【コラム】『空飛ぶタイヤ』
先日、中国・蘇州で開催された第10回韓中日テレビプロデューサー・フォーラム。3カ国から集まった放送の専門家らが最も熱い反応を示したドラマは、日本の『空飛ぶタイヤ』(2009年)だった。ファンタジーを感じさせるタイトルとは違い、巨大企業の「不都合な真実」を取り上げた社会性の濃い作品だ。
ある運送会社のトレーラーが曲がりくねった道路を走っていた際、突然タイヤが外れ、急停車する。ところが、恐ろしいほどのスピードで飛んで行ったこのタイヤは、幼い男の子と一緒に通りかかった若い母親にぶつかる。母親は病院に搬送されたが、死亡してしまう。
警察は「運送会社の整備不良が事故の原因だ」とひとまず結論付けた。しかし、苦境に立たされた運送会社社長とある雑誌の女性記者は、この車を製造した大手自動車メーカーの秘密を自らの手で暴く。そして、事故を起こしたトレーラーと同種の製品はすべてタイヤの軸に深刻な問題を抱えておりリコールの対象にすべきものだったが、会社の幹部たちがこれを隠していたという事実を突き止める。
このドラマには原作となった小説があり、翌年起きたトヨタの大規模リコールや内部隠ぺい疑惑を見通していたような洞察力を感じさせる。
現場では、「政治的な問題や企業倫理を取り上げた題材の作品は敏感なため、うちの局では避けることが多い。放送の前後に『産みの苦しみ』はなかったのか」という質問が集中した。それほどまでに、ほかの劇的な要素は徹底的に排除してまでも企業倫理にだけ焦点を合わせ、視聴にも緊張感を与えたこのドラマは、韓国や中国のプロデューサーたちに多くのことを考えさせた。今回のフォーラムに出品された作品の中で、2位に相当する優秀賞を受賞したのは、そうした結果だった。
アジアを制覇したと言われる韓流ドラマが、奇怪な色恋ざたや不道徳な家族関係ばかり扱っている間に、日本のドラマは社会的な問題や体当たり的な勇気ある試みをしていたのだ。
さらに意味深長なのは、このドラマが有料放送を通じ視聴されたということだ。
一時、地上波放送のコンテンツを「二番せんじ」どころか「三番せんじ」までしていたが、最近は独自制作番組を大幅に増やし、人気オーディション番組『スーパースターK』のような大ヒット作を生み出している韓国のケーブルテレビ・衛星放送会社。だが、このように社会問題を真剣に取り上げようという試みには目を背ける。セックス・ブランド・ぜいたく・オカルト・不倫など、本質から外れた末梢的な題材で視聴率獲得に走る韓国の有料放送局にとって、こうした試みは異様に見えるだろう。
しかし、WOWOWはこうしたコンテンツを前面に押し出して日本最大の有料放送局に浮上、年売上高は7000億ウォン(約500億円)を上回る。『空飛ぶタイヤ』の視聴率も地上波に匹敵する5-10%をマークした。青木プロデューサーは「ドラマは金もうけの道具ではない」と言った。
崔承賢(チェ・スンヒョン)エンターテインメント部放送チーム長