石巻の３人殺傷：初公判　法廷、重苦しい雰囲気　主張の違い大きく　／宮城

　◇少年と検察側、主張の違い大きく
　石巻市で２月に起きた３人殺傷事件を審理する裁判員裁判の初公判が１５日、仙台地裁（鈴木信行裁判長）で始まった。殺人や殺人未遂、未成年者略取など五つの罪に問われた同市の元解体作業員の少年（１９）側と検察側の主張は、事件の計画性や更生可能性について大きく食い違い、裁判員に難しい判断を迫る内容となった。悲惨な事件現場を立証するための写真や凶器も次々と証拠提出され、法廷は終始、重苦しい雰囲気に包まれた。【須藤唯哉、比嘉洋】
　◆少年
　◇「殺害計画をして（被害者の）美沙さんの家に行ったわけではありません」
　髪を短く刈り上げ、黒のスーツに青いネクタイ姿で出廷した少年は、落ち着いた口調で起訴内容のうち事実として認められないとする点を列挙した。
　少年は元交際相手の女性の姉美沙さんと、女性の友人の大森実可子さんを殺意を持って牛刀で刺殺した殺人の起訴内容は認めた。だが、女性宅に押しかける前から強固な殺意を持っていたとの検察側の主張は否認した。
　また、「（女性の）足をわざと切りつけていません」と傷害の故意を否認。「無理やり連れていっていません」と未成年者略取の起訴内容も否認した。一方、検察側が血のついた凶器の牛刀の実物を示し、「これで刺したわけですね」と質問した際には、小さな声で「はい」と答えた。
　プライバシー保護を求めた弁護側の意向が一部認められ、少年は傍聴席に背を向けて着席。入退廷や審理中も常に刑務官４、５人がぐるりと取り囲んだ。
　◆検察
　◇「動機や経緯は身勝手で酌むべき事情はまったくない」
　検察側は初公判で血痕が残る事件現場や遺体の傷跡の写真を示し、少年の悪質性や残虐性を厳しく批判した。裁判員に配慮して一部の写真は白黒にした。
　冒頭陳述によると、少年は事件前日の２月９日夜に女性を連れ出そうとして女性宅に押し入った際、美沙さんと大森さんが警察官を呼び出したことに激怒。交際を邪魔しているとして美沙さんらに殺意を抱き、共謀したとされる東松島市の無職少年（１８）＝殺人ほう助罪などで起訴＝にホームセンターで牛刀を盗ませた。
　同１０日早朝に合鍵で女性宅に入り、美沙さんら５人が寝ている寝室に侵入。携帯電話で１１０番通報しようとした美沙さんの腹を刺し、恐怖で立ち上がれなかった大森さんには「おめえもだ」と怒鳴り、何回も腹を刺した。居合わせた美沙さんの友人男性も刺して重傷を負わせ、女性を無理やり連れ去った。
　検察側は「使いっ走り」として扱っていた無職少年に牛刀を握らせ、指紋を付けさせるなどして罪をかぶせようとした点について「卑劣」と指摘。事件当時は実母に対する傷害事件で保護観察中だったことなどから「もはや更生の可能性はない」と断じた。
　◆弁護側
　◇「瞬間的に殺意を抱いた」
　弁護側は女性宅に入る前には殺意はなかったと主張した。
　弁護側によると、少年は、美沙さんや大森さんが警察を呼ぶなどして女性と会うのを妨害してきたため、「脅してでも会わせてもらう」ための手段として牛刀を入手。１０日早朝も女性と２人きりで話し合うのが目的だったが、美沙さんが警察に電話したことに激高して殺意を抱いた。さらに美沙さんを刺したことで極度の興奮状態に陥り、大森さんに対しても殺意が生じた。
　事件の背景には、少年が両親の愛情を受けられず、暴力を間近に見て育った「生い立ちの不遇さ」があることも強調。「事件を深く反省しており、被害者に対する謝罪の気持ちを持っている」としたうえで、「自分の考えの間違いに気付き、専門家も少年の矯正可能性があるとしている」と主張し、刑事罰ではなく、保護処分にするよう訴えた。
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　■メモ
　◇石巻３人殺傷事件
　起訴状などによると、元交際相手の女性（１８）に復縁を迫っていた少年は（１）２月１０日午前６時４０分ごろ、石巻市清水町１の女性宅に牛刀（刃渡り約１８センチ）を持って押し入り２階寝室で、女性の姉・南部美沙さん（当時２０歳）、女性の友人・大森実可子さん（同１８歳）を刺殺＝殺人、銃刀法違反罪（２）居合わせた南部さんの友人男性（２０）も刺した＝殺人未遂罪（３）その後、女性を車に乗せ連れ去った＝未成年者略取罪（４）同４〜５日には鉄棒で全身を殴るなどして女性に重傷を負わせた＝傷害罪

１１月１６日朝刊

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