2010年11月22日3時0分
【ワシントン=村山祐介】訪朝したヘッカー米スタンフォード大教授が20日、北朝鮮・寧辺の核関連施設でウラン濃縮の新施設を訪れたことを明らかにした。核兵器の原料ともなるウラン濃縮を巡っては、北朝鮮は昨年9月に濃縮試験が成功し、最終段階にあると表明していた。ウラン濃縮は外部からの監視が難しく、従来のプルトニウム再処理とは別の核開発が、国際社会の目の届かない所で進みかねない。各国は難しい対応を迫られることになる。
ウラン濃縮はプルトニウムの再処理と違って大規模な施設は必要なく、衛星などでの追跡・監視は極めて困難になる。また、ウラン型原爆は濃縮技術さえあればプルトニウム型に比べて兵器化が容易とされ、核の脅威は高まる。米国務省は同日、ボズワース北朝鮮政策特別代表らを韓国、日本、中国との協議に派遣したと発表した。
米国の核兵器研究の中核を担うロスアラモス国立研究所長を務めたヘッカー氏は、スタンフォード大のホームページに20日付で報告書を掲載。それによると、ヘッカー氏らは今月12日に寧辺の核関連施設を訪れた際、北朝鮮の原子力総局の担当者らから、軽水炉の建設現場と「最近完成したばかりの近代的なウラン濃縮施設」に案内された。
北朝鮮側は「遠心分離器が2千基」「燃料用低濃縮ウランを製造している」と説明。また設備はすべて国産で、遠心分離器は青森県六ケ所村とオランダ・アルメロの濃縮施設を「モデルにした」とも主張したという。
施設はかつて燃料棒製造棟があった場所で、中には直径20センチ、高さ1.8メートルほどの遠心分離器を整然と配置。「近代的で清潔」で「衝撃を受けた」と記した。北朝鮮側の説明では昨年4月に着工し、同氏の訪問の数日前に稼働できるようになったという。
施設の幹部は同氏に「我々は、生き残るために独自の軽水炉建設を決めた。6者協議は喜んで進めたいが、前向きな合意を待つことはできない。(寧辺の施設を)軽水炉と試験的な濃縮施設に転換する」と語ったという。
ただヘッカー氏は、施設が実際に稼働しているかの独自の検証はできなかった、とした。施設側に核兵器の原料となる高濃縮ウランの製造能力を尋ねると、「制御室のモニターを見れば、低濃縮ウラン用に設定されていることが誰にでもわかる」との回答があったという。
一方でヘッカー氏は報告書で、条件さえそろえば同施設で年に低濃縮ウラン2トン、または高濃縮ウラン40キロが生産可能と指摘している。
20日付の米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)によると、ヘッカー氏は数日前にホワイトハウスに報告。複数の米政府当局者は同紙に、ヘッカー氏が視察した地域を衛星で確認したと説明。北朝鮮が核廃棄の約束を果たす「意思と行動」をみせない限り、核問題の交渉を再開する考えはないと述べたという。