島根県立大(浜田市)は4月、新入生を迎えた。講義に、部活に、アルバイトに…。希望を胸に260人が新たな生活を始めた。1年前、平岡都さんも古里の香川県坂出市を離れ、ここでスタートラインに立っていた。海外で動物保護の仕事に就く夢に向かって。
「先生、犬も笑うんよ。知ってた?」。高校時代の教師はそう言って笑う平岡さんの姿が忘れられない。「動物が大好きだった平岡が、笑顔で教えてくれた。そんなこともあったなあって、事件後よく思い出すようになったんですよ」
平岡さんは昨年5月、留学資金をためるため、アルバイトを始めた。飢餓や貧困問題に取り組むサークルにも入った。授業も休むことなく、周囲に「国際政治の授業が楽しい」と話していた。友人たちは「ちゃんと夢を持ち、言ったことは成し遂げていた」「英語とか、ボランティアとかやりたいことに一生懸命取り組む姿しか思い浮かばない」と話す。
夏休みに帰省したときは何度か母校に足を運んだ。その時、9月末に県立大である学会で発表する動物の権利に関する英語の論文を先生に何度も見てもらっていたという。
高校時代、既に動物関係のボランティア経験のある平岡さん。当時、学会の発表だけでなく、動物愛護の写真展を見に行ったり、ボランティア希望のメールを県内の団体に打診したり。神戸の動物愛護の国際大会への参加も申し込んでいた。
▽輝き始めた時
不明となった10月26日は、活発に活動を始めた時期と重なる。輝き始めた時。でも、あの笑顔にはもう会えない。なぜ平岡さんなのか―。「事件がなければ、今でも学校に遊びに来てくれたかもしれないと思うと悔しくて残念でならない」と、高校時代の担任は胸の内を明かす。友人や知人たちは納得のいかない日々を過ごす。
動物愛護活動をしている縁で、平岡さんと連絡を取る予定だった浜田市の環境保護団体「エコロジー・ナイト浜田」代表の吉田友香さん(27)はこの6月、動物の命の大切を訴える映画を同市で上映する。「生きていたら一緒に活動できた。大切な仲間になっていたはず」と惜しむ。
表面上は平静に戻ったキャンパス。でも同級生は言う。「あの日から夜出歩かなくなった。悲しみが大きすぎて、事件のことはみんな口にできない」
▽家族を気遣う
坂出市の実家近くの住民たちも「半年がたっても、事件のことが心から消えることはない。まだ家族には声をようかけんのんです」と家族を気遣い、早い犯人逮捕を願う。
遺体が見つかった広島県北広島町の臥龍山。ようやく深い雪は解け、遺体の発見現場近くには絶えず新しい花が供えられている。浜田市のタクシー運転手が山に登った。「平岡さんを1度乗せたことがあるんでね。香川出身と言っていた。テレビを見てすぐあの子と分かった」。花を手向け、そっと手を合わした。夢の途中で突然、人生を断たれた平岡さん。今月末には20歳を迎えるはずだった。
【写真説明】浜田市役所の献花台に置かれた遺影。大好きな犬と写った写真には多くの花が手向けられた
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