のようだ。

「どうしたの?」

「あ、お母さん。
 あのね、このお姉ちゃん達がテレサクレア像を見つめてたから話しかけたの。
 知らなかったみたいだから色々と教えてあげちゃった!」

「まあ、偉いわね」

 母親は少女の自慢を肯定し、褒めた。
 ここで変な顔をすれば育児上よろしくない。
 だが少なくともこの母親はそんな粗相をしなかった。
 ゆっくりと二人へ顔を向けていく。

「何かお急ぎだったのではありませんか?
 うちの子が引きとめてごめんなさいね」

「気にしないでください。
 興味深い事を知る事が出来ましたから」

 恰好からどこかへ行く途中だと察したらしい。
 少し慌てた口調で暦は返答した。
 見ず知らずの相手に気遣われれば腰も低くなる。

「気を付けてくださいね」

「獣にでしょうか」

 調が質問で返した。
 さも何気ない様子で。

「いえ、妖魔にです。
 セローデスは魂を売った悪魔をこちらの領土に潜り込ませたようですから。
 亡き夫が死に間際に言っていました」

「! 申し訳ありません」

「いいんです。
 やっと立ち直れた所ですから……」

 条件反射的に二人は同時に詫びた。
 少女は父親の死を母親がこぼしても動じない。
 死について理解していないのか。
 ただ母の顔を除き見るだけ。

「失礼します、その……お元気で」

「はい」

 足早に去ろうとはしなかった。
 自分達と似た境遇。
 もし母親に何かあれば同じになる。
 決意を新たにしたのか、悲しいのか。
 判然とせぬ顔で二人はその場を去ったのだった。



 同じころ、月詠とデュナミスの二人はフェイトに指示された人物の捜索に当たっていた。
 小腹が空いたらしく食料を購入している。

「変わった通貨やな~。
 異世界やから当然ですけど」

「そうだな。
 加工を一切施していない金属製の通貨。
 数だけで取引が可能とは。
 この世界の住人は金銭の勘定で苦労はしていまい」

 手に持っている棒状の通貨を見て批評する。
 種類が単一であり商いをする側が定めた数を渡せばいいだけ。
 やや棘のある物言いも不自然ではない。
 適度な量の食料を手に移動を開始した。
 食事をするのに適した場所を探す。

「気付いてますやろか~、デュナミスはん」

「無論だ」

 正面のみを見据え相手を見ずに言い放つ。
 周囲を行きかう人々に不審な点は無い。

「あの王の話では飛行を可能とする種は希少という事ではなかったか?」

「そのはずです~。
 敵さんもえぐい事しはるわー。
 歩兵を潜り込ませれば十分やのに」

 臨戦態勢に入りつつ言葉を交わす。
 不意に――空気を引き裂くような感覚がその場にいる者全てを襲う。

「何だッ!?」

「妖魔だ、妖魔が出たぞーッ!」

 老人が倒れる。
 腹が裂け中身が見えている。
 内臓が食いちぎられており絶命は疑いようが無い。
 空中から滴り落ちる血。
 月詠とデュナミスが見上げる。
 空中には体毛というものが一切無く服もない。
 翼の生えている猫目の異形。

「援護お願いしますわ~」

「承知した」

 刀を振りかぶり、家屋の天井へ月詠は移動しつつ言った。
 相手には制空権がある。
 防御させないようにする必要があった。

「キシャアア!」

 翼をはためかせ、月詠目掛けて妖魔は急降下する。

(早い!
 瞬動の類を一切使わず純粋な器官のスペックのみでこれほどの動きとは。
 だが――この世界に飛ばされた直後に戦ったあれに比べれば亀同然)

 呪文の詠唱、魔法の発動。
 影の牢獄ともいうべき漆黒の結界。
 それは確かに妖魔を捕縛した。

「本来の使い方ではないとはいえ耐えるか。
 再生能力の上限はあれと同等ではないだろうが……。
 渾身の一撃で斬り捨てよ」

「分かっていますわ~」

 固着した時点で相手を窒息死させる魔法、メラーン・カイ・スファイリコン・デズモーテーリオン。
 ダメージが圧倒的な速度ではないにしろ回復している。

(攻撃力が高い場合は再生能力に乏しく、防御が優れている場合は再生能力に長ける。
 二つのタイプが存在するということか)

 月詠の太刀筋が直撃する寸前にデュナミスは結界を解いた。
 剣閃は翼をもぎ、落下していく妖魔を逃さず月詠は斬り殺す。
 着地も手慣れたもの。
 骨にヒビが入ったり折れたりはしていないようだ。

「離れるぞ」

「了解ですわ~」

 化け物を打ち倒したことによる住人からの反応への対処が面倒だとでもいうのか。
 デュナミスの提案を月詠はあっさりのみつき従う格好でその場を離脱したのだった。



後書き

SCENE1-3へ続きます。



[24244] SCENE1-3
Name: 北野◆ca8cf425 ID:72502d60
Date: 2010/11/21 08:56
SCENE1-3

 フェイト達は道の世界に放り出されながらもそれに足掻くべく動き出す。
 一方、彼らと対峙したネギとその仲間たちは――。

「ネギ坊主」

「……」

「聞こえているでござるか?」

「あっ……何でしょうか、楓さん」

 胸の所に穴がある上着を着ている赤毛の少年、ネギ・スプリングフィールド。
 見るからに動きやすそうではあるが見るからに軽装な服装の少女。
 糸目を開かぬまま長瀬楓は牢獄の奥から語りかけた。
 物思いにふけっていたのか反応は鈍いもの。

「魔法世界でもなく元の世界でもない世界に飛ばされた上牢に入れられて動転しているのは分かるでござるが。
 脱出するか、舌先三寸で出て逃げる作戦を立てた方がいいでござるよ。
 違う世界への移動など拙者にはよく分からんでござる。
 が、呆けている暇が無い事だけは間違いないでござろう?」

「そうですね」

 いかに天才的な才能を持つ少年でも投獄の経験はそう慣れる事ができるものではないのだろう。
 呆然としていたのだと察した楓の言葉に冷静さを取り戻した感がある。

「並行世界の中世ヨーロッパか全く違う世界じゃないかと考えていたんです。
 スローデスっていうのがこの国の名前らしいですけど。
 一番気になるのはあの魔物達ですね。
 ここの人達は負けて言う事を聞いているんでしょうか」

「さあ……直接聞いてみない事には事実は掴めぬと思うでござる」

 肉体より精神面に優れる少年である。
 動揺しつつも周囲は見えていたらしい。
 見えた者から文明レベルを特定することができたようだ。
 中央を走る通路を見回りの兵士が通って来た。

(銀色の、目――!?)

 ハッとした様子でネギは兵士の眼球を食い入るように見た。
 ありえないほどに綺麗な銀色に彩られている目。
 色というものが介在しない肌。
 髪も例外では無く白い。
 二人の会話が耳に届いていなかったのだろう。
 何事も無かったように通り過ぎていく。

「脱出しましょう、楓さんがいるなら」

「いや、様子を見た方がいいかもしれぬ」

 兵士が近くにいては増援を呼ばれる恐れがある。
 離れた今が好機だとネギは主張した。
 しかし楓は異を唱えた。

「何故ですか!?」

「気を失っていたからネギ坊主は知らんのでござる。
 一般兵はまだ瞬動や縮地で対応できる。
 しかし将軍クラスともなると……拙者でさえ瞬きする間に殺されるでござろうなあ………」

「え……?」

 潔さはある。
 なれど簡単に正気の有無があるかどうかを模索する。
 それを放棄するような少女ではない。

「本気、ですか」

「うむ。
 あの身体能力は次元が違う。
 生き物の肉体が耐えられる限界のスピード。
 それさえ凌駕していたと判断しているでござる。
 実際この国の兵士と争っていた者が一刀両断にされ真っ二つにされるまで全く動きが見えなかった出ござるから。
 不意を突かぬ限り爆発寸前の爆弾に自分から突っ込んで行くのと変わらん愚行でござろうよ」

「……!!!」

 アーティフアクトの模写ではあるが己が父と数秒相まみえた。
 その時より楓は鍛錬を積んでいる。
 だというのに勝負を捨てている。
 認めざるを得ないとネギは思ったようだ。





 麻帆良学園、学園長の部屋。
 窓から夕陽の光が差し込んでいる。

「今頃ネギ君達は魔法世界かのう」

 書類を前に老人はどこか感慨深そうに言った。
 孫娘も同行しているため実質可愛い子には旅をさせろ、となっている。
 齢をいくつも重ねた者には理屈抜きで嬉しいものなのだろう。

「大変です、学園長!」

「刀子君らしくないの、ノックもせず飛びこんでくるなど」

「ゲートポートが何者かに襲撃されたとのことです!」

「な、何!?」

 剣術をたしなむ冷静沈着な女性。
 葛葉刀子は近衛近右衛門の言葉通り平時の落ち着きを失っていた。
 報告を耳にするまでなんら動揺していなかった学園長も――。
 予想すらしていなかったらしい出来事に慌てだす。

(救援に向かわせておいた二人が間にあわなんだか、しかし)

 顎に手をやり必死に打開策を考えだしたようだ。
 だが現実は優しくなかった。

「空間が歪みだして」

 どちらが先に気付いて漏らした言葉かは判然としない。
 二人の反応などお構いなしといった様子で部屋の右側に生じた歪みは肥大化していく。
 人影が現れる。
 その人物は二人にとって忘れ得ぬ人物であった。

「超君……!」

 中華風の雰囲気を纏う少女。
 スプリングフィールドの血族と自称する天才。
 学園祭において一騒動起こした首謀者。

「一番会いたくない人がいる場所に出てしまうとは弘法も筆の誤りと言うべきかナ、これは」

「勝っても負けても悔いの無いように強制認識魔法の結果を二通り用意。
 結果敗れ己の時代に帰ったのではなかったのか、お主は」

 超の学園長を見る目は不思議そうだ。
 心底意外、という言葉がしっくりくる。

「おや。
 ネギ坊主から聞いていないのカ?
 別れ際こう言ったはずネ。
 また会おう、と」

「ぬ……」

 言われて思い出したらしい。
 顔の筋肉の動きがそれを物語っている。
 たじろいでいても話は進まない。
 一歩学園長は進み出て口を開いた。

「戻って来たの理由は何じゃ」

「地下のゲートを使わせて欲しいネ。
 帰還が不可能になるアルけどね」

「それをどこで!?」

「ネギ坊主が天命を全うし遺す事になる記録からヨ。
 ……未来へ帰って後悔したネ」

 知っている超の話を目前の超に告げる事を強行する意味はない。
 話が前に進まない。
 紡がれる言葉一つ一つが学園長と刀子にとっては驚天動地。

「どういう意味です」

「過去をいじったところで修正力働くアル。
 あの二つの願いも未来に繋がるはずが無い。
 また過去へ飛んだところで知っている世界のその時代に行けるとも限らない。
 ただの自己満足に終わる――その筈だた」

 ここに来て学園長が目をしばたかせた。
 眼前にいる超から感じる違和感。
 空中戦のあの局面に入るまで知らなかった超の体に秘められたもの。
 刻まれたもの。
 肉と魂を代価とする魔法の行使。
 発動まで気付けなかった、あるいは危険視していなかったらしいもの。

(気のせいかの?)

 視線に気付いていないのだろうか。
 さらに超は言葉をつづけた。

「私が過去に行ったからなのカ。
 それともフェイト・アールウェンクスのゲートポート襲撃が原因なのか。
 どっちにしろ歴史変わったアル。
 龍の末裔を名乗る魔族のせいで私以外のスプリングフィールドの血族は戦死。
 クラスの皆の子孫も例外無く、ネ」

「!!」

 完全に凍りつく二人。
 面識はない。
 だがある方の祖先。
 ネギとその生徒達とは関係が深い。
 血ぬられた未来を知り言葉も無いようだ。

「先々代で奴ら現れたと皆言う。
 でも私の記憶には今もそんな既成事実――歴史は存在しない。
 しかし龍の末裔は未来にいる。
 現実として、アル。
 襲撃で開いた異界に繋がる穴がふさがる前にネギ坊主達が飛ばされた世界へ行って今度は妥協せず過去を変える。
 平和のために!」

 聞かされた決意で思いのほか思考が再度動くのに時間を要しなかったようだ。
 無意識だろうか。
 二人の肩が下がる。

「地下に案内しよう」

「学園長!?」

「言わんとしている事は分かっておる。
 皆への説明は骨が折れるが手伝ってくれるかの?」

「……はい」

 あまりに唐突過ぎる学園長の切り出しに刀子は我が耳を疑う。
 初めは納得できなかったようだが目上の者の静かな説得に頷かざるを得なかったようであった。



<後書き>

SCENE1-4へ。
まだSCENE1の段階で必要と思われる伏線があるのでSCENE2-1には入りません。
自己評価として伏線のさじ加減(?)がまだ要練習です。


<頂いたご感想への返事>

>KYOさん

ただ一言期待、と言われても反応に困るのですが…。
期待に沿えるよう努力します。


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