トップ > ニュース&情報 > 時事・世論 > 花岡信昭メールマガジン

政治ジャーナリスト・花岡信昭が独自の視点で激動の政治を分析・考察します。ときにあちこち飛びます。

RSS

メルマガの登録・解除


花岡信昭メールマガジン740号

発行日:8/1


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
★★花岡信昭メールマガジン★★740号[2009・8・1]
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

<<民主党マニフェストはどこがまずいのか>>

【日経BPネット連載・時評コラム「我々の国家はどこに向かっているのか」7月30日更新】再掲

*「国家像」がどうにも見えてこない

 鳩山由紀夫代表が鳴り物入りで発表した衆院選マニフェスト(政権公約)は、ほぼ予想通りの内容だった。一読して、まことに申し訳ないが、これによって「民主圧勝ムード」が冷えていくのではないか、世間は冷静さを取り戻すのではないか、などと思ってしまった。

 というのは、どうひいき目で見ても、国民受けをねらった「ばらまき公約」ばかりが前面に出過ぎているからだ。このマニフェストからは、日本をどういう国にしていこうとするのか、目指すべき国家像といったものが見えてこない。政権を担おうとするからには、そこが最も大事な点ではなかったのか。

 もっとも、自民党が「民主党に負けるな」とばかりに、その水準を上回るようなばらまき型のマニフェストを出した場合は、様相が違ってくる。「ばらまき度」を競い合うことが総選挙の焦点となるからだ。そうなればなったで、その程度の攻防戦かとあきらめもつく。

<ひとつひとつの生命を大切にする。他人の幸せを自分の幸せと感じられる社会。それが、私の目指す友愛社会です。税金のムダづかいを徹底的になくし、国民生活の立て直しに使う。それが、民主党の政権交代です。>

 マニフェストの冒頭部分がこれである。だれが書いたのか知らないが、いかにも「歯の浮くような文章」となってしまった。これでは中学生か高校生あたりの作文の域を出ないと言われかねない。成熟した大人の社会で、どこまで通用するのかどうか。そこに関心を持たざるを得ない。

 国の為政者が「民のカマド」に思いをはせるのは、当たり前のことだ。それが、このマニフェストでは、どこか浮世離れした印象を与えるのはいったいなぜか。そこを考えていて、思い当たった。

 日本経済がどん底の状態になってしまったのは、アメリカ発の金融危機である。これが世界同時不況の引き金となった。そのことが書いてないのだ。麻生首相は「全治3年」と言明したが、そこには、危機乗り切りのためには国民も痛みを甘受してほしいといったニュアンスが浮かぶ。

*払拭されない「ばらまき公約」の財源問題

 そういった脈絡とはまったく関係のないところで、これでもかといわんばかりに数多くのばらまき公約が並ぶ。財源はどうするのかという批判に対抗して、4年間の工程表も作成したのだが、これもどうやら裏目に出たのではないか。

 2013年度の所要額は16.8兆円に達するのだが、その財源確保策として、国の総予算207兆円の組み替え、税金のムダづかいと天下り根絶、国家公務員の総人件費2割削減、「埋蔵金」の活用、租税特別措置の見直しなどが並ぶ。はたして、どれだけの説得力があるか。

 これまで月2万6000円としてきた子ども手当(中学卒業まで)は「年31万2000円」と言い換えた。金額の数字を高めようということか。高校の実質無償化、高速道路無料化、月7万円の最低保障年金、医師数1.5倍、農業の戸別所得補償制度、ガソリン税などの暫定税率廃止、月10万円の手当つき職業訓練制度、中小企業の法人税率11%に引き下げ・・・などと「おいしい公約」が次々に出てくる。

「民主党の5つの約束」というのがある。「ムダづかい」「子育て・教育」「年金・医療」「地域主権」「雇用・経済」という区分になっている。このうち、「地域主権」の中に、農業の戸別所得補償、高速道路無料化、郵政事業の抜本見直しなどが含まれているが、この分類の仕方もよく分からない。

*「外交・安全保障」が後回しでよいのか

 この「5つの約束」に、外交・安全保障は出てこない。これがやっと出てくるのは、政策各論として、上記の5項目に「消費者・人権」「外交」が加えられて7項目としてある部分の最後である。

 このあとに、憲法が出てくる。「国民の自由闊達な憲法論議を」というのだが、衆参両院の憲法審査会の実質的なスタートに反対してきたのは民主党ではなかったか。

 外交は票にならないというのが政界の通例だが、政権を担当しようという政党が、外交・安全保障について、こういう扱いをする。アメリカの大統領選挙では、共和党でも民主党でも、外交・安保・危機管理が重要なウエートを占める。内政もさることながら、国際社会でどう行動するかをはっきりと表明しなければ、政権担当能力を示すことにはならないからだ。

 マニフェストでは、外交の部分で「緊密で対等な日米関係を築く」「東アジア共同体の構築をめざし、アジア外交を強化する」「北朝鮮の核を認めない」「世界の平和と繁栄を実現する」「核兵器廃絶の先頭に立ち、テロの脅威を除去する」といった項目が並んでいる。対北朝鮮政策の中に、「貨物検査の実施を含め断固とした措置をとる」という表現があるが、これはこちらの読み間違いか。貨物検査を可能にする特措法を廃案にしたことを忘れたようだ。

 インド洋での自衛隊の給油支援活動については触れていない。これは、現実的対応をとるとして、民主党政権ができたからといって、ただちに自衛隊に帰国命令を出すようなことはしない、という意味合いだという。

 民主党は自衛隊の派遣について、「憲法違反だ」として反対してきたはずだ。派遣期間の延長に抵抗したため、自衛隊は一時帰国を余儀なくされた。それが一転して、現状追認というのはどうもよく分からない。

 村山自社さ政権を思い出そう。社会党委員長が首相になったため、当時の社会党は結党以来の党是ともいえる「自衛隊違憲」「日米安保反対」といった基本政策をことごとく転換していった。首相は自衛隊の最高指揮官なのだから、憲法違反の存在だなどといっていたら、首相の職が務まるわけがない。

 民主党はその再現をやろうとしているのではないか。主義主張は自由だが、「憲法違反だ」としてきたものをいとも簡単に捨て去るというのは、政党の「誠実さ」にかかわる。そのあたりの言及がないことがどうにも気になるところだ。

 自衛隊の現場の心境を考えよう。憲法違反だとして派遣に反対してきた政党の党首が、今度は最高指揮官となるというのでは、穏やかならざるものがあるはずだ。自衛隊は国家が容認する最高の「暴力装置」である。であるがゆえに、この問題に真正面から取り組もうとしない態度はいかにも危うい。これまでの主張が誤りであったというのであれば、素直に認めたほうがいい。

 そのほか、論議が尽くされていない「人権侵害救済機関の創設」「社会保険庁と国税庁の統合による歳入庁の創設」などが、さりげなく盛り込まれている。

*社民党、国民新党、共産党との摺り合わせをどうするのか

 民主党政権ができる場合は、社民党、国民新党との連立政権になる公算が強い。参院で民主党は単独過半数に達していないため、国会運営をスムーズに進めるために、たとえ衆院総選挙で単独過半数を得たとしても、社民党などとの連立になるといわれている。

 さらに、共産党の影響力が強まることになる。共産党はかつての方針を転換し、小選挙区の半分程度しか候補を立てない。候補のいない選挙区の共産支持票は必然的に民主党候補に上乗せされる可能性が高い。民主党としては「借り」をつくることになりかねない。

 東京都議選の結果がこの見方を裏打ちすることになった。自民敗北、民主躍進に終わった都議選だが、自公与党は合わせて61議席で過半数64に3議席足りない。民主党は20議席増やして54議席を得たが、民主党とほぼ同一歩調を取る生活者ネットワーク2議席、無所属2議席を加えても過半数に足りない。共産党8議席がキャスティングボートを握るのである。これが国政にどう反映していくか。

 国民新党はともあれ、社民党、共産党の影響力の強い政権となれば、別次元の制約が出てくることは十分に予想できる。民主党はそのあたりの説明も不足している。

 とにかく、日本政治で初の本格的な「政権選択選挙」が行われようとしているのだ。民主党のマニフェストはその高揚感は伝わってくるものの、真摯な緊張感が欠けているように思える。政権担当を目前にしているのであれば、乗り越えるべき壁の存在と、これをどう克服していくか、そこをきちんと見据えるべきだ。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
記事を読んだら、あなたの評価をつけてください。
評価は3段階で簡単にできますので、本メールの一番下からご参加ください!
___________________________________
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【お知らせ】
★拓殖大学大学院地方政治行政研究科がスタートして半年、来年度入試に向けての説明会などが始まっています。「地方の時代」を担う人材育成を目指して発足した独立大学院ですが、22歳から78歳まで、さまざまな立場の「学生」が集まっています。
 われこそはと思う方は、拓大のHPをご覧ください。
http://www.takushoku-u.ac.jp/graduate/local_govt/summary_index.html
 今後の社会人向け説明会は、以下の通りです。場所は茗荷谷の拓大文京キャンパス。
・9月25日午後6時半−9時 記念シンポジウム終了後 C201教室
・11月28日午前11時 C602教室
 そのほか、ご質問などなんでも結構ですから、このメルマガに返信していただけると届きます。

<<日経BP>>
花岡のコラム『我々の国家はどこに向かっているのか』。毎週木曜更新。掲載媒体が「nikkeiBPnet」 <http://www.nikkeibp.co.jp/>
に変更になりました。過去記事はSAFETY JAPANで閲覧できます。 
<<Janet>>
 時事通信サイトJanetの花岡コラム『官邸ウオッチ・風測計』。月末に更新。
<http://janet.jw.jiji.com/apps/do/auth/login.html>

<<そのほか花岡の拙稿など>>
★正論(産経新聞社)9月号「自民『最後の戦い』の七転八倒」
★aura(フジテレビ調査部)194号 「テレビが伝える『政治』」
★政経往来6月号 「政局展望 攻守交代は解散時期次第」
★時事評論665号(北潮社・7月20日号)「自民党の『情けなさ』」
★コメントライナー(時事通信)7月13日号 「麻生首相の去就が焦点に」
★季刊・現代警察(啓正社)124号 「セレクト情報・国内政治・消えた5月解散」
★Voice(PHP)4月号 「特集・正気にかえれ!日本政治・『悪法』推進議員は誰だ!」
★激論ムック(オークラ出版) 「反日マスコミの真実2009」「田母神論文問題」
http://www.amazon.co.jp/gp/product/477551315X
★史(新しい歴史教科書をつくる会 電話03−5800−8552)1月号 「田母神論文が浮き彫りにした日本の病弊」
★JAPAN TAIWAN(日華文化協会)162号 「政治とネット社会が結びつく日」
★日本国際フォーラム東アジア共同体評議会 政策掲示板・百家争鳴
http://www.ceac.jp/j/index.html

最新の記事

ブックマークに登録する

TwitterでつぶやくLismeトピックスに追加するはてなブックマークに追加del.icio.usに追加Buzzurlにブックマークニフティクリップに追加ライブドアクリップに追加Yahoo!ブックマークに登録記事をEvernoteへクリップ
My Yahoo!に追加Add to Google

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

この記事へのコメント

コメントを書く


上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

  1. 笑窪も痘痕?・・間然ありも、乗る馬や添う人に拠りけりか。

     2009/8/5

  2. 普通の日本人だと自認している、小生の考えに最も近いものでした。

     2009/8/2

  3. 花岡氏ほどの方でも主義主張の違う意見には判断力を狂わせるらしい。国民目線はもう民主党なのです。はっきりいって自民アレルギーです。もう論理、感情をもこえて本能的嫌悪感と言った方が適切でしょう。
     民主のマニフェストが上出来とは思いませんが、それよりもなによりも自民のこの4年間の評価がマニフェスト以前。これは政権交替国民のレッドカードです。

     2009/8/1

  4. 民主党に対する怒りで冷静さを失いそうになると花岡さんメールマガジンを見て気を取り直します。
    冷静に、しっかりと、この国難を乗り切る覚悟が湧いてきます。少しですけどね。

     2009/8/1

  5. 従来か分かっている事だが、どこまで自民党よりなのか。 評価は「もう少し」ではなく、「評価できない」。

     2009/8/1

  6. 民主党のマニュフェストが不備だらけであることは指摘のとおりだが,では,花岡先生は,どのような国家像を示されるのか?
    日本のあるべき姿を示されたい。

     2009/8/1

このメルマガもおすすめ

  1. Japan on the Globe 国際派日本人養成講座

    最終発行日:
    2010/11/21
    読者数:
    12718人

    日本に元気と良識を。歴史・文化・政治・外交など、多方面の教養を毎週一話完結型でお届けします。3万8千部突破!

  2. 月刊アカシックレコード

    最終発行日:
    2010/11/02
    読者数:
    18601人

    02年W杯サッカー韓国戦の「誤審」を世界で唯一「前日」に誌上予測し、誤審報道を「常識化」した推理作家が、政官財界の分析にも進出し、宣伝費ゼロで読者19,000人を獲得。2009年9月から月刊化。

  3. 宮崎正弘の国際ニュース・早読み

    最終発行日:
    2010/11/22
    読者数:
    17230人

     評論家の宮崎正弘が独自の情報網を駆使して世界のニュースの舞台裏を分析

  4. 頂門の一針

    最終発行日:
    2010/11/22
    読者数:
    4732人

    急所をおさえながら長閑(のどか)な気分になれる電子雑誌。扱う物は政治、経済、社会、放送、出版、医療それに時々はお叱りを受けること必定のネタも。

  5. 甦れ美しい日本

    最終発行日:
    2010/11/21
    読者数:
    7003人

    日本再生のための政治・経済・文化などの発展・再構築を目的とし、メールマガジンの配信を行う