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[24286] (習作)ボーカロイドの軍事転用の可能性について
Name: ストルガツキー◆bb3fb9a5 ID:d77b6e6a
Date: 2010/11/20 21:09
誤字・脱字は逐次訂正させていただきます。

尚、本文は多量にハインライン分を含みますので、拒否反応を示す方は摂取を控えることをオススメいたします。



[24286] 中隊本部
Name: ストルガツキー◆bb3fb9a5 ID:d77b6e6a
Date: 2010/11/20 21:07
初めて彼女を見たときに引っかかっていた違和感の正体はそれだった。
もう五年以上前になるが、ネット上ではやっていたアイドルタイプの音声出力装置だ。

この戦争が始まってもう三年になるが、どこもかしこも物資不足と物価の上昇に悩んでいるとはいえ、こんな骨董品まで引っ張り出す兵站部の連中にはあきれ果てるばかりだ。

第六陸戦師団第二連隊e(江沢)中隊第一小隊に配属された俺の第一印象はそんなところだった。

兵器の多くが無人化され、ロボットが戦場にあふれるようになってさえ、人間は完全に戦場からは駆逐されなかった。
戦車、野戦砲、航空機、艦船がすでに人員を必要とせず、遠隔操作と自律aiによるバックアップに対応した時代においてさえ、歩兵のみはその限りではなかった。
というより、人類はいまだそれの代わりとなるだけの兵器を作ることが出来なかったのだ。
鉄血の団結をもった下士官、戦火によってのみ鍛えられる鋼鉄の意志を持った小隊指揮官。
結局、ただ命令されたことを死ぬまで愚直に守り続ける兵隊は軍隊にとって災厄でしかないのだ。

であるにもかかわらず、俺に預けられた小隊で生きている人間は俺だけだった。
なにも、全滅してしまったわけではない、おれ以外はみな『機械』だっただけだ。



第二連隊はハンゼ防衛戦において戦力の65%を消耗した。
補充も望めなかったため連隊の再建が不可能であり、残った兵員は他の部隊に補充として廻された。
おれの最初のホームだったe中隊を含む五個中隊は、その伝統を守るだけの兵員が集まるまでは、部隊記録を軍の公文書保存所に
収め、再建の時を待つことになった。

そして、ついに再建がかなったと聞いたとき、俺は古巣に戻りたくてうずうずしていた。
そして、師団の人事班もその意向を汲み取ってくれたのだった。

俺はキャリアーを望み、教育を受け、部隊配属も終わった新米三等少尉として第五連隊b中隊での小隊指揮官として率いる立場となるはずだった。
しかし、三等少尉承認辞令と同時に渡されたのは配置転換命令であり、俺は暗鬱たる思いでそれを受け取った。
せっかくなじんだ小隊に別れを告げるのは本気で嫌だった。ただ一人、部隊指揮官として放り込まれる恐怖はなかなか味わえるものではないということを、新米なりによくわかっていたからだ。
だが、転属先を確認したときには俺は小躍りしたい気分になった。古巣に帰れる。それだけで気分は高揚したし、伝統を引き継げることに興奮もした。今思えばもう少し冷静になって、部隊装備品を確認しておくべきだった。そう、「第二連隊」の脇に小さく書かれていた強襲歩兵(機械化)の文字すら気にならなかったのはあまりにも浮かれすぎだった。

転属の手続きは案外さっぱりしたものだ。戦前はなかなかめんどくさいものだったと聞いたことがあるが、その話をしてくれた二等軍曹は元気にしているか懐かしく思ったりしていたところで、連隊庶務係が申請書類をまとめて渡してくれた。
認番を確認してサインをする。あとは出頭するだけだ。

現在、歩兵戦闘部隊には二つのタイプがある。
強襲連隊と装甲歩兵連隊だ。
単純にいえば海兵隊と陸軍の違いのようなものだ。
完全攻撃に特化した強襲連隊は、おもに小隊ごと小分けして運用される。また小隊ごと輸送機を保有しており、戦線へピンポイントに投入される。一昔前の特殊部隊のような運用方法といったところだろうか。攻撃の重点や敵中への打撃侵攻、空中機動と火力集中による瞬発力がモノをいう運用方法である。

装甲歩兵連隊は逆に、連隊規模で投入されるのが基本だ。最低でも中隊規模で配置される。
これは陣地防御や市街地占領、戦線構築に運用されることが多いからで、必然的に防御正面が大きいからだ。
結果、装備は基本的に重火器が多く、また、装甲兵員輸送車や外骨格装甲歩兵、装甲機動戦闘車などが配置されてる大所帯であるがゆえに移動展開には時間がかかりがちである。敵主力部隊との戦闘を主眼としており、強襲連隊が金槌とすれば、此方は金床といえる。


陸戦師団は強襲連隊で構成されており、おれは常に敵地に放り込まれていた。
輸送機からの降下作戦が多く、装甲服をつけた甲武装であっても震えがきたものだった。

連隊本部に出頭したときにすぐ違和感を覚えた。だが、そのときは何がおかしいのかは判らなかった。
書類を提出し、即座に着隊せよとの命令を受け、その脚で兵舎へ向かった。その間も違和感を感じ続けていたが、出迎えに来た小隊軍曹を見て、それは最大になった。
「お疲れ様です。ようこそe中隊一小隊へ。」
そこには、バラックには似つかわしくないやたら可愛い女の子がいた。思わず、一緒に来てくれた人事軍曹を振り返ってしまった。

そういえば、わが社が最近になってついに『機械化』歩兵部隊を創設したらしいという噂は聞いていた。
もし、俺がそんな血の通わないさびしい部隊に配置されたとしても、全くかまわないとも思っていた。
いや、それなら今の境遇は全くその通りなんだが。

しかし、それにしたって、肝心の兵隊の姿形が10代の女の子とは。兵站部の簾中は歩兵ってやつの仕事を理解してないんじゃなかろうか。

「まあ、今は手に入るものは何でもつかうんだ。ぜいたくは言ってられないぞ、少尉。」
人事軍曹はそういうと、さっさと帰ってしまった。

俺は、そういえば愛知陥落の際に、本州最大級の精密機械工場を生き残りの工兵隊が爆破に成功したんだったかな、とこの前のニュースを思い出していると、小隊軍曹がやたら不安げな面持ちで此方を伺っていることに気が付いて、思わず笑顔で「なんでもないよ」というしぐさを送ってから、機械相手に何をやっているんだと思ってしまった。

ああ、胃が痛くなってきた。



[24286] 小隊指揮所
Name: ストルガツキー◆bb3fb9a5 ID:d77b6e6a
Date: 2010/11/20 21:24
其の鉄兜などを以つて、生体との見分けを違わなくすることを禁ず

機械兵を見分けるのは条約を守っている相手ならば簡単だ、頭部に関する防護処置を施していないのだ。
もっとも、高硬度フレームの頭部は対戦車火器の直撃でもなければ割れはしないし、NBC兵器もきかないからいらないのだが。

だから、おれはそいつの後頭部で結い上げた青翠の髪がテッパチの邪魔になるだろう、という言葉をすんでのところで思い出した条文によって飲み込まなくてはならなかったんだ。まったくもって調子が狂う。



強襲歩兵小隊(機械化)の基本編成は人員7名、ドロイド50台からなる。

分隊支援用に機関銃、携帯対装甲火器、狙撃銃、軽迫撃砲が各小隊に配置されている。

本来、歩兵は中隊規模が基本単位となるが、上記のように強襲歩兵に関しては機動力を重視して、小隊ごとに戦域に投入されるため、軽迫撃砲を含む小隊編成となっている。
なお、本来7名である人員は、小隊指揮官、小隊付軍曹、1~5分隊長であるが、現在、この小隊において、人員不足と試験運用も兼ねて、自立ai装備の高機能ドロイドの小隊軍曹によるC4I2(小隊内指揮統制用)を利用した小隊運用の試験中である。

現在小隊は、試験運用期間として割り当てられた、来月九日までの間、現相馬が原演習場にて訓練中であり・・・

おれは、小隊勤務計画を作成しながら一息つくと、改めて編成表を見て妙な気分になった。

小隊を構成する兵隊どもは、機械兵であり、軍事用ドロイドというのは大方武骨な外見をしている。
大陸で戦っていた時に見かけた機体は殆どが『宇宙の戦士』みたいなのばっかりだったし、アライアンスやヘゲモニーの各陣営が擁している機械兵も特徴は違えど、『機械』という外見をしていた。
これは別段不思議なことではない。
砲迫に晒される表面をわざわざデコレートするなんてことはよほどの暇人くらいなものだ。
それに、戦闘用に重要な機能を詰め込むと、たいていは着膨れしたゴリラみたいな外見になるし、逆に簡易製造で最低限の機能と製造効率を求めると、スターウォーズに出てきたドロイドみたいになる。
少なくとも、人間型の、しかも女性型なんてのは戦地では見かけなかったし、おれはまさか部下にそんな奴が来るとは思っても見なかった。
まだ、新兵でぶらぶらしていたころには幹部室に給仕として配備されていたのを見たことがあったが、戦況が厳しくなってからは殆どが司令部要員として接収されたらしい。

「マスター、どうぞ。コーヒーのお代わりです」
まあ、隣で給仕してくれている小隊軍曹は書類上では飛びぬけて優秀な軍事ドロイドらしいのだが、なぜか民間のときの癖が抜けないらしく、おれのことをマスターと呼ぶ。

「マスターはやめろ。もう民間人じゃないんだぞ」
「あ、す、すいません。また言っちゃいましたか・・・」
この二週間で何度も訂正してはいるんだが一向に治る気配がない。
AIの不調を疑って後方支援連隊をたずねてはみたが、結果、「異常なし」。
この固体の個癖らしく、どうしても修正したいなら、完全にフォーマットするしかないといわれた。

すでに、基本強襲課程(戦前で言うところの基本偵察課程、基本降下課程を合わせたようなものだ)を履修させ実地訓練を行った後だけに、もう一度やりなおすだけの気力も時間も残ってはいなかった。


しかし、道北防衛戦当時並の空中核爆発のようなemp状況下でさえなければ、この機械化歩兵は思ったよりも効率がいいということに、おれはこの二週間で若干苦い思いをしながら実感していた。
この小隊軍曹にさえ命令を理解させれば、小隊全員が即座に反応する。
これはアライアンスの機動歩兵並に訓練された部隊に匹敵する。
ちなみに、この部隊は工場から出荷されてまだ一ヶ月しか経っていない。
アライアンスの機動歩兵は1年掛けて兵隊を育てる。

おれは、自分が機械に家から追い出される夢をここ最近よく見るようになった。


まあ、それでも、この小隊軍曹を見ているとそんな苦い思いもどこかに言ってしまう。
たしかにアイドルタイプとして作られただけはあり、見ているとこちらがキンチョウしてしまうほどだ。
とくに、士官学校に入校してからほとんど目の回る勢いで業務と試験を繰り返してきたため、外出する機会などはほとんどなかった。
結果、女っ気のほとんどない状況だったせいもあり、まるで、部隊配備されたばかりの兵隊のような有様だ。

青い流れるような長髪は二つに結って左右に下げている。
透けるような白い肌は見ている限りでは人間となんら変わりはない。
長い手足とスレンダーな体はか細いという印象を受ける程だ。
単純に言えば美人なのだ。
今は制服を着ているが、オリーブドラブを基調とした陸軍制服すら似合うのだから、着飾ればすごいことになるだろう。

とてもではないが強襲歩兵の甲武装を扱えるようには見えない、見えないのだが、この二週間の戦闘訓練における彼女の能力の高さはおれが自身をなくすほどだった。

まったく、せめて指揮官としてしっかりやらないと、本当におれは軍隊から放り出されてしまいそうだな。


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