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わかる?:鹿児島強殺死刑求刑 「有罪」「無罪」どう判断

 ◇立証支える指紋とDNAの一致

 ◇不自然な付着、捏造指摘--弁護側

 裁判員に示された選択肢は無罪と死刑だった。17日に結審した高齢夫婦強盗殺人事件を巡る鹿児島地裁の裁判員裁判。公判で一貫して無罪主張した白浜政広被告(71)に対し検察側は極刑を求めた。裁判員は裁判官とともに重い判断を委ねられた。【銭場裕司、川島紘一】

 刑事裁判で有罪を立証する責任は検察側にある。裁判員と裁判官は証拠を検討し、被告が罪を犯したことが間違いないと考える場合は有罪、疑問がある場合は無罪とする。

 検察側は、今回の裁判で、現場の状況や遺体の鑑定結果などから、「スコップで窓をたたき割って家の中に侵入し、たんすを物色したあと、被害者を殴り殺した」との「犯行状況」を浮かび上がらせた。ただし、自白や目撃者など被告と事件を直結する証拠はない。現場から見つかった指紋・掌紋と細胞片のDNA試料が白浜被告と一致したことが、検察側の有罪立証を支える生命線だ。

 検察側は白浜被告のものと一致した指紋・掌紋が、たんす内にあった封筒▽ガラス片▽たんす近くのチラシ--など計11点にのぼることを強調。採取方法に問題がないことも訴えた。DNA鑑定については鑑定担当者が「(一致するのは)地球上に被告1人しかいない」と言い切った。

 一方、弁護側は指紋が偽造、捏造(ねつぞう)された可能性を指摘。ガラス片の模型を使って指紋の付着状況が不自然であると強調。警察の指紋採取に用いる粘着シートを示し「採取したあと別の場所にはれば転写は可能」とも訴えた。

 DNAについては採取された試料886点のうち白浜被告と一致したのは1点しかなく、試料を使い切ったため再鑑定できない問題を証人に再三ただした。再鑑定が再審無罪を導いた足利事件など再鑑定の重要性が高まる時代の流れもあり、「信用性が高いだけに、より慎重な採取・保存過程が必要」と訴えた。

 こうした検察側と弁護側双方の主張を裁判員と裁判官がどう評価するかが、判決の行方を左右しそうだ。評議は非公開。全員一致を目指して議論が行われるが、意見がまとまらなければ、多数決になる場合もある。

 あるベテラン裁判官は「指紋で被告が被害者宅にいたと認定しても、『強盗目的』を認めるかどうかはもう一段高いハードルがある」と指摘する。現場には財布や現金が残されており、理論上は住居侵入や殺人だけが認定されることもありえる。評議の行方によっては死刑と無罪以外の判決が出る可能性もある。

 ◇「ぬれぎぬ着せられた」 廷内に白浜被告の声響く

 「犯行態様は残虐、結果も重大。死刑を回避すべき事情はなく、極刑をもって臨むしかない」。死刑求刑の瞬間、白浜政広被告は表情を崩さず検察官を正視し続け、裁判員は検察官と被告を交互に見やった。白浜被告は審理の最後、法廷中央で被害者への冥福の言葉を述べた後「私はぬれぎぬを着せられた。しかし真実は必ずや明らかにされる」と大きな声を廷内に響かせた。

 論告求刑に先立ち、殺害された蔵ノ下忠さん(当時91歳)と妻ハツエさん(同87歳)の遺族が意見を陳述。夫婦の三男は裁判員らを見据えて「遺族の苦しみを分かってほしい。死刑をちゅうちょする人もいるかもしれませんが、このような犯罪をなくし、遺族が心を静め、再スタートを切るには死刑にするしかありません」と訴えた。【村尾哲、遠山和宏】

 ◆専門家の意見は

 ◇職業裁判官でも難しい/強盗殺人の成立は疑問

 鹿児島地裁の裁判について3人の専門家に聞いた。

 4人が殺害された袴田事件の1審・静岡地裁で68年に死刑判決を出した裁判官の一人、熊本典道さん(73)は「職業裁判官でも判断は難しい」と話す。

 袴田事件は無罪主張の被告に対する死刑が確定(再審請求中)したが、熊本さんは07年「無罪と考えていたが2対1で負けた」とあえて評議の秘密を明かした。熊本さんは「裁判員は議論を尽くしたうえで意見を伝えるしかない」と語った。

 筑波大学名誉教授の土本武司さん(75)は死刑求刑を「強盗殺人罪で起訴しているなら当然」としながらも、強盗殺人罪の成立は疑問視する。指紋が採取されているが、現金が残っていたことから「もう少し(強盗着手の)実行行為に強い証拠がほしい。動機不明の殺人罪となっても仕方がない」と話した。

 自身も検察官時代、強盗殺人事件の被告に死刑を求刑した。土本さんは「裁判員制度で市民が死刑に直面することになった。可能な限り死刑の情報を知らせて国全体で死刑論議をすべきだ」と述べた。

 一方、作家の佐木隆三さんは「検察側は必要な立証をしたのではないか。弁護側は被告が全面否認しているのでこの主張になったのだろう」と、双方の主張に理解を示し「裁判員の方はとことん議論してほしい。疑問があればおくすることなく裁判官とも渡り合ってほしい」と話した。

毎日新聞 2010年11月18日 西部朝刊

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