新潟県の信濃川と阿賀野川の下流域に地平線まで続く広い平野があります。やがて白一色に覆われる大地、初冬の蒲原平野。ここを舞台に描かれた風景画、佐藤哲三・作『みぞれ』。
その作品は、東京駅の駅舎にあるステーション・ギャラリーで行われた展覧会に出品されました。個人の展覧会の多くは、画家の人生を辿るように作品が並びます。少年期、青年期、そして晩年。今回紹介する『みぞれ』は、展覧会の最後の壁に収められていました。
1953年に描かれたこの作品は、キャンバス一面に灰褐色の世界が広がっています。
厚く垂れ込める雲、ぬかるむ土の感触、冷たいものが降っているかのような重い大気。
空と大地とが渾然一体となり、その狭間の並木道を人間の一群が急ぐように歩いています。雲を切って輝く朱色をしたバーミリオンの夕日が消える前に、温もりのある家に帰るために。
佐藤哲三はデビュー当時、天才少年と騒がれた画家でした。しかし、やがて画壇に背を向け、生涯を新潟の農村で生きたため、いつしか人々の記憶から消えていきました。44年の短い生涯を駆け抜けた彼の絵は、今も見る者を捉えて離しません。粘りつくような絵の具のうねりの中に、彼は何を託したのでしょうか。
蒲原平野にある静かな城下町、新発田市は、佐藤哲三が幼少期を過ごし、画家になるため切磋琢磨した町です。4歳の時に脊椎カリエスに罹った哲三は、東京美術学校に入学した兄の影響を受けて油絵を始め、小学校を出ると画家を志します。
13歳の時に初めて描いた油絵は、妹の肖像画です。
哲三は20歳で亡くなった画家の関根正二に憧れ、彼のバーミリオンに魅せられていました。佐藤哲三は、その温かなオレンジ色を生涯追い求めていくことになるのです。
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