団塊の世代の大量退職や少子化を背景に、県内の公立学校で非正規雇用の教員が増えている。休職した正規教員の代役を務める「臨時的任用講師」は県全体で今年1366人と、07年の764人から3年間で倍増。パートタイムの「非常勤講師」も増えている。格差を生む一因とされる「正規/非正規」の分断線が教育現場に生まれ、保護者から「子供たちに適切に向き合えるのか」と懸念する声も上がっている。【西浦久雄】
「臨時的任用講師」は、正規教員の出産や病気による休職で学校の教員定数に空きが生じた場合、担任などの職責も含めて代役を務める。「非常勤講師」は定数外で採用され、決められた時間だけ出勤し、担任はせず、授業のみを任される。
両者は、勤務時間がフルタイムとパートタイムで違いはあるが、ともに不安定な非正規雇用。教員免許を持ちながら教員採用試験に落ちた若い浪人生が多くを占め、不安定な立場で教え子と向き合っている。
県教委教職員課によると、県内の公立学校(小・中学校、高校、特別支援学校)の教員数は今年度、正規・非正規を合わせて約4万人。非常勤講師の人数の統計はないが、両者を合わせた非正規組は2000人以上いるとみられ、20人に1人の割合だ。
非正規雇用教員が増える背景には、教員の年齢構成で多数を占めてきた団塊世代(1947~49年生まれ)以降の大量退職がある。退職者数は00年度末618人だったが、09年度末は倍以上の1423人。同課によると、今後さらに増加が見込まれるという。
その一方で少子化が進み、大量退職の穴をすべて正規採用で埋めると、将来深刻な「教員余り」を招きかねない。県内の小・中学校教員1人当たりの子供の数は、01年度16・0人だったが、今年度は14・7人。今後さらに減るのは確実だ。
正規採用を増やしすぎれば教員の質を低下させかねないという事情もある。実際、正規採用数は01年度の441人から今年度1467人と大幅に増え、教員採用試験の倍率は低下の一途をたどる。
県教委には、こうした状況に非正規雇用教員を増やして柔軟に対応し、大量退職時代を乗り切ろうという思惑があるようだ。
「講師大募集」。県教委東葛飾教育事務所が各所にこんな異例のポスターを張り出し、東葛6市の小・中学校で休職者が出た際に代理を務める非正規雇用教員の登録を精力的に募っている。
教員採用試験の不合格者に電話で登録を持ちかけるなど対策も取る。だが、一般企業に就職したなどの理由で原則1年間の任用に応じる人は少なく、8月下旬に臨時登録会を開いたが、必要な登録数は得られなかった。
管内で今年度、特に不足しているのが中学理科と給食の献立を作る栄養士。休職者が出た場合すぐに任用できる登録者が足りない状態で、同事務所の担当者は「出産で休職予定の教職員がすでに20人以上おり、病気療養が見込まれる理科教師もいる」と頭を抱える。
東葛6市のうち、流山市立の小・中学校の今年度教員定数は574。正規教員の代理を務める臨時的任用講師は07年度までは10人前後だったが、08年度に23人、09年度に27人と急増。今年度は38人となった。
さらに流山市は、県採用の非正規教員とは別に、独自にパートタイム教員(サポート教員)を雇う。これを含めると、同市の非正規組は全体の約14%を占めている。
県内の他の地域では、ここまで切迫した状況はないようだ。県教委は「人口が多い東葛地域は大量退職の影響を受けやすく、20代の若い教師の割合が高まっている。結婚や出産を控える正規の女性教員の休職も今後増えるとみられ、非正規雇用に頼らざるを得ない状況はしばらく続く」としている。
非正規雇用教員が増える現状を憂慮する声が、保護者から上がっている。
松戸市で教育現場の問題について学習会を毎月開いている松戸市PTA問題研究会(浅井ゆき代表)は9月、保護者から寄せられた意見をもとに市への要望をまとめ、本郷谷健次市長に文書で提出した。その中で、同会は「一つの学校内に正規雇用と非正規雇用の先生が混在していて、教員同士のコミュニケーションも十分に取りにくい状況がある」と指摘。十分な数の教員を配置するよう求めている。
本郷谷市長と面会した同会の保護者たちは、「非正規雇用の先生は職員会議に出られず、正規の先生と情報を共有できていない。子どもたちに適切に接することができているのか不安だ」などと訴えた。
代表の浅井さんは「こういう状況になるのは前から分かっていたはず。無計画な採用でその場しのぎの対応を重ね、しわ寄せは子どもたちに行っている。非正規の先生たちの個人的な努力に頼る採用計画は無責任だ」と教委の姿勢を疑問視する。
毎日新聞 2010年10月27日 地方版