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[21374] 「習作」 幻影のシャウト ( 鋼殻のレギオス  オリ主) 
Name: スピカ◆2b2ac280 ID:72639636
Date: 2010/08/29 01:00
プロローグ

「じゃあ、行ってらっしゃいシャウト」
「うん、じゃあね。六年は会えなくなるけど、手紙は書くから」

母親に別れを告げ、シャウトは父親に声をかけた。

「親父、行ってくる」
「勝手にしろ。お前がどこに行こうと俺は関係ない。援助もするつもりはないからな。お前といいあいつといい。勝手な事いいやがって」

しかし、父親のシャウトへの言葉は冷たいものだった。シャウトは、父親の反対を押し切って学園都市に行くことを決めた。それにあたって父親と大喧嘩をし、結局学費や生活費の援助を一切しない、ということで無理やり納得させたのだった。

「分かってるよ。そこは自分で何とかする」

シャウトは、それに対する父親への反感は抱いていなかった。むしろ反対されたこと自体当然だとさえ思っていた。
父親は、不器用な男だ。あんなに自分が都市を出ることに反対したのは息子のことが心配だったからだろう。都市を移動するには放浪バスに乗ることになる。そして、汚染物質に覆われ、汚染獣が蔓延る大地を移動するのだ。一度汚染獣に襲われれば生き残る術はない。それを心配しているのだろう。


(分かってるよ、親父。俺のこと心配してくれるのは嬉しい。そんな親父の気持ちに背くのは少し気が重い。でもさ、やっぱり俺他の世界が見たいんだ。こことは違う、別の都市を見てみたい。だから、ごめん。でも、必ず帰ってくるから)

「じゃあ、行ってきます」

シャウトは14年過ごした家を後にした。必ず帰ってくるという誓いを立てて。



~放浪バス~

「へえ、放浪バスって結構広いんだな。まあ、ずっと座ってんだから当たり前か。…っと、ここかな?」

シャウトは自分に割り当てられた席に座った。隣には見た目、15歳くらいに見える青年がいた。

(もしかして…)
「なあ、もしかして君も学園都市へ?」
「へ?あ、そうですよ。学園都市ツェルニ。じゃあ、あなたも?」

突然質問され驚いたようだったが青年はそう答えた。

「ああ、そうだ。奇遇だなこんなにすぐに同じ目的地の奴に会えるなんて。俺はシャウト・ウォロン。武芸科だ。シャウトでいい。」
「そうだね。僕はレイフォン。レイフォン・アルセイフ。一般教養科。よろしく」
「レイフォンはどこの都市から?」
「槍殻都市グレンダンから。知ってる?」
「当たり前だ。サリンバン教導傭兵団の母都市の槍殻都市グレンダンと交通都市ヨルテムこの二つは誰でも知ってるんじゃないか?有名所じゃないか。俺は、言わなくてもいいよな?」
「うん、ここでしょ。それにしてもすごいね、初めて知ったよ。幻惑都市アウルート。こんな都市まであるんだ」
「まあ、俺達には都市がいくつあるかも分からないしな。こんなもんだろう。世の中には殺戮都市なんてものもあるぐらいだし…」
「そうなの!」
「嘘だ」
「………」
「いや、嘘だと言い切ることはできんな。さっきも言ったように俺達には知りようがないんだし。もしかしたらそういう都市もあるかもしれん。まあ、そんな都市の人間に会いたくはないがな」

シャウトがそこまで言ったときにバスが出発した。

「おっ、ようやくか。放浪バスは初めてだから楽しみだ。ところでレイフォン」
「ん、何?」
「お前、武芸者だろ?なんで一般教養なんだ?」

瞬間、レイフォンの顔が固くなった。そしてしばらく経った後ボソッと

「武芸では、失敗したから。別の道を探すんだ」

と言った。なんだか、空気が重くなってしまいシャウトは別の話題を振ることにした。

「そっ、それよりお前の荷物少なくねーか?他のやつのより二回り位小さいぞ」

いや、放浪バスに乗るのだから荷物を少なくするのは当然なのだが、それにしても…

「僕は孤児だから。あんまり持ってくるものがなかったんだ」
「……………」

ああ、どんどん墓穴を掘っていく。ああ、どんどん気が重くなっていく。ああ、どんどん空気が重くなっていく…

「気にしないで。全部、僕のせいなんだから…」
「え?」
「ううん。なんでもない。そろそろ寝よっか、バスって結構疲れるから寝といたほうがいいよ」

レイフォンはそう言って笑って目を瞑った。しかし、シャウトはレイフォンの言葉が気になっていた。

(お前のせいって…どういうことだよ。何でお前、そんな悲しそうに笑うんだ?)

結局、それが原因でシャウトはあまりよく眠れなかった。なので家から持ってきたツェルニの紹介誌を読むことにした。正直親とのケンカやらでまともに読んでいなかったからだ。

「・・・あ、マジかよ。もうちょっと場所選べばよかった」

そこには、とても重要なことが書かれていた。これは明日、レイフォンに言っておかなくてはいけないだろう。

 そして次の朝

「おはよう、レイフォン。ようやく起きたか」
「おはよう、シャウト。もしかして…ずっと起きてた?」
「まさか。まあ、あまり眠れなかったのは事実だが…あまり眠れないものだな、放浪バスってのは」
「まあ、慣れるまでは大変だろうね…」
「早く、ヨルテム着かないかな…。そうだレイフォン、一つ言っておこう」
「何?」
「お前、ツェルニで新しい道を探すって言ってたよな?」
「うん。それには学園都市が一番よさそうだったしね」
「そう、それだ」
「えっ?」

突然指を指され戸惑うレイフォン。シャウトはそのまま続きを話す。

「いま、これは俺も昨日初めて知ったんだが、ツェルニはセルニウム鉱山の所持数が一つになってしまっているらしい。そして、情報によると今年は「戦争」の年らしいんだ」

「戦争」とは昔からの都市の儀式のようなもので都市にいる武芸者達が戦う、と言うものだ。そして、「戦争」と言うだけあり負けた都市は代償を払わなければならない。それすなわち、都市の命。都市はセルニウムという物質を燃料としている。セルニウムはこの世に汚染物質が蔓延した頃から生成された物質のため最悪、そこらを掘れば簡単に掘り出せる。だが、都市を動かすとなればそれなりに高純度のセルニウムが必要となる。それが採れるのがセルニウム鉱山であり、戦争の代償でもある。つまり、ツェルニは今、危機に瀕していると言うことだ。

「ええと、つまり?」
「お前は武芸者だ。それも俺の推測が正しければかなり強い。ツェルニ内では最強クラスだろうな。違うか?」
「…僕は、武芸をやるつもりはないよ」
「そうだろうな、だから、気をつけろと言ってるんだ」
「どういうこと?」
「お前ほどの、まあ、どの位かは見たことがないからよく言えないが実力者だ。力を見せたら最悪武芸科に転科、と言うことも有り得る。だから、うかつな行動はするなよ?」
「…気をつける」









あとがき

 はい、というわけでプロローグでした。僕は学生なので更新頻度が遅いかと思いますがその辺りはご勘弁ください。
 それと、初めての作品なのでまだまだレベルは低いと思います。読んでくれた人、ありがとうございます。そして、これからもよければ読んでくれると嬉しいです。
 あと、感想や意見を出してくれると大変ありがたいので何かある人は遠慮せずに書いてもらって結構です。



[21374] お知らせ
Name: スピカ◆2b2ac280 ID:72639636
Date: 2010/08/25 21:14

第一話をこの前更新したのですが、なにかしらのイベントがあったほうがいいという意見をいただき、確かにそうだと思ったので次の投稿は少し遅くなると思いますのでご了承ください。



[21374] 第一話  シャウトの過去
Name: スピカ◆2b2ac280 ID:72639636
Date: 2010/08/29 18:05
シャウトが放浪バスに乗ってから数日後、シャウト達は見知らぬ都市で足止めを食らっていた。いや、大体の都市が見知らぬものではあるのだが…。外で暴風が吹き荒れていてバスが走れないとかなんとか。そんなわけでいまシャウト達はその都市のホテルに泊まっていた。

「まあ、こういうこともあるよね」
「そうだろうな。俺としてはベッドでゆっくり眠れるからありがたいがな」
「いつ頃出発するんだろう?」
「まだしばらくは掛かるだろう。ついでにバスの点検やらなんやらもするみたいだし」
「そうなんだ」
「アナウンスで言ってたぞ?聞いてなかったのか。まあ、それはいいとして…どうせならこの都市見て回らないか?それがある意味、俺の目的でもあるし…」
「別にいいけど、目的って?」
「ああ、俺はな、他の都市が見たくて家を出たんだ」
「そうだったんだ。あれ?でも、それなら…」

レイフォンはその言葉に疑問を持ったようだった。

「ああ、お前の言いたいことは大体分かる。そうだな、他の都市を見たいというなら旅人なりなんなりになって適当にぶらついてたほうがいいだろうな、…でも、俺はそれができなかった。いや、これはおれ自身の問題なんだが…」
「問題?」
「俺のいた都市は、そこそこ汚染獣との戦闘をしてた。と言ってもそんなに強くはなかったな。ごく稀に強いのがが来るくらいだ。あの都市は何考えてんだが…まあ、おかげである程度の強さにはなれたわけだがな。いや、それがあの都市の目的だったのか?」
「そうなんだ…」

グレンダンより酷くないんだ、とレイフォンは心の中で思った。

(グレンダンはとりあえず汚染獣見つければちょっかい出したからなあ。老生体とかお構いなしに…)

「俺も、汚染獣との戦いに参加していたわけだが…ある時、都市がやたらと強い、足のない汚染獣に、襲われた。強かった。都市のみんなも歯が立たなかった。そして俺はそいつに殺されかけた」
「そんな、老生体にそこまでやられて生きてるなんて。どうやって助かったの?」
「分からない。そのときの記憶はほとんどない。ただ、覚えているのは傷ついた俺をかばうように汚染獣に向かっていった双剣使いの男の姿。今の俺の目標でもある人だ」

(老生体を、一人で倒すなんて…僕らと同じ、天剣級の強さだ。そんな人がいたのか)

「その人はなんて名前なの?」
「知らない。両親は、俺が目を覚ますまでいてくれと頼んだみたいだけど「ただの気まぐれだ。その子が起きたら伝言を頼む」とだけ言って都市を出て行ったらしい」
「伝言って?」
「頑張れよ。お前はもっと強くなれる、だそうだ」

そこまで話し、シャウトは息をついた。

「それからだ。俺が汚染獣と戦えなくなったのは」
「えっ?」
「おれはその頃から汚染獣を見ると全身が震えて気付くとその場から逃げ出してしまうんだ。トラウマって言うんだろうなこういうの」
「…………」
「都市のみんなは大丈夫だって励ましてくれた。いつかきっと戦えるようになるって。でも、無理だった。戦えるのは幼生体だけ。成体になった汚染獣を見るとどうしても…逃げ出してしまうんだ」
「だから、学園都市に?」
「ああ。他の都市だと、汚染獣と戦うことになるかもしれないだろ。俺は、それが怖い。でも学園都市なら汚染獣との遭遇率はほぼゼロだ」
「学園都市はその辺は気にしてるみたいだからね」
「なんか辛気臭くなったな。そろそろ行こうぜ」
「…うん、そうだね」

シャウト達は壁に掛けてあった上着を着て支度をする。そこでシャウトはあることに気がついた。

「あれ、レイフォン。お前、袖の長さ左右で合ってないぞ?」
「ああ、これ。うん、僕の腕は右のほうが左より長いからさ。直すのも面倒だしツェルニの制服は直してあるけど私服はこのままなんだ」
「へえ、そうか。…っと、俺はこんなもんでいいか。そっちは準備できたか?」
「うん大丈夫」
「よし、じゃあいこうぜ」

二人はホテルを出て、近くの商店街に向かった。




商店街に着いて、小腹のすいたシャウト達は出店で何か食べ物を買うことにした。

「どれにする?色々あって悩むところだが…」
「えっと、じゃああれとかは?」

そう言ってレイフォンが指差したのはピザの生地なようなもので具材をはさんで揚げたものだった。

「ああ、あれか。アウルートにいたときに食ったことがある。あれはうまかったな。あれにしようか。ここの都市ではどうなのか気になる」
「僕は何でも」

二人はそれを二つ買い、近くのベンチに座って食べ始めた。

「ほう、同じ料理だと思ったら、ずいぶん違うな」
「そうなの?」
「ああ。これ、中に入ってるの魚介類系の食材だろ?アウルートでは肉と卵とソース、それにチーズが入る。あれはうまかったな。これも好きだがあれと比べるとボリュームの点で不満が残る。グレンダンではどうだった?」
「んっと、向こうでは自由にできるお金がなかったからこういうのは食べたことが…」

そこで、シャウトはレイフォンの境遇を思い出した。

「あ~、そうだったな。すまない」
「いや、だから気にしなくていいって」
「う~ん。気にしないようにはしたいんだが、やっぱりな。努力はしてるんだが…」
「まあ、すぐに気にするなっていっても無理だろうね。それは分かるよ」
「大丈夫だ、次からは絶対に…」
「何の決意?」

とその時、商店街の奥のほうから悲鳴が聞こえた。それどほぼ同時にレイフォンとシャウトはそちらに向かって走り出した。





あとがき

はい、ということでツェルニに着くまでの一件を加えてみました。どうですかね?
ちなみに、レギオスの世界にピザがあるかどうか不明です。
へんなことになってませんか?ありましたらご意見よろしくお願いします。



[21374] 第二話  天剣授受者
Name: スピカ◆2b2ac280 ID:72639636
Date: 2010/11/20 20:25
悲鳴を聞き、ほぼ同時に走り出したシャウト達だったが、今はすでにレイフォンの方が10メルトル以上先行しており、今もどんどん差が開いている。

「俺、活剄得意な方だったんだけどな・・・レイフォンのやつ、速すぎだろ」

シャウト思わずそう呟いた。シャウトは剄量と活剄に関してはアウルートの中でも上位に入る実力だったのだが、レイフォンは更にその上をいっていた。加えて言うと、身のこなしもレイフォンはシャウトの数段上だった。騒動が起こっているだけあり、商店街にいる人々が進路の邪魔になることもあったのだが、レイフォンは必要最低限の動きでそれをかわしていた。一方シャウトはそのたびに減速しているため、レイフォンとの差が開く要因にもなっている。

「俺よりは確実に実力あるとは思っていたが、ここまでとはな…」

しかしシャウトは、すぐにこれがレイフォンの力のほんの一端であることを知ることになる。

「どうだ、レイフォン。何があったか分かるか?」

立ち止まったレイフォンにようやく追い付き、シャウトは尋ねた。

「多分、犯罪者達が人質を取ってるんだと思う。周りを都市警が固めてるけど、手が出せないみたい」

見ると、五人の武芸者が二人の人質を盾に都市警と言い争っている。犯人の内二人は復元された錬金鋼を人質の首筋に突きつけている。周りにいる都市警とは十人。全員が武芸者であり、総力的には有利なのだが人質がいるため行動を起こせないでいる。そこで犯罪者のリーダーらしき銀髪の男が叫んだ。

「俺達をこの都市から出せ!さもなければ人質の安全は保証しない」

どうやら男達は本気のようだった。都市警は決めかねているようだが、あまり時間をかけすぎると男達がしびれを切らすかもしれない。

「まずいな・・・レイフォン。お前、人質どうにか出来ないか?」
「二人いるときついかな。一人任せられる?」
「ああ、大丈夫だと思う。じゃあ、行くか」

二人は活剄を高め始める。ちょうどその時、人質の安全を優先した都市警が犯人に向かい叫んだ。

「分かった。君達の要求を聞こう。だから、人質を解放してくれ」
「へっ、今は駄目だな」

リーダーの男は冷たくいい放った。他の四人もニヤニヤと笑っている。

「いま放したら俺らが捕まるかもしれねぇだろ?」

馬鹿じゃないんだな、こいつ。とシャウトが思っているとレイフォンが声を掛けてきた。

「シャウト、そろそろ行ける?」
「あっ、ああ。大丈夫だ」
「じゃあ、行くよ」

そういってレイフォンは体を犯人に向け、構えた。

「こいつらを放すのは俺達がバスに乗ってからだ」
「残念だけど、人質はいま放してもらう。一般人を巻き込むのは感心できない」
「なっ、かふっ…」

レイフォンはほぼ一瞬で人質をとっていた男の後ろに周り、手刀を食らわせた。

「な、なんだお前は!……がっ」
「こういうときに、あまり隙を見せない方がいいぞ」
レイフォンの突然の乱入にもう一人が動揺しているうちにシャウトが鳩尾に拳を沈め、昏倒させる。あと三人。

「っのガキがぁ!調子に乗るなぁ!!」

その内の一人が襲いかかってきた。レイフォンにも一人向かっている。シャウトに向かってきた男の手には錬金鋼が握られている。

「死ねやこのくそガキぃ!」
「お断りだ、お前はしばらく気絶してろぉ!」
「がはっ…」

降り下ろされた錬金鋼をかわし、シャウトは男を蹴り飛ばした。5、6メルトルほど吹き飛んだ男は都市警に取り押さえられた。レイフォンに向かっていた男も同様に取り押さえられている。残る一人も、すでにレイフォンが捕まえていた。
「お前、ヴォルフシュテイン!何故天剣がこんな都市にいるんだよ!」

都市警に拘束された男は、信じられないものを見たという口調でそう言った。

(天剣?ヴォルフシュテイン?なんのことだ?)

聞こえた単語にシャウトは首をかしげた。

「グレンダン出身ですか?それとも、偶然知ったのですか?どちらにせよ、それはもう僕の名前じゃない。天剣も持っていません」

そう言ったレイフォンの表情は全ての感情が抜け落ちたようで、声もひどく冷たいものだった。

「犯人逮捕にご協力、ありがとうございました」

都市警は犯人達を連行していった。それと同時に、人だかりも薄れていく。レイフォンは微動だにせずにその場に佇んでいた。シャウトはゆっくりと近付いて声をかけた。

「レイフォン、大丈夫か?」
「…聞こえてた?いまの話」
「ああ、天剣とか、ヴォルフシュテインがどうとか…」
「やっぱり、聞こえてたんだね」

するとレイフォンはとても悲しそうな顔をしてうつむいた。そして、しばらくそうした後、なにかを決意したような顔で言った。

「そこまで聞こえたんなら話した方がいいのかもしれない。僕のこと」
「いや、お前が話したくないなら話さなくてもいいぞ」
「ううん、話すよ。シャウトとは、これからも仲良くやっていきたいから。僕の話を聞いて、シャウトがどう思うかは、分からないし、正直怖いけど…」
「…分かった。とりあえず、ホテルの部屋戻ろうか」
「うん」

それから、ホテルに着くまでシャウト達は一言も話さなかった。ホテルに着くと、レイフォンはソファーに腰掛けた。シャウトは紅茶を二人分入れてレイフォンに渡す。シャウト自身は近くの壁に寄り掛かる。

「・・・」
「・・・」

しばらくはお互いに無言だった。四、五分ほど経った時、レイフォンが小さな声で話し始めた。

「僕は、グレンダンで天剣授受者という地位にいた」
「天剣?」
「グレンダンの中で、最も優れた武芸者に陛下から授けられる称号。僕はその中の天剣ヴォルフシュテインを与えられていた。レイフォン・ヴォルフシュテイン・アルセイフ、それが僕の名前だった」

シャウトはしばらく呆然としていた。実力者だとは思っていたが、それほどまでとは思わなかったからだ。

(だが、何故そんな実力者が都市を出られた?)

「でも、僕は天剣を剥奪され、都市を追放された」
「追放だって?一体、何故…」
「闇試合に出場していることがばれたんだ」

闇試合、高額の賞金が用意された禁じられた賭け試合。シャウトは紅茶を一口飲み、訪ねる。

「何故、賭け試合なんかに出たんだ?」
「…お金が、必要だったんだ」
「……………」

そうではないかという予想は立った。賭け試合に出る場合、誰でもそうだ。だが、レイフォンが闇試合に出るとはシャウトにはどうしても信じられなかった。何故なのだろう…そして、その答えはレイフォンによってもたらされた。

「正直、僕にとっては天剣授受者なんて称号、どうでもよかった。
 僕子供の頃、グレンダンで食糧危機が起きた。僕は孤児院で暮らしてたけど、武芸者の僕だけが食べられて…お金があれば、ってそう思った。お金があれば孤児のみんなも食べることができる。だから僕は武芸をお金を稼ぐ手段として使った。汚染獣と戦ったり、試合で成績を上げれば賞金がもらえた。それを繰り返すうちに、天剣になっていた。それだけ。でも、孤児のみんなを救うにはまだお金が足りなかった。そんなとき…」

レイフォンはそこでまた紅茶を一口のみ深呼吸をした。

「僕は高額の賞金が用意された闇試合が存在することを知った。そして、天剣という地位を利用しその試合に出場したんだ」
「そうか、そんなことが…」
「おかげで院は潤ったよ。みんなが僕に感謝してくれた。試合に出ていることは隠していたけど、やっぱりというかばれてしまった。それで僕は都市を追放されてここにいる」
「…一つ、聞いていいか?」
「何?」

シャウトは今のレイフォンの話を聞いて疑問に思ったことがあった。

「お前が闇試合に出ていたことは分かった。だが、それだけじゃ都市追放にはならないと思うんだ。せいぜいその天剣というものの剥奪と何かしらのペナルティで済むはずじゃないか?」
「…シャウトは鋭いんだなぁ」

レイフォンは少し笑みを浮かべてそういった。

「じゃあ…」
「うん。僕が都市を追放されたのには他の原因がある。ガハルド・バレーンという武芸者が僕を脅迫したんだ」
「脅迫?」
「僕が闇試合に出ているという証拠を突きつけて僕に天剣を譲れといってきたんだ。でも、闇試合でお金を稼ぐには天剣授受者という地位が必要だった。だから僕は次のガハルドとの試合で彼を殺そうとした。でも、できなかった。腕一本を切断しただけで試合は終了。その試合の後、僕は陛下に呼び出された」
「それで、追放か…」
「うん、陛下は言った、「気付かせてはいけないのだよ。我々が普通の人間ではないことを」と僕達天剣授受者が化け物だということにね。陛下は僕に一年間の猶予をくれた。その間に僕は学園都市に行くことに決めたんだ。新しい道を、見つけようと思って」

シャウトはしばらくの間考えていた。自分とレイフォンの学園都市に行く目的の重さの違いを…

「…俺なんかと、ぜんぜん違うな。…じゃあ、それならより一層気をつけないとな、転科なんかさせられないように。俺もできる限り協力するよ」

シャウトがそういうとレイフォンは驚いたように顔を上げた。

「シャウト、何も思わないの?」
「ん?何がだ?」
「だって、僕は闇試合に出て、人を殺そうとまでしたんだよ!」
「それは、自分のためだけじゃなかっただろ?」
「えっ?」
「もし、自分のためだけに闇試合に出たり、人を殺そうとしたのならそれは許されないことだ。だがお前は孤児のみんなのためにそれをした。ならそれは責めることのできることじゃない。ガハルドという奴のことだって、結局は奴の自業自得だ。それにな、何よりも今までのことはすでに裁かれたことなんだ。お前はもう十分に罰を受けた。もう、お前が気にすることじゃあないんだよ。だから俺は何も思わない。レイフォンはレイフォンだ」

そういうとレイフォンは俯いた。そして五分ほどそうした後に嗚咽と共に小さな声が聞こえてきた。

「シャウ…ト、あり…が…と。本当に…ありが…と」
「馬鹿、泣いてんじゃねえよ。お前が気にすることじゃないって言ったろ」
「うん、でも…ありがとう」




あとがき

はい、そんなわけで第二話をお送りいたしました。どうでしたか?
地の文が少ないという指摘をされたので気をつけるようにはしたのですが正直うまく言った気がしません。まだまだだと思いましたら言ってください。




[21374] 第三話  入学式。そして・・・
Name: スピカ◆2b2ac280 ID:72639636
Date: 2010/11/20 20:27

あの騒動から二週間、シャウト達はようやくツェルニに到着した。

前の都市で少し時間を喰ってしまっていたのでツェルニに着いたのは入学式の前日の夜中だったため二人ともあまり寝ていなかった。だからだろう、レイフォンがあんなことをやらかしてしまったのは…



in大講堂

「皆さんはこれから六年間ここで過ごすことになるのですが…」

「…寝みぃ。何が悲しくてこんな話を聞かなくちゃならねえんだよ…」

「いや、僕達学生だし、新入生だし、一年生だし、しょうがないよ」

「レイフォン、お前もかなり疲れてるだろ?学生と新入生と一年生は大まかなところでは同じ意味だ、たぶん」

二人とも、放浪バスでの疲れとなれない寮(シャウトとレイフォンは同じ部屋だった。)での寝苦しさの相乗効果で疲れはピークに達していた。

前の演説台ではツェルニの生徒会長と名乗る―つまりツェルニにおける最大権力者―カリアン・ロスが色々と話しているが正直どうでもいいから帰って寝たい、というのが二人の偽らざる気持ちだ。

シャウトはもういっそこのまま寝落ちして倒れれば他の部屋―ベッドがあるところがいいがこの際横になれるところならどこでもいい―で休めるかなとまで考えていた。

まあ、それをやったら後々学校生活で気まずいことがあるかもしれないということでギリギリで踏み止まる位の自制心は持ち合わせていたが…それで精一杯だったのが運のつきそれ以外の行動が遅れた。

並んでいる新入生の中から剄の波動が生まれた。なにやら怒声や悲鳴も混じっている。シャウトは何かあったのかと思い退屈しのぎくらいにはなうだろうということで活剄で聴力を強化して耳を傾ける。怒声を上げているのは二人だった。

「へっ、お前の都市なんか六年も持つのかよ?お前が卒業する前に滅んでるかもな。今のうちに他の住み着く都市探しといたほうがいいんじゃねーの?」

「うせっえんだよこの落ちこぼれがぁ!あんまり弱いんで半分都市から追い出されたような奴がよ。所詮お前なんざいつまで経っても落ちこぼれだよ」

「んだとてめぇ!!今すぐぶっ殺されてえか」

「やってみろこのクズ」

どうやら敵対都市同士のケンカのようだ学園都市は様々な都市から人が集まるのでそれ自体は珍しくないのだろうが、今は場所が場所なだけにそれだけでは済まないだろう。ここには武芸者だけではなく一般人もいるのだ。いくら彼らが未熟だとしても武芸者が剄を使って戦えばその被害は計り知れない。

やれやれ、と思いつつ二人を止めようと思い動き出そうとすると講堂の端のほうに控えていた上級生らしき武芸者が見えた。どうやらこのような時のために数人配置してたらしい。それならもっと早く動いてくれよと思わなくもなかったが何とかしてくれるのならまあいいだろうということでシャウトは動くのをやめた。

だが、その隣を走りぬく影があった。

「レイフォン!お前、ちょっと待て…」

だが、レイフォンは止まらない。根が優しいレイフォンは今無関係な一般人を助けようという単純かつ正当な理由で動いている。その彼を止めるには力ずく以外の方法では無理だ。だが、レイフォンを力ずくでとめることができる人間がこの都市にいるとは思えない。

まだ、レイフォンが動き出す前ならば何とかなったのかも知れない。ここで、生徒会長の前で下手に動けば会長に目をつけられて武芸科に転科させられる、またすでに上級生が動き出しているので問題はない。

そう言ってレイフォンを止めることもできただろう。だがシャウトはできなかった。放浪バスでの疲れ、寝不足、上級生が動き出したことでのちょっとした安心―油断のせいだ。

半分諦めた状態で周りを見ると騒動によってバランスを崩した人の波に押しつぶされそうな女生徒がいた。明らかに武芸者ではない。このままでは大怪我をしてしまうだろう。シャウトは旋剄を使って女生徒の前に移動し人波を押しとどめる。

そしてそのままレイフォンの方へと目を向ける。そこには件の二人を完全に伸しているレイフォンがいた。近くの生徒も上級生も唖然としている。

(いや、上級生。あんたらはもう少ししっかりしようよ…)

シャウトは人知れずそんなことを考えた。




そんなわけで入学式は中止。新入生は全員それぞれのクラスへと行くことになった。レイフォンは生徒会の皆様に連れて行かれたが…なんだかんだでシャウトのクラスはレイフォンと同じだった。どうやらレイフォンとはかなりの縁があるらしい。クラスの誰もが一つ席が空いていることに―もちろんレイフォンだ―疑問を持っていたようだがとりあえずHR が終わりとりあえず解散を宣言されると皆クラスから出て行った。シャウトはレイフォンを待つためにクラスに残ったが…

「はあ、やっちまったな、レイフォン。どうなっちまうんだか…ってか、何やってんだよあの馬鹿共が、都市間のいざこざ持ち込むんじゃねえよ。今度見つけたら外縁部から蹴落として汚染獣の餌にしてやる。それともドラム缶風呂に閉じ込めてじっくりコトコトトロトロになるまで煮込んでやろうか?」

「あ~、誰に話してるか知らんが物騒なことは言うな。しかもそれは犯罪だ…」

特にやることもないので一人でぶつぶつ言っていると話しかけてきた浅黒い肌に赤い髪をした印象的な女生徒いた。

「そうだよな…じゃあ、生徒会長当たりに話し持ちかけて都市外強制追放とかなら…」

「いや!そういうことではなくてだな!物騒なことを考えるな、口に出すな、実行するなと言いたいんだ私は」

「実行云々は良いとしてそれ以外は俺の自由だと思うが?」

「…お前、まあいいそれよりも話があるんだが、良いかな?私はナルキ・ゲルニ。武芸科だ」

いや、話振ってきたのはそっちだろ。と思ったがそれを言うと話が進みそうになかったので止めた。

「シャウト・ウォロン。武芸科だ。話って何?」

「うん、この子が…メイがお礼を言いたいって言ってから。ほら、メイ」

「えっと、あの…ありがとう、ございました」

ナルキに背中を押されて前に出てきた長い黒髪の生徒―先ほど人波に押しつぶされそうになっていた女子だ―が小さな声でそう言って再びナルキの影に隠れてしまった。

「すまんな、この子は昔から人見知りが激しくて…本名はメイシェン・トリンデン。…で。こっちは」

「はいは~い、私はミィフィ・ロッテン。三人とも交通都市ヨルテムの出身なんだ」

ナルキの言葉を途中でかっさらいツインテールの少女が元気よく話し始めた。テンションが高いのは今日が入学式だったからだろうか?それとも元々なのだろうか?元々だったら疲れないのかな?などと色々考えたがとりあえずこちらも名乗ることにする。

「俺は幻惑都市アウルートだ。ちょっと遠いから知らんよな」

「うん、初めて聞いた。ところでさ、さっき連れてかれた彼。知り合い?」

「レイフォンのことか?そうだな、放浪バスで隣同士で寮の部屋も同じだったしな。後で紹介するよ」

…と話していると教室のドアが開き、レイフォンが入ってきた。

「…あれ?制服変わってる?」

そう、ミィフィの言うとおり『武芸科の制服を着た』レイフォンが…やはり会長あたりがしでかしたのだろうか?

「………レイフォン」

「うん」

「ちょっと会長に会ってくる」

そう言ってシャウトは教室を出て会長室に向かった。









あとがき

スピカです。とりあえず初めに謝りますごめんなさい。更新滞ってほんとにすみません。しばらく学校で試験やら行事やらあと大学入試の面接があって時間がありませんでした。今日もやっと面接が終わったので更新できました。もし面接落ちてたらまた滞ると思いますのでご了承ください。
それで、どうでした?頑張ったつもりなんですがだめでしたら遠慮なく意見を出してください。



[21374] 第四話   陰険腹黒銀髪メガネ生徒会長
Name: スピカ◆2b2ac280 ID:72639636
Date: 2010/11/21 23:30
「…さて、ああ言ったは良いものの会長室どこだ?」

シャウトは先ほどまでいた棟を出てだいぶ歩き回っていたが会長室が見つからず多少イライラしていた。今、どこにいるかすら実はよく分かっていない。

…まあ、目の前の建物がお目当ての会長室がある棟だったりするのだが。

シャウトが本格的に悩み始めたちょうどその時その棟から大柄の男が出てきた。おそらく六年生だろう。シャウトはちょうどいいとばかりに男に近づきながら声を掛ける。

「おい、そこのお前」

そういえば、シャウトに上級生に対する礼儀など一切ない。彼が礼儀正しくするのは自分が認めた人間だけだ。

「何だ貴様は、新入生か?だったらもう少し言葉使いというものを…」

「生徒会室に連れて行け、今すぐに」

そう言いながら何事か説教を始めた男の顔をホールド。そのまま連行する。ご丁寧に剄まで使っていたのであっさり捕まえることができた。当然相手はシャウトを引き剥がそうとしたが突然のことなので剄など使っていないからそんなことはできない。

「ちょ、おまっ!何をする。離せ!というか何をすれば良いのかを話せ!」

「うるさい奴だな。会長室に連れて行けと言っただろ。大体話すのと離すのどっちをやればいいんだ」

「両方に決まってるだろう!そもそも会長室ならたったいま…」

「おや?ヴァンゼ、何をしているんだい?」

シャウトと大柄の男―ヴァンゼというらしい―が言い合っていると後ろから声を掛けられた。その人物は、シャウトが探していた生徒会長、カリアン・ロスその人だった。

「会長か、丁度いい。お前に話があったんだ。少し遠いな、ちょっとこっちに来い」

「お前、仮にも相手は生徒会長だぞ!言葉遣いに気をつけろ!」

いつの間にかシャウトの拘束から逃れていたヴァンゼがまったく礼儀のなっていないシャウトへの怒りを露にする。

カリアンは「仮にも、か。フフそうか」と何やら怪しい笑みを浮かべていたがどうしたのだろうか。

「いいよヴァンゼ。君、ここではなんだから会長室に行こうか着いてきたまえ」

そう言ってカリアンは踵を返した。シャウトは別にどこでも構わなかったが、だったら相手その位相手に合わせてもいいだろうと思い会長に続いた。









その時レイフォンは言えば…

「へ~、レイとんってグレンダンの武芸者だったんだ。それであんなに強かったんだね」

場所は学生街にあるとある喫茶店。

レイフォンは教室にいた三人―正確にはミィフィ一人は主犯だが―に捕まっていた。しかも「レイトん」なる不可解なニックネームをつけられていた。

「いや、そういうわけでも…というよりもさ…」

「あっ、そういえば。シャウちゃんもやっぱり強いの?」

「それは分からないけど…僕とシャウトのニックネーム、ほんとにそれで決定なの?」

「う~ん、シャウちゃんは「シャウト」だからシャウトんってのもありだと思ったんだけどそれだとレイとんとかぶるでしょ?だからレイトんとシャウちゃん。OK?」

そう、この時点ですでにシャウトのニックネームも決定してしまっていた。レイフォンもシャウちゃんはさすがにないだろうと思い少し粘ってみたのだが無意味な抵抗だった。

(シャウト、ごめん。僕にはどうにもできないよ)

レイフォンは心の中でシャウトに謝罪した。丁度その時雑談している四人に話しかけてくる人物がいた。

「あの……すみません」

声の主を見て、全員が息を呑んだ。
腰まで届きそうな長い白銀の髪が喫茶店の照明をはね散らかして輝くようだ。色素が抜けたような白い肌、とがるような顎先と襟から覗く細い首筋と胸元が危うい魅力を醸し出している。伏し目がちの銀の瞳の上では長い睫が揺れていた。

人形のようにきれいな少女だ。

武芸科の制服を着ていることにしばらくは誰も気がつかなかった。

「レイフォン・アルセイフさんはあなたですね?」

突然、見知らぬ少女に話しかけられて驚いたレイフォンだがとりあえず返事をする。

「あ、はい」

「用があります。一緒に来てください」

「……はい」

逆らう必要もないので自然と席を立ちポケットから財布を取り出し代金をテーブルに置く。

「ごめん、行ってくる」

「了解した。行ってこい」

いまだにぽかんとしている二人に代わって、ナルキが頷く。

レイフォンが喫茶店を出てしばらくするとようやくミィフィが声を出した。

「な、何がなんだったの?」

「華々しい学園デビューだったからな。小隊に目をつけられたんだろう」

「小隊?」

「いいか、小隊というのはだな…」








「会長室の棟ってここだったのか…」



シャウトは会長室が先ほど通り越したところだったことに軽く驚き、同時にヴァンゼに対して少し怒りを覚える…大変理不尽なものだが。

(あいつ、そうならそうとさっさと言えばよかったのに…)

そう思いつつ会長室に入る。

そこは生徒会長とはいえ普通の学生とは思えないほど豪華なものだった。

まず、とにかく広い。シャウトとレイフォンの寮の部屋の四倍はあるだろうかしかもそこにある調度品もすごい。シャウトはその系統の知識はあまり持ち合わせていないので詳しいことは分からなかったが、とりあえずすごいことだけは分かった。

シャウトが部屋を見回している内にカリアンは秘書らしき生徒に紅茶を入れさせ自分はやたらとでかい椅子に座る。

「さあ、シャウト・ウォロン君。そんなところにいつまでもいないでそこに座ったらどうだい?」

「お前、何故俺の名前を知っている。まだ名乗っていなかったはずだ」

そう言うとカリアンは怪しい笑みを浮かべた。そしてもう一度シャウトを席に着くように促す。シャウトが席に座ると紅茶を一口のみ話し始める。

「君の事は少し調べさせてもらったのだよ。興味があったのでね」

「何?」

「シャウト・ウォロン。武芸科、Cランク奨学生。就労は機関部清掃。幻惑都市アウルート出身で都市外戦闘の経験あり。優秀だね、今のツェルニには必要不可欠な人材だ」

そう言いながらこれまたでかい机から取り出したのは一枚の履歴書とそれとはまた別の紙。

シャウトは内心動揺していた。シャウトは過去の一件により汚染獣との戦闘ができなくなり、少しでも汚染獣との戦闘の確率を減らすため履歴書には都市外戦闘の経験があることは書かなかったはずなのだ。

そのはずなのにカリアンは知っていた。これではシャウトの欠点も知っているだろう。それだけで武芸者からは除け者にされてしまうかもしれないほどの秘密を。

カリアンはそんなシャウトの考えを知ってか知らずか再び紅茶を飲み二枚の紙を見比べながら離し始める。

「君の名前を見つけたとき感じたのはほんの少しの既視感だった。ウォロンという名前をどこかで聞いたことがあった。そして君の事を調べているうちに思い出したよ」

カリアンはそこで言葉を切り小さいが妙によく通る声で言った。

「シュレッド・ウォロン」

「……………!」

シャウトは息を呑んだ。まさかカリアンがここまで知っているとは思わなかったのだ。一体、どこで知ったのだろうか。

「彼にあったのは僕が二年の時、つまり四年前だね。このツェルニに偶然立ち寄った傭兵がいた。特に用事があったわけではなかったようだがその時外は風か強かったらしく放浪バスを動かすことができなかったらしい。まあ、それで彼はしばらくツェルニに滞在していたのだがね、その時の武芸長が彼と力比べをしたいと言った。彼も嫌がることなくその希望に応じた…」

シャウトは息苦しさを感じ、自分に出された紅茶を飲む。下手なことは、言わない。

「結果は一方的だった。彼は錬金鋼を使ってすらいないのに、化練剄といったかな。それを使って武芸長を圧倒した。後で彼と話したところ、出身は君と同じ都市だった。それが僕と、彼。シュレッド・ウォロンとの出会いだった」

そう言ってカリアンはシャウトへと目を向ける。この陰険腹黒メガネめ、とシャウトは思った。
だが、シャウトは同様を押し隠して平然と答える。

「…それで、その彼は俺の血族だと?」

「違うのかい?」

「違うな、そもそもアウルートではウォロンなんてありふれた名前だ。そのうちの一人だろう。だが、俺の知り合いではない」

おそらく、カリアンには違和感を感じさせない言い方だっただろう。元々、感情を押し隠すのは得意だ。「そういう風に育てられた」からだ。アウルートに生まれた時からそれが強要される。

「そうか、それならそれでいい。とりあえず、その話はおいておこうか。シャウト・ウォロン君、君には小隊に入隊してもらう」

「何?」

「君には都市外戦闘の経験がある。だが君は履歴書にはそのことを記していない。君はその実力を隠そうとしているね?だが、今のツェルニの状況を考えると君のような実力者を放っておくことはできない」

「セルニウム鉱山、戦争のことか」

「…学園都市では武芸大会といっているがね」

ツェルニは今年の戦争で負ければセルニウム鉱山がなくなる。つまりは都市の死だ。

「小隊に入ること自体は別に構わない。だが、それとは他のところで別の問題が出てくる。お前
知っているんじゃないか?」

「君の、過去の汚染獣との戦闘によるトラウマで汚染獣と戦うことができないということかい?」

カリアンはごく平然と答えた。そこには見下したような色は感じられない。

「ずいぶんと普通にしてるんだな。軽蔑すると思ったが…」

「するわけがないだろう?僕はあくまで一般人。君達武芸者に守られる立場だ。もちろん、君の意志に反することだろうからそれ相応の対処をしよう。君の奨学金ランクはAにする。それに、汚染獣との戦闘についてはもう手は打ってある」

「レイフォンのことか」

すると、カリアンは今までの平然とした顔を崩した。だがそんな表情は一瞬で次にはニヤリと嗤った。

「知り合いだったのかい?それなら話は早い君も十七小隊に所属してもらおう」

やっぱりか、とシャウトは思った。カリアンの言い方だとレイフォンも十七小隊に入れられたのだろう。

「どこに入るなんかはどうでもいい。俺が来たのはそのレイフォンのことで、だ。お前はレイフォンについてどこまで調べた」

「そういう君こそどこまで知っているのかな?いや、わざわざここまで来たということはかなりのことを知ってるということの現われかな?」

カリアンは相変わらず余裕の笑みを崩さない。少しむかついてきたが構わず話を進めることにした。

「あいつは武芸以外の道を探すためにここに来たんだ。その思いを踏みにじるつもりか」

「そんなつもりはない。あくまで彼には今年の武芸大会で勝ってもらえればそれでいい。後は彼自身で決めてもらうことになる。来年は私もここにはいないからね。それに、ここがなくなってしまえばレイフォン君の別の道を探すという望みをかなわなくなるしね。レイフォン君もそのことには納得してくれた」

そんなわけはないだろう、とシャウトは思った。こいつは思った以上に狡猾な男だ。レイフォンのことを知った時点でレイフォンに逃げ道を与えないような策を練っていたに違いない。…なら、もうすでにレイフォンを一般教養科に戻すことは不可能。今自分にできることはレイフォンのサポートだけだ。シャウトは決意を固め、席を立った。

「分かった、もう俺がどうこう出来るような状況じゃなさそうだ。だが、これからはお前の好きなようにはさせない。させてたまるか」

そう言い放って、返事を聞かずに会長室を出た。

途中、教室で話したヨルテムの三人に会ったので、あの後レイフォンがどこに行ったのかを聞いてみると、小隊の誰かに連れて行かれたらしい。

連れて行かれてからもうだいぶ経っているから、もう寮に帰っているだろう。とナルキに言われたので、そのまま寮の部屋へと向かった。部屋に入るとレイフォンは持ってきていたトランクケースの中身を整理していた。

シャウトに気付くとその手を止めて振り返った。

「あ、おかえりシャウト。会長、どうだった?」

「ありゃ、相当陰険な奴だな」

「だよね、ぼくもいつの間にか武芸科にさせられて小隊に入らされた。今日力試しさせられて…明日から訓練だって」

そういうレイフォンの顔には諦めの表情が浮かんでいる。

「ああ、そのことだがな。俺も明日お前と同じ小隊に入ることになった。あの陰険メガネに色々調べられててな」

「えっ、そうなの!あの人、一体何者なの?」

「知らん。まあ、今はただの腹黒野郎ってだけいいだろ。それより、おまえ、何を条件にされた?俺の方は奨学金ランクがAになったが…」

「僕も、だからわざわざ機関部清掃しなくてもいいんだけど…あの人敵にまわした時のためにお金ためといた方がいいよね?」

「同感だな。俺もそう思う。今日からだったか?行こうぜ」

シャウトとレイフォンは適当に用意をして機関部へと向かった。





あとがき

カリアンとの会話グダグダになったーーーー。と少し反省。っていうかあれ?予定では機関部行って、ニーナに会って、ツェルニに遭遇ぐらいまで行くつもりだったんだけどなー?

う~ん。そこはまだまだ未熟ということかな。精進します。ではでは皆さんまた次の機会に…


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