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開国是か非か:TPP・識者に聞く 雪印メグミルク社外取締役・日和佐信子氏

 政府は、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)関係国との協議開始を表明した。参加しなければ、貿易自由化の流れから取り残されかねないが、参加すれば、農業への打撃が懸念される。「平成の開国」(菅直人首相)に踏み切るべきか。各界の識者に聞く。

 ◇食の安全、確保を 拙速避け議論尽くして

 --菅首相がTPPへの参加に意欲を示しています。

 ◆非常に唐突な印象を受ける。そもそもTPPとは一体何なのかを国民の多くがまだ理解していない。消費者のメリット・デメリットも明確に説明されていない。尖閣問題など外交で失態が続く菅内閣が今回のアジア太平洋経済協力会議(APEC)で得点を狙ったのではないか。

 --TPPは「関税完全撤廃」が原則で、消費者にもメリットがあると言われます。

 ◆安価な牛肉や豚肉、乳製品などが海外から大量に流入し、食品価格が全般的に下がる可能性は高い。衣料品や生活用品の価格も下がりそうだ。景気低迷で家計が苦しいため、価格面では確かにメリットがある。だが、目先の価格低下が消費者に本当にメリットなのかは疑問だ。

 --具体的には?

 ◆食の安全・安心の問題だ。農薬を過剰に使った穀物やBSE(牛海綿状脳症)のリスクが残る牛肉といった輸入農産物に過度に依存するのは問題だ。食料安全保障の観点からも食料自給率の向上は重要だ。拙速なTPPへの参加は、国民に良質な食料を安定供給するという国家の義務と矛盾する。

 --「TPPに参加すれば、日本農業が壊滅する」と農業団体は反対しています。

 ◆高級和牛のような一部の農産品はなくならないと思う。一方、輸入品との差別化が難しい農業は低価格競争で衰退するだろう。庶民が安価な国産牛を安心して食べられる機会を減らしかねない。

 --政府が取るべき方策は?

 ◆消費者と農業界、経済界の代表らがTPP参加の是非について徹底的に議論する場を設けるべきだ。経済界がメリットばかり強調し、農業団体はデメリットを声高に叫ぶなど極端な論調が目立つ。しかも関係省庁はTPPの影響についてばらばらに試算を出していて、消費者は冷静に判断できない。参加の是非は半年や1年程度で結論が出るような軽い話ではない。政府は信頼できる詳細なシミュレーションを国民に提示し、食の安全・安心がきちんと確保できるような対策も含めて、議論を尽くし、慎重に判断すべきだ。

 --TPPの参加の判断にあたって、消費者に必要な姿勢は?

 ◆食への意識を変える必要がある。国内のコメ消費量は減少傾向が続いているが、コメは、温暖多雨な日本の気候に合った作物だ。「住んでいる土地で生産されたものを食べる」というのが人間の自然な営みであり、安易に安価な輸入作物ばかりを口にするのはいかがなものか。「日本の農業を良くするためにどうすればいいか」を消費者が真剣に考えなければならない。【聞き手・太田圭介】

    ◇

 このインタビュー・シリーズは随時掲載します。

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 ■人物略歴

 ◇ひわさ・のぶこ

 早大文卒。日本生活協同組合連合会理事、全国消費者団体連絡会事務局長を経て、02年から雪印乳業(現雪印メグミルク)社外取締役。74歳。

毎日新聞 2010年11月18日 東京朝刊

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