【社説】「良心自転車」と市民意識

 蔚山市南区は今年7月、呂川河川敷の自転車道路に、自転車60台を設置した。管理人はおらず、レンタル帳簿もない上、カギもかかっていないため、誰もがいつでも無料で借りることができた。だが南区は、無人の自転車レンタルスタンドをわずか2カ月で撤去した。自宅まで自転車を乗って帰ったまま返さない人や、よそに乗り捨てるケースが相次ぎ、たちまち自転車が消えてしまったからだ。蔚山市北区も、今年8月に自転車26台を用意したが、1カ月もたたないうちにすべてなくなってしまった。

 蔚山をはじめ、幾つかの自治体が試みた「良心自転車」が、あちこちで頓挫している。市民の自律と良心で支えられなかったのが、その理由だ。身分証を預けるようにしたところ、300台ある自転車がそのまま残っている蔚山市中区のケースが、裏の事情を実感させる。

 地下鉄の駅や官公署が貸し出す雨傘や本も、返って来ないケースが常だ。地下鉄1号線から4号線を運営するソウル・メトロは、各駅に蔵書700冊から800冊の市民文庫を提供しているが、3カ月もしないうちに、5-20冊が残る有様となっている。共用のものを使った後、元通りに戻すというのは、口で言うほど簡単なことではない。しかし、自分が使ったのと同様に、ほかの人もそれを必要としていると思えば、できないはずはない。他人への配慮が市民精神の基本だ。

 今でも、走っている車の外に腕を突き出し、たばこの灰を払い落とすドライバーをよく見かける。さらには、平気で吸い殻を車道に放り投げる者もいる。後続車のドライバーは、急いで窓を閉めなければ、飛んでくる灰を吸い込むことになる上、火が付いたままの吸い殻が飛んでくることもある。暮らし向きは過去と比較にならないほど豊かになった一方で、市民意識はそれほど向上していないというわけだ。

 華川郡が2005年と06年にそれぞれ100台ずつ提供した良心自転車も、1カ月もたたないうちにすべてなくなった。それでも華川郡は、08年に再び自転車100台を面事務所とセマウル金庫に設置した。そのうち壊れたものも多いが、今度は辛うじて3年もっている。チョン・ガプチョル華川郡守は、来年も新たに100台提供する計画だ。良心自転車で市民の良心をテストするのではなく、それにより健全な市民意識を育てるという執念からだ。全国の無人レンタル自転車スタンドに提供される自転車が、欠けることなくきちんと整う日、自転車の前に付けられた「良心」という単語もまた、自然に受け入れられることだろう。

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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