どうもこんばんは。
昨日から何かと話題になっている例の有名俳優のアレですが、実は例の出版社に知り合いがいまして、
(以下P社と呼びます)いろいろと内幕を教えてもらいました。
選考委員がP社内部にしかいないのはみなさんご存じかと思うんですが、
P社の中でもこの作品を大賞にするかどうかは相当揉めたらしいです。
というのもP社もこの作品が例の有名俳優の作品である事は、選考途中に気がついたらしいのです。
そこからこれを利用してP社の文学賞に泊付けを行うべきという意見と、
あくまでも文学賞はその作品内容によって精査するべきであり、
有名俳優であるからといってゴリ押しして大賞を与えるべきではないという意見で
真っ二つに別れたそうです。
このように大賞にするか選外にするかで揉めて一時は
奨励賞などで妥結してもいいのではなどの意見もあったのですが、
最終的に一番力を持つグループが半ば無理矢理押し切るような形で大賞が決定したそうです。
その中で最後まで選外にすべきと言っていた役員はP社を辞める事になったそうです。
ここからが本題なんですが、実は僕の知り合いはこの役員と懇意にしていて、
この小説の内容をまるまるもらって読んだそうなんです。
この役員は僕の知り合いに「この内容が表に出たら私の正しさが証明されるはずだ」と宣ったそうです。
これは暗に「表に出せ」と言う指示で、
まぁ役員のP社に対する意趣返しなんですが、
その話を聞いて僕は自分のサイトで流させて欲しいと知り合いに頼みました。
向こうとしてもネットで漏洩させるという考えであったらしく、
しかも一気に目立つように投下するんじゃなくて、
じわじわと浸透させたいという意見でして、僕のサイトのような小さなサイトはその意味で適切でした。
と言う訳で、僕は例の小説を読みました。そして今からみなさんにも全文お見せします。
もしかしたら今後何か大きな力が働いてこのサイトごと消えるかもしれません。
が、これは正義の行使なんです。読んだ人は魚拓を取って頒布してください。
では公開します。
「KAGEROU」
オレ、臼場影郎26歳。独身。
オレは今、ビルの屋上のへりに立って下を見下ろしながら死のうか死ぬまいか悩んでいる。
どうしてこうなったのかを同情を持って理解してもらうためには、
オレの経歴を知ってもらう必要があるだろう。
オレは普通の家庭に生まれ、普通に育った。
特にモノに困るような事も無く、両親はオレが望むモノを買い与えてくれた。
中学生になった時、オレは部活を始めた。サッカー部だ。
1年の時はもっぱら雑用だった。練習中はネットを越えたサッカーボールを取りに行かされていた。
終わったらランニングだ。ほとんどボールを蹴ることなく1年は終わった。
それでもまだ耐えられた。なぜなら同じ1年は似たような境遇のヤツが半分はいたからだ。
練習に加われるのは昔からサッカーをやっていたような連中だった。
2年になるとボールを使った練習に加わる事ができた。
新しく入った1年に先輩風を吹かせる事もできた。
だがすぐに状況は変化した。オレは2年の中でもオレだけまた雑用に戻された。
2年の中でオレだけ1年に混じってボールを取りに行ったり延々とランニングさせられた。
だからオレは腐った。やがて部活に顔を出す回数が減り、幽霊部員になった。
結局そのまま2年に終わりにオレはサッカー部を辞めた。
サッカー部を辞めた後は放課後時間ができた。
オレは家に帰ってネットやゲームやアニメを観て過ごした。
特にハマったのがネトゲだ。徐々にプレイ時間が増え、深夜までする事が多くなった。
酷い時は朝まで徹夜してプレイした。その代わり学校でずっと寝ていた。
するとそれまで普通だった成績が一気に落ちだした。
授業は寝る。起きている時も内容が分からない。だからまた寝る。
完全な悪循環に陥った。だがネトゲは辞められなかった。
オレの成績は順調に落ちていき、最下位近辺をうろつくことになった。
学校の先生に寝ている事を怒られたが、眠いものは眠いのだ。
怒声も耳に入らない勢いでオレは寝ていた。
両親は何も言わなかった。
やがて3年になり、次の進路を決める段になってもオレは昼夜逆転の生活を続けていた。
オレもさすがにマズいとは思っていたのだが、さりとて今の生活パターンを変える事はできなかった。
高校には行きたかったので、今の成績でも行ける通信制の高校を適当に選んだ。
両親は何も言わなかった。
通信制の高校に通い出してすぐにパソコンがぶっ壊れた。
期せずしてオレはネトゲ漬けの生活から抜け出すきっかけを得た。
オレは壊れたパソコンをそのまま押し入れにおしやった。
普通に眠くない状態で高校に通い出した。しばらく通ってオレは愕然とした。
周りのレベルが低すぎるのだ。
どこを見ても普通の高校にすら行けなかった低脳どもばかりだ。
しかもなぁなぁですぐ群れるクズ共だ。
オレはこんな所に来てしまった事を悔やんだ。
そしてもう無性に辞めたくなったのでそのまますぐに辞めた。
両親は何も言わなかった。
高校を辞めた後はまたぽっかりと時間ができた。
もうネトゲに戻る事はなかったが、漠然とした不安が襲ってきた。
このままでいいのだろうか、と。
自分を変えたいと思った。そのためには何が必要か。
勉強だ。
オレは高校を辞めたばかりなのに大学に行く決意をした。
しかもそれは名門でなければならない。そうでなければオレの自尊心は満たされない。
慶応だ。
オレはそう直感した。そして慶応合格のために何をすべきかを調べだした。
そして高校中退のオレは高認に通らないと受験資格を得られないことを知った。
すぐに高認に向けての勉強を始めた。
それから1日10時間は勉強した。
どうもオレには熱中し出すと止まらないクセがあるようだ。
そして半年で高認に合格した。楽勝だった。
このまま楽勝で慶応にも合格できると思った。
そのまま勉強時間をキープしながら、模試を受けた。
慶応、E判定。
オレは愕然とした。あんなに勉強したのに・・・
それからも何度も模試を受けた。E判定、E判定、E判定。
オレは挫けそうになった。
でもオレはあきらめなかった。勉強方法を再度見直し、弱点を分析し徹底的に弱点を勉強した。
最初はいままでよりやたら時間がかかるようになってしまったが、やがて効果は現れた。
慶応、D判定。
一つだが着実に上がった。方向性は間違っていないと確信し、勉強に集中した。
D、D、C、D、C、C、C、D、C、C・・・
最後の直前模試、B判定。合格確率60%。
絶対安全ではないが、合格圏内まで来た。
そして本番。オレは万全の状態で迎えた。
テストも今までになくスラスラと解けた。
試験が終わった時、オレは自分の合格を確信した。
合格発表までは気楽に過ごした。慶應生になってから何をしようか空想した。
サークルに入って、友達ができて、女の子と知り合って、彼女ができて・・・
夢は広がる一方だった。
合格発表はネットで見た。オレの番号はなかった。
なぜだ、全く分からない。とにかく理不尽だと思った。
立ち直るまでにはかなりの時間を労した。
誰かの陰謀ではないのかと思った。
3ヶ月経ち、オレはようやく立ち直り始めた。
次また受かればいいのだ。引きこもっていたが、
予備校に入り、勉強を再開する事にした。
両親は何も言わなかった。
予備校に入ってからはまた同じ事の繰り返しだ。正直オレの集中力は切れていた。
そのうち予備校を休みがちになった。家から出ず、またネトゲをする悪い癖が出始めた。
一人であんなに熱心に勉強できていた日々はなんだったのだろうか、
オレは勉強に対する意欲を失っていた。
そして2回目も落ちた。今度はショックはなかった。
しかし慶応は諦めきれなかった。そのままずるずると予備校生活へ。
3回、4回、5回・・・オレは落ち続けた。ここまで来た以上、引き返す事はできなかった。
そして9回目の春、事件が起こった。
両親が蒸発した。
突然の事だった。どうやら借金を膨大に抱えていたらしい。
困ったのはオレだ。
予備校に通えなくなったのは当然だが、借家からも出て行く事になった。
オレの履歴は26歳で高校中退、職歴なし。
このご時世にどうやって生きていけばいいのだ。
オレは目の前が真っ暗になり、気がつくとビルの屋上のへりに立っていたという訳だ。
お分かりいただけただろうか。
もし中学の時にサッカーを続けていたらオレは普通に進学し、素晴らしい人生が送れていただろう。
もし高校の時に親が学校を辞めるのを止めたら、オレは素晴らしい人生が送れていただろう。
もし最初に慶応に合格したなら、オレは素晴らしい人生が送れていただろう。
もし親が蒸発しなかったら、オレはそのうち素晴らしい人生が送れていただろう。
少なくとも今の生活を続けていく事はできたはずだ。
オレが死ななければならないのは、オレを理解しないふざけた社会とクソ親のせいだ。
オレは何も悪くない。こんなふざけた世界からは消えてやる。オレは間違いなく天国へ行くだろう。
だってオレは正しいのだから−
「やめろ!」
突然後ろから大声が聞こえた。びっくりして後ろを振り返った。
すらっとしてイケメンな男が叫んでいる。
「死ぬのはやめろ!」
男は再び叫んだ。なんなんだコイツは?
「一体お前は誰なんだ?別に人が死のうが生きようが勝手だろうが!」
「オレの名前は、水嶋ヒロ!お前が死ぬのを止めに来た!」
「ハァ?水嶋ヒロ?何様だよお前は!」
「オレはイケメンで高校サッカーで全国大会に行って
慶応ボーイで俳優として成功者で妻は歌手で金持ちで今度文壇デビューする。だから死ぬのはやめろ!」
サッカー?慶応?金持ち??こいつは、オレのifをすべて持っていた。
「お前にオレの何が分かるって言うんだよ・・・
お前みたいな挫折知らずのヤツに何が分かるって言うんだよ!!」
「(くっ、説得が通用しない・・・女ならすぐ言う事聞くのに・・・これだから男は・・・)
よく考えてみろ!成功しているか、成功していないか、そんな事は関係ない!
成功してようがいなかろうが、人は必ず死ぬ。絶対にだ!
なのにどうして死に急ぐ。きちんと生き抜いてから死ねばいいだろう!」
「うるせぇ!お前なんかの言う事なんか誰が聞くか!」
「よく聞いてくれ・・・誰だって死ぬのは怖い、オレだってお前だって。
現にお前の足は今震えているじゃないか!」
「!?こ、これは・・・」
「オレも死ぬのが怖いんだ・・・死ねばすべてを失ってしまう。
そう言う意味では、成功者の方が死ぬのは怖いはずだ。オレとお前は同じだ。
死の前では誰だって平等だ。だから、簡単に死ぬなんて言うな。命を無駄にするな。
命は、みな等しく輝いているはずだ!」
「・・・分かった」
「分かってくれたか」
「一つだけ要求がある。住める場所と、幾ばくかの金。これを準備しろ。
そしたら自殺は止めてやる」
「分かった。オレは金持ちだからそれぐらいは用意しよう」
水嶋ヒロと手をつなごうとしたその時だ。突風がオレを襲った。春一番だった。
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飛び降り、一名。死亡確認。
氏名臼場影郎、年齢26歳。
世に絶望しての自死と見られる。まるでKAGEROUのように儚い命だった、と記される。
おわり