水道事業:中小自治体悲鳴 財政難、進む民間委託

2010年9月19日 9時52分 更新:9月19日 10時26分

 中小自治体が上水道事業を民間委託するケースが増えている。水道事業に必要な費用はすべて水道料金でまかなうのが原則だが、人口減などで収益が悪化し、コスト削減を迫られているからだ。厚生労働省によると、民間委託の事業件数は05年の23件から今年4月には126件になった。しかし、高度経済成長期(1950~60年代)の人口増加に合わせて設置された水道管や浄水場は相次いで更新時期を迎えており、多額の更新費用をどう捻出(ねんしゅつ)するかという問題は依然解決できていない。【宍戸護】

 今月17日、群馬県太田市の道路。市の水道事業受託会社「アドバンスト ビジネス サービス」(ABS)で修理を担当する田島秀虎さん(59)が業者に声をかけた。「水道管はどっちを向いている。ガス管はあるか」。業者がシャベルで掘り、水漏れしている水道管を見つけた。

 市は07年4月、全国に先駆けて、これまで別々の企業に委託していた浄水場・管路の維持管理と料金徴収業を、年約12億円でABSに一括委託した。田島さんは地元で水道事業約40年のベテラン。これまで市職員が行ってきた現場管理を担当している。

 市はABSに委託する一方で、52人いた上下水道局の職員を半減させ、年1億~1億5000万円のコストを削減。それでも年約42億円の給水事業の収益は微減傾向だ。約1400キロある水道管は更新時期を順次迎えており、当初計画では今後2年間で約50億円が必要だが、費用の捻出は容易でない。

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 無人の浄水場に機械音が響く。岩手県中央部の紫波町。わき水をろ過して濁りや細菌を取り除き、1日約500トンを給水している。

 この浄水場は、町が資金を調達し、建設や運営は業者に任せる方式で07年にできた。維持管理費も含め、これまでにかかった総費用は町が運営した場合に比べ4割安く済んだという。他の水道施設の維持管理もこの業者に委託し、職員9人は事業計画などを担当する。職員1人当たりの給水収益は全国自治体で上位2割に入り、経営効率は決して悪くない。

 しかし、町内最大規模の揚水場を3年後に建て直す計画があり、事業費は約18億円。水道事業会計は35億円の赤字を抱えており、一般会計約120億円の町には大きな負担だ。町内にある約400キロの水道管は年約1キロ分しか交換できず、柳沢守・給水サービス室長は「このままではすべて更新するのに300年以上かかる」と嘆く。

 水道事業会計は水道料金を値上げすれば改善するが、行政施策に直結するだけに容易でなく、太田市は02年以降、紫波町も92年以降、据え置いたままだ。

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 上水道事業は自治体が長年独占してきたが、02年の改正水道法施行で「第三者委託」制度が新設された。受託者は技術管理者を置き、虚偽報告などをした場合には罰金が科される。委託する自治体側には▽技術を持った団塊世代が07年から大量退職した▽人事異動が2~5年であり、専門の職員が育ちにくい--といった背景がある。民間側にとっては▽自治体だけが持つノウハウを伝授してもらい専門性の高い社員を育成できる▽長期的に安定した収入が期待できる--などがメリットだ。

 全国の自治体などで構成する社団法人・日本水道協会の御園良彦専務理事は「自治体側には、民間企業に事故時の危機管理対応が十分行えるか、倒産したらどうするかといった心配がまだ根強いが、収益難の水道事業の公民連携は今後も避けて通れない」と話す。

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