【コラム】FTA交渉で米国が見せた、大国らしからぬ姿(下)

 だが、今回のFTA追加交渉で米国は、三つの過ちを犯した。韓国が助けようにも助けにくい状況をつくり上げたのだ。まず、国家間の交渉とは、両国の国民の目の前で進められるものだ。国民が計算機を手に交渉の過程を見守る中で、米国は韓国側に一方的な譲歩を要求した。「6対4」のゲームは可能でも、「9対1」では折衷ではなく強奪と受け取られる可能性がある。

 また、「G20首脳会議前」という期限を主張したことも過ちだった。米国はG20首脳会議で、両国首脳による交渉妥結宣言を発表したいとの思惑があったようだ。仮に、李大統領とオバマ大統領が「9対1」の内容の協定文を読み上げ、笑顔で抱き合う姿を韓国の国民が目にしたら、どんな思いを抱くだろうか。

 米国が犯したもう一つの過ちは、「牛肉問題」で韓国を脅迫したことだ。米国産牛肉の輸入は本来、FTA協定文には含まれていない項目だ。それにもかかわらず米国は、今回の交渉で自動車と共に牛肉問題というカードをちらつかせた。初めは自動車交渉だけを取り上げていたが、協議が難航すると、土壇場で「生後30カ月以上の牛肉の追加開放」を訴えてきたのだ。「牛肉」を脅迫の材料としてテーブルの下に隠しつつ、いきなり持ち出してきたわけだ。

 現在、韓国の国民は米国産牛肉を多く口にしている。韓国で米国産牛肉の販売が再開されてから2年が過ぎたが、検疫では何ら問題は起きていない。米国人は、年間700万頭以上に及ぶ生後30カ月以上の牛肉を食べている。このため、韓国が永遠に輸入を禁止する理由も見当たらない。

 だが、米国が韓国に牛肉の追加開放を望むのなら、別途の交渉を通じ、「ギブ・アンド・テイク」の形で議論するのが通商外交の原則であり、正しいやり方だ。米国が今回、「韓国の狂牛病(牛海綿状脳症〈BSE〉)騒動の悪夢」をひそかに利用し、自動車交渉を有利に進めようとしたならば、それは大国らしからぬ姿といえるだろう。

尹泳信(ユン・ヨンシン)経済部長

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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