Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
年内に決められる「防衛計画の大綱」に向けて、政府と民主党がそれぞれ武器輸出政策の基本方針「武器輸出三原則」の見直し作業を急いでいる。民主党の外交・安全保障調査会は、三原[記事全文]
世界の経済と金融の安定を支えてきた国際通貨基金(IMF)の改革が進むことになった。今後の通貨体制のあり方を展望するうえで、意義深い一歩となりそうだ。改革の骨格について、[記事全文]
年内に決められる「防衛計画の大綱」に向けて、政府と民主党がそれぞれ武器輸出政策の基本方針「武器輸出三原則」の見直し作業を急いでいる。
民主党の外交・安全保障調査会は、三原則を緩め、他国と武器の共同開発・生産もできるようにすることを考えているようだ。
菅政権が現段階で原則を変える結論を出すというのなら、賛成しがたい。
三原則は日本の平和外交や軍縮政策を支えるソフトパワーとして役立ってきた。その歴史的な重みを考えれば、より慎重に議論を尽くす必要がある。
三原則は国際紛争を助長する武器の供給国とならないよう、冷戦さなかの1967年にできた。76年には禁輸対象を広げて事実上の全面禁輸とした。
いまこれを見直そうという動きが起こることには、確かに理由がある。
近年、IT技術の進歩や開発コストの急増により、軍事技術をとりまく環境は一変した。巨額の開発費が要る戦闘機などは、米国といえども単独開発は難しく、多数の国々が参加する共同開発・生産が主流になりつつある。
その一方で、軍用品と民生品の境界があいまいになり、武器とみなされない日本の半導体やソフトウエアなどの製品や技術が、他国の武器に堂々と組み込まれる現実も日常化している。
見直し論が浮上する背景としてとりわけ大きいのは、武器の調達コストを何とか引き下げたいという動機だ。
三原則の下で装備品の価格が高騰し、それでなくとも減っている防衛費を圧迫する。防衛産業の受注が減り、生産・技術基盤の存続も危ぶまれる。
しかし、これで十分な説得力があるとは認めがたい。疑問は数多い。
最先端の軍事技術では米国が他国を圧倒しているのに、米国以外の国々にも広げた共同開発にどれだけ利点があるのか。開発した武器が、紛争当事国の手に渡るのを有効に防げるのか。
政府は従来、禁輸解除が必要と判断したものについては、一つずつ「例外化」という形で慎重に吟味し、閣議決定で適用除外としてきた。なぜ個別に判断するやり方ではいけないのか。
三原則見直しでどれだけ調達コストが削減できるのか、それを具体的な数字やデータで比較衡量したのか、国民は何も知らされていない。情報なしに納得せよと言われても無理な話だ。
コストが問題なら、冷戦思考が抜けない自衛隊の重厚長大な装備体系や、政府が手厚く保護する防衛産業のあり方に大ナタをふるうべきだ。
何より武器輸出政策の原則を変えれば、それはいや応なく国際社会への強いメッセージとなる。日本は世界の中でどんな国家であろうとするのか。平和国家であり続けるのか、それとも?
性急な見直し論議の前に、菅政権が答えを出すべき問いはそこにある。
世界の経済と金融の安定を支えてきた国際通貨基金(IMF)の改革が進むことになった。今後の通貨体制のあり方を展望するうえで、意義深い一歩となりそうだ。
改革の骨格について、ソウルであった主要20カ国・地域(G20)サミットで首脳たちが合意した。高い経済成長で存在感を増した中国をはじめとする新興諸国の権利と責任を大幅に認める内容である。
象徴的なのは、出資比率の変更だ。国内総生産(GDP)で日本を抜く中国が6位から日本に次ぐ3位になり、インド、ロシアなども比率を高める。一方、発足時から高い比率を保ってきた欧州勢を引き下げる。新興・途上国の計42.3%は先進7カ国(G7)の43.4%と拮抗(きっこう)する。
先進国主導の運営体制も見直される。出資比率の上位5カ国が理事を指名する制度を廃止し、すべての理事を選挙で選ぶようにする。大国が引き続き理事を確保する構図が急に変わるわけではないだろうが、新興国や途上国が結束して候補を立てたり、批判票を投じたりする機会は増えよう。
従来は欧州の指定席とされてきたトップの専務理事や、他の幹部の人事も今後は透明化が進みそうだ。
今回の改革は、米欧が震源となった危機の克服に向けて発足した「G20体制」に新興国が参加する見返りとして実現することになった。
以前は救済される立場だった国々が支援する立場に回り、世界の風景は一変した。そうした変化を反映することで新たな発展のエネルギーを取り込み、IMFの組織と活動を強化しようというものである。
1944年、戦後の通貨体制を決める米ブレトンウッズ会議で創設が決まったIMF。そこには「世界恐慌から第2次世界大戦に至った悲劇を繰り返すまい」との誓いが込められていた。今回の改革は原点を振り返りつつ、今後の通貨・金融体制について検討を進める土台となることが期待される。
90年代のアジア経済危機でIMFが支援先の諸国に改革を強要したことへの反感もくすぶる。その反省も踏まえつつ、世界的な経常収支の不均衡是正や為替安定などの課題解決に向けて力を発揮してもらわねばならない。
先進国の超金融緩和政策で世界中にあふれるマネーの奔流をどう制御するか。ドルへの信認低下が懸念されるなか、ユーロや円、英ポンド、中国の人民元などとの調和を図る多極的な通貨体制をどう構想するのか。
ブレトンウッズ会議に臨んで、英国代表の経済学者ケインズは世界共通の通貨および中央銀行という大胆な構想を掲げた。21世紀の金融秩序の再構築には、これに比肩する大きな発想や活発な討議も欠かせないだろう。