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[24325] ミックス・アップ(ネギま×天元突破グレンラガン紅蓮学園篇)
Name: ぶらざー◆79ab137b ID:b5278b05
Date: 2010/11/17 00:27
よろしくお願いします。


グレンラガンに天元突破されて投稿しました。こんなのグレラガじゃねえと思われた方は申し訳ありません。

別のサイトでの投稿がメインなため、ペースがまちまちですが、いつの日か魔法世界編までやりたいです。



以下は注意事項になります。


・メインはネギとシモンです。

・ネギま、グレンラガン、両方の原作をまったく知らない人には分からない内容になっています。

・後々シモン視点で物語は進みます。

・天元突破グレンラガンではなく、天元突破グレンラガン紅蓮学園篇とのクロスなため、キャラの性格が違うと感じるかもしれません。

・合体や螺旋力の設定はあまり定まっていないため、チートと感じる場面があるかもしれません。


それでは、よろしくお願いいたします。



[24325] 第1話 登校しやがれ
Name: ぶらざー◆79ab137b ID:b5278b05
Date: 2010/11/17 00:29
「えええーーーーッ!? 僕が他校で研修ですかッ!?」



それはあまりにも突然のことだった。


「うむ、ネギ君が研修に行っておる間は、タカミチが君のクラスを面倒みる」


淡々とした口調で告げる学園長だが、額に汗をかいている。よっぽど何かがあったのだろう。


「ど、どうして僕が!? 研修って、僕何すればいいんですか!? それにこんな急に!?」


当然ネギはあまりにも突然の辞令で納得できない。

教師としての仕事も慣れ、クラスの人たちとも仲良く、そして楽しく、時には様々な問題も乗り越えてきた。

今のところ波乱万丈でありながら順風満帆に麻帆良女子中での教師生活にも慣れ、父のような魔法使いになるという目標に向けた鍛錬との両立もしている。

それが今になって短期間とはいえ他校に行けというのだ、直ぐに頷きにくい内容だった。


「い、いや・・・のう・・・ちょっと委員会で問題になってのう。いかに学力があるとはいえ、10歳の子供にクラスを任せていいのかどうか・・・確かに君の評判は良いが、身内びいきなのではないかと・・・」


「えっ、今さらですか!?」


学園長の言いにくい理由には、それがあった。いかに天才とはいえ10歳の少年にクラスを任せていいのかということだ。だが、ネギにとってはあまりにも今更すぎる問題ゆえに、思わずツッコミを入れてしまった。


「う、うむ。そこで協議の結果、君には2週間だけじゃが他校で授業をしてもらい、教師としてふさわしいかどうかの評価が下される。ワシも粘ったんじゃが、しばらくは重要な行事も無いので仕方ないと・・・」


「ええっ!? じゃあ、その評価がダメだったら、どうなるんですか!?」


「・・・・・・・・・・・だ、大丈夫じゃ。研修と言っても、普通に英語の授業をしてくれればよい。君は教え方は丁寧じゃから大丈夫じゃ!」


グッと親指を突き立てて断言する学園長だが、明らかに様子が変だ。何か更にまずいことを隠しているような顔だ。


「あの~・・・学園長・・・」


「なんじゃ?」


「何か隠していませんか?」


「ギックーーウ!?」


「ええ!? 何かあるんですか!?」


あまりにも古典的すぎる反応で、不安がさらに深まった。ネギも不安そうに身を乗り出すが、学園長もハッキリとしたことを言わない。


「・・・・研修先は麻帆良敷地内にある高校の一年生クラスじゃ。一応麻帆良敷地内ではあるが、研修中は向こうの寮で生活してもらうのでそのつもりで・・・」


「サラッと流さないでください! って、しかも高校生相手ですか!?」


食いつくネギを、頼むからこれ以上聞くな、さあ行った行った。といった感じで学園長室から追い出す。


「な、なに、大丈夫じゃ! 君なら出来る! たまには、ほれ・・・教師としての経験を積むには良い機会じゃ。あっ、くれぐれも魔法はバレんようにのう。アスナ君や木乃香にはちゃんと伝えておくから、2週間という期間じゃからがんばるように! ホレ、この紙に書いてある学園じゃ。後のことは向こうの人が世話してくれることになっておる」


「ちょちょちょちょーーーッ!!」


「では、グッドラックじゃ!」


爽やかな笑みでネギを学園長室から追い出す学園長。

パタンと部屋の扉を閉めて、静かになった学園長室で深くため息をついて、椅子に腰を下ろした。


「ふい~・・・ネギ君には気の毒な事をしたの~・・・しかし、公平性のために研修先をくじ引きにしたのがまずかったの~」


お茶を啜りながら、不安そうな学園長。


「よりにもよって・・・・・・あそことはのう・・・」


















麻帆良学園都市。


その広大な敷地内には、保育園、初等部から中等部、高等部、さらには大学部まで存在し、それだけに留まらず研究所などの施設まで揃っている。更には学生寮や住宅街、商店街、教会、神社なども集積した世界有数の超巨大な学園都市である。


しかしその広大な学園都市の中で一つだけ、ポツンと端っこの端っこに一つの高校が存在した。


本来、本校へはエスカレーター式の麻帆良学生生活において、あまりにも素行の問題や出来の悪い生徒たちはだけが集められる流刑島のような学校。


その名も・・・・


「ここが・・・麻帆良ダイグレン学園か・・・本校とは別にこんなところにも高校があったなんて・・・」


麻帆良ダイグレン学園。

麻帆良本校の高校にエスカレーターで上がれなかった問題児たちだけが集う学園。

学園都市の豊富な施設などからも遠く、まるでここだけ独立したようにポツンと存在する学園だ。

もっともネギにそんな情報を知っているはずもなく、ネギは今日から短い期間だが務めることになった学園を見上げて呟いていた。


「何だかんだで来ちゃったけど・・・ここが今日から僕が働く所か・・・ど~しよう、アスナさん怒ってないかな~。老子やマスターの修行も休むことになるし・・・」


校門の前で今日から仕事をすることになる、ダイグレン学園を見上げながら、ネギは少し憂鬱そうに溜息をついた。


「それに・・・なんかここ・・・すごい個性的な学校だな・・・校門がスプレーでアートされてるし、・・・ヒビが入ってボロボロだ・・・校舎も・・・」


第一印象からネギは、いきなりこの学園に不安を覚える。

普段自分は、校舎も綺麗で設備も非常に整い、素敵な女性たちで溢れている女子校の担任をしていただけに、校門にいきなりスプレーで「喧嘩上等! 10倍返し!」「俺たちを誰だと思ってやがる! 夜露死苦!」などと落書きされていたら、憂鬱にならない方がおかしい。

むしろ、自分が今までいかに恵まれた環境に居たのかが骨身にしみて分かった。


「はあ~~」


そうやって校門の前で深々と溜息をついていると、校庭を横切って奇妙な口調で誰かが話しかけてきた。


「あら~ん、随分可愛い坊やね~ん! ひょっとしてあなたが噂のネギ君かしら~ん? 話はきいてるわ~ん」


そこには、ネギが生まれて初めて見る性別が居た。


「えっ、え~と・・・そうですけど、あなたは?」


「私はリーロン。ダイグレン学園で一番偉い人よ~ん。それにしても本当に10歳の子供だなんて、う~ん、可愛いわね~ん。食べちゃいたい♪」


ゾゾゾゾゾと全身の鳥肌が立った。

鬼とか悪魔とか真祖の吸血鬼などこれまで見て来たネギだが、たかが数秒会話しただけで、クネクネとするリーロンに恐怖を覚えた。


(な、なんだこの人・・・こ、怖さの・・・種類が違う)


ガタブルしているネギに、余計に上機嫌になるリーロン。

これ以上ここに居たら、何だか本当に食べられてしまうのではないかと、ネギは恐怖に震えた。

しかし、幸運なことにここに来てチャイムが鳴った。


「ちっ・・・あらやだん。もっとお話ししておきたかったのに、無粋な鐘ね。明日から10分遅らせようかしらん」


「え、ええ~~! そんなことしていいんですか!?」


「うふふ、本気にした?」


「・・・うっ・・・」


流し眼でウインクしてくるリーロン。ネギは顔を青ざめさせて本当に帰りたくなった。

すると、チャイムが鳴ったのを合図に、ジャージ姿の一人の教師が走ってやって来た。


「おおーーい、リーロン校長!」


「あらん、ダヤッカ先生」


「まったく、もうチャイム鳴りましたよ。・・・おっと、そちらが今日から研修に来たネギ先生かい?」


「あっ、は・・・はい! ネギ・スプリングフィールドです! 担当教科は英語です。短い間ですが、よろしくお願いします!」


ネギはキリッと礼儀正しく挨拶をしながら、内心ホッとしていた。


(良かった・・・普通の先生が居た)


学校の第一印象に加えて、気味の悪いリーロンに会い、ネギは不安で仕方がなかったが、ダヤッカといういたって普通の教師の存在は、砂漠のオアシスだった。

だが、礼儀正しく挨拶をしたネギに対して、ダヤッカは無言だった。

あれっ? と思い顔を見上げると・・・


「うう・・・・ううううううう」


ダヤッカは泣いていた。


「あの~・・・ダヤッカ先生?」


「い、いや、すまないネギ先生! ちょっと感動してしまって!」


「えっ?」


「最近は10歳の子供でもこんなに良い子が居るだなんて・・・あいつらに見習わせてやりたい!」


「・・・・・・へっ?」


何と、挨拶だけで感動されてしまった。


「ネギ先生。この2週間は大変なことになるかもしれない、だが、いつでも相談してくれたまえ、俺はいつでも君の力になる!」


ゴシゴシと涙を拭いたダヤッカは、ネギの両手を握って力強くそう告げた。

何だかよくわからないが、とにかくダヤッカは変な人ではない。むしろとても親切な人だとネギもうれしくなった。


「はい! よろしくお願いします!」


「あらん、さっそく仲良くなって、妬けるわねん」


力強く返事をしたのだった。


(良かった。最初は不安だったけど、こんな良い先生も居るんだし、きっと大丈夫だ)


最初は少し不安だったが、ダヤッカの存在が気持ちを楽にさせてくれた。

よしっ、自分も頑張ろう。新天地でネギが決意した。

しかし・・・


「ダーリーン!」


「・・・・・・・へっ?」


「キ、キヨウ!?」


一人の女生徒がダヤッカに飛びついた。

金髪でプロポーションの良い生徒が、朝っぱらから教師に抱きついた。


「こ、こらキヨウ。学園では先生だろ」


「も~、あなたってばそういうところは真面目なのね。でも、そんな所が私も好きになったんだけどね♪」


「こ、こら・・・からかうな」


「ふふん、じゃっ私はもう行くから、遅刻扱いにはしないでね♪」


「・・・あっ、こらーーー! それはしっかりと取るぞーー!」


少しデレデレと鼻の下を伸ばしながら怒るダヤッカだが、まったく怖くない。

それにしても生徒にここまで堂々と抱きつかれたり好きだと言われるなど・・・・いや、ネギもそうだった。「ネギくーーん」「ネギせんせーが好きです」と言われたり、あまつさえ仮契約でキスまで済ませたりしている。


「ダヤッカ先生って生徒に人気あるんですね」


ネギがほほえましそうにダヤッカに告げた。

だが・・・



「ううん、違うわよ、ネギ君。キヨウは確かに生徒だけど、実はダヤッカの奥さんでもあるのよん」



「へ~、奥さんですか~だから・・・・・・・・・・・・・・へっ?」



「二人は結婚してるのよん」



サラっとリーロンがとんでもないことを言った。


「さっ、もうすぐホームルームが始まるわん。君のクラスに案内するわねん」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


やはり不安になるネギだった。






校舎を外から見て、中を色々と想像できたが予想以上にひどい。

壁の落書きや、穴が開いている壁、ヒビだらけの廊下に壊されている扉など、ボロボロもいいところだった。


「ごめんね~ん、中々予算が回ってこないから修理の費用や設備に回せるお金が無いのよん。まったく、失礼よね。ロボット開発につぎ込むお金があるなら問題児を更生させることにお金を使えっての」


「は、はあ・・・・」


麻帆良学園都市に初めて来たとき、なんて素晴らしい場所なのだとネギは思った。

広大な敷地に活発な生徒。そんな生徒たちが存分に能力を発揮させられるための設備などは完璧と言っても良かった。

しかし、同じ学園都市内だというのに、ここまで差があるのかと思ってしまうオンボロ校舎に、ネギも驚きを隠せなかった。


「さっ、ここがあなたの担当するクラスよん」


「は、はい!」


教室の前に着いた瞬間、ネギは背筋が伸びた。どんな生徒がいるか分からず、若干緊張気味だ。


(どんな人たちだろう・・・そういえばここって共学だから、男子生徒も居るんだ・・・僕初めてだな・・・ちゃんと出来るかな~・・・)


初めての場所、初めての人、初めての経験。ネギは少し緊張したが、直ぐに顔を上げてキリッとした表情をする。


(大丈夫、自信を持って。僕は先生なんだ。やることは変わらない! 元気良く行くんだ!)


リーロンが教室の扉を開けて自分も後に続く。

そして足早に教壇の前に立ち、元気いっぱいの声で挨拶する。



「きょ、今日からこの学園で少しの間ですが、皆さんとお勉強をすることになりましたネギ・スプリングフィールドです! 担当教科は英語です! 短い期間ですがよろしくお願いします!」



言った。少し噛んだが言い切った。

深々と頭を下げて、ネギは最初の挨拶をこなした。

だが・・・


(・・・・・・あれ?)


反応が返ってこなかった。

自分の本来のクラスならばここで大騒ぎになるのだが、ちっとも自分に対して生徒たちが何も言ってこなかった。


(アレ? 僕・・・何か変なこと言っちゃったかな?)


ネギは恐る恐る顔を上げ、クラス全体を見渡した。

そして、あっけに取られた。


「・・・・・・・えっ?」


ネギは自分の目を疑って、ゴシゴシと擦ってもう一度メガネを掛けなおして教室を見渡す。だが、先ほどと何も変わっていなかった。


「あ、・・・・あの~・・・リーロン先生・・・・」


「う~ん、今日は一段と少ないわね~ん」


というか指で数えられる程度しか居なかった。

そう、生徒が少ないのである。

それもただ少ないのではない。圧倒的に少ないのだ。

机の数は麻帆良女子中等部の自分が担当してたクラスと同じぐらいある。にもかかわらず出席者が少ない。

そう、生徒が全然出席していないのである。

これにはネギも驚かざるを得なかった。



「あの~・・・・・・・みなさん風邪ですか?」



恐る恐るネギはリーロンに尋ねる。するとリーロンは驚くどころか、さも当然のように答えた。


「ううん。どーせ遅刻とサボりじゃない? っていうかホームルームなんかに真面目に出席する奴なんて居ないわよん♪ あっ、因みにネギ先生はこのまま一時間目はこのクラスで授業だけど、まあ、こんなに朝早くに来る子なんて全然居ないから、気楽にやっていいわよん」


「えっ、ええええーーッ!?」


やーねーバカねーと言った感じで告げるリーロンだが、ネギにはあまりにも信じられないような光景だった。


「ちょっ・・・ちょっ・・・ええっ!?」


確かに遅刻やサボりは自分のクラスでもあった。

アスナたちと一緒に走って学校に行ったり、授業をサボるエヴァンジェリンなり、それも学園生活の一つだと思っていた。

だが、生徒がここまで居ないなどありえないだろう。


(うそ・・・ど、どうしよう・・・これが学校教育で問題の学級崩壊なのかな・・・、3-Aの人たちは色々と問題起こすけど、みんなちゃんと学校に来てたし・・・うう~~、どうすればいいのかな~)


(あらん、この子・・・おどおどしちゃって・・・マジで可愛いわねん)


(オマケに相談しようにも・・・この人・・・怖いし・・・)


何と研修どころか生徒が居ないなどという展開は、ネギにとっては予想外以外の何物でもなかった。

こんな状態で自分はこの学園で一体何をすればいいのだと、いきなり壁にぶつかってしまった。

しかも相談しようにも、今のところ知っている教師は自分を涎を垂らしながらトロンとした目で見てくるリーロンと、在学生と結婚しているダヤッカ。自分もクラスの女性に告白されたり仮契約上キスしたりしてしまったが、問題のレベルが違いすぎる感覚に襲われていた。


「さっ、後は任せたわよん。また休み時間にね~」


「あっ、あの・・・・・・・行っちゃった・・・・」


さて、どうするべきか。

何十人も入る教室で、朝からいきなりこんな展開が待っているなど、予想外だった。


(ウウ~~、どうしよう・・・)


教壇でネギがず~んと肩を深く落としたその時、一人の男子生徒が手を上げた。


「あ・・・あの~・・・・・」


「は、はい! え~っと・・・あなたは・・・・」


慌てて顔を上げると、手を上げていたのは高校一年にしては少し幼さがあり、まだ中学生といったほうがしっくりくるような少年。

それ以外に特に特徴も無く、特に人をひきつけるような外見でもなく、背も高いわけでもない、ひたすら普通の学生が遠慮がちに手を上げていた。

ネギに問われてその少年は答える。


「あっ、はい。ええ~っと、俺はシモンっていいます。・・・その~・・・先生はどうみても子供にしか見えないんだけど」


その男の名はシモン。気も弱そうで、クラスの窓際の一番後ろから二番目の席に居た。

ただ、シモン自身に特徴も目立つ要素も無いのだが、彼もまた非常に目立った。

いや、そもそも現在クラスに人は少ないのだから目立って当然なのだが、そういう意味ではなかった。

何故ならシモンの隣には、シモンの机と自身の机をピタリと付けて、シモンの腕に抱きついて幸せそうにしている女生徒が居たからだ。

しかも可愛い。

ものすごく可愛い。


(うわ~・・・隣に居る女の人、すごい可愛い人だな~)


普段女生徒に囲まれているネギですら一瞬見とれてしまったぐらいだ。この時ネギは一瞬シモンのことを忘れてしまった。


「あの~・・・・」


「あっ、はい! え~っと、シモンさんですね。そ、そうです。僕はまだ10歳の新米教師です」


「ええーーーっ、10歳!?」


普通はこの時点で学校中が大騒ぎになるほどの反応で、麻帆良女子中等部では赴任初日にクラス中からもみくちゃにされた。

しかし今はそんなことはない。

ほとんどの生徒が登校していない上に、何とかホームルームに出席している数少ない生徒たちも興味なさそうに隣同士でダベッたり、ゲームをしたり、机に突っ伏して爆睡している。

っというか驚いているのはシモンぐらいだった。

すると、驚くシモンの隣で、シモンに抱きついている可愛らしい女生徒が不思議そうに顔を上げた。


「新・・・米? まあ、それは新しいお米のことですか? それはおいしいのですか? シモンも食べてみたいですか?」


「・・・・・・・・えっ?」


ネギの目が点になった。


「ち、違うよニア。新米っていうのは新人のことだよ。つまりあの人は教師になったばかりってことだよ」


「まあ、では私と同じですね。私もシモンの新米妻です!」


そう言って女生徒はまたシモンに抱きついた。


「ちちちち、違うよ! 何言ってるんだよ!」


「ん~~、シモン。さあ、夫婦の愛を確かめる、早朝合体です!」


シモンにキスをねだる様に唇を突き出して、シモンに顔を近づける。シモンは顔を真っ赤にしながら、キスから逃れようと後ろに体を逸らしている。


「ひゅーひゅー、シモン、朝から熱いじゃん! ウチの兄ちゃんと違ってモテるな~」


「ん~、私もダーリンとキスしたくなっちゃった」


先ほどのキヨウという生徒と、もう一人の生徒がシモンと女生徒を冷やかして、シモンがかなり戸惑っている。

対してこの光景を眺めながら、ネギも先ほどの女生徒の発言に目が点になっていた。


「え・・・え~っと・・・妻?」


そう呟いたとき、女生徒はパッとシモンから離れて、ネギに深々と礼儀正しく一礼した。


「あっ、はい。私はニア・テッぺリン。ごきげんよう、ネギ先生。私はシモンの妻です」


「あ、あなたも学生で既に結婚してるんですか!?」


「ちちち、違うよ! ニアが勝手にそう言ってるだけで・・・お、俺とニアは結婚なんてまだ・・・・」


「ふふ、お互い新米同士、これからよろしくお願いします」


くるくると巻いた長い髪に、白い肌、手足は細くしなやかで、とても可愛らしくニアは笑った。

少し普通とは違う世間知らずなお嬢様のような印象を受ける。だが、それでもネギは心のどこかで感動した。

だが・・・


「ん? っていうか何で子供がこの教室にいるんだよ?」


「あっ、そういえば。ね~、その子誰?」


「へっ?」


先ほどシモンを冷やかした生徒たちが教壇に居るネギを見て不思議そうに首をかしげた。


「えっ、で、ですから先ほど自己紹介を・・・・」


「あっ、ごめ~ん。教室入ったら私たちたいてい黒板とか教師とか見たりしないから、気づかなかったわ。それで、坊やはどうしてここに居るの? 迷子?」


「え・・・・えええ~~~!?」


ネギが教室に入ってから今に至るまでの話をまったく聞いていなかった。

というか眼中に無かった。

もはや麻帆良ダイグレン学園恐るべしと、ネギは再び不安に襲われた。そして、泣きそうになってしまった。

そんなおどおどしているネギを見かねて、一人の男が立ち上がった。


「やめたまえ。挨拶をされたのに、聞いていないなんて無礼にもほどがあります」


キリっとした瞳にオールバック、衣服の乱れている生徒たちの中で唯一しっかりとした制服を着用して身だしなみも整っている生徒が立ち上がった。


「あ~あ、これだからロシウは頭がかて~んだよ。いくら風紀委員だからってさ~」


「キヤル! いい加減にしないか、兄妹そろってクラスを乱すな!」


「ちぇ、は~い」


ネギはこの時、奇跡を見た。

このような場所にこれ程真面目な優等生が存在するなど、むしろ天の救いだった。


「お恥ずかしいところをお見せしましたネギ先生。さて、先ほどのシモンさんの質問ですが、先生は10歳と・・・先生の学力がどれほどかは知りませんが、まあ、この学園の偏差値を考えれば特に問題は無いでしょう。自分の名前を書けさえすれば受かる所ですから・・・」


「へん、よく言うよ! お前だってここに居るじゃんか!」


「僕は進学試験で体調を壊しただけです! 編入試験の時期になれば直ぐにでもここを出ます!」


何やら色々とこのロシウという男は不幸と悩みに日々頭を抱えているのだろう。まだ高校生だというのに、少しオデコが広い。

だが、それでも真面目な生徒が居てくれることはうれしいことだ。

だからネギも問われた事にはちゃんと答える。


「はい、では僕がまずここに来た経緯からお話します。それは・・・・・・」


ネギは自分のこれまでの事を話そうとする。

この時ばかりは、数人の生徒たちも教壇のネギに目を向けて、10歳の少年の事情を聞くことにした。

だがその時・・・・




「うおりゃああ! 燃える太陽天まで登りゃあ、起きた気持ちも天目指す! カミナ様、ただいま登校だ!!」




教室の後ろのドアが蹴破られた。


(う、うわ~~~ん・・・また変な人が来たよ~~~)


その男、肌の上から直接に長ランを纏い、V字型のサングラスを掛け、いかにも男臭い男臭が漂う男。


「おう、シモン! 朝から男をしてるじゃねえか!」


ニアにベタベタ抱きつかれているシモンに、親指をグッと突き立てて、その男は笑った。


「アニキーーッ、何でいつもいつも普通に入って来ないんだよー! 何回ドアを壊せばいいんだよ~」


「馬鹿やろう! 男の前に扉があったら何をする? ノックか? 恐る恐る開けるか? 違うだろ、扉ががあったらまずはぶち破る! それが俺たちのやり方だろうが、兄弟!」


「手で開けろってことだよーー!」


シモンがアニキと呼ぶカミナという名の生徒。

遅刻していることなど微塵も気にするどころか、ドアをぶち壊した。再びネギの涙腺に涙が溜まった。

そして・・・


「あ~~あもう、うるさーーーい! 人が寝てるのに、いつもいつもうるさいのよ、カミナ! ここんとこ、ずっと私は部活の助っ人で疲れてるんだから、静かにしなさいよね!」


今度は今までずっと寝ていた女生徒が起きて、いきなりカミナに怒鳴り散らした。


「おうおう、これだからデカ尻女はよ~。デカイのはケツと胸だけで心は小せえな、ヨーコ」


「だ、誰が! 大体あんたといい、キタンといい、留年ばっかしないでさっさと卒業しなさいよね! っていうか進級ぐらいしなさいよね! 弟分とか妹と同じ学年で同じクラスとか、シャレにならないわよ!」


「か~、細かいこと気にしやがって、・・・それがどうした! 俺を誰だと思ってやがる!」


女性の名はヨーコ。赤い髪に鋭い瞳、大人びたプロポーションでありながら、美しさと少し幼さを感じさせる女だった。


「もう、アニキさんもヨーコさんも喧嘩はやめてください。今、新米先生の挨拶ですよ?」


ギャーギャー口論をするカミナとヨーコの間に、ニアが仲裁に入った。


「も~、ニアもこいつを甘やかしたらダメよ。直ぐ調子に乗るんだから。幼馴染の私が言うんだから、絶対よ。だからあんたも甘やかさないの。でないと、あんたのシモンもこいつに巻き込まれてとんでもないことになるわよ?」


「ったく、ヨーコはニアと違って男ってものを分かってねえ。ッてそうだ、ニアで思い出した。シモン、今朝テッぺリン学院の番長四天王のチミルフが麻帆良に乗り込んで喧嘩ふっかけて来やがった。手を貸せシモン!」


「えええ!? 無茶だよアニキーーーッ!」


「バカ野郎! テメエは自分を誰だと思ってやがる! 今はキタンたちがやってるが、かなり奴らも手ごわい! 加勢に行くぞ! ニア、シモンは借りていくぞ!」


遅刻に器物破損に違反制服の次は、早退に喧嘩。校則違反のオンパレードだった。


「冗談じゃないわよ! シモンの幼馴染として、そんなことは絶対にさせないわ!」


シモンを引っ張って無理やり連れ出そうとするカミナからシモンを引き離し、ヨーコはその豊満な胸の中にシモンを抱き寄せた。


「ヨヨ、ヨーコ!? むご・・・ごもごもごも」


「シモンのお父さんに頼まれてるんだから! シモンを喧嘩とかそんな危ない目には合わせないわ!」


「か~、これだから。テメエはシモンのことをな~んにも分かっちゃいねえ。男には引くに引けねえときがあるんだよ! 敵はテッペリン学院だ。あの理事長のハゲ親父の命令でニアを取り戻しに来たんだ! ニアを守るための戦い、シモンがやらねえで誰がやる!」


「そんなのあんたたちで勝手にやってなさいよ! 敵が来たら、シモンもニアも私が守るわ! 大体学園敷地内で喧嘩したら、また高畑に怒られるわよ!」


「む~~、もごもごもご!?」


シモンを胸にうずめてヨーコは放さず、カミナと口論の真っ最中だ。シモンはヨーコの胸の中で呼吸が出来ずに苦しそうだ。

キヤルやキヨウはヨーコとカミナの喧嘩を「夫婦喧嘩か?」と言ってからかう始末。

しかしその時だった。


「・・・・・・・・・・・ヨーコ・・・」


「へっ? って・・・・わあっ!?」


冷たく抑揚の無い声が教室に響き、ヨーコに手刀が襲った。

ヨーコは抜群の反射神経で回避するが、「しまった・・・」といった表情で舌打ちした。

そしてネギは目を見開いた。

何故ならたった今ヨーコに手刀を繰り出した冷たい声の主は、なんとニアだったからだ。


「ヨーコ・・・シモンを抱きしめて・・・・・・あなたは何を?」


「ち、違うのよ! 誤解しないで! そういうのじゃないんだから!」


「ヨーコ・・・シモンに手を出すということは・・・・・・・絶対的絶望を与えられたいということですか?」


「だからそんなんじゃないんだってばーーッ!?」


ニアは先ほどとは180度変わり、まるで冷徹な感情の無い人形のような表情でヨーコを睨み、ヨーコはニアに対して慌てて弁明しているようだった。


「あの・・・ロシウさん? ニアさんはどうしてしまったんですか?」


教室の騒乱に、「もう嫌だ・・・」と頭を抱えて俯いていたロシウに小声で尋ねてみた。


「えっ? ・・・ああ・・・あれですか」


ロシウは後ろを見て、無表情な顔でヨーコに迫るニアを見て、ため息をつきながら答えた。


「あれは黒ニアさんです」


「・・・・・黒ニアさん?」


意味が分からなかった。


「はい・・・彼女は幼いときから親に溺愛され、窮屈な暮らしを強いられ、いつしかもう一つの顔が生まれました。要するに二重人格なんです」


「えっ!?」


「共通しているのは、どちらもシモンさんが大好きと言うことです」


普通は10歳児の教師ということで、これまではむしろネギが驚かせる側だった。

しかしネギはまだ数十分程度しかこの学園に来ていないのに、驚かされてばかりだった。

ネギが次々と明かされる問題に頭を抱えていると、黒ニアはシモンの手を引いて教室を出る。


「さあ、行きましょう、シモン。お父様にはそろそろ分かってもらう必要があります。私はここにいて良いのだと・・・」


「ちょちょちょ、黒ニアーーッ! 俺は真面目に授業受けて留年もしないで卒業したいんだよーーッ!」


「それは無理です。さあ、行きましょう、シモン。カミナも」


「おお、俺たちの熱い友情と愛の絆を見せてやろうじゃねえか!」


「ああ~~もう、分かったわよ、私も行くわよ! その代わりチミルフ倒したらさっさと帰るわよ!」


ニア、シモン、カミナ、そしてヨーコが退室してしまった。


「なあなあ、俺たちも行かね? 兄ちゃんたちも居るみたいだしよ~」


「そうね~、今日はダーリンの授業もないし、お兄ちゃんたちの加勢に行こうか」


「よっしゃあ、そうと決まれば、キノン! お前も乙女ゲームばっかやってないで、さっさと行くぞ!」


「えっ・・・へっ!? 私も!?」


キヤルにキヨウ、そして机に向かってこの騒ぎの中でも集中してゲームをしていたキノンと呼ばれる生徒まで手を引かれて退室した。


「ま、待ちなさい! 喧嘩のために早退など許しませんよ! って・・・・くそっ、何故喧嘩など・・・何故楽な道を行く。あなたたちは何も分かっていない」


そして最後にポツンと教室に一人取り残されたロシウは・・・・


「ネギ先生、必ず僕が皆を連れ戻してきます! これだからいつもいつも本校の人たちからダイグレン学園は白い目で見られるんだ・・・・・・」


ぶつくさ言いながら、ロシウは皆を止めるために教室から飛び出していった。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



そして最後に教室に残ったのは、教壇に立つ10歳の少年。


「皆・・・居なくなっちゃった・・・・・・」


あれだけ騒がしかった教室が、無人のために静まり返って、独り言の自分の言葉が良く響いた。


「今日来てなかった人たちも・・・・・あんな人たちばかりなのかな・・・・・」


研修初日、クラスの生徒の出席者ゼロというとてつもない経験をネギはしてしまった。


「うっ・・・・・・・うううううう・・・・・・・・」


真祖の吸血鬼や、伝説の鬼神やら、様々な怪物とも戦ってきたネギだが・・・



「うわああああああん、帰りたいよおおおおおお!! もう、嫌だよおおおお!!」



誰も居ない教室で、子供らしく泣きじゃくってしまった。



「こ、・・・ここで、2週間も!? 無理だよーーッ! それに評価がダメだったら、僕ってクビになるんじゃ・・・・それなのに初日にこれだなんて・・・うわああああああん、お姉ちゃーーーん、アスナさーーーん!!」



無理だ。

こんなとんでもないところで2週間もなんてとても無理だ。

しかも学園長はハッキリとは言わなかったが、ここで教師としての評価がダメだったら、自分は教師をやめなくてはいけないかもしれない。そう思うと、再び涙が溢れ出した。

教師生活生まれて初めて味わう学級崩壊。

ネギは今、教師としての壁にぶつかるのだった。


「うう・・・でも・・・泣いてちゃダメだ・・・僕は先生なんだから・・・」


鼻水と涙を拭きながら、ネギはなんとか心を持ち直す。


「よ・・・よ~し、とにかく喧嘩なんて絶対ダメだ! みんなを・・・みんなを連れ戻しに行こう!」


少年は涙で瞳を腫らしながら、ダイグレン学園に来てから一時間もしないうちに校舎から飛び出して走った。






後書き

初めまして。思いついたら書いていました。特に細かい設定の無いほのぼの学生生活を書きたいと思います。



[24325] 第2話 男の浪漫
Name: ぶらざー◆79ab137b ID:b5278b05
Date: 2010/11/15 19:57
麻帆良学園中央駅。

小・中・高・大・全ての学生たちが使用するこの駅では、毎朝多くの生徒たちが遅刻と戦い駆け抜ける。

バイクが、自転車が、スケート靴や路面電車に至るまで広々とした学園までの通路には、毎朝数え切れないほどの人数の生徒たちで溢れている。

だが、今この場に登校している生徒はいない。だって、普通は今授業中だからだ。

しかし、登校している生徒はいないが喧嘩をしている生徒たちが居る。

異なる制服の男たちが、麻帆良学園中央駅前で大乱闘を繰り広げているのだった。


「おらァ! ダイグレン学園を舐めんじゃねえ!」


大乱闘の中央では髪の逆立った男が、群がる敵を殴り倒して吠えていた。


「チミルフさん。キタンの奴がヤベえです!」


「おのれキタン・・・流石はカミナに次いでダイグレン学園NO2といったところか・・・」


殴られた頬を押さえながら、雑兵不良の一人が、巨漢な男に嘆いている。

巨漢の男の名はチミルフ。ダイグレン学園と喧嘩中のテッペリン学院の番長四天王と呼ばれる者の一人だ。


「ふっ、帰って理事長に伝えるんだな」


「ニアちゃんは自分の意思で俺たちと一緒に居るってよ」


キタンに続いて、ダイグレン学園の生徒たちが次々と敵を蹴散らしていく。


「ぬう、アイラック・・・キッド・・・つむじ風ブラザーズか」


髪をかき上げてキメるアイラック、そして倒した敵の上に座り込んで睨むキッド。

さらに・・・


「おう、そうだそうだ!」


「渡さん! 渡さん! 渡さん!」


別の場所では地団駄をしながら相手に脅しかける双子が居る。


「ぬう、ジョーガン・・・バリンボーか・・・」


「チミルフさーーん・・・ゴふっ!?」


「どうしたァ!?」


今度は別の場所から助けを求める声がして、振り返るとそこにはテッペリン学院の不良たちの屍の山の上でタバコを吸う男がニヤリと笑っていた。


「へっ、じゃねえとどこまでもやるぞ?」


引き連れてきた舎弟は30人ほど。しかしその全てが僅か6人の不良に全滅した。


「ぬう・・・ゾーシイ・・・流石はカミナがおらんとはいえ、ダイグレン学園の猛者たちではないか」


だが、舎弟たちがやられたことに臆するどころか、チミルフは学ランを脱いで、指の関節を鳴らしながらニヤリと笑う。


「この怒涛のチミルフ様が直々に・・・・」


筋肉隆々のとんでもないガタイだ。見るからにパワーが圧倒的だと分かる。

30人の不良を蹴散らしたものの、相手の格は桁違いだとキタンたちも頬に汗をかく。

だが、ビビッて逃げ出すことは不良の世界においてはタブー。

6人のダイグレン学園の不良たちはおもしれえじゃねえか、ようやくウォーミングアップが終わったとやる気十分だった。

しかし・・・



「俺を誰だと思ってやがるんだキーーーック!!」



「ぶほっ!?」



やる気満々の両者の横から颯爽と現われた男の飛び蹴りを喰らって、チミルフはぶっとばされた。



「「「「「「カミナ!?」」」」」」



「おう! 麻帆良ダイグレン学園の鬼番長、カミナ様だ!!」



指を天に向かって指し示し、名乗りを上げるカミナ。


「おのれカミナ~・・・ついに来おったか!」


カミナに蹴り飛ばされて、打ちつけた腰と蹴られた場所を押さえながら、チミルフは立ち上がってカミナを睨む。


「へっ、テメエらこそノコノコとこんな所まで来やがって! 10倍返しにしてやらァ!」


颯爽と登場し、威風堂々とするカミナ。


「よう、カミナ。遅えじゃねえか」


「おう、ヨーコたちがうるさくてな」


カミナの登場にキタンたちは笑った。さあ、かかってきやがれとカミナたちが構える。

しかし今度は・・・



「卑怯な真似はさせんぞ、ハダカザルどもが!」



現われたカミナを後ろから一人の男が襲い掛かった。


「ッ、テメエは!?」


「オオ、ヴィラルではないか!!」


「遅くなりました、チミルフ番長!」


今度は敵の援軍だ。

すばやい動きでカミナを襲ったのはヴィラルという名の男。そしてそのヴィラルの後ろからゾロゾロと強そうな奴らが現れた。



「ふん、ヴィラルだけではない。チミルフよ、てこずっているようだな」



「情けないね~、こんなバカ共に」



「グワハハハハ、さっさとケリをつけようではないか」



鳥の翼をモチーフにしたド派手な服を着た男、眼帯のロングスカートのスケ番、煙管を吹かした小柄な男。


「おお、シトマンドラ! アディーネ! グアーム! なんじゃ、全員来たのか!」


「おうおう、ぞろぞろと来やがって!」


「ヤベえぞカミナ。番長四天王にヴィラルまで来やがった!」


「けっ、上等だ! 俺を誰だと思ってやがる!」


この場に両の足で立っているのは、互いに学校を代表する喧嘩の腕前を持つ不良。

正にこれは学校の看板をも背負った喧嘩へと発展しようとしていた。



「ふん、面白いではないか。麻帆良のハダカザルごときが我らに敵う道理など無い。我らの恐ろしさ、毛穴の奥まで思い知るがいい!!」



総力戦だ。

不良たちは上等だとぶつかり合おうとした。

しかしその時・・・



「どいてくださーーーーい」



「ん? べふうっ!?」



走ってきた男女にヴィラル轢かれてしまった。


「ヴィ、ヴィラルーーッ!? ・・・って、きさ・・・あなた様は!?」


「へっ、ようやくお出ましかい!」


「おう、ようやく来たかお前ら!」


「ニアちゃん、待ってたぜ!」


全速力で駆け抜けてヴィラルをはね飛ばしたのはニアと、ニアに手を引かれてゼェゼェと肩で息をするシモンだった。


「くっ・・・ニア様! お迎えに上がりました。さあ、我らと帰りましょう。理事長がお待ちですぞ」


ニアが現われた瞬間、番長四天王の四人は肩膝をついて頭を下げる。しかしニアは、胸を張って四人に向かって指を指した。



「いいえ、私は帰りません! 私は妻として、シモンとずっと一緒に居るのです! そしてダイグレン学園の皆さんと一緒に卒業するのです!」



「「「「「「よっしゃあああああああ!!」」」」」」



どーんと大きな効果音がした気がした。

堂々と四天王に告げるニアに、ダイグレン学園の不良たちは雄叫びを上げて同調した。



「「「「な、なにいいい!? やはり、その小僧の所為かァ!!」」」」



「はあ、はあ、はあ・・・・・・えっ?」



番長四天王の矛先はシモンに向いた。

全速力で走って疲れたシモンは、何も聞いていなかったが、とにかく敵がこっちを見て睨んでいるのは分かった。


「このクソガキがァ! ニア様を誑かせてるんじゃないよォ!」


「へ? えっ? って、きたあああああああ、なんでえええ!?」


番長四天王の一人、アディーネが鞭を出してシモンに襲い掛かってきた。


(何でいつもこうなるんだよ!? やっぱり俺は不幸だ~~!? は、早く逃げなきゃ・・・でも・・・ニアが)


敵が襲い掛かってきているというのに、ニアは反応が遅く首をかしげた状態で止まっている。

慌ててニアの手を引っ張りながら逃げようとするシモンだが、ニアを抱えて逃げる力はシモンに無い。

そこでシモンはニアを庇うように立つ。


「くっ、ニア、に・・・にに・・・逃げて!」


シモンは足腰を恐怖でプルプルと震わせながら、アディーネの前に立つ。


「シモン!」


「「「「「「シモンッ!?」」」」」」


ニアは驚いたようにシモンの名を叫び、不良たちは慌ててシモンを助けようとするが、アディーネのほうが早い。


「シモン、危ないです!」


「ニ、ニアは早く逃げて!」


「シモン!?」


「ニニ、ニアは・・・お、俺が守る!!」


だが、シモンは逃げない、引かない、見捨てない。体を張ってニアを守る。


「ウゼーんだよ! ボッコボコにしてやんよ、小僧!!」


アディーネの鞭がシモンを打ちつけようとした。

しかしその時、アディーネの鞭が突如割って入った薙刀に巻きついた。



「ッ!? テメエは・・・」



「良くやったわ、シモン! アンタ男じゃない!」



「ヨヨ・・・ヨーコ!」



「シモンとニアを傷つける奴は、この私が許さないわ!!」



シモンのピンチにヨーコが助けに入った。


「兄ちゃーーん、助けに来たぜ!」


「面白そうだから見に来たよ!」


「何で私まで~~」


「おう、愛する妹たちじゃねえか!」


おまけにキヤルにキヨウにキノンまで現われた。敵は手強いが、数の上では圧倒的に有利になった。


「ふわあ~~、助かった~~」


助かったことに安堵し、シモンそのままヘナヘナと地面に腰を抜かしてしまった。


「シモン・・・私を庇って・・・」


「は、はは・・・ニア・・・怪我無い?」


「シモーーーン!」


「うわァ、ニア!? み、皆見てるから抱きつかないでくれよ!」


「シモンは・・・シモンはやはり私の運命の人です!」


腰を抜かしたシモンだが、ヨーコはそんなシモンに対してウインクをして親指を突きたてた。


「後は任せて存分にイチャついてなさい! あの時代遅れのヤンキー女は、私が相手をするわ!」


「なっ、誰が時代遅れだ、この脳みそ筋肉が!!」


ヨーコに怒りを燃やしたアディーネは標的をヨーコに変えて武器である鞭を容赦なく振る。一方でヨーコは自身の武器である薙刀で応戦していく。


「アディーネ!? バカめ・・・我々の目的はニア様の奪還だというのに・・・」


「おっと、シモンとニアの邪魔はさせねえぜ?」


「こっから先は、俺らをぶっ倒してから行くんだな。俺たちダイグレン学園をな!」


「へっ、シモンがあれだけやったんだ。俺たちが引き下がるわけにはいかねえんだよ」


「ぬう、・・・邪魔をしおって・・・ワシら番長四天王を怒らせるか!?」


友の下へはたどり着かせない。立ちはだかるダイグレン学園に番長四天王たちは舌打ちする。

だが、番長四天王とて喧嘩上等の看板を常に背負って戦っている。

面白いじゃないか。

やってやろうじゃねえか。

両校が意地と意地をぶつけあって殴りかかろうとした。

だが、その時。




「喧嘩はやめてくださーーーーーーい!!」




「「「「「「ッ!?」」」」」」




一人の少年の制止する声が響いた。

ピタリと喧嘩が止み、声のした方向へ向くと、一人の少年が涙目になりながら叫んでいた。



「今は授業中なはずですよ! そ、そこの他校のあなたたちもこんなことをしてはいけません! ぼ、僕怒りますよ! ほ、本当に怒りますよーー!」



「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」」」



ネギの涙の叫び。

生徒のために涙を流してでも叱るネギ。

不良たちは喧嘩の手をピタリと止めた。

しかし数秒後・・・



「「「「「「「「「「知ったことかアアアアア!!」」」」」」」」」」



「ええっ!? しかも両校全員揃ってですかァ!?」



ただ、子供が叫んでいたということで数秒気を取られただけで、不良たちは敵も味方も同じ言葉を同じ瞬間に叫んで再び殴り合い、ネギを無視した。

そもそもネギが教師だなどと、数人しか知らなかった。



「みなさん、本当に喧嘩はやめてください! 喧嘩はいけません! 学校側からペナルティを受けますよ!」



「「「「「「「「「「処分が怖くて不良が出来るかァ!!」」」」」」」」」」



「何で全員息がピッタリなんですか!? あなたたち本当は仲が良いんじゃないですか!?」



人に言われたことが出来ない。


「アディーネ・・・シモンを傷つけようとしました・・・許せません・・・私が・・・滅ぼします」


「って、ニアさんまで!? 黒ニアさんのほうですね!? お願いですから待ってください!」


「さあ、シモン。合体です」


「えええーーッ!? 俺も戦うのーーッ!? 無理だよーーーッ!」


「だから喧嘩はやめてくださいってばァ!!」


当たり前のことが出来ない。

言われたら余計に抗いたくなる、それが不良。


「うう~・・・誰も言うこと聞いてくれないよ~。不良って怖いよ~・・・3-Aの人たちは本当にいい子ばかりだったんだな~」


ネギは再び自信を喪失して打ちひしがれてしまった。

そんなネギの肩をポンポンと叩き、親指突き上げてニヤッと笑う男が居た。


「ボウズ。上を向け!」


「ウウ~~、カミナさん・・・」


「テメエが誰かは知らねえが、さっきから何を言ってやがる。こいつは喧嘩じゃねえ!」


「・・・・・・・・・えっ?」


・・・・・・・?

カミナの言葉に一瞬目が点になったが、直ぐにハッとなった。


「どう見ても喧嘩じゃないですか!?」


「喧嘩じゃねえって言ってんだろ! こいつは男と女がテメエの愛を貫くための信念の戦い! そして俺たちは、ダチを・・・仲間を守るために戦ってる! 言ってみりゃあ、大喧嘩よ!」


「大喧嘩!? ・・・・・・? ・・・って、やっぱり喧嘩じゃないですかーーーッ!?」


ネギはうぬぼれでは無いが自分の知能レベルはそれなりには高いと思っていた。

魔法学校でも首席で卒業し、大学卒業レベルの学力もある。

周りからは少し恥ずかしいが天才少年などと呼ばれていた。

だが、そんな自分だが分からない。


「ダメだーー、言ってる意味がさっぱり分からないよーーーッ!?」


「頭で分かろうとするんじゃねえ! 感じるんだよ!」


「余計分かりませんよーーーッ!?」


不良がどうとか、問題児がどうとか以前に、会話がまったく成立しない。

自分の短い人生ながらも濃密に過ごしてきたこれまでの経験が何一つ活かされない。

そうなっては、ただの10歳児のネギにはどうすることもできず、頭を抱えてただ叫んでいた。


「ったく~、ボウズ、お前はまだ男ってもんを分かってねえな」


「ウウ~~、分かりませんよ~。僕は今まで女子校で働いていましたから~~~」


落ち込むネギをカミナは仕方が無いという表情で頭をポリポリかく。


「仕方ね~な、俺がお前に男の浪漫ってものを教えてやる。例えばだ・・・アレを見ろ!」


そうしてカミナが指差した先には、ヨーコとアディーネが派手な動きを見せながら激しい喧嘩をしていた。


「・・・あれが・・・どうしたんですか?」


「まあ、見てろ! おっ、もう直ぐだ・・・もう少し・・・」


カミナはネギの身長に合わせて中腰になりながら、サングラスの奥の瞳を細めて、ヨーコとアディーネの戦いの、主に両者の下半身に意識を集中させる。

そして目が見開いた。



「ここだ!」



「・・・えっ?」



「カミナーーー! 何を余所見しておる! 覚悟ーーッ!」



「馬鹿やろうチミルフ! テメエもアレを見ろ!」



「むっ・・・・オオオオオオ!?」



その瞬間、争っていた男たちの手は止まり、全員がヨーコの下半身に目を光らせる。

激しい戦闘とアクションにより、風でめくれるヨーコのスカート。



「「「「「「「「「オオオオオオオオッ!?」」」」」」」」」」



この瞬間、喧嘩していた男たちは心を一つにして、確かにその目で見た!



「そう、これぞ男の浪漫! あ、男の浪漫! その名も・・・」



ヨーコがスカートの下にはいている・・・



スパッツを・・・



「「「「「「「「「「歯ァ食いしばれええええええ!!」」」」」」」」」」



男たちは涙を流しながら激昂した。


「なな・・・何よ・・・」


ヨーコも驚いて振り返ってきた。


「やいヨーコ! テメエには失望した! スカートの下にスパッツとは、テメエは何も分かっちゃいねえ!」


「所詮はダイグレン学園か・・・がっかりじゃよ、ヨーコよ!」


「浪漫を知らねえ!」


「女の戦いのパンチラはお約束だろうがァ!」


そこに敵も味方も無かった。あるのは男という悲しい種族。


「うっさいわよバカども! 何で私があんたたちにパンツ見せなきゃいけないのよ!!」


「うっせえ! パンツじゃねえ、へそも見せねえ、露出がねえ、ねえねえづくしのテメエにはがっかりだぜ!」


激しいブーイングにヨーコもブチ切れ男たちに襲いかかろうとする。



「あの~・・・それで・・・結局男というのはなんなんですか?」



再び忘れられたネギだった。



「取り込み中申し訳ありません。ヨーコが戦わないのでしたら、アディーネは私とシモンが戦います」



「「「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」」」



ギャーギャー味方同士で揉めているヨーコ達に溜息をつきながら、黒ニアモードのニアが、逃げようとするシモンを無理やり引きずりながら呟いた。


「ちょっ、黒ニア!?」


「彼女はシモンを傷つけようとしました。ですから私がここで終わらせます」


「俺は無理だよォォ!?」


黒ニアはシモンの懇願を無視して冷たい瞳で相手を射抜く。

その殺気にアディーネも少々顔が引きつった。


「・・・へっ・・・箱入りお嬢様が言ってくれるじゃねえか! だが、私を倒そうなんて自惚れもいいところなんだよ!」


「ま、待つのじゃアディーネ!」


「理事長には連れて帰って来いって言われただけで、無傷でとは言われてない。だったら多少手荒なまねをさせてもらうよ!」


アディーネは黒ニアの態度にイライラし、我慢できずに武器を手に取り襲いかかってくる。

対して黒ニアは冷静にシモンの手を握り、シモンを起こす。


「さあ、シモン、合体です」


「うわあああ、何でいつもこうなんだよー!?」


シモンの手を握り、そしてシモンの手を引いて走り出した黒ニア。そのスピードは意外とあった。


「は、速い!?」


「おう、あれがシモンの力よ。シモンは誰かと触れ合っている間だけ、二人とも力が増すんだ」


「ええ、手をつなぐだけで!?」


「俺たちはあれを、『合体』と呼んでいる」


一瞬喧嘩を忘れてネギも素直に驚いた。

手をつないで走る二人のスピード、不良に負けぬパワー。


「ちっ、チョコマカと・・・」


「シモン、頭を下げて」


「ひ、ひい!?」


シモンを殴ろうと拳を振り抜いたが、シモンが頭を下げ、その後ろからニアがハイキックを叩きこむ。

たった一撃でアディーネの体が揺らいだ。


「すごい・・・コンビネーションも・・・それに黒ニアさんの運動神経もすごい! まるでアスナさんみたいだ!」


「まあね。あの子は幼いころから色々な武道やスポーツの英才教育を受けてたし、そう簡単には負けないわよ」


魔法や気を使っているわけでもなく、素の力だけでも相当のものだった。

おまけにシモンと手をつないでいることがまったく枷になっておらず、シモンに指示を出して、時には守りながら黒ニアはアディーネを圧倒する。


「・・・どういうことだ・・・」


そのときカミナが呟いた。


「ああ・・・凄すぎるぜ」


「信じられん」


「一体どうやればあんなことが出来るんだ?」


カミナに続いてキタンやチミルフ達も驚いている。

いくら友人とはいえ、すごいことはすごいのだろう。ネギも素直に同意した。

そうだ、ニアの細腕や小さな体から繰り出す力は、目を見張るものがある。

この学園には、まだまだ強い人がたくさん居るのだなとネギが少し関心していると・・・




「「「「「「なんで・・・なんであんなに飛び跳ねてるのに、黒ニアちゃんのパンツが見えないんだ?」」」」」」




「すごいって、そっちですか!?」




「何故じゃ・・・ニア様の下穿きが見えん」




「おなたもですかッ!?」




台無しだった。男たちはひらひらとしている、少々短い黒ニアの制服のスカートに目を充血させて集中していたのだった。


「っていうか皆さんさっきからそれに集中してたんですか? 少しそこから離れましょう! 大体女性に対して失礼ですよ!」


「うるせえ! 男の浪漫が分からねえガキは黙ってろ!」


ネギは普段麻帆良女子中にて、パンチラは日常茶飯事。お風呂に一緒に入ったり一緒に寝たり、日々女性に囲まれてモミクチャにされている。

それがネギにとっては日常と化し、カミナ達の浪漫が少しわからなかった。


「あっ、でもシモンは顔真っ赤にして目を逸らしてるわよ?」


「なにッ!? じゃあ、シモンにだけは黒ニアちゃんのパンツが見えてるのか!?」


「ばかな・・・どうしてだ?」


「いえ、皆さん。そんなことを真剣になられても・・・」


すると、男たちの心を揺さぶる世紀の大疑問に対し、黒ニアは静かに答えた。




「ならば教えましょう。これが私の必殺技・・・・・・確率変動パンチラです」





「「「「「「か、確率変動パンチラ!?」」」」」」




銀河にビッグバンが起こったような衝撃が男たちに駆け巡った。



「本来はものすごく見えてしまう状況だったとしても、下着が見える確率を無効化します。ただし・・・シモンだけは特別です。これによりシモン以外に私の下着は見えません」



「「「「「「「な、なんだってええええええええ!?」」」」」」」



何だかよくわからんが凄い能力らしい。


「じゃあ、俺たちは何があっても見れないのか!?」


「その通りです。あなた方が私の下着を見る可能性は・・・ほぼゼロに近い」


不良たちはショックでうな垂れ、ネギも真剣な顔でぶつぶつ言っている。


「凄い・・・確率なんてもはや神の領域・・・それを操るっていうんですか? 魔法でもないのにこの力は一体・・・」


一見アホみたいな能力のようで、どうやらネギは奇跡の能力を目の当たりにしたようだ。

人知を超えた力を可能にする魔法を上回るかも知れぬ能力に、気を取られてしまった。


「って、そうじゃない! 喧嘩を止めなきゃダメなんだ!?」


何だか話を常にそらされてばかりだ。正直何度も心が折れそうになる。

だがそれでもネギは一度へこたれても直ぐに立ち上がる。


「諦めちゃダメだ! だって僕は・・・先生なんだから!!」


ネギは走り出した。


「ん? ちょっ、坊や!?」


「バ、バカ野郎! 危ねえぞ!」


交錯しようとする黒ニアの右ハイキックとアディーネの拳。

二人は相手に夢中になっているためにネギに気づいていない。ゆえにヨーコ達が叫ぶが、二人の蹴りと拳は止まらず、ネギはその間に割って入った。


「ちょちょちょ、黒ニアーーーーッ!?」


「ッ!?」


シモンがネギに気づき、黒ニアとアディーネもこの時ようやくネギに気づいたが、既にスピードに乗せている自身の攻撃は止まらない。このままでは二人の強力な攻撃により、幼い子供が大怪我を負ってしまう。

黒ニアとアディーネもこの時ばかりは焦り、シモンやヨーコ達が思わず目を瞑ってそらしてしまった。

しかし・・・・



「喧嘩はダメって言ってるでしょーーー!!」



何とネギは無事だった。


「なっ!?」


「えっ!?」


「なんだとッ!?」


「ウソッ!?」


それどころか二人の蹴りと拳の間に体を滑り込ませ、黒ニアのキックを繰り出した足首を右手で、アディーネの渾身の右ストレートを左手で。つまり二人の攻撃を片手ずつで掴み取ってしまったのだ。


「あのガキ・・・」


「スゴイわ・・・どうやって?」


この瞬間、これまで眼中に無かった小うるさい子供を、ダイグレン学園とテッペリン学院の不良たちは初めて関心を向けた。


(速い・・・しかも私の蹴りの軌道を完璧に見切った)


(お、おまけに掴まれている腕がビクともしないじゃないか・・・このガキ・・・)


黒ニアとアディーネの表情も変わった。


「授業中に・・・しかも駅前でこのような乱闘騒ぎは見過ごせません。ですが、皆さんにも引くに引けない何かがあることは僕も分かりました」


子供の細腕でありながら、押しても引いてもビクともしない腕力に冷や汗をかく。


「そこでどうでしょう、皆さん。僕に提案があります」


「・・・・提案?」


この時、不良たちの中で少年が大きく見えた。

その甘く幼い表情の下に、どこか底の知れない何かを垣間見た気がした。



「おもしれえじゃねえかよ。提案ってのは何だよ、ボウズ」



「喧嘩は絶対にダメです。ただしどうしても決着をつけたいというのであれば・・・」



「あれば?」



ゴゴゴゴゴと、妙な威圧感を感じた。カミナたちも自分の手に汗をかいていることに気づいた。

このガキは只者じゃないと、誰もが認識した瞬間・・・




「学生らしくスポーツで勝負しましょう!」




「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」」」




やっぱりただの子供なのかもしれないと、考えを改めそうになった。


「スポーツだと~?」


「けっ、くだらねえ」


「小学校の体育以来やったことねえぞ?」


「いいじゃない、平和的で。私はその子に賛成よ」


「しっかし、スポーツね~」


あまり気が乗らないどころか、先ほどまでの喧嘩で剥き出しになっていた闘争心が少し萎えた。

全員どうしようか互いの顔を見合って、何とも面倒くさそうに頭をかいていた。


「大体スポーツって何の競技だ? ルールは? 総合か? 立ち技か?」


どうやら不良たちは双方とも、スポーツといっても格闘技だと思っているようだ。

だが、ネギは考える。

スポーツで決着をつけるといったら、何が正しいのか。

正直自分はあまりスポーツに詳しくない。



(格闘技はダメだ。もっとチームワークを育み、さわやかな汗を流す競技・・・争いやいがみ合いも無くなる・・・そんな競技といえば・・・)



そしてネギは顔を上げる。



(アレしかない!)



考えが決まった。メガネの奥の瞳がキラリと光った。

一体何を言うつもりだ?

不良たちが少し緊張しながら、ネギの言葉を待つ。

そしてネギが決めたそのスポーツとは・・・・




「ドッジボールです!!!!」





こうして麻帆良学園中央駅前で、炎の闘球勝負が始まるのだった。




「「「「「「「「「「ド・・・・・・・・・ドッジボールだとおお!?」」」」」」」」」」









後書き


シモンの影が薄いですが、これから成長していきます。



[24325] 第3話 これが俺らの教育理念
Name: ぶらざー◆79ab137b ID:b5278b05
Date: 2010/11/17 00:45
「しっかし、あんなガキが俺たちの教師になるとはな」


「しかもドッジボールとはね~」


ネギが企画したダイグレン学園VSテッぺリン学院のドッジボール対決。麻帆良中央駅前にドッジーボールのラインを引いて、不良たちがたむろしていた。

その間に、ネギという10歳の少年が少しの間だけ自分たちのクラスの担任になると聞いたカミナ達は、物珍しそうにドッジボールのボールをリフティングしながらネギを眺めていた。


「先生・・・何でドッジボールなんだよ?」


この中で、唯一不良たちの中であっても普通の学生に見えるシモンが少し申し訳なさそうに訪ねて来た。するとネギは、太陽を見上げながら目を輝かせて答える。


「実は僕が以前教えていたクラスで先輩たちの学年と問題を起こしたことがありました。互いに取っ組み合いの喧嘩になりそうになった時、全てを解決してくれたのがドッジボールでした! 仲間と一致団結しあって汗をかく青春の時間。僕もこれを皆さんに味わってもらいたいんです!」


ネギはスポーツの起こす奇跡に期待していた。

自分はスポーツには詳しくないが、最近クラスでも話題のアニメやドラマでも不良がスポーツに打ち込んで変わるというのは良くある話だ。

ネギはドッジボールという自分にとっても思い出深いスポーツで、皆が心を入れ替えてくれることを期待していた。


「そ~簡単にはいかないでしょうけどね~」


ヨーコが誰にも聞こえないぐらいの大きさでボソッと呟いた。

周りを見渡してもやる気があるのだか無いのだか分からない連中ばかりだ。


「シモ~ン。私、どっじぼおる? というスポーツは初めてです。シモンは知っているのですか?」


「う、うん。小学生の時にやったことがあるよ」


「まあ、流石シモンは物知りですね! ならば私たちのチームはシモンが居れば大丈夫ですね!」


「えっ!? いや、ルールを知ってるだけで、俺は全然苦手だよ!?」


「大丈夫。シモンなら出来ます。シモンなら何があっても大丈夫です。だから一緒に頑張りましょう、シモン」


「ええ~~ッ!?」


相変わらずイチャついてるシモンとニア。


「ドッジボールか。どんなルールだっけ?」


「ほら、以前ハンターの漫画で出て来たあれだ。要するにボールを使って攻撃する競技だ」


「か~、面倒くせえ。ちょっと一服させてくれ」


やる気の無さそうなキッド、アイラック、ゾーシイ。


「へっ、上等じゃねえか。これだけの仲間が居て負ける理由がどこにある」


「そうだそうだそうだ!」


「当てるぞ、当てるぞ、当てるぞ!」


やけに気合の入っているキタン、ジョーガン、バリンボー。


「ドッジボール? 名前が気に食わねえ。ボールがとっちか分からねえなんて曖昧な名前だ! 全部俺たちのボールだ! 今日からこのスポーツの名前はコッチボールだ!」


意味の分からぬことを文句言いながら叫ぶカミナ。


「ドッジボール・・・確かルールは内野と外野に分かれて、相手の陣地に居る敵を殲滅すれば勝ちのルール。まったく、何て野蛮なスポーツだ。降伏も逃亡も許されずに相手を虐殺するなど、どこまで皮肉にできている」


「な~、まだ始らねえのかよ~」


「あ~ん、早く帰ってダーリンと一緒にお弁当食べたいのに~」


「あの~・・・私もう帰っちゃダメでしょうか?」


いつの間にか混じっているロシウに各々バラバラの思いのキヤル、キヨウ、キノン。

合計14人のメンバーだが、そこにチームワークも情熱もあったものではない。

ヨーコもあまりやる気は起きない。


「は~~~、でもさ~ドッジボールって相手と同じ人数同士でやるんでしょ? 相手は四天王とヴィラルしか居ないじゃない。あとの舎弟は全員ボコボコにしちゃったし」


やる気がないうえに、人数も公平ではない。本当にこんな状態で出来るのかと、ヨーコが疑問に思っていると、そこにチミルフが口を挟んだ。


「ぐわははははは、安心せい。そう言うと思って、既に助っ人を呼んでいる! さあ、来い! 黒百合たちよ!」


チミルフが叫ぶと、彼の背後から体操服とブルマの女性たちが現れた。


「あれ・・・あの人確か・・・」


ネギはその女性たちに見覚えがあった。


「あなたは、麻帆良ドッジボール部の人!?」


「おほほほほほ、久しぶりね、子供先生!!」


そう、彼女たちこそかつてアスナたちと問題を起こし、ドッジボールでケリを付けた相手だ。


「私は英子! 麻帆良学園聖ウルスラ女子高等学校の3年生よ」


「同じく、ビビ!」


「そして、しい!」


「私たちがテッぺリン学院側の足りないメンバーの補充に入るわ。あなたたちの方が男性が多いのだし、それぐらい構わないわね?」


それなりに美しく、そして恰好から既に気合十分の英子と彼女と共に現れた女子高生たち。



「「「「「うおおおおお、ブルマーーーーッ!!??」」」」」



男たちはそんなことよりもそっちに反応したのだった。


「すげえ・・・生のブルマなんて初めて見たぜ・・・」


「若者が一度は思う、あの時代に生まれたかったベスト10には入るであろう、伝説の装備」


「俺たちの学園じゃ違うからな・・・・・・体育の授業出たことねえけど」


マジマジと英子たちのブルマ姿に目を奪われる悲しき男たち。


「なっ、ななな・・・なんと破廉恥な。だからダイグレン学園の人たちは嫌なのよ」


女たちは顔を真っ赤にしながら、ブルマを隠そうと体操着のシャツを下まで引っ張る。しかし、その姿が逆にドツボ。男たちは親指を突き立てて、英子たちに笑顔を見せた。


「こんの、アホどもーーッ!? そんなもんに反応してるんじゃないわよ!」


「ヨーコ・・・しかしだな~」


「大体、あんたたちウルスラってモロ麻帆良の学生じゃない! 何で同じ麻帆良側の私たちじゃなくて、テッぺリン側に付くのよ!?」


ヨーコが一通りブルマに反応した男たちをしばいた後、英子たちに文句を言う。だが、英子はヨーコの言葉に鼻で笑った。


「ふっ、同じ麻帆良? ふふふふ、笑わせてくれるわね。あなたたち問題ばかり起こすような落ちこぼれ組みを、私たちと同じ麻帆良の学生扱いしないでくれない?」


「なっ!?」


「みんな迷惑しているのよ。あなたたちダイグレン学園が問題ばかり起こすせいで、麻帆良の品格を落とすってね。だから今日はテッぺリン学院側の助っ人として、あなたたちに暴力ではなくスポーツで徹底的に懲らしめてやるために来たのよ!」


高慢な態度でヨーコ達を見下す英子たち。


「まあ、ワシらに助っ人して勝てば、ワシらの理事長がドッジボール部の活動に寄付金を出すという取引もしたがな・・・・」


「そこ、お静かに!! とにかく、今日はあなたたちに思い知らせてあげるわ。スポーツの怖さをね!」


色々取引も裏ではあったようだが、正直どうでもいい。

お前ら授業は? と誰もツッコまないので、それもいい。

しかし、ここまで言われて黙っている奴らは、ダイグレン学園には居ない。


「言ってくれるじゃねえか、ブルマーズ」


「なっ、ブルマーズ!? 私たちは、黒百合よ!!」


「俺たちの大喧嘩に首突っ込むとは上等だ! だったら俺たちは、無敵のダイグレン学園の恐ろしさをテメエらに教えてやる。俺らの仲間に手を出したらどうなるかを思い知りやがれ!」


カミナが先頭に立って、四天王、ヴィラルに黒百合ブルマーズに向かって叫ぶ。

そしてカミナの背後には、同じ目をしたクラスメートたちが集結していた。


「ふっ、勝つぜ、カミナ!」


「当たり前よ。俺を誰だと思ってやがる!!」


簡単な挑発を受け流せぬのが不良。

ダイグレン学園問題児たちは、一つになった。



「「「「「オオオオオオォォォォ!!!!」」」」」



麻帆良中央駅で叫ぶクラスメート。一致団結したその姿を見て、ネギは涙を流して感動した。


(やった・・・やったよ~~! やっぱりスポーツは凄い! あれだけの困った人たちが、こうも真面目にスポーツに取り込もうとしている! スポーツ・・・まるで魔法みたいだよ!)


自分が提案したことに、喧嘩ではなくスポーツで決着をつけてくれるというのは、とてもとても大きな進歩だとネギは感動した。



その涙は・・・



数秒後に、違う意味の涙になってしまうが・・・


「うおりゃあああ! 全員一斉攻撃だ!!」


「よっしゃああ!!」


「くたばれ!」


「おう、そうだそうだそうだ!」


「くたばれくたばれくたばれ!」


試合開始直後、いきなりとんでもない展開になった。


「なっ、カミナァ! 貴様ら!」


「キャ・・・キャアアア!?」


「いやあッ!?」


「おのれ~、何と卑怯な!?」


試合開始した途端、何とカミナやキタンたちは、大量のゴミを投げた。次々と投げられるゴミに、相手チームは思わず声を上げて逃げまどう。


「よっしゃ、くらいやがれ!」


「えっ・・・きゃあッ!?」


そして相手がゴミに気を取られている隙に、黒百合ブルマーズの一人に当てて、さっそく一人をアウトにした。


「き、貴様らァ!? まともにボールも投げられんのか!?」


「ウルせえ、これも立派な俺たちのボールだ!」


「ゴミはゴミだ! ボールではない!」


「何言ってるんだ、当たり前じゃねえか!」


「ぐっ、カミナァァ!?」


あまりにも卑怯過ぎて、ルール違反だとか、反則だとか言う気にもなれない。


「・・・・・なんで・・・・こうなるの・・・・」


感動の涙が再び悲しみの涙になって、ネギはうな垂れてしまった。


「皆さん! スポーツでずるして勝ってうれしいんですか!? 男なら正々堂々とじゃないんですか!?」


かつてドッジボール中に魔法を使おうとした自分に向かってアスナが言ってくれた言葉だ。

だが、不良に卑怯もクソも無い。


「何言ってやがる! 裏で金使って取引してる奴と違って、俺たちはコソコソしねえで堂々とやってるじゃねえか!!」


「開き直ってるだけじゃないですかァ!?」


ネギががっくりとする。その間にもカミナたちは相手チームの内野の人間を二人三人と次々と当てていく。


「いいペースね。どーせ、四天王もヴィラルも素人だし、相手が混乱している隙に倒すならやっぱり経験者の奴らよね・・・だったら・・・」


敵に当たって運よくこちらの陣地まで再び戻ってきたボールを拾い、今度はヨーコが投げる。


「次はあんたよ!」


運動神経抜群のヨーコの球は、スピードと威力を兼ね備えた中々の剛球だった。

しかし・・・


「調子に乗らないことよ」


「なっ!?」


英子がヨーコの剛球を正面から受け止めた。

流石は経験者。ましてやそれなりの実績を兼ね備えた強豪の部でもある。

何を隠そう麻帆良ドッジボール部は関東大会優勝がどうとかの部活である。

いかに剛球とはいえ、素人のボールを止めるのは当然と言える。


「ふっ、確かに威力はすごいけど、所詮は単調なストレートボール。こういう技があることも知っておくようにね」


「ッ!?」


英子はボールを持ったまま体を捩じる。

まるで野球のトルネード投法や円盤投げのようなフォームだ。そして捩じった体の反動、そして回転を利用してボールを放つ。



「トルネードスピンショット!!」



英子の投げたボールが、螺旋の軌道を描いてダイグレン学園に襲いかかる。


「つっ!?」


「へっ? ・・・っていやあ!?」


「あううッ!?」


ヨーコは何とかジャンプして英子のボールを回避したが、その後ろに居たキヨウとキヤルが二人まとめてボールに当たってしまった。


「す、すごい! 僕たちのクラスとやった時は、あんな技無かったのに」


これが噂のダブルヒットだ。


「な、なんて技なの!?」


「あの技・・・昔のドッジボールアニメで見たことがあるぜ」


「ああ、小学生の時に真似して誰一人成功しなかった技だ。まさか現実に完成させた奴が居るなんてな・・・」


関東大会優勝も伊達ではない。一瞬でペースを相手の物にされ、ダイグレン学園も顔色が変わった。


「おほほほほほ、これが私のトルネードスピンショット。あなたたち不良にはどうあがいても止められないわ」


そして英子の投げたトルネードスピンショットはダイグレン学園の二人をアウトにしてもボールの威力は衰えずに、そのまま外野まで転がった。

つまりまだ相手ボールのままだ。

そしてボールは外野を中継して、また英子の元に戻る。


「卑怯な手でだいぶ内野の数を減らされたけど、もうこれまでよ。さて・・・次はそこのブ男たちにぶつけるわ」


英子が男たちに狙いを定める。だが、ここでチミルフが口を挟む。


「まあ、待てウルスラの。慌てることは無い」


「えっ?」


「それにこれは元々ワシらの喧嘩でもある。ならばワシらも少し活躍させてもらおうか」


「そうだね、ドッジボールってボールが回ってこないと暇だからねえ」


「ふっ、我らの必殺ショットも披露してやろう」


「そして奴らに思い知らせてやるのだ」


要するにボールを渡して投げさせてくれと言っているのだ。まあ、言っていることも筋が通っている。そのため英子もニヤッと笑ってボールを渡す。


「さあ、まずはワシからじゃ!」


まずはチミルフが投げる。

その丸太のように太い剛腕、両手のひらでボールを上下から押し潰す。

そして潰されて膨張し、形が少々変形したボールを、そのまま腕力に任せて投げる。


「パワーショットじゃ!!」


「きゃああ!?」


「キノーーーン!? この野郎・・・よくもこの俺の可愛い妹を!!」


今度はキノンが当てられた。


「どうした、そんなものかァ!」


「ふん、大したこと無いねえ!」


「これはニア様を奪還するのは意外と楽なことになりそうじゃのう」


一気に人数が減っていくことと相手の挑発に悔しそうな顔を浮かべるダイグレン学園だが、相手チームの猛攻は止まらない。


「むっ・・・出来る・・・もしテッぺリン学院にドッジボール部が設立されたら、我らの関東王者の座も脅かされる」


英子も素直にテッペリン学院の強さを認め、負ける要素が一切無いと、既に余裕の表情を浮かべている。


「あわわわ、どうしよ~。まさか相手がこんなに強いなんて。僕が言い出したことでこんなことになるなんて・・・教師の僕が助っ人に入るわけにもいかないし・・・」


生徒たちのことを思ってスポーツ対決を提案したネギだが、それが裏目に出た。

まさか相手が金を使って助っ人を呼ぶなどと予想していなかったため、ダイグレン学園は窮地に追いやられていた。


「このままじゃ残りの皆さんも・・・」


だが、まだだ。

そんなネギの不安を吹き飛ばす、諦めていない男がまだ居る。


「へっ、上等じゃねえか! このピンチをひっくり返したら、俺たちはヒーローだぜ!」


「アニキ!?」


「カミナッ!?」


「カミナさん!?」


ダイグレン学園番長のカミナは諦めていない。


「で、でもアニキ~、四天王に経験者が相手じゃ勝ち目が無いよ~」


「馬鹿やろう! 無理を通して道理を蹴っ飛ばす! それが俺たちダイグレン学園の教育理念だろうが!!」


心に過ぎる不安や弱気な心など全て吹き飛ばす。

それがカミナという男の力だ。


(皆さんの心が・・・すごい、持ち直している。言っていることはメチャクチャだけど、カミナさんの言葉で、皆さんも目の色が変わってきた)


ネギの思ったとおり、その言葉を聞いたキタンたちも、臆していた気持ちが少し軽くなった。


「で、でもどうやって?」


しかし、このままではただの強がりだ。素朴な疑問をシモンが投げかける。

この状況を打破する一手、それは・・・


「お前がやるんだよ!」


「・・・・・・えっ?」


反撃開始の作戦が皆に告げられた。


「むむ、何をやってるの?」


「気をつけろい。カミナもそうだが、あの小僧も加わると、何をしでかすか分からん」


コソコソと何かをやっているダイグレン学園に英子が首をかしげ、グアームたちは警戒心を高める。

これまで幾度と無く喧嘩してきただけに、相手がこのまま終わらぬことは彼らが一番分かっていた。

そして、次の瞬間グアームたちは目を見開いた。


「はーっはっはっは、こいつが兄弟合体! 待たせたなテメエら!!」


「ぬぬ、合体か!?」


何とシモンがボールを持ち、カミナに肩車されているのである。


「さあ、行け! シモン! 自分を信じるな! 俺を信じろ! お前を信じる俺を信じろ!!」


「わ、分かったよ、アニキ!」


カミナはシモンを肩車したまま走り出す。

シモンも恐れを覚悟に変えて、振りかぶる。


「シモンさん、自信を持って!」


思わずネギも外野から声を出す。


「おう、そうだシモン!」


「シモン、がんばるのです! シモンなら大丈夫です!」


「しっかりやんなさいよ、シモン!」


ダイグレン学園の仲間たちの声が響く。


「いけ、シモン! お前のドリルで壁を突き破れ!! 漢の魂完全燃焼!!」


その声援を背負い、己の気合と合体で生み出されたパワーを用いて、シモンは吠えた。



「うおおおお、必殺! ギガドリルボールブレイクゥ!!」



シモンが投げたボールは、ドリル回転で突き進み、うねりを上げて相手チームに襲い掛かる。


「な、なぜだああああ!?」


「いやああ!?」


「こ、これはジャイロボール!?」


シモンの繰り出した想像を遥かに超える魔球が英子たちの背筋を凍らせた。

その巨大な力を止めることは出来ず、ヴィラルとブルマーズの一人が同時にヒットした。

これで残る相手は四天王と英子のみ。

希望が再び見えてきた。


「やっ、やったよアニキ!」


「おう、流石だぜ兄弟!」


「シモン、素敵です!」


「やるじゃないの!」


シモンとカミナの力が先ほどまでの不安を希望に塗り替えた。ダイグレン学園の勝機が訪れた。

だが、次の瞬間・・・


「ぬりゃあああ!!」


「ッ!? シモン、危ねえ!!」


「・・・えっ?」


喜びに踊るダイグレン学園の隙を突き、チミルフがシモン目掛けてボールを投げてきた。

誰も気づかぬ中で、唯一気づいたカミナがダイビングしてシモンを突き飛ばす。


「アニキ!?」


「チミルフ!? テメエ~」


危うくやられるところだった。

ボールはシモンに当たらず通過し、そのまま外野へと出て行く。

しかし・・・


「先ほどのお返しだ!」


「ヴィ、ヴィラル!?」


「外野の者もボールを投げられるというルールを忘れるなァ!!」


チミルフが投げたボールを、外野に居るヴィラルがキャッチし、そのまま即座に投げ返す。

狙いはカミナだ。

だが、カミナも何とか体を反転させて、間一髪で回避するが、敵の攻撃は終わらない。


「これで、終わりよ!!」


「げっ、ブルマーズ!?」


よけたボールの先には、今度は英子が居る。そして英子はバレーボールのレシーブのようにそのボールを高く上げ、そしてボールに向かってジャンプする。


「なっ、逆光が!?」


太陽を背に高く飛ぶ英子。カミナは太陽の逆光で英子の姿を直視できない。



「必殺! 太陽拳!!」



何度もボールを回避してきたが、立て続けに起こったためにカミナの体勢は崩れていた。

そして・・・


「ぐわああああああああ!?」


ボールはカミナの顔面に直撃し、カミナの悲鳴が麻帆良中央駅前に響き渡った。


「アニキ?」


ヒットしたカミナを、シモンは見下ろした。


「やられた・・・すまねえな・・・ダチ公・・・」


そしてダメージを受けたカミナは、そのまま気絶してしまった。


「ア・・・ニキ?」


カミナは自分を庇って、体勢を崩して敵にやられた。


「アニキ! アニキーーーーッ!?」


カミナがアウトになってしまった。

ダイグレン学園は全員開いた口が塞がらなかった。どんな喧嘩もカミナが居たから、自分たちはここまで来れた。

しかしそのカミナがやられたことは、彼らの心に大きな穴を開けた。


「アニキさん・・・シモン」


ニアはシモンの下へ走る。

自分の所為でカミナがやられたと思っているシモンは、自分を責め、ショックで肩をガックリと落としている。


「俺の所為だ・・・俺の所為でアニキは・・・」


「・・・シモン・・・」


期待されていたのに、自分の所為でチームを最悪の展開に追い込んでしまった。自分を責め続けるシモンに掛ける言葉が見つからず、ニアは黙ってシモンを抱きしめる。


「そんな・・・カミナさんが外野になってしまったら・・・」


ネギも僅かな時間ながら、カミナという男がダイグレン学園の不良たちの中でどれほど大きなウエイトを占めているのかがそれなりに分かっていた。

だからショックを受けるシモンやキタンたちの気持ちが分かった。

敵は逆にカミナを当てたことにより、この勝負はもう自分たちの勝ちだと疑っていない。

完全に勝ったと思っている顔だった。

当てられたカミナも気絶して何も言わない。

もう、これで終わりなのか?

この勝負はダイグレン学園側の敗北になってしまうのか?

誰もがそう思いかけたその時だった。



「そこで何をやっているんだい、君たち! ここをどこだと思っているんだ! しかも授業中だぞ!?」



三人の教師が、騒ぎを起こしているシモンたちに向かって怒鳴りながら現われた。


「げっ、ガンドルフィーニ!?」


「鬼の新田!?」


「やべえ、デスメガネも居やがる!」


現われたのは、魔法先生のガンドルフィーニ、そして魔法先生ではないが、学園の広域生活指導員の新田。

そして・・・


「タ・・・タカミチ」


「やあ、ネギ君。研修初日に大変だね」


学園最強候補のタカミチまで現われたのだった。

どれもこれも麻帆良では有名な教師。タカミチに関してなど、テッペリン学院の不良たちでも知っていた。


「ぬう、あれが噂のデスメガネか」


「だが、これでこの茶番も終わりだね~」


こうなってはもうドッジボールどころではない。少し拍子抜けな感じをしながら、チミルフたちも学園の教師たちの下へ歩いていった。










「たびたび問題を起こして・・・今度は授業中に駅前で乱闘・・・その次は駅前を無断に利用して、こんなくだらん遊びまでやって・・・何をやっておるかアアアア!!」


鬼の新田の怒号が響く。


「ちっ、うるせえな」


「あ~あ、つまんねえ。停学にでも退学にでもすればいいじゃねえかよ」


だが、キタンたちに反省の色は無い。

カミナがやられたこと。どちらにせよ勝ち目が無かったが、途中で教師の横槍が入って中断になったこと、何だか何もかもが面倒くさくなって、キタンたちも不貞腐れた。


「に、新田先生、待ってください!」


「ネギ先生は黙っていなさい! そもそもこいつらにはこれだけ言ってもまだ足りないんですから!」


「で、でも・・・」


ネギも新田を宥めようとするが、その怒りの炎は決して収まることは無い。それに新田の後ろに居るガンドルフィーニやタカミチも難しい顔をしていた。


「ネギ君、この問題はある意味君には少し早い。新田先生の言っていることは間違っていないよ」


「タカミチ!?」


「その通りだ、ネギ先生。授業をサボるだけでは飽き足らず他校との喧嘩や問題・・・それに最近ではテッペリン学院の理事長の娘さんを脅しているとかで、警察沙汰にもなっている」


「えっ!?」


ガンドルフィーニがそう言った瞬間、シモンの傍に居たニアが慌てて叫ぶ。


「それは違います! 私は私の意志で皆さんと居るのです! お父様には心配を掛けているかもしれませんが、私は人形ではありません。友達や・・・好きな人と離れたくは無いのです!」


「君とこいつらの間で何があったかは知らないが、こいつらは君が思っているような奴らじゃない。平気で暴力をふるって人を傷つけるような不良たちなんだよ」


「違います! どうして皆さんは彼らの良いところを何も見ようとしないのですか?」


ニアが珍しく声を荒げてガンドルフィーニに食いつくが、カミナたちのこれまでの悪評のほうが高く、聞き入れてはもらえない。


「よせよニアちゃん」


「キッドさん!?」


「別に俺たちも言い訳する気もないんだからな」


「アイラックさんまで!?」


「へっ、くだらねえ。まあ、カミナがやられた時点でどっちにしろここまでだろ?」


「ゾーシイさん!?」


そもそも何故彼らはテッペリン学院と喧嘩することになったのか? その理由を誰も言わなかった。

ダイグレン学園に居たいというニアのわがまま。そのニアを連れ戻しに来た連中からニアを守るために彼らは戦っていた。

それが分かっていたからこそニアも教師たちにその事を知ってほしかったが、教師たちは聞く耳を持たず、キタンたちも既に言い訳する気も無いようだ。


「タ、タカミチ・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・」


ネギがどうするべきなのかタカミチを見上げるが、タカミチも難しそうに首を振って何も言えなかった。


「とりあえず・・・テッペリン学院の君たちはもう帰りなさい。そして英子君たちも後で話を聞くので職員室に来なさい」


「は・・・はあ・・・」


「仕方ない。理事長にはダメだったと言っておくか」


タカミチに言われて相手チームも解散し始める。


「さあ、お前たちはこのまま生活指導室に来い。今日という今日は許さん。キッチリと処分を下すから覚悟しておけ」


そしてダイグレン学園の生徒たちは教師陣に無理やり腕をつかまれ、全員連れて行かれようとしている。

これで何もかもが終わってしまう。

そう思ったとき、ネギはこのままでは絶対にダメだと思った。



(ダメだ・・・僕はまだ子供だけど・・・このままじゃ、どんなに指導されても説教されても何も意味が無い・・・)



例え新田やガンドルフィーニたちが何を言おうとも、今のキタンやシモンたちの眼を見れば、耳から耳に通り抜けるだけだろう。

それでは意味が無い。

そして下される処分は停学あたり。停学が明ければ、そのまま元に戻る。それの繰り返しだ。



(ダメだ・・・僕は・・・先生なんだ・・・今は・・・今は彼らの担任なんだ)



ネギは必死に考える。



(魔法の力に頼るんじゃない・・・自分の力でやるんだ・・・それが出来なくて・・・何が先生だ!)



魔法使いとしてではなく、一人の教師として、ネギは決心した。



「待ってください!!」



ネギの叫びに、全員が足を止めて振り返った。



「授業を放棄してドッジボールをしろと言ったのは僕です。ですから、彼らに処分を下すというのなら、僕に処分を下してください!」



それは、誰もが驚かずにはいられなかった。


「ボウズ・・・」


「坊や・・・」


「・・・アンタ・・・何・・・言ってるのよ」


ダイグレン学園だけでなく、タカミチやガンドルフィーニも同じような顔をしていた。


「ネギ君・・・」


「ネギ先生。君は自分が何を言っているか分かっているのかね?」


だが、ネギは変わらずに頷く。


「はい。分かっています」


教師たちも目を細めて、ネギの言葉にどう反応していいのか分からない。だが、混乱している彼らに向かって、ネギは更なる言葉を告げる。


「そしてお願いがあります。責任は僕が全部取ります。だから・・・このドッジボールを最後までやらせてあげてください!!」


小さな体で精一杯ネギは頭を下げた。


「ド、ドッジボールだと? ネギ先生、君は何を言っているんですか?」


「新田先生、お願いします! これはとても重要なことなんです! そして彼らは喧嘩をしていたわけではありません! 仲間を・・・大切な仲間を守るために戦っていたんです! だから・・・勝つにしろ、負けるにしろ、最後までやらせてあげてください! このままじゃ、彼らの絆にヒビが入ったまま終わってしまいます!」


ネギはすがるように頭を下げる。何度も何度も精一杯の想いを込めて頭を下げる。


「ぼ・・・ボウズ・・・」


キタンたちは皆、呆然としていた。

何故この子供は自分たちのためにここまで頭を下げるのか理解できなかった。


「ネギ君。君が優しいのは知っている。でもね、罪を庇うのは優しさじゃない。それは教育者としてやってはいけないことだよ?」


そんなネギの肩に手を置き、タカミチが少し複雑そうな顔をして告げた。だが、それでもネギは言う。


「タカミチ、確かにカミナさんたちは授業をサボるよ。喧嘩もするかもしれない。でも、彼らは仲間をとても大切にする人たちなんだよ! それって凄くいいところじゃないか! でも、このままじゃその心まで無くなっちゃう! 彼らのそんな良いところまで奪ったら絶対にダメだよ!」


「・・・・・・・ネギ・・・君・・・・」


「新田先生! ガンドルフィーニ先生! 彼らは処分を恐れずに仲間を守るために暴力を振るいました。それだけ彼らに引けない事情があったんです。でも、学内で暴力は許されない。だから僕もスポーツで決着を着けろと言いました。ですから、お願いします! 僕が後で処分を受けます。ですから・・・ですから、彼らの決着をつけさせてあげてください!」


言葉を失うとはこういうことなのかもしれない。

別に脅されているわけでもない。何か裏で考えているわけでもない。そんなこと、ネギの泣きながら頭を下げる様子を見れば一目瞭然だ。


「バ・・・馬鹿じゃねえか・・・あのボウズ・・・」


「そうね・・・馬鹿よ・・・私たちのこと、買いかぶりすぎだわ」


ネギは分かっていない。ネギが思っているほど自分たちはいい人間ではない。


「けっ・・・くせ~し、うぜ~よ・・・・・・」


「ああ・・・・・・虫唾が走る・・・」


「甘いぜ」


「おう、甘い甘い」


だが、それでもネギの言葉に後ろめたさと、何か心に来るものがあった。

自分たちはニアを守るためとは言ったが、喧嘩も素行の悪さも日常茶飯事だ。だから教師に疑われたり見下されたりしても言い訳する気は無かった。

正直余計なお世話だと普段なら言うだろう。

だが、僅か10歳の少年の純粋すぎる甘さが何よりも心を乱し、揺さぶられてしまった。


「ああ~~~、くそ~~、もうッ! おらあ!」


「いたっ!?」


イライラが限界に達したキタンは、後ろから軽くネギの尻を蹴った。


「キキ、キタンさん!?」


「キ、キタン!? お前はネギ先生になんて事を!?」


新田たちが再び叫ぶが、キタンは聞く耳持たず、そのまま歩き出す。


「・・・えっ?」


そして歩き出したキタンはイライラした中で、落ちてるボールを拾い、そのままドッジボールのコートへ戻った。


「「「「「「・・・・・・・・・・・」」」」」」


キタンのその姿を見て、アイラックやキッド、ジョーガン、バリンボー、ゾーシイたちも無言でネギの頭を軽く叩き、そのままコートに戻る。


「イタッ! テテ、イタッ! な、何で皆さん、ぶつんですか!?」


ネギが頭をさすりながら文句を言うが、その後もキヨウやキヤルたちも黙ってネギの頭を叩き、ついにはロシウまで軽く扉をノックするような感じにネギの頭を叩いた。

皆の行動の意味が理解できないネギに、ヨーコも真面目な顔をして軽く叩いた。


「怒ってんのよ、皆」


「ヨーコさん!?」


「あんたが勝手なこと好き放題言ったせいで・・・・負けられない・・・戦う理由が増えちゃったじゃない」


そう呟いてヨーコまでコートに再び戻って行った。


「シモン・・・みんな・・・戦おうとしています」


「・・・・・・・・・・・・」


「みんな・・・やっぱりとても素敵な人たちばかりです」


「・・・・・・・・・・・・」


「シモン。私は分かっています。シモンなら大丈夫だって!」


ダイグレン学園の不良たちが、スポーツで決着をつけるために再びコートへ舞い戻った。


「シモン」


そんな彼らに涙を流しそうになりながら、ニアはほほ笑みながらシモンに手を差し出す。

何の疑いもなく、シモンを信じて差し出した。

ニアはシモンに一緒に行こうとも、立ち上がれとも言わない。何故ならニアには分かっているからだ。そんな言葉が必要ないことをニアは分かっているから、何も言わないのだ。

シモンはその手を見ず、ただ、下を向いたままこれまでのことを振り返る。


(何やってるんだろ・・・俺・・・アニキがやられたことで動揺して、落ち込んで・・・先生たちに怒られても何も言わずにただ黙って・・・)


これまでのことを振り返り、そして自分自身のことを考える。


(あんな・・・10歳の子供があんなにしっかりと・・・一生懸命に・・・一人でがんばっているのに・・・俺はいつも・・・いつも・・・)


ネギ。

シモンはネギのことを良く知らない。今日いきなり自分たちの担任になったばかりの10歳の少年。しかも事情も良く知らない。

ただ、今にして思うと、ネギはどんな思いでダイグレン学園の教室に入ってきたのだろうと考える。

欠席者ばかりで、生徒が全員早退して、喧嘩して、止めても言うことを聞かない自分たち。普通の教師ならその場で辞めるか文句を延々と言うだろう。

しかし今、ネギは自分が処分される覚悟で自分たちのために頭を下げた。不良でろくでなしの自分たちのために頭を下げる。

自分なら耐えられるか? カミナやニアにヨーコに囲まれて、守られている自分が、10歳のときに誰も味方の居ない教室に足を踏み入れられるか?

だからこそ、キタンやヨーコたちはコートに戻った。

ならば自分はどうする?

これまでカミナやヨーコに流されてばかりだった自分はどうする?

シモンは何をする?

決まっている。


「ああ、行こう!」


差し出されたニアの手を握り、シモンは立ち上がった。


「ええ!」


ニアも満面の笑みでほほ笑んで、シモンと共にコートへ戻る。


「お、お前たち・・・な、何を勝手なことを・・・」


やる気もなく不貞腐れていた不良たちが、コートへ戻った。それは新田たちにも信じられない光景だった。


「・・・けっ・・・オチオチ寝てもいられねえか・・・」


するとその時、強烈なボールを顔面に受けて気絶していたカミナが立ち上がった。


「カ、・・・カミナ!?」


「へっ、内野だろうが外野だろうが関係ねえ! 10倍返しだ!」


「アニキ!」


よろよろと立ち上がったカミナは、コートの中ではなく外野へと移動する。だが、外野と内野に分かれていても、彼らダイグレン学園の気持ちは一つ。


「皆さん!!」


ネギはうれしくて涙が出そうになった。


「へっ、勘違いするんじゃするんじゃねえぞ?」


「テメエのためじゃねえ。俺たちが決着をつけてえんだよ」


「まっ、後で責任とってくれるんだろ?」


「それなら遠慮なくやろうかしら?」


「へへへ、そりゃいーや。まっ、勝つのは俺たちだけどな」


「おう!」


「迷惑を掛けるなら誰にも負けないぞ!」


「まっ、僕もたまには・・・・・・ですから・・・・・」


そしてダイグレン学園の生徒たちは、全員ニヤリと笑ってネギに向かって言う。




「「「「「「「だからちゃんと見とけよ、ネギ先生!!」」」」」」」




「ッ!?」




その言葉に驚いたのは、ネギだけではない。

新田やタカミチ、ガンドルフィーニも口を開けて驚いている。


「は・・・・・・はい!!」


今日はどれだけ泣いたか分からない。だが、こんな涙なら構わない。ネギは、うれしさのあまり、涙が止まらなかった。


「ふん、面白い! さすがは我らの宿敵といったところか!」


「手加減はせんぞ?」


「へっ、くせ~ことしやがって! 言っとくけど手加減しないからね!」


「ふっ、麻帆良ドッジボール部の力・・・まだまだ見せてやるわ!!」


チミルフや英子たちまでいつの間にか帰るのをやめてコートに戻った。


「なっ、お、お前たち!? ・・・・ぬ・・・・ぬぐぐぐ・・・・ええ~~~い!! さっさとケリをつけろォ!」


新田もとうとう折れて、止めるのを諦めてドッジボールの続行を告げた。


「ありがとうございます!」


「ふ、ふん。ネギ先生。後でしっかり生徒と一緒にお説教ですからね」


「はい!」


新田は少し複雑そうな顔をしてソッポ向く。その様子に今まで難しい顔をしていたタカミチとガンドルフィーニも苦笑して「やれやれ・・・」と言いながら観戦に入る。


「さあて、カミナが外野に行ったが、俺たちはまだ負けちゃいねえ! ここはこの俺、キタン様が・・・」


「怯むな皆!!」


「・・・・・え?」


コートの中で今まで一番大人しかったシモンが大声で叫んだ。


「無理を通して道理を引っ込めるのが俺たちダイグレン学園なんだ! みんな、自分を信じろ! 俺たちを信じろ! 俺たちなら勝てる!」


カミナが外野に行ってしまったことで、内野の士気をどうやって上げるかの問題をシモンが即座に解決した。

これまでずっとカミナの後ろに隠れていたあのシモンが、強い瞳で叫んだ。


「へっ、ようやく分かってきたじゃねえか。兄弟!」


自分が内野に居なくても、何も心配することは無いとカミナは笑った。


「な・・・お、・・・おお! 当ったり前よォ! 何故なら!」


自分の役目を奪われたキタンだが、直ぐにシモンに頷いた。そして他の仲間たちも頷き、相手チームに向かって叫ぶ。




「「「「「「「俺たちを誰だと思ってやがる!!」」」」」」




不良たちの意地を賭けた戦いに、いよいよ決着がつく。




後書き


注・やってるのはガンメンバトルではなく、ドッジボールです。



[24325] 第4話 たまにはこんなのも悪くない
Name: ぶらざー◆79ab137b ID:b5278b05
Date: 2010/11/17 14:22
「ちょっとどういうことよ、ネギがダイグレン学園に!? 何であんな不良の巣窟にネギが行かないと行けないのよ!?」


ネギが僅かな期間だが、自分たちの担任から外れて他校へ行くことになった。

しかもただ他校へ行くだけでなく、行った先は麻帆良学園生徒なら知らぬものは居ない、悪評高い麻帆良ダイグレン学園だ。ネギの本来の担当である3-Aの教室では、アスナを中心に生徒たちが大騒ぎだった。


「まったく、アスナさんの言うとおりですわ! あの純粋で真っ直ぐなネギ先生をあんなゴミ溜めのような場所に行かせるなんて、絶対に許しませんわ!」


「うん、このままじゃネギ君がイジメられるか、不良になっちゃうよ!」


「やだー! そんなの絶対ダメだよー!」


アスナに同調するように、委員長のあやかや、裕奈にまき絵などもギャーギャー文句を言い、クラスをはやし立てる。


「そ、そんな~、ネギ先生がイジメられるなんて・・・ねえ、夕映~~」


「のどか・・・・・・。確かに、これはどういう経緯があったにせよ、学園教師側の判断は絶対に間違ってるです」


「う~ん、しっかしあのネギ君がよりにもよって、あのダイグレン学園にとはね~。今頃メチャクチャ洗礼を受けてるかもね~」


不安を煽るようなハルナの言葉に、アスナたちはグッと立ち上がる。


「冗談じゃないわよ、今すぐ連れ戻してやろうじゃない!」


「アスナさんの言うとおりですわ! 今すぐダイグレン学園に乗り込んで、ネギ先生を奪還ですわ! とりあえず雪広家の特殊部隊も配置させるよう命じなければ。ネギ先生に、もし何かが合った場合は即刻ダイグレン学園を廃校にするだけでなく、不良を殲滅しますわ!」


ネギを救おうと過剰なまでに炎を燃やすアスナとあやか。しかし、周りの者たちは、ネギを救いたいという気持ちがあるが、少し頷くのに躊躇ってた。


「でもアスナ~、不良の学校だよ? 私たちが乗り込んで、何されるか分からないよ~」


まき絵が皆の思ったことを代弁した。


「そうだね~、不良の巣窟に私たちが乗り込んだら、何されるか分からないよ」


「それって・・・エ・・・エッチなこととか?」


「それだけじゃないよ。ヤクザと繋がってるかもしれないし、売り飛ばされるとか、働かされるとか・・・」


「ええーー! そんなの嫌だよ~~!」


不安で顔を見合わせるクラスメートたちだが、アスナには関係ない。


「何言ってんのよ、そんな学校なら尚のこと救いに行かなきゃダメじゃない!」


そして、これまでネギと深く係わり合いのあった生徒たちも同じ。


「わ、私も!」


「のどかが行くのでしたら・・・私も・・・」


「せや。ネギ君を助けられるんはウチらだけやからな。ウチも行くで」


「お嬢様・・・何があっても私が必ずお守りします」


全身に刀やら弓矢やら槍やらお札やら、ありとあらゆる装備で完全武装した刹那が燃えていた。


「せ、せっちゃん・・・鬼退治やないんやから」


「いいえ。これでも足りないくらいです。麻帆良学園の暗黒街とまで呼ばれる場所へ行くのですから」 


「ふむ、では拙者らも手を貸そう」


「ネギ坊主は私の弟子アル。弟子のピンチを救うのも師匠の役目アル」


次々とネギ奪還のために動き出すクラスメートを見て、躊躇いがちだった他の生徒たちも、意を決してうなずいた。

さあ、出撃だ。

しかしその時、クラスメートの鳴滝双子姉妹が、教室に重大ニュースを持ち込んだ。


「みんなーー、大変だよーー!」


「麻帆良ダイグレン学園の不良が、中央駅前で大乱闘してるらしいよーーー!」


そいつらこそ、正に妥当しなければならぬ不良。


「「「「「「「「「「なにいいい!?」」」」」」」」」」


それを聴いた瞬間、アスナはいち早く教室から飛び出した。


「こーしちゃ居られないわ!」


「あ、アスナさん!? ええ~い、皆さん、私たちもアスナさんに続きますわ! ダイグレン学園と徹底交戦ですわ!」


「「「「「「「「「「おおおおおォォォ!!!!」」」」」」」」」」









何でドッジボールなのかと問われても、シモンたちには答えられない。

所詮は10歳の少年が勝手に言い出したことだからだ。

しかしその勝手な少年の言葉には熱さを感じた。真剣に自分たちのためを思ってくれる心が篭っていた。


「いくよ、みんな」


「ああ。これで応えなくちゃ男じゃねえ!」


「おう、そうだそうだ!」


「ちょっと~、私は女なんだけど?」


「そう言ってるが、随分いい顔してるじゃねえか」


「あら、そうかしら?」


元々彼らの息はピッタリだった。世間一般のチームワークというのとは少し違うが、仲間同士の絆というものは確かに感じていた。それが彼らの強みでもあり、それがここに来て更に強固なものへと変わった気がした。


「皆さん・・・がんばって・・・」


ネギは両手を合わせて、ハラハラしながら決着の瞬間を待つ。自分の言いたいことをすべて言った今となっては、もう自分に出来ることは見守ることだけだ。

ネギの願いを聞き入れたにタカミチにガンドルフィーニも新田も、ただ黙ってその瞬間を待つ。

どちらが意地を通すのか。世間一般では価値のないものかも知れぬが、その意地の証明こそが不良である彼らの存在価値なのだから。


「ふっ、不良の意地があるのなら、私にもドッジボール部の誇りがある! これで終わらせるわ!!」


英子がボールを高らかにあげ、太陽を背に飛び上がる。


「あれはさっきの!?」


「カミナに当てた技よ!」


上がったダイグレン学園の士気をぶち壊すかのごとく、英子は渾身の力を込めてダイグレン学園に放とうとする。



「太陽拳!!」



だが、太陽の逆光を利用したその技を、この男が逆に利用する。


「僕が相手だ!」


「ロシウ!?」


これまでまったく出番の無かったロシウが前へ出た。不良や問題に常に頭を悩ませていた彼だが、ネギの言葉に心を動かされ、彼も前へ出る。


「ふっ、正面に立つとは無謀よ!」


「それはどうですかね!」


「なに!?」


ロシウは若者でありながら悩み多い。そのストレスが作り出した広いおでこを、太陽を背に飛ぶ英子に向ける。


「ロシウフラッシュ!!」


「なっ、太陽の光がおでこに反射して!?」


何と逆光を利用した英子に対して、ロシウは太陽の反射を利用した。その効果は絶大で、飛び上がった英子は思わず目を瞑ってしまい、ボールの威力は格段に弱まった。


「この天井の無い広い空の下! お日様に背を向けてどうするというんですか!」


少し間抜けかもしれないが、ロシウの機転がチームのピンチを救う。そして威力の弱まったボールを、ニアが正面からキャッチした。


「やりましたよ、ロシウ!」


「流石ニアさん、よく取ってくれました!」


「やっぱ色々なスポーツやってただけあって、運動神経がいいわね!」


ボールをキャッチしたニアは、仲間に喜びの表情を見せ、そのまま相手に向かって思いっきり投げた。


「たああ!」


「うぐっ!? ・・・くそっ、やられちまったね」


「アディーネ!? まずいぞい。数が減らされた」


「私だって、シモンと・・・皆さんと一緒に戦うのです!」


細腕のか弱い女の子に見えて、運動神経の良いニアが投げたボールはアディーネに当たり、相手の人数を更に減らした。

これで数的にはダイグレン学園が圧倒的有利になる。

だが自分の陣地に転がるボールを拾い、英子は吼える。


「まだまだ! ドッジボールは最後の一人が居なくなるまで、勝負は分からないのよ!」


太陽拳を破られた英子だが、彼女の技はまだ尽きない。体を目いっぱい捻らせて、一番最初に出した技を放つ。


「トルネードスピンショット!!」


螺旋の軌道を描いたボールが、ニアに襲い掛かる。このスピードと威力は、さすがのニアでも受け止めることは出来ない。しかし、だからこそ男たちは黙っていない。


「ニアちゃんは渡さねえ!」


「レディーを守るのは男の役目!」


キッドとアイラックがトルネードスピンショットからニアを横から庇って、ダブルヒットを食らってしまう。


「キッド! アイラック!」


「ふっ・・・やられちまったな。おい・・・シモン! 俺たちと違って、お前はレディーを泣かせるなよな」


「絶対に・・・ニアを守れよ!」


全てを出し切ったような表情を見せ、キッドとアイラックが外野へ移動する。


「ふっ、しぶといわね。でもまだまだ私たちの攻撃は終わらないわ」


「ちッ、ボールが外野まで転がりやがった。なんて威力だ。まだ奴らのボールだぞ!」


一気に二人を減らし、ここが勝負どころだと見て、英子も勝負を掛ける。


「ビビ! しい! トライアングルアタックよ!」


「分かったわ、英子!」


「了解!」


外野に居るブルマーズの二人が頷き、その瞬間から三人の間で高速のパス回しが始まった。


「なっ、速いわ!?」


「トライアングルだと? どんな陣形だ!?」


「いえ、惑わされてはダメです。ただの三角形です!」


バカばっかの不良たちの中で、ロシウがトライアングルアタックの正体を叫ぶが、分かったからといってどうすることもできない。


「はい、一人アウト!」


「うぐっ、・・・しまった・・・」


パスの速さについていけず、後ろを取られたロシウがあっさりと当てられアウトになる。弾かれたボールはそのまま再び相手の陣地に転がり、すかさずトライアングルアタックが繰り返される。


「ま、まじいぞ!? こりゃ~、ピンチって奴だ! だが、負けるわけにはいかねえ!」


臆せず吼えるキタンたちだが、所詮強がりに過ぎない。英子もこれでこのまま決着をつける気である。


(ドッジボールは人数が減ったほうがコートの中を自由に走り回れる分、使える人間が残ったら面倒になるわ。そう考えると先に当てるべきなのは・・・あの二人!)


英子は瞳を光らせて、運動神経の良いヨーコとニアに狙いを定める。


「ビビ!」


「OK!」


味方からパスを要求し、英子はその場で回転しながらパスボールにキャッチして、そのままダイレクトで相手を狙う。溜めの隙を無くしたために、相手も構える準備が無い。


「ダイレクト・トルネードスピンアタック!!」


反動を利用して威力を何倍にもあげたボールが向かう先にはニアが居る。ニアも覚悟を決めて正面から受け止めようとする。


「ニアは・・・俺が守る!!」


「ッ!? シモン、ダメ!」


ニアを庇うようにシモンが立ちはだかる。

しかしその瞬間、今度はシモンを守るように、二人の男が飛び出した。


「うおお、トルネードがどうした!!」


「俺たちの暴風のほうがよっぽどデケーぞ!!」


「なっ!?」


「そんな!?」


ジョーガンとバリンボーだ。二人はシモンとニアを守るために自らを犠牲にした。


「くっ・・・まだまだァ!!」


「やべえ、ボールはまだ敵のものだ!」


「その子がダメなら、そっちを狙わせてもらうわ!」


英子は再びボールを受け取り、ニアではなくヨーコに狙いを定める。ヨーコもかかって来いと相手に気迫をぶつけるが、先ほどのボールを止められる自信など無い。

だが今度は・・・


「俺たちの絆、テメエごときに喰いつく尽くせるかァ!!」


「うらああ!」


「なっ、キタン!? ゾーシイ!?」


キタンとゾーシイがヨーコを庇った。


「バカ、何てことすんのよ!」


「へっ、すまねえな。こいつはただの我がままだ」


「ちっ・・・ここまでしか来れなかったか」


嵐のような怒涛の攻撃を喰らい、大勢の仲間がアウトになった。


「くっ・・・やってくれるわね・・・」


後に残されたのは、シモン、ヨーコ、ニアの三人だけだった。

静まり返るダイグレン学園。

一度はネギとシモンの言葉で持ち直した彼らだったが、とうとう数的にも相手に逆転されてしまった。


「皆さん・・・シモンさん・・・ニアさん・・・ヨーコさん・・・」


全ての決着は内野の三人に託された。ネギは祈るように三人を見る。


「どうやら決着がつきそうですね」


「うん、彼らもがんばったけど、流石に英子君たちが相手じゃきついね」


テッペリン学院というより、麻帆良ドッジ部の底力を見せられたと、ガンドルフィーニやタカミチも惜しかったなと呟き、既に勝敗は決したと思っていた。

内野は3人。対するテッペリン学院は4人で、更にボールはテッペリン学院側。後は時間の問題だと、誰もが思っていた。

しかし、英子やチミルフたちはこれで終わったとは思っていない。


「ウルスラの・・・」


「ええ、分かっているわ。彼らの目を見れば一目瞭然よ」


仲間の犠牲により、生き残った彼らがこのまま黙って終わるはずは無い。シモンたちの目がそう語っていた。

誰も諦めちゃ居ない。

だが・・・


「でも・・・意地だけで、全てがまかり通るほど甘くは無いわ! これで終わりよ!」


英子は再び体を捻る。その捻りは、先ほどまでより更に捻っているように見える。


「これが風速最大限!! マックス・スピン・トルネードショットよ!!」


ボールがトルネードのような暴風となり、全てを終わらせるために放たれる。

これで終わりか? 

奴らの意地はこれまでか? 

だが、外野に居るダイグレン学園の瞳はまだ光を失って無い。


「見せてやれ、兄弟。トルネードだかスピンだか知らねえが、お前の魂を。お前が一体誰なのかをな」


カミナは珍しく静かにボソッと呟いた。

そもそもこれまで大声で常にうるさく騒いでいたカミナが、味方がこれだけやられているというのに一言も発していなかった。それは諦めたからではない。知っているからだ。自分が外野に行って落ち込みかけた仲間たちを鼓舞し、ようやく覚醒した弟分の力を知っているからだ。


「いけ、シモン!!」


英子のボールがシモンに襲い掛かる。

この瞬間、シモンはまるで世界の全てがスローモーションになったような感覚の中で、螺旋を描いて迫るボールを見た。


(このままじゃダメだ。それにこんなに凄い威力なら、ニアもヨーコもまとめて当てられてちゃう。だから、俺が何とかしなくちゃいけないんだ)


シモンは意識をボールの軌道と回転に集中させる。


(ボールの正面に立つんじゃダメだ・・・回転に逆らわないように・・・包み込むように・・・)


シモンはゆっくりと手をボールに差し出し、そしてあろうことか、ボールを手で包み込むように、そして螺旋を描くボールの軌道に自身の体を乗せ、自分もボールごと一緒に回転する。

シモンはボールを持ったまま、威力に逆らわずにその場で一回転し、その反動を利用してボールを相手に向かって手を離した。


「なっ!? 私の必殺ショットをいなして弾き返した!?」


「なんと!?」


「くけえ!?」


何かが起こるかもしれないと予想はしていた。だが、それがこんな結果になって返ってくるとは思わなかった。

大技の後で硬直して動けぬ英子に・・・


「しまっ!?」


驚きのあまりに反応の遅れたグアームとシトマンドラに・・・


「しもうた!?」


「くけええ!?」


これぞ伝説のトリプルヒット。


「バカな、トリプルヒットなど、私でも数えるほどしか見たこと無いわ! ・・・・ッ!? ボールの威力がまだ残っている!?」


英子は驚愕する。そして螺旋を描くボールの威力はまだ衰えていない。そのまま残るチミルフに向かって飛び込んだ。


「それだぜ、兄弟! そいつが・・・ドリルがお前の魂だ! テメエのドリルは、壁を全部ブチ破るまで止まらねえ! お前のドリルで天を突け!!」


チミルフは逃げずに正面から螺旋を描いて突き進むボールの前に立つ。だが、一回転、ニ回転と、その回転力は衰えるどころか更に増し、その螺旋の力がついに壁をぶち破る。


「いけえええええ!!」


「ぬおおおおおおおお!?」


最後の一人のチミルフまでアウトになったのだった。

あまりの力に皆が声を失ってしまった。タカミチも思わずタバコをポロッと落としてしまった。


「そんな・・・・・・ドッジボール歴10年・・・初めて見ました。トリプルヒットを超える幻の・・・・クアドラプルヒット・・・」


その瞬間、伝説が生まれた。



「「「「「うおおおおおおおお!!」」」」」



奇跡の反撃に麻帆良中央駅前に歓声が舞う。


「やるじゃねえか、シモン!」


「流石だ兄弟!」


「見たか、これが俺たちの10倍返しだ!!」


外野に行かされた仲間たちがここぞとばかりに大声を張り上げる。

いや、彼らだけでなく、ネギもタカミチもガンドルフィーニも、そして新田ですら今目の前で起こった奇跡の技に、ゾクリと体を震わせ、興奮が収まらなかった。

そして、興奮していたのは彼らだけでない。


「すげえ! 何だよ今の技!」


「ダイグレン学園のあいつスゲエ!」


「いいぞー! ダイグレン学園!!」


それは、見知らぬ者たちの歓声だった。


「えっ・・・」


「お、・・・おお・・・これは・・・」


ドッジボールに集中しすぎて全員気がつかなかった。

何といつの間にか授業が終わり、既に休み時間となった生徒たちで、ドッジボールのコートの周りは人で埋め尽くされていた。


「ネギーーーー!!」


「ネギ先生、ご無事ですかーーーッ!」


「来たで、ネギくーーん!」


そして、その人ごみを掻き分けて、アスナたち3-Aの生徒たちまでここに居た。


「ア、 アスナさん!? それに皆さんまで、どうしてここに!?」


「何言ってんのよ、あんたがダイグレン学園で研修なんて聞いたから、皆で助けに行こうとしたんじゃない。それより、なんなのよも~、喧嘩してるって聞いたのに、ドッジボールなんかして何考えてんのよ!?」


「心配したアル!」


「だが、杞憂のようでござったな」


「まあ、先生ですからね」


ネギが心配で仕方なかったクラスメートたちは、直ぐにネギに怪我が無いか体をあちこち触ったり、叩いたり、とにかく囲んでもみくちゃにした。


「あらら、なんだかすごいことになってるわね」


「すごいです。皆、今のシモンや皆さんの活躍をちゃんと見ていてくれたのです!」


いつの間にか学園中の注目を集めてしまったダイグレン学園。その視線はこれまで嫌悪や侮蔑で見られていた視線とは違う。


「はあ・・・はあ・・・はあ・・・・」


シモンは全ての力を出し切ったように、腰を下ろして呆然とこの光景を眺めていた。

カミナたちはどこかうれしそうに、どこか気恥ずかしそうに周りを見渡す。

そんな光景を見せられて、そしてこれだけ完敗すれば完全に闘志が萎えてしまったチミルフは、小さく笑ってコートを出てシモンの元へ行く。


「助っ人を使ってこのザマだ。これ以上は恥の上塗りじゃろう。ワシらの負けだ。理事長にはそう伝えておこう」


「えっ?」


「ワシらではダイグレン学園からニア様を連れ出すのは不可能だとな」


どこかスッキリしたような表情だ。ヴィラルもシトマンドラもアディーネも仕方が無いと苦笑した。


「ニア様・・・これがニア様の答えと思っていいのですな?」


「はい。そしていつか必ず私の口からお父様に認めてもらいます」


シモンに抱き付いているニアは、しっかりとした口調で告げる。もうこれ以上は無理だろうと、チミルフたちも折れてしまった。


「ウルスラの・・・これで良いか?」


「・・・ふっ、・・・あんなものを見せられては仕方ないわ。大人しく負けを認めるわ」


勝敗が決し、相手が敗北を認めた。

その瞬間、再び麻帆良学園中央駅前で大歓声が沸きあがり、外野へ行った仲間たちもシモンとニアの下へ走った。


「うおっしゃあああああああああ! やったぜシモン! 男を見せたな!」


「俺はお前もやる男じゃねえかと思ってたんだよ!」


「ニアを絶対に離すなよな! 見せてもらったぜ、愛の力をな!」


「もう二人でチューしろ!」


「いいえ、いっそのことこの場で結婚しちゃいなさいよ!」


全力を出し切って疲れ果てたシモンを仲間たちはもみくちゃにし、何度も叩いて、挙句の果てには胴上げまでしている。

しかしその中にカミナは居ない。


「カミナ、あんたはシモンの所に行かないの?」


「ヨーコ? ・・・ああ。言葉なんていらねえ。俺もあいつも全部分かってるからな」


カミナはただ、少し離れたところから、男を上げた弟分にうれしそうに笑ってた。


「まま、待ってくれよみんな~」


「シモン、チューです。チューをしましょう!」


「ニアも待てって、勝ったのは俺だけ力じゃないだろ? お礼を言う人が他にいるじゃないか」


仲間たちに囲まれているシモンは、疲れた体で無理やりその場から飛び出した。

そしてゆっくりと3-Aの少女たちに囲まれているネギの下へ行く。


「な、何よ・・・あんた・・・」


「えっ、・・・あっ、・・・いや・・・その・・・」


「アスナさん、待ってください。シモンさんたちは、悪い人じゃありません」


アスナを筆頭に、あやかや裕奈、刹那たちまでシモンをギロッと睨む。


「あのさ・・・その・・・俺・・・・」


相手は中学生の女の子たちだが、その実力は超人クラス。妙な圧迫感に圧されて、先ほどまでのかっこよかったシモンがどこかへ行き、再びおどおどとしてしまった。


(楓・・・)


(うむ・・・刹那こそ・・・)


対してアスナたちは喧嘩が始まるかも知れぬと予感しながら警戒心を高め、いつでも飛び出せる準備をしている。

だが、そんな彼女たちの予感とはまったく予想外の行動にシモンは出た。


「あの、・・・先生ありがとう!」


「「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」」


不良軍団の一人が、ネギに向かって頭を下げて礼をした。アスナたちも驚いて言葉を失ってしまった。


「その・・・先生が無茶してくれたから・・・俺もみんなも勝てたし、ニアを守ることが出来た。だから・・・先生・・・本当にありがとう」


ネギも最初は言葉を失った。だが、徐々にシモンが言った言葉が分かり、その瞬間は子供らしくニッコリと笑ってシモンの手を取った。


「いいえ! だって僕・・・今は臨時ですけど、ダイグレン学園の教師ですから!」


シモンとネギの会話を聞きながら、アスナたちも呆然とした状態から徐々にため息をつきだし、何やら自分たちの思っていたこととは違う展開で、要らない心配だったのではないかと苦笑した。

そして二人のやり取りをヨーコたちも眺めて同じように笑っていた。


その後は良く覚えていない。


ネギも生徒たちと一緒に鬼の説教を延々と聞かされていた。


皆とハニカンで笑顔にならないように必死だったが、気を抜けば笑ってしまうぐらい、この一日はネギにとって素晴らしいものに感じていた。


ただ、全てを言い終えた新田やタカミチたちがネギやシモンたちに向かって「結構、熱いじゃないか」と言ってくれたことは、よく覚えていた。



そして、翌朝・・・・





「それでは・・・出席を取ります・・・・・」


次の日ネギは、再びうな垂れていた。

昨日は全てうまくいったかのように思えたのだが、一夜明けて教室に来てみると、早朝のホームルームに出席していたのはロシウ、シモン、ニアの三名だけだった。


「う・・・ううう~~~」


そう簡単には甘くいかなかったのか? 

ネギは少し悲しそうに顔をうつむかせた。

だが、その時教室の外からギャーギャーとうるさい声が聞こえた。


「だ~~、大体ホームルームって何時からなんだよ! 一回も出たことね~から分かんねーよ」


「もう、せっかく時間通りに起こしたんだから、兄ちゃん起きろよな~」


「つうか、な~んでヨーコが俺んちに起こしにくるんだよ」


「だってあんた絶対に寝坊するでしょうが!」


「眠い・・・・」



「だ~、やっぱこのまま帰っちまおうかな~」


「やっぱ慣れねえことはするもんじゃねえな~」


一人二人の声ではない。

10人近くの学生の声が教室の外から聞こえてきた。



「・・・えっ?」



まさかと思って顔を上げる。

すると、教室の扉を手で開けてきたカミナが顔を出し、続いてヨーコや昨日のドッジボールのメンバーたちが全員登校してきた。


「あの~・・・みなさん・・・ち・・・遅刻です・・・」


ネギは再び顔を俯かせた。


「なにい!? だから面倒くせえって言ったんだよ!」 


「どーせ遅刻するんならパチンコ行けば良かったよ」


「タバコ買い忘れた・・・」


「朝飯食えなかったぞーーー!」


「食えなかった食えなかった食えなかった!」


「も~、昨日はダーリンと愛し合う回数減らしてたのに、意味ないじゃなーい」


「アニメ・・・見てくればよかった」


遅刻を宣告された不良たちはブーブーと文句を垂れる。

だが、そんな彼らの行動に、ネギは何故か涙が浮かび上がった。

そしてその涙を必死に誤魔化しながら満面の笑みを浮かべて叫んだ。



「え~い、今日は出血大サービスです! 後5分遅れたらダメでしたが今日は僕、特別に許しちゃいます!!」



少しずつだがたった一日で変わり始めた。

昨日は途中から自分が教師としての評価がダメだったら教師を辞めなければいけないという事をすっかり忘れてしまっていた。

しかしだからこそ、ウソ偽りの無い言葉が口から出て、皆の心を動かしたのかもしれない。

まだまだ普通の生徒たちとは言いがたい問題児ばかりだが、ネギは今日はとてもうれしい気持ちで朝から過ごせることになった。


「それでは、ホームルームを始めます。皆さん、席についてください。それとニアさんはシモンさんを好きなのは分かりますが、席を離してちゃんと座ってください」


そんなネギを見て、シモンは少しネギが眩しく見えた。

自分には出来ない。

仲間もカミナもニアも居なければ、きっと昨日も自分は何も出来なかった。

しかしネギはたった一人で奮闘し、皆の心を動かしたのだ。

俺も負けていられない。

自分も変わりたい。

そう思って、教壇の前に立つネギを見ていたのだった。






次回予告・・・

運動できない喧嘩もできないそんな自分に何がある? ガキの頃から手元に残ったドリル回して男は空を見上げてこう思う。俺も変わってみたい。

次回、ミックス・アップ,第5話! 部活でもやるか!


・・・・というわけで、次回からは完全にシモン視点で物語が進みます。3-Aの生徒たちともようやく絡みます。


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