プロローグ
「じゃあ、行ってらっしゃいシャウト」
「うん、じゃあね。六年は会えなくなるけど、手紙は書くから」
母親に別れを告げ、シャウトは父親に声をかけた。
「親父、行ってくる」
「勝手にしろ。お前がどこに行こうと俺は関係ない。援助もするつもりはないからな。お前といいあいつといい。勝手な事いいやがって」
しかし、父親のシャウトへの言葉は冷たいものだった。シャウトは、父親の反対を押し切って学園都市に行くことを決めた。それにあたって父親と大喧嘩をし、結局学費や生活費の援助を一切しない、ということで無理やり納得させたのだった。
「分かってるよ。そこは自分で何とかする」
シャウトは、それに対する父親への反感は抱いていなかった。むしろ反対されたこと自体当然だとさえ思っていた。
父親は、不器用な男だ。あんなに自分が都市を出ることに反対したのは息子のことが心配だったからだろう。都市を移動するには放浪バスに乗ることになる。そして、汚染物質に覆われ、汚染獣が蔓延る大地を移動するのだ。一度汚染獣に襲われれば生き残る術はない。それを心配しているのだろう。
(分かってるよ、親父。俺のこと心配してくれるのは嬉しい。そんな親父の気持ちに背くのは少し気が重い。でもさ、やっぱり俺他の世界が見たいんだ。こことは違う、別の都市を見てみたい。だから、ごめん。でも、必ず帰ってくるから)
「じゃあ、行ってきます」
シャウトは14年過ごした家を後にした。必ず帰ってくるという誓いを立てて。
~放浪バス~
「へえ、放浪バスって結構広いんだな。まあ、ずっと座ってんだから当たり前か。…っと、ここかな?」
シャウトは自分に割り当てられた席に座った。隣には見た目、15歳くらいに見える青年がいた。
(もしかして…)
「なあ、もしかして君も学園都市へ?」
「へ?あ、そうですよ。学園都市ツェルニ。じゃあ、あなたも?」
突然質問され驚いたようだったが青年はそう答えた。
「ああ、そうだ。奇遇だなこんなにすぐに同じ目的地の奴に会えるなんて。俺はシャウト・ウォロン。武芸科だ。シャウトでいい。」
「そうだね。僕はレイフォン。レイフォン・アルセイフ。一般教養科。よろしく」
「レイフォンはどこの都市から?」
「槍殻都市グレンダンから。知ってる?」
「当たり前だ。サリンバン教導傭兵団の母都市の槍殻都市グレンダンと交通都市ヨルテムこの二つは誰でも知ってるんじゃないか?有名所じゃないか。俺は、言わなくてもいいよな?」
「うん、ここでしょ。それにしてもすごいね、初めて知ったよ。幻惑都市アウルート。こんな都市まであるんだ」
「まあ、俺達には都市がいくつあるかも分からないしな。こんなもんだろう。世の中には殺戮都市なんてものもあるぐらいだし…」
「そうなの!」
「嘘だ」
「………」
「いや、嘘だと言い切ることはできんな。さっきも言ったように俺達には知りようがないんだし。もしかしたらそういう都市もあるかもしれん。まあ、そんな都市の人間に会いたくはないがな」
シャウトがそこまで言ったときにバスが出発した。
「おっ、ようやくか。放浪バスは初めてだから楽しみだ。ところでレイフォン」
「ん、何?」
「お前、武芸者だろ?なんで一般教養なんだ?」
瞬間、レイフォンの顔が固くなった。そしてしばらく経った後ボソッと
「武芸では、失敗したから。別の道を探すんだ」
と言った。なんだか、空気が重くなってしまいシャウトは別の話題を振ることにした。
「そっ、それよりお前の荷物少なくねーか?他のやつのより二回り位小さいぞ」
いや、放浪バスに乗るのだから荷物を少なくするのは当然なのだが、それにしても…
「僕は孤児だから。あんまり持ってくるものがなかったんだ」
「……………」
ああ、どんどん墓穴を掘っていく。ああ、どんどん気が重くなっていく。ああ、どんどん空気が重くなっていく…
「気にしないで。全部、僕のせいなんだから…」
「え?」
「ううん。なんでもない。そろそろ寝よっか、バスって結構疲れるから寝といたほうがいいよ」
レイフォンはそう言って笑って目を瞑った。しかし、シャウトはレイフォンの言葉が気になっていた。
(お前のせいって…どういうことだよ。何でお前、そんな悲しそうに笑うんだ?)
結局、それが原因でシャウトはあまりよく眠れなかった。なので家から持ってきたツェルニの紹介誌を読むことにした。正直親とのケンカやらでまともに読んでいなかったからだ。
「・・・あ、マジかよ。もうちょっと場所選べばよかった」
そこには、とても重要なことが書かれていた。これは明日、レイフォンに言っておかなくてはいけないだろう。
そして次の朝
「おはよう、レイフォン。ようやく起きたか」
「おはよう、シャウト。もしかして…ずっと起きてた?」
「まさか。まあ、あまり眠れなかったのは事実だが…あまり眠れないものだな、放浪バスってのは」
「まあ、慣れるまでは大変だろうね…」
「早く、ヨルテム着かないかな…。そうだレイフォン、一つ言っておこう」
「何?」
「お前、ツェルニで新しい道を探すって言ってたよな?」
「うん。それには学園都市が一番よさそうだったしね」
「そう、それだ」
「えっ?」
突然指を指され戸惑うレイフォン。シャウトはそのまま続きを話す。
「いま、これは俺も昨日初めて知ったんだが、ツェルニはセルニウム鉱山の所持数が一つになってしまっているらしい。そして、情報によると今年は「戦争」の年らしいんだ」
「戦争」とは昔からの都市の儀式のようなもので都市にいる武芸者達が戦う、と言うものだ。そして、「戦争」と言うだけあり負けた都市は代償を払わなければならない。それすなわち、都市の命。都市はセルニウムという物質を燃料としている。セルニウムはこの世に汚染物質が蔓延した頃から生成された物質のため最悪、そこらを掘れば簡単に掘り出せる。だが、都市を動かすとなればそれなりに高純度のセルニウムが必要となる。それが採れるのがセルニウム鉱山であり、戦争の代償でもある。つまり、ツェルニは今、危機に瀕していると言うことだ。
「ええと、つまり?」
「お前は武芸者だ。それも俺の推測が正しければかなり強い。ツェルニ内では最強クラスだろうな。違うか?」
「…僕は、武芸をやるつもりはないよ」
「そうだろうな、だから、気をつけろと言ってるんだ」
「どういうこと?」
「お前ほどの、まあ、どの位かは見たことがないからよく言えないが実力者だ。力を見せたら最悪武芸科に転科、と言うことも有り得る。だから、うかつな行動はするなよ?」
「…気をつける」
あとがき
はい、というわけでプロローグでした。僕は学生なので更新頻度が遅いかと思いますがその辺りはご勘弁ください。
それと、初めての作品なのでまだまだレベルは低いと思います。読んでくれた人、ありがとうございます。そして、これからもよければ読んでくれると嬉しいです。
あと、感想や意見を出してくれると大変ありがたいので何かある人は遠慮せずに書いてもらって結構です。