きょうのコラム「時鐘」 2010年11月20日

 1860(万延元)年、勝海舟が艦長の咸臨丸で渡米した幕府の使節団には困ったことがあったという

食事の際に和服の袖が邪魔になったのである。テーブル上に腕を伸ばすと袖が垂れ下がってしまう。船上でも和服は風をはらんで不便だったと記録にある。が、帰国後わずか数年で筒袖(つつそで)・股引(ももひき)と呼ばれた洋装軍服が生まれた

それから150年、咸臨丸が入港したサンフランシスコで日米交流事業が計画され「日本祭いしかわ2010」には、石川県の芸術文化協会も参加する。8団体144人が日本祭のフィナーレを飾る予定である

和装文化協会の十二単(じゅうにひとえ)の着付け披露もある。「こんなたいそい民族衣装は世界中探してもない」と担当者が言うほどの古式和装だ。米国の人々も驚くに違いない。サムライを歓迎してくれた19世紀の人たちにも見せたかった「和」のたたずまいである

今回の文化使節は合唱、吟剣詩舞道、民謡、洋舞、リズムダンス、太鼓、生け花など多彩である。いつの時代も新しいものを積極的に受け入れる一方で、古式を守り通してきた日本文化の神髄を存分に伝えてきてほしい。