政府の「幼保一体化」についての議論が迷走している。いったんは幼稚園と保育所を「こども園」に統合する方向で調整が行なわれたが、幼保双方からの不満が出て、16日に出た「幼保一体化ワーキングチーム」の案では、
  • こども園への完全移行
  • 法律上こども園に完全移行するが、「幼稚園」「保育所」の名称も使用可
  • こども園とともに幼稚園、保育所も存続
  • こども園の類型として幼稚園、保育所、幼保一体型施設が存続
  • 保育所はこども園に完全移行し、幼稚園のみ現行制度のまま存続
という5案が併記され、方向性はまったく見えない。
この話は15年近くもめ続けているが、厚生労働省と文部科学省の縄張り争いに巻き込まれて泥沼化してきた。それは子供を預かる保育所と子どもを育てる幼稚園という、まったく性格の違う業界を「足して二で割る」ことを試みてきたからだ。

これは1980年代に行なわれた金融制度調査会と似ている。当時、金融工学の急速な発達によって銀行と証券の垣根はなくなったのに、二つの業界は金制調で縄張り争いを続け、ほとんど改革が進まないままバブル崩壊で業界全体が沈没した。そして1996年になってようやく、銀行と証券の区別をなくす「ビッグバン」が行なわれたのだが、世界から決定的に立ち後れてしまった。

保育園も幼稚園も金融のような戦略産業ではないが、人材の育成や女性の就労支援は人口減少時代には重要な意味をもつ。特に最近、注目されているのは、以前の書評でも紹介したように、幼児教育の効率が高等教育よりはるかに高いという事実だ。ところが文科省は、費用対効果の低い大学や大学院には力を入れるが、もっとも重要な幼児教育は単に子どもを「遊ばせる」こととしか考えていない。

他方、保育所は経費の90%以上を補助金に頼る「社会主義システム」になっているため、80万人以上の待機児童が解消できない。ニューズウィークにも書いたように、幼稚園にはない待機児童が保育所で大量に出るのは、補助金によって価格メカニズムがゆがめられ、超過需要を作り出すと同時に、業界団体が新規参入を妨害して供給を制限しているからだ。

したがって解決策は簡単である。「保育所社会主義」を解体し、幼稚園と同じく市場原理で子供を預かればいいのだ。つまり「幼保一体化」するのではなく、保育所を廃止して幼稚園に統合するしかない。自主的な経営の行なわれている幼稚園を補助金漬けの保育所と「一体化」して、行政が子供を割り当てる「こども園」は、最悪の制度である。

といっても、今の幼稚園でゼロ歳児から教育しろと言っているのではない。問題は保育士でも保育所でもなく、それを腐らせている補助金システムにあるので、名前は保育所のままでもいいから、その所管を文科省に一元化して幼稚園と同じにすればよい。補助金もすべて廃止し、保育バウチャーにすべきである。