2010年9月21日 21時39分 更新:9月22日 1時56分
東京都心から電車で約30分のJR武蔵小杉駅(川崎市中原区)。周辺は工場地帯だったが、今は高層マンションが林立する。この地点の住宅地は前年比2.8%上昇(09年3.2%下落)、商業地は2.9%上昇(同9.3%下落)と回復した。3月に新駅が開業し、成田空港に直結する列車が停車する地の利の良さが建設ラッシュにつながっている。全国の上昇率で上位を占めた名古屋市緑区も地下鉄延伸計画が寄与した。
3大都市圏の地価は今年上半期(1月1日~7月1日)に限ると、住宅地の下落率は0.9%、商業地の下落率が1.6%に改善した。不動産経済研究所によると、8月の首都圏マンション販売件数は2268戸で前年同月比18.5%増と7カ月連続プラス。大都市のマンションは値ごろ感が出てきたこともあり、利便性が高まると人気も集まりやすい。
政策効果も追い風だ。政府は住宅ローン減税の拡充や長期固定型住宅ローン「フラット35」の金利優遇などでテコ入れしてきた。埼玉県戸田市で戸建て住宅を購入するという会社員、五十嵐貴章さん(33)は「金利の安さにひかれた」と話す。
大都市のオフィス市場も改善の兆しが見える。リーマン・ショックで激減した不動産投資が徐々に復調し、事務所の集約化を進める大企業を中心に丸の内や大手町の優良物件で契約の動きが広がっているという。
アジア系資本も都心の物件を物色している。中国の不動産バブルを警戒し、分散投資を進めているためで、東京都港区では台湾の不動産会社が台湾人にマンション購入を仲介。日本支店の代表者は「1年以内に中国の富裕層とも売買契約を結びたい」と話す。
一方、地方は深刻だ。北海道函館市の観光地「五稜郭」に近い同市本町は下落率が15.9%。周辺商店街の「シャッター通り」化が加速しており、料理店を経営する深谷宏治さん(63)は「市の中心部の人通りが減る一方だ」と嘆く。カネボウやマツダなど大手の工場の撤退や人員削減が続いた山口県の下落率は、住宅地が過去最大の5.0%、商業地も6.7%と前年から0.4ポイント拡大した。
しかも、住宅ローン減税は順次縮小されるなど政策は時限措置。政府は「フラット35」の金利優遇の期限を今年末から来年末まで延長する方針を決めたが、期限を迎えれば、政策効果もはげ落ちる。最近の円高・株安で景気の先行き不安も広がっており、地価の本格回復は見えていない。【寺田剛、綿貫洋】
◇基準地価・都道府県別変動率
※前年比%、▼はマイナス
住宅地商業地
全 国 ▼3.4 ▼4.6
3大都市圏 ▼2.9 ▼4.2
東京圏 ▼3.0 ▼4.1
大阪圏 ▼3.6 ▼5.3
名古屋圏 ▼1.3 ▼2.9
地方圏 ▼3.6 ▼4.8
北海道 ▼4.1 ▼6.1
青 森 ▼5.4 ▼7.0
岩 手 ▼4.2 ▼6.8
宮 城 ▼3.7 ▼5.9
秋 田 ▼4.6 ▼7.1
山 形 ▼4.0 ▼4.9
福 島 ▼3.1 ▼4.6
茨 城 ▼4.4 ▼5.1
栃 木 ▼4.0 ▼4.5
群 馬 ▼3.4 ▼4.8
埼 玉 ▼3.4 ▼4.1
千 葉 ▼2.8 ▼3.2
東 京 ▼3.3 ▼5.0
神奈川 ▼2.0 ▼2.6
新 潟 ▼2.7 ▼4.4
富 山 ▼4.6 ▼5.4
石 川 ▼5.0 ▼5.3
福 井 ▼5.1 ▼5.6
山 梨 ▼3.0 ▼3.4
長 野 ▼3.3 ▼4.7
岐 阜 ▼2.8 ▼3.5
静 岡 ▼2.2 ▼2.5
愛 知 ▼1.2 ▼2.8
三 重 ▼2.7 ▼3.0
滋 賀 ▼2.7 ▼4.0
京 都 ▼3.0 ▼3.9
大 阪 ▼3.6 ▼6.5
兵 庫 ▼3.3 ▼4.5
奈 良 ▼3.2 ▼3.8
和歌山 ▼4.5 ▼5.4
鳥 取 ▼4.7 ▼6.4
島 根 ▼2.3 ▼4.4
岡 山 ▼2.9 ▼3.9
広 島 ▼3.7 ▼4.3
山 口 ▼5.0 ▼6.7
徳 島 ▼6.0 ▼7.1
香 川 ▼5.3 ▼6.0
愛 媛 ▼3.6 ▼3.8
高 知 ▼6.3 ▼7.8
福 岡 ▼2.9 ▼4.9
佐 賀 ▼2.9 ▼3.9
長 崎 ▼4.1 ▼4.7
熊 本 ▼3.4 ▼4.8
大 分 ▼3.8 ▼4.9
宮 崎 ▼1.9 ▼4.3
鹿児島 ▼3.7 ▼4.7
沖 縄 ▼1.2 ▼2.3