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[24378] 英雄、肉屋勤務【オリジナル モンスター狩り 微ハーレム要素 主人公最強】
Name: ダイス◆af8d3fcb ID:a8042ed8
Date: 2010/11/17 20:49
第一話 剛剣の男ガリュウ



 草原を疾駆する巨大な影があった。
 地面を踏みしめ、掻き出さんばかりに踏み抜く強靭な脚!鋭い爪は人間などずたずたに引き裂くことを見るものすべてに知らしめる。
 眼前を、怨嗟と憤怒を燃料のように滾らせて睨みつけるその眼!ぎょろりとした目玉は、肝の小さいものなら気絶させられるかもしれない。
 そしてその顎!大きく開いた、その大口から覗く、凶悪な牙が生えそろった強力な武器。大岩すら一噛みで破砕する彼の最大の武器。

 そう彼こそは竜!生態系の頂点!生存競争の絶対の覇者!食らう者。蹂躙する者。根こそぎにするもの。
 その悪食と暴食からついた名は嵐喰竜ルーディオロス。
 彼が通った後は食い散らかされた肉片が残るだけ。

 「そっち、気をつけて!尻尾、避けて!」
 
 そんな竜を、なんと追いかけて追い詰めて、あまつさえ狩り取ろうとするもの達がいた。
 騎乗用に調教されたイャリと呼ばれる巨大な狼の背に乗って、彼らは竜を追い立てる。

 「馬鹿!前に出る奴がいるか!脚に射掛けなさい!」
 
 その数およそ20。たったそれだけの人で、あんなにも巨大な竜が仕留められるのか?いやそもそもあんな竜を人が獲物とできるものなのか。
 竜の大きさは、30ラハト(1ラハトは1.3メートル)余りもあるというのに。

 「ぐぅぅぅおおおおおああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 竜が吼える!
 草原から顔を出していた哀れなウサギがただその咆哮だけで気絶して倒れ、さっさと竜の口に飲み込まれた。
 ぐちゃりぐちゃりとそれを咀嚼する嵐喰竜。
 竜を追う彼らのうちの誰かが、ああならないとも限らない。
 それでも人は追う。
 彼らに檄を飛ばす、一人の女性の指揮のもと。

 「ディン!前に出すぎよ。下がりなさい」
 「イャルが逸って」
 「言い訳はいい!死にたくなければ下がれ!」

 腹の底からよく通る声を出す女。
 ディンと呼ばれた男が叱咤を受けてあわてて後ろに下がる。
 片手でイャルを操り、女の細腕で指揮を執る彼女の名前はウー・ユフィーリア。親しいものはユフィと呼ぶ。
 下着の他には腰布と見るからに目の粗い麻布のシャツを被っただけの粗野なその格好。しかし美しい顔立ちとどこか庇護欲を掻き立てる表情が、彼女を見る男に劣情を掻き立てる。
 見事な金髪は肩口でばっさりと切られて入るが、イャルの走る振動で揺れる豊かな身体が、いやが応にも彼女が魅力的な女性であることを思い知らせる。
 だが。
 勇猛さにおいて彼女の右に出る者はいない。

 「サルース!今!アカント!待たせたわね!」

 彼女の指揮によって二人の男が槍を持って竜に接近する。
 二人の男の槍が、猛スピードで走る竜の腹を両方向から突き刺す!

 「ぐぅぅうぅぅおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!」

 堪らず、悲鳴を上げながらのけぞる嵐喰竜。
 彼が苦し紛れに振った尾の一撃で、数人が吹き飛ばれて地面に投げ出される。それでもユフィは眉一つ動かさずに竜を睨みつける。

 「ラース!」
 「応!」

 彼女がよばうと、男の一人が騎乗で両手を使って特大の弓を引き絞る。
 豪、と音がしたかと思うと、凶悪な鋼鉄が吸い寄せられるように竜の首元に突き刺さった。

 「ぐぅああああああああああああああああ!」

 「よし!」

 竜は逃れようと身を捩る。出鱈目に走ろうとする。腹から地を流し、首に矢を突きたてたままで兎に角走る。そして、その彼が逃れる先に―――。

 「何でよッ!」

 ユフィは思わず舌打ちした。
 竜が逃れる先。その先に、旅人と見られる二人連れが歩いていたからだ。

 「ギルドには人払いを要請してたのに!」

 大体好き好んでこの【悪魔の平原】に来る奴がいることが信じられない。ルーディオロスを初めとする多くの凶悪な怪物どもが跋扈するA級危険地域だというのに。

 「サルース!追いつける?」
 「駄目だ!そもそもこのまま走らせて弱らせる段取りだ」
 「分かってるわよ!ラース、届く?」
 「・・・無理だ」
 「っく」

 ユフィはイャルを走らせる。

 「お嬢!」
 「間に合わん!」
 「うるさい!」
 
 制止を振り切って駆けるユフィ。慌てて男達が彼女の後を駆ける。
 ユフィは腰から長剣を抜く。
 美しい白刃だが、それであの竜を仕留めることができるとは到底思えない。

 そこで旅人がようやく竜に気付いたように振り返る。大柄な男と、小柄な、子供だろうか。

 「逃げて!逃げなさい!全力で!」
 
 無理とは思いながらもユフィは叫ぶ。ルーディオロスは脚が早い。とても人に逃げ切れるものではない。それでも、少しでも時間が稼げればと思い、ユフィは叫ぶ。
 だが、旅人の男は何を思ったか、後ろ手に子どもを下がらせると、真っ直ぐに竜に立ち塞がるようにして構えた。

 「馬鹿な真似をッ!いいから逃げろよッ!」

 ユフィの悲痛な声は少しも男に届かない。
 男はすうっと背に負っていた大きな荷物に手をかける。剣だろうか。だとしたら甘い。ルーディオロスは多少腕に覚えがあるくらいで勝てる獲物ではない。

 「避けて!」

 その突進はすでに自然災害の域。大重量のルーディオロスにしかし、男は背中から彼の武器を取り出した。

 「だ、大剣・・・?」
 
 だとしても大きすぎる。その剣は男自身よりも大きい。男の身長も1と7、いや8ラハトはありそうな巨漢だというのにその剣は男よりも大きい。
 2ラハト(2.6メートル)はあるかもしれない。
 その重量たるや。
 仮にあれが鉄で出来ていれば、普通の人間ならとっくにつぶれて死んでいるだろう。

 「ふん!」

 男は竜をかわした。
 すんでで横に飛びのいたのだ。
 それだけでも人をはるかに超えた反射神経。
 だと言うのに、男にはその先があった。
 大剣が加えられたその体重を右足一本で受けて踏みとどまり、逆に全加重を乗せた一撃を肩に担ぐ。猛スピードで駆ける竜が彼を通り過ぎるその刹那。
 竜の伸びきった首に剛剣が振り下ろされる。

 「はぁあッ!!!!」
 空間を引き裂くような悲鳴に似た剣風の轟音が過ぎ去り。
 己の死にすら気付かぬままに。

 首を断たれて、竜は大地に倒れた。

 「出鱈目すぎる・・・・・・・・・・」

 有り得ない。
 嵐喰竜を剣で仕留めるなど。
 有り得ない。
 あんな剛剣を人が振り回すなど。 
 有り得ない。
 にも関わらず、彼が汗一つかいていないなんて。

 規格外。
 そういう人間はいる。どうしても敵わない、人として生まれたことが間違いであるかのような悪夢の様な人間。
 だが、それにしても、どうしてもこんなところでこんな化け物と出くわさなくてはいけないのか。

 「・・・あんた、何者?」

 膝を折り、下がらせた子どもの視線で彼女(どうやら少女だ)に声を掛ける男に、ユフィは低い声でそう言った。
 男が振り返り立ち上がると、騎乗にも関わらずユフィと視線が並ぶ。

 「すまない。君たちの獲物だったな」
 
 男はそう言って侘びを言ってから、抑えてはいるが明らかに覇気の篭った視線でユフィに言葉を続けた。

 「ルーディオロス狩りの分け前は要らないし、礼はする。近くの街まで送ってくれないか?」

 これをルーディオロスと知って立ち向かったのかと、ユフィは改めて呆れたのだった。

 「・・・いいよ。こっちこそ助かった。あともう少し狩りを続ける予定だったからね。私はユフィ。あんた、名前は?」

 ユフィの問に、男はほんの少し逡巡してからぼそりと呟くように言った。

 「ティガリウス。ガリュウと呼んでくれて構わない」

 それが剛剣の男ガリュウと”肉屋”ユフィの、最初の出会いとなるのであった。


続く

 



[24378] 第二話 ”肉屋”ユフィ
Name: ダイス◆af8d3fcb ID:a8042ed8
Date: 2010/11/17 20:53
第二話 ”肉屋”ユフィ


  「さぁ、脂の乗った特大のルーディオロスだ!なんとあの、”肉屋”ユフィの一味が仕留めた上質な嵐喰竜だぜ。牙は鉄よりも硬く。肉は並みの鎧より頑丈だ。それでいて肉は―――」
 「口上はいい!競りだ競り!」
 「オーケーオーケー!では3万スランから、皆々様。どうぞ!」
 「3万1千!」
 「2千だ!」
 「5千!」

 「活気がある。これが商人の町スラーナか」
 
 巨大な竜が競り落とされる様を、大きな男が腕を組んでみている。傍らには不安そうに男の服の裾を掴む少女。
 
 「そうだろう?うちの獲物が並ぶ日は、いつも盛況なんだ」

 そう言って、誇らしげに豊かな胸を張るのは”肉屋”の一団を率いる女傑、ユフィであった。

 ”肉屋”は危険と隣りあわせで、しかしそれに見合うリターンも大きく、そして多くの人々から尊敬を集める職業である。
 モンスターの素材は、鉄鋼業がそれほど盛んではないこの世界において主要な工業の材料となっている。
 上質なそれらは鉄よりも遥かに強靭でそれでいて加工しやすく、狩りが命がけであることを考慮しても、人類に不可欠な必需品となっていた。
 その需要に供給側はいつも追いつかず、だから強靭なモンスターの素材ほど高値がつく。

 しかしその殉職率は兵士や傭兵のそれよりも遥かに高く、まず布団の上で死ねる者はいない。それでもこの誇り高い職業を選ぶ若者は多く、そして彼らの多くが若者のまま死んでいく。
 
 「上がりの一部をギルドに払い込んだら手が空くから、そしたら街を案内してやるよ」
 「いや、そこまで厄介になる気は・・・」
 「いいだろ?こっちは獲物を仕留められたんだ。そのくらいさせてくれても?」

 ユフィが長身のガリュウを見上げるようにそう言うと、大男は苦笑しながら「わかった。頼む」と言った。

 「あれ?あんた、笑えるんだね」
 「ん?そりゃ、人間だからな」
 「人間、ね・・・。まぁ、笑えるのはいいことだよ。どんな時でもね。・・・母国が滅亡した時だって」
 「お前・・・!?」

 ガリュウがユフィを睨みつける。だがその時にはユフィの視線は競りに向けられていた。
 
 「競りが終わったら。そう言っただろ?」

 ユフィは決別するようにそう言って、もうガリュウに話しかけることはなかった。




 「あの子、寝ちゃったの?」
 「長旅は初めてだったからな。ずいぶん歩かせた」
 「おぶってやればよかったのに。あんたにとっちゃそんなに変わんないでしょ」

 ガリュウが宿を取って、その一室に少女を寝かしつけた後、彼はユフィと遅めの昼食を囲んでいた。

 「俺もそう言ったんだがな。自分で歩くと聞かなくて」
 「小さくても女よねぇ」
 「ん?」
 「んーん。何でもない」
 「ユフィ・・・」
 「ん?」

 豆とたまねぎのスープの皿が空になった頃、ガリュウはスプーンを置いて話を切り出した。

 「君は何者だ?」
 「それは私が最初に発した問いかけだけど?」

 ユフィの切り返しにガリュウは黙る。そして値踏みするようにユフィを見て、そしてふぅとため息をついた。

 「やめよう。俺に腹の探りあいは向かない」
 「そんなことしなくたって、誰もあんたに勝てやしないでしょ?ロードキアの雷神さん?」
 「・・・驚いたな。”肉屋”は耳も早いのか?」
 「私は特別なんだよ」

 そう言ってユフィは下をペロッと出した。

 ロードキア王国が滅亡したのはつい一月前のこと。仇敵イストワル帝国に敗れたロードキアはその首都まで攻め込まれ、王家はその殆どが殺害された。

 「王は滅亡に瀕して数人の縁者を呼んで彼の子ども達を託したって言うじゃない?傭兵として名高いティガリウスとかって言う名前の人も、誰か王の子を託されたとか?」
 「本当に耳が早いな」
 「どーでもいいけど、あんたが戦争に参加してれば、イストワルなんかに負けなかったんじゃないの?」
 「馬鹿を言え、万と万がぶつかる戦場では個人の武勇などなんのこともない。戦局は変わらなかっただろうさ」
 「そーかしらね」
 「何か言いたそうだな?」
 「べっつにー」

 「がりゅー」
 「おっと、すまない」

 ガリュウはユフィに短く詫びて声の方に向かう。そこにはパジャマ姿の少女が階段を下りてきていた。
 ユフィは短く口笛を吹く。
 美しい少女だった。貴族の令嬢ともなれば流石血が違うらしい。まだ10にも満たない年だと思われるが、その豊かな金髪や白い肌、そしてどことなく漂う気品は並の人間ではありえない。
 少女はガリュウに抱きつくと、なんとそのまますやすやと寝てしまう。竜すら断つ男ガリュウは苦笑して、少女を抱きかかえたままユフィの向かいの席に座った。

 「悪いな。このままでいいか?」
 「ずいぶん信用されてるな。涙の痕」
 「ん?」
 「あんたを探して泣いたんだよ。たぶん」

 ガリュウは言われて始めて少女の頬に伝う涙の痕に気付き、そして小さく苦笑した。

 「どうも子どもに弱くてな。甘やかしてしまう」
 「へぇ。雷神がねぇ」
 「まぁそう言うな。俺も人の子だ」
 「ふぅん・・・。どうでもいいけど、サラフィーナという名前は使わない方がいい」
 「・・・分かってる。サラと呼んでいる。君もそう呼んでくれ」
 「らじゃー」
 
 ユフィはそう言って骨付き肉をほおばる。
 
 「行くあてはあんの?」
 「ないな。サラにも希望はない。王には悪いが、御家再興の旗頭にするのも忍びない。普通の子として育てられればと思っている」
 「雷神に?」
 「・・・俺だって薄々無理だとは思っているが・・・。そんな風に言う事はないだろう?」
 「だってあんたその子に初潮が来たら対処できる?」
 「・・・人に聞く」
 「誰に?」
 「・・・」

 押し黙ってしまった雷神と呼ばれる男に、ユフィはこらえていたがやがて爆笑してしまう。

 「笑いすぎだ」
 「ご、ごめん、でも、だってあんた、雷神なのに・・・・っぷ。あははははは」
 「いい加減にしろ。この子が起きる」
 
 悔しげに顔を歪ませるガリュウに悪い悪いと言って涙を拭くユフィ。

 「で、私から提案がある。あんたにとっても悪い話じゃない。その子にとってもね」

 「・・・何だ?」
 「あんた、うちに雇われない?」

 ユフィの提案に、ガリュウは目を丸くする。

 「はぁ?」
 「いやぁ、あんたの腕っ節に惚れ込んじゃってさぁ。あんたがいれば狩りの成功率が飛躍的に上がる。もちろん給料も払うよ。命の額に見合う額を」
 「いや、しかしだな」
 「あんた、サラちゃん置いて傭兵家業が出来るとでも思ってんの?無理でしょ、そんなの?」
 「それは、そうだが」

 戦場に身を置く傭兵は、半年や一年平気で家を空ける。貴族の用心棒と言う職もあるが、サラのことがどこからか漏れないとも限らない。
 帝国とのつながりは極力絶たなくてはいけないのだ。

 「私ならあんたの力量に見合う給料が払えるし、うちの女衆にサラちゃんの面倒だって見させられる。それに、あんたとサラちゃんの事は私の胸の中に止めてあげる。どう?なんか文句ある」
 「迷惑がかかる」
 「はぁ?」
 「イストワルの連中に見つかってみろ。君たちに迷惑がかかる」
 「帝国が怖くて”肉屋”が出来るわけないでしょ。うちを潰すならギルド潰すくらいの覚悟いるけど?」
 「む、むぅ」
 「いいからうちに来なさいよ。何だったら私のこと、一晩自由にしてもいいよ?」
 
 そう言ってシャツを引っ張って胸元を見せ付けるユフィ。ガリュウは真っ赤な顔をしてその豊満な胸の谷間から目を逸らす。

 「うわぁ、純情・・・」
 「やかましい。・・・わかった。一年だ。一年間だけ厄介になる」
 「わお!本当に!言ってみるもんだわ。私の体につられた?」
 「いらんからな!君の体は報酬に含まなくていい。大事にしろ大事に!」
 「ちぇ・・・、まぁ、いいか」

 ユフィは不満そうに唇を尖らした後、思い直したように立ち上がってガリュウに掌を差し出した。

 「改めてよろしくガリュウ。”肉屋”砂楼団はあんたを歓迎する」
 「こちらこそ、世話になる。一年間だが、よろしくな」

 二人はがしりと握手を交わした。
 
 「本当に私の体いらない?」
 「く、くどい!」

 これより砂楼団は一層の活躍を見せ、その名を大陸中に広めることになるが、その事はまだ誰も知らない。


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こんにちわ。
「レジェンド オブ サーフィーリア」連載してるダイスです。
唐突に渋い男を書きたくなってUPしました。
LOSには渋い男分が足りなすぎる・・・。
あっちを放っとく気はないのでご安心を。

感想いただけたらありがたいです。
というよりLOSもあるので、この作品の更新は反響にかかっているかも(笑)
なにとぞよろしくお願いします!



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