おがた林太郎個人ブログ

治大国若烹小鮮

困るなぁ・・・

 先日、防衛事務次官から「隊員の政治的中立性の確保について」という通達が出ました。まずは、そのまま抜粋します。


【通達(抜粋)】

 先般、自衛隊の施設内で行われた行事において、自衛隊の協力団体の長が挨拶し、同施設を管理する自衛隊側が自衛隊側(昭和29年法律第165号。以下「法」という。)第61条及び自衛隊法施行令(昭和29年政令第179号。以下「令」という。)第87条に規定する隊員(法第2条第5項に規定する隊員をいう。以下同じ。)の政治的行為の制限(政治的目的のために国の庁舎、施設等を利用させること等を禁止)に違反したとの誤解を招くような極めて不適切な発言を行った。
 防衛省・自衛隊としてはかかる事案が二度と起きないよう、各種行事への部外の団体の参加等については、下記のとおり対応することとする。


                記


1 各種行事への部外の団体の参加に係る対応

 防衛省・自衛隊が主催し、又はその施設内で行われる行事に部外の団体が参加する場合は、行事を実施し、又は行事の行われる施設を管理する防衛省・自衛隊の部隊又は機関の長は、以下のとおり対応する。

(1)当該団体に対し、法第61条及び令第87条に規定する隊員の政治的行為の制限について周知するとともに、隊員が法第61条及び令第87条に規定する政治的行為をしているとの誤解を招くようなことを行わないよう要請すること。

(2)当該団体の行為により、隊員が、法第61条及び令第87条に規定する政治的行為をしているとの誤解を招くおそれがあるときは、当該団体の参加を控えてもらうこと。

(以下、略)

【通達終】


 ここで法令が引用されています。これも書き出します。


【自衛隊法第六十一条(政治的行為の制限)】
 隊員は、政党又は政令で定める政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法をもつてするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除くほか、政令で定める政治的行為をしてはならない。

(以下、略)


【自衛隊法施行令第八十七条(政治的行為の定義)】
第八十七条  法第六十一条第一項 に規定する政令で定める政治的行為は、次の各号に掲げるものとする。
(略)

十二  政治的目的を有する文書又は図画を国の庁舎、施設等に掲示し、又は掲示させ、その他政治的目的のために国の庁舎、施設、資材又は資金を利用し、又は利用させること。

(以下、略)


 事の発端は、自衛隊協力会の長の方が、自衛隊の施設内で政府批判を行ったことだそうです。その内容についても、概ね聞きました。私はその方の見解には同意できませんが、かといって、この通達もどうかねぇと思います。


 というのも、ここで言う「政治的行為」に「政権批判」が含まれるのであれば、「政権賛辞」も含まれうると思うのですね。私はよく自衛隊小倉駐屯地(陸自)、芦屋基地(空自)にお呼ばれをしていきます。挨拶の機会を頂くことがあります。勿論、与党の政治家ですので以下のようなことくらいは言います。


「今、菅政権及び与党は国防の最前線で活躍される方の思いを呈して、国政の場から支えることができるよう予算等の面で頑張っているところです。私も与党の一員として、そのために最大限の努力をしているところです。しっかりとした政権基盤を築いた上で、今後とも地に足のついた防衛政策の立案に尽力しますので、ご指導、ご鞭撻の程を宜しくお願い申し上げます。」


 多分、批判がダメなら、こういう賛辞ものもダメになってしまうような気がするのです。勿論、この通達の発端となった批判をされた方は「菅政権をぶっつぶして、昔の自民党政権に戻しましょう。」といった発言があったので、かなり政治色が強いですが、これは程度問題でして、上記のような挨拶も一定程度の政治性があることは否定されないように思います。これがダメだと言われると、なかなか口を開きにくいですね。


 また、近々芦屋基地にお呼ばれする機会があります。何をどう話せばいいのかねぇ、そもそも衆議院議員という政治家がそういう場に行くこと自体が「顔売り」としてダメだという解釈だって可能になるのかな、会った方と名刺交換して、そこで人脈形成をすればダメなのか・・・、そんな懸念すら起こってきます。


 もっと言えば、「表現の自由」に関する憲法解釈はどうなっているのかという根源的な問題すらあるでしょう。自衛隊員が発言に一定の規制が掛かるというのは当然ですけども、外部の方の発言に間接的に影響を及ぼすところまで、この自衛隊法は規定しているのかというとかなりの疑問があります。


 最後に私の好きなヴォルテールの言葉を引用します。


"Je ne suis pas d'accord avec ce que vous dites, mais je me battrai jusqu'a la mort pour que vous ayez le droit de le dire."


 大まかな意味は「私はあなたの言うことに同意しない。しかし、あなたがそれを言う権利を持てるよう、私は死ぬまで闘う。」ということです。近代社会の大きな原則だと信じて疑いません。