プロの判断も揺れていた「少年と死刑」という難題に市民6人が対峙(たいじ)することになった。少年事件の裁判員裁判で初の死刑が求刑された19日の石巻3人殺傷事件の仙台地裁公判。検察側は「少年であることは意味を持たない」と重大事件を強調、弁護側は「更生可能性がないと安易に判断するのは避けるべきだ」と反論した。更生も重視するため量刑が難しい少年事件。法廷で少年を見つめてきた裁判員らの評議は25日夕の判決直前まで続く。
「死刑が相当と考えます」。午後4時20分、地裁102号法廷。午前中の被告人質問で「僕も被害者の立場なら、犯人に極刑を求めたと思う」と述べた元解体作業員の少年(19)は論告にじっと聴き入り、その瞬間も背筋を伸ばしたまま。男性裁判員は手元の資料から目を離し天井を見上げ、これから臨む評議の重さを思ったのか、ため息を漏らした。
その評議は何がポイントになるのか。
国学院大の沢登俊雄名誉教授(少年法)は、改悛(かいしゅん)と成育歴を挙げる。深く反省している様子が顕著だったり成育歴が極めて劣悪な場合、極刑回避に傾くという意味だ。「改悛の情が顕著かどうかは、実際に被告を見ている裁判員にしか分からない。裁判員が社会人としての経験からそう思えるかどうかがポイント」という。
神戸家裁で約6000人の少年審判を担当した元裁判官の井垣康弘弁護士は「非行をした子どもは原則として育て直すという普通の市民的な発想で考えてほしい」と話す。担当した少年たちと少年院で面会し、更生ぶりに驚かされたという。
一方、全国犯罪被害者の会(あすの会)幹事の高橋正人弁護士は裁判員に「自分が被害者遺族だったらという視点を持って考えてもらいたい」と望む。また死刑選択の基準「永山基準」について「職業裁判官が作った基準。市民の良識で考えるとどうなのか」と疑問を呈した。【高橋宗男、鈴木一也】
制度開始から1年以上なかった裁判員裁判での死刑求刑がこの1カ月で相次いだ。4例目の今回の少年を除き、昨夏の起訴から今秋の初公判まで1年以上かかった点が共通する。死刑もあり得る重大事件だけに、争点を絞り込む公判前整理手続きなどで検察・弁護側の「綱引き」が長引いたためと言えそうだ。
鹿児島地裁で無罪を主張している白浜政広被告(71)は捜査段階から否認を続け、同手続きは今年5~10月に計12回にも及んだ。初の死刑求刑を東京地裁で受けた林貢二受刑者(42)=無期懲役刑が確定=は同手続き中に精神鑑定を実施。判決は「うつ状態」と認め「極刑に値するほど悪質な(殺害)動機とは言えない」と極刑回避の一因となった。
初の死刑判決(16日、横浜地裁)を受けた池田容之被告(32)の場合、男性2人殺害の強盗殺人など全9罪もの捜査に時間を要した。09年8月にまず覚せい剤密輸事件で起訴されたが、今年3月まで追起訴が続いた。
今回の少年は2月に逮捕、仙台家裁の逆送決定を受け4月に起訴された。少年審判で争点整理が事実上進んでいたと言え、約半年で初公判を迎えていた。
毎日新聞 2010年11月19日 22時06分(最終更新 11月20日 0時11分)