2010-11-19
■[読書]高橋伸夫『ダメになる会社』
高橋伸夫先生から、『ダメになる会社−企業はなぜ転落するのか?』をご恵投いただきました。ありがとうございます。
- 作者: 高橋伸夫
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2010/11/10
- メディア: 新書
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前著『組織力』に続くちくま新書で、一般書の執筆に力を入れておられるようです。前著が「組織」だったのに対して、この本はずばり「経営者」の本という印象です。高橋先生の本の例にもれず、この本も興味深い事例が満載のようで、楽しみに勉強したいと思います。
- 作者: 高橋伸夫
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2010/05/08
- メディア: 単行本
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書評はこちらです。
2010-11-18
■[採用・就職]就活短縮、大学「賛成」学生「不安」
日本貿易会が採用活動の「適正化」を求めている件についてはこのブログでも以前に取り上げましたが、同会はきのう経団連に提言する見直し案を記者発表したそうです。今朝の日経から。
…貿易会の案では、現在大学3年生の10月に始めている会社説明会など広報活動を翌年の2〜3月に、大学4年生の4月ごろ始める採用試験も同8月以降に遅らせる。学生の就職活動期間を短くすることで、年々減っている海外留学生の増加や、学業に専念できる環境を整備する狙いがある。
企業の採用活動の指針となっている経団連の「倫理憲章」を見直すことで、経済界の足並みがそろうよう働きかける。経団連は「今後どういう仕組みでやっていくのか議論していく」(幹部)と話すが実現は微妙だ。
商社と並ぶ人気業種である銀行界は、採用活動の開始時期見直し案について様子見の姿勢だ。…大学3年の早い時期に内々定を出す外資系金融機関など、外資系企業は倫理憲章の対象外。…貿易会は経済界全体の賛同が得られない場合は導入を見合わせる方針だ。
貿易会はまた、卒業後3年以内で就職していない人材も新卒枠として採用対象とすることも決めた。対象を広げ幅広い人材を確保する狙い。既卒者の就職浪人が減る一方で、新卒者の採用枠が減る側面もあり、今後も議論となりそうだ。
(平成22年11月17日付日本経済新聞朝刊から)
これについては過去のエントリ(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20100924#p2)で書きましたが、採用力の強い大手が多数同調することで効果が大きくなることは間違いなさそうなので、経団連に要請するというのはたしかに合理的ではあります。ただまあ、歯切れが悪くないかといえばそうでもなく、総合商社は経団連各社の中でも最強レベルの採用力を有していますので、ヨソがどうあれ自分たちはやるんだという意気込みを見せてもよろしいのではないかとも思うわけです。経団連(に限りませんが)各社が4月、5月に先行して内定を出した学生さんたちを総合商社が8月に集めて選考し、内定した人には他社の内定を辞退させますよ、それでもいいですね、と(言葉は悪いですが)開き直ってみてもいいのではないかと。それで仮にある年次の採用が不十分な結果に終わっても、総合商社は中途採用市場での採用力も強力でしょうから、経営に即座に大きな影響はないでしょう。まあ、さすがに踏み切って一年でやめるわけにもいかないでしょうから、やはり怖いことは怖いのか…。
また、総合商社さんの思惑として、学生さんには大学4年夏までは勉強に集中してほしい、できれば海外留学とかしてほしい、というのがあるらしいので、となると他社が早期から採用活動を行うと海外留学ができなくなってしまうから困る、というのはあるかもしれません。もちろん海外留学経験者優遇、というメッセージを出して募集すれば、それをめざして海外留学する学生は出てくるでしょう。とはいえ、経験者は必ず採用しますとかいう約束は当然できないに決まっていますので、となると学生さんとしてみれば商社に就職するつもりで海外留学したものの不合格でした、となった段階で他社の採用は大方終わってましたということになりかねず、さすがにそんな冒険はできないという学生さんが多いかもしれません。ただ、この理屈では別にわが社は海外留学の経験なんて求めないよ、という企業を説得することは困難で、それほど海外留学経験者が必要なら採用してから留学させたら、という話になるでしょう。実際、そうしている企業も多いわけですし。
さてそれはそれとして、この記事で面白かったのは大学と学生さんの反応です。
「大賛成だ」。日本貿易会が採用開始時期を遅らせる提言を決めたことに対し、大学の就職担当者からは歓迎の声があがった。就職難への不安から、学生が学業よりも就職活動を優先する傾向を強めているからだ。見直しが実現すれば、今より学業に身が入るとの意見が大勢を占める。
来春卒業予定の大学生の就職内定率(10月1日時点)は過去最低の57.6%。「就職氷河期の再来」といわれるなかで、大学生からは「今の方が就活にじっくり取り組めるので変えてほしくない」「選考期間が短縮されると就職のチャンスが少なくなるのでは」と不安視する声も出ている。
(平成22年11月17日付日本経済新聞朝刊から)
大学が「大賛成」というのはよくわかる話で、今時分だと大学の就職部・キャリアセンターなどは内定の得られない4年生と就活をスタートさせた3年生の指導に忙殺されているはずで、とりわけ就職情勢の厳しい昨今、そのご苦労は想像に余りあります。3年の春休みから初めて4年の正月までには終わるくらいの年単位の業務になれば負担も相当軽減されるでしょう。
いっぽうで、学生さんたちの不安の声も切実なように思われます。現状では外資系などが3年生のうちに内定を出し、経団連各社など大手は4年生の4〜5月までにほぼ大方の選考を終わり、中堅各社中心にシフトしていく…というスケジュール感になっているわけですが、経団連各社が選考を開始した4月から6か月経過した10月1日時点での内定率は記事にもあるように57.6%にとどまっています。それでもまあ残り6か月ありますので、方針・志望を見直しながら就活を続けるなり、留年・進学して就職情勢の改善を待つなり、大変ではありますがまだまだ取り組む時間はあります。
これが8月開始となると、まあ9月中旬くらいには大手があらかた終わってそこから中堅メインに移り、もちろん現状よりペースは上がるのでしょうが、仮に同一ペースで進むとすると2月1日時点でこの数字にとどまるということになります。学生さんが不安に感じるのも当然と申せましょう。
となると、現実問題としては、多くの大学では学生さんに対して「大手はあきらめて、8月から中堅を回らないと卒業までに内定決まらないよ」という指導をせざるを得なくなってくるのではないでしょうか(特に現在のような就職情勢が厳しい時期には)。しかし、学生さんやご両親などが大手就職を希望するのも無理からぬ話でしょう。そこで内定を得られないまま卒業した既卒者も3年までは新卒扱い、という話になるのでしょうが、しかし記事にもあるように「既卒者の就職浪人が減る一方で、新卒者の採用枠が減る」わけです。これに関しても過去のエントリで書いてきました(直近ではhttp://d.hatena.ne.jp/roumuya/20101115#p1)ので繰り返しませんが、あまり大きな効果が期待できるものではなさそうです。
たしかに現状の採用・就職活動は大学・学生・企業のそれぞれにとってさまざまな問題があります。貿易会のいう「3年春休みに企業研究・4年夏休みに就活」というのはきれいな絵であって一つの目指すべき姿かなとも思うわけで、これまた過去書いてきたように一度見直してみる時期ではないかとも思います。いっぽう、大学も学生も企業も多様ですし、それぞれさまざまな影響があるでしょうから、十分な検討の上にそれなりに歩調を合わせ、状況に応じて柔軟に見直しつつ取り組むことが必要と思われます。
2010-11-17
■[人事管理]尖閣ビデオ流出の海上保安官に行政処分を検討
いわゆる「尖閣ビデオ流出事件」で、投稿した海上保安官に対する行政処分が検討されていると報じられていました。読売オンラインから。
政府は16日、尖閣諸島沖の中国漁船衝突の映像を動画投稿サイトに投稿した神戸海上保安部の海上保安官の逮捕が見送られたことを踏まえ、刑事処分とは別に、行政処分を行う方向で検討に入った。
具体的な行政処分としては、国家公務員法に基づく「免職」「停職」「減給」「戒告」の懲戒処分が検討されている。
政府は「今回の事態を許せば公務員の綱紀が緩み、政権の土台まで揺るがしかねない」と警戒している。
海上保安官の逮捕見送りに関しては、仙谷官房長官が16日の記者会見で「捜査機関の一員が捜査関係書類を流出させるというのは驚天動地で、考えられもしない事態だ」と批判し、海上保安官の行為は正当化できないとの認識を強調した。
玄葉国家戦略相も同日の記者会見で、「武器を持つ組織の規律の乱れを重大視しなければ、世の中の秩序が成り立たない。適切な行政処分は科されるだろう」と語り、行政処分の確実な実施を求めた。
(2010年11月17日08時45分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20101116-OYT1T00865.htm
世間ではこの海上保安官を国家公務員法違反(守秘義務違反)に問えるかどうかが注目されていて諸説あるようですが、組織内部での処分をどうするかは、立件されるかとか、有罪判決が確定するかとかいったこととはまた別の問題で、立件されなかったから内部処分も当然になくなるとかいった性質のものではないのではないかと思います。刑事罰に問うには厳格な要件が必要でも、それに較べて程度の軽い内部処分であれば要件もおのずと緩やかなものになるだろうと考えられるからです。
- ただ、これは公務員の世界の話なので、こうした民間企業の理屈で議論できるものかどうかは私にはよくわかりませんので為念あらかじめお詫びのうえおことわり申し上げます。ご存知の方、ご教示いただければ幸甚です。
ということで、確かに海保の情報管理などもかなりずさんなもので問題なしとはしませんし、刑事罰に問えるほどに「実質的な秘密として保護に値する」ものとはいえないという意見も有力らしいのですが、しかし投稿した時点では海保としてこの情報を秘密として取り扱うということは決定され周知されていたわけですから、それを公開したことは服務規律上は大問題といえましょう。
- というか、これまた海保がどうかは私は知りませんが、私物のUSBメモリで情報を持ち出す、あるいは私物のUSBメモリを接続すること自体を(winny+ウィルスなどによる意図せざる流出を避けるなどのために)禁止している例も多いのではないかと思います。もちろんこれに対する処分は情報を漏洩した場合に較べて軽くなる傾向はあるでしょうが。
これは公務員の世界の話で、私は公務員のことはよく知らないのですが、民間企業では機密漏洩に対しては懲戒解雇などの厳罰で臨むという規定を持ち、実際にもそのように運用する例が多いのではないかと思います。機密漏洩はそれ自体経営に甚大な打撃を与えかねませんし、私のような人事屋からみれば、そのような方法で利益を得ることは他のまじめに勤務する従業員に対する裏切りであって許しがたいとの思いもあります。政府の方々は、記事を読むとそれ以前に恨み骨髄という感じが行間から漂っていますね。
もっとも、それではこのケースが民間で起きれば懲戒解雇か、と言われると微妙な感もあり、たぶん海保の当局も判断に苦慮していることと思われます。
まあ結果の重大さについてはこれだけ騒ぎが大きくなったわけですから、海上保安庁としては「たいした影響はなかったから見逃して」と言われてもそうはいかないでしょう。本人もそうは言っていないでしょうし。
で、本人は動機が正当だから責められるべきではないと主張しているという話もあるらしいのですが(ちょっと探した限りではソースがみつかりませんでしたが)、さすがに公益通報にはあたらないでしょうし、動機の正当性を主張するのにユーチューブへの投稿っていう方法はどうなのかいやこれは偏見なのかなどとも思わなくはありません。いやまあせめてマスコミに送るとか。いずれにしても動機が正当であれば非違行為も免罪されるべきという主張は西濃運輸の倉庫から他人の荷物を盗み出した環境団体メンバーの主張と同構造でそれほど尊重すべきものとも思えず、人事屋とすればまあ多少は酌量すべき情状にはなるかなという感じです。
ある時期までは誰でも見られたしみんな見てたから(表現はレトリックであり不正確です)秘密とは思わなかった、海保のずさんな情報管理にこそ責任がある、という主張もあるらしいのですが(これまたソースをあらためて探してはおりません)、これもまあ知らなかったではすまないよという話でもありそうですし、だからユーチューブに流してもいいかというとやはりかなり飛躍があるなあとも思うわけで、やはり考慮されるべき情状にとどまるというところでしょうか。
もっとも、仙谷長官が「捜査機関の一員が捜査関係書類を流出させるというのは驚天動地」というのもやや極端という感もあり、とりわけこのビデオが秘密扱いとなったのは捜査上の要請というよりは政治上の要請であったことは明らかなように思われるわけで、あなたがそれを言いますかあなたが、という印象は禁じ得ません。まあこれは居酒屋政談レベルの感想ですが。
ということで、個人的な意見としては、現に秘密を意図的に漏洩し重大な結果を招いているので、民間企業だったら懲戒解雇でいいか、まあ管理者側にも問題はあったので諭旨退職くらいにとどめるか、というところではないかと思います。まあ人事屋はだいたいこういう話には辛い傾向があるので、世間一般からみれば厳しいなと思われるかもしれません。加えて、情報管理が本当にずさんなものであったとすれば、そちらの責任者や担当者も相応に処分されてしかるべきでしょう。戒告などの懲戒とするのか、厳重注意などに止めるのかはこれまた事情と情状によるでしょうが、それなりのことはしないと均衡を欠くように思います。
ただ、このケースについては、政治的なものがかなり入りこんでいるわけで、政治犯(?)に厳罰はいかがなものかということで停職くらいにとどめるという判断もあるのかなあという気もします。これは本当に気がするという話で私にはこのあたりまったくわからないのではありますが。というか、免職にして世間の理解が得られるか、というのが海保当局としてはもっとも悩ましい部分なのかもしれません。
2010-11-16
2010-11-15
■[採用・就職]厚労省、卒後3年は新卒扱いを要請
「青少年の雇用機会の確保等に関して事業主が適切に対処するための指針」が改正され、本日公布・施行されたということで、厚生労働省からプレスリリースが出されています。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000wgq1.html
発表文中にも「今般の改正では、事業主は、学校等の新卒者の採用枠に学校等の卒業者が学校等の卒業後少なくとも3年間は応募できるようにすべきものとすること等を新たに盛り込みました」とあるように、「卒業後3年間は新卒扱い」が今回の眼目のようです。これは指針の「第二」にあって、具体的にはこのように改定されました。
第二 事業主は、青少年の募集及び採用に当たり、就業等を通じて培われた能力や経験について、過去の就業形態や離職状況、学校等の卒業時期等にとらわれることなく、人物本位による正当な評価を行うべく、次に掲げる措置を講ずるように努めること。
二 意欲や能力を有する青少年に応募の機会を広く提供する観点から、学校等の卒業者についても、学校等の新規卒業予定者の採用枠に応募できるような募集条件を設定すること。当該条件の設定に当たっては、学校等の卒業者が学校等の卒業後少なくとも三年間は応募できるものとすること。また、学校等の新規卒業予定者等を募集するに当たっては、できる限り年齢の上限を設けないようにするとともに、上限を設ける場合には、青少年が広く応募することができるよう検討すること。
太字がこの部分で今回追加された箇所ですが、下のリンク先にある概要資料をみると、前段の「、学校等の卒業時期」がすっとばされていて、いかに「3年」に重きをおいているかがうかがわれます。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000wgq1-img/2r9852000000wgtx.pdf
さて、指針は改正前にすでに「学校等の卒業者についても、学校等の新規卒業予定者の採用枠に応募できるような募集条件を設定すること」と、既卒者の新卒枠での採用を求めていました。実態としても、経団連の「新卒採用(2010年3月卒業者)に関するアンケート調査」をみると4割近くがすでに既卒者の応募を受け付けており、うち4分の3は「新卒採用と同様の扱い」としています。新卒と同じ選考プロセスに乗せているのか、第二新卒として別プロセスで選考しているのかはわかりませんが、いずれにしても内部育成を前提とした未熟練者の採用ではあるということでしょう。
そうした実態がある中で、今回の改正で具体的に「少なくとも3年」を求めたことになります。すでに既卒者の応募を受け付けている企業において、卒後1年、あるいは卒後2年までに募集を限定している企業がどの程度あるのかわかりませんが、まあ常識的に考えて卒後3年くらいまでは受け付けている企業のほうが多いのではないでしょうか(根拠はないので私の山勘ですが)。であれば今回の改正は企業実務にはそれほど大きな影響はないはずで、むしろ既卒者の募集を受け付けていない企業、わが社は新卒で十分に人材確保できてますという企業にいかに既卒者への門戸を開かせるかが重要ということになりましょう。
また、これで就職状況がどれほど改善するかといえば、過去のエントリでも書いたようにこれで採用数が増えるわけではないのであって、仮に既卒者の就職が増えるとすれば、その分は新卒見込者の就職が減るということになるでしょう。ということで、毎度書いていることではありますが、経済が活性化し、企業活動が活発になって、労働力需要が高まって採用数が増えてはじめて就職状況も改善するわけで、「卒後3年間は新卒扱い」のような需給の改善をともなわない施策の効果は限られてこざるを得ないでしょう。
加えて、これも過去書きましたが、企業としては優れた人材ほど早く就職が決まる傾向があるだろうと考えるでしょうし、となると卒後年数が経過すればするほど優れた人材は乏しくなるだろうとも考えるでしょう。であれば、既卒者の新卒扱いを求めてもその効果はあまり大きくないでしょうし、そういう意味で3年というのが手頃な期間と判断されたのかもしれません。
発表文には「いったん卒業すると新卒枠への応募機会が極めて限定される」という一節があり、たしかに前述した「わが社は新卒で充足できるから」という企業に門戸を開かせることが重要ですが、これも結局は「新卒で充足できないくらいの需要がある」という状況をつくることが効果的だろうと思われます。小手先で労働市場をいじるのではなく、需給を改善するための適切な金融・経済政策こそが望まれるのではないでしょうか。
2010-11-12
■[人事管理]「ヨドバシカメラ」フォロー
ヨドバシカメラの採用担当者のブログを取り上げた11月1日のエントリ(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20101101#p1)に対していくつか反応をいただきましたので、フォローのエントリを書きたいと思います。
まずid:yoseさんからいただいたブックマークコメントです。
yose 労働 引用元のロジックは少々拙い(特に、ご指摘の通り「ライフワーク」の意味を取り違えているところなんか)とは思うが、そこまでブラックさを想起させる文章だろうか?ちょっと労務屋さん愛のムチ強すぎかも。 2010/11/10
yoseさんありがとうございます。まあたしかに「素人さんは叩かない」という方針に照らしてあの書き方はどうかなあとは思ったのですが、企業サイトに準じる場所で実名・職名を示して書かれたものにもかかわらずあの内容、ということでついつい(笑)。
さて、本文でも書きましたし、コメント欄でもコメントいただいていますが、ご本人の熱い想いを個人的に表明されるのは私も自由だと思います。仕事に人生を捧げるという生き方も、それはそれで立派なものとなりうるとも思います。また、ヨドバシカメラが本当にそういう人ばかりを求めているのであれば、そのように表明することはむしろ必要なことだろうと思います。ただ、それは人事管理としてはうまく行かないだろう、本文にも書いたように一部の人に対しては「いやでも全身全霊をかけて打ち込んで苦労もしたけど輝く思い出ができたからそれでいいじゃん」で済ませざるを得なくなるだろうと私は思いますので、そうなるとそれはブラック企業だよねと申し上げたわけです。
一方で、現実のヨドバシカメラは実際にはそういう会社ではないと思われるわけで、yoseさんのような人事のベテランがあの文章を読めば「仕事をライフワークにするような人は一定数必要だが、十分採れていないから、そういう人の応募を促す文章」という受け止めになるわけです。私も、それ自体は採用業務の作戦として「あり」だと思います。
ただ、それにしても人事担当者、採用担当者がそれをああいう言い方、職業をライフワークにすべきとかライフワークとワークライフバランスは対極とか言った言い方で言うのはまずかろうと思います。これは採用の作戦としても(人事管理のことをよく知らない)学生さんにブラックな印象を与えてどうかと思いますし、それ以前の問題として、そもそも人事屋の理念としてもいかがなものかと思ったわけです。本文にも書いたように世の中の企業や人事担当者が全部そんなもんだと思われたら困ります(yoseさんも自分もそうだと思われたら困りますよね?)し、社名を背負って公開の場で書く文章はもう少し慎重であってほしいとの思いもあり、いささか辛辣な書き方になってしまいました。
さてもうひとつは匿名(捨てハン)の方からいただいたご質問で、「ニートの海外就職日記」というアルファなブログで同じ話題が取り上げられているとご紹介いただきました。件の記事は下のリンク先をどうぞ。
http://kusoshigoto.blog121.fc2.com/blog-entry-364.html
これまた例によって私の勤務先を引き合いに出して揶揄されていますので全文は示しませんが、
…貴殿が以前disってた「ニートの海外就職日記」さんが全く同じことを書いていますよ。貴殿流に言えば「かなり異なる表現」wwでね。今回は飽きずに読めたよ、ほめてやるよwwそれともモノマネ???…
ということでご質問は「モノマネ???」ということなのですが、たしかにライフワークやワークライフバランスの意味わかってる?という論旨は共通していますが、それ以外のところはだいぶ異なっていますので、まあオリジナリティは主張できると思いますが。「ニートの…」氏はどちらかというと(一般的な)ワークライフバランスのとれた人生のほうが仕事漬けの人生よりずっといいよ、一度そういう人生経験してから言ったらどうですか、ということを強調しておられるようですね。
これで一応形式的にはご質問にお応えしていると思いますが、少し感想を書きますと、私自身は実際の体験などを通じて自分にとって適度なワークライフバランスがあり、それに近い状態で幸福を感じるわけで、それは仕事漬け状態からは程遠いものです。ここまではたぶん「ニートの…」氏と共通でしょう。
ただ、私は繰り返し書いているように、私のそうした価値観を他人も共有すべきだとは思っていません(いや共有してもらえればうれしいですが)し、仕事をライフワークにして仕事漬けになるのも立派な生き方になりうると考えています。「ニートの…」の過去エントリを読んだわけではないので確たることはいえませんが、「ニートの…」氏はどうも仕事漬けのワークライフバランスを一律に「社畜」などと称して否定しているようなので、その部分では明らかに異なっていると思います。もちろん個人の意見として表明されるのはもとより自由ですし、個人の意見として尊重しますが。
2010-11-11
■[行政]「今後の高年齢者雇用に関する研究会」スタート
先週金曜日、厚生労働省の「今後の高年齢者雇用に関する研究会」の初回会合が開催されました。雇用戦略対話の政労使合意に「公的年金支給開始年齢(報酬比例部分)の65歳への引上げが開始される平成25年度に向けて、65歳まで希望者全員の雇用が確保されるよう、施策の在り方について検討を行う。」とありますので、その「検討」がスタートしたということのようです。
厚労省のウェブサイトに設置要綱が掲載されています(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000w15e-att/2r9852000000w18m.pdf)。
1.目的
急速に少子高齢化が進展し、公的年金支給開始年齢(報酬比例部分)の65歳への引上げが開始される平成25年度を目前に控え、意欲と能力のある高年齢者が、長年培った知識や経験を活かして働くことができ、生活の安定を図ることができる社会を実現する必要がある。
このため、平成16年の法改正の施行状況も踏まえ、今後の高年齢者の雇用・就業機会の確保のための総合的な対策を検討することを目的として、学識経験者の参集を求め、「今後の高年齢者雇用に関する研究会」を開催する。
2.検討事項
研究会においては次に掲げる事項を中心として調査・検討を行う。
(1) 希望者全員の65歳までの雇用確保策
(2) 年齢に関わりなく働ける環境の整備
事務局が作成した「議事のためのメモ」も公開されており(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000w15e-att/2r9852000000w19d.pdf)、今後これらの項目が検討されるのでしょう。
<検討すべきポイント(案)>
○希望者全員の65歳までの雇用確保措置の在り方
・定年制
・継続雇用制度
・高年齢者雇用確保措置の実効性確保のための方策
○年齢に関わりなく働ける環境の整備
・年齢差別の禁止
・高年齢者の雇用促進策
・多様な就業機会の確保策
・70歳まで働ける環境の整備策
個別の論点については議論の進行を見ながらここでも追い追いコメントしていきたいと思いますが、今回いちいち目的や検討事項を引用したのは、参集者名簿(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000w15e-att/2r9852000000w16v.pdf)をみて微かに気になることがあったからです。
岩村正彦 東京大学法学部教授
小畑史子 京都大学大学院地球環境学堂准教授
権丈英子 亜細亜大学経済学部准教授
駒村康平 慶應義塾大学経済学部教授
清家篤 慶應義塾長
藤村博之 法政大学キャリアセンター長
もちろん業績も見識もすばらしい当代一流の研究者揃いですし、清家先生の座長も衆目が一致するところでしょうが、何を気にしているかというと権丈先生、駒村先生と社会保障の専門家が2人も参加しているところです。もちろんお2人とも労働問題への造詣も深いですし、高齢者雇用政策と社会保障とは密接に関連するわけですが、しかしこの手厚い布陣を見ると背後に年金支給開始年齢をさらに引き上げたいという財政的要請が見え隠れするような気もするわけで、まあ心配しすぎなのだろうとは思うわけですが…。本年度末にはとりまとめが行われるということなので、経過を注目したいと思います。
2010-11-10
■[人事管理]日航、整理解雇を視野に
本日の日経から。日航の希望退職が計画に届かず、ついに整理解雇に向けての最終調整に入ったそうです。
会社更生手続き中の日本航空が9日、整理解雇を実施する方向で最終調整に入った。日航はパイロットと客室乗務員を対象に同日、希望退職の最終募集を締め切ったが、270人の削減目標に対して100人以上が不足していた。これを受けて週内にも正式決定する見通しだが、労組側の反発は必至だ。
整理解雇は、経営難に陥った企業が従業員との労働契約を解除する措置。実施するためには「人員削減が必要か」「回避する努力はしたか」など4つの要件を満たす必要がある。
希望退職の最終募集の削減目標はパイロットが130人、客室乗務員が140人。これに対し、パイロットが100人程度、客室乗務員が数十人不足しているとみられる。
日航は東京地裁に提出した更生計画案の中で、グループ全体で約1万6000人を削減する方針を決定。このうち本体では1500人を削減する目標を掲げ、9月3日から希望退職を募集した。関係者によると10月26日までに1520人の応募があったが、パイロットと客室乗務員が目標に足りていないとして最終募集を実施。26日以降は客室乗務員の対象年齢を引き下げるなどして目標数の確保を目指してきた。
日航と管財人である企業再生支援機構はこれまで「未達の場合は整理解雇を覚悟する」(支援機構の瀬戸英雄・企業再生支援委員長)との姿勢を示してきた。日航は今後、労使協議などで対応を慎重に検討するが、整理解雇は避けられない見通しだ。
いま簡単に調べただけでははっきりした情報が見当たらなかったのですが、うろ覚えの記憶ではたしか日航の希望退職の割増退職金は6か月という報道があり、少ないなあと感じた覚えがあります。元が高いので6か月でもまとまった金額にはなるのでしょうが、かつての電機各社の希望退職では36ヶ月とか48ヶ月とかいう数字でしたから、ずいぶん少ない印象です。まあ、日航の場合はすでに会社更生法が適用されているわけで、当時の電機各社に較べても格段に状況は深刻ですし、あまりに高額な割増退職金は世論の反発を招くとの配慮もあったのでしょうか。
それにもかかわらず、途中経過では予定を上回る募集があり、運行のために退職時期の延期を求めるという状況もあって、これも少し意外というか、再建を疑問視する人が多いのかなあなどと思っていたわけですが、最終的には必ずしも十分でない結果に終わったようです。
整理解雇の4要件(要素)にあてはめて考えると、経営上の高度の必要性はまず問題ないと思われ、ここまで希望退職をやっているところをみれば回避措置も問題ないところまでやられているものと推測されます。人選の合理性についてはまだわかりません。労組との協議などの手続については、労組は当然反発するでしょうから、ここは時間をかけて協議の実績をつくるしかないでしょう。整理解雇である以上は割増退職金などの優遇措置はないのが筋であり、そうしなければ希望退職に応じた人に対して義理を欠くことにもなりますが、しかし協議の過程ではまったくなにもなしではなく、多少の(希望退職よりは低い水準の)金銭は出すということになるのかもしれません。労組の側も、法廷闘争を覚悟して絶対反対のまま整理解雇に踏み切らせるという作戦に出る可能性がかなりありそうに思えます。争いになれば、おそらくは人選の合理性のところが最大の争点になるでしょうから、日航としてもここは相当慎重に、合理性に疑いのない人選基準をとるのではないでしょうか。となると、裁判所は解雇有効と判断する可能性が高いものと思われるわけですが、どんなものなのでしょうか。
いずれにしても、「日本では整理解雇は不可能」とか言っている人たちには、この現実をよく見てほしいものです。まあこれは余談ですが。
2010-11-09
■[政策]派遣労働者の嘆き
派遣業界専門の人材紹介会社「人材ビジネスフォーラム」社長の東田康之氏が書いておられるブログ「派遣業界 今日も晴れ?」(http://jinzaibf.cocolog-nifty.com/blog/)に、コメント欄を利用した「「適正化プラン」の情報交換掲示板」が開設されています(http://jinzaibf.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/post-568e.html#comments)。
派遣業者の憤慨が多いのですが、適正化プランで現実に不利益を被っている派遣労働者の嘆き節も投稿されていますので、備忘的に転記しておきます。
派遣社員8年目、8年間同じ派遣会社から同じ派遣先に派遣されています。
プロジェクト付きなので、1度プロジェクトは変更していますが職種もほぼ同一で、昨今の派遣法改正問題で、自由化業務となる可能性があり来年から直接雇用の嘱託に変更することになりました。
直接雇用になってしまうのは、正直迷惑です。
8年同じ派遣会社にいたということは、年間の有給が20日あります。
前年の繰越とあわせると20日以上あります。
また、派遣とはいえ時給が非常に高かった(1900円弱)ので待遇に不満はありませんでした。
ところが、急に現在の職種は嘱託にすると言われ派遣のまま働くという選択肢は残されませんでした。
派遣先のコンプライアンスのためということです。
嘱託になると、最長で3年度しか勤務できないという制約があります。
給与は月給になりますが、20万程度なので収入も下がります。
ささやかな賞与がでますが、それを合わせても年収では派遣の方が高いです。
今までの有給はすべてなくなり、半年間は有給なしで初年度10日と通常の条件になり、派遣で勤務してきた内容を加味されないのも不満です。
残業代も派遣の時は5分単位でしたが、嘱託は30分単位です。
ただでさえ、月給が低いのに残業代の計算も条件が悪くなります。
唯一のメリットは、大手なので派遣先独自の健保組合があり保険料の事業主負担率が高いので、同じ標準報酬で考えると保険料の支出が少し減るという点くらいです。
プロジェクト付きなので、派遣でもプロジェクトが終われば業務は終了ですが同じ仕事で待遇がわるくなるのはモチベーションが下がります。
確かに、派遣だとプロジェクト終了時に契約が終わっても失業保険をもらうのにいくつかクリアすべき条件があるので、失業保険のことを考えれば直接雇用で契約満了になったほうが、待機せずに保険料をもらえるなども考えられますが、なんだか腑に落ちません。
あと2ヶ月で20日以上ある有給を使いきれるわけも無く、派遣で同じ条件で業務ができるなら、同じ派遣会社から別の派遣元へ行きたいと思っていますが、業務内容にしても、時給や勤務時間等にしてもすぐに同じものが見つかるわけもないので、とりあえずモチベーションを下げて直接雇用されようかと思っています。
やる気はまったくおきませんが。
投稿: 不満 | 2010年11月 8日 (月) 12時59分
http://jinzaibf.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/post-568e.html#comments
私は、「適正化プラン」により失職を余儀なくされた派遣スタッフの一人です。
派遣歴は長く、今まで様々な業種で正社員と同等の仕事をしてきました。その場しのぎで派遣をやってきたのではなく、自分なりのキャリアビジョンに基づく働き方でした。
さて、事務系の業務では仕事を遂行する時様々な付随業務がごく自然に発生しますので、当たり前としてこなしてきました。契約は5号・8号に当たります。「派遣だからこれ以上しなくて良い」と思った事は一度もありません。むしろ業務フローの改善も意識してきたので、業務作業を追加させてもらった事もあります。派遣先企業の取引先には自分の雇用形態は関係ないからです。
そんな意識で取り組んだのが仇となったようで歯がゆいです。
自由化業務の契約だと長くても3年しか働けません。これではモチベーションが下がるのは当然です。仕事のプロとして責任感が高いスタッフほど損をするのではないでしょうか。
適正化プランを撤回することは不可能でしょうが、せめて「同一業務で3年」ルールが業務ベースではなく、人(派遣スタッフ)ベースになるよう、積極的な働きかけを期待します。
投稿: ビクトリア | 2010年11月 9日 (火) 09時47分
http://jinzaibf.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/post-568e.html#comments
別の日のエントリには、こんなコメントもあります。
今回の通達により解雇されました。
私も含めて5人以上は解雇されてるはずです。
ちなみに、派遣先も派遣会社もコンプライアンスに
敏感な誰もが知ってる大きい企業です。
派遣先も派遣会社も平謝りってかんじで、
怒りをどこに持っていけばいいのだろう?と
思っていました。
ほんと、何もわかってない人が決めたってかんじですよね。
投稿: まりすけ | 2010年9月11日 (土) 20時37分
まりすけさんへ
それは大変なことで、、、。返す言葉もありません。
ちなみにどんな職種で働いておられたのですか?
投稿: ブログ主の東田 | 2010年9月11日 (土) 21時43分
主にスキャン業務です。
書類をチェックして、それをスキャンして
自社ソフトに登録するような仕事です。
直接雇用でのバイトの提案もありましたが
かなり時給が下がったので、お断りしました。
でも、この不景気の中、その判断が正しかったのか
わかりません。
投稿: まりすけ | 2010年9月12日 (日) 15時23分
まりすけさんへ
一番重要なことですが、この仕事は契約書ではなんという職種名でしたか?
投稿: ブログ主の東田 | 2010年9月12日 (日) 17時52分
第5号業務に該当
OA機器操作(EX/WO/専用端末等)を伴う
文書管理業務、ファイリング業務付随業務として
各書類等の照査・確認、書類出力及びコピー等。
と書かれていますが、実際は専用端末しか
使ってませんでした。
http://jinzaibf.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/26-e53d.html#comments
これはまさに八代尚宏先生が喝破されたように「派遣労働者のための法律ではないということで宜しいか。」ということではないでしょうか。というか、今回の適正化プランのおかげでメリットのあった派遣労働者というのはどのくらいいるのでしょうか?正社員になれましたなんて人も口に出さないだけでいることはいるのでしょうし、雑用をやらなくてよくなったくらいのメリットを享受した人はそこそこいそうですが、しかしトータルすればデメリットのほうが大きいような気が…。
2010-11-08
■[政策]労働政策を考える(20)有期労働契約の入口規制
「賃金事情」2594号(10/5号)に寄稿したエッセイを転載します。
http://www.e-sanro.net/sri/books/chinginjijyou/a_contents/a_2010_10_05_H1_P3.pdf
この9月10日、厚生労働省の「有期労働契約研究会」の報告書が発表されました。この研究会は昨年(2009年)2月に設置され、18回にわたる会合が開かれたほか、独自の実態調査も行われています。今年の3月には、多岐にわたる論点を整理した中間報告がとりまとめられ、発表されました。
今回の最終報告では、中間報告からさらに踏み込んだ見直しの方向性が示されるかどうかが注目されましたが、結果としては諸外国の事例などの新しい内容がいくつか追加されるにとどまり、明確な方向性は示されませんでした。具体的な検討は、今後労使の参加する審議会の場に委ねられることになります。論点は多いのですが、主要なものとしては有期労働契約に正当な事由を求めるなどの「入口規制」、更新回数や利用可能期間の上限の設定、現在判例法理として成立している雇止め法理(解雇権濫用法理の類推適用)の明文化などの「出口規制」、そして正社員など期間の定めのない労働者とのバランスのとれた待遇を求める「均衡待遇」の三点があげられます。
この議論の難しさは、有期労働契約のあり方が、期間の定めのない雇用のあり方と密接に関連しており、その見直しが労働市場や企業の人事管理全般に対して影響を与える可能性があることでしょう。報告書にも「本研究会は、正社員に適用されるルールそのものを論ずる場ではないが、正社員に適用されるルールとの関係や正社員の在り方も含めた雇用システム全体への影響にも留意すべきである」との記述があります。
周知のとおり、わが国では正社員については長期雇用のもと、企業内のOJTを中心に長期間をかけて人材育成を行う人事管理が普及・定着しています。こうした慣行のもと、労使はともに正社員の解雇を極力回避するようになり、法制度上も解雇は規制されています。いっぽう、企業は景気変動などによる業務量の変化に適切に対応する必要があり、一部分は時間外労働などの増減で対応しますが、それで対応しきれない分については、契約期間満了で雇止めが可能な有期労働契約を活用することで対応することになります。こうして、従来から有期労働契約は長期雇用慣行の重要な一部となってきました。
バブル崩壊以降、企業組織の拡大が鈍化したことで、有期労働契約の役割は一段と大きくなりました。1995年に当時の日本経営者団体連盟(日経連)が発表した『新時代の「日本的経営」』は、新しい雇用慣行の考え方として、従業員を従来の正社員である「長期蓄積能力活用型」、高度な専門性のニーズに応える「高度専門能力活用型」、および「雇用柔軟型」などのタイプに分け、各企業が自らにとって最適な割合を実現しようという「自社型雇用ポートフォリオ」を提示しました。これは一部で誤解を受けているような「長期雇用を放棄した」ものではなく、むしろ「これまでに確立された長期継続雇用が崩壊する方向にあるとみる向きもあるが、それは正しい理解の仕方ではない」「それ(新しい雇用慣行)は長期継続雇用の重視を含んだ柔軟かつ多様な雇用管理制度」など、長期雇用を引き続き重視する姿勢を明示しています。ただし、それ以前のように企業組織が拡大するトレンドにある中では、一時的な人員過剰は相当部分が企業の成長によって吸収されてしまうことが期待できましたが、それが鈍化する中では、従来以上に有期労働契約の割合を高め、人員数を調整する余地をより多く確保することが必要になったわけです。
実際、2009年に発表されたリクルートワークス研究所の「雇用のあり方に関する研究会」の報告書をみると、5年毎に実施されている総務省の「就業構造基本調査」を特別集計した結果が示されています。2007年には「常用・非正規雇用」(雇用契約期間に定めがないもしくは雇用契約期間が1年以上の非正規社員)が21.7%、「臨時・非正規雇用」(雇用契約期間が1年未満(日雇を含む)の非正規雇用者)が10.9%となっていて、ほかに派遣労働者(これは派遣会社の正社員である派遣労働者も含みます)が3.0%となっています。20年前の1987年には、これが順に12.6、6.9、0.2%となっていて、増加したのはもっぱら常用・非正規、つまり報告書によれば「くりかえし労働契約が更新され、結果的に勤続年数が長期にわたる常用・非正規雇用者が増加した」ことがわかります。有期労働契約研究会の最終報告もこうした実態について「…約7割の事業所が雇止めを行ったことがないとしている。結果として、雇用する労働者について、平均の契約更新回数が11回以上とする事業所や平均の勤続年数が10年超とする事業所も1割程度見られるなど、一時的・臨時的ではない仕事についても有期労働契約の反復更新で対応している実態も見られる」と指摘しています。一時的ではなくより長期的な、「いざという時に」雇止めができるようにという趣旨で有期労働契約を利用する例が増えているわけで、そういう意味では2008年のリーマン・ショック後にその雇止めが多発したのも自然な成り行きだったといえましょう(契約期間中の解雇が発生したのは大きな問題でしたが)。
もっとも、それで本当に「いざという時に」雇止めが可能かというと必ずしもそうではなく、一定の有期労働契約については解雇権濫用法理を類推適用するという「雇止め法理」が存在します。報告書は「有期労働契約の不合理・不適正な利用を防止するとの視点を持ちつつ、雇用の安定、公正な待遇等を確保するためのルール等について検討すべき」としていますが、「雇止め法理」の存在は「一時的・臨時的ではない仕事についても有期労働契約の反復更新で対応している実態」についても、その一部については裁判所が「不合理・不適正な利用」と判断しているということになりましょう。
ここで、一時的・臨時的でない仕事を有期労働契約とすることはすべて不合理・不適正であり、業務量の変動に対応するために有期労働契約を活用することは認められないと考えるのであれば、そうした趣旨の厳格な入口規制を設けるのが適当ということになるでしょう。実際、そうした規制を行っている国もあるということです。しかし、先に書いたように、こうした規制を導入した場合、期間の定めのない労働契約にも影響を与えることには留意が必要です。企業はいずれにしても業務量の変動に対して適切な人員規模を実現する必要があるわけで、そのために有期労働契約を活用することが禁止されれば、別の方法、具体的には期間の定めのない契約の労働者を解雇するなどの対応を迫られるからです。わが国ではこうした経営上の事情による整理解雇にはかなり厳格な規制がされていますが、しかし不可能ではなく、強すぎる有期労働契約の入口規制は整理解雇の増加を招くことは確実と思われます。現実には、最終報告でも「締結事由に該当しない場合には、無期労働契約とみなすこととされているフランスなどの諸外国においては、無期労働契約の解雇について金銭解決が可能とされており」と述べているように、一定の法改正も必要となるでしょう。
これは雇用慣行や企業の人事管理にもかなり大きな影響を与えるものと思われ、仮に実施するとしてもその得失は十分に吟味されるべきでしょう。現実には諸外国でも入口規制がうまく機能せず、むしろその弊害が目立つということで、その規制緩和に踏み切る例があるようです。有期労働契約を主体的に選択する労働者も多いことを考えれば、多様化にも逆行する入口規制には慎重であるべきと思われます。
2010/11/19 から 2010/11/23まで、不在にしております。
<katsuhiko_ogino@mail.toyota.co.jp > is out of office from <2010/11/19>
through <2010/11/23>
まことに申し訳ありません。
お急ぎの場合は、お手数ですが(090)8323-7752にお電話いただくか、
nagoyakuma@ezweb.ne.jpに携帯メールをお送りください。
トヨタ自動車(株)人事部 荻野勝彦拝
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