捜査段階から無罪を主張してきた被告に、厳刑求刑が予想される裁判員裁判の論告求刑公判が17日、鹿児島地裁で始まった。被害者宅から見つかった指紋や掌紋などを根拠に「犯人は被告しかいない」と結論付けた検察側に対し、指紋が転写された可能性を指摘して争った弁護側。全面対決の構図に、判決言い渡しまで40日間という異例の日程が組まれたが、裁判員たちは心身両面で極度の負担を強いられることになりそうだ。【川島紘一、村尾哲】
午前10時35分、白浜政広被告(71)はこれまでと同じ紺色のスーツ姿で入廷した。平島正道裁判長に向かって一礼し、弁護人の横に静かに腰を下ろした。
検察側の論告求刑に先立ち、殺害された蔵ノ下忠さん(当時91歳)と妻ハツエさん(同87歳)の長女らが意見を陳述した。長女は「心静かな日々を過ごしていた2人が悲惨な殺され方をされ、かわいそうでならない。極刑で罪を償ってほしい」と語った。第1発見者の三男は「両親の死にざまがまだまぶたに焼き付いている。遺族の苦しみを分かってほしい」と述べ、裁判員らを見据えて「死刑をちゅうちょする人もいるかもしれませんが、このような犯罪をなくし、遺族が心を静め再スタートを切るには死刑にするしかありません」と強い口調で訴えた。
白浜被告は前を見据えながら時折目を閉じて聴き入った。
白浜被告は08年8月、約50年ぶりに鹿児島に帰郷した。12日に証人出廷した姉は「夫の介護や家事も手伝ってくれた。お年寄りを大事にする優しい性格」と思いやった。内装工事が得意で近所の家を工事した際には「びっくりするぐらい上手だった」と明かし、独立に向けた準備もしていたという。
男性4人、女性2人の裁判員は、2日の初公判以降、27人に及ぶ証人尋問を見つめてきた。尋問が予定を超えることも多く、平島裁判長が「裁判員の疲れもたまっている。聞く側にも配慮してください」と検察、弁護側に伝える場面も見られた。
結審後、裁判員たちは裁判官3人とともに評議を始める。評議では白浜被告がまず有罪か無罪かを判断したうえで有罪とした場合は量刑を決める予定だ。
毎日新聞 2010年11月17日 西部夕刊