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PJ: 田中 大也

「児童の人権擁護」や「児童ポルノ根絶」に所持・取得罪の効果はあるのか?(下)
2010年11月17日 09:09 JST

【PJニュース 2010年11月17日】さらに、児童ポルノならではの特性が、存在していることも考慮する必要がある。

違法薬物や拳銃とは異なり、「児童ポルノ製造」に必要なのは、「十八歳未満(に見える)の男女」と、撮影機器という極めてありふれた、しかも規制が効かない要因であり、製造から拡散までに至る時間も、極めて短い時間で済む。

しかも、無限に複製され得るデジタルデータであることが多く、見た目では違法性が把握できないことが多いため、情報に接する側が違法性を認識できず、故に、心理的萎縮効果も望めないといった要素を加味して考えると、所持、取得罪の設置と運用は、実効性は望めないと結論付けざるを得ない。

現行法では、どこかの掲示板に一枚の児童ポルノが貼りつけられていたとすれば、一人の実行者を検挙すれば済む。ところが、所持、取得罪を適用すると、アクセスした何千人、何万人もの人々を犯罪者扱いしなければならなくなる。つまり、労力だけが莫大になり、全体としての実効性、法律の人権擁護効果は、数千分の一以下といった具合に限りなく薄められてしまうことにもなる。

そもそも、現在の「児童ポルノ」には、被写体が本当に児童なのかどうか分からない、既に被写体が児童ではないというものが大量に含まれており、そうした画像を取得したとして何万人を逮捕したとしても、児童の人権擁護に貢献したとは言えない現実もある。

実際、米国など、単純所持規制を敷いている一部の国々は、ずっと「児童ポルノ大国」であり続けている。米国や英国などでは、苛烈なまでの「作戦」によって、所持、取得者を大量に逮捕し続けているのだが、様々な統計データを見ても、長年にわたって米国が「児童ポルノ大国」である状況は変わらない。

本当に、所持及び取得罪に実効性があるのなら、日本が数値的に飛びぬけて高く、しかも年々突出していくような統計結果でなければならないはずだが、現実は、真逆に近い状況にある。例えば、イタリアの児童保護団体「テレフォノ・アルコバレーノ」が統計を取っている、国別児童ポルノサイト総数と利用者に関するデータでは、2009年現在、世界の児童ポルノサイト総数49393のうち、日本の児童ポルノサイトの総数は56に過ぎないとしている(ワースト一位はドイツの19488)。また、同団体が統計を取っている児童ポルノサイト利用者の統計に関しても、日本の割合は、2004年、2007年、2009年と進むに従ってむしろ減少している(2004年 3.59%、2007年 1.74%、2009年 1.5%)。

こうしたデータからも、日本が「児童ポルノ大国」でないことと、年月を経ても、法的処罰範囲の拡大が、児童ポルノ抑制に貢献していないことがうかがえる。


これらのことから考えると、実証的観点からも、所持、取得罪のメリットは否定されていると言っていいだろう。

「児童ポルノ根絶」という立派な理念、正義を掲げれば、何をしてもいいということはない。法律を変え、人を動かし、新たな規制を提示するからには、実効性があるのか、デメリットはないのかという要素が問われるのは当然のことだ。

テロリスト撲滅の旗印を掲げる軍があったとして、そこの参謀が、実行者のみならず、実効映像を見た人間全てを攻撃対象とすべし、などと提言したら、無視されるか、悪くすれば更迭の対象になるだろう。しかし、児童ポルノ案件では、こういった実効性やデメリットをまるで無視した「作戦」が、当たり前のようにまかり通っている。無茶苦茶な作戦が破綻するのは当然のことだが、「作戦」でターゲットにするのは、敵国ではなく、自国の市民である以上、そのツケは、ダイレクトに市民が支払うということになるのだ。【了】

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