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[10764] [ネタ] ラノベの中に閉じ込められた私とNPCたち (旧題 ゼロの使い魔 オリ主 転生物)
Name: TNT◆5c31f948 ID:70f657a4
Date: 2010/11/09 21:40
原作を知っているオリジナルキャラがゼロの使い魔の世界に転生した物語です。
主人公は自分にとってのハッピーエンドを強く願っています。
そのためには原作キャラを踏みつけることも厭いません。
ぶっちゃけ善人ぶった行動なんて取らないし、無償で原作キャラを助けたりもしません。
そのことで原作キャラが酷い目に合う事もあるでしょう。
すべてにおいて自分の利益が第一です。
多分にアンチ色が出ると思います。
魔法と科学技術に関して独自設定が入ります。
小説を書くのは初めてなのですごく下手です。
それでもかまわない方はよろしくお願いします。



当初の予定では改訂版は旧版の加筆修正ぐらいにする予定でしたが、書いているうちに全然違う結末になってしまったので、旧版も残しておくことにします。



[10764] 旧版 原作前編 (1~5)
Name: TNT◆5c31f948 ID:70f657a4
Date: 2010/11/09 21:21
目が覚めるとまったく知らない場所にいた。
ここはどこかを知ろうとして、起き上がろうとするが起き上がれない。

ビックリして声をあげたが「おぎゃ~」としか聞こえなかった。


そして知らない女の人が来て抱き上げられた。



なぜか私は赤ちゃんになっていた。



あまりのことに数ヶ月の間、虚脱状態になっていたのもしょうがないことだと思う。
その後ようやく気を取り直した。というか、夢がまだ覚めないので、覚めるまでこのままいるしかないと諦めたのだ。
私の名前は

「オットー・フォン・ヘーゼラー」

というらしい、そしてゲルマニアという国の貴族だそうだ。
しかも魔法が使えるメイジという種族?だそうだ。

ってこれはゼロの使い魔という小説の設定じゃないか・・・

結構好きだった小説ではあるが、その世界に転生した夢まで見るとは自分の痛さに泣きたくなった。

結局のところ

「もういい、こうなったら好き勝手に生きてやる~~~~」

と開き直ったのだった。

まずは文字を覚えることにした。もちろん暇つぶしのためである。昔から読書は好きだった。
それに魔法を使ってみたいというのも大きな理由である。

「魔法」

現代人なら誰でも一度は必ず使ってみたいと思ったことがあるものだろう。
そのためには魔法の教本を読めなければいけないので、文字を読めるようになるのは必須なのだ。

5歳でこの世界の文字を読めるようになった。
両親からは

「オットーは天才だ」

「さすがわれわれの息子だ」

「将来はきっと立派なメイジになるでしょう今から楽しみですわ」

「これでへーゲラー侯爵家も安泰ですわね」

などと天才扱いをされた。

まあ親ばかなのだろう。

その後、まだ早いという両親にねだって、魔法の勉強をさせて貰えるようになった。

魔法の勉強はすごく楽しい。特に好きなのが炎系の魔法だ。

某自称美少女天才魔道師の気持ちがわかるほど、破壊の魔法は気持ちが良い。

自分にこんな危ない一面があったと知って悲しくなりはしたが・・・

いろいろ抑圧されていたものがあったんだなと今更ながら気がついた。


それと錬金の魔法も大好きだ。

化学が専門で、化学実験が好きだったのも影響してるんだろうけれど、この魔法は奥が深く面白い。
コルベールがメンヌヴィルとの戦いで使ったようなこともできるし、領地を富ませることもできる。
はっきり言って、「チートなんじゃないか」と思うぐらい便利な魔法である。

それに、私には科学知識という裏技がある。

これを使うと錬金の魔法がすごく便利にそして簡単に使えるのだ。

例えばこの世界の火薬は黒色火薬である。これの材料はKNO3(硝酸カリウム) S(硫黄) C(木炭)であるが、
このうちのNO3が空気中の窒素(N2)と酸素(O2)からいくらでも合成できるものであるということをこの世界では私しか知らない。

(元素を他の元素に変える核分裂or核融合反応を行っている通常の錬金より簡単であるという設定にします。
コルベールがゼロ戦のガソリンを錬金したときも似たような物質を用いてましたしそこまでおかしな設定ではないと思います)

それに、私にはピクリン酸{C6H2(OH)(NO2)3}やトリニトロトルエン{C6H2(CH3)(NO2)3}、
ニトログリセリン{C3H5(ONO2)3}といったもっと強力な火薬があるという知識と、
それの構造を知っているという計り知れないアドバンテージがあるのだから。

この世界でも物理攻撃は有効であるのは、ミョズニトニルンの反射の先住魔法をかけたゴーレムを、
サイトがタイガー戦車の砲撃という魔法と関係ない物理攻撃で倒したことからも明らかだろう。

7歳の時にラインメイジになった。

両親はもう大喜びだし、それを知ったいろいろな大人たちも褒めてくれる。
日本でも幼くして勉強ができる天才児は周りから褒められるからきっとそんなに可笑しなことではないんだろう。

まあ精神はもう大人で、魔法の重要性を理解し、魔法に興味を持っているのだからこのくらいできるのは当然だと思う。

はっきり言って子供の遊びなんかするよりも、魔法の勉強をしていた方が楽しいのだ。
というか、子供になんて付き合っていられない。

むしろ問題は世間一般の子供たちとは違って、これ以上の精神の成長が無いのだから、それと一緒に、魔法の能力の成長もしなくなることだと思う。

子供のころは天才児、大人になればただの凡人なんて逸話が当てはまったらたまらない。

せめて、魔法学院の教師レベルであるトライアングルにはなりたいと心から思った。


そういえば、ツェルプストー伯爵とキュルケとも会った。
キュルケは2歳年上でかわいい子ではあったのだが、私のことを子ども扱いしてかまってくるので困った。
ルイズをかまったり、タバサの面倒を見たりしてたし、結構母性本能が強いのではないかと思う。

「でもどうするかな・・・」私は今後どうするかを考えていた。

「キュルケと会ったことで原作と同年代というのがはっきりしたし、こうなれば私もキュルケと同じ年にトリステインの魔法学院に入った方がいいのだろうか・・・」

別に原作通りにする気はまったくない。

私の目的は自分自身が楽しく生きることだからだ。
しかし、やっぱり世界が変わるかもしれない時にそばで見てられないというのは損である。

考えてみてもらいたいトリステイン魔法学院での出来事がこれからの世界の行く末に大きくかかわってくる。

そのことがわかっているのに遠く離れたヴィンドボナの魔法学院で眺めていることが正しいのだろうか?


断じて「否」である。


私は無力な存在ではないのだ。

トリステイン魔法学院の生徒としては上位に位置するメイジとしての能力があり、
金と人の使い方がわかっていて、なおかつ原作知識というチート級の能力まであるのだ。

積極的に

「自分」

にとって有利な情勢に持っていくべきだろう。
きっとヴィンドボナの魔法学院にいるよりも大きな利益をもたらしてくれるはずだ。

だけど、私はトリステインの魔法学院はあまり行きたくない。

トリステインの人間は、ゲルマニアの歴史が短いということで内心馬鹿にしているのだ。
トリステインは歴史しかない三流国なくせにプライドだけは高く、それでいて自分の責務を果たさない貴族が多い。

王族からして先王の死去以来新たな国王を立てないで、宰相のマザリーニ枢機卿に政治を任せきりで自分たちの責務を果たしていない。

平民も有能な人は大体平民でも貴族になれるゲルマニアに来るので、残っているのは支配され搾取される現状をよしとする人間ばかりだ。
よくこんな国が六千年も続いているものだ。

「さすが宗教!! 奥が深い…」


そう思えるほどこの世界は歪である。

地球の歴史では、王家が無能なら家来が取って代わることがしばしばあった。

また、外敵に攻め滅ぼされることもよくあった。

でもここハルゲニアでは3つの王家とロマリアの教皇が、六千年もの期間君臨していて社会の変化がまるで無い。
どう考えてもブリミル教の影響としか思えなかった。

まあ、他国がどうして滅びていないかなどどうでもいいので、トリステイン魔法学院で楽しく過ごすために必要なものを考えてみた。
それはきっと

「お金」

である。

例のベアトリスが好き勝手できたのもクルデンホルフ大公家の金の力だ。
お金の力はどこの世界でも強力だということなんだろう。
というわけで、トリステインで好き勝手に過ごす為にお金を稼ぐことにした。

我が家もかなり裕福なのだが、さすがに自分のわがままで無駄遣いをするのは気が引ける。
貴族の収入というのは結局のところ領民からの税から得ているのだ。あまり厳しく取り立てて領地が疲弊したら損である。

それにお小遣いだけじゃ足りない。

「貴族の娘に対して借金のかたプレイとかもやってみたいし・・・」

さすがに平民相手にそれをやるのは私の倫理観的にちょっととは思うが相手が貴族ならいいのだ。
金と力を持っているくせにちゃんと使えない方が悪いのだから。

外見年齢からはありえない欲望を胸に秘め、金策の方法を考えていた。


いろいろ考えて試行錯誤を繰り返して実験を行い

黒色火薬に塩素酸カリウム(KClO3)を加えて爆発力を上げる方法を皇帝に売リつけた(献上した)のだ。

塩素酸カリウムを自分で全部作るのは大変だし、納入したものを真似られるのはわかりきっていたので、
今で言う

「ライセンス権」

を売った形にしたのだ。

ゲルマニア皇帝アルブレヒト3世閣下は喜んでくれた。まあ火薬の威力の強化は火の秘薬として火メイジの魔法の威力を増大させるとともに、
大砲や銃など平民でも使える武器の強化に繋がり、戦場での火力の増強になる。
しかも、この方法での黒色火薬の威力の強化は扱いが難しいため、錬金を使える貴族にしかできないので
自分たちの都合で供給するしないを決めることができる。

即ち、自分に従う軍隊だけを強化することができるのだ。

平民が反乱を起こしても錬金が使えない以上すぐに在庫が切れて旧来の黒色火薬を使わざるおえなくなる。
しかも火薬以外は変わらないので、新たに武器を作ったりする

「コスト」

もかからない。

地球だと腐敗や酸化・金属疲労を起こして強度の劣化が起きるのに、
この世界では固定化の魔法のおかげでそんなことにはならない。

また、硬化の魔法のおかげで物質自体の硬度も上げることができる。

なので最初に砲身の強度を調べてそれが耐えられうる火薬の量さえ調べておけば、途中で砲身が破裂することもない

なんてインチキがまかり通る世界なのだろう…

ライフル銃の知識を渡そうとも考えたが、そんなものを渡したら平民の反乱に脅えなければいけなくなったり、
新しい武器の生産費用で莫大な金がかかるわでろくなことにならないのでやめにした。

黄色火薬は自分専用の切り札にするつもりだ。

手札はできるだけ隠して、必要なとき以外は見せないことも相手から自分を見極められないようにする手だ。

私は特権階級として気楽に自分勝手に優雅に生きたいのであって、別に革命なんか起こって欲しくは無い。
もちろん自領は平民が暮らしやすくするが、

それは結果的に税を多く得るためだ。

なので他領で平民が虐げられていてもそれはどうでもいいことだ。
反乱を起こすなら、私に利益が出そうなら援助しても良いが、それ以外は手助けをするつもりは無い。

報奨金として笑いが止まらなくなるほどの額を貰った。

この世界ではブリミルの時代はどうだったとかそういう懐古趣味が流行って実用的な魔法の研究はそんなに盛んではない。

また、ゲルマニアは諸侯の力が強く皇帝の権力は弱いそんな中で黒色火薬の威力増大という実用的で、
かつ皇帝直轄軍の強化=皇帝権力の増大に繋がるものを開発し、
それを皇帝に渡した私を見所があると早めに取り込もうと思ったのだろう。

まあ7歳でラインになり一応将来有望なメイジと言われているので唾を付けておくのは悪いことではないと思っているのだろう。

それに力こそ正義なこの世界では、敗者から力ずくで取り上げるという方法も許されているのだから、ちょっとした先行投資だろう。

この新型火薬を使って、トリステインに勝てば賠償金だけでこの報奨金よりはるかに高額を搾り取れ、また皇帝の権威も増大させる事ができるのだから。

別にトリステインではなくても皇帝に反抗的な諸侯の討伐でも同じことが言える。


私はこのお金をどうするか考えた。

金貨を現金で大量に保管すると、出回っている貨幣が減少してデフレが起こり経済が混乱する危険性もあり、
また、ただ保管しておくだけというのも勿体無いので、一部は流動資金として残しておくことにして、その他のお金の運用方法を決めたいのだ。

選択肢としては

・お金に困っている諸侯に利子を取って貸す。

・このお金で領地を買い取る。
  領地は半永久的に税という形で収入を得られまた、売るという選択肢もあるのでうまく経営さえできれば大儲けできるだろう。

・もうすぐレコンキスタの反乱があるので軍需物資を買い占めておいて反乱が始まったら双方に売りつける死の商人をする。

の3つである。

今売りに出されている領地を調べてみるとちょうど「マントイフェル」というトリステインに隣接した土地が売りに出されていた。
売りに出された理由は馬鹿な婿養子の当主が借金で破産して借金のかたに差し押さえられたというごくごく何処にでもあるような話しだ。

トリステインに隣接しているというのが気に入ってここを買うことにした。

トリステイン魔法学園に行く口実にもなるし、対トリステインの戦争が起きたら主力として戦える絶好の立地である。
貴族としては領地を増やすことは自家の発展と名誉にもつながる事なので父上から土地を買う許可は簡単に貰え、
その後取引を進めていって貰った。

最後に必要なのが皇帝の許可だったのだが、これも結構簡単にもらえた。

閣下としてもヘーゼラー家をトリステインとの戦争になった時にこき使おうと考えているのだろう。
というか、対トリステイン戦争も考えて拠点となるこの土地を手に入れようとしているというのも読んでいることだろう。

この世界では貴族にとって戦争は新たな恩賞をもらえるチャンスなので勝てる戦争ならみんな積極的に参加したがる。

若くて有能といわれている私が、戦場での名誉を得たがっていてもまったく不思議は無い。

基本的に戦争経験の無い若者ほど戦場を娯楽施設か何かのように考えているのだ。

それに飛び地になるからいつかは分家させて管理しないと統治に不便だから、後々の問題も少ないとの考えもあるのだろう。

まあ、邪魔になる親族をみんな監禁して一日にパン1つしか与えない有能な皇帝なら考えつきそうなことである。

私は今のところ皇帝に反逆したりするつもりは無い。
それどころか皇帝の忠実な臣下として働き恩賞を貰った方が得だと考えているのだから。
アルブレヒト3世とはきっといい取引相手としてやっていけるだろう。

取引が終わった後現地に入った。

領地経営はめんどくさそうだけど家臣の中から人を貸してもらい少しずつやってみることにした。

まあ、将来領主になった時に何も知らないじゃ横領とかされてろくなことにならないし、
まともに経営すると収入も増えるので勉強するのも悪くは無いと思う。

「そんな時間があったら魔法の練習とか場違いな工芸品を手に入れて研究するとかいろいろやりたいことはいっぱいあったのに・・・」

との心の声も聞こえたが無視することにした。

領地経営では、魔法の練習をかねて窒素肥料とリン肥料の作成し、
生産した穀物を高値で売れるように冷暗所を作り穀物相場が高くなる季節に一括売却して利鞘を稼ぐようにした。

また、領民に農閑期に交代で軍事訓練をやらせ、その代価に鉄製農具などを無料貸与した。
これは農作物の収穫量を増やすのと有事の際の兵力に高価でしかも盗賊と変わらないような傭兵を雇う必要がなくなることを狙ってのことだ。
信頼できる傭兵を少人数だけ指揮官のメイジの補助として雇えば部隊としてもそれなりに使えるようになるのではないだろうか?

もちろん戦場に出たものには給金を与え税を免除し、手柄を立てればその分の褒美を与えることにする。

それと領民の声を直接聞けるように目安箱っぽい物も作った。

この世界の識字率はそれほど高くはないが、
領主が平民のことも考えているというのを見せるパフォーマンスの一面と、
領民から領主への伝達手段があることでの役人の不正を抑制させる一面が存在するので、
それなりに良い政策なんじゃないかと思う。

領地経営が順調に黒字を出しているのを確認した後で、公共事業を兼ねて河川の整備や用水路の作成をやらせ、
穀物の生産高の向上を目指し、また余っている労働者を吸収し治安の向上に努めた。
これは自分でやる知識が無かったのでお金を出しただけだが、人をうまく使うのも貴族としての正しいやり方である。

なんだかシムシティー系のゲームや昔の信長の野望(米の売買だけしていれば内政などしないでもお金に困らない作品がある)
をやっている感じがして結構楽しい。


いったん領地経営が落ち着いてきたので、現代知識を使った魔法研究も再開した。

まずは、アセチルサリチル酸(アスピリンといった方が有名かもしれない){C6H4(COOH)(OCOCH3)}を開発して解熱作用のある秘薬として売る事にした。
水メイジがいないときや魔法の補助に使えて便利なこの薬は、かなり売れて財布を潤し続けてくれている。

高級甘味料としてのスクロース(C12H22O11)もよく売れた。やっぱり甘さはいつの時代でも好まれる。

中世並みの技術力しかないこの世界では砂糖は貴重品であり、
しかも精製技術が未熟だから黒砂糖やブラウンシュガーがほとんどである。
なので、私が作り出した純白の砂糖は金持ち貴族連中が高値で買い取ってくれる。

もうこれには笑いが止まらなかった。

こういうものは他人に力を見せ付けるためという面もあるから、
見栄っ張りな連中は1度使い始めたら質を落とすことはできないであろうということもすばらしい。

客が来たときにだすティーセットのシュガー入れの中身の色が、
純白の砂糖からこの世界で一般に使われるブラウンシュガーなんかに変わっていたら、
ひとめで経済状況が悪化しているのが客にばれてしまう。

面子を重んじる貴族連中には絶対にできないことだろう。

スクロース自体はでんぷん質を多く含んでいる穀物を錬金すれば簡単に大量に作成できる。
それを出荷量を計算して値崩れを起こさないように商人を使って売買させる。

いい商売のコツは顧客が永続的に買わなければいけない物を売ることである。
それが希少価値を持っていればなおのこといい。少量の生産で高く売れるからだ。

砂糖が大成功したので、ワインにエタノールを錬金したものを混ぜて売ろうと考えた。

本当は蒸留酒の名前のとおり低度数のアルコールを蒸留して高度数にするべきなのだが、
私は酒用の蒸留装置の作り方なんて、まったく知らないのだ。
なので、酒に入っているアルコールであるエタノールを直接作って度数を上げようと短絡的に考えたのだ。

高度数のアルコールは酒飲みにはたまらないものだろう。
でもこれには失敗した。はっきり言って不味かったのである。
着眼点は良い筈なのだ。

今までに無い高度数のアルコールだと、絶対に軍や騎士団なんかで馬鹿者どもが飲み比べとか度胸試しとかで使ってくれるはずである。

これは今後の研究課題としてとっておくことにして、部下にエタノールのおいしい飲み方を研究させることにした。

これらの魔法研究で儲けたお金は自分個人のお金として別に管理することにして、
領地経営用のお金とは別会計にする。
お金管理はやっているとなんか結構面白いと思った。

特に目の前に金貨が溜まっていく様を見ると、笑いが止まらず意識があっちの世界に行きそうだった。

このお金の三分の二はもうすぐあるであろうアルビオン反乱で、死の商人をするための武装商船と軍需物資に変えるつもりだ。

どこの世界でも死の商人というのは利益が出る。
しかも開始時期も大体わかるので、それまでにできるだけ買いあさり、両方に高値で転売するのだ。

儲けを考え出したら笑いが止まらなくなった。

しかも魔法ばっかり使っていたせいもあってかトライアングルになれた。

これで一応は一流メイジの仲間入りであるので、心の其処からうれしかった。

「マントイフェル」の土地で成功したことはもちろん「ヘーゼラー」の領地でもやることになった。



[10764] 旧版 原作前編 (6~12)
Name: TNT◆5c31f948 ID:70f657a4
Date: 2010/11/09 21:22
外国に行ってみたいとわがままを言ってガリアに旅行に連れて行ってもらおうかとも考えた。

ジョゼフはまだ王になってないし虚無の魔法にも目覚めてないので固定化や硬化の魔法を無視できる失敗魔法の有用性を説明し、
今のうちに媚を売っとけば後々役に立つと思ったのだ。

でもその考えはやめにした。

だって、ジョゼフに余計なことをしたら死亡フラグを立てる危険性がある。
変に印象に残ってモリエール夫人みたいに殺されるのは勘弁して欲しい。

狂人って言うのは思考が読めないから困る。

それにアルビオンでレコンキスタの反乱がおきなくなるかもしれない。
ゲルマニア人の私にとっては、レコンキスタの反乱には利益になる。

ブリミルの血筋みたいな自分が持ってない権威なんて邪魔なだけだ。他人が壊してくれるならちょうどいい。

それに戦いの後には恩賞が待っている。

狂人のジョゼフはきっと同じく狂人の教皇が何とかするだろう。狂人同士が潰し合ってくれるのが一番都合がいい。

もちろん魔法学院ではタバサともそれなりに付き合うつもりだ。

心を壊す水の秘薬のことも少しずつ情報を集めている。タバサがジョゼフに叛旗を翻して勝ちそうになったらこれを渡してやればいいだろう。
調べるのに時間がかかることはタバサ自身がよくわかっているからカステルモールに対するように自分の味方だと思ってくれるだろう。

タバサにとっては母親が一番大事なのだから。

それにしてもタバサもかわいそうな子どもである。
個人は組織にはかなわないということが理解できていないのだから。

自分が母親と幸せに暮らすためにはオルレアン派を糾合して、反乱を起こして自分が女王になるしかないというのに。

もしも母親をガリアから連れ出して逃げ出したとしても、ジョゼフが処刑するための人員を送ってきたら、まず間違えなくいつかは敗れる。

ジョゼフがガリア王としての権力を有する限り、タバサにとっての安寧な暮らしは訪れない。

ジョゼフは自分は安全なところにいて、しかも有り余るほどの財産や国家予算から殺し屋を際限なく送ってこれるのだから。

だからこそトリステイン魔法学院で無口でほとんど人付き合いをしないとかありえない。
ここでしっかり友人を作っておいて自分が反乱を起こす時に将来の利権の約束と合わせて協力を要請すべきなのに・・・

きっと幼くして両親を奪われて過酷な任務を押し付けられているからそういうことを理解できていないのだろう。

ガリア王としての力なら解毒剤も手に入れることはハルゲギニアに存在するなら可能だろうに…。

考えた挙句タルプの村にゼロ戦を手に入れに行くことにした。

交渉は割りとあっさりまとまった。相手はこれの価値をまったく知らないのでただの厄介者だと思っているし、こっちは貴族としての権威もある。

代金として1000エキュー払うと涙を流さんばかりに喜んでいた。

まあサイトにただで持っていかれるよりは遥かに良いことをした。

これは原作どおりにサイトに使わせて有用さを見せ付けた後で、トリステイン王国orヴァリエール公爵家に超高額で売りつけるか、
そのまま自分だけの技術として研究材料にしておくか迷うところだ。

totoや馬券の当たり番号がわかっているのに買わない人間はいない。

それに日本のゼロ戦の保管状況を考えると、飛べる状態でこっちに置いておく方がいい。
資料館なんかに適当に飾られて、心無い人間に部品を盗られたりするより、大空を自由に飛ぶ戦闘機のままいさせてやりたい。


ゼロ戦を領地に持ち帰り、20mm機関砲を基に大砲の改良ができないか研究してみる。

お手本を見ながらやるのは、手っ取り早く技術を向上させる最も簡単な方法の1つだろう。

この世界の大砲は能力が低いから、20mm機関砲の技術を基に造った新型大砲をフネに乗せれば大きな戦力になる。

爆弾の開発も重要だ。夜間戦略爆撃なんかされたらこの世界では防ぎようがない。

この世界の黒色火薬ならまだしも、私が作る新型爆弾ならばかなり被害を出せるだろう。

そして自分たちを守れない国王に対して一気に不満が高まるだろう。

まあニトログリセリンでも詰め込んだフネを、風魔法で操りつつ墜落させるっていう選択肢もあるんだけど
これはコストパフォーマンスがいまいちである。
フネは高いし、対歩兵戦では大型爆弾より小型爆弾の大量投入の方が有効である。相手の要塞を破壊するぐらいしか使い道は無いだろう。

領民からオーク鬼討伐の嘆願があがってきた。
私は、夜警国家の思想である治安の維持と外敵からの保護が、領主の一番の務めだと信じているのでもちろん討伐することにした。
今までは部下に任せていたが自分も参加してみようと思った。

研究とか雑務とかでストレスが溜まっていたのだ…

兵を50名ほど率いてオーク鬼が出たという場所に向かうと5匹のオーク鬼がいた。
まずは私が

「火系統の攻撃魔法を撃つから、その後飛び道具で攻撃し、生き残ったやつを集団で囲んで始末するように」

と命じて、オーク鬼の周りの空気を錬金でピクリン酸に変化させ、その場所にファイアー・ボールで着火した。
爆発が起きて少し離れていた1匹以外は地に倒れ臥した。中心にいたのなんか潰れちゃってグロい。
残った1匹は兵士たちに始末させた。訓練だと思えばちょうどいいだろう。

兵士たちの私を見る目に恐怖や恐れの感情が浮かんでいる。
平民とは隔絶とした力の違いを目にしたから当然のことではある。
私は平民を好き好んで虐待するつもりは無いが、別に媚を売るつもりも無い。
ただの領民であり取引相手でしかないのだ。なので適度の恐怖をもたれる方が都合がいい。

それにしてもやっぱり破壊の魔法はいい。使っていると開放的な気分になる。

モンスターを殺すのには特に感慨も浮かばなかった。
ただ、次は人間の敵を殺す練習もしないといけないと考えるとちょっと鬱になった。
周辺を探索して他にいないかを確認してから討伐は終わった。


もしもの時に覚悟ができてなくて、不覚を取りたくないから盗賊退治でもやることにした。
兵士も多めに用意してメイジの部下もしっかりと連れて行ったので退治自体は成功したが、
初めて人を殺したのに全然なんとも無かったことにすごくショックを受けた…


私はそこまで性格が破綻しているのだろうか…


さすがに欝になった…

盗賊退治は正義の行いだから誇らしい気分になるべきだとかいろいろなことを考えつつ、
この世界を現実だと認識してないから気にならないんだということにして、考えるのを止めた。


元マントイフェル子爵死んだという情報が入ってきた。
貴族の資格を剥奪されてから傭兵をやっていたらしい。

元貴族の末路は悲惨なものだ。傭兵をやるかフーケみたいに悪事に走るか女なら愛人にでもなるかぐらいしかない。
平民と一緒に働くのはメイジとしてのプライドが許さないのだろう。

家族のことを聞いてみると未亡人と私と同世代の娘が2人いるそうだ。

これはチャンスだと思った。

自分の命令に忠実に従うメイジの部下、しかも魔法学院に連れて行け、
女なので同姓の友人を作ることで私とは違う情報も得られやすいので情報収集役にはもってこいだ。
魔法学院へ入るまで後2年あるから、それまでに使いやすいように教育することもできる。

しかも、相手は貴族の地位と生活の糧を失って困り果てているだろうから、ここで助け舟を出してやったら、

私に忠誠を誓わせることも難しくは無いだろう。

貴族というのは支配している土地と血のつながりと家名にすごく執着を持つ。

だからこそ現代の日本人からみたらありえない事で争いになったり、命をかけたりできるのである。

そして彼女たちも私の愛人になって子供を生み将来その子にマントイフェルの土地を分家して継がせて貰う。
それこそが彼女たちにできる先祖から受けついた血をこのマントイフェルの地の支配者として残す唯一の手段だということも理解はできるはずだ。

そして政略結婚は貴族としての責務であるということも。

いろいろとエロゲー的な妄想を膨らませながら会ってみることにした。


風のドットメイジである14歳のエリザベート 

水のドットメイジである10歳のアンナ

水のラインメイジである母親のマリア

さすがに支配者階級のメイジなだけあってなかなか美人である。
ただ爵位と領地を没収され苦労が続いているので疲れも見えるような気がする。

今から4人でという案も
と~~~~~~~~~~~ても捨てがたかったが、
先にある程度の信頼を得た方がこれからやりやすいのは確かなので
泣く泣く諦め、良い人の振りをしてお悔やみの言葉を述べそれから

「もしよかったら我が家で働きませんか?」と誘った。

彼女たちは他に道も無いので我が家で働くことになった。

というか、まともに暮らしていける道ができたので彼女たちはすごく喜んでいた。

エリザベートとアンナは風と水の属性なので、護衛兼救急箱としてちょうどいいので私のメイドを魔法の勉強をさせながらやらせることにした。
ドットのままでは役に立たないからできればラインにはなってもらいたい。
彼女たちも魔法の勉強ができるから喜んでいた。

貴族では無くなっても、メイジとしての誇りを持ち続けるためには魔法の力は必須である。

貴族ではなくなって、なおかつまともに魔法が使えないなら、平民とかわりがなくなってしまう。

そうしたらアイデンティティを維持できなくなるだろう。

マリアには冷暗所の保冷の仕事を与えた。
穀物庫や火薬庫などの量が結構増えたので新たに人を雇わないといけなかったのと、
マリアにメイジとしての仕事を与えることである程度彼女のプライドを満足させ真の目的を隠すためである。

平民でもできるような仕事なんかやらせたら、初めから体だけが目的だったということがばれてしまうだろう。


お楽しみはもう少し後まで取っておくことにして、そろそろ始まるレコンキスタの反乱に備えようと思う。
売るための秘薬などはしっかりと倉庫に山積みである。

後は交易用のフネであるが、これは空賊を撃退できるように、
大砲は形自体は旧式の前装砲ままであるが素材を青銅から鉄主体の合金に変え強度を強化し、さらに固定化と硬化の魔法をかけた。
また、砲身長を伸ばし射程と命中精度を向上させた。

この大砲はこの世界の職人たちに作らせた。彼らもそれなりに優秀だ。
お手本を見せてやったり、方向性を示してやればそれを基にして、今まであるものを進化させることはできる。
というか、そんなに重要でない情報は伝達して、仕事をこの世界の専門家に肩代わりさせるのも、効率のいい方法だと思う。

そうしないと、仕事が多すぎて倒れてしまう。

榴弾の中に黒色火薬ではなく、トリニトロトルエンを詰め炸薬として用い、
ニトログアニジン ニトログリセリン ニトロセルロースの混合物であるトリプルベース火薬を発射に用いることで
従来品とは比べ物にならない威力と射程を発揮することになった。


これとは別に私掠空賊をやるつもりなので、大砲がいっぱい載った戦列艦も二隻ほど用意した。
アルビオンの特性から言って、港に一番隣接した日かその前後ぐらいにしか交易船はこないだろうから、
襲撃計画を立てるのは簡単である。

私掠空賊をやる利点は

・実戦経験を積ませることでの船員の錬度向上。

・空賊活動による直接的な利益。

・レコンキスタ側への物資の不足による商品の高騰による交易での儲け。
  (レコンキスタにも商品は売るつもりである。もちろん王党派へ売る分よりはかなり高額にするつもりであるが…)

・レコンキスタの戦費増大による弱体化。
  (軍隊の維持には大金がかかる。)

・王党派の財政面や物質面での強化。
  (アルビオン国王ジェームズ1世の許可を得て空賊をするので利益の一部は上納する。)

・アルビオンの王党派に好印象を持たせることができる。
  (ウェールズ皇太子からアンリエッタ王女への紹介状でも書いてもらえれば役に立つであろう。)

などが挙げられる。

そして私が王党派へ協力する理由としては

「王党派がレコンキスタにできるだけ被害を与えてくれたら、その分だけ祖国ゲルマニアが安全になる」

という誰もが納得できるであろう大義名分が存在する。

信頼していた部下や同僚に裏切られた王統派には、ゲルマニア人の私がアルビオンの王家に忠誠うんぬんとかいうより信用しやすいことだろう。

誰がどう考えても、ゲルマニアとしては王党派が少しでもレコンキスタを道づれにしてくれた方が利益になると考えていることがわかる。

そして、王党派は誇りや名誉にかけて、レコンキスタに従うことはできない以上その思惑にのるしかない。

それに命を懸けて共に不利な戦いを戦っているのだから、親近感も沸くことだろう。

密輸は普通に犯罪である。

ウェールズ皇太子やアルビオン国王ジェームズ1世も無能ではないので、自分たちの不利益にならないようなら協力してくれるだろう。

ただでさえ劣勢で、原作では王子自らが空賊の首領をやっていたほどなのだから。

それに、ジェームズ1世の親心としてはウェールズ皇太子を生き残らせたいはずなので、
もしものときの亡命の伝手は確保しておくだろう。

まずは、普通に取引をして顔つなぎをするところから始めよう。
空賊は王党派の不利がはっきりしてからの方がいいだろう。


作り上げた鉄製の大砲の製造法をに皇帝に売りつけた。

この世界ではもうコークスが使われており、魔法もあるので鉄製でも使用に耐えられるものが作れるだろうと判断したのだ。

というかなんで青銅砲なんだろう?
地球ではコークスが広まるよりも前に鉄に変わっていったはずなのに…
ドットメイジでも青銅を錬金することができるからなんだろうか…


売りつけたのは、ちゃんと帝国に役に立つ研究をして、それなりに結果さえ出しておけば、

早々には切られないであろうという思惑のためと、

大砲の威力の向上はこれからある対レコンキスタ戦に必要であるということと、

トリステイン魔法学院に行く許可を取るためと、

トリステインでなにかあったときに、ゲルマニア帝国の後ろ盾を得るためでもある。

トリステイン魔法学院に入る理由を聞かれたときに、

「「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という言葉がありますから」と、答えると

「どういう意味なのだね?」と聞かれたので、

「「敵の実力を見極め、己の力を客観的に判断して敵と戦えば、100戦したところで危機に陥るようなことはない」と言う意味でございます。」
と、答えておいた。

どう客観的にみても手柄を立てようと必死になっている若者としか思えない。
ただ、そこら辺の無分別な若者と違うところは、一応結果を出しているところと、
できるだけ情報を集めようとしているところだろう。

この時期はまだアンリエッタ王女との婚儀も本決まりではなかったので、何とか許可はもらえた。


コークス副生産物であるコールタールの大量買付けも行った。

コールタールには火の秘薬である硫黄とピクリン酸やトリニトロトルエンの原料になるベンゼン環が含まれているので、
炭素と水素から錬金するよりも魔力を使わなくてすむから、大量生産するときに便利なのだ。

みんな目先のコークスに目を奪われて副生成物がどんなに重要なものかを理解していないので安く上がって助かった。
きっと変人が変なものを買っているぐらいに思われているのだろう。


ゼロ戦の20mm機関砲を元に後装式ライフル砲の開発も進めている。
勿論砲弾も作成している。これは20mm機関砲の弾が炸裂弾だったので本当に助かった。

専門家に任せたいけれど、技術の流出が起こると軍事バランスが壊れてしまう危険性があるから、
この作業は自分の力でやらないといけないので、すごく大変である。

地上部隊をこの砲弾で攻撃するだけの余裕が無いので対地攻撃は爆弾で行うことにする。

トリニトロトルエンを使えばそれなりの破壊力は出せるだろう。

酸化エチレン(C2H4O)を基にした燃料気化爆弾と
ゼロ戦の中にガソリンの見本があったので、ガソリンに粘性を持たせて焼き尽くすナパーム弾も開発中である。

きっと原作が始まるころにはモノになっているはずである。

というかお願いだから使えるようになって欲しい。

「う~~ん」


コルベールが欲しい。


空飛ぶヘビくんがあればフネに載せて対空砲として使えるし、
戦闘機に積んである空対空ミサイルのように竜騎士に持たせて敵を撃破させることもできる。


私の信条は「戦いは数だよ兄貴!」である。


いくらゼロ戦をサイトに操らせても持っている弾薬以上の敵には勝てない。

そして、ゼロ戦の弾薬を生産するのは難しい。というか無理だ。

そんな時間と労力があれば他のことに使う。

それなら、この世界の飛竜やフネに、この世界の技術で生産することのできる「空飛ぶヘビくん」を持たせた方が良いような気もする。
敵の飛竜が100匹いても、300発の空飛ぶヘビくんがあれば勝てると思う。

科学技術と魔法技術の融合した新たな兵器の開発にも便利だ。

それにオストラント号も欲しい。

炎のルビーを持っていることも含めてなんとかして引き抜かないと…


あの手のタイプを操るのはそんなに難しくはない。
話を聞いてやり、適度に煽てているとこちらの思い通りに動いてくれる。

考えてもみて欲しい、オタクというのは総じて自分の趣味のことについて語りたがる。
そしてコルベールの研究はほとんど誰にも評価をされていない。つまり、話をまともに聞いてくれる人さえいないのだ。

そんな中で、私がコルベールの研究について興味を持ち、ためになるアイディアをたまに出してやれば、
いろいろな情報を話してくれるだろう。
酒と肴を持って行き、適度に酔わせるのもいいだろう。酒は人を饒舌にする。

研究資金を出してやるといって引き抜くことも可能かもしれない

また、自力でエンジンもどきを作り出したぐらいなので、蒸気機関のアイディアを教えるのもいいかもしれない。

コルベールならばこのことの意義が理解できるはずだ。


空飛ぶヘビくんは確かディテクトマジック発生装置をロケットの要領で飛ばすものだったはずだ、
最悪の場合は独自開発も視野に入れる必要があるかもしれない。


それと通常の陸戦用にゴーレムに投げさせる大型手榴弾も開発した。
接触信管ではなく、導火線に火を点けて爆発させるタイプのやつではあるが…

錬金からファイアー・ボールに繋ぐ攻撃魔法は威力はすばらしいのだが、
戦争で前面に立つのは弓や銃といった飛び道具があるので危険すぎる。

メイジでも当たり所が悪ければ死ぬのだ。

はっきり言って危険な賭けはやりたくない…

自分だけは、安全なところにいて利益を貪るのが私の趣味であって、蛮勇を奮うのは趣味じゃないのだ。


商売は非常に上手く行っている。

王党派も、レコンキスタも、相手に売られないように高値で買い取ってくれる。

大量生産なんてできないハルゲギニアでは、事前に備蓄した物資を使い果たすと後は買うしかない。

帰りのフネは代金の金貨や美術品で山積みになっている。

未来知識を持っているというのは、なんてすばらしいんだろう。

そろそろトリステインに行く準備をするためにアセチルサリチル酸とスクロースの増産と備蓄を始めようと思う。
この2つは売却ルートも確立しているし、私以外に誰も製造方法も知らないので、魔法学院に行っている3年間は、
在庫の売却だけをすればいいようにしておかないとまずいのだ。

品切れなんか起こすと、信用と販路を失ってしまう。

アルビオンとの交易をしている部下と、これから作る私掠空賊の部隊のための砲弾は、
いくら密封して、冷暗所に保管することにしても、自爆事故が怖いので
あまり長期保存をしたくない。

それに、いくらトリニトロトルエンが衝撃と熱に鈍感だといっても、


もしも事故があったら私の財産にひどい損害を与えることになるので、


余計な危険は避けるべきだろう。

後、盗難の危険性もある。高性能火薬の流出だけはなんとしても避けたい。
なので、砲弾の外側だけを作らせておいて、
長期休暇のたびにトリニトロトルエンを錬金して詰めていくしかないだろう。

トリプルベース火薬も同じだ。

領主としての仕事は別に私がいなくても問題ない。

目安箱の中身だけは学院に届くように手配すれば、後は部下たちや父上がちゃんとやってくれる。

何か緊急事態が起こったときには、竜騎士を飛ばすようにしておけば1日遅れぐらいで情報は手に入る。

そういえば、領地経営で現代知識をほとんど使ってない…


というか、私って領地経営で実用的に使える現代知識って何か持ってたっけ?

「植物を育てるのにはリン肥料と窒素肥料がいる」

「領民の声を直接聞ければ便利」

「国民皆兵の徴兵制」

「…」

すべてハルゲギニアの知識だけで同じことができそうな気がした。

まあいいか

きちんと


「黒字」


を出しているんだから損はしていないし問題なし。


でも、ちょっと泣きたくなった。


きっと私は領主より商人の方が向いていたのだろう。


魔法学院の入学する前にアルビオンに行き、商人としての伝手も使いウェールズ皇太子に謁見をした。


そして交渉の結果、利益の4割を献上するという条件でレコンキスタ派の商人に対する私掠空賊の許可を貰い、
空賊をやることになっている部下をいったんアルビオン国籍に変えてもらった。

こうすることで表向きゲルマニアは関係なくなる。

もともと没落貴族などを任務終了後の生涯雇用を条件に雇ったものなので問題ない。

そして、そのフネのアルビオン空軍基地の使用と、アドバイザーとしてのアルビオン空軍士官の乗船を許可してもらった。

ちなみに3割が乗員、そして残りの3割が私の収入である。

最初の航海でまずは王党派に味方であることを示すために、レコンキスタ側の軍艦を沈めさせた。

商船だと思って油断して近づいてきたところを大砲と魔法で奇襲攻撃をしたのである。

フネは燃え上がりながら落ちて行った。
地上までの距離を考えると助かる人間はいないだろう。

やっぱり、効率よく人を殺すにはフネを沈めてしまうのが1番効率が良い。
対レコンキスタ戦でもそれを念頭に入れておいたほうがいいだろう。
地球の船の沈没と違って救助もできないので、どんなに優秀なメイジでもフネが沈むとただ落ちて死ぬしかないのだから。


これで王党派の連中も少しは私たちのことを信用してくれることだろう。

帰還後同乗していた士官の報告を受けたウェールズ皇太子が苦笑いをしながらやってきた。

「信用されていないと思っていたのかね?」

「ええ、最初から信用してもらえるなんて思っていませんでしたから。それにこの状況ですし、よく知らない人間が信用できないのは当然のことかと。」

「それにしてもすごい威力だね。魔法も大砲も。君が天才だと言われている理由がわかったよ。」

「おそれいります。」

ウェールズはちょっと厳しい顔をして

「ところで、君は王党派が勝った場合何を望むんだい?」
と、切り込んできた。

「そうですね~、アルビオンとの交易の優遇措置とアルビオン内での商品の販売許可を頂きたいですね。」

「へ~、優秀なメイジである君が商人みたいな物を望むんだね。」

ちょっとカチッっときたので商売がどんなに楽しいか語ってあげていたら途中で止められた。

せっかく話してあげているのに何を考えているのだろう。

気がつくとウェールズ皇太子も護衛のメイジたちも呆れているようだ。

たった2時間程度話しただけなのに軟弱なやつらである。後4時間ぐらいで


「オットー君の現代知識を用いた商業講座前編」


が終わるんだから最後まで拝聴すべきなのに…

アルビオンに向かってくるフネはもちろんだけど、アルビオンから出て行くフネも狙うように命令してから、大陸から降りてトリステイン魔法学院に向かった。

もちろん我が家のフネが狙われて、同士討ちにならないようにあらかじめ目印をつけている。



[10764] 旧版 原作前編 (13~18)
Name: TNT◆5c31f948 ID:70f657a4
Date: 2010/11/09 21:24
アルビオンからフネでラ・ロシェールに降り、その後ようやくトリステイン魔法学院に到着した。

手荷物以外は別便で送っていたので、学院のメイドに手伝わせて部屋の整理をした。

終わった後でメイドに20エキューほどのチップを渡した。

平民一人当たり一年間に必要な生活費が120エキューなので、2か月分の生活費と同額をポンと渡した私は、それなりに肯定的に評価されるだろう。

特にトリステインでは貴族の比率が高すぎて平民の扱いが悪いから…

ガンダールヴであるサイトに良いイメージを植えつけたいので、彼とよく話すことになる平民たちの評判は大事である。

それに、平民たちには独自の情報網があるので、面白い情報でも手に入るかもしれないし安いものである。


入学式でオスマンが馬鹿をやっているのを横目で見ながら、

・虚無の資質を持つが今現在は魔法が使えずコンプレックスいっぱいのルイズ。

・私と同じゲルマニア人で火のトライアングルメイジであるキュルケ。

・ガリアの王族でありながら父を殺され、王族としての権利を剥奪された風のトライアングルメイジであるタバサ。

・実家が貧乏な勤労少女の水のドットメイジであるモンモランシー。

・女好きの土のドットメイジであるギーシュ。

・変態な風のドットメイジであるマリコルヌ。

・水精霊騎士隊に入る予定のその他大勢。

といった主要な原作キャラを確認しながら

「う~~~ん。こいつらをどうやって自分の都合が良いように操るかな~~~。」

と、今後の展開に頭を悩ませていた。


幸いなことにルイズとは違うクラスだった。

失敗魔法の爆発の被害に遭わされてはたまらないし、
公爵令嬢ということだけしかとりえが無いくせに、プライドだけが高いルイズとははっきり言って絶対に合わない。

そして、その公爵令嬢であるという利点を上手く使いこなしきるだけの器量も無いので、我慢して合わせてやるメリットも存在しない。

ということで、ルイズとは原作が始まるまでは表向きはあまりかかわらないようにしようと思う。

そうしておけば、親しくはなれなくても、反感ももたれない。


学院が始まってから、2度目の虚無の日の休暇にトリスタニアの町に出た。

エリザベートとは途中で合流し一緒に街を見てまわった。

ヴィンドボナの町と比較すると活気が無く品数が少なく、そして、値段も高かった。

「やっぱり税金が高く、不正も多いのが原因なのかな?」

なんて考えつつ、ピエモンの秘薬店の近くの武器屋を探していた。


「まず初めにキーアイテムを自分で確保してから相手との関係によってそれをどう使うか決める。」


それが私の考えだ。

ルイズが始祖の力を引き継いだ虚無の使い手だとしても、私はルイズに従うつもりは無い。

自分の望みと一緒なら協力するし、違うなら敵対するごく普通の貴族としての関係を築くつもりだ。

なので、切り札になるであろうアイテムを相手に無条件で委ねる事なんてできない。

サイトのガンダールヴとしての能力は、盾として使えるデルフリンガーの属性魔法吸収能力が無いと大きく下がる。
上手く利用できている間は貸し付けておいて、そろそろ邪魔になってきたかなと思えるころに回収すれば完璧だ。
研究で使うとかいくらでも口実はある。

まあ、デルフリンガーは、長く存在しているので話し相手としてもちょうどいいし、
早めに魔法吸収能力を思い出させるのもありだろう。

属性魔法をエネルギーにしているんだから、属性魔法をかけまくったら思い出さないだろうか?

そんなことを考えつつ剣の形をした銅の看板の店を見つけたので入っていった。
亭主らしき親父に「剣を探している」というと、

「貴族の坊ちゃまが剣をご入用で?」と聞かれたので

「ブレイドの魔法の練習用だ」などと話していると、

「おめえ、自分を見たことがあるのか?その体で剣を振る?…」

などと、デルフリンガーが話しかけてきた。口の悪いやつである。

親父が焦って止めようとしているのにかまわず

「へ~、インテリジェンスソードか。それはいくらだ?」と聞いた。

親父はその剣を取り出し、

「この剣はエキュー金貨で50新金貨で75ですが、見てのとおりボロイし安物なのでぼっちゃまにはもっとふさわしい剣が…」

などと言っていたが

「これでいい。インテリジェンスソードなんて研究材料にもできてちょうど良い」と答え、50エキューを払った。

はっきり言うことでもないが運動は苦手である。

転生してからまともに運動なんてしていない。

そんなことする暇があったら、魔法の研究・領地経営・商売をやっていた。

普通のメイジは魔法があるから体なんて鍛えなくてもいいのだ。

前世でも防具が気持ち悪そうだから、剣道ではなく柔道を選択したぐらいだ。
なので、剣術なんてまったくできない。

デルフリンガーの言ったことも間違えでは無いだろう。

でも、頭にきたので、私が飽きるまでこれからしばらくの間、実験に付き合ってもらうことにする。

その後、エリザベートに髪飾りを買ってやり、美味しいと聞いた食堂で食事をした後、宿屋に連れて行き、
誰にも聞かれないように2人きりになってから、トリステインに来てからのことの報告を受けた。

エリザベートは一応母親と妹はこっちが握っているし、恩も売ってる。

多分裏切ったりはしないと思うが、一応念には念を入れておいたほうがいいので扱いに気を使っている。

彼女との関係は他人には秘密である。切り札は他人に知られたら切り札にはなりえない。

だから、新しい身分もわざわざお金を払って手に入れた。こういうときにゲルマニアのシステムは便利である。


この学院での生活は宮廷で常日頃行われる政治の前段階であり、
生徒たちは学院で、一生の伴侶を、生涯の友を見つけていく。

また貴族としての他人との付き合い方を学んでいくのだ。

同級生の情報も貴重な財産になるだろう。

例えば、

学院卒業後、次に会った時に、

学院時代に優秀だったものが無能になっていると思うだろうか?

性格が変わっていると思うだろうか?

趣味や好きなものは変わっていると思うだろうか?

もちろん思わない、よほどの事がない限り変わっていないと判断するだろう。

善し悪しにつけ学院での評価はこれから先の貴族としての一生に大きく関ってくるのだ。

なので私はこれからの自分の対外評価を上げるため、

ゲルマニアの貴族が甘く見られないために、がんばって優等生を演じていた。


はっきり言って集団生活は苦手である。


特に前世の記憶なんていうものがあるから、精神年齢が発達していて、思春期特有のあのノリにはついていけないことがある。

幸いなことにお金だけは有り余るほど持っているので、
一緒に町に出たときなど相手の顔が潰れない程度に、食事代などを払ったりしているので評判はそんなに悪くは無い。

トリステインは経済感覚が鈍い貴族が多いので、みんなお金に苦労しているのだろう…

少しは伯爵令嬢なのに、香水作りのバイトをしているモンモランシーを見習えばいいのに…

水の精霊の涙を入れた惚れ薬を作っていたとこから考えて、下手な下級貴族よりは稼いでいるはずである。


ギーシュなんかにはもったいないほど経済観念のしっかりした女性である。

売れる香水の作り方とかいろいろと興味はあったが、ギーシュの決闘イベントの関係者なので関わらずにいる。
エタノールの味付け手伝ってくれないかな…


魔法に関しても、他人に斬新な使い方のヒントなんか与えると碌なことにならないので、アレンジ魔法は使用できない。
錬金なんかはその際たるもので普通に授業ぐらいでしか使わなかった。


すごくストレスが溜まる…


胃に穴が開きそうである。

タバサやキュルケみたいな問題は起きなかった。

決闘を申し込んで来るような馬鹿でもいたら、ルールも守れないから無能なんだよと鼻で笑って断ってやり、
相手が切れて先に攻撃してきたら、正当防衛or無礼討ちで合法的に処刑した後で、
(貴族同士の決闘は禁止である。いきなり攻撃されたときに自分の身を守るのは当然の権利だと思う。)
相手の実家を取り潰すようゲルマニアから圧力をかけてもらって、見せしめにするつもりだったのに残念なことである。

学院から離れた場所にストレス解消に魔法をぶっ放しに行くついでに、

馬で4時間の位置にあるというフーケのアジト探しもしている。

最近の癒しはデルフリンガーの研究である。
まずは錆をとるために希塩酸(HCl)をかけて拭いてみたが、錆が落ちなかった。
コルベールのところに持って行き、どんな素材でできているか調べるためにいろいろな実験を行っている。

デルフの上げる悲鳴が心地よい。

ついてに、独自開発した空飛ぶヘビくんもどき(かなりの劣化版)をコルベールに見せて改良を手伝ってもらった。

褒めて、煽てて、美味しい酒を飲ませて、珍しい材料でできているデルフという生贄を与えたから、
実質ほとんどコルベールだけで改良をやったようなものだ。


デルフが諦めて正体を現した。

適度に刀身に属性魔法を当ててエネルギーを吸収させていたことと、

濃塩酸(HCl)と濃硝酸(HNO3)を3:1で混ぜた王水に金を溶かして見せ、

「次はデルフの番だね。」

と笑顔で言ってやったのが勝因だと思う。

デルフに対する実験はコルベールのところに行ってコルベールにやらせるのと、
自室で誰にも秘密で行うのの二通りの方法で行った。

もちろん自分の技術をコルベールに知られないためである。

コルベールに光り輝いた刀身を見せに行っているときに、
デルフが昔ガンダールヴに使われていたとか余計なことを言い出したものだから、変なフラグが立ってしまった。

外国人である私の持ち物ではあるし、サイトがガンダールヴであるということは公にはしないはずなので、どうするかみものだ。

それにしてもデルフは、最近口の悪いのが少しずつ減ってきているような気がする。
気に入らないことを言われたときには、がんばって研究してあげたからだろうか?

ようやく夏期休暇の季節になったので、学院を出て実家に一度帰った後、領地に向った。

空飛ぶヘビくんは、ロケットの部分と探知装置の部分を別々に生産させることにした。
少しでもどんなものを作っているのかを把握させないためである。
最後に自分だけで組み立てて、火薬としては自分で使う分はニトロセルロースを、
軍に納入する分は塩素酸カリウム入り黒色火薬使う予定だ。

溜まった仕事を片付けた後で、アルビオンに向かった。

砲弾とトリプルベース火薬の補給もしなければいけないし、部下に恩賞も与えなければならない。
王統派の様子も確認しなければならない。

原作では来年の春には滅亡寸前だったが、今回はレコンキスタの補給と経済力を削って、
逆に王党派には増強させているのでもう少し持つかもしれない。


どっちにしろ私の財布は潤っている。


ならば何も問題ない。


アルビオンに到着後に王党派に会ったが、対応が前回よりも柔らかい感じがする。
計画は上手く行っているようだ。

ウェールズ皇太子と会って状況を確認したところ、やはり王党派は不利なようだ。
でも、空賊活動は感謝された。
奪ってきた物資と金をレコンキスタに使われることを考えたら、いろいろと愉快な想像ができるのだろう。


ウェールズ皇太子は有能で立派な人物だと思う。

不利な状況でも誇りを糧に戦える騎士タイプの人間だ。

恩を売っておけばいきなり仇で返すような真似もしないだろう。

そしてトリステインのアンリエッタ王女とは恋仲であるので、
上手く行けば両者の結婚によりカスティーリャ王国とアラゴン王国がスペイン王国になったように、
アルビオン・トリステイン連合王国になるかもしれない。


生存と死、どちらのほうがより大きい利益をもたらしてくれるのだろうか…


大量の爆薬をニューカッスル城にしかけて、死体も残らないようにふっ飛ばせば
生死を欺くことも不可能ではないかもしれない。

う~~~ん。難問である。


今までは知っていることなので上手く行っていたが、
これからはバタフライ効果のことも考えて変えていく必要があるだろう。


魔法の実技の授業が始まってすぐに、

「ルイズはまともに魔法を成功させることができない。」

といううわさが流れてきたので、

ルイズの両親への信頼をなくすよう仕向けるために、それと一緒に

「ヴァリエール公爵は、魔法ができない無能でお家の恥にしかならない娘であるルイズを修道院に押し込める代わりに、
 腰巾着だったワルド子爵へ無理やりに押し付けた。」

という噂を私から出たことがばれないように流してみた。

有力貴族の令嬢の婚約という派閥争いに関係するネタであることと、
国一番の名門貴族であるヴァリエール公爵家のゴシップネタであるからこの話は一気にトリステイン中に広まった。

基本的に魔法学院というのは貴族子弟のための社交の場である。

子供とはいえ貴族であるのだから家名を背負って行動しているのだ。
なので、そこで手に入れた有力な情報は親に送ることになる。


通常、公爵令嬢の嫁ぎ先が子爵家というのは、家格が違いすぎるためほとんどない。

普通だったら、同格の公爵か一段階落ちて侯爵、最低でも力を持った伯爵ぐらいだ。


ここトリステイン王国では、魔法というものが絶対の価値を持つため、
優秀な下級貴族のメイジが婿養子や嫁として上級貴族の家に入ることはあるが、逆はほとんど無い。

あっても魔法学院在学中に恋愛関係になり、そのまま結婚するケースぐらいだ。

例えば、烈風のカリンがヴァリエール公爵家の嫁に迎え入れられたのは、カリンのメイジとして優秀な血を取り込むことによって、
以後のヴァリエール公爵家で優秀なメイジが生まれることを期待してのことだ。

ルイズとワルド子爵の婚約は、ヴァリエール公爵家にとってどんな利点があるのだろうか?

やっかいもののルイズがいなくなること以外何も無い。

しかもルイズとワルド子爵が婚約したのはルイズが6歳のときであり、
長女のエレオノールもまだ17歳で魔法学院在籍中で結婚適齢期前である。

公爵家の跡取り娘がこれほどまでに婚約者に逃げられ、行き遅れになるなんて普通は想像出来ないだろう。

ワルド子爵自身もただの子爵家の嫡男というだけの身分の学生であり、将来性が確保されているわけでもなかった。

しかも、ヴァリエール公爵家とワルド子爵家では経済力が全然違う。

親に年収と財産が実家の20分の1以下の家に嫁がされることを考えると愛されているとは思えないだろう。
(ヴァリエール公爵家とワルド子爵家の経済格差は20倍なんてものじゃないほど開いていると思われます。)


ワルドの才能を見込んで婚約させたというのも、ルイズが普通のメイジだったら理由にはなるが、
魔法も使えない無能者を押し付けたという方が理由としては納得できる。

「ワルド子爵はやっかいものを引き受けたおかげで、ヴァリエール公爵の後押しでグリフォン隊の隊長になれた。」

なんていうのは、プライドが高くゴシップ好きの貴族の好きそうな話である。

例えば、ヴァリエール公爵自身は溺愛している遅くにできた末娘を手元から離したくなかったから、隣のワルド子爵と婚約させたのかもしれない。
幼いルイズの初恋を叶えさせてやりたいという親心もあったのかも知れない。

しかし、他人の心は誰にもわからない。

人々が求めいてるのは真実ではなく、誰にでも見える事実である。


この噂はいろいろと尾ひれが付いてトリステイン中に広まっているので、

遠からずヴァリエール公爵夫妻の耳にも入ることだろう。

そして、安易にルイズをワルド子爵と婚約させた甘さを後悔するといい。

宮廷闘争というものを甘く見るからいけないのだ。






ルイズは友達が一人もできなかった。それは当然であろう。原作でもいなかった。

魔法がまったくできないというメイジとしての能力の欠落。

失敗魔法で他人に被害を与えても反省や謝罪をまともにしない態度。

公爵家の娘であるという傲慢さ。

そして公爵家の娘でありながら、たかが子爵の婚約者として厄介払いされたという将来性のなさ。

子供でも自分や自家の利益になるなら、どんな相手とでも付き合うように教育されているのが貴族というものである。

わがままで好き放題していたベアトリスに取り巻きがいっぱいいて、
ルイズには誰もいないのはここら辺を冷徹に判断されただけに過ぎない。


ルイズと付き合っても利益にはならないと。


ルイズはアンリエッタとの楽しかった思い出と、手紙もくれない初恋の相手である婚約者のワルドへの思いに溺れていった。

必死に疑いの心を押し殺して。



余りにも惨めだから・・・



これが更なる悲劇へと向かうとも知らずに…





ワルド子爵が裏切ったら、ヴァリエール公爵にルイズを押し付けられたからだという噂も流してやろう。

家の存続させることが第一目標で、魔法重視のトリステインの貴族にとっては、
魔法を使えない嫁なんかを押し付けられることは、言語道断のはずだ。

血筋を汚されて、子孫にメイジとしての適正が無くなったら、貴族ではなくなるではないか。


「優秀なスクウェアメイジであるワルド子爵は、メイジとしての血を守るためにレコンキスタに組せざるおえなかった。」


なんていう事にでもなったら、

ヴァリエール公爵の名声は大きく下がるだろう。

貴族同士の足の引っ張り合いは権力闘争でよくある話なので、
ワルドが起こした損害の責任の追求がヴァリエール公爵までいけば大歓迎だ。

ヴァリエール公爵の足を引っ張りたい連中はいくらでもいるので面白いことになるだろう。

エレオノールは結婚できず、カトレアは他家を創設しかも子供を作れない。

そして、ルイズまでワルド子爵の裏切りの連座で罪を問われたりすると、ヴァリエール公爵領が丸々空くことにもなりかねない。

領地が空くということは、領地が自分たちにまわってくる可能性も高くなることを意味する。

目先ににんじんをぶら下げられた貴族の対応、まあ普通に予想できる。


トリステインの対ゲルマニア戦の要で、ゲルマニアを蔑視しているヴァリエール公爵の力は減少させるにこしたことは無い。

ゲルマニアがトリステインを併合するのに邪魔になる存在はできるだけ力を弱めておくに限る。



それに、よくあるルイズに優しくして依存心を持たせるという方法も、
一度どん底に叩き落してからやったほうが効果的である。


原作での状況と、アルビオンにいる部下たちからの情報で、王党派がいずれレコンキスタに敗れるのがほぼ確定的になってきた。


レコンキスタのトリステイン侵攻。


ゲルマニアにとっての最適な結末は、アンリエッタ王女を手元に押さえた上での両方の共倒れである。

もちろん兵力はレコンキスタ優勢なので、援軍は送るべきだが、主力はトリステイン軍に任せて、
トリステイン諸侯を適当に使いつぶしつつ、双方の戦力をすり減らし、
その後、大規模な援軍を持ってレコンキスタを駆逐し、その余勢を駆ってアルビオンをも押さえる。

トリステインのレコンキスタに付いた諸侯と、戦闘でミスした諸侯の領地は没収し、
直轄地、ゲルマニア系貴族で手柄を立てたものの領地、トリステインの貴族でゲルマニアの支配に協力的な者の領地に分割する。

跡継ぎになれるような人間が戦死した家に娘がいれば、都合のいい人間を婿として送り込む。

まあこんなものだろう。


トリステインの領地持ち貴族が死ねば死ぬほど都合がいい。


普通に考えたら誰にでも考え付きそうなことだ。


原作でもアンリエッタの無謀な出陣と、ルイズの虚無によるその勝利が無かったら、きっとそうなるように進められただろう。


問題は、これが私にとっての最適解であるとは限らないことだ。


まあ、ゲルマニアの貴族として優秀なところを、皇帝その他軍上層部にも見せないといけないから、
この計画に則って、ゲルマニアではそれなりの準備はしておくべきだろう。

できることといったら、王党派が不利であるという情報を、将来レコンキスタに敗れるであろうという見解を沿えて皇帝に報告し、
ヘーゲラーの領地にいる騎士団の一部を、トリステインとの国境にあるマントイフェルへ移動させる準備を進めつつ、
ツェルプストー伯爵なんかとも、トリステインとの国境の封鎖について話し合うぐらいか。


戦争なんてものは自領でするものじゃない。勝っても領地が疲弊してしまうからだ。
だからこそ、レコンキスタ軍をゲルマニア国内に入れず、トリステイン国内に留まらせるようにする準備が必要になってくる。


レコンキスタが不可侵条約を提案してきたら、
不可侵条約は偽りであろうということと、結婚式のときに条約破りの奇襲攻撃をやりかねないことも合わせて報告しておくべきだろう。

相手が何時、どこで、奇襲攻撃を行うかがわかっていれば対応策はいくらでもある。
トリステイン艦隊を囮にしつつ、こっちの艦隊でレコンキスタ艦隊を殲滅することも不可能ではない。

ただ、こっちの目的もレコンキスタをトリステインに降下させることだから、艦隊を温存して早めに離脱させるべきだとは思うが…

まあ、取り入れられるられないはどうでもよかったりする。
私の有能さを示せればそれでいいし、今後の発言力の強化にも繋がる。

逆に絶対にミスってはいけないのが、トリステインから逃げ出すレコンキスタを乗せた輸送船の殲滅である。
敵兵を殺すのは輸送船を沈めるのが一番楽だからだ。

アルビオンに逃したらまた厄介な敵になる。


あんまり活躍しすぎると妬まれそうだし、あんまり前線では活躍しないでおくかな…

どっちかと言うと参謀の仕事をして他人を動かす方が好みではある。


「う~~~~~~~~ん。頭が痛い。」


ルイズに私から誘導して虚無を使わせるかどうかは、
ウェールズ皇太子が生き残ることを選ぶか、名誉の死を選ぶかも関係してくるからまだ結論は出せないし…
それ以前にウェールズ皇太子とどこまで信頼関係を築けるかすらわからない。

ルイズに虚無を使わせてジョゼフに対する囮にするという選択肢もある。

そもそも私の関知しない所で、ルイズがレコンキスタ艦隊に虚無を使う可能性だって低くはない。
ゼロ戦はこっちで抑えていても、飛ぶ手段はいくらでもある。


他人の思惑が関係してくると面倒なことである。


適時情報を仕入れ、臨機応変に対応しないと…



[10764] 旧版 原作開始 盗賊フーケ編 (1~6)
Name: TNT◆5c31f948 ID:70f657a4
Date: 2010/11/09 21:25
そんなこんなでようやく2年生になれた。

ご都合主義なことに私もエリザベートもルイズたちと同じクラスだった。

エリザベートはこの一年でドットからラインへと能力を上げていた。
没落貴族なので、魔法学院にいるボンボンたちと違って必死に努力をしたのだろう。

手駒の能力が上がるのは私にとっても都合がいい。

魔法学院に連れてきたのは正解だったみたいだ。

そして使い魔召喚の儀式、エリザベートはグリフォンを、そして私はケルベロスを召喚した。

神話ではケルベロスの唾液からトリカブトが発生したと言われている。

「?」

「多分、私は無分別に毒物なんて使わないような気がしないこともない感じがするから、
 トリカブトが原因で、ケルベロスを呼び出したんじゃないと思う。
 敵陣の風上からシアン化水素(HCN)を錬金して、風の魔法で補助して送り込み続ければ戦いに勝てるなんて考えてないし…」
などと考えていた。



そして、ルイズがサイトを召喚した。



ようやくこれから物語が始まる。



コルベールと一緒に左手の甲のガンダールヴのルーンを確認した後で、ケルベロスを連れて部屋に戻った。

名前はソロモンの72の魔王からとって「ナベリウス」にした。

ナベリウスとケルベロスは同一視されることもあるので相応しい名前だろう。


翌朝はサイトに床で貧しい食事を食べさせるイベントがあった。


私は部下だろうが何だろうが一緒に食事をするときは同じものを用意する。


食べ物の恨みは怖い。


わざわざ貧しい食事を用意して、一緒に食べさせることにルイズの品性を疑う。

身分によって相応しい食事があるというなら、別の場所で食べさせればいいのに…

これはシエスタフラグに繋がるから干渉はしないが気分が悪い。

確かに目の前で格差をつけた食事を食べさせて、自分の立場を理解させるというのはわからないことでもない。
しかし、ルイズはそこに他者の視線があるということをまったく理解していない。





次は失敗魔法のイベントである。


巻き込まれたくないので、ナベリウスには最初から出口に一番近いところにいさせ、

ルイズが指されるとさっさとナベリウスを連れて逃げ出した。

教室の中はひどい有様である。しかもルイズは謝罪もしない。

貴族というか人としても最低である。

他人に迷惑をかけたときの対応は人の器量を表すものだから、所詮ルイズはその程度なのだろう。

ヴァリエール公爵の娘だからこそ、謝罪すらしなくてもそのまま済んでいるが、
親の権勢に頼って好き勝手する人間は嫌われる。特に本人の能力は無能なルイズはなおさらだろう。

被害を受けた人間が忘れるわけが無いのに…
ヴァリエール公爵の娘だから直接手を出せないので、嫌がらせが影に篭るだけだ。

ワルド子爵との婚約に関する噂を流した私が言えることでもないが、
なんだか原作以上に扱いにくい性格になっているような気がするし、
無意識で傲慢で他人に嫌われる行動を取っているので、両親の教育が完全に誤りだったのだろう。

エレオノールが公爵家の跡取り娘という好条件にも関わらず、結婚できないわけだ。

一緒にいればいるほど「助けてあげよう」とか「やさしくしてあげよう」とかいう気持ちがなくなっていく。

やっぱり、女性は容姿より性格の方が大事だなと思った。


昼食後はお待ちかねのギーシュとの決闘イベントである。

サイトも考えなしにギーシュとの決闘を承諾したが、何を考えているのだろう…
未知の場所に連れてこられたストレスと、魔法に対する無知から来る蛮勇だと思うが、
最初に空を飛んでいるところを見て何も思わなかったんだろうか?

ゴーレムが散々痛めつけた後で、ギーシュが剣を錬金した。


ここからが本番だ。見逃さないようにしないと。


そして、サイトが剣を握ると急に動きが早くなって、ギーシュのゴーレムを切り裂いた。

ギーシュが出した残りのゴーレムも切り裂き、降伏させた後でサイトは倒れこんだ。

さすがガンダールヴ!

素人をここまでドーピングできるなんて、いろいろと厄介な能力である。

もしも、サイトと敵対することになった時の対処法も考えた方がいいだろう。

・絶対にやってはいけないのが近接戦闘である。

・フーケみたいに隠れてゴーレムに攻撃させるのもいいが、あの素早さでは当たるかどうかがわからない。

・遠距離からの魔法はデルフさえ渡さなければ有効だと思う。

・錬金から爆発に繋げる魔法は、自分からある程度距離がないと使えないが、魔法での爆発ではないのでデルフを持っていても有効のはずだ。

・錬金で一酸化炭素(CO)やシアン化水素(HCN)なんかを作り出すのもいい手だと思う。自分が吸わないようにできる距離まで離れていたらの話ではあるが。

・一番簡単なのが、武器を持っていないときに不意打ちをすることだろう。貴族の誇りとかはどうでもいい。

まあ、故意に敵対することもない。

「バカとハサミは使いよう」

という諺もあるので、せいぜいうまい使い方を考えよう。


ドットとはいえメイジであるギーシュが敗れたのであたりは騒然としていた。

ちょうどタバサたちを見つけたので、近づいていって話しかけた。

「風のトライアングルメイジであるミスタバサとしてはこれをどうみる?」

「剣を持つと急に動きが別人になったような気がした。」

タバサに話しかけたのは初めてだったがちゃんと答えてくれた。

一緒にいたキュルケが不思議そうに

「オットーってタバサと知り合いだったの?」

と聞いてきたので、

「いや。しかし、この学年のトライアングルはわれわれ3人。興味を持っていても不思議ではないだろう。」

と答えた。

「えっ。オットーってトライアングルだったの?父上は火のスクウェアだろうって言ってたんだけど…」

キュルケがビックリしたように言ったので

「あはは…まあいい秘薬を使っているからね。」

と答えた。これは秘薬と言う言葉を使ってタバサに興味を向けさせるためだ。

「へ~。どこで手に入れたの?」

キュルケは高性能な秘薬に興味を盛ったようだった。

まあ火のメイジだったら誰でも興味は持つことだろう。

「オリジナルだよ。」

「そういえば貴方って、新しい水の秘薬も開発してたわね。いいわ、私にも売って!」

水の秘薬を開発したと聞いたときのタバサの表情が珍しく変わった気がした。

「残念ながらそんなに数がないんだよ。それに手品は種明かしをしたら面白くないじゃないか。
 それに、キュルケなら高価な秘薬でごまかさなくても、あのくらいの炎は使えるようになるさ。」

「なんかごまかされている気がするわね。」

「あはは、そんなことないよ。ところであのルイズの使い魔、倒そうと思ったらどうする?」

「へ~。そんなことを考えていたんだ。」

「もしものときの準備は必要なんだよ。結果的に必要なくても無駄だったで笑って済ませられるが、
 準備してなかった場合反省すらできなくなる可能性があるからね。」

「近接戦闘は危険。遠距離からの攻撃が好ましい。」

「さすが、ミスタバサ…」「タバサでいい」

「じゃあ、さすがタバサ。私もまったく同じ考えだよ。
 遠距離からの魔法もしくは、術者は隠れたうえで、剣で壊せない大型のゴーレムを使うのがいいだろうね。」

「タバサやオットーに認められるなんてさすがダーリンね。」

「「はっ?」」

「なんだか好きになっちゃったみないなの。」

「悪趣味。」

話が続きそうだったので、

「なんていうか、がんばって。」と言って逃げ出した。


「水の秘薬の開発」薬で病んでしまった母親を治す方法を探しているタバサにとっては印象に残る言葉だろう。

未来のガリアの女王になるかもしれないタバサと接点を作るのは悪くは無いはずだ。

将来ギブ&テイクで取引したくても、フラグの欠片もなければ怪しまれて失敗に終わる可能性が高いからだ。

あんまり近づきすぎてジョゼフに目を付けられたら堪らないので接触は注意にを要するが…


サイトは怪我、ルイズはその看病中なのでしばらくは平和である。


サイトとの接触については、コルベールにガンダールヴのルーンを確認したのを見られているので、
オスマンたちに怪しまれる危険があるから、下手にサイトと接触することはできないため、
チャンスを窺っている最中である。


ルイズは自分の使い魔が平民なのには不満いっぱいだが、
それでも貴族であるギーシュを倒したのでそれなりに満足はしていた。

サイトの復活後、細々としたルイズからかいイベントとルイズの手酷い報復イベントを消化し、

とうとう虚無の日がやってきた。


ルイズはサイトを連れてトリスタニアに剣を買いにいった。

デルフはここにあるから、どんな剣を買ってくるんだろう?

新金貨100枚しか持ってないはずなので、お嬢様で買い物の下手なルイズにはレイピアぐらいしか買えないだろうけど…

今夜はフーケの襲撃イベントがあるはずなので、徹夜してもいいようにしっかり寝ておこうと思っていたが、

レイナールたちに

「トリスタニアの町に面白い酒場があるから一緒に行かないか?」

と誘われた。

いつもは出来るだけ参加しているし、今日だけ違う行動を取って後で怪しまれてはまずいので一緒に行くことにした。

「私の睡眠を返せ~~~~~~。朝から寝るつもりだったから、昨日の夜は寝ないで準備してたのに…」

と心の中で泣きながら…。

魔法学院で同年代のメイジと上手く付き合うのは将来を考えても悪くは無い。


でも、ちょっと餌付けしすぎたかもしれない…。


フーケのアジトについては、ナベリウスにミスロングビルの匂いは覚えさせたので、
もしも当たりをつけていた場所と違っても追跡できるはずなので大丈夫だろう。


夜になり、フーケの襲撃イベントがやってきた。
タバサとシルフィードがいなくなってから、見つからないようにナベリウスに乗って追跡し、

廃屋でM72 LAW 対戦車ロケットランチャーを手に入れた。

これで、成形炸薬弾とロケットの技術が手にはいる。

帰る途中で一旦破壊の杖は隠して、学院に戻った。
明後日、竜騎士が荷物を持ってくることになっているので、戻る時にこっちから送るものに紛れ込ませて運ぶことにする。

ナベリウスには今日のことは同じ使い魔同士にも内緒にしておくように言ってから別れた。


すごく眠い。


部屋で寝ようとしていたら、なぜかフーケ討伐隊のメンバーに誘われた。

余計なフラグを立ててしまっていたことに後悔した。

ただでさえ眠いのに、ただ働きなんかする気はまったくなかったし、
破壊の杖がないので、錬金を使わないとゴーレムを倒せそうもないこともわかっていた。

眠くて、自分の名誉を傷つけない上手い断り方を考えるだけの思考力が働かず、
こんな状態で参加したら殺されかねないので、はなはだ不本意ではあるが、

「軍事上の一番の大敵って何か知ってる?」

と、キュルケに聞いた。

「有能な敵じゃないの?」

「違う。無能な味方だ。魔法もできないルイズが参加をするなら私は遠慮させてもらうよ。
 足を引っ張られたくはないからね。」

と言って断った。


考えてもみて欲しい、フーケがトリステインで貴族相手に盗賊をしてゲルマニア人の私に何か困ったことがあるのだろうか?


自分が被害にあわない限りまったくない。


トリステインの治安の悪化はゲルマニアにとっても利点になる。

盗賊1人捕らえられない王政府の能力に疑問を持たせることが出来るからだ。

それに、フーケはアルビオンで孤児たちの面倒を見ている。
善行の為なら犯罪行為をしていいとは言わないが、トリステインの貴族が贅沢をするために、
わざわざ捕まえるのを協力する気にもなれない。


というか私の命が一番大事だ。


ルイズは「無能」と本当のことを言われたのでギャーギャー喚きながらフーケ討伐に向かっていった。
眠いのだからルイズの戯言なんかまともに聞くつもりなんてまったくないので聞き流した。

ふう。これでようやく寝られる。















起きてから今回のことを思い出し、
眠いと思考能力が低下しすぎるから、ちゃんと睡眠は取ろうと心に誓ったのであった。














ルイズは怒り狂っていた。

なぜ自分はこんなにも努力をしているのに魔法が出来ないのか?

なぜオットーは、まったく努力をしているようには見えないのに、火のスクウェアなのか?
(オットーは土のトライアングルです。だた、ピクリン酸を錬金し、そこにファイアー・ボールで着火のコンボの痕を見た人間から、
 火のスクウェアであろうと言う噂が広まっているだけに過ぎません。)

なぜ野蛮で成り上がりどもの国であるゲルマニアの人間に、トリステイン一の名門ヴァリエール公爵家の娘であるこの私が馬鹿にされないといけないのか?

絶対にフーケを捕まえて自分を馬鹿にしたことを後悔させてやると心に誓い、
馬車の中でフーケを捕まえた自分をオットーや同級生、両親やワルド、エレオノールたちが崇め奉っている状況を妄想しながら、
フーケ討伐に向かっていった。


フーケ討伐は予想通り失敗した。








原作でゴーレムを倒した破壊の杖ことM72 LAW 対戦車ロケットランチャーは私が確保していたので、
ゴーレムを倒す手段が無かったのだ。

学院では錬金の汎用性の高さと戦闘での有用性が他の人間に知られないように、注意してまったく使わなかったので、
キュルケには普通に火の魔法を使うしか攻撃手段が無い。
そして、土でできた巨大ゴーレムにただの炎を飛ばしてもろくなダメージを与えられない。

タバサの風は速く鋭いがそれだけだ。質量を持っていないので攻撃が軽く、ゴーレムにダメージを与えられない。

サイトは武器がキュルケの装飾用の剣とルイズの安物のレイピアしかなかったので、両方とも斬りつけたら剣の方が負け、
ガンダールヴの力を失った。

ルイズは無謀にもゴーレムに突貫し、失敗魔法は明後日の方向へ飛んでいき、あっさりと捕らえられた。

キュルケとタバサは自分たちではどうしようもない事を悟り、怪我をしたサイトを捕まえて無理やり撤退したそうだ。


「?」


「?」


「エ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


「原作1巻で物語が終わるなんて…ちょっと干渉しすぎたか…。」


「いや、きっとヒロインが敵に捕らわれることによって起こる、ヒーローの覚醒イベントなんだ。」


「対レコンキスタ戦どうしよう…。」


「虚無覚醒イベントでレコンキスタ艦隊を倒せないんじゃ、他の手を考えないといけない。」


「?」


「ゲルマニアとしては、タルブで負けても問題ないからそれはそれで良いのか…。」


「代用で出てくる虚無の使い手は誰だろう…。」


「破壊の杖が無かったんだから撤退するんじゃないのか普通…。」


「原作ではサイトはこの時点でデルフを使わなかったから無くても問題ないはずだ。」


とかいろいろな思考が頭の中をよぎった。




大きく深呼吸して、ちょっと落ち着いて冷静に考えてみた。

きっとルイズは生きているだろう。フーケも別に貴族を虐殺して回りたいわけではない。

ティファニアたちウエストウッド村の孤児たちのために盗賊をしてお金を稼いでいるという面もあるのだ。

破壊の杖が無くなっている現状では、あれだけオスマンのセクハラに耐えたのを無駄にしたくはないだろうし、

ルイズを殺すよりヴァリエール公爵家から身代金を取ったほうがいいと気がつくだろう。

ただ、私が流した噂のせいでヴァリエール公爵が身代金を払うと思うかは疑問だが…

でもまあ、だめもとで請求だけはしてみるだろう…

多分…


ヴァリエール公爵もあれでルイズを溺愛していたから、きっと身代金は払うはずだ。


ルイズはきっと無事に戻ってくる。


なら何も問題ないじゃないか。


問題ないどころか大金を手に入れたフーケが、ウエストウッド村でテファとずっと一緒にいれるようになり、
レコンキスタ入りのフラグと、テファが村の外に出てロマリアに利用されるフラグが消えるかもしれない。


今までいろいろ酷いことをして手を汚してきた私が言うことでもないかもしれないが、
できればテファには幸せになってもらいたい。


汚れまくっているせいか、他人に善意だけで当たれるテファとかは結構苦手なのだ。


ただ、すべて私自身や母国であるゲルマニア帝国のためになるという信念を持って行動をしてきたのだから別に後悔はしていない。

為政者ならば自領の民の幸せを第一に考えて行動すべきだからだ。

贅沢する分は他で稼いでいるので税はそんなに高くはないし、死の商人をして得られた利益はたまに還元しているので、

うちの領地に住む平民たちは、トリステインに住む大部分の平民たちよりいい暮らしをしているだろう。






まあルイズのことは今更考えてもどうにもならない。

優先順位としては、

私が自由に使える成形炸薬弾の技術>>>>>>>自由に使えないルイズの虚無の魔法だ。

それ自体の判断は間違いないはずだ。






まあいい賽は投げられたのだ。





ジョゼフの興味をロマリアに向けることができれば、
レコンキスタはルイズが居なくてもトリステインの貴族と傭兵の命を大量に生贄にささげれば何とでもなる。






でも、この世界を甘く見すぎていたことに反省し、
これからは原作に介入するときはもう少し注意してやろうと心に誓ったのだった。


帰還したキュルケ達から、任務に失敗してルイズが捕らわれたと報告を受けたので、


学院中が大騒ぎになった。

意図的に邪魔をして同じ失敗をした私が言うことでもないが、

サイトが神の盾ガンダールヴだと知っているオスマンとコルベールは別として、
他の教師達はどうしてこの任務が成功すると考えることができたのだろう?


キュルケもタバサもトライアングルとはいっても学生であることには変わりないし、
ルイズにいたっては簡単なコモンマジックをまともに成功させることすら出来ない無能。

サイトもたかが平民でしかない。

ギーシュとの決闘に勝利したと言っても、ギーシュには殺す気がなかったし、
メイジとしての最低ランクでしかないドット相手に大怪我をしている。

このメンバーで、トリステイン中の貴族を恐れさせている盗賊フーケに勝てるはずがないではないか。

そして、敗れた場合、無事に帰ってこれると思っていたのだろうか?

キュルケはゲルマニアからのタバサはガリアからの留学生であり、国際問題になる恐れがある。

ルイズは国一番の大貴族であるヴァリエール公爵の娘なのだ。

その権力を使ってどんな報復があるか考えなかったのだろうか?


自分が今回の一件にまったく責任を問われない立場であることに安堵し、

コルベールだけは何とか助けて部下に引き抜こうと思いつつ、

ようやく眠気が取れて頭がすっきりしてきたので、病室でサイトの手にまだルーンがあることを確認した後で、

食堂に行って飲み物と軽い食事を食べてからキュルケ達に会いに行った。



喧嘩友達だったのであろうルイズを助けられなくて、キュルケはさすがに目に見えて意気消沈しているようだった。

「貴方の言うとおりだったわ。ルイズを連れて行くべきじゃなかった。

 あの子は戦いというものをまったく理解できていなかった。

 連れて行きさえしなければこんなことにならなかったのに…。」

と、連れて行ったことを後悔しているようなので、まずは元気付けることにした。

「ルイズはまだ生きてるよ。使い魔のルーンがまだ残っていることを確認してきたからね。

 それに、フーケはまずルイズを殺さない。あれでも公爵令嬢だから殺すよりも身代金を取ったほうが良いと気がつくはずさ。

 殺したらヴァリエール公爵もメンツにかけてフーケの首に多額の賞金をかけてでもフーケを捕らえようとするだろうし、
 ルイズは魔法が使えないから脅威にはならない。

 ヴァリエール公爵が身代金さえ払えばきっと帰ってくるさ。」

「でもルイズは、魔法が出来なくて公爵令嬢なのに子爵なんかと婚約させられているのよ。

 そんな扱いをしているヴァリエール公爵が身代金なんか払うのかしら?」

とまだ不安を隠せない様子で言ったので、

「払うさ。金を惜しんで娘が殺されましたじゃ公爵の立場がないからね。

 特にルイズのように魔法が使えないという悪評がトリステイン中に広まっている場合はね。

 ヴァリエール公爵が自分で仕組んだとこだと見る人も出てくる可能性もあるし、

 内心は盗賊退治の最中に名誉の死を迎えてくれた方が良かったと思っていたとしても、絶対に払うと思う。」

と、貴族としての一般論で答えてみた。

まあ確かに金を惜しんで娘が殺されたでは他人に馬鹿にされる理由になる。

「はあ…、オットーは相変わらず冷静なのね。」

「結局は他人事だからね。ルイズには魔法の失敗で迷惑をかけられているだけで友達でもなんでもないし…。

 フーケ討伐に行ったのだって自分から進んでやったことだ。

 貴族ならば自分のやることには自分で責任を取らないと…。

 それにキュルケはルイズと仲が良くなかったはずなのに、そんなにショックを受けているとは思わなかったよ。」

「そうだったんだけどね…。」



「ちょっと話を聞かせて欲しい」と、タバサが話しかけてきた。
















タバサはオットーのことを考えていた。


自分やキュルケ違って社交的で人付き合いもよく、悪い噂も聞かない。

火のスクウェアと聞いていたが、トライアングルだという。どっちにしても歳の割りには優秀なメイジ。

トライアングルなのに魔法の威力をスクウェアレベルまで引き上げられる火の秘薬を独自開発できる、優秀な研究者でもある。

熱を下げる効果のある水の秘薬も開発していることから、母様の心の病を直す手がかりも知っているかもしれない相手ではある。

だけど、フーケ討伐に付き合わなかったように、自分の味方になってくれるとは限らない。

ルイズが誘拐されても特に感慨を持った感じはしていない。

だから、オットーのことをもっと知りたいと思っていたのだ。


「どうして、フーケ討伐に参加しなかったのか本当のことを教えて欲しい。」

「最初に言ったとおり、ルイズが足手まといになるのがわかっていたからだよ。無能な味方は害悪だからね。」

「でもそれだけじゃないはず。だって、あなただったらルイズを見捨てるのに躊躇しないはず。」

そうきっとオットーは必要とあれば他人を切り捨てることもできる人間なのだと思う。

私は別にそれが悪いことだとは思わない。

だって私も母様のためだったらどんなことでもする覚悟はできているのだから。

「あはは、ひどいいわれようだな。

 まあ私はこれでもゲルマニアの侯爵家の跡取りだからね。

 トリステインの下級貴族や領地を継げない次男以下で、
 フーケを倒して出世の足がかりにしようと思ってた連中はいっぱいいると思う。

 そういう連中に妬まれるのは損だと思ったんだよ。
 
 他国で手柄を立てる必要もあまり無いしね。
  
 トリステインじゃリスクに見合う褒賞なんか用意しないだろうし…。

 キュルケのことは心配だったけど、フーケと戦う可能性が高いんだから、
 なにか上手い方法を考えてると思って、策もなしに戦うとは思わなかったし…

 タバサはどんな状況でも撤退時期を誤らないだろうし、風竜のシルフィードもいる。

 キュルケもタバサに言われたら理解できるはずだ。

 だから二人は討伐に失敗しても多分大丈夫だと判断したんだ。

 成功よりも失敗の方がよりよい糧になる。

 生きてさえいればいくらでもやり直しは効くしね。
 
 それに、貴族なんだから自分の行いには自分で責任をとらないと。

 さて、そろそろフリッグの舞踏会の準備をしないといけないので失礼するよ。」

と苦笑いしながら言ってオットーは去っていった。

「リスクに見合う褒賞」「策もなしに戦う」「自分の行いには自分で責任を取る」
「成功よりも失敗の方がよりよい糧になる」「生きてさえいればいくらでもやり直しは効く」

と言ったオットーの言葉がずっと耳から離れなかった。




結局フリッグの舞踏会は中止になった。


翌朝、アルヴィーズの食堂ではルイズたちがフーケ討伐に行って失敗し、逆にルイズが捕らえられたことが話題になっていた。

席に着くと、ギーシュに

「君もフーケ討伐に誘われたらしいのに何で参加しなかったんだい?

 君ならフーケのゴーレムが相手でも何とかなったんじゃないかい?」

と、聞かれた。

軍人の息子で単純なギーシュにも理解しやすいように

「ルイズという明確な足手纏いがいるのに、参加なんてするわけがないじゃないか。

 というか、あれ、なんで参加したんだろう?

 自分が役立たずだって理解も出来なかったのかね?」

と答えたら、周りから、

「ただ、キュルケとタバサの功績を盗もうとしただけだろう。」

「いや、無能だっていう事も理解できないぐらい無能なんだろう。」

「反省と言う言葉を知らないしな。」

などという嘲笑の声が聞こえてきた。

自分の名誉を傷つけずに評価を上げるちょうどいいチャンスだったので、

「ギーシュ、今回のことでまず間違いなく、フーケの討伐に成功すればシュヴァリエの称号をもらえるぞ。

 それに多分、ヴァリエール公爵もフーケの身柄に懸賞金を出すだろうし、
 卒業後も近衛隊や魔法衛士隊あたりでのエリートとしての未来が待っている。

 シュヴルーズ先生にでも土のゴーレムを作ってもらって、対ゴーレム戦の研究をしてから行けば成功する確率も格段にあがる。
 
 私も手伝うから、爵位の継げない次男以下を中心に参加者を集めてこいよ。」

と、言った。


フーケの武器は巨大なゴーレムである。逆に言うならばゴーレムしか武器はないとも言える。
そして、そのゴーレムさえ何とかできるのならフーケを捕らえることも易しいだろう。

学院で対ゴーレム戦の研究をするだけなら危険はまったくないし、ゴーレム対策ができてからフーケ討伐をするようなので、

成功する確率はかなり高い。

上手い対処法が見つからなければフーケ討伐に参加しなければ良いだけの話だ。

本番のフーケ戦では危険はあるだろうが、このまま不安定な将来を迎えるよりローリスクでハイリターンだ。

そこまで計算して、聞き耳を立てていた連中はみんないっせいに参加を表明した。


彼らの頭の中には、もうルイズのことなどなかった。

もともと嫌われ者であるし、目の前にある自分たちの栄光の未来の方がはるかに大事だったのだ。


シュヴルーズは

「今のままじゃただではすみませんよ。教師として生徒に対ゴーレム戦のやり方を教えたことにして、
 
我々がフーケを捕らえるのを祈っていた方がまだましじゃないですか?」

との誠意あふれる説得が功を奏して協力してくれることになった。

さすがに彼女としてもこのままではやばいことはわかっているのだろう。

そして、土製のゴーレムであるが、大量の水を使うことであっさり無力化できた。

まあ、普通ゴーレム1体にドットやラインとはいえ30人程度のメイジを当てて、勝てないほうがおかしいだろう。
しかも土は水で流される。

連中は明るい未来にまた一歩近づいたのを確認したので、張り切ってコネを目一杯使ってフーケの情報を手に入れようとしていた。

ゴーレムの攻略法は出来たので、後はフーケの居場所だけである。




まあぶっちゃけて言えば、彼らがフーケを捕まえようがどうでもよかったりする。

もし捕まえられたら、今回の作戦を提案した私の優秀さを実感すると共に感謝もするだろう。

捕まえられなくても、土で出来た巨大なゴーレムの倒し方を、戦争に役に立たない方法で教えることが出来たので、
(戦争中に1人のトライアングルメイジにドットやラインとはいえ30人も拘束されたら大問題である。)
フーケ討伐を断ったことで私の名声が下がることはない。

まあ、次の日にフーケの主力武器である土のゴーレムの処理方法を多数の学院生に教えていれば、
誰もフーケを恐れていたので参加しなかったとは思わないだろう。



なぜかサイトに絡まれた。

そういえば今まで静かだったのはフーケ討伐で負った怪我の治療していたかららしい。

教師たちは今回の失態のせいで自分の身が危ういので、誰もサイトのことなんて気にしている余裕なんてないんだろう。

まだガンダールヴのルーンがあるようなので、ルイズはまだ生きているようだ。

怒りに満ちた表情で、

「なんでルイズを助けなかったんだ!

 あんたもフーケ討伐に参加していたらルイズはこんな事にならなかったはずだ。」

なんて事をいっている。

逆に聞きたい。

「ゲルマニアを蔑視していて、恩返しをするという基本的なことすら出来ないルイズをなぜ私が助ける必要があるのか?

 ただの学生である私が有名な盗賊のフーケ相手にただ働きをしなければいけないのか?」

と。



まあ、ガンダールヴと完全に敵対するのも馬鹿らしいし、ルイズとの溝を作るよい機会ではあるので、

「フーケ討伐は彼女たちが自ら望んで行ったことさ。貴族は自分の行いには自分で責任をとるものさ。

 それに婚約者がいる女性をエスコートするのはマナー違反だろう。」

と、答えた。

「婚約者?」

「ルイズには魔法衛士隊のグリフォン隊隊長であるワルド子爵という婚約者がいるよ。もしかして知らなかったのかい?」

サイトはそれを聞いてショックを受けているようだった。

まあ誰でもいいなと思った女の子に婚約者が居て、自分に手が届かないと知るとショックぐらいは受けると思う。

原作ではワルドの存在を知った後、アルビオンへの強行軍そしてワルドの裏切りと、
ゆっくり考える暇も無く婚約自体が解消されてしまったが、
いったんは自分の力不足を感じ、ルイズをワルドに委ねようとしたぐらいなのだ。

婚約者の情報を聞いてどうするかは見ものだ。

ルイズから逃げ出して、生活のために私の言いなりになるガンダールヴってすごく美味しいと思う。



[10764] 旧版 原作開始 盗賊フーケ編 (7~14)
Name: TNT◆5c31f948 ID:70f657a4
Date: 2010/11/09 21:26
ルイズが誘拐されたとの情報が届いたらしく、ヴァリエール公爵一家が魔法学院にやってきた。

それ自体はまあ当然のことではある。

オールドオスマンやその他教師たちが、どんな楽しい言い訳を考えているんだろうとワクワクしながら見ていると、


なぜか私も呼び出された。

キュルケやタバサもいて、まずは学院の関係者全員に直接事情聴取をしているらしく、

「なぜ討伐隊への参加を断ったのか?」

ということを聞かれた。


ラヴァリエール公爵いう肩書きもゲルマニア人の私には何も意味を持たない。

ただの小国の貴族の一人に過ぎないからだ。

もちろんゲルマニアの宮廷に干渉するなどできるはずもない。

攻めてくればそれはそれで問題ない。

まずは自領の兵を出すのだろうが、すぐさまラヴァリエール公爵の屋敷を空爆しトリステイン政府を恫喝してやれば良い。

聞かなければトリスタニアの一部を爆撃、この辺りで大体勝負がつく。

ラヴァリエール公爵はトリステインのただの一諸侯に過ぎないので他の人間が足を引っ張ってくれるだろう。

邪魔に思っている貴族はいくらでもいるのだ。

それに、ヴァリエール公爵にとって、ここで、私を殺す選択肢はないだろう。

アルビオンが危険な状態で、トリステイン王国には王すらいないのに、ゲルマニアとの全面戦争を起こすほど無能ではないはずだ。

他の貴族たちにとってはルイズの事なんてどうでもいいことだし、

足を引っ張るちょうどいいチャンスなので、戦争の原因を作った場合、

和平の代償が、娘たちも含むヴァリエール一族の命になる可能性が高いということも理解できているだろう。



エリザベートには私に何かがあったらすぐに領地へ飛んで、指示書を渡すように言ってある。

こういう事態があることを見越してエリザベートとの繋がりを表に出さなかったのだ。

それに、私がヴァリエール公爵に屈したと見られるのは非常にまずいし、

ここは強気に出て挑発した方が、のちのち得になると考えたので、怖いのを我慢して、

「ゲルマニアでモンスター討伐や盗賊討伐などの実戦経験のあるこの私が、

 なぜ魔法の使えない無能なメイジが参加するような、お遊びの討伐ごっこに参加しなければならないのですか?」

と、はっきり言ってやった。

ヴァリエール公爵は怒りに震えていたように見えたが、さすがは国一番の名門の大貴族、
甘やかされて育ったボンボンじゃないと見えて、
下手をすれば戦争につながりかねない私への怒りを口に出すことはしなかったし、
魔法が飛んでくることもなかった。

まあ自分で手柄目当てに討伐に参加したんだから他人のせいにするのはお門違いだとは理解できていたのだろう。

「それにこれは、下級貴族にチャンスを与えてやるべき問題だと思いますよ。
 
 フーケを捕らえることで、出世の足がかりにしたい連中はいくらでもいるでしょうからね。
 
 そして、トリステインで起きた問題なのだから、ゲルマニア人の私よりトリステイン人が解決するべき問題でしょう。
 
 トリステインに有能な人がいないわけではないですし。
 
 他に話がないようならこれで失礼させてもらいますね。」

と言って部屋から出てきた。

まあこれは一応正論ではある。上に立つ者はできるだけ下の者にもチャンスを与えないと不満がたまってしまう。

でも一応今のところは無事に済んだがちょっと面白くない。



せっかく何かしてきたら、周りの窒素を液体にしてあげようかと思っていたのに…

液体窒素。これが私の対室内戦闘での切り札である。

空気中の約80%を占める窒素を液体に錬金することによって相手に冷気攻撃をする、

急に極低温の液体を掛けられてビックリした相手の詠唱を途絶えたところで、もっと殺傷力のある魔法を使う。

それが私の作戦だ。

手や顔など素肌を晒している部分に掛かってそのまま魔法の詠唱を続けるのが難しいし、

杖を手放す可能性や、目に入った場合そのまま失明の危険性もある。

それにもともと錬金の魔法は攻撃魔法としては使われないので、相手の警戒感も抑えやすい。

初めての相手には絶大な効果を与え、毒ガスなんかと違って相手を殺すことも無く、

室内でも私に被害が来ない安全な対応策だ。


まあ場合によっては相手の周りの二酸化炭素を一酸化炭素に錬金したりもするが…。





なんか不完全燃焼だ。


まあいいか。


もう少ししたら面白いこともあることだし、


それまで楽しみに待っていよう。




それから、ヴァリエール公爵がフーケ逮捕とルイズ解放に対する有力な情報に10万エキューの懸賞金をかけた事が知らされた。


ヴァリエール公爵の元にフーケからルイズの身代金100万エキューの要求書が届いていたらしい。

ルイズに100万エキューの価値があるんだろうか?

確かサイトがガリア戦の後で貰った小さな領地の収入が一年間で12000エキューだったはずだ。

ヴァリエール公爵の領地の一年間の収入は当然100万エキューを超えているが、これは部下の給与を含む経費を入れた数字だ。

まあ、貯蓄している分や先祖伝来のマジックアイテムや美術品なんかもあるので払えるだろう。

ヴァリエール公爵に経済的な打撃を与えるのは、私にとっても都合がいいことだし、

さっさと印象を好転させといた方が都合が良いので、



その日の夜に、フーケの情報の報奨金である10万エキューを貰いに行くことにした。



ヴァリエール公爵家に宛がわれた部屋に行き、面会を求めたら、しばらく待たされた後で部屋に通された。

部屋には公爵夫妻とエレオノールがいて、

私が入るなり、ヴァリエール公爵は苦虫を噛み潰したような顔で、

「私に何か用件があるのかね?」

と聞いてきた。

なんていうか、面会を断られる可能性もかなり高いだろうと思っていた。

ある程度好き嫌いを抑えて行動できるか…

直情径行で、はっきり言って行動の読みやすいルイズとは違って厄介である。

やっぱり、できるだけ失脚させるか取り込んだ方が良いなと思いつつ、 

「ヴァリエール公爵がフーケの情報に賞金をかけたと聞きましたので、賞金を得ようかと思いまして。」

と答えた。

ヴァリエール公爵は一瞬動揺が隠し切れなくなりそうになったが、威厳を何とか保ちつつ

「それはゲルマニアからの情報かね?」

と言った。

「いいえ、独自の情報です。」

と答えたが、ヴァリエール公爵はルイズの安否に繋がる情報かもしれないので、期待に満ちた視線を私に向けながら

「この間はあんなことを言った私のところに直接来るのだから、期待していいのだろうね?」

と言ったので、

「ええ。それでは

 ・徒歩で半日、馬で4時間の距離の場所にアジトがあるというのになぜそんなに早く都合がいい情報を得られたのか?
 
 ・基本的に農民は馬には乗れないので、アジトの廃屋に入っていくのを見たというならそれは真夜中のことである。
  なぜそんな時間にそんな場所にいたのか?
 
 ・黒ずくめの「男」だと確認できたのなら明かりを持っていたはずであるが、その明かりがフーケに見つからなかったのはなぜか?
  
 ・ミスロングビルの朝の居場所が不明なのはどうしてか?

 ・フーケのアジトとされた場所に破壊の杖がなかったのはなぜか?
 
 ・フーケとの戦闘中のミスロングビルの動向が不明なのはなぜか?
 
 ・オールドオスマンが自分の一存で身元の明らかでない平民のミスロングビルを雇ったのはなぜか?
 
 ・オールドオスマンが魔法の使えない、戦力としてはまったく役に立たないルイズを討伐隊に加えたのはなぜか?
 
 ・普通はせめて一人はお目付け役として教師を付けるはずなのにそれをしなかったのはなぜか?

 ・盗賊が入ったことをすぐに報告するべきだったのにしなかったのはなぜか?

 ・フーケ戦後のミスロングビルの動向が不明なのはなぜか?

 これらの疑問を全部まとめて考えてみると、ある1つの答えが浮かんでくるのですが、
 ヴァリエール公爵、貴方はどう思います?」

と、聞いてみた。

ヴァリエール公爵一家は唖然とした顔をしていたが、だんだん顔に怒りが浮かんできていた。

特に烈風のカリンの圧力はすさまじいものがある。

「君はいつから怪しいと思っていたのかね?」

と、震える声で聞かれたので、私は、ヴァリエール公爵に自分の優秀さを見せ付けるために

「そうですね、最初から怪しいとは思っていました。

 だからミスヴァリエールの参加にも遠回しに反対しましたよ。
 
 しかし、本人はまったく聞かずに参加を強行しましたが…

 私としてもそんな危険なものに参加する気なんてまったく起きませんから。

 蛮勇って危険なだけなんですよね。
 
 それに今回の件はゲルマニアの貴族である私が触れるべき事柄では無いと思います。
 
 誰だって他国の宮廷闘争に巻き込まれるのは嫌じゃないですか?」

と答えた。

「宮廷闘争…     



 まさかこの間の態度は…」

ヴァリエール公爵はどこか納得できた様子で言った。

ハルゲギニアの様な封建社会では権力闘争は熾烈だ。貴族たちが得られるパイの大きさは短期間で増大することは無い。

なので、自分の取り分を多くしようとすれば、他人を蹴落としてその取り分を奪い取るのが1番簡単で、

常日頃から宮廷を中心としてよくやられていることだからだ。

それには相手の家族などの弱点を狙うことも珍しくは無い。

なのでヴァリエール公爵に私は敵ではないと誤解を誘うようにするために、

「あの場所でこんなことを言えるわけがないでしょう。

 ルイズもまだ捕らわれたままですし、オールドオスマンだっていたんですから。

 ことのからくりに気が付いていないのを装うためと、

 わざと挑発してその反応でヴァリエール公爵の器量を測ろうと思いましてね。

 まあ古典的な手法ですよ。

 基本的には事前準備もなしに他国の権力闘争には関わらないつもりだったんですけど、

 ヴァリエール公爵の、娘を誘拐されて、そのことで私に挑発されても表面上は冷静さを維持できる姿勢に感じ入りましてね、
 
 それで情報を提供することにしたんです。
 
 それと、この情報が私から出たことはご内密に。

 下手に巻き込まれたくは無いですから。」

と答えた。

「しかし何だってオールドオスマンはこんな事を…」

と、エレオノールが納得できていなさそうな顔で呟いたので、

「・金目当ての単独犯行。

 ・トリステインとゲルマニア・ガリアの関係悪化を狙った犯行で、黒幕はレコンキスタ。

 ・ヴァリエール公爵家へのダメージを狙った犯行で、黒幕はトリステイン王国内のヴァリエール公爵の政敵。

 理由なんていくらでも存在しますよ。」

と答えてやった。まあどれもハルゲギニアの貴族としては思いつきそうな理由ではある。


「有力な情報だというのは確かなので10万エキューはお支払いしよう。

 情報を伝えてくれたことには感謝する。

 だがすまないがしばらく家族だけにしてもらえないだろうか。それと、今君が話してくれたことは他言無用にして欲しい。」

と言われたので、

「ええ、わかりました」

と、了承してヴァリエール公爵家に宛がわれた部屋から出た。

きっと家族で今の情報の確認と、これからのことを話し合うのだろう。

さすがに犯人がオールドオスマンだと示唆されて動揺していた。

まあ、どういう結論になっても私は困らない。


公開されている情報から、この世界の貴族の常識に従って考えた結論を述べただけだから、



怪しまれる要素は何も無い。


後はヴァリエール公爵がオスマンの目的と黒幕をどう判断するかか…。






挑発した事だってそれなりに納得できる理由を与えてあげたから、もうそんなに私に対する悪感情は無いだろう。

あの場でオスマンが怪しいなんて言われるよりはルイズの安全性を比較すると遥かに上だ。

私に抱いていた悪感情はフーケとオスマンに向かっていることだろう。




それにルイズの婚約ネタもオスマンを含む反ヴァリエール公爵派の貴族が流したものだと思ってくれたら助かる。




まあでもこれで、ヴァリエール公爵が私に対してどうでるかな?

今回の一件でわざとヴァリエール公爵側に付いたと思わせるような言動を取ったから、

計算高くて用心深いが、それなりに役に立つ取引相手とでも思ってくれるといいな。


ルイズが無事に帰ってこれた場合に、

自分が近くにいて守ってやれない魔法学院にいるルイズのことを対価込みで頼まれたりするととても好都合だ。

何の遠慮もなしにルイズの行動に干渉できる。




どちらにしてもルイズでは私に対抗できないとははっきり理解したはずなので、魔法学院にいる間は露骨には敵対してこないだろう。

そしてその2年弱の期間さえあれば、アンリエッタ王女とレコンキスタを使ってトリステイン貴族の力を大幅に削ぐことも難しくは無い。



ルイズがこの一件で死んだとしても復讐の対象としての憎悪はまずはオスマンに向かうはずだ。

そして、他に黒幕がいないか探している間にアルビオンの王党派を下したレコンキスタが攻めて来るだろう。

娘の敵討ちのために必死にレコンキスタと戦って、ヴァリエール公爵家の力を戦闘で使い果たしてくれると、

それ以後のゲルマニアによるトリステイン統治にとても都合がいい。

まあどちらにしても、アンリエッタ王女がアルプレヒト3世と結婚して、レコンキスタさえ倒せば、

ヴァリエール公爵家の利用価値もなくなるので、旧勢力の代表として政治的に葬り去ってやればいい。


結局ルイズは解放された。


ヴァリエール公爵が身代金を払ったらしい。


解放された場所はガリア国内だった。

ガリアならヴァリエール公爵も好き勝手は出来ないだろうし、トリステイン国内でやり取りするよりもずっと賢いと思える。

さすがは盗賊フーケだ。

ハルゲギニア世界では国際的な警察組織や犯人の引渡し条約なんかも無い。

しかも、ヴァリエール家の手勢がガリアで何かやった場合国際問題になってしまう。

失脚した旧オルレアン公派など金に困って裏社会に手を染めていて、条件次第では協力を得られそうなメイジも多い。

ガリア王国に討伐を願い出ても、他国で起きた事件の後始末をまじめにやってくれるとも思えないし、

ガリア王ジョゼフは弟殺しの無能王として評判の人物だ。

フーケにとっては学院が正式にルイズが誘拐されたということを王宮に伝えて、警備体制を強化する前に、

ルイズを連れてトリステイン国内から抜け出すのはさほど難しいことではなかったのだろう。

原作でもタルブで死にかけたワルドをアルビオンに極秘に運んでいた。


それともガリアに盗品の買戻しのための仲介組織でもあるのだろうか…。

確かに家宝なんかが盗まれた場合や、子供なんかが誘拐された場合、お金だけで済むならそれでいいと思う人間はそれなりに多いはずだ。

ハルゲギニアと違って警察機構がしっかりしていて、科学捜査なんかもある現代社会でさえ犯人に身代金を払うことはある。

そう考えたら双方の利害がそれなりに一致するからあってもおかしくは無いかもしれない。

まあ調べてみるかな…。



ヴァリエール公爵は私が情報を売った後、一旦は学院への追求を抑えて、独自に調査した結果、

この誘拐事件の犯人をオスマンだと確信して、まずはルイズの身の安全を確保したみたいだ。

確かに敵さえわかれば反撃の手段はいくらでもあるので、それなりに理にかなった方法ではある。

実行犯より命令した人間を処理する方が再犯防止という観点から見れば有効だし、

他に黒幕がいる可能性がある以上、人質を取られている間は、

おとなしく何も気が付いていないふりをしている方がルイズの安全面から考えると得策だ。



解放された後に事情聴取したルイズからはフーケに対する役に立つ情報はまったく引き出せなかったようだ。

水の秘薬でも使って眠らせておいたのだろう。

まあ自分の情報が引き出される危険があるなら解放はしないか…。




ルイズはしばらくの間ヴァリエール領で静養した後で魔法学院に戻ってきた。

ルイズは、意地・誇り・プライドその他、自分を形作っていたすべての物をフーケによって完膚なきまでに破壊されて、

ますます自分にあるただひとつの力である、公爵令嬢という身分にしがみつくようになった。




自分が無力な存在であるということ、他人は無償では自分を助けてはくれないし、あっさり見捨てられるということ、

両親が自分のために高額の身代金を払ったことで、両親や姉たちから自分が深く愛されているのだということを理解した結果だと思う。




サイトはルイズがいない間にシエスタとの仲を深めていた。

初々しい恋人同士に見える。

ケガをしたサイトをシエスタが看病したらしい。

シエスタは巨乳で美人だし、そんな相手に優しくされたら好きになるのは男としてはごく普通のことだろう。

しかも、もう1人の相手であるルイズは、気位が高く性格が悪いうえに婚約者持ちである。


なので、当然のことながら戻ってきたルイズとサイトの関係はきわめて悪化した。

ルイズにとって自分の所有物である使い魔が自分を助けもせずに、他の女と親しくなるのは許されない行為だったのだろう。


ルイズって女としての価値を磨かないくせに白馬の王子様願望が強すぎるから…。

それに、独占欲も強いし…。


その結果、ルイズの与える罰のせいで余計にサイトとシエスタとの仲が深まるルイズにとっての悪循環に陥っていた。



ルイズに婚約者がいることを教えてあげたのは大成功だった。

サイトもシエスタも恋人ができて幸せそうだし、


久しぶりに良いことをした。

一般的な男子高校生にとって、やらせてくれない貧乳ツンデレよりやらせてくれる巨乳メイドの方が良いに決まっている。

それにヴァリエール公爵夫妻やエレオノールだって、ルイズが平民なんかとくっつくよりは他の貴族の相手を見つけて欲しいことだろう。

気分がいいので二人が結婚したらご祝儀でも上げようと思った。


ルイズはオットーのことを考えていた。




自分が貴族としての名誉を守るためにフーケ討伐に立候補したのを馬鹿にして参加を断った相手。

しかも、そのことで学院のみんなに臆病者と誹られもせずに、私たちが失敗した次の日に、

フーケのゴーレムの倒し方の一例を公開したことによってみんなから褒め称えられている。

それに比べて私は身の程知らずとか、他人の功績を盗もうとしたとか軽蔑されている。

だれも私の気持ちなんかわかってくれない。


最初からゴーレムをなんとかする手を知っていたはずなのに教えてくれなかった相手。

私たちが失敗してフーケに殺されても自分には関係ないどうでもいいと思っていたに違いない。


父様から、ミスロングビルがフーケでオールドオスマンと初めからグルだったという話を聞いたとき、

最初はまったく信じられなかった。

でも、父様が言ったことを1つずつゆっくり考えていくと、確かにとても怪しいと思う。

そして、オットーはそのことも早い段階から理解していた。


オットーから無能だと言われて馬鹿にされたのはあのときが初めてだった。

あの時はすごく腹が立ったが、実際に何も出来ずに失敗して死にかけた。


父様が100万エキューもの大金を払ってくれなかったら殺されていただろう。


想いだけでは何も実現できないことも理解させられた。


力の前には、誇り、プライド、名誉など私が今までに大切だと思ってきたものがまったく価値を持たないということも理解させられた。


私がオットーに対して劣っているのは魔法の力だけではないということも理解させられた。


そして、ヴァリエール公爵家を陥れようとする者たちがいることも、

公爵令嬢という身分は上手く使いこなせさえすれば力になるが、

出来なければ他人の嫉妬を受けてマイナスになるということも理解させられた。


今まで魔法が出来ないということで散々馬鹿にされてきたが、

そんなもの本当の悪意と比べたら別にたいしたことじゃなかったということも理解させられた。


すごく悲しかったが、他人は私のことなんてどうでもいいと思っていることも理解させられた。

タバサは私が捕まっているにもかかわらず、キュルケとサイトだけを連れて逃げ出した。


平気で他人を殺そうとする人がいることも理解させられた。


今までは父様と母様が守ってくれていたが、大人になったら自分のことは自分で守らないといけない事も理解した。


でも、父様と母様、エレオノール姉様も私を愛してくれていることを知れて本当によかった。


ワルド子爵との婚約も私が嫌なら破棄しても良いと言ってくれた。


これからは父様たちに心配や迷惑をかけないように努力していこう。


そして、いつかオットーに私のことを認めさせてやる。


今の私は魔法が使えない。だけど、いろいろな情報を元に頭で考えることなら出来る。



ヴァリエール公爵家の三女であるこの私が、ゲルマニアの貴族なんかに負けっぱなしでいることは許されないのだから。


ルイズ解放後にヴァリエール公爵が猛反撃を開始した。


まずは、今回の魔法学院に対するフーケ襲撃事件で、貴族の子弟が多く住む学院の宝物庫を荒らされた、警備防犯上の不始末と、

王宮に報告をせず生徒だけを討伐に行かせ、なおかつ失敗し人質にとられるという不祥事などの責任を取らされてオスマンが逮捕された。


しかし、オールドオスマンがルイズ誘拐の黒幕だったっていうのは最後までヴァリエール公爵が公表しなかった。

これは、真相に気が付かないふりをして、オスマンを擁護する人間から真の黒幕を探し出すためという目的と、

さすがにこれが公になるとトリステイン魔法学院の国際的な信用がガクッと落ち、

また、国内で疑心暗鬼が起き、政争が活発化し、きたるレコンキスタのトリステイン侵攻に対抗できなくなって、

結果的には娘たちの安全を守れなくなるということから判断した苦渋の決断だと思う。



オスマンが逮捕された後、差し押さえられたオスマンの屋敷や、

魔法学院の私室の調査から、今回の事件の主犯であるという具体的な証拠が出なかったことも、

この判断を後押ししているはずだ。

オスマンの身分では状況証拠だけで拷問することなんてできはしないし、ましてや罪に問うこともできない。

なので、確実に罪に問えることで攻め立てたのだ。


別件逮捕なんていうのは現代でもあるから珍しくもなんとも無い。


使える手は何でも使う。政治家の鏡だ。



そして、オスマンを庇おうとしたマザリーニ枢機卿との仲が極度に悪化した。


マザリーニ枢機卿としては、魔法も使えない国の役に立たないルイズのことなどどうでもよく、

今回の不祥事には目をつぶってでも、他国にも名を知られた偉大なメイジである彼に魔法学院長の職務を続けさせた方が得だと考えたらしいが、

ルイズと幼馴染のアンリエッタ王女の影響と、

王国の司法を担うリッシュモン高等法院長が、トリステイン王国の力を弱めるのに丁度いいし、

ヴァリエール公爵に恩を売っておいたほうが得策だと判断し処分に賛成し、

さらには、フーケ討伐の準備をしている生徒の親たちが出来るだけ問題が大きくなった方が、

フーケを捕まえたときの手柄も大きくなると判断して運動した結果、



マザリーニ枢機卿の力ではオスマンを庇いきれなかったのだ。



もう1つ処分の決め手になった事柄はタバサを参加させたことである。

タバサの正体が、シャルロット・エレーヌ・オルレアンだと知った時はみんな唖然とした。

何を考えてこんな超危険人物にフーケ討伐なんか任せたのかと…。

彼女がもしも死んだら、ガリア王ジョゼフは表向き悲しみながら、影では大喜びし、

トリステイン王国にシャルロットの死の全責任を押し付け、

普段はジョゼフ派とオルレアン公派に分かれて纏まりの無いガリア王国が一致団結して攻めて来るではないか。

トリステイン王国を滅ぼす気なのかと…。

タバサがもしも死んでいた場合の未来を考え、関係者一同恐怖した。




その結果、




オールドオスマンは処刑された。彼の一族もまた、連座して処刑された。




この処分には優秀なメイジであるオールドオスマンを、中途半端な処分だけして生かしておいて、

レコンキスタに協力でもされたら困ったことになるという理性的な判断もおおいに関係している。

災いの元は根元から葬り去るのが正しい貴族としてのやり方だ。







オスマンは、魔法学院が留学生を受け入れる理由を真の意味で理解していなかった。

他国人を留学生として迎え入れるのは、総合的な国力低下が甚だしくメイジだけが自慢のトリステインが

自国のメイジの実力を見せて戦争を抑止するためであり、他国の貴族とのパイプを作って交渉ごとを円滑に進めるためであり、

少しでも他国の貴族にトリステインに愛着を持たせるためであり、

もしもの時の人質にするためである。

今回の一件で、もしも捕らえられたのがルイズではなく、キュルケやタバサであったならば、

トリステイン王国の存続に重大な危機をもたらしていたであろう。

この処分もまあきっと自業自得ってやつだと思う。




そしてヴァリエール公爵は、もともと仲のよくなかった政敵であるマザリーニ枢機卿が、

今回の事件の真の黒幕だという疑いを深めていくことになる。



他の教師たちも貴族としての身分と財産を剥奪された。



これは、ルイズが無事に戻って再び学院に行く以上、オスマンが雇った者たちを信用できなく、

近くにいてはまた狙われる危険性が高いと判断したヴァリエール公爵の必死の政治工作が原因である。


コルベールも首になったので、ゲルマニアに連れて行くいい口実ができたので、コルベールの研究室にいってみた。

学生たちによるフーケ討伐が大失敗に終わり、その結果、自分の正体を唯一知っていたオールドオスマンが処刑されて、

自分たちが貴族の資格を剥奪されたので、やっぱり落ち込んでいた。

まあ自分にも大被害が来たので仕方が無いが、後悔するぐらいなら、

ガンダールヴの能力を知りたいなんていう好奇心を出さずに、

自分も一緒に行けばよかったのにと思いつつ、

「これからのことが決まっていらっしゃらないのなら、

 もしよろしければ、うちの領地に面白そうなものがあるので、それの研究を一緒にやりませんか?」

と誘ってみた。


コルベールは一旦悩むような気配を見せた後で自分の過去の罪を告白し、

「私は、昔アカデミー実験小隊という所に在籍していた折、疫病が蔓延しているからという理由で、

 ダングルテールという村一帯を完全に焼き払えという命令を受けたことがある。

 そして、できるだけ犠牲を減らすためにその村を焼き払ったら、実は疫病でもなんでもなく、

 ただ上層部の人間がロマリアから賄賂を貰って、逃げ込んだ新教徒を始末するために仕組んだことだった。

 やった後で真相を知って後悔しても命は戻ってこない。

 だからこそもう破壊の力は使いたくなかったし、生徒たちに破壊以外の火の使い方を教えたかった…。」

と言ったので、

「で、それで先生が破壊の魔法を使いたくなかったから生徒だけで討伐に行かせ失敗し、

 その結果ルイズはフーケに捕らわれたわけですね。

 本当に後悔しているのなら、魔法学院なんかで隠遁生活なんか送らずに、
 
 虚偽の命令を出してダングルテールを廃墟にさせた黒幕を罰するべく動くべきだったのに…。

 その黒幕が今度は先生以外の人に同じような命令を出したら先生はどうするつもりなんですか?

 自分は関係ないから知らないふりをして見てますか?

 どんなに思いが正しくてもそれを押し通せる力がないと意味が無いんですよ…

 特に腐敗の激しいこのトリステインでは。」

と言ってみた。

相手にお説教するのは嫌いだがコルベールを引き抜くためには必要なことである。

私は普通は相手にどこが悪かったのかなんて自分に利益が無い限り教えてやらない。

「私は間違えていたのか…。」

コルベールは余計に落ち込んだように見えた。

「トリステインの平民とゲルマニアのうちの領の平民の暮らしぶりを比べてみたら、

 うちの領の平民たちは遥かにいい生活をしています。そして私はそのことを誇りに思っています。

 先生のおっしゃっていた誰にでも使うことが出来る魔法以外の力を使う装置が実用化されたら、

 もっと暮らしが豊かになることでしょう。そのためには先生の力が必要なんです。だから協力してください。」

といったところ、コルベールは暫し迷った後で、

「わかった。民衆の暮らしを豊かにすることがせめてもの罪滅ぼしになるのなら、私に出来ることなら協力しよう。」

と言いうちに来てくれることになった。

しかもコルベールの罪の証である火のルビーを預かった。


大成功だ~~~~~~~

キーアイテムの1つである火のルビーも手に入れたし、

コルベールも引き抜けたので、オストラント号も作ることが出来る。

領地に連れて行ったらゼロ戦を見せて、それからゼロ戦の形を真似た竹ひごと和紙とゴムでできた飛行機でも作って、

空を飛ばしてみたら、空を飛んだという伝説もあながち間違いでは無いと気が付くだろう。

特にエンジンを自力で開発しているから、ゼロ戦に積まれた栄がどれほど高性能な物か理解できるはずだ。

最悪サイトを連れて行って、ゼロ戦に乗せてみるのも良いかもしれない。

蒸気機関にオストラント号、う~~~~ん夢が広がる。

武器開発もレコンキスタの危険性を訴えて手伝ってもらおう。

ハルゲギニアの歴史上で聖地奪還運動は何度かあったが、さまざまな犠牲を払っても、

まったく目標を達成することができず、一部の特権商人以外の人々に不幸しかもたらさなかった。

なので、民の暮らしを守るためにレコンキスタと戦うといえば協力してくれるかもしれない。

というか今回のことを後悔しているはずなので、防衛戦になら絶対に協力してくれるだろう。

まあ、ゼロ戦にある新技術を見たら自分でも作ってみたくなりそうだから、そんなに心配しなくても良いかもしれないが…。



ああ、コルベールを引き抜いたらアニエスの復讐が成立しなくなるのか…。

まあどうでもいいか。

あの女程度の人材ならいくらでも代わりが居るし…。








最後に

「先生はルイズの使い魔のルーンを覚えてます?」

と聞いてみた。

「やっぱり君もあれが何だったか気がついていたのか…」

とコルベールは答えたので、

「伝説の始祖の使い魔ガンダールヴのルーンでしたね。

 なぜそんなものが今更、しかもゼロのルイズの使い魔として現れたのかは知りませんが…

 というかフーケに負けるガンダールヴが本物かどうかもわかりませんが…」

まあもうサイトとコルベールが接点を持つ事は無いかもしれないが、ガンダールヴはあらゆる武器を使いこなす使い魔である。

武器開発大好きな私としては、奇麗事でコルベールに武器開発させる口実は多いに越したことは無いのでと言ってやった。

コルベールが信じられないような感じで、

「私もそれが不思議なのだよ。

 ガンダールヴは始祖ブリミルが使役した伝説の使い魔だ。

 それが居たからこそ安全だと思ってミスヴァリエールたちを行かせたのに…。」

と答えたので、

「まあガンダールヴが現代に現れて、しかもフーケごとき敗れたなんて公の場で口に出すと異端として処刑されかねませんが…」

サイトがガンダールヴであるということを口止めする意味合いも込めて言った。

コルベールは顔を青ざめさせて

「確かに…。

 やはりこのことは内密にしておいた方が良いだろうな。」

と答えた。




ルイズが虚無属性だと言う情報はできるだけ内密にしておくべきだ。


他の教師たちも使えそうな人間はみんな我が家で雇う事にした。

せっかくの人材をレコンキスタに渡すのはまずかったし、自分の手駒も増強できて万々歳だ。

しおらしく、

「今までお世話になりありがとうございました。

 余計なおせっかいとは思いますが、もしよろしければ次の仕事が見つかるまでは我が家で働きませんか?

 そうですね、最低一年はいてもらわないと困りますが、それ以降だと良い仕事が見つかれば何時でも移ってかまいませんよ。」

と言うと、教師たちも自分たちから貴族の地位と財産を奪ったトリステインにはもう居たくないし、

これからの生活にも不安がいっぱいなので、誘った人間はみんな喜んで新たな生活の場所へ来てくれることとなった。

マザリーニ枢機卿やヴァリエール公爵から文句を言われたら、

レコンキスタの脅威を持ち出し、彼らに私の代わりにまともに生活できる職を与えてくれるならという条件付でだが、

その教師に相談し同意を得た後で、雇用する権利を譲り渡しても全然問題が無い。

私は人道的にお世話になった教師たちが生活に苦しむのを見ていられなくて、新たな職を世話しただけなのだから。

一旦王国として処分をした以上すぐに王国で雇うのはメンツにも関わるからできないだろうし、

レコンキスタに付かれても大変なことになるので、あまり表立っては非難できないはずだ。




学院の教師は一時的にアカデミーや軍の人間が代行することとなった。

魔法学院の教師という職は安全で割りの良い職業なので希望者も多い。

程なくして次の教師たちも決まることだろう。

トリステイン王国は他国に比べメイジの比率が高いから、生活の苦しい貴族など腐るほどいるのだから。



そして、貴族の子弟が多く集う場所という政治上の価値、トリスタニアに侵攻する時の拠点となり得る戦略上の価値、

宝物庫に魔法の宝物が入っているという戦術上の価値などが見直され、魔法学院の重要性が再確認された。、

そしてまた、もしもフーケが盗賊ではなくトリステイン王国に害をなすことが目的だったならば、

ゴーレムで寄宿舎を攻撃され、貴族の子弟である生徒たちにも多くの犠牲者が出ていた可能性が認識され、

オールドオスマンの二の舞にはなりたくないという保身的な意味合いも加わって、

魔法学院の警備が著しく強化された。


まあこれはレコンキスタから魔法学院を占領される可能性が減ったことを素直に喜ぶべきだろう。



学院の生徒たちもフーケを捕らえようと、コネを使って情報を集めいろいろ準備をしていたが、

ルイズ誘拐事件以降フーケの盗賊活動がパッタリと途絶えてしまったので、

フーケを捕らえる事は出来なかった。

みんなせっかく準備していたのに情報が入ってこなくてがっかりしていた。

なので、気晴らしにトリスタニアで酒盛りをした。

こういう細やかな作業が有能でも他人に敵意を抱かせず、上手く付き合うコツだ。

フーケについては、身代金の受け渡しの協力者がいて彼らと分割したとしても、

合計で100万エキューを手に入れていれば孤児院をしていても生活には困らないだろうから、

もう盗賊をやらないつもりなのか、それともヴァリエール公爵の手の者につかまったか、

レコンキスタに入ったかは不明だ。


フーケには出来るだけ逃げ切って欲しい。

オスマンが実は無関係だったなんてフーケが白状すると、問題にはならないだろうが、私にとってあんまり都合がよくないし、

ヴァリエール公爵の疑心暗鬼も解けてしまう恐れもある。

レコンキスタは所詮戦わなければいけない相手なので、裏社会のことに詳しいフーケなんかに入って欲しくない。




ゲルマニアからの情報では、アルプレヒト3世とアンリエッタ王女の婚姻による軍事同盟の話が進んでいるという。

アルビオンの王党派の命脈が尽きようとしているから、トリステイン王国としては已むに已まれぬ選択なのだろう。

ただ、この世界では原作と比べて進展が遅いような気がする。

トリステイン王国としては、唯一の直系の王位継承者であるアンリエッタを王国を守る同盟のためとはいえ、

ゲルマニアには嫁がせたくないはずなので、アルビオン王国の滅びが確定するまでは決断をしたくないのだろう。


物資を売って、私掠空賊2隻を新たに加えただけで、王党派が逆転できるなんて私も端から考えていなかった。

アルビオンからより多くの富を手に入れることと、より多くのアルビオン人を死に導くことで、

結果的にゲルマニアの犠牲を減らすという目的は達成できそうなので、

後はニューカッスルが落ちる直前に、最後の目標の仕上げにアルビオンへ向かおうと思う。


ただ、アンリエッタ王女が魔法学院に来て、ルイズ達にアルビオンに行くように頼んだ場合、

私も別口でアルビオンに向かったほうが良いだろう。

一緒に行くほど親しくは無いが、勝手にウェールズ皇太子を殺されてはたまらない。

彼にはまだやってもらうことがあるのだ。



利用できる相手は最後まで利用し尽くさないといけない。


オールドオスマンは処刑台の上でどうしてこんなことになってしまったのか考えていた。



魔法学院が土くれのフーケに襲われ、幾人ものスクウェアメイジによって固定化の魔法を掛けられ、

鉄壁の防御を誇っていたはずの宝物庫が破られ恩人の形見である破壊の杖が盗まれた。


誰もまともに当直をしてなかったことはもっての外だがいまさらそれを言っても始まるまい。

わし自身、メイジが大量に生活している魔法学院に賊が入るとは思っていなかった。


コルベール君が言った王宮に報告するなんてもちろん却下した。

そんなことをしたら最悪学院長を辞めさせられる可能性がある。

報告するなら学院の力だけで解決した後でないとまずい。

目撃した生徒の報告を聞いていると、秘書のミスロングビルがフーケの隠れ家の情報を獲て戻ってきた。

教師たちは臆病にも誰もフーケ討伐に名乗り出なかったので、しょうがないのでコルベール君にでも任せようかと思っていると、

ミスヴァリエール、ミスツェルプストー 、ミスタバサの三人が名乗りを上げた。

さすがに生徒にやらせるのはまずいと思ったが、ミスヴァリエールの使い魔の少年が伝説のガンダールヴだったことを思い出し、

彼女らに任せてみることにした。

始祖ブリミルが使役した様々な武器を使いこなしたという伝説の使い魔ガンダールヴ。

そんなものがなぜ魔法の使えないミスヴァリエールに召喚されたのかは疑問だが、その能力は本物じゃろう。

ドットとはいえメイジであるグラモンの子倅を剣を持つと大怪我をしたまま瞬く間に倒したのだから。


ガンダールヴならフーケ相手でも苦も無く勝てると思って学院で待っていると、

討伐に失敗してあろうことかミスヴァリエールがフーケに捕らえられたという情報が転がり込んできた。

ありえない…。

なぜ始祖が用いたという伝説の使い魔ガンダールヴが居たのにフーケごときに敗れるというのだ…。

使い魔の少年がどうなった聞いてみるとゴーレムにあっさり敗れたらしい…

しまった…あれはガンダールヴでは無かったのか…

本物のガンダールヴであったのならたかがトライアングルメイジであるフーケごときに敗れるはずが無い。

「始祖ブリミルの使い魔たち」に書いてあった記述が誤りじゃったのか…。

浮かれずにしっかりと能力を調べればよかった…

まずい…。

ミスヴァリエールが連れ去られたとなるともう隠し通すことはできない…。

魔法が使えない無能とはいえ、あれでもヴァリエール公爵家の娘じゃ、このままではどんな災いが降りかかってくるか…

なんとかして善後策を考えないと…



そして有効な策が思い浮かばないうちにこのことがヴァリエール公爵の耳に届き、彼らがやってきた…。

さすがに娘が誘拐されて怒り狂っており、しかもミスタヘーゼラーがわざわざ挑発する様な事を言ったので余計に荒れた。

普段の人付き合いのよいと言われている彼らしくも無い…。

ヴァリエール家と何か因縁でも有るのかもしれないが時と場所をわきまえて欲しいものじゃ…。



ミスタへーゲラー、彼はゲルマニアからの留学生でミスタバサと並ぶ同学年で最優秀なメイジ。

ミスタバサがシュヴァリエとして戦闘行為を行えるのに対して彼は研究者型、

売られている彼が作った水の秘薬を試しに飲んでみたことがあるが効果はしっかりあった。

あの若さであんな物を開発できるとは紛れも無く天才なのじゃろう。

しかも天才にありがちな唯我独尊な様子も無く同じ年頃の生徒たちとも親しくすごしている。

ただし、何を考えているのか本当のところは読めない。

そんな彼が今回のフーケ討伐は参加を断った。

ミスヴァリエールが足手まといになるので彼女が行くなら参加しないと言うもっともらしい理屈じゃったが、

コルベール君からの報告では彼もガンダールヴに気がついておるらしいとの事じゃった。

何を考えておるのかと不審に思っていると、フーケ討伐は失敗した。

もしや、彼が持っている本には本当のガンダールヴのルーンが書いてあって、

あの使い魔の少年がガンダールヴではないことにまで気がついていたのか…。


しかし、次の日からは都合がいいことに、ヴァリエール公爵は学院への追求を一旦抑えてミスヴァリエールを取り戻すことに全力を注ぎ始めた。

そして100万エキューという大金をもってミスヴァリエールはガリアで開放された。


頭が痛くなるような大金じゃったが、学院の責任もあるので教師たちにも負担させて、

一部は肩代わりしなければならないかと思案しているところで、

魔法学院の管理責任の追及という理由で、王宮からの衛士に拘束され王宮に監禁された。

そしてその後牢獄に移された。


生徒たちだけでフーケ討伐に行かせた理由について、

擁護してくれているマザリーニ枢機卿にガンダールヴの事を話そうかとも思ったのじゃが、

なぜすぐに報告しなかったのか突っ込まれるのもまずい。

ガンダールヴは宗教的に高い価値を持つから、それを私的に利用しようとしたと判断されると間違いなく首が飛ぶし、

さらに、もっとまずいのはあれがたかがトライアングルメイジであるフーケごときに敗れたことじゃ。

ロマリアの宗教庁としても、トリステイン王家としても始祖の威信に傷がつくような事は絶対に認められるわけが無いから、

知っている者全員を始末してなかった事にして済ませる危険性が高い。

どちらかというと報告した方がまずい事になると判断して黙っていることにした。



ミスタバサやミスツェルプストーの討伐への参加を認めたのもまずかった。

彼女達の身に何かが起こったら、母国との戦争の危険性がある。

特にミスタバサが死ねばガリアのジョゼフ派は嬉々として、オルレアン派は怒り狂いながら攻め寄せてくるじゃろう。

ガンダールヴに目が眩んでいたとはいえまずいことをしてしもうた。

せめてトリステインの貴族だけで行かしておけばもっと有利だったじゃろうに…。



最終的に、ヴァリエール公爵がマザリーニ枢機卿を押し切り、わしは今回の事で処刑される事が決まった…

ミスヴァリエールとワルド子爵の婚約の一件でヴァリエール公爵の人気は落ちていたはいたが、

ロマリア人のマザリーニ枢機卿も貴族連中に人気はない、それにわしを破滅させて、

わしの持っている利権を奪おうとする連中がヴァリエール公爵に味方したので、

模様眺めをしていた風見鶏たちも処分に賛成したので、どうにもならんかった。



フーケ討伐に参加したミスロングビルの行方は王宮でも調べさせたが結局わからなかったようじゃ。

今考えてみると、彼女はフーケの仲間であらかじめ情報を仕入れるために入り込んだのかも知れん。

女の色香に騙されて破滅するとは…。

せめて一回ぐらいはやっておくんじゃった。




まあ今更じたばたしてもしょうがない。

十分に長く生きた事じゃし、せめて最後は貴族らしく見苦しくない立派な最後を遂げよう。

わしがおとなしく処刑されれば拘束されている一族のものは恩赦を出してくれるそうじゃし…。




そして、オールドオスマンの命の炎は消えた。

もちろん一族のものに恩赦を出すと言うのはオスマンにおとなしく処刑させるための方便であり、

オスマンの処刑後まとめて処刑された。



[10764] 旧版 原作開始 平凡な日常編 (1~7)
Name: TNT◆5c31f948 ID:70f657a4
Date: 2010/11/09 21:34
なぜか今の時期になってモット伯のイベントが起きた。

学院の教師たちの処分などで王宮からの使者として学院に頻繁に来ていたので、それでシエスタに目を付けたのだろう。

この世界のことに無知なサイトはデルフが居なかったので、

「モット伯の所でメイドとして雇われる=妾になる」

という構図を知るのが遅れたが、学院の他のメイドからそのことを聞いて、

血相を変えて対応策も考えずにモット伯の屋敷へ乗り込んだ。

まともな武器も持たずに…

というか、手に入れた武器がフーケ戦で壊れたから持ってないのか…。


ああでも、原作とは違ってシエスタとは恋人同士であるから、恋人を助けるための行動だと考えたらそんなにおかしくないのか…。

勇敢な行動で美しい愛情だと言えるだろう。ここがハルゲギニア世界のトリステイン王国でさえなかったら。

相手を殺さないように手加減した挙句、モット伯の屋敷で雇われていたメイジの魔法で捕らえられ、

衛士に半殺しにされた後で、結局アニメ版の通り、

キュルケがモット伯に「召喚されし書物」を渡したことで、公式には罪に問われることは無かったが、

ルイズは今回の一件がヴァリエール公爵家に被害が及ぶ可能性が高かったことから怒り狂った。

「使い魔がしでかしたことには主人が責任を取る。」

これはメイジとしての常識だが、サイトが何か問題を起こした場合、ヴァリエール公爵の政敵に利用されて、

自分だけでは済まず、結果的に両親や姉たちまで迷惑を被ることになるということを理解したらしい。

アニメ版では理解できてなかったみたいだから、誘拐された影響だろう。

フーケ事件でオスマンが一族もろとも皆殺しにされたのも見てるし、

少しは貴族社会というものを学んで成長しているみたいだ。


ルイズはサイトを鞭で気が済むまで打ち付けた後で、勝手なことが出来ないように馬小屋に鎖で繋いだ。

サイトがこの世界の常識を覚え、もう二度と勝手な事をしないと誓うまでまでこのままにしておくらしい。

私みたいに関係の無い立場で、どんな失敗をしても自分に被害が無ければ笑っていれば問題ないのと違って、

ルイズには飼い主としての責任があるから少しは同情する。




まあヴァリエール公爵家にダメージを与えることを目的とするなら、無知で無鉄砲なサイトを煽って、

その責任の追求をルイズに対して行えば、比較的簡単に目的を達成することが出来る。

ヴァリエール公爵家を陥れたい人間はいくらでもいる。

貴族社会での陰謀とは相手の隙を見つけ、弱いところから狙うものだ。

そこまで読んでの行動かどうかはわからないが、


操りやすい無知で愚かなルイズがどこかへいってしまったような気がして、なんだか悲しい。


感情だけでグダグダ言うのは簡単だけど、大事なものに優先順位をつけてその順番に従って選んでいくのは難しい。

タバサが母親を一番に選んだみたいに、ルイズも家族を選んだのかもしれない。


これからはルイズと相対するときは行動にそれなりの注意を払わなければいけないかも…。

もう少し箱庭の中に居させてあげるべきだったかもしれない…。





というかせっかく考えてた作戦がかなり高い確率でパーになった。

アンリエッタ王女とアルプレヒト3世の結婚後、ヴァリエール家とルイズが邪魔になったら、

ただの平民であるシエスタを親ゲルマニア派の適当な貴族にメイドとして雇わせ、

アルプレヒト3世かアンリエッタを行幸させて、さらには予め中立派やヴァリエール公爵派の貴族も証人となるように集めておいて、

それで無鉄砲に突っ込んで来るサイトを拘束。

皇族のいる貴族の屋敷を使い魔に襲撃させた罪によりルイズを反逆罪で処刑。

連座制に従ってヴァリエール公爵にも罪を問おうとし、

ヴァリエール公爵が反乱を起こそうとした瞬間に討伐軍を派遣して、傭兵などが集まる前に片付ける。

失敗した時のリスクがほとんど無い結構いい作戦だと思っていたのに…。

泣ける…。

下手な謀略は失敗したらこっちに被害が来る可能性もあるから、私は蚊帳の外でいられる謀略って結構考えるの大変なんだぞ。












キュルケはルイズのことを考えていた。


サイトを馬小屋に縛り付けたのには、さすがにやりすぎだと思って注意しようとすると、

「モット伯に取り成してくれて感謝しているわ。ありがとう。この埋め合わせは何時かするわ。

 でもキュルケ、貴女だったら自分の使い魔のせいで実家がお取り潰しなんかになっても耐えられるの?」

とうんざりしたような顔で聞いてきた。さすがに話が飛びすぎるので

「それはどういう意味?」

と聞き返すと、

「政府の役人で貴族であるモット伯の屋敷に乗り込んでいって暴れるのはどう贔屓目に見ても犯罪だわ。

 明確にトリステイン王国の法を犯している。

 もしもモット伯が父様の政敵だった場合、このことを徹底的に利用しようとするでしょうね。

 使い魔がやったことには主人が責任を取らなくちゃいけないから、私は確実に罰せられる。

 私だけならまだいい。

 でも、それが私だけで終わるとも限らない。

 貴女だって知っているでしょう。

 フーケ事件でオールドオスマンだけじゃなく彼の一族まで皆殺しにされたことを。

 だから私は自分のことで家族には絶対に迷惑をかけたくないの。

 サイトにはこの国の常識をしっかりと教え込むわ。

 これはもう決めたことだからあなたが何をいっても変えないわよ。」


私は呆然とした。

ルイズは今までどちらかといえば子供っぽくて単純な子だった。

それがこんなことまで考えられるようになっているなんて…。

それにルイズからお礼を言われたのにも驚いた。いつもは反発ばっかりしていたのに…。

フーケに捕らわれたことがここまで彼女を変えてしまったのかと思うと悲しくなった。

このやり取りをオットーに話したら、

「なんであのルイズが覚醒してるんだ…。

 失敗したかもしれない…」

と唖然として呟いていた。 


シエスタの一件でのルイズの対応でサイトとルイズの関係が修復不可能なほど悪化した。

ルイズにとって大事なものは家族であり、たかが平民のメイドのことなんて考慮に値しない。

しかし、現代社会を生きるサイトにとっては、この世界の身分制や貴族間の熾烈な権力闘争は理解できないだろうし、

ルイズよりもこの世界で始めて優しくしてくれた、現在の恋人であるシエスタの方が大事だ。

助けに行くのは当然の事かもしれない。

だけど、日本でも他人の家に武器を持って押し入ったら犯罪か…。

今回の件も力関係に差があったとしてもシエスタも一応は納得させられて行っている訳で…。

日本的な価値観に従うのなら、普通は武器を持って他人の屋敷に押しかけたりはしないし、

トリステインの価値観に従うのなら平民は貴族に従うものだ。

なんていうか、サイトは行動に思想的一貫性が無い。

日本人なら日本の法律と常識に則って、もしくはここハルゲギニアの常識に則って行動すれば良いものを、

常に行き当たりばったりで、その場の思いつきで短絡的な行動をしている。

しかも、ガンダールヴのルーンには人を凶暴化させる効果があるか、暴力的な行動を行っている。

それともサイト自体が今までに無かった力を手にいれて暴走しているだけか…。

どちらにしても頭に脳みそが入っているのか疑いたくなるほど単純馬鹿だな…。



そうでもないとあの原作ルイズのために命なんか掛けないか…。

でもこんなにルイズとの関係が険悪な状態でガンダールヴの力を出せるんだろうか?

あれって主人を守るという想いによって力が増幅されるから今のサイトじゃワルドには勝てないだろうな…。

それともルーンに主人が危機に陥ったら、主人に対する無死の愛情でも注げるようになる効果でも付いているんだろうか?

ガンダールヴのルーンの影響を調べるのも結構面白そうな研究課題かもしれない。

ちょうどルイズを見つけたので、

「使い魔を馬小屋に繋いだんだって?」

と声を掛けた。

ルイズは機嫌の悪そうな声で、

「そうよ。あの馬鹿犬放し飼いにしておくと何をしでかすか分からないから…、

 トリステインの常識を覚えるまではこのままにしておくわ。

 でもまさかオットーあなたまで馬小屋に繋ぐのはかわいそうとか言わないわよね。」

と返してきた。

「別にそんなこと言わないよ。さすがに武器を持って貴族の屋敷を襲ったんじゃね…。

 擁護する余地が無いよ。ただ少しは成長したなと思って。

 昔のルイズじゃ、余計な感情と目先の事だけに捕らわれて、

 どこがまずいのか、自分にとって何が一番大切か理解できなかったはずだからね。」

ルイズは自分のことが認められたことがよほど嬉しいのか、すぐに機嫌を直し、

「私だって少しは成長しているのよ。いつまでも昔のままじゃないわ。

 それにしても、あいつ月が1つしかない所から来たとか言っていたけれど、

 いきなり貴族の屋敷に包丁を1つだけ持って乗り込むなんて、何を考えているのかしら…。

 今までいた場所が、よほど治安が悪い所だったのですぐに力で解決しようとするのかも…。

 まあいいわ、私の使い魔になったからには、しっかりとハルゲギニアの常識を躾けてあげるんだから。」

と決意も新たに述べた。

相変わらず単純なところは変わらないし、なんていうかこのままではサイトとは分かり合えないだろうなとは思いつつ、

一応ルイズとの関係を改善しておくのもこれからの事を考えると悪い事ではないし、

サイトももう少し洗脳したほうが面白いので、

「そういえば、なんであんな事をしたのか使い魔に聞いのかい?」

「親しいメイドが無理やりモット伯の屋敷で働く事になったので助けに行ったそうよ。」

「モット伯の所でメイドというと妾になるってことか。

 まあ助けに行くのは恋は盲目だと思えばわかるから良いんだけど、

 どうやって助けるのとか、助けてからどうするつもりだったとか考えてたんだろうか…。」

ルイズは不愉快そうに、

「さあ?聞いてないわ。やった事には変わりないし、私は実家に迷惑が掛かる行為が絶対に許せないの。」

と言った。

「成長したお祝い代わりに、ルイズの使い魔に何を考えてこんなことをしたのか聞いてみてあげようか?

 今はルイズが何を言っても感情的に反発するだけだし、メイジとしては使い魔が何を考えているのか知るのも悪くはないと思うんだ。

 私だって、このナベリウスが喋れたら何を考えているのか聞いてみたい気もするし、ルイズの使い魔はせっかく喋れるんだから、
 
 一応どうしてこんな問題を起こしたのか知っておくのも悪くないんじゃないかな?

 他人に物を教える時は相手のレベルをまず知ってから、そのレベルに合わせてやった方が効率が良いだろう?

 それと同じことさ。

 それにまずは自分がやった事がどれだけ無謀で周りに迷惑をかけることか理解させないと繰り返すような気がするんだよね。

 ギーシュとの決闘でもなぜか止められても無茶ばっかりしてたし…。」

と言ったら、ルイズはちょっと考えてから、

「それもそうかもしれないわね。やっぱりオットーっていろいろ考えているのね。

 じゃあお願いできるかしら。今度何かで埋め合わせをするわ。」

と機嫌よく答えたので、サイトに話しかけてみる事にした。

ルイズが原作より賢くなったならそういう対応に変えればいいだけだ。

こっちのルイズのほうが感情だけで行動しない分、扱いやすくもある。

私は別にルイズやヴァリエール家が憎い訳では無いのだ。

お互いに利益が出るように協力できるならそれはそれで問題ない。

というか、もう少しルイズとサイトのことをもっとよく知らないと有効な手を打てない。

下手な事をやって自分に被害が来るぐらいなら何もやらない方がましだ。

サイトも最後の最後の手段として場合によっては殺してルイズに再召喚させることも考えないと…。

別に平賀才人が必要なのではなく、始祖の使い魔であるガンダールヴが必要なだけなのだから。

まあでもそうならないで良い事を祈るけど…。


平賀才人はなんでこんな事になったのだろうかと考えていた。




ノートパソコンを修理して、うちに帰る途中で突然現れた光る鏡のようなものをくぐってみると、

ファンタジー世界に連れてこられた。

そしてそこに居たルイズという女にいきなりキスをされて使い魔にされた。

もとの世界に戻る方法は無いらしい。

どうしようもないのでしばらく使い魔をやってやる事にしたが、ルイズは顔は可愛いけど性格は最悪だ。

床で眠らせるし、食事は貧しいスープと少量のパンだけ、しかも目の前で豪華な食事を食べる。

目の前で着替えるし、下着の洗濯はやらせる。自分が魔法で失敗した後片付けを俺にやらせる。

ちょっといやみを言ったら食事を抜かれるし、すぐに暴力を振るう。キュルケと親しくすると嫌がる。

使い魔という名の奴隷扱いだ。

ギーシュの野郎と決闘した後で治療のための秘薬代を出してくれた事と看病してくれた事には感謝するが、

今回のことだけは許せねえ。

シエスタは貴族に無理やり妾にされそうになったんだから助けに行って何が悪いんだ…

どうして貴族だからといって平民のささやかな幸せを踏みにじる事ができるんだ…

どうしてあんなに酷い事ができるんだ…

シエスタを手篭めにしたモット伯っていうやつも、それを許しているこの国も、貴族たちもみんな許せねえ。

ルイズも俺はシエスタを助けるために正しいことをしたのに、まったく分かってくれないで、

動物みたいに馬小屋に繋ぐなんて絶対に許せねえ。

俺は人間なんだ!!。





それにしてもシエスタは大丈夫だろうか…。

キュルケがモット伯とかいうやつにエロ本を渡してくれたから開放はされたけど、

しばらくは実家に居てから学院に戻ってくると言ってタルブの村ってところに帰っちまった。

早く見舞いに行ってシエスタを慰めて励ましてやりてえ。

今度こそは絶対にシエスタを離さないで守ってやりてえ。

というか何でエロ本なんかこんなところにあるんだ?

というよりエロ本があるくらいなら、他にも地球の物があって、もしかしたら地球に帰れる方法があるかもしれない…。


そんなことを考えていると、

「へ~、ルイズのやつ今回はやっぱり本気で怒ってるんだ。」

という声が聞こえてきた。確かこの声はオットーとかいうやつの声だったと思う。



オットー。

確か、キュルケと同じゲルマニアからの留学生で、フーケ討伐に行くときにキュルケが一緒にいこうと誘ったら、

ルイズのことを無能だと鼻で笑ってルイズが行くなら行かないと参加を断った相手。

そして、ゴーレムの倒し方を知っていたにもかかわらず俺たちには教えてくれなかった。

そのせいで失敗し、俺は怪我をして、ルイズはフーケに捕らわれた。今更ルイズのことなんてどうでもいい。

その時はむかつくやつだと思っていたが、シエスタや食堂のみんなに聞いたところによると、無理難題を言わないし、

たまにチップもくれたりするので、このトリステインの貴族と比べるとだいぶましだそうだ。














「なんのようだよ。」

サイトに話しかけると機嫌の悪そうな声が帰ってきた。

まああんな事があって、しかも自分が馬小屋に鎖で繋がれて機嫌のいい人間なんていないか…。

「包丁を持って何も考えずにモット伯の屋敷を襲撃した馬鹿を見に来ただけだよ。」

と言うとサイトは激怒したみたいで

「シエスタを助けに行って何が悪いって言うんだ!!。」

と怒鳴った。

相変わらず予想通りの対応をしてくれる。なので、追い詰めてみようと

「で、もしも助けるのが成功したとしてそれからどうするんだい?

 貴族の屋敷を襲った重犯罪人としてすぐに王国中で手配され、追っ手が掛かると思うんだが、

 それから逃げ切るための対応策とか聞かせて欲しいな。確か君はルイズから召喚されたばかりでこの国のことには詳しくなかったはずだよね。

 ついでに言うと、あのメイドも君と一緒に付いて行くとは限らないよ。

 だって貴族の屋敷を襲った平民と一緒に逃げるような事をしたらまず間違いなく家族も見せしめに全員処刑されるはずだからね。」

とサイトが行った事の馬鹿さ加減を突きつけてみた。

案の定自分がしでかした事の重要性に気がついてなかったらしく絶句している。

自分の行動がどういう結果をもたらすか考えられないから、原作でも成果が自分の利益としては碌に帰ってこないんだと思いつつ、

サイトが反応するのを待った。

しばらくしてからサイトは声を絞り出すように

「俺はただシエスタを助けたかっただけで…。」

 じゃあどうすりゃよかったっていうんだ…。」

と、呟いた。

「あのメイドのように平民らしくおとなしく諦めるか、ルイズの慈悲にすがるしかないと思うよ。

 ここトリステイン王国では平民は貴族の奴隷のようなものだからね。平民は貴族に逆らえないのさ。

 ルイズや同じ平民たちに教わらなかったのかい?」

はっきり現状を認識させてあげたので、

「同じ人間なのにどうして…」

などと言っている。

地球でもちょっと昔までは貴族が平民を虐げていたし、というか今でも貴族もどきの特権階級がそれ以外の人間を虐げている国はある。

というか、メイジと平民が同じ人間と言う認識も少しおかしい。

姿かたちが同じなので認識しにくいが、間違いなくメイジの総合的な能力は平民よりも上だ。

というか、種族として劣っている部分が明記されていない以上、魔法が使えるというアドバンテージだけがある状態だ。

そしてその魔法こそがハルゲギニア世界の技術の根幹を支えている。

もしもメイジがいなくなったらハルゲギニア世界の文明レベルは一気に下降してしまう事だろう。

まあだからといって平民を虐待する事を良しとはしないが、平等では有り得ないということもきちんと認識すべきだ。

現代日本だって銘柄和牛は高い値段で、輸入牛は安い値段で売られている。それと同じ事だ。

これが全部同じ値段で売らないといけなくなったら経済が大変な事になるだろう。

理想的なのは誰でもできる仕事は優秀な平民にもやらせ、

メイジにしかできない仕事をメイジがやるようになれば社会ももっと発達していくだろう。

地球みたいに肌の色とかいう能力とまったくかかわりの無い物で差別するよりもよっぽど健全と言える。

さてこれからが本番だ。どうやってサイトを取り込もうかな?


正直シエスタと一緒に人間らしい暮らしをさせてやると言えばあっさり引き抜けそうな気はしていたが、

それをやるとルイズとの仲が決定的に悪化する。

ルイズと敵対する事はまだ決まっていないし、それに他人の使い魔を奪い取るのは貴族としてのルール違反だ。

一応他人の目を気にする私としてはそんな周りに顰蹙を買うような真似はやりたくも無い。

というか今のままルイズに仕えさせるけど、いざという時にはこっちに引き抜けるという関係が理想だ。



やっぱりまずはトリステイン王国に嫌悪感を抱かせ、平民でも貴族に成れるゲルマニアに親近感を持たせることから始めることにした。

「まあ貴族だったら人間で、それ以外は家畜と一緒っていうのがトリステインの主流な考え方だからね。

 その考えが気に入らなくても王国と貴族の力で押しつぶされてそれで終わりさ。

 君もメイジの力は理解しただろう?

 それに誰もが自分の既得権益は手放したくないものなのでね。

 まあ、平民でも金さえ払えれば貴族になれるわが祖国ゲルマニアはまた違うんだけど…。」

サイトはちょっと考えた後で沈んだ声で

「じゃあどうすればいいんだよう…。

 このトリステイン王国が平民が暮らしやすい国になる事は無いのかよ…。」

と言っている。

「そうだね~、昔、書物で呼んだことがある。はるか遠くの国々でのことだが、そこで戦争があった。

 いくつもの同盟関係が複雑に絡み合いちょっとした火種から周りの国々の大部分を巻き込む大戦争になったのだ。

 激しい戦いのさなか生活に必要な物資の不足からその中の1つの国では反乱が起き最終的に国王一家は処刑され、

 貴族は今まで持っていた富と権力を奪われ、民衆の代表者による新たな政府ができ、もうこれ以上戦いを続けないために

 敵国と単独で講和をした。しかし、その他の国々は戦いを止めなかったので戦いは数年間続いた。

 戦争の終結後、敗れた国々では王政が廃止され、また、戦争に参加したすべての国々でこの戦いの影響で女性や虐げられていた人たちの

 権利が大幅に認められるようになった。」

「似たような話を聞いたことがある。」

 そりゃあ地球の第1次世界大戦の話に適当な解釈を加えて分かりやすくしたものだから知ってても不思議はないし、

 理解もしやすいだろうと思いながら話を進める。

「そうだね、この国だったら戦争で一旗挙げたいと思っている馬鹿なメイジたちが死ねば死ぬほど平民の立場は強化されるだろうね。

 平民を押さえつけるだけの力を失い、また国力を維持するために平民にも今までメイジがやっていた仕事をやらせなければならなくなる。

 そしてなにより非生産人口が減れば減るほど搾取される量も減る。

 簡単に言えば千人で1人を養うのと10人養うのではどっちが楽かってことかな。

 貴族が減れば減るほど平民にとっては有利な状況になる。

 まあ最低でもゲルマニアと同じくらいのメイジの比率になったらだいぶ住みやすい国になると思うよ。」

「俺に貴族を殺してまわれというのか…」

サイトは絶句したように呟いた。

そこで笑いながら否定する

「まさか~。そんなことは言わないよ。というかそれだけの力があるならフーケ討伐は成功させただろうし、

 モット伯の屋敷でも捕まる事は無かったはずだ。

 ただ、このトリステイン王国で平民の地位が上がるとしたらそれぐらいのことが無い限り無理って事さ。

 まあそうだね、君にできる事と言ったら、ただ戦争に参加したり戦争をしているトリステイン王国の貴族を助けたりしない事ぐらいじゃないかな?

 戦いたいやつらには勝手に殺し合いをやらせておけばいい。自分たちで数を減らしてくれるさ。」

「でも戦争なんてあるはずが…。」

「ところがそうでもないのさ。今アルビオン王国でレコンキスタという反乱勢力が国王に勝利しようとしている。

 そして、このレコンキスタがアルビオンを抑えたらトリステインに攻め込んでくると言うのがもっぱらの噂さ。

 ただし、貴族同士の戦争は捕虜を取って身代金に換えるのが普通だから、

 無駄な期待はせずにゲルマニアにでも移住した方が簡単だろうね。」

サイトにゲルマニアに対する興味を持たせることに成功したようで、

「ルイズも言っていたが、平民でもお金を払えば貴族に成れるってどういうことなんだ?」

と聞いてきた。

「ゲルマニアはトリステインと違って領土が広いからね。それに新興国だから伝統なんかよりも利益を求めている。

 だからこそ他国で虐げられている優秀な平民を取り込んで国力の増強をしたいのさ。

 金を稼げるという事はそれだけのアイディアと実行力があるっていう事だからね。

 だからこそそういう人間はまともな人間扱いをしてもらいたくてゲルマニアにやってくる。

 それに魔法を使わなくても出来る事をわざわざメイジがする必要は無いさ。

 メイジにはメイジにしか出来ない事があるから適材適所でやっていけばいいと思うんだ。」

サイトは真剣に、、

「もしかしたら俺でも頑張ればゲルマニアだったら貴族になれるのか?

 そしたら今度こそシエスタを守ってやれるのか?」

なんて事を聞いてくる。今度こそ恋人のシエスタを守ってやりたくて必死なのだろう。

上手い具合にシエスタという枷が出来てよかったと思いつつさらに話を続けていく事にした。


ちょっと考えた振りをして、

「貴族に成るには金が必要だけど、君には金を稼ぐ技術はあるのかい?

 ギーシュに勝ったのは見たからそれなりに剣は使えるみたいだけど…。

 はっきり言ってトリステインで手柄を立てても身分制度が厳しいから平民だと碌な褒賞は無いよ。」

サイトは残念そうに

「俺はまだ学生だから金を稼ぐ技術は…。

 でもシエスタを守るためならなんだってやる。

 剣はなんか持ったらいきなり体が軽くなって使えるようになったんだ。」

と言った。ようやくガンダールヴ関係に入ってきたので、内心のワクワクを押し殺しつつ、 

「へ~。素人なのに剣を持ったら体が軽くなって使える様になったか…。

 多分使い魔のルーンの影響だと思うけど面白いな。今度調べさせてくれないかい?」

と言うと、なんか歓びが隠し切れず、マッドっぽさがサイトにも伝わったらしく、ちょっと引き気味になられた。

なのであわてて、

「別に人体実験とかしたりしないし、そんなに痛い事もしないから。

 ただ、いろんな武器を持たせて使える様になるのが剣だけなのか、それとも他の武器もなのか知りたいだけだよ。今のところは。」

と言った。もちろん最後の今のところはというのは聞きとれないぐらい小さな声であるが…。



サイトの有効な使い道、それはガンダールヴの力を兵器開発に利用する事である。

ゼロ戦の操縦桿を握ったり、スイッチに触れただけで、ゼロ戦の状態や各部の構造や情報が頭の中に入ってくる。

そんなすごく便利なガンダールヴの能力を生かさない手は無い。

今開発中の新兵器の試射をサイトやらせ、どこが悪いのかを調べさせそれを元に改良を加える。

私が開発している爆弾も新型後装式大砲も成形炸薬弾も空飛ぶヘビくんシリーズのようなロケット系のもみんな武器だ、

きっとガンダールヴ能力が役に立つはずだ。

これらの新兵器は、戦場で使う戦術兵器としてのガンダールヴ以上に、私に更なる力と富をもたらしてくれる事だろう。

まあ、次の対レコンキスタ戦は、空飛ぶヘビくんを艦隊や対空砲として軍に供給する事ぐらいしかしないけど、アルビオンは竜騎士が有名なので、

それを七面鳥撃ちのような感覚で撃ち落せる新兵器は高く売れるはずだ。

これの1番良い点は、竜騎士を倒した功績が愉快なヘビくんを使った人間のものになる点だろう。

サイトとゼロ戦を使ったりすると手柄を独り占めしてしまうことになる。

はっきり言って功績の独り占めは他人の嫉妬と妬みを買う。なので、それはよろしくない。

それに比べて馬や飛竜でも手柄を立てるには一流のものが必要で、それは当然のように高いという事が認識されているから、

高い武器でも自分が手柄を立てるために必要だと判断すれば、みんな買ってくれる事だろう。

利益の一部を自分に、残りの利益と名誉を相手に譲ってあげればみんなそれなりに満足してくれるはずだ。

それに、レコンキスタに勝利してもハルゲギニア最強国であるガリアがまだ残っているのだから、私の存在価値はそれなりに維持できる。

まあ、兵器開発に役に立たなかったとしてもそんなに損失はない。

駄目もとでもやってみるだけの価値はある。


私はサイト個人のガンダールヴとしての直接的な戦闘能力はそこまで期待はしていない。

原作でサイトがが7万の大軍を一時足止めしたのは、指揮官であるメイジを負傷させる事によって戦場を混乱させたからである。

この世界の軍は指揮権の委譲などのシステムがしっかりとは出来上がっていないので、再編成までに時間が掛かる。

これを自分で再現しようと思ったら、ライフル銃を開発してスナイパーでも用いれば良い。だけど、これは善し悪しであるが…。

というか、そんな事をやった日には今度は自分が狙撃の危険性から身を守るのに苦労しなければならなくなってしまう。

まあ敵の進撃を止めるには上空から爆撃すれば大混乱を起こせる事が出来るからそっちの方がいいかな?


そしてサイトにゼロ戦を飛ばさせることによって、コルベールにオストラント号と水蒸気機関、即ち地球で言うところの蒸気機関を開発させる。

いくらコルベールでも実物のエンジンを稼動させない事には蒸気機関の開発は無理だろう。

そして、もちろん私にもゼロ戦を稼動させるなんてことは出来ない。

ならば出来る人間にやらせるだけの事だ。

蒸気機関があれば平民が小銃にライフリングを刻む作業もかなり楽になるというのが難点ではあるが…。

まあこれは技術流出に注意を払うぐらいしか有効な手段は無いな…。

平民に新兵器を持たせての戦力としての有効活用。

これ自体はすっごく良い事ではあるが、これをやると貴族であるメイジの力が相対的に弱まる。

メイジであり貴族であるこの私にとってはそれは出来るだけ避けなければいけないことだ。



結局サイトは自分の能力がどんなものかどうか知りたいという好奇心も手伝って私の実験に協力してくれる事になった。


兵器開発の実験を手伝わせることにしたので、サイトを使う許可をルイズから取らないといけない。

他人の使い魔を勝手に使うのは問題になりかねないのでそれは避けないといけないからだ。

まあ、ルイズの許可だが、これは結構簡単に得られるのではないかと思う。

ルイズはあれでも他人に認められたいという強い願望があるし、

使い魔であるサイトの能力を調べるという口実を前面に押し出せば、それなりに興味を持つことだろう。

これからサイトをどうするか考えるにしても、まずはサイトの能力を知っておかなければ話にならない。


それなりの能力を見せる事でルイズからのサイトへの待遇はかなり改善される事だろう。

能力自体はどんな武器でも自由に操るガンダールヴの能力で問題ない。

フーケ討伐に失敗したのはまともな武器が無かったからだという事にすれば良い。

いくらルイズでもサイトがガンダールヴの能力で狙撃しているところを見せられれば使い道はあるということぐらいは気がつくはずだ。

ただ、問題はやっぱりモット伯亭襲撃事件で見せた、サイトのこの世界の常識を弁えない無鉄砲さと、ギーシュとの決闘で見せた頑固さか…。

ルイズもヴァリエール家にまでとばっちりがいく可能性があれば許しはしないだろうから、

最低でもサイトが今回の一件をルイズに謝罪しないとサイトの扱いは変わらないか…。



「きちんと調べてみないとなんとも言えないけど、最低でも剣が使えるんだったら普通は傭兵が一般的だね。

 特に今はアルビオンで反乱が起こっているし、その後はレコンキスタも勢力を拡大するために、

 内部腐敗を起こしていて、1番攻め込みやすいトリステインに攻めてくるだろうから需要はあるだろうね。
 
 ただしさっきも言ったように、ここトリステインじゃあ平民は手柄を立てても碌に褒賞が無い。

 多分ゲルマニアのアルプレヒト3世閣下とトリステインのアンリエッタ王女の婚姻を持って、

 軍事同盟を結ぶという話になるはずだからゲルマニアも多分参戦する事になるだろうから、

 貴族に成りたいという目的のためならゲルマニアの方に雇われた方が良いだろうね。

 トリステインを憎んでいたとしてもレコンキスタに雇われるのは正直言ってあまりお勧めしない。」

「レコンキスタってどういう組織なんだ?」

「レコンキスタは簡単に言うと無能な王族を倒して有能な貴族たちによる共和制で国を治め、それにより聖地奪還運動を起こそうとする集団さ。

 共和制という考え方自体はそんなに嫌いな考えじゃないけど、レコンキスタの最終目標の聖地奪還運動がまずい。

 聖地奪還運動はこの6000年の間すべて失敗し、砂漠に多くの命と資産を捨ててきた。

 画期的な新技術でもない現状では、今までと同じ結末をたどって失敗する可能性が高いから、狂信的な宗教的情熱でもない限り馬鹿らしいからやりたくない。

 君だって貴族に成れたのは良いけど、その後戦場で使い潰されて砂漠で死ぬなんていう結末は遠慮したいだろう?

 それに外征は金が掛かる。レコンキスタに支配されたら、現状以上に多額の税を取られるようになるだろうね。

 一部の人間の狂信のせいで成功する見込みの薄い事業がなされ、多数の平民たちが今以上の重税で苦しむことになる。

 同じ平民の君としても望む未来じゃないだろう?」

一応サイトがトリステイン憎しの感情からレコンキスタに雇われるのはまずいので、

レコンキスタのマイナスのイメージを持つように仕向ける事にする。

まあ、レコンキスタが聖地奪還を目標に上げているのは本当だし、外征に金が掛かるのも本当だ。

もしも、サイトが食堂で平民たちに裏づけを取るだけの頭があっても、私の言っていることは嘘ではないのでまったく問題がない。

サイトは、

「ああ。この国は今でさえ平民が奴隷のように扱われているのに、聖地奪還なんてわけの分からない事の為にこれ以上搾取されるなんて、絶対に許せねえ。」

と力強く言い放った。

ルイズのところから離れて傭兵になる気満々のサイトに少し現実を見せるために

「ところで君は自分のために他人を殺す覚悟ができているのかい?

 モット伯の屋敷では誰も殺さなかったようだが、傭兵になるという事は敵を殺す覚悟が必要だ。

 安易な気持ちでいると周りの邪魔になるだけですぐに自分の命も失う事になるよ。」

と聞いてみた。

現代日本人であるサイトにとっては敵だとしても人を殺す事はタブーのはずだ。

原作では7万人を前にしてさえ出来るだけ殺さないようにしていたし、モット伯の屋敷でさえ誰も殺していない。

どんな返事が返ってくるか楽しみだ。


サイトは傭兵になるという事は、今まで日本人としての常識ではタブーだと思ってきた人殺しを行う必要があると気がついて呆然としていた。

そして、必死に言葉を振り絞るようにして、

「でも…、別に殺さなくても降参させるとか他に方法も…」

などど言っている。

「無いと思うよ。非メイジの傭兵が多額の報奨金を貰える手柄を立てようと思ったら敵の上級士官を倒すぐらいしかない。

 メイジを含む数多くの護衛に守られている彼らを倒して、それを手柄として周りに認めさせるには、

 混乱にまぎれて敵の魔法を受けないように注意しながら相手を殺し、証拠としてその首を持ち帰るぐらいしか私には思いつかない。

 まさか君は自分が多数のメイジを含む部隊のすべてを、たった一人で殺さずに無力化できるとは思っていないだろう。

 混戦の中で相手を殺さないように手加減して捕らえる事は、相手を殺す事よりも格段に難しいし、

 貴族同士でなら相手との決闘に勝利することによって身代金を手に入れることもできるだろうけど、

 平民の傭兵なんかと名誉ある一騎打ちをしてくれる貴族がいるわけもないからね。」

と、説明していくとサイトがますます落胆しているのが目に見えてわかる。



サイトは力なく首を振り、

「人を殺すなんて俺には無理だ…。だって人間は一度死んだらもう二度と生き返りはしないんだ…。

 シエスタを守るための力を手に入れるために貴族には成りたいけど、そのために人を殺すなんてやっぱり俺にはできない…。」

と声を絞り出すように呟いた。


サイトはモット伯邸襲撃事件で見せたように、それがどういう結果を招くか深く考えずに暴力的対応を取るくせに、

人は殺さないという中途半端に甘い対応しか取れないようでは、この世界では上手くやっていけないと思う。

モット伯邸襲撃事件でもあのような強硬手段を取るなら、出来る出来ないは別として、シエスタ以外の人間を皆殺しにして口封じをし、

屋敷にある財宝を奪って盗賊の仕業に見せかけるぐらいしないと、サイトの手配書が王国中に回ったり、

シエスタの家族が見せしめで処刑されたりするだけで事態をより悪化させるだけでまったく意味が無い。

自分の幸せの為なら他人はどうなっても良いと割り切れるようになれば、

この世界でもガンダールヴの力を利用して十分に生きていけるんだろうけど…。


なので、


「じゃあ、傭兵に成る以外のお金を稼ぐ方法を見つけるか、貴族に成るのを諦めてこれからもおとなしくルイズに従っていくしかないね。

 少なくてもルイズの使い魔であれば、ルイズ個人の所有物だと認識され、この国ではヴァリエール公爵家の威光があるから、

 平民である君でもある程度の身の安全が保障されるはずだよ。」 

と絶対に反発するような他の道も示してみた。


サイトは思惑通りに簡単に顔色を変え、

「あんなやつに従うなんて絶対に嫌だ。もともとあいつが俺をこんな所に召喚しなかったら俺は日本で平和に暮らせていたんだ。

 こんなことになっているのもすべてあいつの所為じゃないか。

 シエスタの件だってそうだ。俺たち平民をあいつは家畜ぐらいにしか思ってないんだ。」


「そりゃルイズにとっては、いくらでも代わりがいるただの学院のメイドが誰の妾になろうと、自分には関係の無いどうでも良い事だからね。

 それよりも、ここでは使い魔は主であるメイジ個人の所有物であるという常識がある以上、使い魔の不祥事の責任は主人が取る必要がある。

 だから、君がモット伯の屋敷を襲撃した事でヴァリエール家にどんな被害がいくかの方を心配するのは彼女にとって当然なことさ。

 普通の人間にとっては他人よりも身内の方が大事なのは当然だからね。」

「じゃああいつは悪くないと言うのか!!」

「別にそんなことは言ってないさ。

 ただ、彼女は彼女でトリステイン王国の貴族としての自分の利益を守るために行動しているというだけさ。

 その結果が君の利益とは一致していないどころか、親の力を使って君に一方的な犠牲を強いていることだとしてもね。

 それが嫌ならそれ以上の力で対抗するしかないし、自分の恋人を守りたければそれができるだけの力が必要。

 力が無ければただ黙って踏み躙られるのを耐えるか、逆らって殺されるかぐらいしか道は無い。


  弱肉強食


 自然界の掟だから別に理解できない概念じゃないだろう。

 しばらく一人で、これからどうするのか、君にとって何が一番大切かをじっくり考えると良いよ。 

 それと、ひとつだけ忠告。

 結論が出ないうちはおとなしくルイズに従っていた方が君のためだよ。

 確固たる信念があってならともかく、感情だけで動くとどんどん君にとって不利になっていくだけだから。

 それに、君も男なんだから好きな女のためになら我慢ぐらいできるだろう。

 じゃあ私は次の授業があるからこれで失礼するよ。」


と言ってその場から離れた。


21世紀の日本の教育を受けた私たちはハルゲギニア世界とは違う価値観を持っている。

それでも私は割り切って自分の利益のためにゲルマニアの貴族としてハルゲギニアの価値観で行動することにしているけれど、

サイトがどんな選択をするのか興味は尽きない。



[10764] 旧版 あとがき
Name: TNT◆5c31f948 ID:70f657a4
Date: 2010/11/09 21:35
原作前編終了時点でのあとがきのような物


原作との違い。

ルイズ

・オットーが流した噂のせいで原作以上に馬鹿にされている。
・その噂自体も耳に入っているので、どんなことをしても周囲に自分を認めさせないといけないと思っている。
・両親に対する不信感は増大している。
・ワルドに対する不信感も増大している。ただ、原作以上にワルドの愛を求めている。

キュルケ

・ほとんど変わらず。

タバサ

・危険なので干渉をしなかったので変わらず。

ギーシュ

・決闘フラグを維持するためにあまり関わらなかったので変わらず。

コルベール

・原作ではサイト以外は相手にしてくれなかった研究に興味を持つ生徒がいるのでご機嫌。
・デルフの素材調べなど興味深い研究もしている。

ヴァリエール公爵

・オットーの流した噂のせいで原作より名声は落ちている。

アルビオン王党派

・オットーの私掠空賊のおかげで原作よりは勢力が残っている。

レコンキスタ

・オットーの私掠空賊とぼったくり商売のせいで原作より勢力が減っている。
・アルビオン籍のフネを拿捕した場合、裏切り者として船員は皆殺しなので、空軍力の低下も激しい。

ゲルマニア帝国

・火薬は黒色火薬に塩素酸カリウムを混ぜたものを使い、爆発力が向上している。
・大砲は青銅砲から、長砲身の鉄製大砲に変わって射程と威力が向上している。



作者から



「ラノベの中に閉じ込められた私とNPCたち」を読んでいただいてありがとうございます。
一応これで原作前編が終了しました。

この話、実は最初に原作前その17を書きました。

原作を読んだときに疑問に思ったんですよね、
魔法の出来ないルイズをワルド子爵と婚約させるのはいくらなんでも配慮の無さ過ぎではないかと…

トリステイン貴族の価値観に従えば
「ヴァリエール公爵は、魔法ができない無能でお家の恥にしかならない娘であるルイズを修道院に押し込める代わりに、
 腰巾着だったワルド子爵へ無理やりに押し付けた。」
と考えられるのが普通でしょう。

そういったことを皆さんにも考えてもらいたかったので、
このことを悪意を持って広めるキャラであるオットーを作りました。






盗賊フーケ編終了時点でのあとがきのような物



原作との違い



ルイズ


・両親や姉たちが自分のことを愛してくれているのだと知って、精神的には少し安定した。

・フーケ討伐に失敗して自分の想いなんて力の前では無力なものである事を理解した。

・オットーに魔法以外の能力で劣っていると理解したので、自分ももう少し思慮深くなろうとしている。

・サイトの仲は険悪なままである。

・他人の悪意を思いっきり理解させられたので人間不信である。


キュルケ

・無謀にも参加したフーケ討伐に失敗してもう少し魔法の腕を上げなければと思っている。


タバサ

・フーケ討伐に失敗したせいで行動に対する慎重さが増している。


ギーシュたち未来の水精霊騎士隊メンバーその他

・土のゴーレムの倒し方を学んだ。ただし戦争では役に立たない。


コルベール

・貴族の資格を剥奪されて、学院の教師では無くなりオットーの領地でゼロ戦その他の研究をする。

・キュルケとのフラグが消滅。

・アニエスとの再会の可能性も大幅減。

・今まで取っていた自分の行動が間違っていた事を理解する。


学院の教師たち

・貴族の資格と財産を剥奪された。

・使えそうな人間はオットーに雇われている。


オールドオスマン

・処刑された。


ヴァリエール公爵

・ルイズへの愛は伝わったが、ルイズのフーケ討伐失敗で大損害。

・マザリーニ枢機卿をルイズ誘拐事件の黒幕ではないかと疑ってもいる。

・オスマンをマザリーニ枢機卿の反対を押し切り、処刑までもっていったので政治的権威は上がっている。


アルビオン王党派

・原作よりはましだがそろそろやばい。


レコンキスタ

・原作より金が無いので勢力は弱い。





作者より


「ラノベの中に閉じ込められた私とNPCたち」を読んでいただいてありがとうございます。

一応これで盗賊フーケ編が終了しました。

この話の主題は破壊の杖が無かった場合のフーケ討伐とその結果。

そして、失敗して今までの自分のすべてを完膚なきまでに破壊されたルイズの成長です。

ただし、ルイズは成長したとは言ってもプラス5、マイナス3のような感じで成長したところもあれば、逆に駄目になったところもあります。

でも総合的に判断すればプラスにはなっていることでしょう。

次回からは原作とは違った形で成長したルイズがでてきます。



[10764] 改訂版第01話 ゼロ魔世界に生まれて (旧原作開始前1~2相当)
Name: TNT◆5c31f948 ID:36970e2f
Date: 2010/10/03 23:02
目が覚めるとまったく知らない場所にいた。
ここはどこかを知ろうとして、起き上がろうとするが起き上がれない。
ビックリして声をあげようとしたが「おぎゃ~」という赤ん坊が泣く声しか聞こえなかった。
そしてすぐに知らない女の人が来て抱き上げられた。



なぜか私は赤ちゃんになっていた。



あまりの非現実的なことに一年と数ヶ月の間、虚脱状態になっていたのもしょうがないことだと思う。
その後ようやく気を取り直した。
というか、夢がいつまでたっても終わらないので、しょうがないから目が覚めるまでこのままいるしかないと諦めたのだ。
いったん諦めてしまうと案外簡単に開き直れるもので、私は子供ながらに周りからさまざまな情報を得ようと観察を開始した。



私の名前は

「オットー・フォン・ヘーゼラー」

というらしい、そしてゲルマニアという国の貴族だそうだ。
しかも魔法が使えるメイジという種族?らしい。
ってこれはゼロの使い魔という小説の設定じゃないか・・・
結構好きだった小説ではあるが、その世界に転生した夢まで見るとはあまりの自分の痛さに泣きたくなった。
そんなこんなで、結局のところ


「もういい、こうなったらこのゼロ魔世界で好き勝手に生きてやる~~~~」


と開き直ることにしたのだった。


まずは文字を覚えることから始めることにした。もちろん暇つぶしのためである。昔から読書は好きだった。
それに魔法を使ってみたいというのも大きな理由である。


「魔法」


現代人なら誰でも一度は必ず使ってみたいと思ったことがあるものだろう。
そのためには魔法の教本が読めなければいけないので、文字を読めるようになることは必須なのだ。



5歳でこの世界の文字を読めるようになった。
両親からは

「オットーは天才だ」

「さすがわれわれの息子だ」

「将来はきっと立派なメイジになるでしょう今から楽しみですわ」

「これでへーゲラー侯爵家も安泰ですわね」

などと天才扱いをされた。
親ばかなのだろうとは思う。
その後、まだ早いという両親にねだって、魔法の勉強をさせて貰えるようになった。
魔法の勉強はすごく楽しい。特に好きなのが炎系の攻撃魔法だ。
某自称美少女天才魔道師の気持ちがわかるほど、破壊の魔法は気持ちが良い。
自分にこんな危ない一面があったと知ってびっくりし悲しくなりはしたが・・・
いろいろ抑圧されていたものがあったんだなと今更ながら気がついた。



破壊の魔法と同じぐらい錬金の魔法も大好きだ。
化学が専門で、化学実験が好きだったのも影響してるんだろうけれど、この魔法はとてつもなく奥が深くて面白い。
コルベールがメンヌヴィルとの戦いで使ったような爆発を起こして大量殺掠を行うこともできるし、
土木工事に使って領地を富ませることもできる。
はっきり言って、「チートなんじゃないか」と思うぐらい便利な魔法である。
それに、私には科学知識というこのハルケギニア世界の人間は知らない裏技がある。
この知識を使うと錬金の魔法が従来に比べてすごく便利にそしてより簡単に使えるのだ。
例えばこの世界の火薬は黒色火薬である。これの材料はKNO3(硝酸カリウム) S(硫黄) C(木炭)であるが、
このうちのNO3がわざわざ硝石を採掘してこなくても、
空気中の窒素(N2)と酸素(O2)からいくらでも合成できるものであるということをこの世界では私しか知らない。

(分子の組み換えによる化学反応を行う錬金は、元素を他の元素に変える核分裂or核融合反応を行っている通常の錬金より簡単であるという設定にします。
 コルベールがゼロ戦のガソリンを錬金したときも似たような物質を用いてましたしそこまでおかしな設定ではないと思います)

それに、私にはピクリン酸{C6H2(OH)(NO2)3}やトリニトロトルエン{C6H2(CH3)(NO2)3}、
ニトログリセリン{C3H5(ONO2)3}といったもっと強力な火薬があるという知識と、
それの構造を知っているという計り知れないアドバンテージを持っている。
この世界でも物理攻撃は有効であるのは、戦争で大砲を使っていたり、ミョズニトニルンの反射の先住魔法をかけたゴーレムを、
サイトがタイガー戦車の砲撃という魔法と関係ない物理攻撃で倒したことから考えても明らかだろう。



そうやって趣味と実益を兼ねた魔法遊びをしていると7歳の時にラインメイジになった。
それを知ったいろいろな大人たちが褒めてくれる。もちろん両親は私の成長にもう大喜びだ。
日本でも幼くして勉強ができる天才児は周りから褒められるからきっとこれは魔法があるこの世界では普通のことなんだろう。
ただ精神はもう大人で、魔法の重要性を理解し、魔法に興味を持っているのだからこのくらいできるのは当然のことだと思う。
はっきり言って子供の遊びなんかするよりも、魔法の勉強をしていた方が楽しいのだ。
というか、子供になんて付き合っていられない。
むしろ私としては世間一般の子供たちとは違って、これ以上の精神の成長が無いのだから、
それと一緒に、魔法の能力の成長もしなくなるかも知れないことが問題である。
子供のころは天才児、大人になればただの凡人なんて逸話が当てはまったらたまらない。
せめて、トリステイン魔法学院の教師レベルで一応一流であるとされるトライアングルクラスにはなりたいと心から願った。



そういえば、ツェルプストー伯爵とその娘のキュルケとも会った。
キュルケは2歳年上でかわいい子ではあったのだが、私のことを子ども扱いしてかまってくるので困った。
ルイズをかまったり、タバサの面倒を見たりしてたし、結構母性本能が強いのではないかと思う。
「でもどうするかな・・・」
私は今後自分がどのような行動をとるのかを考えていた。
「キュルケと会ったことで原作と同年代というのがはっきりしたし、
 こうなれば私もキュルケと同じ年にトリステインの魔法学院に入った方がいいのだろうか・・・」
別に原作通りにしたり、二次創作などでよくあるように不幸なキャラを救ってハッピーエンドを目指したりする気はまったくない。


私の目的は自分自身がこの夢の中の世界で楽しく過ごす事だからだ。


それに私はトリステインという国はあまり好きではない。
トリステインの人間は、ゲルマニアの歴史が短いということで内心馬鹿にしているのだ。
しかも、トリステインは歴史しかない三流国なくせにプライドだけは高く、それでいて自分の責務を果たさない貴族が多い。
王族からして先王の死去以来新たな国王を立てないで、宰相のマザリーニ枢機卿に政治を任せきりで自分たちの責務を果たしていないし、
ルイズの父親で国一番の名門であるラ・ヴァリエール公爵も王家を助けようとすらしない。
本当に国を愛しているのならマザリーニ枢機卿と協力して国政に携わるか、
もしくはマザリーニ枢機卿を追い落として自分が中心となって行うかのどちらかを選ぶべきだったと思う。
外野から他人を批判だけしているというのが一番たちが悪い。
平民も有能な人は大体平民でも貴族になれるゲルマニアに来るので、残っているのは支配され搾取される現状をよしとする人間ばかりだ。
よくこんな国が六千年も続いているものだ。
「さすが宗教!! 奥が深い…」
そう思えるほどこのハルケギニア世界は歪である。
地球の歴史では、王家が無能なら家来が取って代わることがしばしばあった。
また、外敵に攻め滅ぼされることもよくあった。
でもここハルゲニアでは3つの王家とロマリアの教皇が、六千年もの期間君臨していて社会の変化がまるで無い。
どう考えても魔法という直接的な信仰の元を持っているブリミル教の影響としか思えなかった。



しかし、やっぱりゼロの使い魔本編というこのハルケギニア世界が変わるかもしれない大激動の時に、そばで見てられないというのは損であるとも思う。
考えてみてもらいたいトリステイン魔法学院での出来事はこれからの世界の行く末に大きくかかわってくる。
そのことがわかっているのに遠く離れたヴィンドボナの魔法学院で眺めていることが正しいのだろうか?


答えは断じて「否」である。


私は無力な存在ではないのだ。
メイジとしての技量は7歳の時点で10歳程度年上のメイジが通う、
トリステイン魔法学院の生徒の中でも上位に位置するラインであり、
金と人の使い方がわかっていて、なおかつ原作知識というチート級の能力まであるのだ。
積極的に


「自分」


にとって有利な情勢に持っていくべきだろう。
きっとヴィンドボナの魔法学院にいるよりも大きな利益をもたらしてくれるはずだ。
ただし、ゲルマニアのヴィンドボナの魔法学院にまったく通わないのもゲルマニアの貴族としては不味い。
学費にかなりの金がかかる各国の魔法学院は上級貴族の子女たちの社交界の入り口としても機能している。
魔法学院での生活は宮廷で常日頃行われる政治の前段階であり、生徒たちはそこで、生涯の友と言える相手を見つけていく。
また貴族としての他人との付き合い方を学んでいくのだ。
同級生の情報も貴重な財産になるだろう。
例えば、学院卒業後次に会った時に、学院時代に優秀だったものが無能になっていると思うだろうか?
性格が変わっていると思うだろうか?
趣味や好きなものは変わっていると思うだろうか?
もちろん思わない、よほどの事がない限り変わっていないと判断するだろう。
善し悪しにつけ学院での評価はこれから先の貴族としての一生に大きく関ってくるのだ。
なので、ゲルマニア人の私がトリステイン魔法学院に入学するということは、
将来、ゲルマニアの貴族として生きていくうえで重要な派閥形成に大きなマイナスをもたらしかねない負の面がある。
そういったデメリットをできるだけ抑えてトリステイン魔法学院に行く良い方法はないかと考えていると、
地球には交換留学という制度があったことを思い出した。
これだったら、留学する期間を2年生の時の1年間にすれば原作に関わるのも十分間に合うし、
ヴィンドボナ魔法学院での社交界デビューも果たせる。
しかも国主導で交換留学を行う以上それに選ばれるということは、
他国に出しても恥ずかしくない優秀な生徒である証であり、とても名誉なことだら、
それ以降のゲルマニア社交界での活動でもマイナスにはならないと思う。
なので、この交換留学という制度をゲルマニア皇帝アルプレヒト3世に受け入れてもらう方法と、
トリステイン魔法学院で楽しく過ごすために必要なものを考えてみると、

前者は皇帝ですら認める


「手柄」


を立てることである。

私は侯爵家の嫡男とはいえまだ10歳にすらなっていない子供であるから、
大人に自分の考えをまともに聞いてもらうにはそれなりの実績がいる。
ただ、最初の実績さえ作ってしまえば次も認められやすくなるので、どんどん難易度は下がっていく。

後者きっと


「お金」


である。

クルデンホルフ大公女のベアトリスがトリステイン魔法学院で好き勝手できたのもクルデンホルフ大公家の金の力だ。
やっぱり金の力はどこの世界でも強力だということなんだろう。
というわけで、トリステインで好き勝手に過ごす為にはお金を稼ぎへーゲラー侯爵家の財政を今以上に豊かにすることも必要である。
今でもかなり裕福なのだが、さすがに自分のわがままで無駄遣いをするのは気が引ける。
貴族の収入というのは結局のところ領民からの税から得ているのだ。あまり厳しく取り立てて領地が疲弊したら損である。

それにお小遣いだけじゃ足りない。


「貴族の娘に対して借金のかたプレイとかもやってみたいし・・・」


平民相手にならいくらでもできるが、プライドの高い女を自由にすることを想像する方が萌える。
私は外見年齢からはありえない欲望を胸に秘めながら、ゲルマニアという国の貴族社会で認められる手柄を立てる方法と金策の方法を考えていた。






1年ぶりの投稿にもかかわらず読んでくださった方、感想を書いてくださった方本当にありがとうございます。
このまま先に進めて行こうとも思いましたが、1年たって読み返してみるといろいろと気になるところがたくさん目に付くので先に改訂版を投稿しようと思います。
最低でも週一回は投稿する予定でいきたいと思っていますのでこれからもよろしくお願いします。




[10764] 改訂版第02話 錬金は楽しいな (旧原作開始前3~5相当)
Name: TNT◆5c31f948 ID:7776774b
Date: 2010/10/03 23:02
いろいろ考えて試行錯誤を繰り返して実験を行い、
火の秘薬としても使われる黒色火薬に塩素酸カリウム(KClO3)を加えて爆発力を上げる方法を使うことにした。
これだったら爆発力の向上という成果が目に見えるので、子供の戯言だと切って捨てられ難いからである。
まずは両親に成果を見せた。
二人とも最初は信じられない様子であったが、実際に触媒として使って火の魔法を唱えてみると、
何度繰り返しても、従来の黒色火薬だけを用いた場合より明らかに威力が向上していたので信じてくれた。
そして、父上に頼んでゲルマニア政府に新しい火の秘薬の開発に成功した事を報告してもらった。
もちろんゲルマニア政府内でもこの事の信憑性をめぐるごたごたはあった。
最初は、私のようなわずか10歳の子供が新しい秘薬を開発したということなど当然のようにまったく信じなかったが、
侯爵である父への配慮と、現物があるので直接確認した方が早いということで、
高級軍人や魔法学院の教師などの前で成果を発表することとなった。
結果はもちろん大成功を収め、その報告を受けたゲルマニア皇帝アルブレヒト3世から直接お褒めの言葉と報奨を貰った。
火薬の威力の向上は火の秘薬として火メイジの魔法の威力を増大させるとともに、
大砲や銃など平民でも使える武器の強化に繋がり、戦場での火力の増強になる。
しかも、この方法での黒色火薬の威力の強化は扱いが難しいため、錬金を使える貴族にしかできないので
自分たちの都合で供給するしないを決めることができる。
即ち、自分たちメイジに従う軍隊だけを強化することができるのだ。
平民が反乱を起こしても錬金が使えない以上すぐに在庫が切れて旧来の黒色火薬を使わざるおえなくなる。
しかも火薬以外は変わらないので、新たに武器を作ったりする

「製造コスト」

もかからない。



最初はよくあるライフル銃の発明でも良いかなと思っていたのだが、いくつかの問題点があったのでやめにした。
この世界は、地球だと腐敗や酸化・金属疲労を起こして強度の劣化が起きるのに、
固定化の魔法のおかげでずっと最初の状態を維持できる。
また、硬化の魔法のおかげで物質自体の硬度も上げることができる。
なので最初に砲身の強度を調べてそれが耐えられうる火薬の量さえ調べておけば、
途中で砲身が破裂することもないという魔法の無い世界の人間にとっては信じられないほどのインチキがまかり通るのだ。
なので、武器の更新コストがかからないという利点はばかにならない。
ちょっとぐらいの性能向上程度だと、費用対効果の面から、
旧来のものが更新されること無く、そのまま使われ続けるということもよくある。
また、それ以前にまったくの素人のしかも子供の戯言をまともに聞いてくれる大人はいないと思ったことと、
ライフルなどという射程の長い武器を平民に持たせたら反乱を抑制するための統治コストが上がりかねないなどといった問題である。
私は特権階級として気楽に自分勝手に優雅に生きたいのであって、別に市民革命などという面倒なことは起こって欲しくは無い。
もちろん自領は平民を過度に虐げるつもりは無いが、それは結果的に税を多く得るという目的のためだ。
なので他領で平民が虐げられていて、それが悪循環となり税収が下がっていたとしてもそれはどうでもいいことだ。
平民の反乱が起きても、私に利益が出そうなら裏から手を回して援助しても良いが、善意での手助けなんかするつもりはまったく無い。




この研究成果の報奨として、ちょうど当主が不祥事を犯して領地を没収され皇帝直轄領になっていた
トリステイン王国との国境地帯にある「マントイフェル」という子爵領が新たに私の領地として与えられ、
その代償として毎年決まった量の塩素酸カリウムをゲルマニア帝国に売却する義務を課せられた。
ただし、ゲルマニア帝国への販売は義務といってもメイジが使う火の秘薬にふさわしく売却金額はかなり高額なので、
納入利権を得たようなものであるので全然問題ではない。
ここまで報奨が大きかった理由は、塩素酸カリウムを錬金の魔法で大量に作れるメイジが他にいなかったというのが一番大きな理由である。
化学知識の無いメイジ達ではこれがどういう物なのかを理解することは不可能だった。
その他にも、このハルケギニア世界は、地球の西欧と同程度の箱庭のような狭い世界で、
しかもブリミルの子供たちが作った王国が6千年も続いているという閉塞的な状況なので、
始祖ブリミルの時代はどうだったとかそういう懐古趣味が流行って、
実用的な魔法の研究はそんなに盛んではないということも原因のひとつだ。
考えても見て欲しい、6000年もの長い間、時の天才たちによってさまざまな改良を加えられてきた魔法に、
既存の知識だけで新たな大発見を加えることがどれほど大変なことであるのかを。
そんなことができるとしたら本当にごく一部の大天才が一生を費やすぐらいの期間をかけて研究を行う必要がある。
なぜならちょっとした天才メイジが考え付くようなことは当然のようにそれより前の時代のメイジも考え付いているからだ。
そんな中で、黒色火薬の威力増大にも使える火の秘薬という実用的なものを開発した私を、
見所があると考え早めに取り込もうと皇帝アルプレヒト3世が判断したのと、
トリステイン王国で国王が崩御したのに時期国王になるべきマリアンヌ王妃が戴冠を拒否し、
しかもロマリア人である宰相のマザリーニに国政を委ねるという愚行を行っているので、
もしも、トリステイン侵攻のチャンスがあった時のために国境沿いの土地を与えておいて、
トリステイン侵攻軍に積極的に参加させることができるという利点もある。
さらに、新領地は本領とは飛び地になるので、次代では次男以下に分家させることが多く、
へーゲラー家をそこまで巨大化させることは無いという理由が考えられる。
私自身本音を言わせてもらえれば、報奨は管理に手間のかかる領地よりも、
多ければ多いほど加速度的に増えていく現金の方がよっぽど都合が良かったが、
報奨の格としては領地の拝領の方が上なので痛し痒しだ。



新領地経営はめんどくさそうなので、家臣の中から人を出してもらい大部分は彼らに任せることにした。
ただし、領主になった時に領地経営のやり方を何も知らないじゃ横領とかされてろくなことにならないし、
まともに経営すると収入も増えるので将来のためにも勉強するのも悪くは無いと思う。



塩素酸カリウムの開発は大成功に終わったので、現代知識を使ったさらなる魔法研究を再開した。
まずは、アセチルサリチル酸(アスピリンといった方が有名かもしれない){C6H4(COOH)(OCOCH3)}を開発して、
解熱作用のある水の秘薬として発表した。
水メイジがいないときや魔法の補助に使えて便利なこの薬は、かなり売れ行きを示し私の財布を潤し続けてくれるとともに、
私の名声の向上に大きく役立ってくれる。



それと、メンデルの法則を実例を用いた研究成果とともにゲルマニア魔法アカデミーから発表した。
遺伝子という概念や優性・劣性の概念などは、この世界でも貴族が欲しがる良い軍用馬を生産するための配合や食糧の増産などで役に立つはずなので、
私の名声を上げるのに役に立ってくれるとともに、将来の布石にもなるはずだ。



そして、自分が甘いものを思う存分食べたいからという理由で開発した高級甘味料としてのスクロース(C12H22O11)は大ヒットした。
やっぱり甘さはいつの時代、何処の地域でも誰にでも好まれる。
魔法があっても中世並みの技術力しかなく、地球のヨーロッパと似たような気候であり、
サトウキビを栽培することができないこのハルゲギニアでは砂糖は超貴重品であり、
しかも精製技術が未熟だから黒砂糖やブラウンシュガーがほとんどである。
というか砂糖を使った物を食べられるのは金持ちの貴族ぐらいで、
大部分の人間は蜂蜜や果物などの自然の甘味料しか口に入れることはできない。
なので、私が作り出した純白の砂糖は金持ち貴族連中が高値で競うように買い取ってくれる。
しかも貴重な嗜好品なので販売ルートを通じて顧客である各国の高位貴族とも伝手を得ることができる。
もうこれには笑いが止まらなかった。
こういうものは他人に力を見せ付けるために使うという面もあるから、
見栄っ張りな連中は1度使い始めたら質を落とすことはできないであろうということもすばらしい。
客が来たときにだすティーセットのシュガー入れの中身の色が、
純白の砂糖からこの世界で一般に使われるブラウンシュガーなんかに変わっていたら、
ひとめで経済状況が悪化しているのが客にばれてしまう。
面子を重んじる貴族連中には絶対にできないことだろう。
スクロース自体はでんぷん質を多く含んでいる穀物を錬金すれば簡単に大量に作成できる。
それを出荷量を計算して値崩れを起こさないように商人を使って売買させる。
いい商売のコツは顧客が永続的に買わなければいけない物を売ることである。
それが希少価値を持っていればなおのこといい。少量の生産で高く売れるからだ。



砂糖が大成功したので、調子に乗ってワインにエタノールを錬金したものを混ぜて売ろうと考えた。
本当は蒸留酒の名前のとおり低度数のアルコールを蒸留して高度数にするべきなのだが、
私は酒用の蒸留装置の作り方なんて、まったく知らないので、酒に入っているアルコールであるエタノールを直接作って度数を上げようと短絡的に考えたのだ。
高度数のアルコールは酒飲みにはたまらないものだろう。でもこれには失敗した。はっきり言って不味かったのである。
着眼点は良い筈なのだ。
今までに無い高度数のアルコールだと、絶対に軍や騎士団なんかで馬鹿者どもが飲み比べとか度胸試しとかで使ってくれるはずである。
これは今後の研究課題としてとっておくことにして、部下にエタノールカクテルのおいしい飲み方を研究させることにした。



これらの魔法研究で儲けたお金は自分個人のお金なので自分で管理することにしたが、
目の前に金貨の山が溜まっていく様を見ると、笑いが止まらず意識があっちの世界に行きそうだった。

このお金をどうするか考えてみると、金貨を現金で大量に保管すると、
出回っている貨幣が減少してデフレが起こり経済が混乱する危険性もあり、また、ただ保管しておくだけというのも勿体無いので、
一部は緊急用の流動資金として残しておくとして、その他のお金は運用してさらに増やすべきだという結論に達した。

選択肢としては

・お金に困っている諸侯に利子を取って貸す。

・このお金で領地を買い取る。
  領地は半永久的に税という形で収入を得られまた、売るという選択肢もあるのでうまく経営さえできれば大儲けできるだろう。

・もうすぐレコンキスタの反乱があるので軍需物資を買い占めておいて反乱が始まったら双方に売りつける死の商人をする。

・自領の開発に使う

の4つである。


1つ目は諸侯の間で影響力を強めるのには都合が良いが、やりすぎると政府には警戒されるうえに、
貸す貴族たちからは逆恨みされる危険性が高いうえに不良債権になる可能性のほうが高いので却下した。

2つ目も今ゲルマニアの土地を買い取るより、レコンキスタとの戦争で領地を得た後で、
諸侯&政府が使用した戦費に困っている時に買い取った方が利益が大きそうなのでやめる。

3つ目は多額の利益が期待できるので、アルビオン内乱で死の商人をするために必要な武装商船と軍需物資を手に入れることにした。
どこの世界でも死の商人というのはとてつもなく利益が出る。
しかも開始時期も大体わかるので、それまでにできるだけ買いあさり、両方に高値で転売することもできる。
それに、固定化の魔法があるので長期間の保存すらできるという利点さえある。
儲けを考え出したら笑いが止まらなくなった。

4つ目はまずは私自身が拝領した形となっているマントイフェルの土地で実験的に行ってみることにした。
まずは生産した穀物を高値で売れるように冷暗所を作り穀物相場が高くなる季節に一括売却して利鞘を稼ぐようにした。
また、領民に農閑期に交代で軍事訓練をやらせ、その代価に鉄製農具などを無料貸与した。
これは農作物の収穫量を増やすのと有事の際の兵力に高価でしかも盗賊と変わらないような傭兵を雇う必要がなくなることを狙ってのことだ。
信頼できる傭兵を少人数だけ指揮官のメイジの補助として雇えば部隊としてもそれなりに使えるようになるのではないだろうか?
もちろん戦場に出たものには給金を与え税を免除し、手柄を立てればその分の褒美を与えることにする。
それと領民の声を直接聞けるように目安箱っぽい物も作った。
この世界の識字率はそれほど高くはないが、領主が平民のことも考えているというのを見せるパフォーマンスの一面と、
領民から領主への伝達手段があることでの役人の不正を抑制させる一面が存在するので、それなりに良い政策なんじゃないかと思う。
領地経営が順調に黒字を出しているのを確認した後で、公共事業を兼ねて河川の整備や用水路の作成をやらせ、
穀物の生産高の向上を目指し、また余っている労働者を吸収し治安の向上に努めた。
これは自分でやる知識が無かったのでお金を出しただけだが、人をうまく使うのも貴族としての正しいやり方である。
なんだかシムシティー系のゲームや昔の信長の野望をやっている感じがして結構楽しい。
数年で領地経営がいったん落ち着いてきたので、
「マントイフェル」の土地で成功したことはもちろん父上の許可を貰って「ヘーゼラー」の領地でもやることになった。







やっぱり改訂には反対意見が多いみたいですが、どうしても気になるところと変えたいところがあるのでこのまま改訂作業を続けます。
ただ、その代わりといってはなんですが9月中に原作前の所の改定作業を終わらせることを読者の皆さんにお約束します。
これからもよろしくお願いします。



[10764] 改訂版第03話 ラ・ヴァリエール家の混乱
Name: TNT◆5c31f948 ID:8c72a603
Date: 2010/10/03 23:02
錬金で金儲けしつつ内政するのにも飽きてきたので他にもいろいろとやってみることにした。
まずは、

「トリステインのラ・ヴァリエール公爵家にまともな子が生まれなかったのは、カリーヌ・デジレ・ド・マイヤールなどという下級貴族の下賎な血のせいだ。
 長女は精神異常で、次女は不具者、三女はよりにもよって平民との不貞の子なので魔法が使えない。」

という噂をトリステインで流した。
この噂はトリステイン最大の名門ラ・ヴァリエール家の醜聞という貴族サロンでの格好の話題であると同時に、
ラ・ヴァリエール家に恨みを持っているエレオノールの元婚約者達の関係者達や、
成り上がり者であるカリーヌに不快感を持つ伝統ある名門貴族達も積極的に流したので、
尾ひれがついてトリステイン中に一気に広まった。



伝統を大事にするトリステイン王国では、魔法というものが絶対の価値を持つ。
ただし、魔法が使えるか使えないかというメイジか平民かということが問題なだけであって、
一旦魔法を使えるメイジであると認められれば魔法のランクがすべてを決めるわけではない。
領地の大きさや経済力、王都での役職、代々の家格、本人の能力などを総合したものが貴族としての地位を決める。
若くして風のスクウェアメイジになったワルドがルイズとの婚約というトリステイン最大の名門貴族ラ・ヴァリエール公爵の後ろ盾を受けながらも、
親から受け継いだ子爵という爵位のままなのがいい証拠だ。
それでは公爵夫人として必要な資質とは何だろうか?


・家を受け継がせるべき子供を生めること。

・その家の奥向きをしっかり統制すること。

・貴族のサロンで夫人同士の付き合いをしっかりこなすこと。

・実家が婚家の役に立つこと。

・実家と婚家の関係を取り持ち両家にとっての利益になるよう調整すること。

などである。


しかし、公爵夫人に必要なそれらのことがカリーヌにはまともにできていない。
跡を継ぐべき男の子は産めず、娘たちも長女はラ・ヴァリエール家の跡取り娘という婿を取るには最高の環境でありながら、
性格の悪さから何度も婚約者に逃げられて、その婚約者達の実家とラ・ヴァリエール家との関係を破壊していく精神異常者である。
その異常さは、封建社会のトリステイン王国でエレオノールとの婚約破棄が、その後の人生にどれほどの不利益を与えるのかを理解していてさえも、
我慢してそのまま結婚するという選択肢を選ぶ相手が皆無であるという現状からみても明らかだ。
次女は生まれながらの不具者で貴族としての勤めも果たせない金食い虫の役立たずであり、
三女にいたってはコモンスペルすら満足にできないのでメイジとして認められるかすら疑わしい。
その上カリーヌの実家であるマイヤール家は爵位すらない貧乏最下級貴族なので、
ラ・ヴァリエール家にはまったく役に立たないどころか、そんな家と縁を結んだという事実だけでもマイナスに働く。
さらには、生まれが悪いので魔法学院にもいけず、名門貴族の夫人として必須な教養を学ぶ時間と金も無く、
そのせいで他の名門貴族の夫人とは結婚するまで付き合いがまったく無く、
しかも成り上がり者なので最初から嫌われ、カリーヌ自身もそれでも媚を売ってでも仲間に入れてもらおうとするような性格でもなかったので、
貴族のサロンで最低限必要な表面上の友好関係の構築すらできない。
しかも、カリーヌの他の貴族には無い唯一のアドバンテージであるトリステイン最高かもしれない風メイジということも、
男装して魔法衛視隊に入るという法律違反を犯しているので公にできない上に、
もともと最初からある一定以上の魔法の腕など公爵夫人には求められていない。



さらに、子供がその圧倒的な才能を受け継いでハルケギニア中に名が響き、
ラ・ヴァリエール家の名声を高められるようなメイジであればまだ何とかなったかもしれないが、
次女は不具者で役立たず、三女にいたっては魔法すらできないというまったく逆の結果が出てしまった。
こんな状態では成り上がり者のカリーヌがラ・ヴァリエール家に代々仕えている家臣達を掌握できるわけが無いのは当然である。
個人的武勇を振るうなど下っ端や名誉欲の強い若者のすることであって、子供を生んだ公爵夫人のする仕事ではないのだ。
ただしこれはカリーヌの罪ではない。身分を弁えずに貴賎結婚をした公爵にすべての罪があるのだ。
他の貴族と同じように身分の低いカリーヌを妾にしておいて名門貴族の正妻を別に貰えばまったく問題の無かったことだ。



この問題は最終的には、ゲルマニアで新しく発表された遺伝における法則を聞きかじる人が増える伴って、
今までも体感的に理解されていた隔世遺伝の概念が広まり、それに伴いトリステイン王国の貴族中で、
穢れた血を持つカリーヌの娘たちとの婚姻を忌避するべきだという風潮が見られるようになり、
エレオノールが現在の婚約者にルイズが魔法を使えない事を理由に婚約破棄され、
自分のことならまだしも、愛する娘を徹底的に侮辱されたカリーヌの自制心が吹き飛び、
婚約者を半殺しにしたので内々の問題ではすまなくなった。



この問題はメイジのみが貴族であるというトリステイン王国の国是とも絡み、
ラ・ヴァリエール家を「死にかけの獅子」と考え、その財産や特権を奪い取りたい多数の貴族が追い落としを図るために手を組み、
また、現時点では先王の婿入りでさらに緊密になったトリステイン・アルビオン同盟が有効に機能しており、
ラ・ヴァリエール家とツェルプストー家の歴代の関係や、陪臣たちの反ゲルマニア感情や反カリーヌ感情、
即ち、ラ・ヴァリエール家の親族達は自分が公爵家を乗っ取りたいからカリーヌ達を排除したがるだろうし、
ラ・ヴァリエール家の家臣は自分の家の存続が最優先で公爵家の次期当主は公爵の娘でなくても問題ないという考えから、
もしも公爵が反乱を起こそうとしてもほとんど誰もついていかないか、事故死か病死に見せかけて殺されるであろうことが推測できる。



それ故、ラ・ヴァリエール家が現在の勢力をそのまま維持したままゲルマニアに寝返る事はできないと判断した宰相のマザリーニ枢機卿も、
トリステインの国是を破り大多数の貴族の反発を買ってまでルイズを守る必要性を感じなかったので、
ルイズが3年間の魔法学院の課程の終了時の試験で魔法が使えなければ、メイジとしての特権を認めないとの裁定を下したので、
公爵は怒りのあまり公職を辞して自領に引きこもるようになった。
そして、公爵家を愛する家臣たちの「現状を打破するためにカリーヌと離婚しまともな家から嫁をもらって子作りに励むべきだ。」という至極当然な意見を、
家族を愛するがゆえに退けたため、家臣たちも自分たちの生活を守るために離反や親戚筋から新たな当主を立てることを考えるようになり、
そこにゲルマニア帝国やトリステイン王政府が工作を加えたのでさらに混乱していくようになる。










原作でクラスメイトたちが表立ってルイズを馬鹿にしているのがとても不自然に思えたので、その理由を考えてみました。
封建制の貴族社会において国一番の名門貴族の令嬢に表立って悪口を言うなんて実家への悪影響を考えたら普通はしませんよね。
たいていの場合ベアトリスみたいに実家から対立しても問題ない相手、仲良くしないと不味い相手、
媚を売ってでも近づかないといけない相手、それらを入学前にしっかりと教えられるはずです。
なのでルイズが馬鹿にされるのは魔法が使えないことの他にそれなりの理由があると思います。



[10764] 改訂版第04話 ゼロ戦GETと始めての殺人  (旧原作開始前6~7相当)
Name: TNT◆5c31f948 ID:517f0b53
Date: 2010/10/03 23:01
次に、外国に行ってみたいとわがままを言って、ガリア旅行に連れて行ってもらおうかとも考えた。
ジョゼフはまだ王になってないし虚無の魔法にも目覚めてないので、
固定化や硬化の魔法を無視して破壊できる失敗魔法の有用性を説明し、
今のうちに媚を売っとけば後々役に立つかもしれないと思ったのだ。
でもその行動は不確定要素が多すぎるのでやめにした。
だって、ジョゼフに余計なことをしたら死亡フラグを立てる危険性がある。
変に印象に残って、モリエール夫人みたいに殺されるのは勘弁して欲しい。
狂人ってものは思考が読めないから困る。


それにアルビオンでレコンキスタの反乱がおきなくなるかもしれないというのも大きなマイナス点だ。
ゲルマニア人の私にとっては、レコンキスタの反乱はとても利益になる。
ブリミルの血筋みたいな自分が持ってない権威なんて邪魔なだけだ。他人が壊してくれるなら手間が省けてちょうどいい。
それに商売で儲ける事もできるし、戦いの後には恩賞が待っている。
ジョゼフは教皇が何とかするのを待てばいいだろう。
だけど魔法学院ではタバサとも表面上は友人の友人ぐらいの関係で付き合うつもりだ。
心を壊す水の秘薬のことも少しずつ情報を集めている。タバサがジョゼフに叛旗を翻して勝ちそうになったらこれを渡してやればいいだろう。
調べるのに時間がかかることは、タバサ自身がよくわかっているから、カステルモールに対するように自分の味方だと思ってくれるはずだ。
サイトに惚れていない現時点でのタバサにとっては母親が一番大事なのだから…。


それにしてもタバサもかわいそうな子どもである。
個人は組織にはかなわないということが理解できていないのだから。
自分が母親と幸せに暮らすためにはオルレアン派を糾合して、反乱を起こして自分が女王になるしかないというのに。
もしも母親をガリアから連れ出して逃げ出したとしても、ジョゼフが処刑するための人員を送ってきたら、まず間違えなくいつかは敗れる。
ジョゼフがガリア王としての権力を有する限り、ジョゼフは常に自分は安全なところにいて、
しかも有り余るほどの財産や国家予算から殺し屋を際限なく送ってこれるのだから、タバサ親子にとっての安寧な暮らしは訪れない。
だからこそ、トリステイン魔法学院で無口でほとんど人付き合いをしないというのはマイナスだ。
ここでしっかり友人を作っておいて、自分が反乱を起こす時に将来の利権の約束と合わせて協力を要請できるぐらいの関係を作っておくべきなのに。
きっと幼くして両親を奪われてしっかりと支配者としての教育を受けることもなく、
過酷な任務を押し付けられているから、そういうことを理解できていないのだろう。
ガリア女王としての力を駆使すれば解毒剤を手に入れることすら、それがハルゲギニアに存在するなら可能だろうに…。



なので、いろいろと原作知識の良い利用法を考えたすえに、タルプの村にゼロ戦を手に入れに行くことにした。
売買交渉は割りとあっさりまとまった。相手はこれの価値をまったく知らないのでただの厄介者だと思っているし、こっちは貴族としての信用と金もある。
代金として平民の年収の8倍に相当する1000エキュー払うと涙を流さんばかりに喜んでいた。
サイトにただで持っていかれるよりは遥かに良いことをした。
これは自分の所有権を維持したまま原作どおりにサイトに使わせて有用さを見せ付けた後で、
ガンダールヴであるサイトの所有権を主張できるトリステイン王国orラ・ヴァリエール公爵家に超高額で売りつけるか、
そのまま自分だけの技術を得るための研究材料にしておくか迷うところだ。
原作知識を利用して金儲けをするのは卑怯だといわれるかもしれないが、
totoや馬券の当たり番号、株価や為替の変動がわかっているのに買わない人間はいない。
それに日本のゼロ戦の保管状況を考えると、飛べる状態でこっちに置いておく方がいい。
資料館なんかに適当に飾られて、心無い人間に部品を盗られたりするより、大空を自由に飛ぶ戦闘機のままいさせてやりたい。



ゼロ戦を領地に持ち帰り、20mm機関砲を基に既存の大砲の改良ができないか研究することにする。
お手本を見ながらやるのは、手っ取り早く技術を向上させる最も簡単な方法の1つだろう。
この世界の大砲は能力が低いから、20mm機関砲の技術を基に造った新型大砲をフネに乗せれば大きな戦力になる。
爆弾の開発も重要だ。この世界では夜間戦略爆撃なんかされたら防ぎようがない。
黒色火薬ならまだしも、私にしか作れないトリニトロトルエンなどの黄色火薬を使った新型爆弾ならばかなり被害を出せるはずだ。
そして自分たちを安全を守れない国王に対して一気に不満が高まることだろう。
まあニトログリセリンでも詰め込んだフネを、風魔法で操りつつ墜落させるっていう選択肢もあるんだけど、
これはフネを使い捨てにするのでコストパフォーマンスがいまいちである。
フネは高いし、対歩兵戦では大型爆弾より小型爆弾の大量投入の方が有効である。相手の要塞を破壊するぐらいしか使い道は無いだろう。



そんなこんなでゼロ戦を使った新兵器の研究に没頭していると、領民からオーク鬼討伐の嘆願があがってきた。
私は、夜警国家の思想である治安の維持と外敵からの保護が、領主の一番の務めだと信じているのでもちろん討伐させる。
それに適度な害獣の駆除は兵士の錬度を維持するためにもちょうど良い。
さらに今回は、今までは部下に任せていたが自分も参加することにした。
研究とか錬金のノルマとかでストレスが溜まっていたのだ…
ただ、錬金ばっかり行っているおかげでトライアングルクラスにはなれた。
これで一応は一流メイジの仲間入りであるので、心の其処からうれしかった。



兵を10名ほどともしもの時の護衛役のメイジを率いてオーク鬼が出たという場所に向かうと5匹のオーク鬼がいた。
まずは私が


「火系統の攻撃魔法を撃つから、その後飛び道具で攻撃し、生き残ったやつを集団で囲んで始末するように。」


と命じて、オーク鬼の周りの空気を錬金でピクリン酸に変化させ、そこにファイアー・ボールを打ち込んで着火した。
大爆発が起きて少し離れていた1匹以外は地に倒れ臥した。中心にいたのなどは潰れてしまってグロい。
残った1匹は兵士たちに始末させた。訓練だと思えばちょうどいいだろう。
兵士たちの私を見る目に恐怖や恐れの感情が浮かんでいる。
メイジと平民との隔絶とした力の違いを目にしたから当然のことではあると思う。
私は平民を好き好んで虐待するつもりは無いが、別に媚を売るつもりも無い。
ただの領民であり取引相手でしかないのだ。なので適度の恐怖をもたれる方が支配には都合がいい。
それにしてもやっぱり破壊の魔法はいい。使っていると開放的な気分になる。
モンスターを殺すのには特に感慨も浮かばなかったが、次は人間の敵を殺す練習もしないといけないと考えるとちょっと鬱になる時がある。
周辺を探索して他にいないかを確認してから討伐は終わった。



もしもの時に人を殺す覚悟ができてなくて、不覚を取りたくないから盗賊退治でもやることにした。
兵士も多めに用意してメイジの部下もしっかりと連れて行ったので退治自体は成功したが、
初めて人を殺したのに全然なんとも無かったことにすごくショックを受けた…。
基本的に近代的な教育を受けた人間は殺人と言う行為を拒絶する。
なので、軍隊では人型の的を射撃訓練で撃たせて慣れさせて拒否感を減らそうとしているぐらいだ。
それなのに私は、盗賊とはいえ人をあっさり焼き殺しても何の感慨も持たなかった。
私はそこまで性格が破綻しているのだろうか…
さすがに欝になった…
盗賊退治は正義の行いだから誇らしい気分になるべきだとかいろいろなことを考えつつ、
この世界を現実だと認識してないから気にならないんだということにして、深く考えるのを止めた。



[10764] 改訂版第05話 ハーレムを作りたい  (旧原作開始前8相当)
Name: TNT◆5c31f948 ID:765e93ac
Date: 2010/10/03 23:01
今までの功績により優秀な魔法薬の研究者だと名前が諸外国にも売れてきたらしく、
会いたいといってくる人や、自分の研究の支援をして欲しいと言ってくる人、
手紙を送ってくる人たちが増えてきた。
処理に手間がかかるが有名税だと思って諦めていたが、なんとコルベールから手紙が来た。
若くして誰にでも使える解熱作用のある水の秘薬を開発したことへの賞賛の言葉と、
自分が今、誰にでも使える破壊以外の火の使い方を研究しているなどということが書かれていた。
コルベールは原作キャラの中でも蒸気機関などを発明するとても役に立つ人物なので、
フラグを立てておくためにコルベールの発想を褒め、よければ資金援助をするという内容の返事を書いた。
ダングルテールの一件の影響からか、人を育てる教育という行為に執着があるようで、
現時点での引き抜き自体には失敗したが、文通は続けることにしたのでいつかは引き抜くつもりだ。



そんなこんなで錬金でお金を稼いだり、モンスターを魔法で退治したりというごく普通の転生オリ主人生を歩んでいると12歳になった。
今までの人生は貴族に生まれて最初から勝ち組が決定していたが、ここにきて大きな問題ができた。
それは、



「平民(非メイジ)相手だと性欲がいまいちわかない」



というとてつもなく重大な問題だ。
せっかく領内の平民相手だったらいくらでも初夜権を行使したり、
気に入った女を集めてハーレムを作れるという夢のような状況なのにもかかわらず、そんな気になれない。
メイジが相手の場合だと違うので性欲が無いわけではないはずなので、
なんとしてでも原因を見つけて取り除かないと貴族生活の楽しさが半減してしまう。
だったらメイジ相手でハーレムを作れば良いと思われるかもしれないが、ここハルケギニアでは、
平民であってもメイジは人扱いされるのであまり無茶な行動はとりにくいという問題点がある。
だから、金か地位を使って従わせるしかないので平民を相手にするのとは比べ物にならないくらいの金がかかる。
でも背に腹はかえられないし、モンモランシーみたいにプライドは高いが実家が借金で困っているような相手を従わせるっていうのもそれはそれで燃えるので、
なおいっそう錬金に励む生活を行っていると、私が手に入れた領地の旧領主であった元マントイフェル子爵死んだという情報が入ってきた。
貴族の資格を剥奪されてから風メイジとしての能力を生かして傭兵をやっていたらしい。


領地や年金といった生活の糧を奪われた元貴族の末路は悲惨なものだ。
ある程度以上の能力を持っていれば再仕官の道もあるが、平凡な能力しか持っていなければその道も閉ざされる。
能力が低くても、土メイジだったら錬金・水メイジだったら治療といった安全にそれなりの金を稼ぐ手段があるが、
戦闘以外での汎用性の低い風や火メイジの場合は傭兵をやるか、開拓事業に参加して亜人相手に戦うなどの命を懸ける仕事しかない。
しかも新興国であり開拓できる領土も広く、人口におけるメイジの比率も低いゲルマニアはまだましだが、
歴史が古くメイジ人口の多いトリステインなどでは、平民メイジの和に比べて雇用枠が少ないので、
その枠に入れるだけの能力が無い元貴族は悪事に走ることも多い。
最後の手段として杖を捨てて完全な平民として生きていこうとしても平民の側が受け入れてくれないし、
そこまでするぐらいなら死んだ方がましだと思う人間が大半である。



元マントイフェル子爵の残された家族のことを聞いてみると未亡人と私と同世代の娘が2人いるそうだ。

これはチャンスだと思った。

自分の命令に忠実に従うしかないメイジの部下。しかも魔法学院に連れて行け、
女なので同姓の友人を作ることで私とは違う情報も得られやすいので情報収集役にはもってこいだ。
魔法学院へ入るまで後2年あるから、それまでに使いやすいように教育することもできる。
しかも、相手は貴族の地位と生活の糧を失って困り果てているだろうからここで助け舟を出してやったら、
私に忠誠を誓わせることも難しくは無いだろう。
貴族というのは支配している土地と血のつながりと家名にすごく執着を持つ。
なので、現代の日本人からみたらありえない事で争いになったり、命をかけたりできるのである。
だからこそ彼女たちも私の愛人になって子供を生み、将来その子にマントイフェルの土地を分家して継がせて貰う、
それこそが彼女たちにできる先祖から受けついた血をこのマントイフェルの地の支配者として残す唯一の手段だということも理解はできるはずだ。
そして政略結婚は貴族としての責務であるということも。
それに領地の旧支配者を放置しておくというのはいろいろな意味で問題である。
私の統治に不満がある人間達の核に祭り上げられて反乱の旗頭になりかねない。
なので低コストで引き込めるならば引き込んでおくべきである。


頭の片方ではエロゲー的な妄想を膨らませて、もう片方では現実的な問題点の対処を考えながら会ってみることにした。

風のドットメイジである13歳のエリザベート 

水のドットメイジである9歳のアンナ

水のラインメイジである母親のマリア

さすがに支配者階級の領地持ちメイジなだけあってなかなか美人である。
ただ爵位と領地を没収され苦労が続いているのでかなり疲れも見える。

今から4人でという案もと~~~~~~~~~~~ても捨てがたかったが、
先にある程度の飴を与えて、

「この生活を失いたくない。」

「今までの生活に困る状態に戻りたくない。」

と思わせた方がこれから先やりやすいのは確かなので
泣く泣く諦め、良い人の振りをしてお悔やみの言葉を述べてから
「もしよかったら我が家で働きませんか?」と誘った。
彼女たちは他にいい方法も無いので我が家で働くことになった。
というか、まともに暮らしていける方法ができたのですごく喜んでいた。



水メイジであるマリアには冷暗所の保冷の仕事を与えた。
いろいろと保存しなければいけない物の量が増えたので新たにメイジを雇わないといけなかったのと、
マリアにメイジとしての仕事を与えることである程度彼女のプライドを満足させるとともに、
碌な教師も教本も無く出世のために必要なメイジとしてのランクアップが難しい二人の娘に対しての危機感を抱かせて、
メイジの愛人を作るという真の目的を果たしやすくするためである。
貴族では無くなってもメイジとしての権利と誇りを持ち続けるためには魔法の力は必須である。
貴族では無くなって、なおかつまともに魔法が使えないなら、平民とかわりがなくなってしまう。
そうしたらアイデンティティすら維持できなくなるだろう。
没落貴族にとっての一番の問題は子供の教育である。
自分自身はメイジとしての魔法の教育を受けていたとしても、それを子供にしっかりと教えるのはとても難しい。
だからといって他人に教えてもらうにはかなりの金がかかる。
他人に魔法を教えられるぐらいのメイジとしての腕があればいくらでも仕官先は見つかるし、
領地を持ってないメイジが出世するのに一番簡単な方法が魔法の腕を磨くことなので、
優秀な教師は引っ張りだこになるので、安くて良い教師などというのが存在しないからである。



[10764] 改訂版第06話 アルビオン内戦介入への準備と新兵器開発  (旧原作開始前9~10相当)
Name: TNT◆5c31f948 ID:1ff06552
Date: 2010/10/03 23:01
そろそろレコンキスタの反乱が始まる。
今まで時間と金をかけて準備してきたので、両軍に売るための治療用の水の秘薬や火の秘薬、
諸侯軍を編成するのに必要な武器や携帯用の食料などは大量に倉庫に山積みである。
飛行大陸のアルビオンと交易するためにはフネが必要であるが、これは万一空賊に襲われても撃退できるように、
形自体は旧式の前装砲ままであるが、素材を青銅から鉄主体の合金に変え重量を軽減しつつ強度を強化し、
さらに、砲身長を伸ばすことによって射程と命中精度を向上させた新型大砲を載せた。


この大砲は私が開発資金とアイディアを出してゲルマニアの若手武器職人たちを集めて作らせた。
ゲルマニアはもともと冶金技術に優れた国なので、鉄の精錬技術が他国よりも発展しているという利点とも組み合わさって、
時間と金はかかったが、何とかレコンキスタの反乱の前までに完成にこぎつける事ができた。
このハルケギニア世界でうまく技術発展を行うためには、この世界の技術者をうまく用いることが一番良い方法だと思う。
現実世界では知られているが、ハルケギニアでは知られていない概念を技術者たちに教えてやれば、
彼らの中にもそれをうまく利用して新たな進歩に結びつけることができる人がいる。
そういった人たちをうまく利用しないで、すべて自分でやろうと思ったら、遊ぶ時間もなくなるし、仕事が多すぎて倒れてしまうことだろう。


交易とは別に私掠空賊もやるつもりなので、大砲がいっぱい載った戦列艦も四隻ほど用意した。
それらのフネの大砲の砲弾は榴弾の中に黒色火薬ではなく、トリニトロトルエンを詰め炸薬として用い、
ニトログアニジン ニトログリセリン ニトロセルロースの混合物であるトリプルベース火薬を発射に用いることで
従来品とは比べ物にならない威力と射程を発揮することになった。
アルビオンの特性から言って、港に一番隣接した日かその前後ぐらいにしか交易船を出さないだろうから、
襲撃計画を立てるのはそんなに難しくない。



私掠空賊をやる利点は

・実戦経験を積ませることでの船員の錬度の向上を図ることができる。

・新型大砲の実戦での戦訓を得ることができる。

・空賊活動による直接的な利益を上げることができる。

・レコンキスタ側の物資の不足による商品の高騰による交易での儲けの向上。
  (レコンキスタにも商品は売るつもりである。もちろん王党派へ売る分よりはかなり高額にするつもりであるが…)

・レコンキスタの戦費増大による弱体化を図る。
  (軍隊の維持には大金がかかる。)

・王党派の財政面や物質面での強化を図る。
  (アルビオン国王ジェームズ1世の許可を得て空賊をするので利益の一部は上納する。)

・アルビオンの王党派に好印象を持たせることができる。
  (ウェールズ皇太子からアンリエッタ王女への紹介状でも書いてもらえれば役に立つであろう。)

などが挙げられる。


そして私が王党派へ協力する理由としては

「王党派がレコンキスタにできるだけ被害を与えてくれたら、その分だけ祖国ゲルマニアが安全になる」

という誰もが納得できるであろう大義名分が存在する。
信頼していた部下や同僚に裏切られた王党派にとっては、ゲルマニア人の私がアルビオンの王家に忠誠うんぬんとかいうより信用しやすいことだろう。
誰がどう考えても、ゲルマニアとしては王党派が少しでもレコンキスタを道づれにしてくれた方が利益になると考えていることがわかる。
そして、王統派は誇りや名誉にかけて、レコンキスタに従うことはできない以上その思惑にのるしかない。
それに命を懸けて共に不利な戦いを戦っているのだから、親近感も沸くことだろう。
そして、王家への反逆者への密輸は普通に犯罪であるから襲撃しても別に問題ない。
ウェールズ皇太子やアルビオン国王ジェームズ1世も無能ではないので、自分たちの不利益にならないようなら協力してくれるだろう。
ただでさえレコンキスタに対して劣勢で、原作では王子自らが空賊の首領をやっていたほどなのだから。
それに、ジェームズ1世の親心としてはウェールズ皇太子を生き残らせたいはずなので、
もしものときの亡命の伝手は確保しておくという観点からも協力が期待できる。

まずは、普通に取引をして顔つなぎをするところから始めよう。
空賊は王党派の不利がはっきりしてからの方がいいだろう。




作り上げた鉄製の大砲の製造法を皇帝に献上するとともに交換留学の制度の創設を勧めた。
この世界ではもうコークスが使われており、魔法もあるのになぜ青銅砲が使われているのか不思議に思う。
地球ではコークスが広まるよりも前に鉄に変わっていったはずなのに…
ドットメイジでも青銅を錬金することができるからなんだろうか…
新型大砲の製造法を献上した理由はちゃんと帝国に役に立つ研究をして、それなりに結果さえ出しておけば、
早々には切られないであろうという思惑のためと、
艦載砲の威力の向上は将来起こる可能性が高い対レコンキスタ戦で、
錬度と実戦経験、艦艇の能力でこちらを上回っているアルビオン空軍と対決するのに必要であるということと、
本命である交換留学制度の提案を通しやすくするためである。


現時点で私にはヴィンドボナの魔法学院に通わずにトリステイン魔法学院に通う合理的な理由が存在しない。
なので、他人に怪しまれずに原作の舞台であるトリステイン魔法学院に通うためにはなんとしてもこの提案を聞き届けてもらわないといけない。
それにゲルマニア帝国からの正規の派遣ということになれば国の後ろ盾を得るということと同義であり、かなりの影響力を持つこともできる。
もちろん、交換留学制度自体にも両国間のパイプを作るのに便利であるという価値はあるので提案したこと自体はマイナスにはならないと思う。
もしも提案が却下された場合は、後日アルビオンの反乱とそれに伴うアルビオンの同盟国トリステインの外交環境の変化、
即ち、ゲルマニアとトリステインの同盟関係の構築とそれに伴う対レコンキスタ対策を元にトリステイン魔法学院留学を希望してみるしかないと思っていると、
新型大砲は少数を試験用として採用し、その結果しだいで新規製造分から旧型との入れ替えを行い、
報奨については採用数によって比例した額の報奨金が払われることとなり、
交換留学制度はゲルマニア一国だけで決められる問題でもないので、ヴィンドボナ魔法学院から他国の魔法学院を経由して各国に図ることとなった。






ゲルマニア国内向けの活動がある程度うまくいったので錬金のために、コークス副生産物であるコールタールの大量買付けを行った。
コールタールには火の秘薬である硫黄と、ピクリン酸やトリニトロトルエンの原料になるベンゼン環が含まれているので、
炭素と水素から錬金するよりも魔力を使わなくてすむから、大量生産するときに便利なのだ。
みんな目先のコークスに目を奪われて副生成物がどんなに重要なものかを理解していないので安く上がって助かった。


そして、ゼロ戦の20mm機関砲、7.7mm機関銃を元に後装式ライフル砲の開発も進めている。
勿論大砲用の砲弾も作成している。これは20mm機関砲の弾が炸裂弾だったので本当に助かった。
専門家に任せたいけれど、技術の流出が起こると軍事バランスが壊れてしまう危険性があるから、
この作業は自分の力でやらないといけないので、すごく大変である。
そして砲弾作成の手間を考えると、地上部隊をこの砲弾で攻撃するのは無駄遣いなので対地攻撃は爆弾で行うことにした。
トリニトロトルエンを使えばそれなりの破壊力は出せるだろう。
歩兵を大量に処理するための酸化エチレン(C2H4O)を基にした燃料気化爆弾と
ゼロ戦の中にガソリンの見本があったので、ガソリンに粘性を持たせて焼き尽くすナパーム弾も開発中である。
さらに原作でコルベールが開発した空飛ぶヘビくんもどきであるディテクトマジック発生装置を用いるロケット兵器も開発している。
これらもきっと原作が始まるころにはモノになっているはずである。
というかお願いだから使えるようになって欲しい。



「コルベールが欲しい!!。」



空飛ぶヘビくんがあればフネに載せて対空砲として使えるし、
戦闘機に積んである空対空ロケット弾のように竜騎士に持たせて敵を撃破させることもできる。



私の信条は「戦いは数だよ兄貴!」である。



いくらゼロ戦をサイトに操らせても持っている弾薬以上の敵には勝てない。
そして、ゼロ戦の弾薬を生産するのは難しい。というか無理だ。
そんな時間と労力があれば他のことに使う。
それなら、この世界の飛竜やフネに、この世界の技術で生産することのできる「空飛ぶヘビくん」を持たせた方が良いような気もする。
敵の飛竜が100匹いても、300発の空飛ぶヘビくんがあれば勝てると思う。
科学技術と魔法技術の融合した新たな兵器の開発にも便利だ。


それにオストラント号も欲しい。
コルベールは炎のルビーを持っていることも含めてなんとかして引き抜かないと…
彼とは未だに文通は続けていてかなりの好印象は与えたようだ。
考えてもみて欲しい、オタクというのは総じて自分の趣味のことについて語りたがる。
そしてコルベールの研究はほとんど誰にも評価をされていない。つまり、話をまともに聞いてくれる人さえいないのだ。
そんな中で、私はコルベールの研究について興味を持ちわざわざ他国から文通しているほどなのだ。
好意を抱かないはずが無い。
ただ、やっぱり教師という職業に拘りがあるようなので、いまだに雇用には成功していない。
まあ後はトリステイン魔法学院に入学後に何とかするしかないだろう。

それと通常の陸戦用にゴーレムに投げさせる大型手榴弾も開発した。
接触信管ではなく、導火線に火を点けて爆発させるタイプのやつではあるが…
錬金からファイアー・ボールに繋ぐ攻撃魔法は威力はすばらしいのだが、
戦争で前面に立つのは自分の体に硬化の魔法をかけても、弓や銃といった飛び道具があるので危険すぎる。


メイジでも当たり所が悪ければ死ぬのだ。


はっきり言って危険な賭けはやりたくない…


自分だけは、安全なところにいて利益を貪るのが私の趣味であって、蛮勇を奮うのは趣味じゃないのだ。












改訂版3話に批判が多いようですが、オットーはこれはアンチヴァリエール家のためじゃ無くて明確に目的を持ってやってます。
ヒントはこの世界のルイズがもしも虚無に目覚めた場合原作とはどのような違いが現れるだろうか?ですね。
みなさん今回も読んでくださってありがとうございました。



[10764] 改訂版第07話 アルビオン内戦はじまる  (旧原作開始前11~12相当)
Name: TNT◆5c31f948 ID:a5ceea77
Date: 2010/10/03 23:01
とうとうレコンキスタの反乱が始まった。死の商人としての商売は非常に上手く行っている。
レコンキスタが反乱を起こしてすぐ、まだ誰も王家を滅びるなんてことを考えていない時に、
アルビオン国内で各種秘薬や武器、食料などの物資を大量に仕入れて市場を品薄にしておいたので、
王党派も、レコンキスタも、数少ない物資が相手に売られないように高値で買い取ってくれる。
特にレコンキスタについた諸侯は王軍が備蓄していた物資を使える王党派よりも物資に不自由しているみたいだ。
大量生産なんてできないハルゲギニアでは、事前に備蓄した物資を使い果たすと後は他から買うしかない。
アルビオンからの帰りのフネは代金の金貨や美術品で山積みになっている。
未来知識を持っているというのはなんてすばらしいんだろう。



そろそろ魔法学院に行く準備をするためにアセチルサリチル酸とスクロースの増産と備蓄を始めようと思う。
この2つは私以外に誰も製造方法も知らないので、魔法学院に行っている3年間は、特にトリステインに行くつもりの1年間は
在庫の売却だけをすればいいようにしておかないと輸送に余計な手間がかかりまずいのだ。
特にスクロースは女性に大人気な嗜好品なので、品切れなんか起こすと、信用と販路を失ってしまう。
また、アルビオンとの交易をしている部下と、これから作る私掠空賊の部隊のための黄色火薬を使った砲弾は、
いくら密封して、冷暗所に保管することにしても、自爆事故が怖いのであまり長期保存をしたくない。
それに、いくらトリニトロトルエンが衝撃と熱に鈍感だといっても、もしも事故があったら私の財産にひどい損害を与えることになるので、
できるだけ分散して保管して余計な危険は避けるべきだろう。
後、盗難の危険性もある。高性能火薬の流出だけはなんとしても避けたい。
なので、砲弾の外側だけを作らせておいて、学院に運ばせ、時間があるときに火薬を詰めていくしかないだろう。
トリプルベース火薬も同じだ。


領主としての仕事は元々別に私がいなくても問題ない。
目安箱の中身だけは学院に届くように手配すれば、後は部下たちや父上がちゃんとやってくれる。
何か緊急事態が起こったときには、竜騎士を飛ばすようにしておけば1日遅れぐらいで情報は手に入る。
そういえば、領地経営で現代知識をほとんど使ってない…
というか、私って領地経営で実用的に使える現代知識って何か持ってたっけ?

「植物を育てるのにはリン肥料と窒素肥料がいる」

「領民の声を直接聞ければ便利」

「国民皆兵の徴兵制」

「…」

すべてハルゲギニアの知識だけで同じことができそうな気がした。

まあいいか

きちんと


「黒字」


を出しているんだから損はしていないし問題なし。

でも、ちょっと泣きたくなった。

きっと私は領主より商人の方が向いていたのだろう。




そして、トリステインに隣接する場所にも領地があるので、トリステインの貴族の情報収集をさせるためとコネを作るためという名目で、
エリザベートをトリステイン魔法学院に入学させることにした。
魔法学院にかかる費用も私にとってはそんなに高くなかったし、トリステインに行ってからの手駒も必要だし、
窮状に付け込んで親子揃って愛人にするというよく考えなくてもかなり外道なこともやっているので、
裏切られないように飴も与えなければならないからだ。




魔法学院の入学する前にアルビオンに行き、商人としての伝手を使いウェールズ皇太子に謁見をした。
そして交渉の結果、利益の4割を献上するという条件でレコンキスタ派の商人に対する私掠空賊の許可を貰い、
空賊をやることになっている部下をいったんアルビオン国籍に変えてもらった。
こうすることで表向きゲルマニアは関係ないと言い張ることができる。
犠牲者が出ても、もともと没落貴族などを任務終了後の生涯雇用を条件に雇ったものなので問題ない。
そして、そのフネのアルビオン空軍基地の使用と、アドバイザーとしてのアルビオン空軍士官の乗船を許可してもらった。
ちなみに3割が乗員、そして残りの3割が出資者たる私の収入である。
最初の航海でまずは王党派に味方であることを示すために、レコンキスタ側の軍艦を沈めさせた。
商船だと思って油断して近づいてきたところを大砲と魔法で奇襲攻撃をしたのである。
フネは燃え上がりながら落ちて行った。地上までの距離を考えると助かる人間はいないだろう。
やっぱり、効率よく人を殺すにはフネを沈めてしまうのが1番効率が良い。
対レコンキスタ戦でもそれを念頭に入れておいたほうがいいだろう。
地球の船の沈没と違って泳いで救助を待つこともできないので、どんなに優秀なメイジでもフネが沈むとただ落ちて死ぬしかないのだから。
これで王党派の連中も少しは私たちのことを信用してくれることだろう。
帰還後同乗していた士官の報告を受けたウェールズ皇太子が苦笑いをしながらやってきた。


「いきなり軍艦を撃沈するとはすごいが、信用されていないと思っていたのかね?」

「ええ、最初から信用してもらえるなんて思っていませんでしたから。それにこの状況ですし、よく知らない我々が信用できないのは当然のことかと。」

「それにしてもすごい威力だね。魔法も大砲も。君が天才だと言われている理由がわかったよ。」

「おそれいります。」

ウェールズはちょっと厳しい顔をして

「ところで、君は王党派が勝った場合何を望むんだい?」
と、切り込んできた。

「そうですね~、アルビオンとの交易の優遇措置とアルビオン内での商品の販売許可を頂きたいですね。」

「へ~、優秀なメイジである君が商人みたいな物を望むんだね。」

ちょっとカチッっときたので商売がどんなに楽しいか語ってあげていたら途中で止められた。
せっかく話してあげているのに何を考えているのだろう。
気がつくとウェールズ皇太子も護衛のメイジたちも呆れているようだ。
たった2時間程度話しただけなのに軟弱なやつらである。後4時間ぐらいで


「オットー君の現代知識を用いた商業講座前編」


が終わるんだから最後まで拝聴すべきなのに…
アルビオンに向かってくるフネはもちろんだけど、アルビオンから出て行くフネも狙うように命令してから、
アルビオン大陸から降りてヴィンドボナの魔法学院に向かった。
もちろん我が家のフネが狙われて、同士討ちにならないようにあらかじめ目印をつけている。



[10764] 改訂版第08話 魔法学院入学とトリステイン王国の現状
Name: TNT◆5c31f948 ID:3c3478d4
Date: 2010/10/03 23:00
15歳になったので魔法学院に入学した。
ヴィンドボナの魔法学院では身分や領地のある地方、親の官職、閨閥などのさまざまな外的要因によりグループが作られており、
ほぼすべての新入生はその中の自分の身の丈にあったグループに入っていく。
なので私も本当は一人の方が好きなのだが、一応はグループに参加することはしたがこれがまたけっこう大変である。
自前の領地を持っている諸侯は、帝都に在住して毎日同僚や上司と顔をあわせて、面倒な対人関係をこなさないといけない法衣貴族と違って、
領地では王様でいられるので結構気が楽であるのだが、ここではそうはいかないのでいろいろ気を使う。



貴族の子弟が学ぶ魔法学院では新たな友人を作るというのも意義のひとつではあるがこれもなかなか難しい。
学院在学中は表向きはみんな平等であるが、卒業してからは当然実家の力によって全然違う。
なので、特に下の方の連中は有力なツテを得ようと躍起になっている。

正直言って鬱陶しい

だから、特に上位層は付き合う相手を選ばないでいちいち相手にしていたらきりがなく大変なので余計にグループの外に出にくくなる。
私は政治工作の練習と商品の顧客を増やすためだと割り切って、ある程度付き合っているがすごくストレスがたまる。



ゲルマニア国内でもレコンキスタの精強さと危険性が認識され始め、それに伴いゲルマニア軍部内でアルビオン王国に旧式砲を売って、
その売却益をもって新型大砲に更新して戦力の増強を図るという提案がなされたようで、
原作では記されていないがまずはアルビオンの王党派それからレコンキスタとの取引が盛んになっていった。
それに伴って、今までアルビオン王国が6000年の長きに渡り先祖代々貯蓄してきた財貨が他国に流れている。
これではレコンキスタが最終的に勝利しても経済を安定させるために必要な通貨量が確保できないので、
経済破綻を防ぎ、内部分裂を防ぎ、組織を繋ぎ止める為に新たな利権を得ようとトリステイン王国に侵略せざるをえなくなるはずだ。


以前提案していた交換留学の件は、各国の魔法学院も普通に他国からの留学生を受け入れていることもあり、積極的な反対もほとんど無く受け入れられた。
なので当初の予定通りに、

アルビオンの現状分析と内戦でのレコンキスタの勝利の予想、そしてレコンキスタの次の侵略目標の予想などをレポートにしてまとめ、
それを皇帝に提出するとともにトリステイン魔法学院への交換留学生に志願した。

そして、

「ゲルマニア帝国がレコンキスタと戦う時に一番重要な要素は戦場を何処にするかである。
 国内を戦場にするのは農地は荒れ、傭兵どもの略奪もおきるので戦争に勝利したとしても損害が大きくなりすぎるため絶対に避けたい。
 なのでアルビオン国内かトリステイン国内を戦場にする必要がある。
 ゲルマニアも空軍力の増強を図っているが、現時点ではレコンキスタ空軍に劣っているのでアルビオン侵攻は不可能である。
 だから、消去法でトリステイン国内を戦場としてレコンキスタと戦う必要がある。
 その際の1番の問題点がトリステイン王国自体がすぐに自壊してしまい、抵抗を諦め自家の生き残りを優先させた諸侯が
 一斉にレコンキスタへ寝返り、レコンキスタがそのままトリステインの国力を手中に収めてしまうことなので、
 そうならないでゲルマニアへの寝返りが増えるようにトリステイン貴族とのパイプを増やすとともに、
 ゲルマニア側から軍事的なテコ入れもする必要がある。」


などということを皇帝の前で発表しトリステインへの留学を許可してもらった。



ゼロの使い魔原作の舞台となるトリステイン王国の恒久的な問題点は領地が狭い上にメイジの比率が多く、
さらに王国が6000年もの長きに渡り続いてきたので、新規開拓可能な土地がわずかしか無いので、
その小さなパイをめぐる貴族間の争いが多いことにある。
時の王が有能ならその争いをうまく利用して目障りな貴族を討伐しその領地を奪い取って、自分に付いた貴族に配分したり、
国内を1つにまとめ外征を行い新たな領地を得ることによってさらにその支持を増やしたりできるが、
無能だとこの争いを調停することすら出来ずに国は乱れ、他国に付け入られる隙を作ることになる。


現在は先王の死後マリアンヌ王妃が王位に就くことを拒否し、ロマリア人であるマザリーニ枢機卿が宰相として政治を取り仕切っているが、
政治的に有能でブリミル教のバックアップを持ち、尚且つ封建社会で一番重要視される土地を持っていないマザリーニ枢機卿より、
国一番の土地持ちでありながら、最下級貴族のカリーヌを正妻にし、さらには生まれた三人の娘たちが公爵家の息女としては使い物にならないにもかかわらず、
有効な手がわかっていてもそれを打たないなどの政治的に無能で、自分の家臣すらまとめきる事が出来ないラ・ヴァリエール公爵のほうが獲物としては相応しく、
それでも王国一の名門だったので、有力貴族が複数力をあわせなければ勝てない程度の底力はあるので、
国内は反ラ・ヴァリエール公爵派が最大派閥である程度まとまっている。
なので、トリステイン国内でのマザリーニ枢機卿への不満はそこまで強いものではない。
そんな中で、ワルド子爵は聖地などという物に取り付かれていた所為なのかは知らないが、
魔法の出来ないルイズとの婚約を破棄してラ・ヴァリエール公爵家から逃げるのが遅れ、
そのせいで周りに睨まれ出世できずに、原作と違って身分相応なグリフォン隊の一隊士として在籍している。


ワルド子爵とルイズの婚約もラ・ヴァリエール公爵が打った悪手の一つだ。
通常、公爵令嬢の嫁ぎ先が子爵家というのは、家格が違いすぎるためほとんどない。
普通だったら、同格の公爵か一段階落ちて侯爵、最低でも力を持った名門の伯爵ぐらいだ。
ルイズとワルド子爵の婚約は、ヴァリエール公爵家にとってどんな利点があるのだろうか?
やっかいもののルイズがいなくなること以外何も無い。
だからこそ、この婚約自体がラ・ヴァリエール公爵自身がルイズのことを魔法の出来ない厄介者だと認識していたと他人からは見られる。



ラ・ヴァリエール家の現状は、家臣たちが主家に見切りをつけて王家の直臣になりたい勢力と、
縁戚から新当主を立ててそれを盛り立てていこうとする勢力に別れて争っており、
現当主には従うつもりの人間の大半もカリーヌの子供たちには従うつもりは無いのでボロボロの末期状態である。
これではルイズが虚無の魔法に目覚めるなどという奇跡が起こらない限り自壊するのは時間の問題だろう。
エレオノールもあれ以来新たな婚約は纏まらず王都のアカデミーも辞め領地で引きこもっている。


エリザーベートからの報告によればルイズはたった一人の友人もできずに学院で酷いいじめにあっているそうだ。

・魔法がまったくできないというメイジとしての能力の欠落。

・失敗魔法で他人に被害を与えても反省や謝罪をまともにしない態度。

・公爵家の娘であるという傲慢さ。

などというルイズ自身の問題点もすごく大きいが、一番の原因はラ・ヴァリエール公爵家自体の力が大きく減少していることである。
子供でも自分や自家の利益になるなら、どんな相手とでも付き合うように教育されているのが貴族というものである。
学院の生徒たちの実家からラ・ヴァリエール家の未来の無さを冷徹に判断されただけに過ぎない。


ルイズも公爵令嬢という身分を誇ってみても母親の卑しい身分を馬鹿にされ、
母親のメイジとしての才能を誇ってみても自分自身が魔法を使えないという事実を蔑まれ、
爆発で周りにも被害が及び多額の損害賠償を請求されてといった何時死にたくなってもおかしくない散々な状況ではあるが、
それでも毎日夜に外で一人で魔法の練習をしている心の強さなどは素直にすごいと思うが、
自分の現状を冷静に把握できない猪突猛進なところを直せなければ潰されるだけだろう。



[10764] 改訂版第09話 トリステイン留学と物語の始まりへ
Name: TNT◆5c31f948 ID:561281a1
Date: 2010/10/03 23:00
ヴィンドボナ魔法学院では、大事件が起こるわけでもなく、何時も変わらぬ平穏で退屈な日常が過ぎていったので、
トリステイン魔法学院での波乱万丈な生活と本当の天才であるコルベールとの出会いが待ち遠しかった。


そうこうしている内に夏が過ぎ秋が過ぎ、冬期休暇の季節になったので、学院を出て領地に一度帰った後アルビオンに向かった。
フネに砲弾とトリプルベース火薬の補給もしなければいけないし、部下に恩賞も与えなければならない。
そしてなにより重要なのが王統派の様子を確認しなければならないからだ。
原作では来年の春には滅亡寸前だったが、今回はレコンキスタの補給と経済力を削って、
逆に王党派には増強させているのでもう少し持つかもしれない。
いろいろ変更点はあると思うが、


どっちにしろ私の財布は潤っている。


ならば何も問題ない。


アルビオンに到着後に王党派に会ったが、対応が前回よりもかなり柔らかい感じがするので計画は上手く行っているようだ。
ウェールズ皇太子と会って状況を確認したところ、やはり王党派は不利なようだ。
だからこそ、空賊活動は感謝された。
奪ってきた物資と金をレコンキスタに使われることを考えたら、いろいろと愉快な想像ができるのだろう。
そして来年からトリステイン魔法学院に留学することを伝え、アンリエッタ王女への紹介状を貰える様に頼んだら、
快くOKしてくれて、従妹のアンリエッタをよろしく頼むと言われた。




そしてようやく待ちに待ったトリステイン魔法学院留学と原作が始まる季節になった。
新学年が始まるより早めに出発しトリスタニアに寄ってアンリエッタ王女と謁見した。
そして、ウェールズ皇太子の紹介状を見せると急に機嫌が良くなり、いろいろと彼のことを聞かれた後で、
手を握られて、ニッコリ微笑みながら


「もしよろしければ私の力にもなってくださいましね。」


と言われた。
すごく嫌な予感がビンビンしたが、現王女で未来のわが国の皇后のお願いを断るわけにもいかず、
しょうがないので社交辞令で


「非才の身ではありますが力の限り尽くします。」


と、言ってはみたものの、私にはこの女のために命を賭ける気には到底なれなかった。



その後、町の状況を観察してみると、ヴィンドボナの町と比較すると活気が無く品数が少なく、そして、値段も高かった。
想像していたよりもずっとトリステイン王国の経済状況が悪いみたいだ。


「やっぱり税金が高く、不正も多いのが原因なのかな?」


なんて考えつつ、ピエモンの秘薬店の近くの武器屋を探していた。


「まず初めにキーアイテムを自分で確保してから相手との関係によってそれをどう使うか決める。」


それが私の基本的な考えだ。
ルイズが始祖の力を引き継いだ虚無の使い手だとしても、私はルイズに従うつもりは全く無い。
現代知識と原作知識を持っている以上ブリミル教を信仰してなどいないので、
自分の望みと一緒なら協力するし、違うなら敵対するごく普通の貴族としての関係を築くつもりだ。
なので、切り札になるであろうアイテムを相手に無条件で委ねる事なんてできない。
サイトのガンダールヴとしての能力は、盾として使えるデルフリンガーの属性魔法吸収能力が無いと大きく下がる。
上手く利用できている間は貸し付けておいて、そろそろ邪魔になってきたかなと思えるころに回収すれば完璧だ。
研究で使うとかいくらでも口実はある。
さらに、この世界は6000年もの長きに渡り支配者層の入れ替わりが無く、
個人の才能が重要視される魔法以外の技術への投資もほとんど無いので、
他に行き場所のない余剰資金が流れ、美術品などが極めて高い価値を持つ。
だからこそ始祖ブリミルが使い魔であるガンダールヴに持たせたという魔法を吸収する剣であるデルフリンガーにどれほどの価値が出るか楽しみだ。
それに、デルフリンガーは、6000年もの長きに渡り存在しているので話し相手としてもちょうどいいし、
だからこそ私自身の護身用として早めに魔法吸収能力を思い出させるのもありだろう。


「属性魔法をエネルギーにしているんだから、属性魔法をかけまくったら思い出さないだろうか?」


そんなことを考えつつ剣の形をした銅の看板の店を見つけたので入っていった。
亭主らしき親父に


「剣を探している」


というと、


「貴族の坊ちゃまが剣をご入用で?」


と聞かれたので


「ブレイドの魔法の練習用だ」


などと話していると、


「おめえ、自分を見たことがあるのか?その体で剣を振る?…」


などと、デルフリンガーが話しかけてきた。口の悪いやつである。
親父が焦って止めようとしているのにかまわず


「へ~、インテリジェンスソードか。それはいくらだ?」


と聞いた。親父はその剣を取り出し、


「この剣はエキュー金貨で50新金貨で75ですが、見てのとおりボロイし安物なのでぼっちゃまにはもっとふさわしい剣が…」


などと言っていたが


「これでいい。インテリジェンスソードなんて研究材料にもできてちょうど良い」


と答え、50エキューを払った。
はっきり言うことでもないが運動は苦手である。
転生してからまともに運動なんてしていない。
そんなことする暇があったら、魔法の研究・領地経営・商売をやっていた。
普通のメイジは魔法があるから体なんて鍛えなくてもいいのだ。
前世でも防具が気持ち悪そうだから、剣道ではなく柔道を選択したぐらいだ。
なので、剣術なんてまったくできない。
デルフリンガーの言ったことも間違えでは無いだろう。
でも、頭にきたので、私が飽きるまでこれからしばらくの間、実験に付き合ってもらうことにする。



その後ようやくトリステイン魔法学院に到着した。
まずは学院長であるオスマンに挨拶した後で、自分の私室になる部屋を怪盗フーケであるミスロングビルに案内してもらった。
手荷物以外は別便で送っていたので、学院のメイドに手伝わせて部屋の整理をした。
終わった後で平民の間での良い噂を買うためにメイドに20エキューほどのチップを渡した。
平民一人当たり一年間に必要な生活費が120エキューなので、2か月分の生活費と同額をポンと渡した私は、それなりに肯定的に評価されるだろう。
特にトリステインでは貴族の比率が高すぎて平民の扱いが悪いから…
ガンダールヴであるサイトに良いイメージを植えつけたいので、彼とよく話すことになる平民たちの評判は大事である。
それに、平民たちには独自の情報網があるので、面白い情報でも手に入るかもしれないし安いものである。




そしてこれからゼロの使い魔の物語が始まる。











みなさん読んでくださってありがとうございます。
改訂版第2話で書いた予定通りに9月中に原作前編の改訂を終わらせることが出来ました。
次話からは怪盗フーケ編になります。これからもよろしくお願いします。



[10764] 改訂版第10話 トリステイン魔法学院と使い魔召喚の儀式
Name: TNT◆5c31f948 ID:9345d807
Date: 2010/10/03 23:08
トリステイン魔法学院の新学期が始まるまでまだ少し日にちがあったので、コルベールと会って研究の成果を見せてもらったり、
デルフリンガーを本来の姿に戻そうと系統魔法を当ててみたり、実験の材料にしたりしてすごした。
そして、新学期が始まる前日に歓迎の為のパーティーをオスマン学院長が開いてくれた。
このパーティーでまずやらないといけないことは、相手の顔と名前を確認し、
ゲルマニアでトリステイン魔法学院に通っている子どもがいる家の情報を調べてきたので、その家の情報と照らし合わせてみることである。
魔法学院の生徒は子どもであっても貴族であるが故に家というものから離れられないので、一個人としてだけじゃなく実家の情報も大事なのだ。
それに私に接する時の態度でその家がこれからのトリステインの行く末をどのように考えているのかも推測できる。
実家の領地がガリアよりゲルマニアに近い場所にある者や実家が法衣貴族で、
レコンキスタがアルビオン王家を滅ぼした後で次に向かうのは大陸で一番弱体なトリステイン王国だと理解している者は、
もしもの時にゲルマニアに領地の保護を求める為にコネを作ろうと積極的に近づいてくるからである。
だから後日、魔法学院の生徒の本日の私への態度をいくつかのグループで分類してそれを報告書としてゲルマニアへ送った。



そんな中で領地がゲルマニアに隣接しているくせに、娘が公の場でゲルマニアへの蔑視を隠そうともしないラ・ヴァリエール家は、
これからどういう舵取りをするつもりなのかが興味が尽きない。
私がラ・ヴァリエール公爵の立場だったとしたら、選択肢としては、

・先王の死後積極的に国政に携わる。

・自領の維持を最優先としてレコンキスタへ寝返る。

・自領の維持を最優先としてゲルマニアへ寝返る。

ぐらいしか考え付かない。



原作のラ・ヴァリエール公爵はとても矛盾を抱えた人物だと思う。
原作でのアルビオン侵攻に反対したのは戦略的には間違っていないと思う。
レコンキスタがアンドバリの指輪に操られていることを知らなくて、
現実的な視点から考えて、聖地奪還を名目にしての資産の再配分が目的だと判断していた場合、
一度覚えた武力による資産の奪取という蜜の味を忘れられるわけが無いので、
トリステイン侵攻の失敗による外征による新たな資産の獲得という内部を纏める手段の消失が原因となって、
アルビオン内部では再び争いが起きると考えることは至極まっとうである。
そしてその後、アルビオン王家に一番近い血筋を持つアンリエッタ女王の名前を使って分裂を促進させていけば、
そんなに労力を使わずにレコンキスタからトリステインの安全を維持することが出来る。
トリステイン王国にとってはガリアの出方がわからないままの状態でのアルビオン出兵よりはるかに優れた戦略だと思う。


ただし、出兵が決定したにもかかわらず軍役拒否税を払って軍を出さなかったのは愚策としか言いようがない。
兄弟は他人の始まりという言葉すらあるように、例えば室町時代の足利将軍家と鎌倉公方家の対立や、
江戸時代では徳川家光と叔父である徳川義直の対立、徳川吉宗と徳川宗春の対立、
フランスのルイ16世の処刑に賛成票を投じたオルレアン公など親族同士で争いあうことなど珍しくはない。
アンリエッタ女王やマザリーニ枢機卿にとっても王家を蔑ろにしている分家など目障りこの上ないうえに、
治世の面からもラ・ヴァリエール公爵家をそのままにしておくよりは、
現公爵家を廃しそこにアンリエッタ自身の子どもを持っていったほうがよっぽど国内は安定するだろう。
そして当時のラ・ヴァリエール家には長女のエレオのールは行き遅れの年増女で、次女のカトレアは病弱、
三女のルイズは婚約者は謀反人で自身は魔法が使えないという致命的な欠点があり次代の当主になるべき人材がいないという致命的な問題が続いており、
これを利用すれば家臣団を分裂させることなどたやすい。
ならばこそラ・ヴァリエール公爵としては王家に忠誠を誓っているということを内外に見せる必要があったのだ。



それに娘が可愛いと言いながら魔法学院でのルイズの状況を全然把握していない。
というかそもそも魔法が使えなく母親であるカリーヌや長姉であるエレオノールと同じく対人関係に問題を抱えているのに、
一人で魔法学院にやることが信じられない。
侍女の派遣が禁止されていても、傘下の貴族の子女や金が無くて学院に通わせることの出来ない家の子女など、
ルイズのフォローや自分への報告などに使える人材には事欠かないはずなのにそれを怠っている。
にもかかわらず娘を利用する気なら王家にも杖を向けるとか言っている何を考えているのかが本当にわからない。
だからこそ現ラ・ヴァリエール公爵が生きているうちはルイズに手助けして虚無に目覚めさせるという手は取りにくい。
もう少し彼の目的と行動原理がわかればお互いの利益を尊重しつつ手を組むということも出来るかもしれないのに・・・。




新学期の初日にクラスの発表がありご都合主義なことに私もエリザベートもルイズたちと同じクラスだった。
エリザベートはこの一年でドットからラインへと能力を上げていた。
没落貴族なので、魔法学院にいるボンボンたちと違って必死に努力をしたのだろう。
手駒の能力が上がるのは私にとっても都合がいいので、魔法学院に行かせたのは正解だったみたいだ。
それに同じゲルマニア人で家が没落する前には面識もあったキュルケともそれなりに親しいようで、
彼女を通じて原作に介入することもできるだろう。
そして使い魔召喚の儀式、エリザベートはグリフォンを、そして私はケルベロスを召喚した。

神話ではケルベロスの唾液からトリカブトが発生したと言われている。

「?」

「多分、私は無分別に毒物なんて使わないような気がしないこともない感じがするから、
 トリカブトが原因で、ケルベロスを呼び出したんじゃないと思う。
 敵陣の風上からシアン化水素(HCN)を錬金して、風の魔法で補助して送り込み続ければ戦いに勝てるなんて考えてないし…」
などと考えていた。



そして、ルイズが何度も失敗し多くの罵声を浴びながら人間であるサイトを召喚した。



ようやくこれから物語が始まる。



コルベールと一緒に左手の甲のガンダールヴのルーンを確認した後で、ケルベロスを連れて部屋に戻った。
名前はソロモンの72の魔王からとって

「ナベリウス」にした。



[10764] 改訂版第11話 ささいな物語のずれ
Name: TNT◆5c31f948 ID:662e7e32
Date: 2010/10/11 16:02
使い魔召喚の翌朝はサイトに食堂の床で貧しい食事を食べさせるイベントがあったはずである。
食べ物の恨みは怖いので、私は部下だろうが何だろうが一緒に食卓に付く時は同じものを用意する。
わざわざ貧しい食事を用意して、一緒に食べさせることにルイズの品性を疑った。
身分によって相応しい食事があるというなら、別の場所で食べさせればいいのに…
これはシエスタフラグに繋がるから干渉はしないが気分が悪い。
確かに目の前で格差をつけた食事を食べさせて、自分の立場を理解させるというのはわからないことでもない。
しかし、ルイズはそこに他者の視線があるということをまったく理解していない。
などと考えていると、

「使い魔の餌は外でやれ。テーブルマナーも知らないのか!」という罵声や

「母親の血筋と育ちが悪いから・・・。」などといった侮蔑の声が聞こえ


ルイズは真っ赤な顔をしてサイトを連れて何も食べずに食堂から飛び出していった。



貴族の食堂で平民であるサイト床とはいえ食事をさせるのはマナー違反ではあるし、
高級レストランにペットを連れてきてそこで餌を与えるのと同じように不潔だし、
はっきり言って周りにいる我々生徒たちにとっては見苦しい限りではある。
でも原作では誰もここまではっきりとは言わなかったので、
この変化はラ・ヴァリエール家の凋落が生徒たちの実家にはっきりと認識されている為だと思う。
まあでもそんなに重要なイベントでもないしほっといても問題ないだろう。




そして次は失敗魔法のイベントである。
原作でルイズが失敗魔法でとばっちりを受けたクラスメイト達に謝罪すらしなかったのを読んで、

「他人に迷惑をかけたときの対応は人の器量を表すものだから、所詮ルイズはその程度なのだろう。
 トリステイン一の名門貴族であるラ・ヴァリエール公爵の娘だからこそ、
 謝罪すらしなくても対外的な処分を受けることなくそのまま済んでいるが、
 親の権勢に頼って好き勝手する人間は絶対に嫌われる。
 特に本人の能力が皆無で無能なルイズはなおさらだろう。
 被害を受けた人間がそのことを忘れるわけが無いのに…
 ラ・ヴァリエール公爵の娘だから直接手を出せないので、嫌がらせが影に篭るだけだ。
 無意識のうちに傲慢で他人に嫌われる行動を取っているので、両親の教育が完全な失敗だったのだろう。
 エレオノールが、公爵家の跡取り娘という好条件にも関わらず結婚できないわけだ。」

などと思っていたので、最初から迷惑を被らないように、ナベリウスには最初から出口に一番近いところにいさせ、
自分自身もルイズが指されたらすぐに教室から逃げられるように準備をしていたのにもかかわらず、
シュヴルーズ先生は錬金の魔法の実技でルイズを指さなかった。



これはよくよく考えてみると、ルイズの魔法の能力がトリステイン中に知れ渡っているし、
今までは魔法に失敗して他人に迷惑をかけるごとにラ・ヴァリエール家が多額の賠償金を搾り取られたことも有名ではあるので、
教師としては生徒の情報を事前に得ておくのは当然のことなので、ルイズを指さないのが普通のことだと納得も出来たし、
誰も迷惑を被らなかったので何も問題は無かったが原作イベントが潰れたのでちょっと物足りないとは思う。



そして、ルイズがメイジを自称しているのにその肝心な魔法を使えないという致命的な欠点がサイトに知られず、
ルイズもサイトを食堂に入れるようなことをせずに、メイドに使い魔に食事を与えなさいと命令したらしく、
昼食時にルイズが魔法を使えない事を馬鹿にする歌を歌って怒ったルイズに食事を抜かれるイベントも無くなってしまった・・・。
私は同じゲルマニア人であるキュルケ達と一緒にお茶を飲み談笑をしながら、
内心ではこのままでは原作の重要イベントであるギーシュとの決闘イベントも無くなってしまうのかと焦っていると、
シエスタがサイトと一緒にケーキを配りにやってきた。
ギーシュも友人たちと話しているので1巻の最重要イベントが無くならずに済んだので安心してほっと一息ついていると、
サイトがギーシュが落とした香水の小瓶を拾い、二股がばれたギーシュが八つ当たりをかねてサイトに決闘という名の公開リンチを申し込み、
ルイズは必死で止めたが、サイトは未知の場所に連れてこられたストレスに対する八つ当たりと、
魔法という力に対する無知ゆえの蛮勇から考えも無しに承諾し二人はヴェストリの広場で決闘をすることになった。






今回も読んでくださってありがとうございます。
旧版ですが改訂版のフーケ編が終わったところでまとめて削除しようと思っています。



[10764] 改訂版第12話 決闘
Name: TNT◆5c31f948 ID:fa85bd2e
Date: 2010/10/07 02:02
決闘が始まるとギーシュは青銅製のゴーレムであるワルキューレを錬金の魔法で製造し、
それを使ってサイトを散々に痛めつけているように見えたが、
金属製のゴーレムは刃物を持たせなくても腕を振り回せば硬さと重さで十分武器として使えるし、
関節でも折ればあっさりとこの決闘ごっこを終わらせることが出来るので、実のところ殺したり重傷を負わせないように手加減をしているようだ。
そして、原作通りにサイトはルイズの制止を振り切りギーシュの作った剣を握ると急に動きが早くなって、ギーシュのゴーレムを切り裂いた。
そして、その勢いのままギーシュが出した残りの6体のゴーレムをも切り裂き、
剣を突きつけて降伏させた後で張り詰めていた糸が切れ気が抜けたのかそのまま倒れこんだ。


私も実際に目にしてはっきりと理解できたが、素人をここまでドーピングできるガンダールという能力はいろいろと厄介である。
もしも、サイトと敵対することになった時の対処法も考えてみると、


・絶対にやってはいけないのが近接戦闘である。

・フーケみたいに隠れてゴーレムに攻撃させるのもいいが、あの素早さでは当たるかどうかがわからない。

・遠距離からの魔法はデルフさえ渡さなければ有効だと思う。

・錬金から爆発に繋げる魔法は、自分からある程度距離がないと使えないが、魔法での爆発ではないのでデルフを持っていても有効のはずだ。

・錬金で一酸化炭素(CO)やシアン化水素(HCN)なんかを作り出すのもいい手だと思う。自分が吸わないようにできる距離まで離れていたらの話ではあるが。

・一番簡単なのが、武器を持っていないときに不意打ちをすることだろう。貴族の誇りとかはどうでもいい。

・レビテーションの魔法をかけて浮かせ空中から落下させる。


などいくらでも思いつく。ただ、故意に敵対することもないし

「バカとハサミは使いよう」

という諺もあるので、せいぜいうまい使い方を考えようと思う。




ドットとはいえメイジであるギーシュが平民に敗れたのであたりは騒然としていたが、
すぐにギーシュのあまりの無様な有様への、その場にいた学院の生徒みんなからの非難に変わった。
少数のメイジが多数の平民を魔法という力で押さえつけているここハルケギニアで、
不意打ちのすえではなく決闘という形をとって貴族が平民に負けるということは政治的にかなり不味いことになる。
そしてこのことは、学院の生徒たちが直ぐにでも実家に報告するはずなので近日中にトリステイン王国の貴族中に広まり、
元帥として軍部に影響力を持つグラモン家の家名を大きく傷つけることになり、そしてギーシュ自身も婿養子としての受け入れ先が無くなる、
他人に侮られて軍で出世しにくくなる等の家を継げない名門貴族の子弟としてはかなり厳しい実害を負うはずだ。


メイジというのは上流階級としての統治者という面だけでなく、血統による魔法という才能に依存する技術者という側面も持っているので、
江戸時代の武士の次男・三男みたいに婿養子にいけなければ一生部屋住みで飼い殺されるなどということはない。
何故ならばメイジの数の増大は生産力や軍事力の向上に直結するので分家の創設は国家としても望むところだからだ。
ただ、領地を分割して分け与えられることは少なく、大半が領地を持たない法衣貴族として国に仕えることとなる。
問題は大多数の法衣貴族の国からもらえる年金は貴族としての体面を保った生活を維持できる最低限しかないということだ。
なのでギーシュはこのままいけば貧乏暇無しの人生を送らざるを得なくなるはずだ。
そしてモンモランシーとの付き合いも彼女の実家に反対される可能性が高い。
モンモランシ家はトリステイン王家と水の精霊との盟約の交渉役を何代も務めてきた名門ではあるのだが、
近年は水の精霊を怒らせて領地の干拓に失敗したため莫大な借金だけが残り、その上精霊との交渉役も外された落ち目の家で、
さらには水の精霊はアンドバリの指輪を盗まれた所為でラグドリアン湖の湖水を上昇させており、
ラグドリアン湖に隣接する領地を持つモンモランシ家はさらに耕作地が減って弱り目に祟り目な状態だ。
この状況でモンモランシーの婿として求められているのはまかり間違っても貧乏なグラモン家の人間で、
しかもわざわざ魔法学院の広場という多数の人目に触れる場所で平民に決闘で負けた恥さらしのギーシュではなく、
モンモランシ家を経済的に援助することが出来る金持ちな名門貴族出身の親の領地を継げない次男以下の人間か、
最悪の場合は名門貴族の血を求める成金の成り上がり者と結婚させられることに成るだろう。



ギーシュの実家のグラモン家は見栄のための軍備に金を使いすぎて台所事情が苦しく借金も多いが、
現当主であるギーシュの父親が魔法衛士隊の隊員時代にルイズの両親と親交があり、
反ラ・ヴァリエール公爵家ではない数少ない有力貴族の一つである。
公爵夫人であるカリーヌとも彼女は男装をしていたが一緒に戦った戦友であり、
彼女の魔法の才能も知っているので、他の名門貴族たちのように身分が低いからといって偏見で見下し、
最初から嫌ったりはしていなかったが、子ども可愛さのあまり自業自得の結果なのにも係わらず、
相手を逆恨みをする馬鹿親なんて何処の世界にもいるものだから今回の一件でどうなるかはわからない。





キュルケ達とそのまま一緒に決闘を見ていたのでタバサともう少し接点を作るために

「風のトライアングルメイジであるミスタバサとしてはこれをどうみる?」

と話しかけてみた。

「剣を持つと急に動きが別人になったような気がした。」

話しかけたのは初めてだったがちゃんと答えてくれた。

一緒にいたキュルケが不思議そうに

「オットーってタバサが風のトライアングルメイジだって知ってたの?」

と聞いてきたので、

「一応ゲルマニアを代表してここに来ているわけだから恥をかかないように優秀だといわれている生徒のことは出来る範囲で調べているよ。」

と答えた。

「火のスクウェアのオットーならほとんどの相手には負けないと思うんだけど意外と神経質なのね。」

と呆れたように言われたので、

「あはは」

と言って誤魔化し

「私はまだトライアングルだよ」

と、間違えを否定しておいた。

「えっ。オットーってトライアングルだったの?父上は火のスクウェアだろうって言ってたし、
 私もあの威力はスクウェアスペルだと思っていたんだけど・・・」

と、キュルケがビックリしたように言ったので

「まあいいオリジナルの火の秘薬を使っているからね。」

と答えた。これは秘薬と言う言葉を使ってタバサに興味を向けさせるためだ。

「そういえば貴方って新しい水の秘薬も開発してたわね。いいわ、私にも売って!」

キュルケは高性能な秘薬という言葉に興味を持ったようだった。
そして、水の秘薬を開発したと聞いたときのタバサの表情が珍しく変わった気がした。

「残念ながらそんなに数がないんだよ。それに手品は種明かしをしたら面白くないじゃないか。
 それに、キュルケなら高価な秘薬でごまかさなくても、あのくらいの炎は使えるようになるさ。」

「なんかごまかされている気がするわね。」

「あはは、そんなことないよ。ところであのルイズの使い魔倒そうと思ったらどうする?」

「へ~。そんなことを考えていたんだ。」

「ドットとはいえメイジであるギーシュに勝ったし、それにあの剣を持ってからの動きは尋常じゃなかったからね。
 それに今回の一件で平民どもが調子に乗る可能性もあるしね。」

「近接戦闘は危険。遠距離からの攻撃が好ましい。」

「さすが、ミスタバサ…」「タバサでいい」

「じゃあ、さすがタバサ。私もまったく同じ考えだよ。
 遠距離からの魔法もしくは、術者は隠れたうえで、剣で壊せない大型のゴーレムを使うしかないだろうね。」

「タバサやオットーに認められるなんてさすがダーリンね。」

「「はっ?」」

「なんだか好きになっちゃったみないなの。」

「悪趣味。」

話が続きそうだったので、

「なんていうか、がんばって。」

と言って逃げ出した。



「水の秘薬の開発」



薬で病んでしまった母親を治す方法を探しているタバサにとっては印象に残る言葉だろう。
未来のガリアの女王になるかもしれないタバサと接点を作るのは悪くは無いはずだ。
将来ギブ&テイクで取引したくても、フラグの欠片もなければ怪しまれて失敗に終わる可能性が高いからだ。
あんまり近づきすぎてジョゼフに目を付けられたら堪らないので接触は注意にを要するし、
同じ学院の生徒で同級生以上の関係になるつもりは今のところはないが…。



[10764] 改訂版第13話 予期せぬ決闘の余波
Name: TNT◆5c31f948 ID:32c32993
Date: 2010/10/11 16:04
サイトはギーシュのゴーレムにやられた怪我で寝込んでおり、ルイズはその看病中なのでしばらくは何も起きないかなと油断していたら、
今回の騒動の原因として、魔法学院の使用人ではないサイトが給仕の仕事を手伝うのが許可したシエスタが責任を取らされ学院のメイドを解雇されるところを、
自己都合による辞職あつかいにすることを条件に、魔法学院に公務で来たときに彼女の美貌に目をつけていた王宮の役人で好色で有名なモット伯の屋敷で働くことになったみたいだ。
シエスタとしてもこのまま解雇という形だと、家族やメイドになる時に口を利いてくれた人などの多くの人に多大な迷惑をかけることになるので断ることが出来ず、
自分をこんな境遇に追い込んだサイトを深く怨みながら承知したのだ。



ここハルケギニアでは平民の女性が現金収入を得るために働ける真っ当な職場の種類はあまりない。
その中で一番雇用先が多く人気も高いのが貴族の屋敷でメイドを含む使用人として働くことで、その他は食堂の給仕か針子ぐらいだ。
貴族の屋敷で働く平民が多い理由は、貴族としての体面上どんなに下っ端でも一家に一人ぐらいは使用人ぐらいは雇わないとまずいという価値観が存在し、
それになにより、貧乏な下級貴族にとっても家事などの平民でも出来る雑事は平民にさせて、
それにより空いた時間で、魔法を使ったバイトでもしたほうがよっぽど利益になるという現実もある。
国からの年金だけでは食べていけないから働くというのは、江戸時代の貧乏武士の内職と似たようなものだが、
魔法という付加価値の高い技能を持っているおかげでこちらの方が状況は良い。
それに政府としても多くのメイジが魔法を使って働いてくれた方が国の発展のためには都合がいいし、
年金を増やすと財政が破綻するのは確実なので公務に支障をきたさない範囲で黙認している。
そしてこのトリステイン王国ではメイジの人口は平民の人口の10%もある。
子供も労働力として考え貧乏子沢山の家庭が多い平民と違い、子供の教育や結婚には金がかかるので特に貧乏貴族は余り子供を作らない。
なので、世帯数として考えてみるとこの差はさらに縮まる。そして身分が上がるほど雇うべき使用人の数も増えるので、
だいたい平民5世帯に1人ぐらいの割合で貴族に使用人として仕えている事になる。



平民の間でも貴族に仕えることが好まれる理由としては、相手の身元がしっかりしており、礼儀作法なども学べ、
長年忠勤に勤めれば結婚適齢期に同じ平民相手ではあるが結婚相手を紹介してもらえたり、
自分の子どもがまたその家に仕える事ができたりすることなどいろいろあるが、
一番の理由としてはメイジ中心の社会制度が完成しているハルケギニアでメイジのおこぼれに預かることが出来る点だろう。
例えば平民が魔法に触れる機会としては病気の治療などがあるが、メイジと平民が同じ内容の治療を受けた場合メイジの方が安く済む。
こういったことはいくらでもあり、数少ない平民の富裕層が魔法を利用した快適な暮らしをしたければメイジに多額の金が流れるようになっているのだ。
これは始祖ブリミルの降臨から6000年もの長い間に社会制度がメイジにとって暮らしやすいように整えられているからに他ならない。
そして支配者階級であるメイジ達はその恩恵の一部を自分たちに仕える者に分け与えることによって、
平民への支配をさらに盤石な物にしているのである。だからこそ貴族対平民という形での争いは起き難い。
貴族に仕えることによって他の平民達より利益を得ている平民がかなりの数存在している以上、
平民のすべてが反貴族で一致団結してまとまるなんていうことなどありえないからだ。
分断して統治するという支配者としてのノウハウは少数で多数を支配するための必須技能である。



そんな中で準国家機関である魔法学院のメイドという職は平民の上位層からの人気が高い。
衣食住が無料で提供されるうえに、給料その他の労働環境は他と比べたら良いく、
そして何より主人に体を要求されることが無いから結婚前の腰掛けとしてのキャリア作りにちょうど良いのだ。
トリステイン魔法学院の学院長であるオールドオスマンはスケベだとしても、メイドを無理やり自分の物にするような性癖の持ち主ではないし、
性欲の塊のような年頃の男子生徒が大勢いるが、だからこそ過去にメイドを取り合って貴族同士の決闘なども起こった教訓から、
そういう問題の抜本的解決のために生徒がメイドに手を出すのは固く禁止されている。
これほどの好条件で働けるのは裕福な名門貴族に代々に渡って仕えている場合ぐらいだ。
ただ、そういった人気職場だからこそ自分のポストを確保するためにメイド同士の足の引っ張り合いも激しい。
そして、今回の決闘騒動は多数の観客の前で行われており無かったことにするのは不可能なうえに、
充当にギーシュが勝っておれば問題なかったのであろうが、番狂わせで平民のサイトが勝ってしまったので、
生徒たちは当然のように実家に報告するので貴族社会で知れ渡ることになる。
トリステイン王国の貴族であり魔法学院の生徒でもあるギーシュが平民と決闘して敗れるということはギーシュ個人やグラモン家の名誉だけではなく、
学院の生徒全員さらにはトリステインの貴族すべての名誉を傷つけることにつながるのである。
そんな中で、専門的な教育を必要とする給仕という仕事を無関係で無知なサイトに手伝わせて、
今回の騒動の一因を作ったシエスタが何もお咎め無しに終わるはずが無かった。


だからといって、シエスタの処分はオスマン学院長が直々に決めたわけではない。
1メイドの処分などという些細な事柄に公務で忙しい学院長が関わるはずも無く、
これはメイドたちの管理を一任されている中間管理職である平民出身のメイド長の判断だ。
彼女としてもラ・ヴァリエール家令嬢であるルイズの使い魔であるサイトの社会制度に対する無知と無鉄砲さが原因とはいえ、
失態を犯してそれが結果的に大問題につながったシエスタをこのまま学院にメイドとしておいて置くわけには行かないうえに、
今回の一件の関係者のうちシエスタだけが誰の庇護も無いという状況から、
モット伯の愛人になって庇護下に入った方が彼女やその家族の安全も護られるだろうという判断も加わっている。
彼女は貴族たちが学院の使用人達が増長しないように誰かを見せしめにしかねないということも理解していたので、
関係者でありミスを犯したシエスタを切り捨てることでその矛先が他のメイド達に向かないようにし、シエスタにとっても一番ましな結末を用意したのだ。




さすがに私が手を出して変化を加えたわけでも無いのに、原作どころかアニメとも異なる結末に唖然としたが、
きっとアニメで有ったモット伯のイベントの変形なんだと思って深く考えないようにした。
そして、ガンダールヴであるサイトにも興味はあったが、彼がギーシュに決闘で勝ってみんなから注目されたこの状況で接触するのは人目を引くため非常に不味いうえに、
特にコルベール先生にガンダールヴのルーンを確認したのを見られているので、
下手な接触はオスマン達に怪しまれる危険があるから、目立たないで関係の糸口を作れるチャンスを窺っていこうと思う。




ルイズは自分の使い魔が憧れていた幻獣などではなく平民であるサイトなのには不満いっぱいだが
それでもメイジであるギーシュを倒してみんなに注目されたのでそれなりに満足はしているみたいだ。
ただ、自分を主として尊敬せずに不愉快な気分にさせることには我慢ならなかったようで、
言うことを聞かせるために罰としてメイドに使い魔の食事を抜くように命じて兵糧攻めにしたりもしてていた。




原作と違ってサイトとギーシュの決闘事件の影響でシエスタがメイドを首になっているので、
サイトはトバッチリを恐れた平民達から危険人物扱いされており、またシエスタと親しかった者からは怨まれているので、
ルイズの命令通りに日々の食事は与えられていたが、彼と積極的に関わる平民はまったくいなかった。誰だってメイジという権力層に睨まれたくはないのだ。
もしも平民であるサイトがメイジであるギーシュに勝ったことを理由に人前で彼を褒め称えるような者がいたら、
とんでもない無能なお調子者だと言わざるを得ないだろう。
ここはメイジの牙城トリステイン魔法学院であり、サイトが半死半生の怪我を負って勝ったのはメイジとしては最低の実力しかないドットメイジであるギーシュなのだ。
魔法学院という貴族が多数集まる場所で働いているだけあって彼らは貴族というものがどういうものか良く知っている。
というより使用人に無理難題を言いつけて自分の優越感を示そうとする者から、メイドを買収して他の生徒の情報を得ようとする者まで、
あまりにいろいろなタイプがいるため貴族の一言では括れられないことをよく知っていると言った方が正しい。
ただどんな貴族であっても自分たちの権益が侵されるのだけは一致団結して絶対に阻止しようとすることだけは理解している。
そんな中で、もしも平民たちが集まってそんなことをしたら危険思想の持ち主として処理されるだけだ。
平民だけで集まったとしても、何かあれば貴族に注進して自分が利益を得ようとする輩が絶対にいるので油断は出来ない。
例えば下手な貴族よりもはるかに高収入を得られる魔法学院のコック長というポストを、
現コック長のマルトーを失脚させてでも狙っているのはメイジではなく平民だ。結局のところ平民の敵は同じ平民なのだ。
我が侭な餓鬼が痛い目にあうのを見るのは気分が良いが、その火の粉が自分に降りかかってくるのは誰だって嫌だ。
なので、彼の主であり庇護者である公爵令嬢のルイズの命令に逆らってまで、学院の貴族達から嫌われているサイトに平民達から食事が与えられる事は無く、
いくら負けず嫌いで頑固な彼も空腹に耐えかねてすぐに屈服するかに思えたが、
サイトのことを気に入ったキュルケが食事を与えたのでルイズのたくらみは失敗に終わった。



[10764] 改訂版第14話 フーケの襲撃
Name: TNT◆5c31f948 ID:4707b171
Date: 2010/10/11 15:59
私はルイズたちが剣を買いに行きフーケが学院の宝物を襲う予定日である虚無の日までに、
デルフリンガーを本来の姿に戻そうと努力を重ねていたが、ついにデルフが偽装するのを諦めて正体を現した。
適度に刀身に属性魔法を当ててエネルギーを吸収させていたことと、
濃塩酸(HCl)と濃硝酸(HNO3)を3:1で混ぜた王水に金を溶かして見せ、

「次はデルフの番だね。」

と笑顔で言ってやったのが勝因だと思う。
それにしてもデルフは、最近口の悪いのが少しずつ減ってきているような気がする。
気に入らないことを言われたときには、がんばって研究してあげたからだろうか?
でもこれでゼロ戦とともに物語で重要なアイテムを2つ手に入れたことになるので喜ばしい。




そして、とうとう虚無の日がやってきてルイズはサイトを連れてトリスタニアに剣を買いにいった。
本来サイトが手に入れるはずのデルフリンガーはここにあるからどんな剣を買ってくるんだろうか興味はある。
ただ、原作では新金貨100枚しか持ってないはずなので、お嬢様で買い物の下手なルイズにはレイピアぐらいしか買えないだろうけど…
そして私自身は今夜はフーケの襲撃イベントがあるはずなので、徹夜してもいいようにしっかり寝ておこうと思っていたが、
同級生のレイナールたちに

「トリスタニアの町に面白い酒場があるんだ。案内するから一緒に行かないか?」

と誘われた。

せっかくの好意を無にするといろいろと問題が発生しかねないので表面上は喜んだ振りをして参加することにしたが、
心の中では

「私の睡眠を返せ~~~~~~。昨日の夜は寝ないで準備してたからすごく眠いのに~~~」

と泣いていた。
ただ私にも彼らが例え下心があるにせよ私に好意を示してくれているのは理解できるので、今度暇な時にでも金の無い彼らにご馳走してやろうと思った。



学院に戻って夜になり、待ちに待ったフーケの襲撃イベントの時間がやってきた。
フーケのゴーレムが暴れるのを隠れて見学し、上空にタバサとシルフィードがいなくなってから、
見つからないようにミスロングビルこと土くれのフーケの匂いを覚えさせておいたナベリウスに乗って追跡し、
森の中の廃屋で彼女が学院の宝物庫から奪ったM72 LAW 対戦車ロケットランチャーを手に入れた。


これで、成形炸薬弾とロケットの技術の見本が手にはいる。


破壊の杖を自分の部屋に持って帰るわけには行かないので、塗装と本体機能に関係ない部分を錬金の魔法で変化させ偽装工作を行い、
学院に戻る途中で森の中に埋めて隠して、竜騎士を使ってゲルマニアに報告書を届けるついでに屋敷の研究所に送ることにした。
そしてナベリウスにはフーケを追跡したことは同じ使い魔同士にも内緒にしておくように言ってから別れた。




盗みという犯罪において一番難しいのは盗んだ物を金に換えることであると私は思っている。
しかもフーケは重くてかさばるがそのまま貨幣として使える金貨や小さくて換金しやすい宝石ではなく、
お宝といわれるほど有名な一品物しか盗まないのでその難易度は遥かに跳ね上がるだろう。
貴族がそういった美術品やマジックアイテムを好んで所有し、誰がどんな物を持っているという話が知れ渡る理由は、
他者に自分の財力などの力を見せ付けるのに都合がいいからである。
もしトリステイン魔法学院から盗まれた世界に一本しかない破壊の杖を買い取ったとして、それにはどのような使い道があるだろう?
破壊の杖を持っていることが他人に知られたら、フーケと繋がっていると思われてフーケの被害者である貴族たちに憎まれ法廷送りになり、
もしそこで運良く無罪を勝ち取っても、これが何であるかということすらわからなくて盗品を買わされた無能な貴族として蔑まれ、
元の持ち主から返還請求をされることになるだろう。だからこそ盗品を売ろうとしても買い手を探すのはとても難しい。
そして、そこら辺のゴタゴタを黙らせることの出来る本当に力のある貴族ならば表の手段で手に入れることができる。
金や地位を対価として相手を納得させて手に入れることもできるし、手放すように圧力をかけることもできる。
そして、どうしても売らないと言うのなら相手を失脚させてその上で合法的に奪うという方法もある。
自分の出世のために些細なことを口実として他人を追い落とそうとする人間はいくらでもいるのに、
それが出来ない程度の力しか持たないで、他人に盗品の買取という表立って糾弾できる隙を見せたら簡単に潰されてしまうだろう。
この世界には、始祖ブリミルの降臨以降6000年もの長い間社会を安定させてきたルールが存在しており、
貴族としてのルールを逸脱して貴族社会全体から嫌われたら、どんなに力の有る家でも生きていけないのだから。




だからこそフーケのやっていることはティファニアを始めとする孤児を育てる為というには不合理的すぎる。
それにティファニアを匿いたいのなら、情報が漏れるのを防ぐ為に孤児なんて養うべきではないし、
孤児を育てたいのなら、一緒に居ると巻き添えをくらいかねないハーフエルフであるティファニアとは別の場所にいさせるべきだ。
だから、私には彼女がティファニアや孤児たちを育てるのに金がかかるということを口実として、
ただの愉快犯として自分が失った貴族という地位に就いている人間が困るのを楽しんでいるように思える。
これがまだアルビオンでやっているならば、貴族の地位を追われたのは彼女の父親が悪いので自業自得とはいえ、
逆恨みで復讐していると納得できないことも無いが、舞台としているのはサウスゴータ伯爵家の没落とは何も関係ないはずのトリステイン王国だ。
やっていることがめちゃくちゃで何を考えて行動しているのかまったく理解できない。
だから私は二次創作などでよくあるようなフーケを自陣営に引き込むなんてことは絶対にしない。
というかハーフエルフであるティファニアを手に入れるという事は政治的に危険すぎる。
ハルケギニアではエルフと子供まで作ったモード大公やティファニアを匿ったサウスゴータ伯が異常なのであって、
最初は追放で済ませようとしたジェームズ1世の処分は甘過ぎるくらいなのだ。
そして、フーケを捕らえてもトリステイン王国が褒賞を渡さないので、骨折り損のくたびれもうけになることは原作知識からわかっていたので、
私はフーケ討伐に対してこれ以上干渉するつもりはなかった。
原作でフーケのゴーレムを倒した破壊の杖は私が手に入れたので、たぶん失敗するだろうとは予想しているが、
フーケがトリステイン王国で貴族相手に盗賊を続けてもゲルマニア人の私には自分が被害にあわない限り何も問題ないどころか、
盗賊1人捕らえられない王政府の能力に疑問を持たせることが出来るので、トリステインの治安の悪化はゲルマニアにとっても利益になるからである。




なので、徹夜続きですごく眠いので部屋で寝ようとしていたら部屋の戸がノックされ、
なぜか部屋に入ってきたキュルケにフーケ討伐隊のメンバーに誘われた。
余計なフラグを立ててしまっていたことにひどく後悔した。
眠くて、自分の名誉を傷つけないこととルイズとの関係を損ねないことを両立させた上手い断り方を考えるだけの思考力が働かず、
こんな状態で参加したら下手したら殺されかねないので、はなはだ不本意ではあるが、

「軍事上の一番の大敵って何か知ってる?」

と、キュルケに聞いた。

「有能な敵じゃないの?」

「違う。無能な味方だ。ミス・ヴァリエールが参加をするなら私は遠慮させてもらうよ。
 魔法も使えないくせに参加するような恥知らずに足を引っ張られたくはないからね。」

と言って断った。
ルイズとの関係より私の命や名誉の方が大事だ。




ルイズは「無能」と本当のことを言われたのでギャーギャー喚きながらフーケ討伐に向かっていった。
眠いのだからルイズの戯言なんかまともに聞くつもりなんてまったくないので聞き流した。


ふう。これでようやく寝られる。


起きてから今回のことを思い出し、眠いと思考能力が低下しすぎるから、ちゃんと睡眠は取ろうと心に誓ったのであった。




ルイズは怒り狂っていた。
「なぜ自分はこんなにも努力をしているのに魔法が出来ないのか?」

「なぜオットーは、まったく努力をしているようには見えないのに、火のスクウェアなのか?」
(オットーは土のトライアングルです。だた、ピクリン酸を錬金し、そこにファイアー・ボールで着火のコンボの痕を見た人間から、
 火のスクウェアであろうと言う噂が広まっているだけに過ぎません。)

「なぜ野蛮で成り上がりどもの国であるゲルマニアの人間に、
 トリステイン一の名門貴族であるラ・ヴァリエール公爵家の娘であるこの私が馬鹿にされ蔑まれないといけないのか?」

絶対にフーケを捕まえて自分を馬鹿にしたことを後悔させてやると心に誓い、
馬車の中でフーケを捕まえた自分をオットーや同級生、両親やワルドたちが崇め奉っている状況を妄想しながら、
フーケ討伐に向かっていった。



[10764] 改訂版第15話 フーケ討伐の結果
Name: TNT◆5c31f948 ID:8f21834c
Date: 2010/10/13 20:07
フーケ討伐は予想通り失敗した。




原作でゴーレムを倒した破壊の杖ことM72 LAW 対戦車ロケットランチャーは私が確保していたので、ゴーレムを倒す手段が無かったので当然の結末だ。
私はトリステイン魔法学院に来てから、錬金の汎用性の高さと戦闘での有用性が他の人間に知られないように注意してまったく使わなかったので、
キュルケには普通に火の魔法を使うしか攻撃手段が無く、土でできた巨大ゴーレムにただの炎を飛ばしてもろくなダメージを与えられない。
タバサの風は速く鋭いがそれだけで、質量を持っていないので攻撃が軽く、大型のゴーレムにダメージを与えられない。
サイトは武器がキュルケの装飾用の剣とルイズから買い与えられた安物のレイピアしかなかったので、
両方とも斬りつけたら当然のように剣の方が負け、ガンダールヴの力を失い役立たずになった。
ルイズは無謀にもゴーレムに突貫し、失敗魔法は明後日の方向へ飛んでいきあっさりと捕らえられ、
キュルケとタバサは自分たちではどうしようもない事を悟り、怪我をしたサイトを捕まえて無理やり撤退したそうだ。


「?」


「?」


「エ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


「原作1巻で物語が終わるなんて…ちょっと干渉しすぎたか…。」


「いや、きっとヒロインが敵に捕らわれることによって起こる、ヒーローの覚醒イベントなんだ。」


「対レコンキスタ戦どうしよう…。」


「虚無覚醒イベントでレコンキスタ艦隊を倒せないんじゃ、他の手を考えないといけない。」


「?」


「ゲルマニアとしては、タルブで負けても問題ないからそれはそれで良いのか…。」


「代用で出てくる虚無の使い手は誰だろう…?」


「破壊の杖が無かったんだから撤退するんじゃないのか普通…。」


「原作ではサイトはこの時点でデルフを使わなかったから無くても問題ないはずだ。」


とかいろいろな思考が頭の中をよぎったが、大きく深呼吸して、ちょっと落ち着いて冷静に考えてみた。
きっとルイズは生きているだろう。フーケも別に貴族を虐殺して回りたいわけではないかもしれない。
そして、破壊の杖が無くなっている現状では、あれだけオスマンのセクハラに耐えたのにただ働きにはしたくはないだろうし、
ラ・ヴァリエール公爵家がルイズに失敗の所為で何度も多額の賠償金を払っていて、
普通だったら修道院にでも押し込めるはずなのに、そのまま学院に通わせてることは知っているはずなので、
せっかく捕らえたルイズを殺すより、ラ・ヴァリエール公爵家から身代金を取ったほうがいいと思うだろう。
ラ・ヴァリエール公爵もあれでルイズを溺愛していたから、きっと身代金は払うはずだ。
それに一般的なトリステイン貴族の考えからいっても殺されておれば名誉の死で済むので喜んだとしても、
公爵家の娘が身代金を払えなかったから殺されましたでは家の名誉が傷つくから嫌でも払わざるを得ない。


ルイズはきっと生きて戻ってくる。


なら何も問題ないじゃないか。



それにルイズのことは今更考えてもどうにもならない。

優先順位としては、


私が自由に使える成形炸薬弾の技術>>>>>>>自由に使えないルイズの虚無の魔法だ。


それ自体の判断は間違いないはずだ。
レコンキスタは、ルイズが居なければトリステインの貴族と傭兵の命を大量に生贄にささげて、ゲルマニアが乗っ取るシナリオに進むだけでそこまで問題はない。



まあいい賽は投げられたのだ。



帰還したキュルケ達から、任務に失敗してルイズが捕らわれたと報告を受けたので、学院中が大騒ぎになった。
意図的に邪魔をして同じ失敗をした私が言うことでもないが、サイトが神の盾ガンダールヴだと知っているオスマンとコルベールは別として、
他の教師達はどうしてこの任務が成功すると考えることができたのだろう?
キュルケもタバサもトライアングルとはいっても学生であることには変わりないし、
ルイズにいたっては簡単なコモンマジックをまともに成功させることすら出来ない無能。
ルイズの使い魔であるサイトもたかが平民でしかない。
ギーシュとの決闘に勝利したと言っても、ギーシュには殺す気がなかったし、メイジとしての最低ランクでしかないドット相手に大怪我をしている。
それになにより剣ではフーケの大型ゴーレムにダメージを与えられるわけが無い。
このメンバーでトリステイン中の貴族を恐れさせている盗賊フーケに勝てるはずがないではないか。
そして敗れた場合、無傷で無事に帰ってこれると思っていたのだろうか?
特に原作では、キュルケはゲルマニアからのタバサはガリアからの留学生であり国際問題になる恐れがある。
そしてルイズは国一番の大貴族であるラ・ヴァリエール公爵の娘なのだ。
その権力を使ってどんな報復があるか考えなかったのだろうか?
ただ今は原作と違ってラ・ヴァリエール公爵家のトリステイン国内での影響力は著しく落ちているし、
ルイズが自分から志願したという言い訳もできることから、
オールドオスマンを初めとした教師たちの処分がどうなるかわからないので、
ここは彼らに恩を売る為にも準備しておく必要がある。




私は、自分が今回の一件にまったく責任を問われない立場であることに安堵し、
もしも学院の教師が厳しい処分を受けることになってもコルベールだけは何とか助けて部下に引き抜こうと思いつつ、
ようやく眠気が取れて頭がすっきりしてきたので、病室でサイトの手にまだルーンがあることを確認した後で、
食堂に行って飲み物と軽い食事を食べてからキュルケ達に会いに行った。




安易な気持ちでフーケ討伐に行って失敗し、喧嘩友達だったのであろうルイズを助けられなくて、
キュルケはさすがに目に見えて意気消沈しているようだった。

「貴方の言うとおりだったわ。ルイズをフーケ討伐に参加させるべきじゃなかった。あの子は戦いというものをまったく理解していなかった。
 私が一緒に行くと言い出さなければ、先生達もルイズ一人では行かせなかっただろうから、こんなことにならなかったのに…。」

と、フーケ討伐にルイズを参加させたことを後悔しているようなので、まずは元気付けることにした。

「ミス・ヴァリエールはまだ生きてるよ。彼女の使い魔のルーンがまだ残っていることを確認してきたからね。それにフーケは多分彼女を殺さない。
 魔法が使えない無能でも一応は公爵令嬢だから、殺すよりも身代金を要求したほうが良いと気がつくはずさ。
 殺したらラ・ヴァリエール公爵もメンツにかけてフーケの首に多額の賞金をかけてでもフーケを捕らえようとするだろうし、
 それに彼女は魔法が使えないから脅威にはならない。ラ・ヴァリエール公爵が身代金さえ払えばきっと無事に帰ってくるはずさ。」

「でもルイズは魔法が使えない上に今まで何度も魔法の失敗でラ・ヴァリエール公爵家に多大な損害を与えてるはずよ。
 そんなルイズのためにラ・ヴァリエール公爵が多額の身代金なんか払うのかしら?」

とまだ不安を隠せない様子で言ったので、

「払わざるを得ないさ。金を惜しんで娘が殺されましたじゃ公爵としての立場がないからね。
 特にミス・ヴァリエールのように魔法が使えないという悪評がトリステイン中に広まっている場合はね。
 ラ・ヴァリエール公爵が自分で仕組んだとこだと見る人も出てくる可能性も高いし、
 内心は盗賊退治の最中に名誉の死を迎えてくれた方が良かったと思っていたとしても、
 身代金を要求されたという噂が広まることが考えれば払うしかないのさ。」

と、貴族としての一般論で答えてみた。
確かに金を惜しんで娘が殺されましたでは貴族にとって一番大事な名誉を傷つけ他人に馬鹿にされる理由になる。

「はあ…、オットーは相変わらず冷静なのね。」

「まあ所詮は他人事だからね。トリステイン魔法学院にも来たばっかりでミス・ヴァリエールはほとんど面識が無いし、
 魔法が使えないのにフーケ討伐に行ったのだって自分から進んでやったことだ。
 それに一人前の貴族ならば自分のやることには自分で責任を取らないと…。
 ただ私としては魔法が使えないことを悲観して自殺を図ろうとした可能性も捨てきれないけどね。
 少なくてもフーケ討伐で死亡すれば貴族としての名誉だけは守ることが出来るわけだから。
 それにキュルケはミス・ヴァリエールと仲が良くなかったはずなのに、そんなにショックを受けているとは思わなかったよ。」

「そうだったんだけどね…。」



「ちょっと話を聞かせて欲しい」と、タバサが突然話しかけてきた。









タバサはオットーのことを考えていた。



今年ゲルマニアから来た留学生だが、自分やキュルケ違って社交的で人付き合いもよく、まだ悪い噂も聞かない。
火のスクウェアクラスと聞いていたが、本人はトライアングルクラスだという。
ただ、どっちにしても自分たちと同じく歳の割りには優秀なメイジ。
そして、トライアングルクラスなのに魔法の威力をスクウェアレベルまで引き上げられる火の秘薬を独自開発できる、優秀な研究者でもある。
熱を下げる効果のある水の秘薬も開発していることから、母様の心の病を直す手がかりも知っているかもしれない相手でもある。
だけど、彼は今回のフーケ討伐に付き合わなかったように、自分の味方になってくれるとは限らない。
それに、一応はクラスメイトであるはずのルイズが誘拐されても特に感慨を持った感じはしていない。
だから、オットーのことをもっとよく知りたいと思っていたのだ。


「どうしてフーケ討伐に参加しなかったのか、本当のことを教えて欲しい。」

「最初に言ったとおり、ミス・ヴァリエールが足手まといになるのがわかっていたからだよ。無能な味方は害悪でしかないからね。」

「でもそれだけじゃないはず。だって、あなただったらルイズを見捨てるのに躊躇しないはず。」

そうきっとオットーは必要とあれば他人を切り捨てることもできる人間なのだと思う。
私は別にそれが悪いことだとは思わない。
だって私も母様のためだったらどんなことでもする覚悟はできているのだから。


「あはは、ひどいいわれようだな。
 まずは私としてはこの国の政治的問題に関わるつもりがないということと、
 これでもゲルマニアの侯爵家の跡取りだからね、怪我でもしたら大問題になるだろうし、
 トリステインの下級貴族や領地を継げない次男以下でフーケを倒して出世の足がかりにしようと思ってた連中はいっぱいいると思う。
 そういう連中に妬まれるのは損だと思ったんだよ。他国で手柄を立てる必要もあまり無いしね。
 それにゲルマニア人がフーケを捕らえてもトリステイン人は喜ばないだろう。
 そして政治的に混乱しているトリステインじゃリスクに見合う褒賞なんか用意しないだろうし…。
 さて、そろそろフリッグの舞踏会の準備をしないといけないので失礼するよ。」


と苦笑いしながら言ってオットーは去っていった。

「リスクに見合う褒賞」

と言ったオットーの言葉がずっと耳から離れなかった。




結局フリッグの舞踏会は中止になった。



[10764] 改訂版第16話 ルイズのいない魔法学院
Name: TNT◆5c31f948 ID:dde5e03f
Date: 2010/10/15 20:34
翌日の朝食時のアルヴィーズの食堂では、ルイズたちがフーケ討伐に行って失敗し、逆にルイズが捕らえられたことが大きな話題になっていた。
席に着くと、レイナールに

「君はキュルケにフーケ討伐に誘われたらしいのに何で参加しなかったんだい?
 火のスクウェアメイジの君だったらフーケのゴーレムが相手でも何とかなったんじゃないかい?」

と、聞かれた。
周りで聞き耳を立てているであろう生徒たちにも聞こえるように

「ミス・ヴァリエールという明確な足手纏いがいるのに参加なんてするわけがないじゃないか。
 それにゲルマニア本国からも今のところはラ・ヴァリエール家に手を貸すようには命令されてないからね。
 それにしてもラ・ヴァリエール家もかなり切羽詰っているみたいだね。」

と答えたら、周りからルイズに対する嘲笑の声が聞こえてきた。





ハルケギニアの貴族社会は、力こそ正義で力の無いものは泣き寝入りな社会ではなく、
ルールというか秩序の破壊を行うものは徹底的に排除しようとする社会である。
その理由は地球と違い6000年にわたる国家の存続と魔法の存在だと思う。
メイジは何時でも何処でも使える自分自身の魔法という人によっては大量殺戮を行える凶器を持ち歩いており、
そして身分や地位の高さと個人的武勇は一致しない。
というより、身分の高い者の方がどちらかといえば劣っていることの方が多い。
例えば、一番武力を必要とする戦争という行為において上級貴族に求められていることは、
自分自身が戦うことではなく、配下の者たちが効率よく戦えるよう指揮することなのだ。
戦争で自身の魔法という能力を上手く発揮することがのし上がる為のほぼ唯一の道である下級貴族と、
そういった下級貴族を配下にいく人も抱えている上級貴族では、戦闘訓練に費やす時間がはるかに異なるのは当然のことだろう。
さらに言えば、魔法で不意打ちされればよほどの実力差がない限り不意打ちされた方が負ける。
江戸時代に、はるかに動員兵力の劣る旗本が大藩の大名を江戸城内で殺す事件があったように、
同じ王の臣下という身分でもあるが故に、下級貴族でも普段は多くの護衛に守られている有力貴族を殺すチャンスは有る。
だからこそ、好き勝手やって相手を追い詰めすぎて自暴自棄になられて暴れられると困るのは、
より現世への執着心が強く守るべきものが多い有力者の方なのだ。
故に有力貴族といえどもそんなに好き勝手はやらないし、自分より身分が低いもの相手でもそれなりに気を使う。
ただしこのような配慮がなされるのは、魔法という力を持ち人として認められるメイジに対してだけで、
貴族に歯向かえるだけの力を持っていない平民にはなされない。





ラ・ヴァリエール家が他の有力貴族たちから憎悪されている主な理由も、
下級貴族出身で魔法の才能だけは有るカリーヌをこともあろうに正妻にしたうえに、彼女が娘たちを中傷された時に直接的な力の行使に出た点と、
公爵家の三女であるルイズの婚約者として、公爵令嬢の結婚相手としては相応しくない中級貴族でしかないが魔法の能力にだけは優れているワルド子爵を選んだことに有る。
はっきり言って、現体制に不満が有って魔法という戦闘能力の高い中下級貴族手懐けて武力での簒奪を狙っているようにしか思えない。
みんな心の底では優秀な下級貴族達が徒党を組んで自分たちが代々保持してきた権益を犯そうとすることを恐れているのだ。




だからこそラ・ヴァリエール家を潰すのにもいろいろと手順を踏む必要がある。
それが有力貴族たちによるエレオノールとの婚姻の拒否であり、そして魔法が使えないルイズへの貴族資格の剥奪なのだ。
時間をかけてラ・ヴァリエール家が暴発するように追い詰めていくのと同時に、家臣たちにも内応工作を仕掛け力を弱める。
先王の死後改訂された現在の計画では、唯一の王家直系のアンリエッタ王女の婚姻後に次期国王の名を持って弱体化工作の終了したラ・ヴァリエール家に止めを刺す。
軍勢を率いて敵を討ち、得た領土や金を恩賞として家臣に下賜するという行為は婿養子である国王の権威を国内中に認めさせる良いデモンストレーションになり、
新国王を中心として国内をまとめ他国に付け入られないようにする。
少なくてもラ・ヴァリエール公爵家という自分の家どころか家族のことしか考えていないラ・ヴァリエール公爵よりは、
反ラ・ヴァリエール派の貴族たちのほうがよほどトリステイン王国のことを考えているだろう。


ゆえに、もしもルイズがフーケ討伐で手柄を立てていたらトリステイン国内は少々面倒なことになっていただろう。
結婚して跡継ぎを生めそうな最後の子であるルイズが魔法を使えないということは、
ラ・ヴァリエール家が家臣達からも見限られている大きな理由のひとつなのだ。






そんな感じで食堂でのんびり朝の談笑をしていると、

「僕はなんとしてもフーケを捕らえたいんだ。お願いだ!協力してくれ!!」

とギーシュに泣き付かれた。
ギーシュは平民であるサイトに決闘で負けるという大恥をかいて実家のグラモン伯爵家からも勘当される一歩手前なので、
何とか手柄を立てて汚名を返上して名誉を挽回すべく必死になっているのだった。
ギーシュだけに肩入れするのもどうかと思ったが、キュルケ達のフーケ討伐に参加しなかったことで私のことを見くびっている者もいそうだし、
自分の能力を見せて評価を上げるちょうどいいチャンスでもあったので、


「協力すること自体は別にかまわないけれど、具体的に何をするつもりなんだい?
 言っておくけれど、フーケが現れるまでトリスタニアの町で夜回りするなんて馬鹿げた事はごめんだから。」


と答えると、やっぱりギーシュは具体的な計画は何も考えていなかったようで言葉に詰まった。
私は呆れたように、

「じゃあしょうがないからフーケに関する有力な情報が手に入るまでは対ゴーレム戦の訓練でもするしかないね。」

と言った後で、周りの生徒たちに向かって、
 
「ギーシュ以外にもフーケのゴーレムを想定した対ゴーレム戦の訓練に参加したい者はいる?」

と聞いてみた。
フーケの武器は巨大なゴーレムである。逆に言うならばゴーレムしか武器はないとも言える。
だからこそ、そのゴーレムさえ何とかできるのならフーケを捕らえることも易しいだろう。
学院で対ゴーレム戦の訓練をするだけなら危険はまったくないし、
それが有効そうならフーケ討伐に参加すれば成功する確率はかなり高い。
上手い対処法が見つからなければフーケ討伐に参加しなければ良いだけの話だ。
そしてフーケを討伐してもトリステイン王国が碌な恩賞を出さないことを知らない生徒たち、
特にこの手柄により王宮からシュヴァリエの称号か精霊勲章でも貰い、
卒業後も近衛隊や魔法衛士隊あたりでエリートとして軍務に就く足掛かりにして不安定な境遇から脱出することを夢見た、
親の爵位の継げない次男以下の生徒達を中心としてかなりの数のが参加を表明した。
ちなみに次にフーケが現れそうな場所がルイズの身代金の受け渡し現場であることはかなりの数の生徒が理解をしていたが、
彼らは最初からルイズ無事を願う気持ちなどなかった。
もともと嫌われ者であるし、目の前にある自分たちの栄光の未来の方がはるかに大事だったのだ。




そして、訓練の標的となるゴーレムを私一人で作るのは大変だったのでシュヴルーズ先生に、

「今のままだと処分される可能性が高いですよ。
 それならば、我々の対ゴーレム戦の訓練に参加してこの中の誰かがフーケを捕らえて、恩赦が出るのを祈った方がよくありませんか?」

との誠意あふれる説得をして協力してもらうことになった。
さすがに彼女としても警備をサボって寝ていたという失態を犯しているのでこのままではやばいことはわかっているのだろう。
そして、土製のゴーレムであるが、大量の水を使って土を押し流すことであっさり無力化できた。
それに、巨大なゴーレムを使役することによるフーケの魔力の消耗を考えての時間稼ぎの策もいくつか考えた。
まあ、普通ゴーレム1体にドットやラインとはいえ30人程度のメイジを当てて、勝てないほうがおかしいだろう。
連中は明るい未来にまた一歩近づいたのを確認したので、張り切ってコネを目一杯使ってフーケの情報を手に入れようとしていた。
ゴーレムの攻略法は出来たので、後はフーケの居場所だけである。
もちろんルイズの身代金の受け渡し現場を狙うことが一番可能性が高いことは言うまでもない。
まあぶっちゃけて言えば、私にとっては彼らがフーケを捕まえようがどうでもよかったりする。
もし捕まえられたら、今回の作戦を提案した私の優秀さを実感すると共に感謝もするだろう。
捕まえられなくても、土で出来た巨大なゴーレムの倒し方を、戦争に役に立たない方法で教えることが出来たので、
(戦争中に1人のトライアングルメイジにドットやラインとはいえ30人も拘束されたら大問題である。)
ルイズ達のフーケ討伐を断ったことで私の名声が下がることはない。
次の日にフーケの主力武器である土のゴーレムの処理方法を多数の学院生に教えていれば、
誰もフーケを恐れていたので参加しなかったとは思わないだろう。



[10764] 改訂版第17話 一人ぼっちのヒラガサイト
Name: TNT◆5c31f948 ID:d2ec12f4
Date: 2010/10/20 21:53
学院の庭を歩いていたらなぜかサイトに絡まれた。
そういえば今まで静かだったのはフーケ討伐で負った怪我の治療していたかららしい。
まだガンダールヴのルーンがあるようなので、ルイズはまだ生きているようだ。
彼は怒りに満ちた表情で、


「なんでフーケ退治に行くのを断ったんだ。あんたもフーケ討伐に参加していたらルイズはこんな事にならなかったはずだ。
 それに、あんたが行く前にあんなことを言ったからルイズは意地になってしまったんだ。」


なんて事を言っている。

逆に私が声を大にして聞きたい。


「偏見に凝り固まり、自分を取り巻く政治情勢が理解できてなくて、祖国と実家が落ち目の癖にゲルマニアを蔑視していて、
 ギブアンドテイクだとか恩返しをするとかいう人間社会で生きていく為の最低限のことすら出来ない欠点だらけのルイズをなぜ私が助ける必要があるのか?
 外国人である私が有名な盗賊であるフーケ相手に、外国であるトリステイン王国の為にただ働きをしなければいけないのか?」


と。

誰かがハルケギニアの作法を教えない限りまた問題を起こすだろうなと思いつつ、
周りに人がいなかったので必要以上に体面を気にする必要は無かった。
そして、武器を自由に操れるガンダールヴと現段階で完全に敵対するのも馬鹿らしいし、
原作以上の信頼関係を持っているルイズとの溝を作るよい機会ではあるので、


「フーケ討伐は彼女たちが自ら望んで行ったことさ。
 それに婚約者がいる女性を他人がエスコートするのはマナー違反だろう。」


と、答えた。


「婚約者?」


「ミス・ヴァリエールには魔法衛士隊のグリフォン隊に所属しているワルド子爵という婚約者がいたはずだよ。もしかして知らなかったのかい?」


サイトはそれを聞いてひどくショックを受けているようだった。
彼がワルド子爵の存在を知った後、アルビオンへの強行軍そしてワルド子爵の裏切りと、
落ち着いてゆっくり考える暇も無くルイズの婚約自体が解消されてしまったが、
いったんは自分の力不足を感じ、ルイズをワルド子爵に委ねようとしたぐらいなのだ。
婚約者の情報を聞いたサイトがこれからどうルイズに向き合っていくのか見ものだ。
他人の物になる事がわかっている女の為にサイトはどれだけ自分を犠牲に出来るのだろうか?
ルイズから支配下から逃げ出して、生活のために私の言いなりになるガンダールヴってすごく美味しいと思う。






その後、サイトが二度目の決闘騒ぎに巻き込まれてしまった。
本来であれば彼を監督し、また庇護する立場であるはずのルイズは、フーケに誘拐されて学院から居なくなってしまった。
そして、彼に積極的に関わる可能性のある人物のうち、キュルケは今回の一件で落ち込んでおり、
彼の正体をガンダールヴだと知っているオールドオスマンとコルベール先生は、今回の失態のせいで自分の身が危ういので、
サイトのことなど気にしている余裕なんてなかった。
さらに、本来は同じ平民という階級に属し仲間であるはずの学院の使用人たちは、彼のことを腫れ物扱いしており近づきもしなかった。
故に、誰もサイトに学院のルールを教えてなかったので、彼は平民でルイズの使い魔であるという立場を弁えず好き勝手に行動しており、
ギーシュとの決闘に勝利したことと併せてひどく目障りに思っている生徒が多かったことが原因だ。


相手はキュルケの元恋人であるスティックスで、彼はキュルケが自分ではなくサイトに靡いた事による嫉妬と、
平民の癖に身分を弁えないサイトに対する反感だけで勝負を挑んだわけではなかった。
彼は、サイトと決闘をして勝利すれば、ギーシュがサイトに敗れたことによって傷ついた魔法学院生の名誉を自分が回復することができ、
それによって自分の名を売り、有力貴族にコネを作ってこれからの人生を有利にすることが出来るであろうという大きな利点が存在することを理解していた。
貴族であるギーシュが平民に決闘で負けたことをそのままにしているという事は、トリステイン王国の貴族全体にとって大きな負の影響を与えかねない。
何故ならば平民達が貴族には絶対に勝てないと思っているのと、貴族にもみんなで団結して反抗すれば勝つことが出来ると思っているのとでは、
統治にかかるコストが大違いだからだ。特に今は対レコンキスタ戦を想定して戦費を徴収しなければならないので、そんなことは絶対に避ける必要がある。
だから言い方は悪いが、早急に魔法によりサイトを大勢の前で叩きのめして平民達に貴族に逆らっても無駄であると理解させる必要があるのだ。




また、サイトの主人で庇護者のルイズはフーケに捕らわれて生死不明なので学院に居らず、
彼女の実家であるラ・ヴァリエール家も王都での影響力をほぼ喪失しているので、
反乱扱いされるのを覚悟して実際に行動を起こすこと以外には他の貴族の行動を抑制することが出来ない。
それに反ラ・ヴァリエール派の方が勢力が強いのでそちらの歓心を得ることができれば何も問題ない。
もし敗れればギーシュと同じように貴族の間で馬鹿にされて総スカンをくらうというものすごいデメリットも存在するが、
フーケにあっさり敗れた事実もあり、自分に自信のある彼は敗れる可能性などこれっぽっちも考えていなかった。
ただ彼は敗れた時は身の破滅をもたらしかねないこともよく理解していた。
なので、ギーシュのようにサイトに武器を作ってやるというような油断をすることも無く、
フライの魔法で浮かせて3階ぐらいの高さまで持ち上げてから魔法を切って落下させ、その間に再詠唱を始めて、
サイトが地面との激突の衝撃と痛みから立ち直る前にまたフライの魔法をかけて浮かせた。




サイトは自分の意思に関係なく体が宙に浮くという事態に恐怖感を覚え、激突の痛みに気が狂いそうになった。
そして、ギーシュと戦った時とは違って反撃の目途が立たないこと、
あの時最後の気力を振り絞る力をくれたルイズが自分の手の届かない存在であることを思い出し、
見ない振り気づかない振りしてきた平民とメイジの格差を理解させられ絶望し降伏した。






オールドオスマンは巷で100歳だの300歳だのと言われるほど高齢で、
普通ならとっくに引退していてもおかしくない年齢であった。
しかし、トリステイン王国で最も高名なメイジであるゆえに、魔法学院長の職務を続けており、
地位に相応しく王都を中心にして起こっている血みどろの政治抗争から一歩はなれたところにいて、
政治的に中立な立場をとるので、マリアンヌ王妃を筆頭とした王族にも信頼されていた。
だからこそ、最新の政治状況に疎く、ここ10年ほどでの名門ラ・ヴァリエール家の急速な権威の失墜が理解できていなかった。
ゆえに、彼としてはトリステイン王国1の名門ラ・ヴァリエール家の令嬢の使い魔という身分が、
ガンダールヴであるサイトの身を学院生達から守るための役に立たないとは思ってなかったのだ。
そして、ギーシュとの決闘事件で双方ともにまともな処分をしなかった彼には今回も処分することは出来ず、
サイトを貴族である生徒たちの生活空間から引き離して使用人用の部屋に住まわせることにし、
彼がガンダールヴであることを知っているコルベールに面倒を見るように命じる事しか出来なかった。




そしてオールドオスマンにとって1番信じられなかったことは伝説にすら残っている始祖の使い魔であるガンダールヴが、
フーケに続いてただの生徒にもあっさり負けたことだった。









今回も読んでくださってありがとうございます。
サイトの決闘のところを修正しました。



[10764] 改訂版第18話 学院長室にて
Name: TNT◆5c31f948 ID:b061818a
Date: 2010/10/21 20:12
魔法学院がフーケに襲われて宝物庫から破壊の杖が盗まれ、ラ・ヴァリエール公爵令嬢のルイズが討伐に失敗して逆に誘拐されたという情報が届いたらしく、
王政府の役人であるロシュフォール伯爵とラ・ヴァリエール公爵夫妻が魔法学院にやってきた。




魔法学院の生徒は、戦争になれば各々の実家ではなく魔法学院に徴兵官がやって来る事からもわかるように成人扱いされ、
基本的に自分のやることに対しては自己責任が求められる。
魔法学院と名前は付いているが、魔法の基礎は入学前に各自家庭教師について修めておくべきことであり、
主な目的は将来の為の人脈作りと社交界に入る為の予行演習である。
だからこそ建前を言ってしまえば、ルイズがフーケ討伐に自分から志願して失敗した今回の一件において、
悪いのは自分の力量を見極められなかったルイズ自身であり、学院の教師たちの責任を問うのは筋違いなのだ。
ただ警備の不備を問うことは出来るし、外交問題になりかねない外国人を討伐に参加させたことも叩く口実にはなる。
だからこそオールドオスマンを初めとした教師たちが王国から処分されるかどうかはお互いの政治力にかかっているのだ。
まあ政治的センスの無さに定評があるラ・ヴァリエール公爵には難しいだろうけれど。




私は、オールドオスマンやその他教師たちが、どんな楽しい言い訳を考えているんだろうか、
ラ・ヴァリエール公爵が自分の娘の不始末をどう他人に責任転嫁するのかワクワクしながら他人事のように見ていると、
私も聴取の場に呼び出された。
ちょうどキュルケとタバサが出てきたので、どんな内容だったか聞いてみると、今回の事件の関係者全員に直接事情聴取をしているらしい。
そして私はキュルケに誘われたのに討伐隊への参加を断った理由を聞かれた。
ただ、事情聴取は形式的な物らしく、現在の主流派である反ラ・ヴァリエール派に所属しているロシュフォール伯爵は和やかな雰囲気であったが、
ラ・ヴァリエール夫妻特にカリーヌは怒りを抑えきれない様子で周囲に不愉快な威圧感を撒き散らしていた。
はっきり言って見苦しい限りでいい年した婆が公の場所でする態度とは思えない。
恐妻家の公爵や平民の侍女なんかなら恐れるかもしれないが、この場にいるのはラ・ヴァリエール家の臣下ではないのだ。
それにラ・ヴァリエール公爵家の家名も下級貴族のカリーヌを正室に迎えた時と、
三女であるルイズが魔法が使えないことが広まった時に大きく低下しており、自国でさえほとんど影響力を及ぼせない。
そして、外国人である私にとってはラ・ヴァリエール公爵家という家名自体が、ただの小国の一貴族に過ぎないのでまったく遠慮する必要がない。
もしも戦いになったとしても勝算は十分に有るが、ラ・ヴァリエール公爵とすれば守るべき娘たちがいる以上、
勝算の無い賭けには出れないだろうから戦争打って出ることは無いだろう。





まず私が理由として挙げたのは、「外国人の私がフーケ討伐に参加することは成功しても失敗しても問題になる」ということである。
私がフーケ討伐に参加すること自体が、トリステイン王国に有能な人材がいないと思っているようで悪く取られかねないし、
成功したら恩賞の問題があり、失敗したら外交問題になりかねない。
信賞必罰は国を維持する上で重要なことであるが、外国人が手柄を立てた場合にどう賞するかというのはとても難しい。
これがトリステイン人ならば、シュバリエの称号とそれに付随する年金でも与えれば問題ないが、
忠誠を誓うべき祖国を持っている外国人に与えるわけにはいかないし、相手も当然そんな物は受けないだろう。
ならば現金という事になるのだが、恩賞のランクとしては土地・爵位・勲章などと比較してかなり低いゆえに、
バランスを考えると多額の現金を与える必要がある。
レコンキスタ対策のために多額の金のかかる軍備の増強をしなければならないうえに、弱体しきったトリステイン王国にはそれだけの現金を用意するのは厳しく、
さりとて、まともな恩賞が与えられないと王家そのものが見限られることになる。


特に戦乱の可能性が高い今の時期にそんなことになったら、トリステイン王国にとっては致命傷になるだろう。
この世界の貴族は地球と違って魔法という特技を持っているので、仕える国を変えても生活の糧を得ることが出来る。
特にメイジの中の大部分を占める準男爵以下の下級貴族においては同程度の収入を得ることもそんなに難しくは無い。
そして自前の領地と軍を持っている諸侯と呼ばれる連中にとって1番大事なのは祖国ではなく、自分の領地をどう維持していくかということなのだ。
だからこそ注意を払う必要がある。


当然のことながら誰だってただ働きは嫌なのだ。


逆に失敗してルイズのように誘拐されでもしたらゲルマニアが口を出してきて外交問題になる可能性がある。
だから私がフーケ討伐に参加しなかったことは政治的に考えると極めて正しい行いなのだ。


そして、今回の一件が起こってすぐに竜騎士を用いてアルプレヒト3世に送った書状の返書、
即ちツェルプストー辺境伯の娘であるキュルケが参加したことについて、
ゲルマニア帝国としては、自身の意思に基づいての行いであるから問題にするつもりがないという事を明記した書状をロシュフォール伯爵に渡した。




アルプレヒト3世としてはアンリエッタ王女との婚姻によるゲルマニア・トリステイン同盟が成立しそうな現状では、
トリステイン王国に政治的混乱が起こるのは好ましくないと考えている。
特にアルビオンでレコンキスタが勝利しそうな現状ではレコンキスタが一番国力の低いトリステインへ侵攻した場合、
ゲルマニアの戦争準備が整うまでの時間稼ぎとレコンキスタの戦力の削減をしてもらう必要があるからだ。
だからこそ先が無いラ・ヴァリエール家に肩入れするつもりはまったくない。



ロシュフォール伯爵は私の行動とこの書状を読んでゲルマニア帝国のラ・ヴァリエール家を支援するつもりがないという意思を明確に読み取り上機嫌で、


「自分の力を見極められない愚かな若者が功名心に釣られ、血気に逸って失敗するのは世の常ですからな。
 わざわざお手間を取らせて申し訳ありません。皇帝閣下にはよしなにお伝えください。」


と言い、私は証言が終わったので学園長室を退出した。











17話のフライの魔法をレビテーションの魔法に変えました。
18話の皇帝殿下というのを皇帝閣下に修正しました。



[10764] 改訂版第19話 ラ・ヴァリエール公爵
Name: TNT◆5c31f948 ID:0f498707
Date: 2010/10/22 20:36
ラ・ヴァリエール公爵は後悔と絶望に打ちひしがれていた。
彼は自分の愛する娘がこれほどまで追い詰められていることを、心の奥底ではわかっていながら気づかない振りしてきたのだ。
そして彼はこうなった原因が、すべて自分が貴賎結婚を行ったことにあるということも理解していた。
ルイズを産んだのが、もし下級貴族出身のカリーヌではなく、公爵家の家格に見合った名門貴族出身の妻であった場合、
6000年もの長い間、有力貴族はお互いに婚姻関係を結んできて、お互いに血の繋がりがある故に、
ここまで露骨に排除されて追い詰められるはずがないからだ。
ルイズを産んだのが、自分達との血の繋がりの無く、実家の後ろ盾も無い下級貴族出身のカリーヌだからこそ、
他の名門貴族やラ・ヴァリエール家の家臣達は、すべてカリーヌの責任にして他人事で好き勝手に中傷しているのだ。




その上、カリーヌは血筋も、実家の家柄も、名門公爵家の正妻として家臣を掌握する能力も、
他の名門貴族の夫人と付き合う能力も、公爵夫人に必須である能力を何一つ持っていなかった。
だからこそ、家臣や親族と折り合いが極めて悪く、自分の持っているただ一つ他人に誇れる物である、
魔法の才能に縋り付くしかなかったのだ。
だからこそ自分のアイデンティの根幹を否定することができず、魔法が使えない娘に他の道を与えてやることが出来なかった。





若い頃のカリーヌは男装して魔法衛士隊に入隊するくらい世間知らずで、無鉄砲で、プライドが高く負けず嫌いで、まともに人付き合いも出来ない娘だった。
自分はエスターシュ大公の反乱などで一緒に命をかけて戦ったおかげで、彼女のことを深く知り、そして愛し合うようになった。
しかし、付き合いの浅い相手には、彼女のよさは理解してもらえず到底受け入れられないだろう。
そしてエレオノールとルイズの性格は娘だけあって若い頃のカリーヌによく似ている。
だから、エレオノールが公爵家の家付き娘という好条件にもかかわらず婚約者に逃げられたことも、
魔法アカデミーを辞めてからも会うような友人が誰一人いないことも理解できたし、
ルイズに無謀なことをしようとしたら止めてくれたり、手伝ってくれるような友人が誰一人いないことも理解できた。
ただ、娘たちが家の力を利用しての派閥作りさえ出来ないことには気が付いて愕然とした。
このままだと、早くてアンリエッタ王女が結婚し戴冠した後、遅くても自分が死んだ後で、
ラ・ヴァリエール家は貴族社会で孤立したまますべてを奪い取られることになるだろう。




そしてそれに対する対処法は今の乱れた心では思いつかなかった。





唯一の可能性は、公爵家の婿に相応しい家格を持ち、内政と外交の両面を高レベルでこなせる有能な人物が娘と結婚して後を継いでくれることだけだ。
そして、そんな都合のいい人物はどこにもいないし、もし居たとしても、そんな人物を他家がほっとく訳がない。
トリステイン王国のアンリエッタ王女、ガリア王国のイザベラ王女、クルデンホルフ大公国のベアトリス大公女を始めとして、
婿を探している名家はいくらでもあるのだ。
それらの家を向こうにまわして張り合うだけの魅力はラ・ヴァリエール家には無いし、娘たちにも無いだろう。




ルイズが危険な任務に志願したのをそのまま認めたオールドオスマン。
火のスクウェアメイジで、フーケのゴーレムに対する対処法まで持っていたにもかかわらず、
ルイズを見捨てたゲルマニアのヘーゼラー侯爵の息子。


殺してやりたいほど憎かった。


衝動的に魔法を唱えるのを抑えるのにひどく苦労した。


しかし、貴族は自分の行動の責任は自分でとる必要がある。
だからこそ、ここであやつらを責めたら私自身がルイズを貴族だと認めていないことになる。


そしてそれは、魔法が使えなくても立派な貴族でありたいと願った娘の崇高な思いを踏みにじることになる…。





彼にも本当は奇跡でも起きない限り、もう自分の家族を救うことは出来ないということをわかっていた。


そして家族さえ見捨てることが出来れば、先祖から受け継いだラ・ヴァリエール家だけは守ることが出来るということも・・・。



要求されたルイズの身代金は100万エキューもの大金だった。
100万エキューという額はかなり大きな領地の一年間の税収に匹敵する。
もちろんラ・ヴァリエール公爵家の領地の税収は当然100万エキューを超えているが、
ここから家臣の給与などの統治にかかるすべての経費も支払う必要があるので、
当然のことながら家族だけで私的に使えるわけではない。
何処の家でも当主が何の制約も無く、私的なことに自由に使える金額というのは家の総収入に比べれば僅かな物なのだ。
そして、100万エキューという額は私的な貯えはおろか、
ラ・ヴァリエール家自体が非常用として手元においてある現金総額をはるかに上回っていた。


その上、クルデンホルフ大公家や出入りの商家などに行った借金の申し込みは、
何だかんだと理由を付けられてすべて断られてしまった。
もちろんラ・ヴァリエール家の総資産という観点から見ると100万エキューという額は僅かな金額でしかない。
家宝である先祖伝来のマジックアイテムや美術品などを売れば簡単に作ることが出来る。
しかし、今はアルビオンの内乱の所為でそういった物が大量に放出されているので値段が下がっているうえに、
急いで売らなければいけない以上、足元を見られてかなり買い叩かれることになるだろう。
しかも代々の家宝を売るとなると一族の者にも諮る必要がある。
彼らは、魔法も使えず家の役に立たないルイズのために家宝を手放すことに賛成する者などいないどころか、
例え僅かな額の身代金の支払いであっても反対するだろう。
そして当主としての権限で強行すれば、ただでさえカリーヌと結婚した時から不安定なラ・ヴァリエール家は、
家中が空中分解を起こしてしまい本当に終わりだ。







八方塞な現状と、そのことを理解できずにただただ周囲に怒りを振りまいている妻の姿に涙し、
初めて周囲の反対を押し切ってカリーヌを正妻に迎えたことを後悔した。
無限の可能性を持っていた彼女はラ・ヴァリエール家という古く錆び付いた鎖に絡めとられ、身動き取れなくなってしまっていた。
もしも、自分があの時ラ・ヴァリエール家を捨てる選択をしていれば、みんなが幸せになれたのだろうか・・・











読んでくださってありがとうございます。
今回はラ・ヴァリエール公爵の回想でした。
本当はカリーヌの回想も入れたかったのですが、作者自身カリーヌの精神性が理解できておりません。
卑賤の出で名家に嫁いだのに、生んだのは娘ばかり3人で、しかも3人とも貴族としては致命的欠陥を持っている。
跡継ぎを生むという妻としての最も大事な仕事を満足にこなせないくせに偉そうな態度でいる。
エレオノールやルイズの歪みの原因はまだ想像することが出来るのですが、
カリーヌに至っては精神疾患の持ち主としか思えません。
そろそろ前作との相違点の結果がいろいろと表に出てきますがこれからもよろしくお願いします。



[10764] 改訂版第20話 ラ・ヴァリエール公爵夫妻の帰還
Name: TNT◆5c31f948 ID:75d10b40
Date: 2010/10/24 20:14
ラ・ヴァリエール公爵家がフーケから要求されたルイズの身代金の額は100万エキューらしい。
その程度の額なら私個人の貯えからでも余裕で払えるので、ラ・ヴァリエール家でもそんなに苦労する金額でもないだろう。


ラ・ヴァリエール公爵がフーケに関する情報に懸賞金でも掛けたら、
フーケの正体がミス・ロングビルである可能性が高いことを話すのも面白いかもしれない。




彼女の行動には

 ・徒歩で半日、馬で4時間の距離の場所にアジトがあるというのになぜそんなに早く都合がいい情報を得られたのか?
 
 ・基本的に農民は馬には乗れないので、アジトの廃屋に入っていくのを見たというならそれは真夜中のことである。
  なぜそんな時間にそんな場所にいたのか?
 
 ・黒ずくめの「男」だと確認できたのなら明かりを持っていたはずであるが、その明かりがフーケに見つからなかったのはなぜか?
  
 ・ミスロングビルの朝の居場所が不明なのはどうしてか?

 ・フーケのアジトとされた場所に破壊の杖がなかったのはなぜか?
 
 ・フーケとの戦闘中のミスロングビルの動向が不明なのはなぜか?

 ・フーケ戦前後のミスロングビルの動向が不明なのはなぜか?

などのいくつもの疑わしい点があり状況証拠だけで考えると真っ黒にしかみえない。



そして、ミス・ロングビルを犯人だと断定してしまうと、オールドオスマンの


 ・身元の明らかでない平民のミスロングビルを名門貴族の集う魔法学院で雇ったのはなぜか?

 ・魔法の使えない、戦力としてはまったく役に立たないルイズを討伐隊に加えたのはなぜか?

 ・生徒に行かせるならもっと大々的に公募すればよかったのではないか?

 ・普通はせめて一人はお目付け役として教師を付けるはずなのにそれをしなかったのはなぜか?

 ・盗賊が入ったことをすぐに報告するべきだったのにしなかったのはなぜか?



という疑問が浮かび上がってくる。
1つ1つのことだったら言い訳もできるだろうけれど、怪しいと疑いの目で見た上に、
すべての疑問をあわせて考えると、その疑いを補強してくれる良い材料になる。



そして、オールドオスマンを黒幕として考えた場合、こんな事件を起こした理由としては、


・このままだと平民に落とされるルイズに、せめて貴族としての名誉の死を与えるため。

・ルイズが使い魔の召喚に成功したので、ラ・ヴァリエール家が復権する可能性が出てきたのでそれを潰すため。

・ラ・ヴァリエール家が、娘の失敗のせいで多額の賠償金を支払っているのを見て、自分も搾り取ろうと思ったから。


などいろいろと考えられる。
ラ・ヴァリエール公爵はどう判断してどう行動するのだろうか?


オールドオスマンに復讐する為に、ラ・ヴァリエール家の凋落に気づかず、今回の一件で厳しい処分が出るように活動して、
道化師らしく見事に失敗して大恥を晒すぐらいだったら私も外野から十分に楽しめる。
だけど、ゲルマニアに下ることは出来ないにしても、アルビオンを抑えようとしているレコンキスタに寝返かもしれない。
大陸への橋頭堡となればそれなりの地位は確保できる可能性が高い。
それに、下手したらトリステイン歴代最高の風メイジと言われた烈風のカリンを擁しているので、
気が大きくなって勝算も無く兵を挙げて居城に立て篭もる可能性まである。


それと、カリーヌが直接オールドオスマンを襲うことも考えられるだろう。
烈風のカリンvsオールドオスマンのトリステイン王国頂上決戦にはものすごく興味を惹かれるが、
学院にいる以上巻き込まれる危険性はあるし、下手したらラ・ヴァリエール家自体が潰れかねない。



はっきり言って私には、ラ・ヴァリエール公爵夫妻の思考は斜め上すぎて理解できない。
それに、下手な動きをするとせっかくアルプレヒト3世から、キュルケの失敗にゲルマニア帝国としては干渉しないという言質をとって、
オールドオスマンに貸しを作ったことが無駄になる可能性もある。



ならば今回のルイズの行動を、母親であるカリーヌそっくりな直情的で後先考えない行動であるとでも思ってもらっていた方が、
下手なイレギュラーが起きなくて良いかも知れない。
ただ、もしもルイズが虚無属性に覚醒し、ラ・ヴァリエール家が復活した場合に備えて、顔だけでも売っておく丁度良いチャンスでもある。
などといろいろ考えていたが、残念なことに、結局ラ・ヴァリエール公爵家が賞金をかけることは無く、
夫妻はそのまま領地であるラ・ヴァリエール領に帰還していった。










みなさん今回も読んでくださってありがとうございます。



ラ・ヴァリエール公爵が他人がルイズのために行動するのが当然だと思っているのは、
彼が今まで会ったほとんどの貴族たちが、彼に気に入られるように彼の意に沿う行動をとっていたからです。
だって、トリステイン王国の一番の名門公爵家の未来の当主に気に入られたら、とても利益になるので、それは当然のことでしょう。
ただ、ここ数年のラ・ヴァリエール家の対外的影響力の減少の結果、かなり変わってきていたんですけど、
公職を引いてラ・ヴァリエール領でお殿様をやっている彼にはそんなに実感が無かったのです。
ルイズも魔法が使えるか、もう少し性格というか頭がまともだったら、取り巻きの貴族に不自由はしなかったでしょうね。


100万エキューの身代金に対するオットーとラ・ヴァリエール公爵の認識が異なっているのは、
オットーの所持金の大半が錬金の魔法で自分で作った物を売って、自分で稼いだ金だからです。
領地の税収と、商売で出した純利益(総売上ではない)では自分の自由になるお金がまったく違うのは当然です。
ここら辺はオットーのミスですね。


ワルドは子爵ですから、今のままではルイズと結婚しても公爵家を継ぐのに必要な家格が足りないですね。
夢見る小娘であるルイズすら騙せないワルドに、ラ・ヴァリエール家の家臣団がおとなしく従うとは思えませんが、
ラ・ヴァリエール公爵自身としては十分ありえる選択肢だと思っているでしょうね。



[10764] 改訂版第21話 破壊された夢
Name: TNT◆5c31f948 ID:37526f53
Date: 2010/10/27 06:10
次のイベントまで時間があるので、のんびり同級生たちとの友好関係を深めていたら、





「ラ・ヴァリエール公爵夫妻が病死して、親族の者が公爵の地位を継いだ」





という衝撃的なニュースが入ってきた。




あまりの事に仰天し、すぐにゲルマニア本国や魔法学院で作ったコネを総動員して情報収集を行った。




ハルケギニアの社会は、私たちの知っている地球の歴史上の社会とは比較にならないほど、伝統と秩序にしっかり固められた階級社会である。
その1番の理由は、始祖ブリミルから6000年もの間、世界の中心となるガリア・トリステイン・アルビオン・ロマリアの4つの国が、
滅びることなく存続してきたからに他ならない。
それと、固定化というチート魔法が存在しているせいで過去の資料がしっかり残っているということも大きい。
通常下層階級のものが成り上がるのに一番適した状況は、戦乱が起こり国が乱れ既存の秩序が破壊された状況だ。
しかし、秦・前漢・新・魏・後漢・晋・隋・唐・宋・元・明・清と様々な王朝が興亡を繰り返し、
内乱が起こると大量に死者が出て、前王朝ものを破壊する中国でさえ、下層といえる身分から皇帝まで成り上がったのは、
高祖劉邦と洪武帝朱元璋ぐらいなのである。
主要4カ国が滅びるような大乱が一度も起きなかったハルケギニアでは、名家が大量に没落し下層階級の者が成り上がり、
社会制度自体が大きく変わるような、変革の機会自体がまったく無かったといえる。
そんな中で、ちょっと魔法が出来る美人だからといって、
既存の名門公爵家に下級貴族出身のカリーヌが正妻として嫁いで上手くやっていけるはずがなかった。


もちろん、ラ・ヴァリエール公爵家の長い歴史の中には他にも身分の低い女に現を抜かした当主はいる。
カリーヌもせめて、跡継ぎとなる男子を産みさえいればまだましだった。
最悪でも、他の名門貴族から婿を迎えて跡継ぎを産める娘であればよかった。
家臣たちも次代や次々代に望みを託すことが出来たのだから。


もしくは、誰も子供を産まなければ良かった。
それだったら、親族から養子を取り、公爵とカリーヌの事はいなかったものと考え、
ラ・ヴァリエール家の血統を後世に伝えていっただろう。




しかし、不幸にもカリーヌが産んだ3人の娘は、貴族として生きていくのに致命的な欠点を持っていた。




上流階級らしい鷹揚さがかけらも無く、成り上がり者の悪いところだけを濃縮したような性格の持ち主で、
国一番の名門の跡取り娘であるという好条件にもかかわらず、
何度婚約してもその度に、婚約者がすべてを捨てて逃げ出す長女エレオノール。
実家よりも家格の高い名門に婿養子として入ることが、
どれほど肩身の狭い思いをして大変な苦労をするかという事ぐらい貴族ならば誰でも知っていることである。
しかし、実家と自分自身の未来のために、覚悟を決めて婿に行くというのが普通の貴族なのだ。
その覚悟を決めていた人間が、結婚という段階に至る前にすべて逃げ出すというのは普通だったら考えられないことである。


長姉と違って性格はまだましだが、生まれつき体が弱いせいで人付き合いが出来ず、子供も産めないので、
治療費と言う名目で金だけは浪費し、まったく家の役に立たない次女のカトレア。


家としての大汚点になるので、修道院か屋敷の一室にでも押し込めて、居なかった事にすれば良いのに、
わざわざ名門貴族の集まる魔法学院で悪評を振りまいている、貴族としての必須条件である魔法が使えないうえに、
最低限の人付き合いも満足に出来ない三女のルイズ。



ここまでひどいと笑い話にもならなかった。
ラ・ヴァリエール家の長い歴史の中でもこんな異常事態は一度も無かった。
そして、カリーヌの娘たちが原因でラ・ヴァリエール家が他の貴族たちから孤立する現状にいたって、
彼らはどんどん決断を迫られていった。




そんな中で、ルイズが無謀にもフーケ討伐に参加して、無様に失敗し捕らえられ、
その身代金を払うためにラ・ヴァリエール家に代々伝わる家宝を売却することを事を家臣や親族のすべてが反対したのに、
娘であるルイズを溺愛している公爵が、それを押し切って強引に進めようとした。
だからこそ、最後まで残っていたラ・ヴァリエール公爵自身に忠誠を誓っていた僅かな家臣にも見切りを付けられて、
ラ・ヴァリエール家を愛し存続させようとする者達によるクーデターが起きた。


彼らにとっては、トリステイン最高の名門ラ・ヴァリエール家が一人の愚かな当主によって滅びるなど到底認められることではなかったし、
自分たちが持っている利権までもが奪われることなど納得できるはずが無かった。
そしてなにより、ラ・ヴァリエール領の領民の平穏な暮らしは貴族として絶対に守るべきものだった。



それ故に、公爵夫妻は家臣の手によって暗殺されてしまった。



カリーヌの血を引くエレオノールとカトレアの姉妹は両親と同時に死亡発表するといかにも暗殺しましたと広報しているようなものなので、
二人は病気で貴族としての務めを果たすことが出来ない故に、自分から当主の座を辞退したということになっていた。
エレオノールは10年前の婚約破棄事件以降自室に引き篭もっており、他家の人間とまったく会っておらず、
カトレアは生まれつき体が弱かったので表に出ることが無かったので、それなりの説得力を持った。



これが私が調べることの出来た範囲での事件の顛末だった。



えっと…


これってどういうことだろう?




私の予定では、娘を愛するラ・ヴァリエール公爵は、家宝を売ってでも身代金をフーケに支払い、
その結果ルイズは解放され、多額の現金を使わせたことによって、
ラ・ヴァリエール家の弱体化させるという目的も果たせるはずだった。
そして、アルビオンで私掠空賊をやっている部下に、ミス・ロングビルこと土くれのフーケの特徴を詳しく伝えたので、
上手くいけばフーケが奪った身代金を横取りできるだけではなく、盗品の情報を吐かせることで更なる利益も期待できた。


それなのにどうして、ラ・ヴァリエール公爵が殺されるなんていう想像も出来なかったことが起きて、
すべてがご破算になるんだろう…。 




さらに私にとって都合が悪いことに、今回の事件はトリステイン王国の宰相であるマザリーニ枢機卿の内諾を得て行われていた。
そして、トリステイン王国の現主流派である反ラ・ヴァリエール派も、
アルビオン王国の現状とラ・ヴァリエール家が新公爵の下で纏まってしまったことから、
今の時期に国内で内乱を起きることは、レコンキスタやゲルマニアも絡む故に、リスクが高すぎて二の足を踏んだ。
さらに一番の問題だったカリーヌの血はすべて排除され、いくつかの利権の割譲と、新たな婚姻政策がなされたことにより、
トリステイン国内は最小の血が流れただけで一応一つに纏まった。
このままだとアルプレヒト3世とアンリエッタ王女が結婚して吸収合併したとしても、
国内に巨大なトリステイン派閥が残り、次代で再分割せざるを得なくなるだろう。
ラ・ヴァリエール家を利用したトリステイン王国弱体化工作がすべて裏目に出てしまった。




今まですべてが上手くいってたはずなのに…




怖い・・・




今までゲームでもしているつもりで遊んでいたこの世界が、急に大きな存在感を持って現れ、
私はその重みに押しつぶされそうになり、ただただ恐怖していた。
















みなさん今回も読んでくださってありがとうございます。

ロマリアは原作で、ルイズとは比べ物にならない位、魔法が出来ないことで有名なジョゼフにも、
早くから接触を持っていた形跡が無かったので、このSSでも現時点でのルイズとの接触は無しにしました。
ロマリア側としては、公爵家の3女のすぎないルイズより、
世界一の大国であるガリアの第一王位継承権者であったジョゼフの方が取り込んだ場合の利益は大きいですよね。



ハルケギニアの名家の場合も基本的には地球と同じように乳母が育てるんだと思います。
乳母が付けば、乳兄弟という将来の側近候補もできるからいろいろ便利です。
ただそうだとしたら、ラ・ヴァリエール家の姉妹の狂いっぷりが合理的に説明できないので、
そこを重点的に考えるといくつかの候補があがります。

・身分が低い故にラ・ヴァリエール家の家臣と折り合いが物凄く悪いうえに、
 名門貴族がどういうものかをまったく理解できてないカリーヌが信用できない相手に娘を預けたくないと猛反対し、
 子供はカリーヌの親族であるマイヤール家の人間もしくはカリーヌの姉が乳母になって育てた。

・上記の理由で乳母を付けずカリーヌ自身が育てた。

・いつも妻に逃げられるラ・ヴァリエールの狂った血と、カリーヌの狂った血の相乗効果でどんなに立派な教育をしても無駄だった。

などです。
それと、ラ・ヴァリエール家自体の教育が狂っているというのは多分無いと思います。
逆説的ですが、ラ・ヴァリエール家が原作の時期までトリステイン1の名門として存続できたことがその理由です。



作者がワルドの立場だったらルイズにさっさと子供を産ませて、その子をラ・ヴァリエール公爵にして、
自分は公爵の父親という立場で干渉することを狙いますね。
もう手遅れになっちゃいましたけど…


エレオノールとルイズは無能な両親のツケがすべて覆いかぶさってきている感じですね。
正しい公爵令嬢としての役割をしっかり教えることができる両親の元に生まれたなら、まともな性格の持ち主に育ったと思います。


サイトは貴族になるよりも目立たない平民のままでいた方が幸せになれそうな気がします。



[10764] 改訂版第22話 迫り来る現実
Name: TNT◆5c31f948 ID:06687ece
Date: 2010/11/02 20:01
私は、ラ・ヴァリエール公爵夫妻が死んだ一件についての情報を調べ終わった後は、
学院の授業にも一切出席せずに、病気を口実として自室に引きこもっていた。
転生してから今までずっと自分の思い通りに事が運んできたのに、
こんな予想もしなかったことが起こるなんて想定の範囲外だったからだ。



原作知識持ちの転生者として、神の視点でこのゼロの使い魔という物語を自分の好きにできると思って、
好き勝手に行動していた私にとって、今回の一件はまさに青天の霹靂であった。



そして、自分は万能な存在ではないということをこれ以上無いほど思い知らせてくれた。



ルイズがフーケに捕らえられ、ラ・ヴァリエール公爵家が身代金を払う可能性が無くなった現状では、
ルイズが無事に帰ってくる可能性は極めて低いと言わざるを得ないので、今更原作ルートに戻すことも出来ない。
だから、私の持っていた最大の切り札である原作知識のかなりの部分が使い物にならなくなってしまった。



私自身、この世界に転生する前はただの一般人だったので、他人と比較してそれほど優れた能力は持っているわけではない。
新たに得た魔法の力も、探せば何処にでもいる程度のトライアングルクラスでしかないし、
貴族として生きていく為の必須技能である権謀術数にそれほど長けているわけでもない。
唯一出来る事といったら、持っている科学知識を魔法に応用することだけだ。
それ故に、これから戦乱が始まるハルケギニアで生きていくことがひどく恐ろしいものに思えたのだ。



今の私にとって一番大事なのは、迷うことなく自分自身の命だといえる。
それに錬金の魔法で砂糖やアスピリンを作ってさえいれば大金を稼ぐことが出来るから、
最悪ゲルマニア帝国が滅んだりして、貴族じゃなくなっても食べていくのにはまったく困らない。
だからこそ、すぐにもここから逃げ出したかった。
しかし、ここは地球と違って亜人やモンスター、猛獣などの人間の天敵ともいえる凶悪な生物が数多く棲んでいる。
人里から離れれば、そういった類の物から襲われる可能性が極めて高いので、
安全で快適に暮らしたければ、どうしても大きな町に住む必要がある。
そして、大きな町に住めば戦乱から逃れることが出来ない。
そんな八方塞な現状に、私は面白半分で原作に介入したことをひどく後悔していた。




先の見えない現実に恐怖して、部屋のベットの中で震えていると、部屋の扉がノックされ、エリザベートが入ってきた。
エリザベートは、私が今まで散々おもちゃにした没落貴族の娘なので、これまでの事の復讐にでも来たのかと思い一瞬ゾッとしたが、
彼女は、いつもと変わらず従順で献身的な態度で看病してくれた。
そして、彼女の体の温もりを感じていると、ネガティブに陥って、
物事を悪いように考えすぎていた私の思考回路が、だんだん落ち着きを取り戻してきた。


ルイズが誘拐されたままで、原作通りに進めるのが困難に成ったといっても、ゲルマニア人の私としては、
最初からトリステイン王国に都合が良い結果になる原作ルートで行くつもりは無かった。
一番の脅威になるであろうジョゼフに対しては、最悪の場合は、教皇の虚無と彼の使い魔たるヴィンダールヴのジュリオ、
シャルルの隠し子であるジョゼットなどの情報を渡して、命乞いをすることだって出来る。
それに、逃げ出すのならいつでも出来る。
だからこそ、落ち着いて現状をしっかりと分析してみようと思う。



別にラ・ヴァリエール公爵夫妻が殺されたとしても、私が直接被害を被るわけではない。
それに、ラ・ヴァリエール公爵家がまともに戻ったことは、プラスの効果だってある。
もしも、ラ・ヴァリエール家が身代金を払わないからという理由で、ルイズがこのままフーケに殺されたとしても、
虚無のメイジは、アルビオンにいるティファニアで代用できる可能性もある。
ただ、下手に虚無のメイジと繋がりを作るとガリアやロマリアに目を付けられる可能性が高い。
トリステイン王国が1つにまとまったことも、ゲルマニア帝国としては問題があるだろうけど、
私個人にとってはそこまで問題があるわけではない。



ならばこそ、先のことは後で考えるとして、今1番に考えるべきことは対アルビオン戦略だ。
レコンキスタによるトリステイン王国への侵攻。
ゲルマニアにとっての最適な結末は、アンリエッタ王女を手元に押さえた上での双方の共倒れである。
もちろん兵力数を考えればレコンキスタの方が優勢なので、ゲルマニアからも援軍は送るべきだ。
しかし、大軍は送らずに主力はトリステイン軍のままにして、トリステイン諸侯を適当に使いつぶしつつ、双方の戦力をすり減らし、
その後、大規模な援軍を送ってレコンキスタを駆逐し、その余勢を駆ってアルビオンをも押さえる。
トリステインの貴族なのにも関わらずレコンキスタに寝返った諸侯と、戦闘でミスした諸侯の領地は没収し、
直轄地、ゲルマニア系貴族で手柄を立てたものの領地、トリステインの貴族の中でゲルマニアの支配に協力的な者の領地を増やす。
当主や跡継ぎが戦死し娘しかいない家があれば、都合のいい人間を婿として送り込む。
まあこんなものだろう。



ゲルマニア帝国にとってはトリステインの領地持ちの高位貴族が死ねば死ぬほど都合がいい。
原作でもアンリエッタの無謀な出陣と、ルイズの虚無によるその勝利が無かったら、きっとそうなるように進められただろう。



この作戦での難点は、どうやってアルビオン空軍から制空権を獲得するかということと、
私の領地が戦闘に巻き込まれやすいトリステインとの国境地帯にあることだろう。
自領が戦場になるなんて考えるだけでも眩暈がする。
インフラが破壊されるだけではなく、傭兵による略奪などもあり、かなりの損害を被る。
でも、トリステイン側のラ・ヴァリエール公爵家は、公爵夫妻を排除したので烈風のカリンという1人の天才メイジがいなくなったが、
その分家中は見違えるほど安定しだしたので、戦争という局面では期待できるようになった。
戦争という行為で必要なのは前線での1人の英雄ではなく、数多くの戦力という名の駒なのだ。
国境線の防衛は、以前からあるトリステイン王国との戦争計画の応用で構わないし、
それに私の領地よりも突破しやすい場所はいくらでもある。
だったら私はこれからも幸せな生活を維持する為に、アルビオン空軍から制空権を獲得する方法を考えるべきだ。













今回も読んでくださってありがとうございました。
あんまり鬱状態でグダグダやってもしょうがないのでさっさと復活させました。
でもまあピンチになれば手持ちの情報をジョゼフに売って、命乞いをするつもりがあるくらい弱気ですけど・・・
今起こっていることが現実だと認識したので、オットーも今までと違ってある程度は慎重に行動するでしょう。



[10764] 改訂版第23話 コルベールとサイト
Name: TNT◆5c31f948 ID:6cd8d0fd
Date: 2010/11/09 21:20
私は、対レコンキスタ戦で制空権を獲得する為に絶対に必要な、アルビオン空軍の竜騎士を駆逐する為の必須アイテムとして、
原作知識を元に独自開発していた、「空飛ぶヘビくん」もどきの改良を急ぐことにした。
完成品を自分の配下だけに持たせれば、功績を独占することも出来なくは無いが、他の貴族たちに妬まれるのと、
新兵器を与えられずに従来の方法で戦って、無意味に死んでいった竜騎士達の関係者から恨まれるので、
ゲルマニア軍全体に供給し、私の潜在的な与党を増やす為に手柄を分け与えることに決めた。
さらに、戦場に立てば命の危険があることを理解した私にとって、武器の生産は戦場に赴かない為の良い口実となる。
そして、戦時に後方で金儲けをしていることへの反感は、戦後に恩賞によってある程度抑えることが出来るだろう。
また、これを大型化して対艦ミサイルとして独占して活用することも決めた。



本当は「空飛ぶヘビくん」の本来の開発者であり、真の天才であるコルベール先生に手伝ってもらうのが1番手っ取り早く確実なのだが、
彼は戦争が嫌いであるし、まだ私の部下というわけではないので、機密保持の面からも今回は断念した。
ただし、レコンキスタがトリステインを攻めてきた時までに完成してなかったら、
戦乱に抗うすべを持たない多数の平民を守るためという口実で協力してもらおうと思う。



私にとって、目下のところ最大の不確定要素は、ルイズがこれからどうなるかという点である。
サイトの腕にまだガンダールヴの印が残っていることから、現在ルイズが生存していることは確定している。
ルイズの両親が殺されて、当主が交代した以上、ラ・ヴァリエール家はルイズの身代金を払わないはずなので、
見せしめとして殺されるなら、もう私の覚悟は完了したので問題はあまりない。
逆に、ルイズが行動の自由を取り戻せた場合にこそ問題がある。
ルイズは下手をしたら自分の現状に絶望して、この世界そのものを呪いかねない。
そして、ジョゼフと組んで始祖ブリミルが定めたこの世界の秩序そのものを破壊しようとしたら、
このハルケギニア世界全体が大変なことになるだろう。
そうでなくても、フーケ討伐への参加を断り、ルイズたちを見捨てた形になっているので逆恨みされる可能性はかなり高い。
もしも、ルイズを助けて自分の手駒にしようと思っても、何処に監禁されているかわからないので、救出は不可能に近いし、
今のトリステイン王国でルイズが助かったことを喜ぶのは、政治的には無知でお飾りなアンリエッタ王女ぐらいなものだろう。
そして、多数のトリステイン貴族に憎まれて今後に支障をきたしかねない。
さらに、虚無を手元に置くということは、ガリア王ジョゼフや教皇などの更なる危険を招きかねない。
なんだか考えるだけで頭が痛くなってきた。



ガンダールヴであるサイトは、ちょうど良いことに学院長の命令によってコルベール先生が面倒を見ているので、
将来利用する為に、コルベール先生の研究室に行った時に彼をしっかり観察してみた。
サイトは自分の主人であるルイズとは違って、平民に対する扱いがまだましなコルベール先生とはかなり良好な関係を築けているようだ。
ただ、巨大なゴーレムを操る土メイジであるフーケに歯が立たずルイズを奪われたことと、
2度目の決闘でスティックスに紐無しバンジーをさせられて、手も足も出ない状況で完敗した事で、
魔法という彼に理解できない力を自由に使うことが出来るメイジを酷く恐れるようになっていた。



現代の日本で育った彼にとっては、人間にそっくりな姿をしていて、
人間が到底真似出来ない特殊な能力を持っている存在について心当たりがあった。


それは多神教における神という存在である。


メイジと平民の力の差を心の底から理解してしまった以上、同じ人間だと考えるよりは、
平民は人間で、メイジは神もしくはそれに準ずる高位な存在だと考えた方が余程納得できた。
そして、貴族に屈服しているそこらの平民と同じになってしまったので、キュルケはサイトに対する興味をなくし、
また新たな恋の始まりを探しにいった。



ガンダールヴの力の源は震える心らしいので、心がへし折れてしまった今のサイトでは、
もうガンダールヴとして戦場に立って活躍することはできないだろう。
もしもシエスタと親しかったら、彼女のために勇気を振り絞ることも出来たかもしれないが、
彼女は私が干渉したわけでもないのに、決闘事件のとばっちりで罰を受けて、モット伯の屋敷で妾になっている。
最初はモット伯のイベントかとも思っていたが、サイトの現状から考えると、あんな無謀なことをやるとも思えない。
しかし、こうやって考えてみると、シエスタが居なくなったのは本当に痛かった。
彼女が原作と同じような関係をサイトとの間に築くことが出来ていたなら、
彼をレコンキスタとの戦争に駆り出す事への難易度はかなり下がったはずだ。
こうなったら、サイトのガンダールヴの力を利用する為に、彼に守るべきものという枷を付けた方が良いのかも知れない。











今回も読んでくださってありがとうございます。
ただの一般人に過ぎた力を急に与えるとかなりの割合で調子にのって大失敗を犯しますよね。
フネが落とされた場合、レビテーションやフライの魔法を唱えても、地上まで魔力と集中力が持ちません。
スカイダイビングの場合みたいに、地上に落ちる直前に魔法が唱えられれば助かりますが、
そんな訓練はほとんど誰もしたことが無いのです。



[10764] 改訂版第24話 使い魔と主人
Name: TNT◆5c31f948 ID:114e174f
Date: 2010/11/21 15:38
何時ものようにコルベール先生の研究室に行ってみると、サイトが複数の男たちに乱暴される幻覚が見えると訴えていた。
これはきっとルイズの見ている物が、彼女の危機に反応して使い魔であるサイトにも見えているんだろうとは思ったが、
そんなことを無知で無鉄砲なサイトに教えて、自分の命が危険に晒されるような大問題に巻き込まれる可能性が高い虚無に関わらざるを得なくなり、
わざわざ問題をややこしくする必要も無いだろうと思って黙っていた。
コルベール先生も、使い魔であるサイトと主人であるルイズの視覚が繋がっているのかもしれないと見当はつけていたみたいだが、
ルイズの監禁場所がわからない以上、救出するという方法が取れるはずも無かった。
そして、ラ・ヴァリエール家が対処するのを待つしかない現状では、さすがに本当のことを言うわけにもいかないようで、
サイトに


「いろいろあって君は疲れているんだ。ゆっくり眠って休養をとればそんな幻覚も見えなくなるはずだから、
今日はもうこの薬を飲んで休みなさい。」


と言って、眠りをもたらす水の秘薬を飲ませて休ませた。
その後、コルベール先生に、サイトが眠ったのを確認してから、


「君は彼が言ってた幻覚のことをどう思うかね?」


と、聞かれたので


「ミス・ヴァリエールの危機に反応して使い魔との視覚が繋がり、
 彼女が見ているものを彼もまた見ていると考えるのが自然なのではないでしょうか。」


と答えた。
コルベール先生は、自分の生徒が今まさに陵辱されているというこの結論を、頭の中では理解していても信じたくないようだったので、


「しかし、身代金を目的として誘拐した場合は、わざわざ人質を傷つける必要は無いはずですし、
 今後のことや捕まった場合のことを考えたら、ミス・ヴァリエールを傷つけることはフーケにとっても悪影響しか及ぼさないはずです。
 それなのになぜ今になってそんなことを・・・。
 それとも、金銭目的の誘拐というのは偽装で、フーケはラ・ヴァリエール家に対して恨みでも有ったんだろうか・・・。」

と言ったので、


「ラ・ヴァリエール家が彼女の身代金を払うのを拒否した場合は、腹いせと見せしめとしてやってもおかしくないと思いますよ。
 あの家の家中は、彼女の父親である先代公爵が下級貴族のカリーヌ・デジレ・ド・マイヤールをわざわざ正妻にした時からゴタゴタ続きですから・・・。
 そして、先代公爵夫妻が死んで、新当主が先代公爵の娘たちではなく親族から選ばれたのは、
 名門ラ・ヴァリエール家から身分の低い女の血を排除して、混乱を収めるという確固たる意思の現れでしょうから、
 先代公爵の娘であるミス・ヴァリエールの存在はあの家にとって邪魔にしかなりません。
 しかも彼女はトリステインの貴族としては必須技能であるはずの魔法をまともに使えず、失敗して爆発ばかりさせてますからね。
 当主が彼女と直接の血縁関係に無く、悪感情を抱いているであろう者に変わった以上は、
 身分の低い女が産んだ魔法もろくに出来ない娘ということで、切り捨てられ排除されてもおかしくないですよ。
 もともと彼女は父親からも、公爵令嬢としては異例中の異例である子爵との婚約をさせられる程度の価値だった訳ですから、
 親の贔屓目が無くなって、ラ・ヴァリエール家にとっての彼女の価値を客観的に判断した場合に、
 生きて戻ってこられて、今後も悪評を振りまいたうえに、ゴタゴタの原因になられるよりは、
 フーケと戦って名誉の死を遂げたということにして、もうこのまま戻ってこない方がよっぽどラ・ヴァリエール家の利益になりますから。」


と、自身の研究に夢中で、政治的の駆け引きや社交界での活動が苦手なコルベール先生にラ・ヴァリエール家の現状を説明した。
生徒によるフーケ討伐が大失敗に終わり、ルイズがフーケに誘拐された上に、こんなことになってしまったので、
アカデミー実験小隊の隊長まで勤めた実戦経験豊富なコルベール先生は、自分が同行しなかったことを酷く後悔しているようで


「こんなことになるのなら、フーケ討伐に私も付いていっていれば・・・」


と自分を責めるように呟いたので、ルイズがどんなに酷い目にあっていてもどうでも良かったが、


「もし誰かの手助けで今回は成功したとしても、それは彼女に悪影響しか与えませんよ。
 先生も彼女の長姉であるミス・エレオノール・ド・ラ・ヴァリエールのことはご存知でしょう?
 姉妹揃って公爵令嬢という身分ゆえに、問題を起こしても周囲の者がその場限りの小手先技でフォローをしてきたから、
 もう取り返しの付かない致命的な状況になるまで自分の現状に気が付かず、手遅れになってからようやく理解させられる。
 彼女にとって本当に必要だったのは、耳の痛いことでもきちんと忠告してくれる友人、
 もしくは、自分のやったことには自分で責任を取らせて、それがどういうことなのか教育する大人だったと思います。
 そして、彼女が魔法が使えないことへの反動で、公爵令嬢という身分に縋り付いている以上、
 彼女の両親以外には教育できる人間が存在しなくて、両親は最初からする気が無かったというのが彼女の不幸ですね。
 戦闘経験がまったく無い上に魔法すらまともに使えないのに、
 命の危険を伴うフーケ討伐に参加するなんて気が狂っているとしか思えません。


 だけど、たった1つの判断ミスですべてを失ってしまうなんて・・・。
 いくらゲルマニア帝国やゲルマニア人に対する敵意を隠そうともしなかったミス・ヴァリエールといえどもさすがにこの結末には同情しますね。
 我々も気をつけないと彼女の二の舞になりかねないので注意しないと・・・。」


と言った。


「やはり彼女はもう・・・」


内心原作知識を悪用して、事態をここまで悪化させた私が言うことじゃないなと思いながらも、


「ラ・ヴァリエール公爵家が身代金を払わないと、円満に解放されるということは考えられませんね。
 それ以外の方法を考えても、監禁されている場所がわからない現状では、
 救出作戦を立てるなどの積極的な行動をとりようが無いですから・・・。
 しかも、もし監禁場所がわかったとしても、彼女を傷つけないように救出するというのは物凄く難易度が高いでしょうね。
 敵を殲滅するだけなら、広範囲の破壊魔法で処理すれば良いんですけれど、人質がいるとなるとその手が使えませんから・・・。
 さらに、例え居場所が判明したとしても、私の立場はゲルマニア帝国からの公式な留学生ですから、
 勝手に動いてトリステインの王国の現主流派を敵に回すようなことをするのは難しいですね・・・。
 だから私は、自分もフーケ討伐に参加していれば無事に成功したんじゃないかと考えると心が痛みますが、
 彼女が無事に帰ってくることはもう諦めました。
 それゆえに、彼女の尊い犠牲を無駄にしない為にも、この教訓を今後に生かそうと思います。

 先生は、もしも彼女たちのフーケ討伐が成功した場合どうなっていたか考えたことはありますか?
 魔法もろくに使えないミス・ヴァリエールがフーケ討伐という大手柄を立てたんだからと、
 戦闘という行為をめったに怪我さえしないお遊びの決闘のように甘く見て、
 ピクニック気分で戦争に参加する生徒が大勢出る未来が容易に想像できます。
 私自身もそうですが、この学院の生徒は上級貴族の子弟だけあって、周りの人たちに手厚く守られていたから、
 今までは戦いという物をどこか甘く考えていたんでしょうね。
 それを考えると、学院でもトップクラスの実力を持つミス・タバサとミス・ツェルプストー、
 名門公爵家の令嬢だったミス・ヴァリエールの3人が失敗したことで、
 命を懸けた戦いでは、身分も生半可な実力もたいした意味を持たないということをみんなも理解したみたいで、
 私も参加しているフーケを討伐する為の訓練でも、必死でやっているのがよくわかりますよ。
 近い将来レコンキスタとの戦争になった時に、私の知っている人が碌な覚悟も無いまま無駄死にするのが少しでも減ってくれたら、
 今回の一件には意味があったと言えると思います。」


と言った。
先生はびっくりした様に、


「君はレコンキスタと戦争になると思っているのかね?」


と言ったので、彼を協力させる布石にする為にも、


「先生もアルビオンのレコンキスタと王家の現状はご存知でしょう?
 彼らは聖地奪還をお題目として唱えていますが、真の狙いは富の再分配でしょうね。
 参加者に目に見える実利を与えなければ、ここまで短期間で勢力が大きくなるはずが無いですから。
 だからこそ彼らは途中で絶対に立ち止まれない。
 立ち止まってしまったら、取り分をめぐって、内部分裂を起こして破滅するのが目に見えていますから。
 私の予想だと最短の場合で半年以内には、ハルケギニア征服の為の橋頭堡にする為に、ここトリステイン王国に攻めてくると思います。
 6000年の時を経て、始祖ブリミルが築いた4つの王権のうちの1つが消滅するんですから、
 レコンキスタをアルビオンの空中大陸に封じ込めるのに失敗し、ハルケギニアの大地への進出を許したら、
 各国とも今までの矛盾や綻びが一気に表面化して、今までに無い未曾有の大混乱が起こるでしょうね・・・。
 ゲルマニアは皇帝が始祖の血を引いていないこと故の権威の低さ、ガリアは反ジョゼフ王派であるオルレアン公派の存在、
 トリステインは相対的な国力の低さと王の居ない現状など、3カ国とも国内に大きな問題を抱えていますから・・・。
 そして、レコンキスタが勝利すれば、今度はお題目だった聖地奪還の為に、今まで敗北続きのエルフとの戦争までする羽目になる。
 直接の戦闘行為の犠牲者だけでなく、戦費の徴収の為に飢え死にする平民のことまで考えると、
 どれほどの犠牲が出るか想像すら出来ません。」


と、それなりにあり得そうな最悪の未来予想を説明した。
そして、それを聞いたコルベール先生は真っ青になっていた。
だからさらに続けて、


「レコンキスタのハルケギニア侵攻を妨げるには、内戦でいくらかは減るでしょうが、
 ハルケギニア最強と言われるアルビオンの空軍力を何とかする必要があります。
 特に、倒すのに他国の竜騎士が5騎必要とまで言われているアルビオン自慢の竜騎士隊を何とかしないと、
 制空権をレコンキスタに保持されて、決戦を行っても勝てないでしょう。
 私も対竜騎士用の武器の開発を考えてはいますけど、信頼性などの問題で、完成までにかなりの時間を要しそうですし、
 さらに配備のことを考えると、間に合わない可能性が高いでしょうね・・・。
 なんていうか対抗措置を考えるだけで自分の力の無さを痛感して、絶望的な未来に頭が痛くなりますよ・・・。
 せっかく知り合いになったこの学院のみんなもどれだけ無事に生き残ることが出来るか・・・。」


「いくらなんでもその未来はあまりにも・・・」


「ええ、みんなも楽観的に考えているから、私の言うことをまともに信じてくれないんですよね。
 確かに、6000年も続いた常識を否定するのは難しいでしょうね。
 だからこそ、このハルケギニアの常識の大元の1つが、アルビオン王家の滅亡という形で崩れ去ることで、
 計り知れない影響を周囲にもたらすというのに・・・。
 ただ、私も今すぐこれを信じてくれとは言いません。
 だけど、アルビオン王家の滅亡、レコンキスタのトリステイン侵攻なんかの節目の行事が起こり、
 先生も私の予想した未来が見えるようになったら、できるだけ犠牲を減らす為にも協力してください。」


そう言ってコルベール先生と別れて自分の部屋に戻った。
ただ、コルベール先生にはああ言ったが、原作知識によってフーケの正体を知っている私にとっては、
サイトが言っていたことが、本当にルイズが見ている光景なのかということについては若干信用しきれないでいる。
さすがに、いくら一緒に居れば不愉快になること間違いなしなルイズが相手でも、同性相手にそこまでするだろうかという思いがあるからだ。
でも、私がいろいろとやったせいで、原作とは流れが全然違っているので、過度の思い込みは禁物であることも確かだ。
それに、ルイズがどんなに酷い目にあっていようと、私にとっては、ルイズがこのまま歴史の表舞台から消えてくれさえすれば何も問題ない。
しかし、下手をしたらジョゼフ王が、ルイズを虚無のメイジとして覚醒させて、トリステイン王国に混乱をもたらそうとする可能性すらある。
ガリア王国の諜報力と北花壇騎士団の戦力があれば、ルイズを生かしたまま救出することも出来るだろう。
それだけが心配の種だ。
やっぱり能動的に動いた方が良いのだろうか・・・。









今回も読んでくださってありがとうございます。
なんだかルイズがどんどんラスボスフラグを立てています。
エレオノールとカトレアについては何れ本編で記述しようと思います。
モット伯って悪く言われることが多いですが、屋敷に武器を持って襲ってきたサイトをたかが本1冊で許した心の広い人物だと思います。
だからたまには良い目にあっても良いのではないかと思います。
これがオットーだったら、徹底的に政治利用して自分の利益に変えるでしょうね。


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