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[22759] 習作 ベア・ハッグで抱きしめて (異世界転生ファンタジー)
Name: カシミール◆4296f6b5 ID:5272987b
Date: 2010/10/31 22:30
前書き

この話には下ネタが沢山含まれます。

お嫌いな方は、お手数ですがブラウザバックをお願いします。


前にも一度オリジナルで投稿させてもらいましたが、力及ばす即時撤退。
今回はそんな事無いようにしたいですが、どうなりますか……

チラシの裏へ行けというご意見がありましたら、板を変更するかもしれません。

ご了承ください。

※オリジナル板からチラシの裏へ移動しました。




[22759] ベア・ハッグで抱きしめて 1
Name: カシミール◆4296f6b5 ID:5272987b
Date: 2010/11/04 19:14
目が覚めると熊になっていた。


枯葉のベッドと穴倉の岩肌。

―― クマ……

灰褐色の毛。
鋭い爪先。
太い手足。

力瘤を作ってみる。

触手が出た。

―― しょく……しゅ……

無かった事にした。

無かった事にして、とりあえず二度寝した。





熊になって唯一うれしかった事。
ちんち○が大きくなった。

それはもう……熊並みだ。
熊だから。

だから外へ行こうと思った。
見せびらかすように歩いてやろうと思った。

だからそうした。

それ位しかする事がなかったので。


森だ。
静かな森だ。

きのこに俺の毒きのこを見せつけてやる。

きのこめ、胞子を撒きやがった。
メスきのこと間違えて発情しやがって。
糞が。


風が吹く。
……異臭がする。

風が舞う。
……異臭がする。

何の臭いだろう。
鼻が曲がりそうだ。

……………………………………熊くせぇ。

特にきれい好きではない。
二、三日風呂に入らなくても、大して気にしない。

だが臭すぎた。

なので、川で入浴した。

いくら熊でも、身だしなみは大切である。
少女が初体験を済ませる前のラブホの風呂場での一幕のように、念入りに洗った。
股間を。

む・ね・キュン すけべイスー

鼻歌交じりで川底のくぼんだ岩へ腰掛ける。
冷たい水が気持ちいい。
都会でのストレスを忘れさせてくれる。


草むらで音がする。

覗きか? ……あるいはさっきの胞子のフェロモンを察知したメスきのこ?

忙しい。後にしろ。

そう言うつもりだった。
熊語でそう言うつもりだった。

口から飛び出したのは、青白い破壊光線だった。

巻きグソみたいな螺旋を描きつつ、轟音と共に地面へ突き刺さる。
川べりにクレーターができた。


俺は熊じゃないの……か?


うかつにしゃべる事さえできねぇ。

木の皮を引っぺがし、内側のやわらかい部分を取り出す。
絡まっていたツタを千切り、ぺらぺらの皮と合体させる。

簡易マスクの完成。

これでもう、破壊光線は発射されないだろう。

森の平和が保たれた。

マスクマ………いや、クマスク。
隠密獣王クマスク。

穴に帰って、部屋の掃除して、寝たい。




―― 奥さん、ダメですって……そんなとこ………旦那さんが起きちゃいます……奥さん…奥さんッ

寝落ちする前に見ていたAVの夢を見た。
人妻熟女逆レ○プものだ。

見事な朝勃ち。
パンクラチオン・エレクティカ。
ラテン語で、パンクラチウム・エレクティウム。

今日はふるチン散歩としゃれ込もうか。

喜び勇んで寝床から起きる。

腰に手をあて、穴から出発。

おっと……マスクを忘れる所だった。装着。


一歩家から踏み出したら、猛烈な便意に襲われた。

当然だ。昨日一度もしてないし。

俺は走った。
トイレを探し、走った。

ある訳がない。

気づいた時にはもう遅い。

にゅるっとはみ出た。
触手が。

幸いな事。

しかし、猛烈な勢いで長くなる触手。

漏れそうなので、それどころではない。
勝手にしやがれ。

触手が穴を掘る。
深く深く、穴を掘る。
触手が木を引っこ抜く。
四方八方、引っこ抜く。

閃いた。穴=トイレット。

限界だったので、パンツを下ろす暇さえなく……
ビバ・全裸。

何を感じたのか、触手は抜いた木を俺の周りへ突き刺し始めた。

木材にパイルドライバー。

目隠し用の壁ができる。
ほら、もうこれは完璧なトイレ。
集中しろ、俺。


分かった。触手が感じ取ったのは、俺の羞恥心だ。
恥の心を忘れると碌な大人になれない。
死んだばあちゃんの口癖。

触手。グッジョブ。
………出口が無えぞ。こんちくしょう。

そっとマスクをずらし、周囲360度の木の壁をにらむ。

破・壊・光・線。


一息ついた。
さて、散歩しよう。

ん? …………トイレットペーパーは……?

さのばびっち。



朝シャン(死語)っていいものですよね。

食物連鎖にも役だちますし。
私の○○のカスを微生物が食べる。
微生物を魚が食べる。
魚を熊が食べる。

自然は大きなスカトロプレイ。



俺は切り株に座ってみる。
なるたけ可愛らしく、無害な男と思われるよう努力しつつ。

そう、熊界のリア充、あの『テディ・ベア』の野郎みたいになろう。

なぜなら、さっき悲しい出来事があったからだ。

糞を終え、空腹を覚えた俺の元に現れる、一頭の鹿。
またも動き出す触手。

そして鹿は腹の中へ。

鹿肉は癖が無くて美味しかった。感謝して合掌。


それは脇に置いても、忌々しいのは『テディ・ベア』である。

ヤツはかわいい。
それは認めよう。

だが許せないのは、己のかわいさを利用し、とっかえひっかえ様々な女を抱くその唾棄すべき生き様。
老いも若きも、巨大でもさもさ・ふさふさな『テディ』を見ると、普段の貞淑な仮面を脱ぎ去り、メスの顔を覗かせる。
蕩けた声と、物欲しげな顔。
一心不乱に『テディ』へ抱きつく様は、まるで売女ではないか。

かつて芸術的に鑑賞した、美少女アイドルのIV(イメージビデオ)のワンシーンより。


美少女はやさしく『テディ』へ馬乗りになる。
たくましい『テディ』の胸に手を這わせ、ゆっくり腰のグラインドを始める。
悠然と見つめる『テディ』。
少女は少し傷ついた表情で、愛しい相手を見つめた。
ならばと、腰の動きを速める。
「ふっ……ふっ……ふっ……」と漏れる吐息。
上下、左右。アクロバティックに跳ねる少女。
腹筋に力を込め、意地悪く『テディ』に微笑んだ。

しかし、先に限界へ達したのは、少女の方であった。
放心し、『テディ』の胸に顔を埋める。
口元から一筋のよだれが流れていた。


『テディ』イイイ……リア充氏ね。

その時俺は思ったもんだ。
熊になりたいと。

だけど、リアル熊じゃない。
あまつさえ、口から怪光線を発射して、触手が生える熊じゃない。

なんでこうなった。

「人生ままならねえなぁ」
と熊語で呟いたら、マスクが消滅して、雲に大穴があいた。


もう一度、マスクを作り直し、なりきり『テディ・ベア』の修行を再開する。

腹時計換算5分で飽きた。



しかし、ここはどこだろう?

白神山地?
違う。ブナがない。
それに、ここの植物は少々アグレッシブだ。

日本では、林檎を収穫しようとして、逆に手をかじられそうになったりしないと思われる。
南米あたりだとちょっと分からん。


では北海道か?
チセネヌプリ山とか。
アイヌ語は名前がかっこいいから。

けれど違う。
川にマリモがいなかった。


外国?……シュバルツバルト?……キリマンジャロ?……
なんとなく多分違う。


じゃあもうアメリカでいいや。
でっかいし。

グランドキャニオンでいいや。

グランキャニオン……グラーンキャニョン……

チッ……熊の口じゃ thサウンド が上手く発音できねぇ。
ベロを前歯に挟むと、牙で噛み千切りそうだし。

どんな状況であろうとも自殺は選ばん。それが俺。

……グルァァーンキャニョョーーン
巻き舌は上達した。


グラーン……

ふぁっく。
またマスクがロストしくさる。

チッ。
開き直って、喉が枯れるまでビームを吐く事にした。
グレートクマビームがスーパーグレートクマビームにスキルアップするまで。


空へ向かって対空砲火。

十時方向にアンノウン。
サージェント・クマ、デストローーイ。
あいさー、まむ。

向かう所敵無し。
敵がいないので。

でも一つ発見があった。
吼えながらブッ放すとスッキリする。
ついでに光線が太くなって、強そう。

次の一発は、力の限り大声でやってみよう。

やってやった。


「……グフッ……」
喉から変な声が。
ドス赤い血が、噴水みたいに口からふき出すおまけつき。

はっ?………死ぬの?……
これって一種の自……さ………つ……



















死ぬかと思った。

やりすぎは良くない。
猿になる。

倒れていた俺の腹の上には、落ち葉や枯れ枝などが薄く積もっていた。
カブトムシ風の虫も死んでいる。

オス熊の上で腹上死。
さぞや無念だろう。
俺なら悪霊になる。
大悪霊になって、手下のサキュバスといちゃいちゃするまで成仏してやらん。

起き上がり、土へ埋めてやった。


どうやら何日か経過した模様。
体から湧き出す熊臭の熟成具合で判断した。

毎日風呂に入るとあんまり臭わない。

魚が食いたい。
風呂場へ行こう。



結構猛スピードで泳げた。

微妙に毒々しい色合いの魚を捕まえ、頭からいただきます。
一瞬、川魚って寄生虫とか……などとよからぬ知識が脳裏をよぎった。

俺、熊だしな。
諦めた。

バタフライで水面を移動。
掌がグローブのように大きいので、水を良く捕まえられる。
さすがは高級食材だ。

水中に潜る。
体の重さを利用して、川底で仁王立ち。
今なら何でも出来そうな気がする。

高速で金玉を洗った。



ムッ………変なの発見。
じっとコッチを凝視している。
その数20前後。
化石の三葉虫が復活して、水中対応した感じなヤツ。
あんまり大きくない。
熊の握りこぶし程度。

金玉から手を離し、威嚇してやる。
今日までに会った大概の生き物は、これでどっか行った。

ヤツら、向かってきやがる。
三葉虫のくせに。
生きた化石のくせに。

舐めた口叩けないよう、タップリとお仕置きしてやる。
その後、食う。


―― 触手先生、おねがいしやす。

……………先生?…………先生?……出番ですよ。

がっでむ。触手、沈黙。
まあ良い。ひねり潰してや……三葉虫が触手をだした。

ここは場末のソープランドか。水中触手プレイありますみたいな。
すっげーどきどきして、マットの上に正座で待ってたら、来たのは「あれ?……写真の人のお母さん?」みたいな。
それはそれで……触手ママ。ちょっとどきどきするかも。くやしい。

頭錯乱中。
ヤバそう。逃げろ。

けれども、後ろへ回りこまれた。
蜘蛛の巣かって程に張り巡らされる、敵の触手。

急速上昇、バラストオフ。

俺が水面に辿りつくより、相手の方が速かった。
縛られる全身。

姉貴、人生初の本格SMは、虫さんがパートナーでした。

嫌だ。虫姦は嫌だ。
俺はソフトMなんだ。言葉攻めとか羞恥プレイとかが好きなんだ。
歯医者さんで美人女医がドリルを使ってチマチマと嬲ってくれる。
でも優しく、「いたいですかー?」と聞いてくれる。
そんなのが好みなんだ。

嫌な音がして、左腕の感覚が消えた。
目の前の青い水が、赤く染まる。
熊の手へ群がる三葉虫達。

痛みと恐怖で視界が真っ白になる。

無意識で大絶叫していた。

コンマ数秒の溜めの後、青白い光が充満した。


耳をつんざく轟音。
周辺の水が一瞬で蒸発する。

三葉虫も蒸発する。

肺が空気を求め、口を大きく開く。
血の噴水。

またか。
今度は死ぬ。
ホントに死ぬ。
もうクマビーム撃たねえ。
撃つ時は加減する。

俺は意識を手放した。







結論から言うと、生きてた。
でも、体の上に雪がこんもり積もってた。
てゆうか、深さ10メートルの雪の下、生き埋めになってた。

掘りまくって這い出る。

地形も変わってる。
俺が破壊光線をブッ放した方向。
山がごっそり無い。
カルデラ湖的な湖になってる。
川が流れを変化させ、そっちへ流れ込んでいた。


そして、熊、無傷。
三葉虫が食ったはずの左手も無傷。
しかし、体に違和感が残る。

考えると、ある推論が浮かんでくる。
寝ている間、色んな部位を、色んなヤツから食われまくってんじゃないのかと。
その度に再生したんじゃないのかと。

これが真実であれば、俺、ほぼ不死身。
でも痛いの嫌い。
どこまで体が消失したらアウトなのか? なんて絶対確かめねえ。

次、三葉虫見つけたら、クマビーム(弱)で即効消し去る。


腹減った。
触手、働け。

カメレオンっぽく色を変える、光学迷彩雪ウサギを三匹捕まえ、家に持ち帰る。
ゆっくり味わおう。


おそらく数ヶ月ぶりに自宅へ帰還。
枯れ葉のベッドで泥のように眠りたい。

よっこらフルシチョフ。

入り口の草製カーテンを開ける。
風除けとカモフラージュ用途。
初日に作った。


開けてビックリした。
マイスイートホームが、臭くないよう大掃除した俺の部屋が……見知らぬ者達に占領されていた。

人間どうしようもない場合、声も出ないらしい。
俺は熊だがな。

すやすや眠る侵入者。
上半身巨大カマキリ、下半身巨大アメーバ。
無理やり表現すると、こうとしか言えない外見だった。
ようするに、カメーバ。

カメーバ父とカメーバ母。
間に挟まれカメーバ子供。
推定数百匹。

……………俺の自宅で繁殖するな。そして冬眠するな。
ヤリ部屋か? 俺の部屋はカメーバのヤリ部屋かよ。


…………………はぁ……
幸せそうに眠るカメーバ親子を眺めていると、怒る気力も消えうせる。


そっとカーテンを閉め、元自宅を後にする。

雪が強くなってきた。
降りしきる純白が肩に積もる。

……泣いてもいいですか……

涙で濡れた部分が、冷やされて凍った。





全力を尽くし、空き物件を探索する。
敷金・礼金無し。家賃無し。
これだけは譲れねー。

風呂無し・トイレ無し・エアコン無し。
ないない尽くしのカモナマイホーム。


夜が明ける頃、やっと希望にかなう洞窟が見つかった。

今日分かったのが、熊は夜目が利くという事。
冬眠しなくても大丈夫そうな事。

グーテナハト……






一日中ぐっすり。

翌朝、ムクリと起床する。

なぜなら、重要な心配事にぶち当たったからだ。
居ても立ってもおられなくなった。

俺はこのまま熊として生きて、生物の役割を果たせるのか? という命題である。
つまり繁殖して子孫を残せるのか?
もっと簡単に言うと、メスのくま〇こに欲情できるのか? だ。

答えは否。
毛深い女、大いに結構。
骨太ガッシリ体形、おそるるに足らず。

だが熊。お前はダメだ。
クマ耳獣人美少女なら良い。
リアルメス熊はちょっと……

そして以下重要。
俺は獣姦もの、大っ嫌いなのだ。

この世界、微妙にファンタジーっぽいから、絶対痴女が良い。
リアルの痴女は普通に怖いので無理だけど。病気とか。

ファンタジーなら、すっげー美人の痴女が必ず存在するはず。
その子を俺の触手とパンクラチオン・エレクティカで、らめーらめーーって言わせよう。
双方合意の上で。十回に一回くらい。
普段は攻められたい。
「おまえクマ臭いんだよ」とか、なじられつつ踏んで欲しい。


決めた。
もう不安は解消。

眠い。寝る。
あれ俺、冬眠してんじゃね……




[22759] ベア・ハッグで抱きしめて 2
Name: カシミール◆4296f6b5 ID:5272987b
Date: 2010/11/04 19:14
春ーーはるーーるるるーーー

ああーー良い天気でぽかぽかする。

冬眠から覚めると季節が変わっていた。
正月の初詣行きそびれたけど、まぁしょうがない。
日付わかんねーし。神社っぽい場所しらねーし。


代わりに新年の目標を立てることにした。

まず、嫁をさがす。
くまでもいいの……すき……って言ってくれる痴女の嫁を見つける。

次に、生活レベルの向上。
俺は文明的な熊になる。
つまり、ブマだ。


しかし、鳥どもがうるせー。
ぴーちくぱーちく。

春は動物にとって出会いの季節。
そこかしこでカップル成立しているうえ、羞恥心が欠落してるもんで青姦三昧。

木陰でいのしし夫妻が。
岩陰でトカゲ夫婦が。

おさかんなこってすのーー。

畜生、熊になってまでDQNリア充との格差に悩まされるとは……


精々励め。
俺にはこの世のどこかで存在する、痴女嫁が待っている。

ただ、食料調達が難しくなった点はよろしくない。
春になって熊の体に適応してきたのか、動物の個体識別がある程度可能になった。
トカゲ1、トカゲ2、じゃなくて、トカゲの田所一郎さんとか、トカゲの山本しずえさんとかそんな風に思えるのだ。
だから微妙に狩り辛い。
特に幸せ一杯の家族は。

でも狩る時は狩る。
骨まで残さず美味しく食べて、合掌する。

そこで朗報。
あの忌々しい三葉虫は物凄く美味だった。
皮を剥くと、エビ風の身が出てくる。
エビよりとってもクリーミーで上品。

焦らず、俺の触手さえちゃんと働けば、遅れをとる事もない。
冬眠前、働かなかった理由。
触手は水が苦手らしい。
水に入る前、腕を三発程度殴って脅しつけたら、ちゃんと出た。
近頃は段々慣れてきているので、おそらく心配無用だろう。


隣人も出来た。
カメーバ一家だ。

旧クマ邸に染み付いていた俺の臭い覚え、追ってきたのだと推測される。
この間、ひょっこり訪ねてきた。
果物なんかの御土産を持って。
以来ちょくちょく顔を見せるようになっている。

来るたびにきーきーしゃべっているけれども、まったく言葉がわからん。
俺が話すとビーム出るし。
とりあえず、うんうんうなずいている。
毎度帰る際、カメーバ母、何となく満足げなので、この判断は間違いじゃないはず。

二日前になるか。
カメーバ父に引っ張られて、旧クマ邸へ行った。
やっぱり果物とか食べさせてくれた。
凶悪な顔つきに似合わず、一家は草食な様子。
小さなカメーバ子供たちがわんさかくっつきたがるから、潰さないよう苦心した。

思うに、熊の臭いがあれば外敵侵入のリスクが減るのであろう。
なのでカメーバたちは俺を頼ってくれているのだろう。
袖刷りあうも他生の縁。
こんな状況の俺からすると、この言葉は結構な重みを持つ。

果物は家賃収入として、ありがたく貰っておく。


さて、本日は椅子を作ろう。
前回作った時は失敗だった。
座った途端ぺしゃんこ。

熊、重てーからなー。

釘とトンカチが欲しい。







地理と状況を把握する為、高い山へ上る事にした。

久しぶりに隠密マスクでおしゃれする。
丈夫な木の皮で作った風呂敷を首へ巻き、準備完了。
これでどっから見ても ninja だ。

手裏剣さえあれば完全装備なのだが。
三葉虫の殻で試してみるか。
くそ虫どもなら絶滅してもいいし。
春になって繁殖しまくってるし。


出掛けにカメーバ親子の住処周辺で、これでもかってくらい立ちしょんした。
当分臭いは消えないと思う。


秘技・触手の舞。
木に触手を引っ掛け、パチンコの要領で俺の体を射出する。
着地した先でも繰り返し、移動時間をめちゃくそ短縮する技だ。

連日の対三葉虫バトルで会得した。
水中では岩を掴まえる。

木の上で一休み。
自宅方向を確認して、目的地へフライアウェイ。

途中俺よりでかい肉の塊から奇襲された。
短い毛の生えたまん丸な球。
それに口が沢山ついている。
ぴっしり牙の生えた数百の口が、伸びて噛み付いたり、汚ねー痰つばを吐きかけてきやがる。
つばに触れると、思いっきり溶ける。

そしてヤツは飛ぶ。
不思議パワーで飛ぶ。

めんどくさいにも程があるが、クマビーム(弱)では死ななかった。

現在、お互い膠着状態。

遠距離より、絶え間なくつばぺっぺを続ける肉球。
無数の触手を生やし、拾った石を投げつけ、つばぺっぺを迎撃する俺。

見た目悪ガキのケンカだ。


でむいっと。頭にきた。
俺もつばぺっぺしてやる。

カーーッペッってしたら、ちっちゃいクマビームがショットガンみたくいっぱい飛び出た。

ふむ。かっこいい。
クマタン砲と名づけよう。
喉の負担も軽い。

ぶーーっと吐きまくった。

怯む肉球。

その隙をつき触手にトンネルを掘らせる。
ヤツの腹の真下へ通じる道を。

穴に入る。
ヤツからしてみれば、俺が消えたかの如く思えるだろう。
ふふふ、慌てるがよい。


肉球のドテッ腹にアッパーかましてやった。

ヤツは逃げ出した。

ほっといて先を急ぐ。
食えそうにないヤツはいらん。
あいつ食ったら下痢しそう。

だが、所々つばで溶かされて、俺のボディと触手に穴が空いている。
すっげー痛い。
ひりひりする。
間違えて鼻の穴にキンカン(虫刺され薬)ぬった時の数十倍ひりひりする。
我慢してたら鼻水がでた。

どっかで風呂入りたい。



山へ近づくと森が消え、低い木ばかりになった。
森林限界とかそういうものなんだろう。

パチンコ式高速移動法が使えなくなった。

地道にスキップする。
なぜスキップかって?
探検っぽくて楽しいからに決まってる。

俺の子供の頃の夢は冒険家だった。
今その夢がほぼ叶っている。

しかし失ったものは余りにも大きい。
けれど楽しいので細かい事は知らん。


ふん、ふん、ふんふふーーん、ふんふふ、ふんふふ、ふんふふ、ふふふふ……

鼻歌でジンギ〇カンを歌いつつ、熊は飛び跳ねる。
足腰が強靭なのでスキップでも物凄い。

ふん、ふん、ふんふふーーん、ふんふふ、ふんふふ、ふんヌオッッッ

足元の大地が消えた。
腰から下が穴にズッポリピッチリはまった。

落とし穴……ふざけんなよ……

直ぐに抜け出してキッチリ埋め直してやる。

俺は触手を伸ばし、地面へ刺した。
そのまま抜けようと力を込める。

……………あふん……

えもいわれぬ快感が下半身を駆けた。
穴の中がもぞもぞする。

……………いやん……

いかん。
エレクチオン、レディーセット。

下半身の出っ張り部分へもぞもぞが集中している。
正直、気持ち良い。
穴全体がきゅっきゅっと締まる。

意識が朦朧としてきた。

…………………………………………………あふっ……


穴に汚された。

ズルズル這い出した俺は、泣きながら近くの小川で股間を洗った。


正気に戻る。
おそらくあの落とし穴は、地下で生息する食虫植物の類だ。
はまった者を絡めとり、穴の下へ引きずり込んで食べる。

植物にいやらしい気持ちは一切ないはず。
気持ちよかったけど。
だがここはファンタジー世界。
あのまま引きずり込まれて地下に行くと、美少女アルラウネが俺を待ち構えていて……
そうに違いない。
俺は美少女アルラウネから搾り取られたのだ。
決して植物から汚された訳じゃない。

たぶん……メイビー………

もう一度捕まると死ぬかもしれん。
搾り尽くされて。
注意しよう、ハニートラップ。



触手を展開し、索敵レーダーにする。
スキップは止めて、普通に歩いた。

少し前からの小さな疑問。
ここ、グランドキャニオンには俺以外、熊系の動物がいないんじゃないの? って事。
春になってそこそこ活動範囲が広がったのにもかかわらず、熊っぽいのがいない。
意味不明な生き物は沢山いるのに。

例えばこの前会った、肛門爆裂鳥。
糞が爆発しやがった。
マジで空爆。
遥か上空より飛来する、高性能小型爆弾。
糞が地面とキスした瞬間、衝撃と爆風を撒き散らかす。
しゃれにならん。
お前の主食は何ですか? ニトロですか? って聞いてみたかった。

そして人型もいない。
正真正銘、野生の王国。
弱肉強食でありながらも、不必要な資源の浪費は一切許されず。
今日食える分を今日食べる。
完璧な自然のサイクル。

住めば都。確かに。
嫌いじゃない。



高い山の天辺に着いた。

残雪だらけ。
まだ冬。
熊じゃなきゃ凍死確実。


うん。あっぱれな眺め。
どこまでも広がる空と深緑の大地。

おう、滝発見。
今度行こう。
一度滝つぼにジャンプしてみたかった。


グランドキャニオン全体の様子は、俺が予想していたものと結構近かった。

THE・盆地。
円周ぐるりを高山に囲まれた土地。
新クマ邸やカメーバさん家がある場所は、くぼみの左寄りの端ってとこだ。

しかし広い。
今日は頑張って移動したと思っていたけれど、盆地全体の10%も動いてないな。
とすると、まだまだ知らない事だらけな訳だ。

もしこの盆地が火山活動の結果だとすれば、噴火以前の山は数万メートル級の高山だったのだろう。
火星のオリンポス山も裸足で逃げ出す高さ。

だけど、どうもカルデラ地形ではなさそうだ。
自然と山が隆起し、逆に真ん中は凹んだ。そんな感じを受ける。

続けて盆地の外側を観察しようとするが、よくわからない。
山脈の外側、つまり盆地と反対側の山肌は、濃い霧か靄で覆われており、視界が悪すぎる。


日が落ちてきた事もあって、本日の探索はこれまでとする。

さあ、雪でかまくらを作ろう。
今夜のホテルだ。



次の日、俺は山を下る事にした。
盆地と反対の方向へ。
来た道とは逆の向きになる。



下りはとても大変だった。
昨日からの霧が晴れず、進み辛い。
植物や岩などもグランドキャニオン側と全然違う。
さっきなんか、木から光る石が実っていた。

食えない木の実って残念すぎる。
遠目で眺めるとキラキラして美味しそうだったのに。
とりあえずマーブル模様と透明なヤツを収穫し、持って帰る。
カメーバなら食べるかもしれん。

そして動物たちの怯えっぷりが半端じゃない。
俺を一目見ようものなら、世界の終わりって顔して逃げる。
グランドキャニオンではそこまでじゃなかったのに。

結構傷つく。

ただ、さっき超大発見した。

逃げたヤツラの中に一人、人型がいた。
サソリ風の下半身で、上が人。
しかも上、まっぱだか。
筋肉質のいい体だった。

でもオス。
メスだったら思わず求婚のダンスを踊る所でした。

サソリ人イケメンだったので決闘しようとしたけれど、逃げた。
俺の股間に恐れをなしたものと思われる。

勇気が湧いてきた。
初の人型。
これで一歩、嫁探しが進展した。

探そう。地の果てまで嫁を追い詰めよう。

野生の王国も良いが、そこにつきものなのは、アダムとイブ。
俺はグランドキャニオンのアダムになる。

冷静に考えると熊はアダムじゃなくて、野生方面のぶっちぎり先頭だけどさ。

でも大丈夫。
俺の嫁は痴女だから。
痴女は大らかだから。
痴女の半分はやさしさで出来てます。残りはエロス。

やさしさえろすと心の中で叫びつつ、俺は下草を掻き分ける。



歩く間に捕まえたヘビを昼食にする。
石へ腰掛け、隠密マスクを脱ぐ。

……………………………恐ろしい事実が判明した。

嫁が一人である必要なくね?

……ハーレム……

ヘビを持つ手が小刻みに震える。


……騙されるな。
ここは野生の王国。
野生のハーレム程、シビアな人間関係は存在しないのだ。

一見、オスうはうは。
昨日も頑張りすぎて腰が痛てーよ。
亜鉛サプリでも飲もうかな。
って、想像をしがちではある。

現実は違う。
力なき男は全てを奪われる世界。
もし他のオスに負けてしまえば、努力して嫁いでもらった美少女たちは全員掻っ攫われる。
こんにちわ、NTRだ。
ぶち殺される上にNTRだ。
誠氏ね以上のバッドエンド。
持てる男は常に背中を狙われる日々を過ごす。

あるいは、メスに対する態度を誤り、嫁達から袋叩きにされる可能性も捨てきれぬ。

…………まったりダダ甘でいちゃいちゃしたい……ハーレム、ダメ。

いや、それは早計か?
止むに止まれぬ事情があるのならば、ハーレムであるのも吝かではないともいえない事もなくはない。

むぅ……………………あ痛っ。

背中へ手をやる。

ごっどぶれすゆー!
誰だ? 大事な考え事の最中に矢を刺したのは。

おまけに熱い。
背中が熱い。

は? 背中が燃える。
刺された所になんか魔方陣みたいなのが浮かんで、燃え始めた。

俺は急いで矢を抜き、地面を転がり回る。
丈夫な熊の体、たいして痛くも熱くも無いのだが、ビックリした。
真面目に人生設計を組み立ててる時だったからなぁ。

そうこうしている間にも、次々と矢を射掛けられた。

すげー。
山火事一歩手前。
爆裂鳥のフンみたく爆発しないだけマシだけど。

矢が着弾した後、光の輪っかが4つ、複雑に組み合わさって炎を吐き出す。

…………魔法じゃね? 本物の。

見とれている場合かよ。

立ち上がり、俺は息を吸い込んだ。


いけっ、新技。
クマタン砲。

濃い弾幕を張って、矢を迎撃すると同時に炎を消し飛ばす。
触手を八方に伸ばし、敵がどこから来ても対応可能な状況を整える。

矢が飛んできた方向へ目を凝らす。
必殺・くまアイ。
まぶたを極限まで開き、良好な視界を確保する技。
視力も上がるような気がする。

ん……?
くまノーズが反応した。
これまで嗅いだ事の無いにおい。

くまイヤーは弓の弦の音を聞き分ける。

そっちか。
結構離れた木の上。
不自然に揺れる枝。

くまアイ。役立たずめ。


触手を近くの木に絡みつかせ、勢い良くバックステップ。
ファイア・アローより、くま・アローの方が強いのを思い知らせてやる。

―― 俺が矢だ。

触手は引っ張られ、ピンと張り詰める。
木が熊の重さを受け止め、弓なりにたわむ。

熊が襲撃者へ向かって飛んだ。
両手の鋭い爪を先頭にして。

―― 脳漿ぶちまけろっ。


アイツだな、弓使いは。

空飛ぶ熊を見るや、樹上で慌てふためく人型。

変なヤツだった。
体長約130㎝。
黄土色の皮膚。
大体は一般的な人間と同じだけれど、2つの巨大な眼球が頭上に浮遊していた。
元々の眼窩は、糸で縫い付けられ閉じられている。
痛々しい。

そしてオス。
チッ、メスなら目ん玉の1つや2つ気にしないのに……嘘ですごめんなさい。自傷系ヤンデレは荷が重すぎます。

ギョロリ。
眼球が俺を捉える。
こっち見んな。


敵との距離が縮まる。
10m……8m……5m……

目ん玉は狂ったようにファイア・アローを乱射しているが、全て触手で叩き落す。
ヤケドでヒリヒリする。

4m……3m……2m……1m………あっ、逃げんな!

衝突直前でヒラリ、枝から飛び降りた目ん玉。

爪からつっこんだ俺はバキバキメリメリと音を立て、木をぶち抜く。

……………動けん……
木に挟まった。

もがく。
じたばた。

足の方より、甲高く耳障りな声が聞こえる。
後ろを見たいけれど、木に空いた穴から抜け出せず。

どうも、目ん玉が俺を笑っているのではなかろうか?

ふっ、笑いたくば笑うがいい。
最後に勝つのはこの最強くま……痛い!

ケツに矢が刺さった。
燃える。
ケツが燃える。

俺は大きく息を吸い込んだ。

グレートクマビーム(中)。

破壊神降臨。



……………やりすぎた……

すり鉢状クレーターの中心でポツンと佇む俺。

……帰ろ……目ん玉のヤツも逃げたし……

グランドキャニオンへ向け、とぼとぼ歩き出す。

喉がイガイガする。
龍角散のど飴が欲しくなった。







帰りしな。
カメーバさん家へ寄った。
御土産の石の果物を届ける為。

カメーバ夫妻はくるくる回って喜んでくれた。

直ぐに受け取り、両手の鎌で光る石を砕き始める。

次に子供達を一列に並ばせる。
夫妻は石の欠片を一個づつ、子供の口へ運んだ。

美味しそうに欠片をしゃぶる子供達。

………持って帰って正解だったなぁ……
ほんわかした。


しかし、カメーバ子供は数百匹。
いくら小さい子供とは言え果物2つでは不足な様子。

列の後ろの子供達がそわそわしだす。
両親の手も止まる。

………全員が俺を見つめた。

ぐっ…………………わかった。行ってくりゃ良いんだろ。
乗りかかった船だ。
最後まで責任は果たしてやる。

もう一回山越えする決意を固めた俺。

そんな俺に鎌を上げ下げして応えるカメーバ父。
感謝の仕草だと推測。

父をつんつんとつついた母。
「ねえ、あなた……」って感じだった。

ひそひそ話を始める二人。

俺、置いてけぼり。


まぁいいやと、外へ出ようとした。

父が俺を止める。

何だ?

母の手には一匹の小さなカメーバ子供。
子供はもじもじして、俺を見上げていた。

父を見る。
うなずかれる。
母を見る。
うっすら涙を浮かべている。

両親はカメーバ子供を俺にくっつけた。

…………どうやら雰囲気的によろしく頼むって感じなのだが……

嫁か!?
嫁入りか!?

確かにこのカメーバ娘、他の子よりも鎌が丸みを帯びている。
下半身、アメーバ部分の色艶もすばらしい。

つまり……美人さん?

いやいやいや、流石に昆虫とは結婚できん。


俺は懸命に両親と娘を説得した。

俺、熊。
あなた、カメーバ。

両手を大きくXの形にして、不可能の意を表した。

種族の違いに今気づきましたとばかり、驚く両親。
いい加減にしろ。


家族会議開始。

結果、「あらあらごめんなさいね」って感じで、カメーバ母は俺から娘を受け取った。

安堵の表情を浮かべるカメーバ娘が、やけに印象的に映った。
子供の方がマトモだな。


その後、頑張って往復し、石の果物を取って来た。




[22759] ベア・ハッグで抱きしめて 3
Name: カシミール◆4296f6b5 ID:5272987b
Date: 2010/11/04 19:13

リビイン コメリカァーー……ふんふふん ふっふん ふっふん………ァァオッッッ

大空にJBを思い浮かべ、サムズ・アップ。
高速で腰を振った。

S〇X MACHINE


グランドキャニオンは今日も晴天。


Let's Sing a Next Song.

Saburo のスマッシュヒット・チューン、YO-sakuを歌う。
心の中で。
HEY HEY HO の歌詞に合わせ、木に蹴りをかましつつ。

手で掴むと噛み付く林檎を威嚇する為。

六発くらい蹴ったら大人しくなった。
収穫して朝ごはん。

餃子味。
美味い。

こいつは動物かもしれん。
植物じゃなくて。


気分はファンクの帝王で、くねくね踊る。
踊りながら自宅周辺を徘徊。

異常事態が無いかの点検だ。

世界の警察。
それが熊。

モンキーダンスで絶好調の俺を、リアル猿が眺める。
大丈夫ですか?って顔して。

―― 見せモンじゃねぇ しょんべんブッ掛けるぞ

石投げられた。


今気分がいい。
猿、命拾いしたな。

タンコブをさする。


足元へ何かが擦り寄ってきた。

小動物だな。
毛が長いイノシシの子供みたいなヤツ。

かわいい。

しゃがんで撫でた。

野生の生き物としては、異常なほど人懐こい。
北海の野人・ムツゴ〇ウを見習って、俺は全身で親愛の情を示す。

首筋に手をやる。

チクリとした。

その瞬間、イノシシが後ろへジャンプ。
愛らしい顔が凶悪に歪む。

一気に俺の右腕の毛が禿げ落ちた。
手先がどす黒く変色する。

……毒かッ?

馬鹿にしたように笑うイノシシ。
ニタリ。
毒が全身へ回り、動けなくなってからゆっくり頂きますするつもりらしい。

糞っ、ヒリつく痛みが気になって対処法がまとまらん。

突然左手から生えた触手が、勝手に右肩へ巻きついた。

ゴキンと骨を外す。
腕を引きちぎった。

そのまま熊の右腕を棍棒にして、逃げようとする毒イノシシの脳天をカチ割った。

一拍遅れて血が噴き出す。
さらに遅れて痛みの伝達。

ビームを乱射しないよう必死で声を堪える。

楽しい事を懸命に考えた。
東欧美人のちちしりふともも……
剛毛で、ちょっと色々垂れ気味なら尚よし。
ああ、死ぬなら筋肉+脂肪でパッツンパッツンのおなかを枕にして死にたい。


傷口から触手が飛び出す。
どんどん飛び出す。

ロープみたく編みこまれ、徐々に熊の腕を形作る。



助かった。
急展開すぎる。
かつて、オカンから一流と称された俺のリアクション芸。
御披露する暇もねーよ。


元右腕を放り投げ、毒イノシシを引きずって行く。

イボ痔野郎め。美味しいお昼ごはんにしてくれるわ。


森の広場。

毒イノの死体の前で考える。
このまま食べたくねぇ。腹壊すだろ。

むぅ……

うん。焼こう。


乾いた適当な木を沢山拾う。
こんもり積み上げる。
クマビーム(最弱)。

枯れ木は塵も残さず消滅した。

ハハッ……ふぅ……


リトライ。
木、こんもり。

ここまでは一緒。
こっからはさっきまでの熊じゃない。
俺の知恵をフル動員する。

平たい木切れと枯れ枝。
そして毒イノの長い毛。

セルフバーニングで鍛えた腕の高速運動。
ついに封印を解く日がやって来たという事か。

板に枝を垂直に立て、竹とんぼの軸を回す要領で回転させる。


さすがは熊の腕力。
さほど掛からず板から煙が昇る。
焦げ臭いニオイも。

触手でイノの毛を発熱部へ近づけた。

おおーー、燃えた燃えた。



初バーベキュー美味すぎ。
料理は文明だろ。文化だろ。

毒イノへの恨みが消えた。



食後の野グソ一発かましたあと、俺はイノの骨を爪楊枝風に使いデンタルケアしていた。

さて、次は何すっか?

……グランドキャニオン中心部の調査でも始めるかな。

でももう夕方。
明日にしよう。

風呂入ろ。





インポテンツになった。
デリヘルのねーちゃんから口汚く蔑まれた。
興奮した。

という夢を見た。


実際、朝勃ち不発。

毒の所為?

ずっとこのままだったら、触手でハンギン・ネックする。
生きてる価値がねぇ。

まぁ、首つった程度で死ぬような熊じゃないけどな。



テンションがた落ちの状態で、中心部探索へ出かける。

いつもの如く、カメーバ家の前でたちしょん。
カメーバ母が満足そうに見つめる。

あれ……人妻に視姦されて放尿って、背徳感がにじみ出てもいいはずなのに……

失意の俺。
つまり、超えられぬ種属の壁。




山の上で発見していた滝を見物しに来た。

切り立った崖を水が流れ落ちる。

下を眺めた。

高さで一瞬くらっとなる。
山の頂から海が湧き出している様だ。

崖下には湖と間違えそうな青い青い滝つぼがあった。

イグアスやナイアガラなんて赤ちゃんだな。
野太いなんてモンじゃない滝の水量。
見渡す限りの滝、滝、滝。

ここへ来て良かったって思った。
地球じゃ絶対拝めない光景。

煙る水しぶき。
スペクトル分離して散乱する太陽光。
折り重なる虹の群れ。

翼が無いのに空を飛ぶ蜘蛛は、悠々と流水の周りを舞う。
まるでアメンボのように。
八本の足のつま先がオレンジ色に光っていた。

アイベックスと似た獣が絶壁を飛び降りる。
途中背中がパクリと割れ、毛皮の内側からパラシュート状の皮膜が傘みたく開いた。
ゆらゆら降下。


むずむずしてきた。
冒険心にガソリンがぶち込まれる。

自分の頬を殴った。

気合十分。

飛ぶぞ。


キシギシと体を締め付ける重力加速度。
残像を残し消え去る風景。
キンキンうるさい耳鳴り。
ドーパミンでイカれる脳みそ。
せり上がる金玉。

極上の快感。

落下途中3回叫んだら、3回ビーム(弱)が出た。

俺は落ちている。

あっ、勃起しました。


病み付きになったので、登って降りてを繰り返す。

滝つぼもヒンヤリして気持ちいい。

また落下。

くま万歳。
人間なら衝撃でバラバラだ。


10回ほどやったら、太ももがワナワナしてちょっとしんどくなった。

なので水面へ浮かんだ。
ぷかぷかする。
癒された。


しかし腹へったな。
三葉虫はいないみたいだから、魚でもつかまえよう。

潜る。
熊は漁師。
生け捕り。
いただきます。


ん?
底の方に洞穴がある。

調査開始。

大きく息を吸い、穴へ向かう。

突入。

泳ぐ。
泳ぐ。
触手を先に伸ばす。
岩壁へ突き立てる。
体を引っ張る。

クマ級有機エンジン式小型潜水艦。
最大戦速20ノットで航行中。


―― ブハッ
口から空気の塊が漏れた。

息が続かん。

出口は?
出口はまだか?

…………ダメだ。引き返す。


窒息寸前で水面に顔を出した。



どうしよう。
穴があればとりあえず挿入するのは、男の固い約束なのに。

諦めきれないので、他の入り口を探す事にした。



滝つぼから少し離れた場所。
1~2m程の岩がゴロゴロしている原っぱ。

もう1つの洞穴を見つけた。

勢い良く挿入したい所だけれど、さっきから俺にメンチ切ってるヤツがいる。

ここの岩原はヤツの縄張りのようだ。


クマビーム(弱)の威嚇射撃で様子を伺う。

ヤツはつまらなそうに「フンッ」と鼻息を鳴らした。
そして俺から視線を外し、近くの岩と対峙する。

頭部にそびえる3本の角を岩へ突き刺し、粉々にする。

―― 拳で来いって訳か……いいだろう。

顔を引き締め、ヤツと向かい合う。

このナマイキな野郎を地球の生物に当てはめるならば、犀と呼ぶのが一番しっくりくる。
それも、恐竜のトライセラトップスと合体した犀。

トライセライノセラス。
無駄に長えよ。
でもかっこよすぎてムカつくから、こんなのライスで十分。
ご飯だ。ご飯。もしくは蚤。

悠に熊の3倍を超える体長。
俺が2m+αなので、約6m。

数t以上であろう体重を支える為、丸太の様な足が全部で6本あった。

全身、深緑と青のマダラ模様。
首の後ろ側は、鎧状の硬い皮膚にグルリ取り囲まれている。

ライスが後足で砂を蹴った。
鼻先から生えている短い角を、地面スレスレまで下げる。


マトモに突撃を受けると死ぬな。
最悪、くまミンチだ。
いくらなんでも、ミンチからは再生できないだろう。

内心で、心臓が鷲づかみにされる。
初めて手の平に汗を掻いた。

ライスの目をにらむ。
ヤツの目、獣の目じゃねぇ。
冷静だ。

つまりこれは狩りではないのだ。

オスとオスの決闘。
プライドのみを賭ける馬鹿げた闘争。


腹をくくった。

こんなんで躓くようでは、極上な嫁を貰うなんて夢のまた夢。
貰ったところでその内盗られる。

ビビリかけていた金玉を思いっきり揉み解す。


俺の決意を待っていたようなタイミングで、脇腹から触手が現われる。
どんどん、どんどん。

そして腹に巻きついていく。

触手のサラシ。
あるいは肉の胴丸。

―― フン、これで無様にハラワタ撒き散らす事もないって?
ありがてぇ。

来やがれ、ビチグソ短足ライス。

俺は大きく両腕を開いた。


犀、突進。
一直線に熊のドテッ腹狙ってきやがる。

腰を落とし、デコの青筋が破れる程、腹筋と触手へ力を込めた。


衝撃。
首がすっぽ抜けかけた。
視界が赤く染まる。
眼球の毛細血管が切れた。
耳が聞こえん。
内側からの血で鼓膜が吹き飛んだ。

砂埃を立て、体が後ろへ吹き飛ばされる。
触手の胴鎧をこじ開け、角が肉へめり込む。

背中が岩に衝突した。
一瞬で粉砕。
血と内臓の塊を口から吐いた。

犀の顔面が真っ赤に染まる。

歯を食いしばり、俺はあきらめそうになる心を繋ぎ止める。

半ば無意識で手を伸ばす。
腐れご飯の耳の上に生えている、2本の長い角を、圧し折らんばかりに握りしめた。

ダメだ。
足の浮いた状態じゃ力が入んねぇ。

背後へ洞窟のある崖が迫る。
岩肌でプレスされたら、一貫の終わり。

ふざけんな。死にたくねぇ。生きる。俺はまだ生きる。生きてやる事がある。生きてやる。死んでも生きてやる。


熊の四肢から爆発的勢いで触手が噴出した。

足のソレが地面へ潜った。
大木が根を張る。
幹は熊だ。
俺の足が地面に縫い付けられた。

手のソレは腕に巻きついた。
何重にも。
太い熊の腕が、今より以上に太く強くなる。

俺の意志に従い、触手は脈打った。


犀の突進が止まる。

トライセライノセラスは初めて俺の目を見た。

腕を引きつけ、ヤツの鼻っ柱にパチキをかましてやった。


力入れすぎて涙腺がおかしくなった。
悲しくないのに涙が止まらん。

ライスの足元の地面が段々と陥没していく。

支える触手が悲鳴を上げた。
ブチュリと音を立て、表面が破れる。
透明な組織液が地面を濡らす。


俺の体がジリジリと崖へ押される。

熊が犀に負けてたまるか。
後はどうなっても知らん。

―― 潰れろ! チンカスライス。


角の下から力を込めた。
奥歯がぐちゃぐちゃに砕けた。

犀が浮く。
持ち上がる。

焦りの咆哮。

6本足が空中で暴れまくる。


涙と血と体液を撒き、熊が犀を持ち上げる。
高々と。


俺の足の触手が破裂した。
同時に膝の皿が潰れた。

くの字に折れ曲がって、地面へひざまずく。

反動と犀の重みで、上半身が後ろに反る。


地響き。
トライセライノセラスが仰向けで大地へ突き刺さった。

ブレーンバスターホールド。





体が動かない。
熊になってからこんなのばっかりだ。

でもすっきりした。
勝負には勝ったからな。

戦は負けたっぽいが。

ライスのヤツが起き上がる。

やっぱりな。


倒れている俺を覗き込む。

よだれ垂らすなよ。臭ぇぞ。

はぁ、おれもここまでか。
意味不明な人生だったけど、最後で満足した。
さあ食え。
負け犬ライス。
腹一杯食いやがれ。

犀が短角を近づける。


……………………………ってあきらめられる訳ねーだろが!
嫁嫁嫁嫁嫁嫁嫁嫁嫁嫁嫁嫁、俺の嫁。
美人で巨乳で優しくてドSで八重歯でムチムチで痴女な俺の嫁。

不意打ちにグレートクマビーム(凶)をぶっ放そう。

せーのっ―― ひぎぃッ

脇腹蹴られた。
悶絶する俺。

殺す、絶対殺す、コロコロコロコロぎゃひん……
悶絶。

熊、虫の息。


犀接近。
ちょっと待て。
話し合おう。
話し合えば道は自ずから開ける。
熊と犀。
違いなんて些細なものだ。
なあに、直ぐに分かり合え……

その時、ライスが薄く笑ったように思えた。

短い角を熊の背中の下へ敷き、ポイと空中に放る。
そのまま犀の背中に着地。

熊、どこかへ連行される。






あの後、ヤツは湖で俺を降ろした。

さっぱり理解不能だったけれど、とにかく水をがぶ飲み。
大の字で寝っころがる。

しばらくすると、また犀が戻ってくる。
口に草を沢山くわえて。

食べろとしきりにジェスチャーで催促するから、食べる。
苦い。
水がぶ飲み。

なぜか体が熱くなる。
……もしや、さっきの草……媚薬?

ライス、お前まさかメス?
おれの貞操をうばっ……おーかーさーれーーあべラッッ

糞ッ、ポンポン蹴んな。低脳ご飯。
クマビーム(弱)で反撃。

あらぬ方向へ弾かれた。
現代戦車の装甲かよ。

ヤツは後ろ足を上げ、男性のシンボルを見せ付ける。
ああーーはいはい、オスねオス。
お前がメスだったら世界の全てを呪う所だったさ。

だが………フッ……俺の勝ち。
よろよろ立ち上がり、エレクチオンをぷーらぷら。

犀の瞳が血走った。

いやいやいや、わるかった。大人気なかったな。あやまるよ。

ブフンと息を吐くライス。



そうこうしている内。
足腰へ力が戻りつつある。

いくら熊の超回復でも早すぎだ。

………さっきの草。なんかの薬草か?

ライスを見た。

照れくさそうにブフン。

そうか。
ありがとう。

俺は犀の背にジャンプした。

抜群のタイミングでスタートを切る犀。


だけどさ、男のツンデレは見苦しいぞ。

あっイヤ、それ嘘。ダートを走るな。振動させるな。腹に響く。あちこち痛い。まだテメェがぶち抜いた風穴残ってんだから。
あすほぉぉぉる。死ね犀。お前ちょっと童貞くさい。

ブフォッ!

違うって、言葉の綾だって。いきり立つなよ。

いや待て。俺もか?
この熊たぶんそうだから。
高校ん時のダチのヤリマンの姉ちゃんとか、西川口のソープ嬢とか、あれとかあれとか、まさか全部ノーカウント?

………

すまん、ライス。
お互いがんばろうな。


てゆうかなんで普通に犀と会話できてんの?
テレパシー?



[22759] ベア・ハッグで抱きしめて 4
Name: カシミール◆4296f6b5 ID:5272987b
Date: 2010/11/20 22:26
……ドミトリー……ドミトリースカヤ・マルコノフ………貴様だけは絶対に……


目が覚めた。

夢を見ていた。

生き別れの義妹が、元KGBエージェント、ドミトリースカヤ・マルコノフから監禁陵辱される夢。

義妹を探す為に訪れた、赤き帝都・モスクワ。
当初、ドミトリーは優しい笑顔で俺に近づく。
異国で一人。
不安な俺をなにかれとなく見守ってくれたのだ。
しばらくの時が経ち、彼を実の兄みたく慕うようになっていた。
それが……それが……


ほーりーしっと。
寝覚めが悪りぃ。

いや俺には義妹なんていないけれども。
いたら真っ先にぱんつ盗む。
盗んでバレて、虫を見るような目で蔑まれる。

興奮した。

ついでにソファーベッド代わりの犀を蹴飛ばす。



ライス、ちょっと話がある。

ブフン。

俺も大概だけどさ、お前、臭いぞ。
特にケツの辺り。
糞した後、きちんと拭いてんのか?

ブフォ。

朝風呂だな。
朝風呂は健康にいい。


滝つぼへ飛び込んだ。


枯れ草の塊をスポンジにして、犀のケツを擦る。

しかしヤツは6mもある巨体。
途中で洗うのがめんどくさくなった。

ライスだけが気持ちよさそうなのも、なんかムカつく。

だから思いっきり浣腸してやった。

肋骨が折れるくらい蹴られた。



平らな石の上で寝転がる。

ああーー雲。

遠くに入道雲が見える。

そろそろ夏か。
グランドキャニオンは春が短けーのかなぁ。


ライスに捕まえた魚を渡す。

食わなかった。

草食? 燃費バツグンな犀だ。
プロテイン入りのペンペン草でもあんのかね。

水草を美味そうにもしゃもしゃ。
俺は魚を頭からばりばり。

同じタイミングでゲプッ。


どうして犀と会話できるのだろう?

ヤツの説明によると、喧嘩した相手の血を浴びたら、何となく相互理解ができるようになるらしい。
全部が全部の相手がそうなる訳じゃないし、完璧に理解できる訳でもないそうだが。

肉体言語の究極形態。
微妙にうさんくさい。
結局、俺の脳内妄想なんじゃねーのって勘繰ってしまう。

まぁでも、ダチだ。
こっち来て初めての意思疎通できる友人。
ツマラン事は無視するに限る。


よろしくな、ライス。


で、お前、他に誰か友達いねぇのかよ?
特にメス。
ムチムチなメス。
紹介してくれ。
いいえ、紹介して下さいライスさん。


ライスが滝つぼから連れて来たのは、ムチムチの山椒魚だった。
手の平サイズの。

メスで18歳だと……
確かにお肌は水を弾いてツルツル。全身ツヤツヤ。
しかもピチピチしてるけどな、しっぽが。

チェンジで。

丁重に御引き取り願う。
顔写真ぐらい置いとけや、店長。


あの子と喧嘩したのか?

アイツ強い……ってマジ?
分裂して、体中に張り付かれて、窒息させられた?

上級者向けのプレイだな。
御免こうむる。

てゆうか負けたの? 犀のくせに。

あ、しょんぼりした。

うーむ。言い過ぎた。

アレだアレ。
強いメス、大いに結構。
むしろご褒美じゃね? 痛めつけられるのって。
ぜってーそうだって。
俺がそうだから。
だから気にすんな。

巧みな話術で元気付ける。

ちょっと立ち直った。


俺達は岩原へ歩き出す。

だが山椒魚は無い。
彼女のデータを記憶から抹消した。




おい、あの洞窟、お前入った事ある?

ブフォフン。

何で?

ブッフォン。

ふーーん。
じゃあ入るぞ。

ブフォ?

あの穴処女だから。
ほら、未踏地を処女地って呼ぶだろ。
男のロマンだよ。処女航海とか処女雪とか。
処女雪ってエロくね?
美少女雪女が着物はだけて、恨めしげに上目遣いしてる感じ?
いやっ……旦那様、それだけは堪忍して下さい……って感じ?
分かんない?
そっか。追々教えていく。
だから行くぞ。

犀が穴へ突進した。
入り口で挟まった。
犀立ち往生。

苦労して、つっかえてしまった頭部を引っこ抜く。

うーーん、無理っぽいなぁ。
お前の方がでっかいし。
しゃーない、一人で行ってくる。


無理という言葉にカチンときたらしい。
ライスは猛スピードの助走をつけ、穴にタックルをかます。
負けず嫌いめ。

岩が吹き飛び、洞窟の中へ消えたライス。

俺は後を追いかけた。



ライスーー。おーーい、どこだーー?

狭い入り口と違い、中は結構広かった。
だが犀がいない。

あと真っ暗。
忘れてた。松明かなんか用意しないと全く見えない。
夜目が利く、くまアイでも視界ゼロ。

いっぺん引き返すか。ライスは自分で何とかするだろ。

そう思って一歩足場を変えたら、体がぐらついた。

地面が無い。
触手を出す暇さえなく、俺は縦穴に落ちた。


ぐおおぉぉーーーぅぅ……
ケツから着地した。
尾てい骨が割れるように痛む。

ブフォン。

苦し紛れに爪で地面を引っ掻いていると、ライスがやってきた。

お前も落ちたのか。
ん、違う?
歩いてたら地面が割れて、穴になっただと。

犀の所為だな。
お前が重すぎて落盤したんだろ。
ダイエットしろ。


しかし文句を言った所で事態が好転するはずもなく。

暗闇の中、俺達はポツンと佇む。

これは最悪餓死だぞ。


しばらく無言で考え込む。

ナニ、腹が痒い?
テメェ、ちったぁ頭働かせろよ。
触手でライスの脇腹を掻いてやった。

あれッ。
何かいるぞ。
ライス、お前の腹、何かへばり付いてるぞ。

……痛っ、畜生、噛みやがった。

手探り、正確には触手探りで、噛んだヤツを犀の腹から引き剥がす。

キューキューと耳障りな鳴き声を出すそれは、蝙蝠だった。

何故外見が分かったというと、蝙蝠が薄らぼんやり光っているからだ。
触手で締め付けるたびに弱く発光する。

ふむ丁度良い、懐中電灯代わりだ。

俺は蝙蝠を縛り上げ、前方を照らした。


出口を探す為、歩き出してしばし。
さっきの選択は間違いだったと後悔した。

囲まれてる。
姿は見えないけれど、そこらじゅう蝙蝠の匂いで埋め尽くされていた。
ヤツが光ったのは仲間へ合図を送る為だったみたいだ。
つまり救難信号。


動いた。
一斉に羽音が接近する。

こんな相手だと、的のでかい犀はトコトン不利だ。
ライスを壁際へ押しやり、耳と鼻に神経を集中させる。

触手で叩き落そうとするが、全然手ごたえを感じず。
ひらひら避けられている。

じゃあ、次の手段。
俺は触手を引っ込める。

臭いを嗅ぎ分け、距離を計る。
もっと近づけ。もっとよって来い。

…………今だッ!
くまタン砲発射。

飛び出した散弾がやけに眩しく感じられる。

明滅を繰り返し、蝙蝠たちが墜落して行く。


怯んだヤツラにくまタン砲の威嚇射撃を数回。

割に合わないと判断したのだろう、逃げ去った。


次、いつ食事できるかわからないので、死んだ蝙蝠を集め、食事する。
まだ生きているヤツは懐中電灯にする。
悪く思うな。
死んだら骨まで食べるから。
合掌。

先を急ごう。


盛りだくさん伸ばした触手の先には、光る蝙蝠。
提灯アンコウ+千手観音。

二度目の襲撃が無さそうなので、ほっとする。

落ち着いて地形を観察する事もできた。

俺達が落ちた穴は玉ねぎの様な形だった。
今いる所は玉ねぎの下の部分。

触手で始めに落下した口を見つけ、上へ戻ろうとも考えたのだけれど、問題はウンコ重いライス。
持ち上げられません。
熊の怪力でも無理。
あちこち千切れる。

なので、壁沿いに進み、脱出経路を探索中。

だけど結構楽観的なのだ。
蝙蝠がいたから。
こんな生き物のいない場所で、肉食蝙蝠が生活できるはずがない。
つまりここは巣であって、どこかに外界へ通じる道がある。

私の灰色の小さな脳細胞が活動を始めた。

ふふ、ポワロも真っ青な推理っぷり。
これから私を、名探偵エドガー・アラン・クマと呼んでくれたまえ、助手のライス君。

サスペンスというより怪奇事件ばっかだし、グランドキャニオンは。

上機嫌な私を助手が角でつつく。

何事かね?

犀の視線の先にあったのは、壁一面、無数に開いた穴。
なにこの穴……………ちっちゃいよ……

ふっ、この私の推理が役立たずになるとはな。敵ながら天晴れと評せざるを得んだろう。
蝙蝠用の通路を熊が通れる訳がないじゃないか、ましてや犀など。
はっはっはっは……どうしよう。

とりあえず、手ごろなホールにチンチ〇を突っ込んでみた。
ぴったりだ。
よし、こうなったら、チン〇ンだけでも地上へ……


焦れたライスが壁へぶちかましを敢行して、脱出穴を広げようとする。
待て、馬鹿、折れる、マイサンが潰れるって。


しかも潰れそうなのはマイサンだけじゃない様子。

蝙蝠の掘った通路で岩壁が脆くなっているのか、ミシミシと不安な音が聞こえ始めた。

止めるんだ、ライス。


そっと壁際から移動した。



うーーむ、手詰まり。
どうすっかな。
むしゃむしゃバリバリ蝙蝠をほお張りつつ、座り込む。
なかなか乙なお味。
犀も地べたの苔をもしゃもしゃ。

埒があかん。
探索しよう。




14匹目の懐中電灯を食べ、そろそろ明かりが心細くなった頃。
不審な壁を発見した。

よくよく目を凝らして観察すると、5m四方くらいの範囲に筋が入っている。
まるでそこだけ岩を切り出して、再度はめ込んだみたいな。

私の灰色の小さな脳細胞が活動を始めた。

ライス君、これはいわゆるカラクリ扉だよ。
誰がどんな目的で作ったのかは不明だがね、仕掛けを解き明かす事が出来れば、扉は開くのだろう。
さて、肝心のカラクリはいかがなものかな……ふふん、この名探偵エドガー・アラン・クマを退屈させない謎解きなら、嬉しいのだけれど。

って、ハゲ、お前、人の話聞いてんのか。
助走すんな、このドドメ色の脳筋野郎。

犀がカラクリ扉と思しき場所めがけ、頭から突っ込む。

さっく、でぃっく、こっく。
アイツに任せると空洞が崩壊しかねん。
t単位の重量だから、工事用の鉄球がぶつかってるのと一緒なんだよ。
面の皮が鉄より硬そうだし。比喩じゃなくてほんとに。
ライスのヤツ、目ん玉全部、アクリルみたいな硬くて薄い透明皮膜で覆われてんだ。
目を石で叩いた程度じゃビクともしないだろう。
マジで装甲車。


俺は暴れる犀の足へ触手を絡め、ひっくり返す。
ブフォブフォうるさいが、腹をヤクザキックして大人しくさせた。

触手が千切れて痛いけれど、喉に意識を集中させ、カラクリ扉へクマビーム(出力微調整)を吐いた。

……ダメか。もう一発。

3回目で成功した。

予想通り、奥へ道が繋がっている。

行こう。
ここにいるよかマシだろう。
そう祈る。




懐中電灯が切れた。
最後の蝙蝠をいただきますする。

真っ暗闇。

幸い一本道なので、壁伝いで移動する。

ううっ、しょんべんしてー。

お前もかよ。

仲良く連れしょん。

犀のしっこが滝のように流れてくる。
足がびちょびちょになった。
顎の下へ膝蹴りかましてやった。


歩く、歩く、歩く。
途中まで歩測をしていたのだが、坂道で後ろから犀が転がってきたので分からなくなった。
曲がりの多い道だった。

時間感覚もぐちゃぐちゃ。
探検開始からどのくらい経過したのやら。


水の匂いがする。
ライスが言った。

野生歴の短い俺にはちょっと難しい匂いだ。


轟々と流れる地下水脈。
音の反響具合で察するに、俺達は開けた場所へ辿りついた模様。

ライスをその場で待機させ、四つんばいで水路のありかを探る。
犀を野放しにすると、そのまま溺れかねん。


………触手の先が流水に触れた。

熊の臭いを辿ってここまで来い。
強く伝える。

二人で水をがぶ飲みした。


その後一通り周辺を調べてみたけど、行き止まりっぽい。

ここは単なる、水脈岸の広場? 川原?だった。

強いて特徴を挙げるとすると、真四角に切られた岩がいくつも乱立してるだけ。
つまずいてコケて、触って確認した。

このままだと、やっぱり餓死か……
蝙蝠を食べつくしたら後が無い。


静かに目をつむる。

………やけにグラマラスな観音さまが現われた。
キャサリン・ゼタ・ジョー〇ズそっくり。
金色で裸。
金粉ショー。
浮き出た肋骨が艶かしい。
そして大きめなおっぱいの先端。
美しいフォルムだ。
さすがは人妻である。
もう一度生まれ変わったら赤ちゃんになりたい。
……あれ、それ普通かな……

キャサリン観音はやさしく笑い、うなずいた。

そうか。あきらめるなって事ですね、人妻観音さま。


人妻キャサリンさまより勇気を貰い、不屈の精神で立ち上がる。


しかしライスの様子がおかしい。

どうした?

―― 何かいる ――

硬い声が俺の脳内へ響く。


地面のあちこちが、赤黒く円形に光った。

円の中心には金属の破片と思われる物がある。
そこから深緑のゲル状の液体が噴き出した。

とても友好的な何かだとは考えられない。

俺達は臨戦態勢で見守る。


総勢八匹。
グチョグチョのゲルは人型を形成した。
金属片混じりな崩れた人間。
顔はのっぺらぼう。
口だけがぽっかり空洞になっている。
のっぺらゾンビだ。

地面からの明かりが消えた。

臭いは?
ライスに問う。
俺には嗅ぎ分けられない。
ほぼ無臭に近い。

犀が悔しげに鼻を鳴らす。
ダメか。


残るは耳のみ。


唐突に足に激痛が走る。
慌ててしゃがみ確認しようとした。

中腰の姿勢になった途端、顎を下から蹴り上げられる。

衝撃が怒りに変換され、触手で辺りを盲滅法叩きつける。
かすりもせず。

角を振り回す風切り音が聞こえる。
ライスの方も攻撃を受けているらしい。

チッ、状況が悪すぎる。
一発一発はそれほど大した攻撃じゃないものの、有効な反撃が出来ずにいる。

ジリ貧のまま殴られ続ける。
テンプル・ジョー・ボディ・ボディ・またテンプル。

間合いが掴めん。

脳筋ライスの足音が大きくなった。
頼むから暴れるなよ、川に突っ込むぞ。

触手を網の目に張り巡らせるが、間をすり抜け拳や蹴りが飛んでくる。

前歯が折れた。
再生するから良いけれど、痛いもんは痛い。

くまタン砲で明かり+迎撃を試みるも、当たらない。
のっぺらゾンビがどこにいるのかすら見当がつかず。


光があれば……



そうか!

ライス、今から明かりを確保する。
その間にお前はのっぺらゾンビをぶち殺せ。
こっちは明かりに掛かりっきりになるからな、敵はお前に任せる。

ブッフォオオ。


俺はクマビームを吐いた。
地下水脈へ向けて。

青白い光が回りを照らす。
水底の岩盤を破壊しないよう、威力を絞って吐き続ける。
シュウシュウと蒸気を上げ、地下水が蒸発した。

のっぺらゾンビ………いたぞ。天井にへばりついてやがる。
手足を伸ばして俺達に攻撃してたのか。

厄介だ。
犀の角が届かない。

触手でヤルしかないな。
ビームと両方使うのは結構しんどいんだけど、しゃーない。

耳の中で刺す様な痛みが爆発した。
間髪いれず、体中に鈍器で殴られたかの衝撃を受ける。

訳がわからず、のっぺらゾンビ達をにらみつける。

ゾンビは口の空洞を大きく開き、自分の腹を自分で殴っていた。

ヤツラの前の空気が揺れる。

俺は吹き飛ばされそうになった。

……口から圧縮した空気を撃ってる?
糞、ビームと体勢維持に精一杯で、触手まで動かせんぞ。


そう考えていた俺の脇を、ライスが駆け抜けた。

怒りに燃えた犀は、湾曲した洞窟の岩壁を駆け上る。

あっ、踏み潰した。角で刺した。


重力を勢いだけで打ち破り、犀が天井で大暴れする。

落ちては駆け上がり、落ちては駆け上がりの連続。
地面には、犀の足で出来た穴や、背中から落ちて出来た窪みがいっぱい。

ビームを吐きながら呆然と眺める。
まさに力押し。


その後、大した時間も掛からず、のっぺらゾンビ撃退に成功した。


ブフォーブフォーと荒い息のライス。
流石に疲れたのだろう。
俺も疲れた。

二人して、その場で座り込んだ。



明るい光を感じ、俺は目を開く。
つい、寝こけてしまったようだ。
頭の後ろからライスのイビキが聞こえる。

目の前に四角い岩が立っていた。
レーザーで切られたみたいに真四角。
にょっきり生えている。
大きな石版にも見える。
黄色に輝く石版は、川原へ点在する物と同じに思えた。

俺は周辺の石版を改めて観察する事にした。


不思議だけれど、あれだけライスが暴れまわったのにも関わらず、壊れた石版は一つもない。

黄色い光を頼って、近くのソレへ顔を近づける。
表面に爪で引っかいた跡が残っていた。
他には何も無し。
つるつるした石の表面。

違う石版を覗く。

何かの歯形らしきもの。
肉球を押し付けた跡。
大きな鱗? や羽? を貼っているのもあった。


ふーーむ。
さっぱり意味不明。

ぽりぽり顎を掻きながら、光る石版の前へ戻る。

犀を起こして、これは何だ? と尋ねてみるが、「知らん」との事。


とりあえずつついてみる。

むにょんとやわらかい。
……おっぱい程はやわらかくない。
粘土くらい。

つついた指の跡がくっきり。


これは……
俺のグラフィティ魂がメラメラと燃え上がる。

砂場で大きなう〇こマークを描くのが生きがいであった小学生時代。
女子がきゃーきゃー言うのを楽しむ為でもある。

教室の黒板にま〇こマークを書きまくった中学生時代。
特に数学の美人女教師、岡田先生の授業の前は念入りに書いた。
途中でアホがチクッたので、放課後体育の松島から呼び出されて、思いっきり鳩尾殴られたけど。

商店街の魚屋のシャッターに、良かれと思って松方〇樹のリアルな似顔絵を描いたら、一発で店の大将にバレて奥歯が割れる程殴られた高校生時代。
後日、仕返しに腹ペコ猫爆弾を投下してやった。
秋刀魚二匹、鯖一匹を壊滅させた。


よし、名作を描いてやろう。
俺は石版と向かい合った。


『 熊 参 上 』

形式美と言っても過言ではないシンプルな文言。
始めはここらあたりから。

お次は美脚網タイツお姉さんでも描いてやろうとした所、ライスが妙な表情で俺にガンを飛ばす。
熊と石版を交互に見つめる犀。

ははーーん、ライス君、うらやましいのかね?
さもありなん、君の角は細かい作業には不向きだからねェ。

ブフォッッ。

ふむ、自分の事も書け、そう言っているのかな。

ブフォブフォ。

まぁ、構わないだろう。


俺は石版に爪を走らせる。

『 偉大なる熊の舎弟、ライス参上 』

できた。これでヤツも満足だろう。


何かね、ライス君。
……あの爪跡には意味があるんだろう? って……もちろん、その通りだとも。
 
「漢の中の漢、ライス」という意味だよ。

満足げな犀はほっといて、芸術的な美人画製作を開始するか。


ウォッ!

俺が爪を伸ばそうとした途端、一際眩い黄色の光が充満する。


慌てて目を閉じた。

しかし、異変はそれだけではない。
地面がおかしいのだ。

平行だったはずの地面が斜めに傾く感覚を覚えた。
傾斜がどんどん急になる。
立っていられず、へたり込む。

けれどもズリズリ動かされ、俺達は地下水脈へ飲み込まれた。



溺れる、溺れる。
濁流でもみくちゃ。
必死に水面を目指す。
どっちが天井かさえ分からん。

どうにか息継ぎをする。

擦れる、岩肌で擦れる。
痛てェよ、くたばれハゲ洞窟。


洗濯機で洗われるパンツのように、俺達は流された。



死ぬ気で意識を保ち、水中を無理やり進まされる。

徐々に明るくなって来たと思うと、広い所へ吐き出された。

懸命に光源の方へ泳ぐ。
それが日の光だと信じて。

だが、息が続かない。
後ろを振り返ると、ライスがぐったりとして、底へ沈んでいた。

触手を伸ばし、犀の胴体をぐるぐる巻きにする。

重い重い重い重い重い。

俺も沈む。
馬鹿野郎、糞、しっかりしろ!
泳げ! ライス。

クマビームをヤツの顔面へぶち込んだ。
熊の口から最後の空気の泡が溢れ出る。


ダメか―― 酸欠で朦朧とする中、俺は天井の光を見つめた。

一度でいいからFカップ以上の爆乳を揉みしだきたかった……
ブラジャー外したら、あれ、ちっちゃくねってがっかりするのはもうイヤだ……


ボコン ――
ボコン ボコン ――

下から変な音がする。
ああ、死ぬ前の幻聴か。

ボコン ボコン ボコン――



熊と犀が落ちて行く先。
深い水底が音の発生源であった。

音と共に巨大な気泡が水中を上昇する。

気泡を生み出しているのは、水底に生息している大きな大きな水草であった。

全長10m以上は確実な、緑のウミユリ。
何千、何万のウミユリが群れをなし、光合成で酸素を作っていた。

数分に一度、ウミユリの先端にある袋状の機関がぱっくりと割れ、タップリ空気を含んだ気泡を打ち上げる。

そしてまた波へ身を任せ、ゆらゆら揺れる。


沈み行く二人の真下。
一本のウミユリが静かに気泡を吐いた。

熊と犀は新鮮な空気の塊に包まれる。
包まれたまま、ゆっくりと上へ登ってゆく。








俺達は滝つぼの最深部より命からがら生還できた。



















あとがき

遅くなりましたが、感想を書いて下さった皆様、ありがとうございます。
今後も、ゆったりペースですけど、何とか続けていこうと思います。


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