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[22834] マホウツカイノセカイに・・・(ファンタジー?)
Name: 叫芽◆8aff19b3 ID:f5e29a69
Date: 2010/11/19 18:59


ファンタジーにしてはリアリティは殆ど皆無といって良いです。
物語は短いです。一ページの分量も少ないです。三部構成ですが序文を除き全12話です。
更新のペースは不定期です。部と部の間では更新が空きます。
厨二成分がすごいことになっているかもしれない作品ですが、それでもよろしい方はどうぞ。
 


登場人物


ヒューイット・・・女。19歳。武器・ナイフ。魔法使い。王女。腐女子。うざい。本当にうざい。悪魔。

アルク   ・・・男。20歳。武器・剣。兵士。真面目。田舎者。お兄ちゃん。雑用担当。泣き虫。

オデット  ・・・女。14歳。武器・杖。泥棒魔法使い。スイーツ。変態。チート。近接もチート。

カレン   ・・・女。23歳。武器・銃。ガンマン。姉貴。第二部より登場。

ト―マック ・・・男。33歳。武器・拳。八極拳士。兄貴。第二部より登場。

モクシロ  ・・・男。??歳。武器・超能力。異世界人。第三部より登場。

レム    ・・・女。??歳。武器・???。???。第三部より登場。






[22834] 【第一部】 序
Name: 叫芽◆8aff19b3 ID:f5e29a69
Date: 2010/11/16 18:03
こちらの世界について少し述べる。
こちらの世界では『南』に人類が住んでおり『北』に魔物が住んでいる。
『南』は複数の国で構成されている。
その中で最も力のある国は『A国』であり、経済の主導権を持っているということで事実上、他の国を支配している。
現在人類間で戦争は無い。
『北』は一つの国で構成されている。
魔物、というものは、魔王を価値観の中心に置く種族である。
魔王が、魔物を生みだす唯一の存在であり、魔王を失えば、魔物は滅んでしまうからである。
魔物の食料は、人間のみである。

『南』の人類は、文明の初期段階では『勇者』というものを創り出し、それに魔王討伐に向かわせていた。
創っては返り討ち、創っては返り討ちの繰り返しだったので、後に人類は戦争という形で魔物と戦うようになった。
しかし、戦争で国の衰退を無視できなくなってしまったので(文明は発達したが)現在では生贄を捧げる、という形で魔物と付き合っている。
生贄は、国民に与える情報を制御する、という形で生産していった。
それは、全ての国で共通している。
生贄に選ばれるものは、専用の教育を受け、殆どのものは生贄であることに誇りを持つようになる。
ごく少数のイレギュラーに対しては、魔術により洗脳する。

こちらの世界では『魔法』『魔術』の類が存在する。
基本的には、無から有を生み出すことをそう定義している。
火を生みだしたり、水を生みだしたり、風を起こしたり、である。
異世界、異次元の類と交信することで、それらを無から生みだす。
こちらの世界の住人は異世界、異次元を『冥界』と呼んでいる。
つまり『魔法』は『冥界』から『盗む』のである。
『A国』の一部の者にしか使えない。

こちらの世界では『予言』というものが存在している。
『冥界』には、異世界の未来観測まで出来る『冥界』も存在する。
『予言』とは『その冥界』と交信することで、こちらの世界の未来を知る、という『魔法』の応用である。
一子相伝であるため、使える者は『A国』の王、王子、王女のみである。
『A国』の力は、それに由来している。
なお、この『予言』は『魔法』によって書き換えることが出来る。
『予言』はその世界の時空が安定している場合における帰納的推論である。
『魔法』はこちらの世界と『冥界』の時空を狂わせる技術だからである。
故に『予言』はころころ変わってしまうため、定期的に『予言者』は『冥界』と交信しなくてはならない。

現王女ヒューイットは知る。
四年後『冥界から来る』魔物によって世界は滅ぶ、ということを。

「―――ということで、私魔王殺しに行ってくるわ」

彼女は、兄にそのことを告げた。
なお彼女が殺す、と言っている対象はこちらの世界の魔王である。
彼女の兄は比較的、非人間的であるせいか、彼女の言葉に対し、頑張って、と返した。

「兄さんアンドロイドとか、そういう研究、確かしてたわよね?」

「バイオロイド?一応」

「私がこれから言うの、造っておいて。もちろん、学習能力高い奴」

「相応の報酬が貰えれば」

「『B国』の次の選挙の出来レースで、その儲けをそっくりそのままやるわ」






next→【その一】














[22834] その一
Name: 叫芽◆8aff19b3 ID:f5e29a69
Date: 2010/11/19 19:13

訓練場の更衣室から出てきたアルクは、王女ヒューイットを見て硬直した。
さらさらとなびく金色の髪、青く鋭い瞳、紛れも無い王女の姿が目の前にいた。
その数秒後、彼は悲鳴を上げようとした。
王女の姿は写真でしか見たことが無く、直接彼女を見たら眼を潰される、という教えもあったからである。
ヒューイットは声を出しかけた彼の口を手で押さえ、壁に押し付けた。
しかし、彼はますます混乱し、失神しかけていた。
その彼に対して、彼女は二回ほどビンタをした。

「ちょっといくらなんでも、それは無いでしょ?」

結局、彼は失神してしまい、倒れてしまった。

保健室のベッドにて彼は目を覚ました。
そばの椅子には王女が座っており、またも彼は叫ぼうとした。
その彼に対し、彼女は拳銃を向けた。

「喋ったら撃つよ。マジで。あと、私を見たら目が潰れるとか、そんなの無いから。結構ショックだったのよ?」

銃口を向けられ、彼は一瞬出しかけた声を止めた。

「ヒュ・・・ヒューイット様・・・これは・・・?」

「私がなんで一人でこんなところに、来れるって?ウフフ。仕方ないなぁ。
答えるとね、ここの兵士さんって、あーあなたはまだだけど、脳が機械なの。
だから、目を盗むことだって、私には簡単なのよ?」

彼は、彼女の言っていることが、まったく理解できなかった。
混乱中だったこともあるが、彼が田舎者だったこともある。
彼女は続けた。

「ん?わからない?あーそっか。そっか。そうだよね。
えっと『冥界』まぁ私は普通に別次元、異世界って言ってるけど、そっちと交信してるとね、そっちの技術も盗めたりするの。
で、脳が機械だと電話とか使わなくてもテレパシーのように相手と話せるの。私はしてないけど。
で、私はこのケータイでその脳にハッキングして、私を認識させなくしてるってこと。
だから、私は好きな時に好きなところに行っても、兵士さんは私に気付かないって、ここまでわかる?」

彼にはまったく理解できなかった。
彼の心理は、混乱から疑惑へと変わった。
この人は本当に王女なのか。
しかし、そんなことは口が裂けても言えない。
一応、冷静にはなった。

「あ、あのどのようなご用件で・・・」

「単刀直入に言うわ。あなたをスカウトします。これから、魔王を倒しに行きましょう。
昔の勇者様みたいね。ウフフ」

ヒューイットは相手の気持ちを考えない。
ヒューイットは順序立てて物事を説明しない。

「・・・何が、なんだかわかり・・ません」

「っとね・・・何から言えばいいかな?言うこと沢山ある気がするし、けど沢山なら説明がめんどいし・・・。
・・・うーん。『今世界が魔王によって滅ぼされようとしています。世界を救うために、私と共に旅をしましょう』どう?」

人類と魔物との関係が『良好』な今、何故魔王が世界を滅ぼすのか。
何故王女と一緒に旅をするのか。
魔王を倒す為なら軍隊を使い、組織的に行動した方がいいのではないのか。
など、様々な質問をアルクは彼女に投げかけた。

「・・・。説明しよっか。四年後、別次元からマジでやばい魔物の大群が来るの。
でね、そいつらに立ち向かうのに人類の数が足りないの。生贄に使ってるからね。
四年間(正確には三年半でありたいけど)に消費される生贄の数を、そっくりそのまま、軍事力にするため。
よ・・・。魔王をぶっ殺す理由は。魔王を殺せば、魔物は『機能を停止する』」

「ヒューイット様・・・国民をそんな道具のように・・・それに、本当に・・・そんなことが・・・」

「生贄を黙認しているあなたたちも同じようなものよ。
軍事力といっても、犠牲にするつもりはないわ。作戦次第では・・・だけど。
まぁ確かに『予言』が出来るのは私だけだからね。お父さんはもう死んだし。
信頼性の無い情報ってのは私も思う。私が自ら行動するのは、そういう理由」

なお『予言』の用途は、経済に関わることのみである。
それ以外の『予言』は信頼されない。

「あ、私が王女だって証明必要?たぶん明日には、王女消えたーとかそういうニュース流れるから。
でも、安心して、私のクローンが王女の代わりやってくれるから。プラス、あなたには選択権は与えません。
命令します。私の護衛をしなさい」

彼には理解できない用語がいくつか出てきたが、最後の方、命令は理解出来た。
彼には断る理由は無かった。
両親はすでに他界。恋人や友人は特に作らず、王女のために、国のためにその身を剣に捧げてきた。
王女自らの命令・・・光栄極まりない。
しかし、彼は二つ疑問が残った。
何故、自分なのか。

「脳が機械化してなくて、優秀で、ハンサム。以上」

自分以外にスカウトした者はいるのか。

「いない。デートは二人っきりがいいでしょ?」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



翌日には出発した。
出発前、ヒューイットは兄に呼びとめられた。

「ヒューイット、お守りだ」

彼は彼女の手に、小さいペンダントを渡した。

「ああ・・・『コレ』ね。これは忘れちゃ駄目だね。
通信できるようになってる?リアルタイムでするのよ?
『例の者』ちゃんと造っといてね」

「ああ。データよろしく」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「これからどこに行くのですか?」

「『B国』ちょっとお金稼ぎ」

「『B国』といえば、民主国家でしたね。
民が政治に関われる、いい国だと思います」

「形だけよ。行われているのは出来レース。
情報を制限して、堂々と民主国家を名乗っている破廉恥な国よ」

「そう・・・なんですか?」

「だから、いいんだけどね。私にとっては」

ヒューイットはポケットからケータイを取り出した。

「そのケータイってなんですか?」

「ああそっか。この次元の人は知らないよね。
これね、線無くても電話出来るの。これはちょっと特殊で異世界とも電話出来るんだけど」

そう言うと彼女はそのケータイで、どこかに掛けた。

「あーネイ?私・・・。例の会社の株の件お願いね。ちゃんと売りから入ってよ?
うん・・・うん・・・ありがと・・・うん・・・じゃあねー」

「今のは?」

「相手?異世界の友達。お願い事があったんだけど、まぁ正確にはその子がこっちの私の友達にまた頼むんだけど・・・。
私がこっちのその子に掛けたら枝つけられるかもしれないからね」

やはり、彼には理解できなかった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 


彼らは『B国』までの途中の森にて、ドラゴンに遭遇した。
こちらの五倍はあろう巨体の魔物。

「ヒューイット様・・・お下がりください」

彼の声は震えていた。
魔物はこれまで写真でしか見たことが無かったうえに、それがまさかのドラゴン。
しかし、彼は逃げ出さず、勇敢にドラゴンと相対した。

「珍しいね・・・」

彼女はケータイを取り出し、また掛けた。
相手は先ほどと同じ、ネイである。

「あーネイ?ごめん。また。こっち見えてる?うん・・・うん・・・それ。
そのドラゴンにさ、うん体内に・・・剃刀6000くらい。お願い。
こっちから、あの更衣室の写真取っていっていいから・・・うん・・・うん。
ありがとー。じゃあねー」

その直後、ドラゴンは苦しみだし、叫び、そして倒れた。
アルクには何が何だかわからなかった。

「あ・・・あの・・・ドラゴンが・・・」

「え?『魔法』みるの初めてだっけ。まあ私のはちょっと特殊だけど」





next→【その二】





[22834] その二
Name: 叫芽◆8aff19b3 ID:f5e29a69
Date: 2010/11/13 09:05


カタカタカタカタ
カタカタカタカタ
カタカタカタカタ
カタカタカタカタ

ガーガー

カタカタカタカタ
カタカタカタカタ
カタカタカタカタ
カタカタカタカタ

ガーガー

カタカタカタカタ
カタカタカタカタ
カタカタカタカタ
カタカタカタカタ

ガーガー

カタカタカタカタ
カタカタカタカタ
カタカタカタカタ
カタカタカタカタ

ガーガー


◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「あの・・・ヒューイット様・・・」

「何?」

「この旅に・・・私は必要なんでしょうか・・・」

「あー。私が無敵に見えたの?まさか今ので・・・」

「・・・そ、そうとしか・・・あの巨大なドラゴンをあっさりと・・・」

「あのね・・・今のは運が良かったのよ。魔法には今みたいに時間がかかるの。交渉の時間ね。
射程だってあるわ。私が視えないとこまで攻撃なんて無理。
しかも、あんまり使いすぎると向こうが過労死しちゃうのよ。
私が交渉する相手はたったの三人、ネイとレジエとバンケルだけ。レジエとバンケルは殆ど出てくれる時間が無いし。
しかも、今みたいにめちゃくちゃな魔法を使えるのはネイかバンケルと交渉したときだけ。レジエは転移が使えないの。
事実上あたれる相手は一人。ネイだけなの。だから、ボディーガードはいるのよ」

「・・・私には、その魔法というのが、よくわかりません」

「え?学校で習ったでしょ?」

「私が学んだ魔法と、ヒューイット様が使われた魔法は違います」

「あ、私のね。私が使うのと一般で使われる魔法の違いは、交渉に呪文を使うか、電話を使うかの違い。それだけよ」

「交渉・・・とは?」

「そっか、君たちは魔法の本当の意味、教えてもらってない、の、ね・・・。・・・・・・・。」




◆ ◆ ◆ ◆ ◆



人間が幸せの定義を考えることの出来る種族だというのなら、人間の最大の幸せは性交である。
生物の目的は生存であり、そのための手段に繁殖や分裂をする。
目的の成就を幸せと定義するなら、繁殖のための性交の成就は幸せである。
その幸せは一番初めに決められた幸せであり、純粋で、真実である。
他の幸せは後から勝手に作りだされた幸せであり、思い込みであり、嘘である。
それが、オデット・ボナパルトの哲学であり、彼女の思い込みである。

既に他界している彼女の父は、彼女の哲学の体現者であり、彼女には腹違いの兄妹が14名いる。
一般的には『ゲス野郎』である父をオデットは好きだった。
父の行為は合理的と思っていたし、彼女にとっては父は正義だった。
彼女は12の頃には父に体を捧げていた。
父は美しい彼女に優しく接していた。欲しいものは何でも買ってあげた。行きたいところにはいつでも連れていった。
しかし、それは彼女が美しかった故であり、他の娘は切り捨てていた。男は殺していた。
それでもオデットは父が好きだった。自分に優しかったからである。

体を捧げた翌年、父は殺人の罪で死刑。彼女は孤児院に引き取られた。
しかし、一月もしないうちに彼女は『脱獄』し、外のセカイに逃げた。
魔法に関して『天才』の彼女を捕えられる者はおらず、彼女は自由奔放に暮らせた。
彼女は、公共機関、主に警察へのいたずらを頻繁にしていた。
放火、盗み、交通の混乱、時に公人のスキャンダルを裏に流したりもした。
彼女はそれを趣味としているが、根にあるのは父を殺したセカイに対する復讐である。

オデットは、父の価値観を引き継ぎ、多くの男と夜を過ごした。
しかし、彼女に子が宿ることは無かった。
彼女は行為の間幸せだった。しかし、何かが埋まらない。
その何かを埋めるため、多くの男に会い、捨てていった。
子が出来ないからであろうか。彼女はそれを否定した。
彼女にとって何か、とは父である。
父に、もう一度会いたい。

そして、彼女はその男に、父を見つけた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



『B国』。
ヒューイット曰く、形だけ民主国家である。
元々は封建社会だったのだが、『旧C国』との戦争に敗れ、国家の在り方を変えられた。
文化レベル、技術の発達している国であり、ヒューイットのケータイはとなりの『B国』製である。
剣、拳銃等の武器の所持を禁じている。
暴力団の抗争以外では、殺人等の犯罪は比較的に少ない国であるが、性犯罪、詐欺等が多く、自殺の多さも問題とされている。

「ということで、つきました!」

ついた頃はもう夜だった。

「ヒューイット様は、お金稼ぎと言われましたが、具体的にどのように?
まさか・・・」

「強盗なんてしないわよ。詐欺もしない。銀行に行って、現金を回収するだけよ。
私この国のバンクに金預けてるから。私個人のね。
これからの旅、カードや顔パスが通じる訳じゃないから、現金がいるの」

「いったいどれほどの資金をお持ちに?」

「一応、億・・・くらい?」

「そ、そんなに持ち歩けるのでしょうか」

「無理よ。だから、魔法で異世界に預かってもらうの、よ」






◆ ◆ ◆ ◆ ◆



銀行にヒューイットの金は無かった。
彼女はため息をつき、ここに顔認証システムつけるようしておくべきだった、と言った。
彼女のID、パスワードを使い、彼女の金を盗んだものがいるそうだ。
履歴を見るに、二時間前に引出されていた。
彼女はケータイを取り出した。

「出てくれるかなー・・・おし、出た・・・・あ、ネイ?・・・」

今度のネイへの交渉は、二時間前のここの『状況』を動画形式でヒューイットのケータイに送る、というものだった。
そして、数秒もしないうちに動画は送られてきた。
犯人はまだ16もいかなさそうな、小さい銀髪の少女だった。

「あーーーこ・い・つ・か・・・納得・・・やっかいだな・・・」

「彼女は、いったいどのような・・・」

「裏では有名な泥棒よ。呪文無し、交渉無しで魔法を使う天才。『O・B』と呼ばれているわ。
たまに書き残すのよその文字を。本名は知らない。
で、盗まれた・・・」

犯人の『行動履歴』を知るため、彼女はまたもネイに対して電話しようかとも思ったが、それは翌日に回すことにした。
さすがに、何度も掛けるのは迷惑だし、どの道もう今日は動ける訳ではないからだ。彼女たちは宿を探すことにした。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


宿は比較的高級なものを選んだ。
数十階もある高い造りで、彼女たちは最上階の部屋を借りた。
セキリュティーの面もあるが、ヒューイットの性格もある。

「さーて、真面目なアルク君もそろそろ、ムラムラきちゃったかなー?」

ベッドは二つあり、ヒューイットはアルクの方のベッドの方に行き、彼の耳元に囁いた。

「な、何を言っているんですか!?そんなわけないでしょう!
それに、前から思っていたんですけど、ヒューイット様は・・・はしたなさ過ぎます。
もう少し、肌の露出を抑えてください」

「上着の下にはブラジャー。スカートの下にはパンツ。
これのどこがはしたないというの?『A国』の法律にも『B国』の法律にも引っかかってないわ。
服装を指定している宗教に入っているわけでもないのよ?
あのね、王女でも、毎日毎日あんな堅苦しい服装は出来ないのよ。
ストレスたまるの。禿げるの。美容に良くないの。
そもそも、国民の代表である、私が、なんで国民と明らかに違う服装しなきゃいけないの?って話よ。
ほんとにコルセットなんて発明した奴死ね。
歴史から消えて、そして全ての次元から消えるべきなんだわ・・・
そうよそうよ。どいつもこいつもくそったれだわ!・・・」

アルクが持っていた王女のイメージはここに来て完全に崩壊した。
そして、彼女も一人の、まだ若い普通の女性なのだということを知った。
彼は失望はしなかった。
自分の思いを吐き出す彼女を、妹のように思えた。
彼女の服装に関する演説は二時間も続き、その頃には彼は寝てしまっていた。
ヒューイットはそんな彼に対し、叩き起こそうかと思ったが、やめた。
少し間をおいて、彼女は静かに笑い。自分のベッドの方に戻って、寝た。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆



深夜、アルクは何か重いものが自分の足の方に乗っているのを感じ、目を覚ました。
乗っていたのは、あの犯人、あの少女だった。
声を出そうとしたが、その口を彼女は右手で防いだ。

「喋らないでお兄さん・・・。別に悪いことはしないから・・・」

彼はヒューイットの方のベッドに目を向けた。
いなかった。

「あの女はどこだって?トイレよ。そして、もうこの部屋には誰も入れない。
ドアも、窓も『ロック』」したから」

正確には『岩』で部屋を包み、誰も入れない閉鎖空間が造られていた。



「これから・・・あたしと、しよ・・・?」






next→【その三】











[22834] その三
Name: 叫芽◆8aff19b3 ID:f5e29a69
Date: 2010/11/18 06:36

カタカタカタカタ
カタカタカタカタ
カタカタカタカタ
カタカタカタカタ

ピー・ピー

ガーガーガー

カタカタカタカタ
カタカタカタカタ
カタカタカタカタ
カタカタカタカタ

ピー・ピー

ガーガーガー

カタカタカタカタ
カタカタカタカタ
カタカタカタカタ
カタカタカタカタ

ピー・ピー

ガーガーガー

ゴポゴポゴポ・・・

ゴポッ・・・

シュー・・・シュー・・・シュー





◆ ◆ ◆ ◆ ◆



アルクトゥルス・ガルディオスが連れてこられた理由は、ヒューイットの趣味や、単に成績がいいだけではない。
ヒューイットに魔法を教えたのは、彼の母親である。
彼の両親は、共に優秀な魔法使いで、代々王族の護衛と、教育を勤めていた。
魔法使いの才能というものは遺伝するもので、このことが、代々王族を勤めれていた故である。
アルク自身も魔法使いとして、王族の護衛に就く運命だった。

しかし、彼は生まれつき体が弱く、障害車椅子生活だろうと言われていた。
彼の母親はそれが許せなかった。悔しかった。
彼女は彼にまだ自我が宿る前、彼に魔法をかけた。
自分で立って歩けるようになってほしい、という願いを込めた。
しかし、その魔法は失敗し、彼の身体能力は異常と言えるほど高いものになってしまう。

少年時代、運動において次々と人類の記録を塗り替える彼は、大人たちからちやほやされる存在であったが、友人、恋人関係には恵まれなかった。
彼の周りを大人たちが囲っていたのもあるが、当時力の制御がうまくできなかったのもある。
手を繋いだだけで相手の骨を折ってしまったこともあるし、喧嘩をすれば相手を死の一歩手前までもっていってしまう。
近寄りがたい存在だった。
そういう青春時代を送っていたせいか、今では他人と距離を置く性格となっている。

そんな彼が描いた夢は、王族の護衛に就くことであった。
他人のためには尽くせない。壊してしまうから。
しかし、自分より絶対的上の存在のためには力を尽くせる。
どういう運命か、家柄がそのまま夢になっていた。

彼がその力を出し切ったことは、これまで一度もない。
彼に潜在する力は、彼が思うよりも、はるかに大きい。
ドラゴンをも屠る程の力、そのことを彼は知らない。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



ベッドでの立場は逆転していた。
アルクは彼女をベッドに押し倒し、その両手を上に縛り上げていた。
彼は可能な限り丁寧に、怪我をさせないようにを心がけた。

「あらうれしい・・・。お兄さんからしてくれるの?」

「そんなんじゃありません!貴女はなんなんですか、いきなり」

「だから、言ったじゃない。しよ、って。別にお兄さんを殺したり、何かを盗みに来たわけじゃないわよ」

「信用できません。それに貴女は、泥棒だ!私たちの金だって盗んだ」

「え?ばれてた?・・・すごいね、あなたたち」

「ですから、本当の目的を言ってください。そして、この部屋を元に戻すんです」

「だから、本当の目的は言った通り、お兄さんとし、た、い、の・・・」

「ふざけないでください」

「お金なら、返すわよ。その代わり、あたしとして・・・」

「出来るわけないでしょう!なんなんですか貴女?」


「・・・このクソ童貞が・・・」


彼女は、明るい口調とは打って変わって、静かに呟いた。
彼女の手の平に少しずつ埃のような、塵のようなものが集まり、それは次第に木の枝のようなものとなっていった。

「『杖』ってさ、やる時に邪魔じゃん?かといってさ、どこかにほっかとくと危ないじゃん?
あーしまわなきゃ良かったわ・・・。しばらくアンタ、受けになってもらえるかしら・・・」

塵はさらに集まり、それは杖のようなものを作りあげた。


「あのさ・・・他人のモノ、勝手に取らないでくれる?」


部屋にもう一人の女の声、ヒューイットである。
彼女は既に『岩の部屋』の中にいた。

「え?そんな・・・入れるわけ・・・」

「バンケル・・・『ナイフ』転移お願い。座標は、わかるわね?」

「いッ!・・・何!?」

彼女の杖を掴んでいる手の甲にナイフの刃が刺さっていた。
痛みで彼女は杖を離した。
ナイフは投げられた訳でもない。ベッドに仕込んでいた訳でもない。
彼女には理解が出来なかった。

「呪文も、交渉も必要せず魔法が使える。これだけの情報があれば、十分よ。
その『杖』が、そうなんでしょうね。あなたなら、一呼吸のうちに私をピンポイントで焼きつくせるのでしょう。
けど『杖』を持っていることが条件。」

「なんで、入れたの?」

「あなたの手に刺さっているナイフから考えなさい。(あーバンケルが起きててよかったー。人体転移出来るの彼だけだし・・・)
痛かった?けど、あなた治癒魔法使えるでしょ?後で治しなさい。
そして、私のモノに手を出すのは、今はあきらめなさい」

「ふん!何よあんた・・・。いいじゃない。減るもんじゃないし・・・金も返すわよ」

「オデット・ボナパルト・・・。あなたのことは『知っている』から。信じるわ。あなたの事・・・」

「え?」

「アルク、どいてあげて・・・」





◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「では、オデット・ボナパルト。ここからは交渉よ・・・。
私の仲間になりなさい。仲間になれば、アルクとは毎晩やってもいいわ」

「そ、そんなヒューイット様!」

「童貞は黙ってて」

「ち、違、いや、そんな問題ではなくて、まだこの子は子供・・・
いや、そういう問題でもなくて、まだ、知りあってまだ、いや、あの、その・・・」

「はいはい・・・(・・・・・・)」

「で、その仲間って『どういう』仲間?。まさか、文明初期の『勇者様の仲間』じゃないでしょうね」

「その『勇者様の仲間』よ。魔王をぶっ殺しに行くの。
元々ね、私はあなたが欲しかったのよ。優秀だからね。けど、あなた神出鬼没でしょ?
本当に、今日はついていたわ。あなたに会えた」

「まぁ『王女様』直々の行動なんだから、それなりに理由はあるんでしょうね。
でも、関係が良好な『魔物』を何故消すのよ」

「『予言』が読めるのが私だけだからよ。言っちゃえばかなり個人的。
もしかしたら『魔物』を消さなきゃセカイがやばい。人類がやばい。そういうこと」

「ふん。ま、私にとっては魔物とか魔王とか人類(イケメンを除く)とかどーだっていい『雑魚』。
その男とやらしてもらえるんだったら、あと労働に見合った報酬が貰えるんだったら、のってもいいわ。
あんた王女でしょ?」

「フフフ。交渉成立ね。話がわかる娘で良かったわ」

「ちょっとヒューイット様!」

「童貞に選択権はない!」

「そ、そんな・・・」





◆ ◆ ◆ ◆ ◆




そこからの毎日、アルクに眠れる夜は無かった。
毎晩オデットとの格闘の日々であった。
しかし、彼は彼女に『触れる』ことは一度も無かった。
一方オデットは、通常そういう男は切り捨てていったが、アルクは捨てなかった。
何度も彼にアプローチを繰り返した。
父とは性格も行動も正反対のアルクに、何故引きつけられたのか。
彼女はその理由、原因を考えたが、途中でやめた。
本能のままに行動していた方が楽しいし、旅も続けられる。
彼女にとって、そこからの毎日は楽しかった。
これまで、彼女にとってコミュニケーションとは、肉体を使ったものであり、会話と言えるものなど無かった。
しかし、今は違う。アルクは『話す』。自分の言葉を聞いてくれる。そして反論してくれる。
父とは違う。
何故。
彼女はそこで、考えを止める。

『魔王の館』道のり。彼女たちに敵はいなかった。
敵が大きかろうが、多かろうが、オデットの魔法は強力であり、その全てを焼き尽くした。
アルクは主に雑用を担当した。
食料等の買い出し、狩り、料理、テントの組み立てなどである。
しかし、それでもアルクは旅を続けた。
これまで経験の無かった、他者への尽くし、それがこの旅にはあった。


旅は順調に進み、三ヶ月後には『魔王の館』に着いた。





◆ ◆ ◆ ◆ ◆



ピー・ピー・ピー

シューシューシュー

ゴポゴポゴポ・・・

カタカタカタカタカタ


ピー・ピー・ピー

シューシューシュー

ゴポゴポゴポ・・・

カタカタカタカタカタ


ピー・ピー・ピー

シューシューシュー

ゴポゴポゴポ・・・

カタカタカタカタカタ




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




―――思ったより早く着いたわ。・・・完成は?・・・そう・・・じゃあレジエ経由で『例の人』依頼しておくわ。









next→【その四】













[22834] その四
Name: 叫芽◆8aff19b3 ID:f5e29a69
Date: 2010/11/18 17:25







ゴポッ・・・


ゴポッ・・・・・・


ゴポポッ・・・・・・・・・・・・



カチ・・・カチ・・・カチ・・・



1100 0011 1011 0000 1100 0011 1000 0010 
0011 0101 1101 1101 0100 1011 0101 0100 
1100 0001 1111 1000 1100 0001 1001 1100 
1100 0001 0000 1000 1100 0001 1010 ……


ガー・ガー・ガー











◆ ◆ ◆ ◆ ◆


その日は雪が降った。
『魔王の館』は森の中にあり、その姿は館というより小屋だった。

「なんか、隠居してるじじいが住んでそうなボロ屋ね。本当にコレなの?」

「『レジエ』が間違いを言ったことはないわ。これまで」

「っていうかさ、小屋ごと一気に焼き尽くせばいいんじゃないの?
あんただって、この座標に『ミサイル』でも落とすことだって出来るでしょ?」

「『そういうこと』をしないのは『そういうこと』が館には効かないって思っているからよ。
これまで、この『館』が攻略されなかった理由を考えるとね。
たとえば、その『エネルギー』を『館』が吸収したら?とかね。
これまでの魔物にも、エネルギーを吸収するタイプ、いたでしょ?
あとあなたの言った通り、一般人の家かもしれない」

「それなら、とにかく入ってみませんか?」

「別にあたしはどっちだっていいと思うけど。
まあ、魔王の姿を視てから、も悪くないし、さっさと入りましょ?」

「ちょいタンマ・・・」

ヒューイットは足を止め、右拳を口の方にもっていき、考え込んだような姿勢なった。

「どうしたんですか?」

「アルク、あなたここに留守番ね・・・」

「はい?」

「『館』には私とオデットが入るわ。あなた留守番」

「・・・私が、足手まとい、という意味ですか?
確かに私はヒューイット様やオデットさんと比べて、戦闘では役立たずです。
しかし、私は護衛として、最後まで全うしたい。いけませんか?」

「そうよ。連れて行こうよ。かわいそうだよ?それに彼はあたしが守るわ。これまでのように」

「ダメだね。まぁ、足手まといってのも半分はあるわ。
ただ、なにか嫌な予感がするのよ。だからあなたはここに残って」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆



『館』という名の小屋のドアを、ヒューイットはノックし、呼びかけもした。反応は無かった。
カギはかかっておらず、入ることが出来た。二人は小屋の中に入った。
アルクは結局、外で待つことになった。雪は少し強くなった。

アルクは小屋の壁にもたれかかった。
その隣には一人の青年がいた。
いつからいたのか。認識出来なかった彼は寒気を感じた。

「君は、ここの?」

「そうだよ・・・」

やはり間違いだった。ここは一般人の家。
そう思い、彼はその青年に丁寧に謝罪し、それからドアの方へ向かった。

「そのドアは開かないよ。侵入者を掃除するまで」

アルクは足を止め、彼を見た。
青年は続けた。

「その通り。僕が『そう』だよ。彼女は勘がいいね。
これまで、ここに来れた者たちで『留守番』を用意する、なんてことしたヒトたちはいなかったからね。
まあ、文明初期に創られた『勇者』とかその仲間とかは、そういうふうにプログラムされていたんだけど」

特に特徴もない青年。ごく平凡にしか見えない青年。
それが、これまで攻略されなかった『魔王』の正体。
アルクは震えた。混乱した。
どうすればいいのか。この剣で彼の首を刎ねていいのか。
それとも、このドアを壊して彼女たちに伝えるべきなのか。

「そのドアは開かないし、壊れない。
説明するとね。もう次元が違うんだ。ドアの外と内とではね。物理的には入れない。
君が僕を殺さないかぎりはね。もう『こちら』には、出来るの君しかいないよ」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「あー嫌な予感的中・・・」

彼女たちの前に広がる景色は、どこまでも広がる白。
後ろにある筈のドアもない。

「ラストダンジョンにしては、ちょっと地味ね。
何?これから、モンスターがたくさん出てくるとか、そんなやつ?
ま、何が来てもあたしには問題ないだろうけど」

「あー駄目だ、つながらない。問題大ありよ。オデット。完璧に罠ね」

白の空間は、空間から出現する魔物たちによってたちまち黒に染められていった。
数は数十、数百、数千と増えていく。ゴブリンや、ローバー、スライム、ドラゴンもいる。
そして奥には、山のように、要塞のように巨大な八ツ首の魔物がいた。

「ヤマタノオロチまで・・・。別世界の神話じゃない・・・」

「敵の数や大きさの事を言ってるの?だったら問題ないわよ。
こんだけ広いんだから、隕石でも落とせばいいわけでしょ?出来るわよあたしには」

「やってみ・・・。その杖で」

「じゃ、メテオ一発行きまーす・・・って・・・え?・・・あれ?どうして?」

「魔法の理論は知ってるわね。魔法は、別次元との通信が出来てこそ可能。
この空間は、その通信を遮断しているみたい。なるほど、これまでの『勇者』達が返り討ちにあうわけだ」

「・・・やばい?」

「ちょーやばい」

「ま、あたしは問題ないけどね。杖だけでも戦えるし」

「あなた近接戦闘出来たっけ?」

「これまで機会が無かっただけ。こっちの方が得意よ。あたしはね」

「そう。なら良かった。けどあの『でかいの』どうするの?」

「『あんたがなんとかするんでしょ』」

「あら?信じてくれるの?うれし」

「それよりさ。『この部屋』に『魔王』いると思う?」

「いてくれればうれしいわ・・・。たぶん『魔王』を殺せばこの空間は解除されるし。
でも、いないでしょうね」

「だよね・・・。アルク・・・大丈夫かしら」

「彼の事より、私たちのこと心配しましょ。目の前の敵・・・」

「そうね。イケメンならともかく、魔物にレイプされるのは簡便だわ」

ヒューイットはナイフを、オデットは杖を構え、その絶望的大群に向け、歩を進めた。





◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「君が・・・『魔王』・・・」

「構えなよ・・・僕は魔王だよ・・・勇者君」

「・・・このドアを開けてくれないか」

「嫌だね・・・としか答えないよ。僕は」

「・・・・・」

「力ずくで来なよ。僕を殺せば、館は崩れ、彼女たちに会える。
彼女たちは今、絶望的数の僕の子達と戦っている。
他の次元との交信を遮断している空間だから、魔法も使えない。
早く僕を殺さなきゃ、二度と彼女たちには会えない。死体にさえね」

「・・・君を殺せば、ドアが開く。それが、本当という保証がない・・・」

「嘘なのか、本当なのかなんて関係ないよ。僕は決して自分からあのドアを開けない。
君がどんな言葉や、交渉を持ち出しても決して開けたりしない。
さぁ、時間との勝負だ。僕を殺しにかかってくるがいい。勇者君」

「私は・・・勇者なんかじゃない・・・。私は、あなたを殺せない」

「ヒトのような格好をしてるからかい?けど、それは仕方がないよ。
僕もね、子供達のように、ヒトから禍々しいって思われるような格好の方が良かったって思っている。
魔王らしいからね。自分が魔王だって思える。自分が自分だって思える。
でも、こんな格好さ。変身なんて出来ない。僕に出来るのは、子を、創り出すだけ。
告白するとね、僕の能力はヒトの平均よりちょい下。君なら簡単に殺せるよ。
さあ・・・その剣で、僕の首を撥ねるんだ」

「・・・・・・。あなたは、何者なんですか・・・」

「何者って、魔王だよ?」

「そんなことじゃない!そんなことはわかっているんです!」

「そうだよね。そんなことを聞いたんじゃないよね。ごめん。
僕はね。プログラムなんだ。この星担当の『抑止力』・・・。
この星の住民が見つけた『魔法』っていうのは、どういう原理か知っているね。
異世界の空間から、物質を転移させる。それが魔法。それは異世界の空間を乱す、ってことなんだ。
空間の異常が繰り返されて、その異常があまりにも大きくなると、宇宙とかセカイとかは『自分』で無くなっちゃう。
だから、宇宙とかセカイとかは、そうならないように、ちょくちょく修正しようと働きかけるんだ。
その修正方法の一つに、原因の消去ってのがある。この星に関して言えば、魔法使い。それを使うヒトだね。
魔王ってプログラムは、そのヒトという種の定期的消去を目的としているんだ。
ただし、全滅はさせない。ヒトも、宇宙やセカイが自分であるために必要だからね」

「私は、難しいことはわかりませんが、それならあなたは、やはり必要で、死んではいけない存在じゃないのでしょうか」

「宇宙やセカイなんてデカイもののために君はここまで来たんじゃないだろう?
君は、彼女たちのために、ここにいるんだろう?それでいいんだよ。それに従って、僕を殺せばいい」

「違う・・・。あなたは・・・死のうとしてる。殺してほしい、と私に頼んでるように、思えます」

「君は優しいね。その通り。僕はね、殺してもらいたいんだ。それも人類にね」






◆ ◆ ◆ ◆ ◆




近接戦闘に関しては、彼女達は苦手という訳ではなく、寧ろ達人であった。
戦いが始まり15分を超えるが、彼女達はいまだダメージを負わず、触れられもせず、魔物たちを殺していった。
物理的に破壊不可能な魔物、巨大な魔物は動きが比較的遅く、彼女達の早さを捕えることは出来なかった。
また、彼女らはそういった類とは避けるように戦った。
しかし、その圧倒的物量は、次第に彼女達の体力を奪っていった。

「あー!やっべ、すっぽぬけた!」

「あんた何やってるのよ!それ最後のナイフでしょ?」

「あーやばい。どーしよ・・・」

「知らないわよ、自分で何とかしてね。あたしはあたしで精いっぱいだから」

「んじゃさ、逃げていい?」

「は?どこに逃げるのよ。囲まれてんのよ?」

「いや『大体の数もわかった』し・・・もう良いかなって」

「え?」

「私は逃げるけど、あなたはどうする?一緒に逃げる?」

「逃げるってどうやって?」

「答えて。どっち?」

「に、逃げれるなら・・・逃げるわよ・・・」

「じゃあさ、私の背中に来て。おんぶしてあげるから」

「は?何言ってるの?」

「だから、来て。あとしっかりしがみついてね。『落とされないように』」

「だから、何を言ってるの?」

「飛ぶのよ。これから。飛んで逃げるの」

ヒューイットの指示通り、オデットは彼女の背中に乗った。
そして彼女の言葉通り、飛んだ。
彼女の靴の裏から、ジェットのようなものが噴き、そして上昇。
オデットの脳内は全て、はてなとなった。

「ちょ・・・ちょっとどういう原理?何何何これ?」

「あなたの杖の原理の応用よ。
あなたの杖は、異次元からの情報をいったん保存してから、こちらの世界に出力するでしょ?
このジェットは、この靴にあらかじめ保存されていた情報なの。
異次元とは今交信できないけど、ここにあるものを出力することは出来る。
この靴は、万が一のための逃走用のものでもあるのよ。
これから加速するけど、安心して。空気抵抗とかそこらへんの対処装置も一緒に出力するから」

「ちょ、ちょっとまって心の準備が・・・ぎゃああああああああああああああああああああ」




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「『予言』のことは知っているね?
あと四年もしないうちに、この星は異世界の魔物達に征服される。
僕と同じ『抑止力』さ。
あまりにも巨大な空間の『壊れ』がそいつらを呼び寄せるんだけど、確実に来る。
僕ら魔物もそれに喰われる。言い換えれば『抑止力』の書き換えかな。
僕らの未来は死。だから、その死はヒトによって与えられたいんだ。ずっと付き合ってきたからね。僕らは。
それは、戦いという形だったり、生贄という形だったりで、ヒトにとってはいいものじゃなかったけど。それでも、付き合ってた。
初めてのデートは勇者とだった。だから、最後も勇者とデートしたい。
君には、勇者になってほしい」

「それなら、協力すればいい!共に、新たな魔物と戦えば・・・いい!」

「出来ない・・・。僕はプログラムだからね。人を殺すことしか、殺す道具を創ることしか出来ない。
仮に、僕が君達に協力しても、子供達はもうスタンドアローンだ。ヒトを喰うだろう」

「それでも・・・私はあなたとこうして話している・・・それを、殺すだなんて・・・私には」

「出来る・・・君になら・・・」









◆ ◆ ◆ ◆ ◆




彼女達と魔物達の距離は離れた。
彼女達の視界からは、もう魔物の群生は小さく、米粒のようになった。

「やはりね。『無限』ではないわね」

「どういうこと?」

「つまりね。魔物の数とか力ってのは、彼らに挑む者の力に比例するのよ。たぶんね。こちらより、ちょい強い感じで。
これまで、人類が魔物に勝てなかったのは、たぶんそういう理由。
文明初期の勇者でも、ここまで来たって記録はあるのよ。だったら、普通、軍レベルなら攻略出来るもんでしょ?
でもね、軍を使って、魔王の館前まで来た、って記録は無いのよ。
そして『無限』でなくてホントに良かった・・・」

「だから、それが『どういうこと』って聞いているのよ」

「当然、私がナイフを訳のわからない方向に飛ばす、なんて真似をするわけないわよね?そういうことよ」

「あのナイフ?・・・え?もしかして・・・」

「優秀ね。この靴やあなたの杖と同じよ。あのナイフには『仕込んである』の」

「まさか・・・『核融合』!?」

「もっとひどいわ・・・」

「な、何よ・・・他に何があるのよ?」

「『重力』よ・・・」

「ブラックホール!?大丈夫なの!?その、吸いこまれたりしない?あと『のみ込んだ後』とかも・・・」

「超超超小規模のよ。しかも時間式で『その後』無し。のみ込みオンリー。別世界行きよ(そう表現して良い場所じゃないかもだけど)。全部・・・。
範囲はたぶん、ここは大丈夫」

「あんた・・・悪魔よ・・・(別世界?)」

「フフフ。さあ、縮退開始よ。途中でこの世界が解除されないことを祈りましょ?」




◆ ◆ ◆ ◆ ◆





魔王は剣を取り出した。

「これから・・・『決闘』をしよう」

アルクは沈黙を返した。
魔王は構えた。居合の構えである。

「構えな・・・」

その声はあまりにも優しかった。
アルクは泣きだしそうになった。

数分アルクは動かなかった。
雪は、ますます強くなった。

「・・・君は、何か難しいことを考えていないか?
君はね、これから彼女たちを守るために剣を振るえばいい。
それだけでいいんだ。それだけで。
その結果、誰がどうなったって、君に責任はないんだ。
あったとしても、そんなことは考えなくていい。
君は優しかった。それだけで僕は救われた感じだよ。
僕を殺す勇者が、君で良かったと思っている・・・。
さあ・・・構えるんだ。アルクトゥルス・ガルディオス」

吹雪と言えるほど雪が強さを増した時、アルクは決断し、構えた。
もう泣いていた。鼻水も垂らしていた。声も出していた。







◆ ◆ ◆ ◆ ◆




縮退は終了し、あたりは真っ白な景色に戻った。
ジェットは底を突き、彼女達はもう地上に降りていた。
しかし、ヒューイットの表情は硬かった。
晴々としない。何かに敗北したような、悔しげな表情だった。

「私の予想じゃあね・・・この直後あたりにこの空間が解除されると思ってたの」

「この空間に魔王がいたって予想?」

「いいえ。外のアルクが魔王を倒すってこと」

「ならいいじゃん。待とうよ。こっちは終わったんだし」

「さっき言ったわよね。魔物の数や力はこちらの強さに比例するって。こちらのちょい上って。
つまりさ、終わってないのよ。終わらないのよ。敵の数は『無限』にはならないけど、敵は『無限』に出てくるのよ」

「え?」

白の景色は、またも、少しずつ黒に染まっていった。
そのスケールは、先程とは比べ物にならなかった。絶望を超える絶望の数が、視界の全てを埋め尽くした。

「祈りましょう。今度は本当に・・・」







◆ ◆ ◆ ◆ ◆












吹雪は、彼らの決着を隠した。
残ったのは、ただただアルクの泣き声だけだった。















◆ ◆ ◆ ◆ ◆




館は静かに崩れ、彼女達は生還した。
傷一つなかったが、ぎりぎりだったそうだ。
アルクは彼女達のもとへ走って向かい、そして二人を強く抱きしめた。
声が枯れるほど、ただひたすら泣いた。








◆ ◆ ◆ ◆ ◆




一週間後、アルクトゥルス・ガルディオス、オデット・ボナパルト二名は、王女誘拐の罪で捕えられ、死刑宣告を受けた。
翌日には死刑は執行され、それは公開された。







◆ ◆ ◆ ◆ ◆












ゴポッ・・・


ゴポッ・・・・・・


ゴポポッ・・・・・・・・・・・・



カチ・・・カチ・・・カチ・・・



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0011 0101 1101 1101 0100 1011 0101 0100 
1100 0001 1111 1000 1100 0001 1001 1100 
1100 0001 0000 1000 1100 0001 1010 ……


ガー・ガー・ガー











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