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薄れる影 浜田学生遺棄事件半年<下> 変わる街 安心・安全、官民挙げ模索 '10/5/8

 毎週月、水、金曜日の午後8時、浜田市黒川町の石見公民館に青色回転灯をつけた車が3、4台集まる。島根県立大1年だった平岡都さんが、遺体で見つかった昨年11月以来続く市東地区防犯協力会の夜の青パト活動だ。

 ▽見回りを強化

 「犯罪の抑止力。やりがいはある」と同市長沢町の小松原博子さん(57)らボランティアは言い聞かせる。地区で11台だった青パトは2月から26台に倍増。「半年は確かに長いけど、1人の負担は月2回程度。まだまだ続けられる」。市全体の登録も、事件直前の昨年10月末、204台だったのが4月初めには297台に増えた。

 市内では毎月5のつく日の夜、数人が徒歩で巡回する西地区や、門灯点灯を呼びかける市民グループなど自主的な活動が広がる。浜田署管内の1〜3月の窃盗など刑法犯の認知件数は47件、昨年同期の90件から半減した。

 平岡さんは昨年10月26日夜、アルバイト先から学生寮へ帰宅途中に事件に巻きこまれたとみられる。「夜出歩けなくなった」という女子学生は多い。娯楽施設の関係者らは「女の子だけで来ることがほとんど無くなった」と、いまだ残る影響を指摘する。平岡さんの同級生も言う。「帰宅したら、実家の親に、帰ったよとメールを送るよう言われている。多くの友達もそう」

 ▽バイト先送迎

 約千人の学生の半数が夜のバイトで働く県立大。大学幹部は、県飲食業生活衛生同業組合浜田支部などに学生の送迎などを要請した。多くの店が自家用車やタクシーなどでの帰宅送りを続ける。

 石見交通は昨年12月から、市中心部と大学を結ぶバスの最終便を31分繰り下げ、午後10時16分、浜田駅発にした。毎日、学生ら4、5人の乗客があり、10人以上の日もしばしば。浜田営業所は「新年度になって定着してきたようだ」とみている。

 街灯や防犯カメラの設置も進む。市は3月までに、大学近くに26基の照明と防犯カメラ2基を新設。経済人らでつくる「安全を守る市民の会」(会長・岩谷百合雄浜田商工会議所会頭)は募金約700万円を集め、市に防犯カメラ計7台と防犯灯を寄贈。これらも近く設置予定だ。

 ソフト、ハード両面で進む防犯対策。一方で負担ものしかかる。学生2人を雇う居酒屋経営者(68)は「タクシーなどで下宿まで送っているが、売り上げも伸びず経済的には厳しい。やめるわけにはいかないし」と、早期解決を祈る。

 さらに、住民の中には「事件が話題に上らなくなってきた。凄惨(せいさん)な事件なので思い出したくないとの思いも当然あるけれど…」と風化を懸念する声も出ている。市は4月の機構改革で安全安心推進課を設置。「市安全の日」制定など市議会との論議を続ける。事件の風化を防ぎ、市民の防犯意識を定着させたいとの思いからだ。

 「事件が推薦入試の時期で、親に反対された。でも行きたい大学だったから」と、入学したばかりの女子学生(18)はきっぱり。「大学を核としたまちづくり」を掲げる市。そんな純粋な気持ちに応えるため、住民参加の安心、安全な街への模索は続く。

【写真説明】マイカーに青色回転灯を載せた青パトで出発する小松原さん(中)らボランティア(4月26日)



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