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2010-11-17

忘れられた台湾 井上清論文とネット左翼の問題点

こういうことを書くとネット左翼に袋叩きにされそうだが、問題なことは問題であるとハッキリ指摘しなければならない。

昨今の尖閣諸島問題で忘れられがちな点だが、尖閣諸島の領有権は中国だけでなく台湾も主張している。だから「尖閣諸島は日本領なのか、中国領なのか」という議論の前提は間違っている。その間違いが露骨に表れたのが、一部のネット左翼の間における井上清論文の援用である。

釣魚諸島の史的解明

一部のネット左翼は井上清論文を援用して、「尖閣諸島は日本領ではない」と主張する。しかし井上清論文を無批判に援用することは、大いに問題がある。たとえば論文中の次の一節を見てみよう。

 『日本一鑑』は、一五五五年に、倭寇対策のために明朝の浙江巡撫の命により日本に派遣された鄭舜功(ていしゅんこう)が、九州滞在三年の後に帰国して著作した書物である。同書の第三部に当る「日本一鑑桴海図経」に、中国の広東から日本の九州にいたる航路を説明した、「万里長歌」がある。その中に「或自梅花東山麓 鶏籠上開釣魚目」という一句があり、それに鄭自身が注釈を加えている。大意は福州の梅花所の東山から出航して、「小東島之鶏籠嶼」(台湾の基隆港外の小島)を目標に航海し、それより釣魚嶼に向うというのであるが、その注解文中に、「梅花ヨリ澎湖ノ小東ニ渡ル」、「釣魚嶼ハ小東ノ小嶼也」とある。この当時は小東(台湾)には明朝の統治は現実には及んでおらず、基隆とその付近は海賊の巣になっていたとはいえ、領有権からいえば、台湾は古くからの中国領土であり、明朝の行政管轄では、福建省の管内に澎湖島があり、澎湖島巡検司が台湾をも管轄することになっていた。その台湾の付属の小島が釣魚嶼であると、鄭舜功は明記しているのである。釣魚島の中国領であることは、これによってもまったく明確である。こういう史料は、中国の歴史地理専門家は、さらに多く発見できるにちがいない。

尖閣諸島が「台湾の付属の小島」であるならば、尖閣諸島中国領ではなく台湾領ではないのか? なのに「釣魚島の中国領であることは、これによってもまったく明確である」とはどういうことなのだろうか?

結論から言ってしまえば、当時の左翼台湾中国の一部だと見なしていた。台湾独立論など無視していた。だから「台湾付属の小島」を中国領と見なせるのである。当時の左翼台湾独立論を無視していたことについては、森宣雄『台湾/日本 連鎖するコロニアリズム』に詳しい。

仮にそれを井上清氏の時代的限界だとしても、台湾独立論が当たり前に知れる現代にあって、井上清論文を無批判に援用することは中国帝国主義に加担することに等しい。台湾に対する中国の基本姿勢を「帝国主義」としないならば、日本の尖閣諸島領有の何が「帝国主義」になるというのだ。日ごろ「日本人の構造的加担」などに敏感なネット左翼が、井上清論文をなぜ無批判に援用できるのか。

さらに一部のネット左翼尖閣諸島の領有権を主張する中国反日デモを、「反帝国主義」と位置づけているが、お花畑もいい加減にすべきである。まさに中国政府が「釣魚島(尖閣諸島)は台湾付属の島」という論理で領有権を主張しているのだから、反日デモには「台湾中国の一部」という帝国主義が前提として織り込まれているのだ。これのどこが反帝国主義になっているのか。

近頃左翼から心が離れてきていたが、尖閣諸島問題の一件は、一部のネット左翼と完全に手を切ったほうがいいことを充分に認識させた。また、一部のネット左翼も私のブログを読むのは、もうやめたほうがいいだろう。コメントもブクマも受け付ける気はない。

rawan60rawan60 2010/11/17 17:41 井上清論文を「無批判に援用」して「釣魚は中国の領土だ」といっている左翼は、私の散見する中では見当たらないなあ。
「日本固有の領土」という前提は歴史的文脈において間違っているという意味で援用することあってもね。
井上の結論付けや詳細には左派からも疑問が呈されています。それを認めた上での援用です。
彼の目的は、当時専門の歴史家が行ってこなかった、自身による具体的な検証によって史的経緯を解明し論争を巻き起こすきっかけをつくろうとするものだったと思います。そしてそれは学界の権威によって見事にスルーされてしまったわけです。
井上論文は、そもそもそういう過程を経たものであって、いわば提言であり、未完であり、ひとつの指針のようなものです。そういう観点から捉えられなければならないし、私はそれが左派から評価されていると思っています。
まあ、左翼もいろいろですから、いろんな評価はあるんでしょうけどね。

uedaryouedaryo 2010/11/17 18:55 rawan60さん。

 私は井上清論文を無批判に援用した人のコメントは受け付けないと宣言したのですが、理解できなかったのでしょうか?
 「受け付けない」といったにもかかわらずコメントしてくる行為は、ストーカー的です。rawan60さんがまさにストーカー的であることの証拠としてコメントを承認しておきますが、これが最後ですよ。以後は一切読まずに削除します。
 反論自体も、白々しく見えます。私の主張の一部に対し、のらりくらりと矛先をかわしただけに感じます。たとえばArisan氏のように、「井上の「中国領」だという主張の仕方にも、今日の視点からすれば疑問の余地があろう」と留保をつけることはいくらでも出来た。
http://d.hatena.ne.jp/Arisan/20100930/p1
 けど私の見たところ、そんな留保抜きのものは多かった。それを問題にしたのです。

uedaryouedaryo 2010/11/17 19:03 >また、一部のネット左翼も私のブログを読むのは、もうやめたほうがいいだろう。コメントもブクマも受け付ける気はない。

 私がなぜこのように宣言したかというと、ネット左翼とはあまり論争したくなかったからです。今までネット左翼に対して、批判したいこともあったけど、我慢して黙ったこともありました。だからもう、ネット左翼からの批判も受け付けず、黙って去ってもらおうと思ったのです。

mojimojimojimoji 2010/11/17 21:27 結局「どっち領か」という話は、どちらに帰属させても「帝国主義的」の謗りを免れないだろうと思います。この記事には、僕は、結構同意できる点は多いです。

台湾が尖閣領有主張を前提するなら、それは「中華民国として」ということになるんじゃないかと思います。そうだとすれば、中華人民共和国との正統性争いの結果次第で「どちらにせよ中国のもの」と主張することになるんじゃないかと。他方、台湾の独立論を前提するなら、尖閣領有主張は矛盾するんじゃないかと。領有権の確定ではなく、共同開発という選択肢に進むなら、台湾も含めた枠組になるでしょうね。

しかし、中国の反日デモを「反帝国主義」といっちゃう人がいますか。それは驚きました。

hituzinosanpohituzinosanpo 2010/11/17 22:21 記事の趣旨は いいんですけど、「コメントもブクマも受け付ける気はない」というのは やめませんか。

なにかを かくということは、それにたいする反応を、いやでも なんでも うけとることになります。かくということは、そういうことです。そこは、覚悟を もつべきです。

相手にする価値があるコメントなら、相手をする。そうでないなら無視をする。それで いいじゃないですか。しんどいですけどね。

30代リーマン30代リーマン 2010/11/17 22:41 「日本の尖閣諸島領有を帝国主義的なプロセスによるものとして否定するのであれば、中国の帝国主義的なプロセスによる台湾領有(ひいては台湾を介した尖閣諸島領有)も同列に否定すべきである」(解釈に間違いがあればご指摘下さい)

極めてまっとうなご意見であると思い、感服しました。またこのエントリを読むまで台湾が領有権を主張している事を失念しており、日中間だけの問題と思い込んでいた事を反省しております。不勉強でした。

ただ上述のrawan60さん宛てのコメントについて一言言わせて頂きたいのですが、

>「受け付けない」といったにもかかわらずコメントしてくる行為は、ストーカー的です。
流石に「ストーカー」という表現はいかがなものでしょうか?私はrawan60さんの事は良く知りませんが、結構前からこちらのブログに出入りされている方のようですし、一種の常連と言っても良いような気がします。uedaryoさんがそれをご迷惑と感じられる事そのものは自由ですが、「ストーカー」という言葉はある種の病的なニュアンスを含む為、このようなレッテルを貼られたら人によっては深く傷つくかも知れません。言葉狩りをするつもりなど毛頭ありませんが、このような過剰な表現を使わずともrawan60さんにご自身の意見を伝える事は可能だったような気がします。

何だか上手い言葉が浮かばず、変な文章になっていましたらすみません。お気に召さないようでしたら、このコメントは未承認のまま削除頂いて結構です。

uedaryouedaryo 2010/11/17 23:08 30代リーマンさん。

>「日本の尖閣諸島領有を帝国主義的なプロセスによるものとして否定するのであれば、中国の帝国主義的なプロセスによる台湾領有(ひいては台湾を介した尖閣諸島領有)も同列に否定すべきである」(解釈に間違いがあればご指摘下さい)

 清王朝時代の台湾領有を指しているんでしょうか? なら違います。この数十年中国は台湾を「中国の一部」とし、絶えず台湾独立論やそれに類する発言を封殺、さらには軍事的威嚇まで加えてきました。その歴史と振る舞いを「帝国主義的」と形容したのです。
 そして井上清論文が、それに加担する結論になっていることを批判したのです。
 清王朝時代の台湾領有をどのように考えるかといえば、詳しくないので手に余ります。

>流石に「ストーカー」という表現はいかがなものでしょうか?

 あー、たしかに頭に血がのぼっていたようですね・・・。
 「ストーカー」は悪かったかなぁ、「ストーカー」は・・・。うーん・・・。

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