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[24256] 【チラ裏発】ぼ~っとしていたいと 初めまして僕の名前は間桐慎二です。
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/12 06:17
 皆さんこんばんは、それともこんにちは、もしかしておはようございます?私は自堕落トップファイブという者です。フェイトにおける間桐慎二がメインで、彼がもっと地味だったらというテーマで書いています。彼の人を見下す態度が無くなり、もっと素朴ならどんなに良いだろうと思い書いた作品です。

作者はフェイトPC版を一度やった程度の知識なので細かい事は忘れました。また食い違いがある場合も同様です。ですのでフェイトをこよなく愛する方はどうか暖かい目で見てあげて欲しいと思います。

 それから今までコメントを書いて下さった方々には深くお詫び申し上げます。チラ裏板で書いていて、皆さんの反応が良さそうなのでTYPE-MOON板に移民しました。そして最初の【ネタ・習作】の部分を削除しようとしたら間違って一話丸ごと消してしまったんですね。俺は一体何をやってるんだろう、と真夜中に吼えながらもう一度コピーアンドペイストで復活させたのです。

 それから何が原因なのか分かりませんが、ひたすら文字化けのページに飛ばされるようになりました。良く分かんないけどとりあえず再起動しよう。そんな初心者根性で再起動を掛けた所、見事に小説が全て喪失していたのでした。本当にごめんなさい!!願わくば見捨てずに慎二と僕を見守ってあげて欲しいと渇望するばかりです。気を取り直してまた先に進めて行きたいと思います。





・・・





 間桐慎二はいつも通り目が覚めた。彼の起床は何故かいつも通りで、彼自ら「どうして起きれるんだろう、人間って凄い」などと寝ぼけた事を考えていた。ボサボサの髪の毛をどうにか整え、朝食を一人で取っていると妹の桜が慌ただしく帰って来たようだ。彼女はいつからか衛宮君の家に花嫁修業に出かけるようになった。それでも僕の朝食のためにこうやって急いで帰って来てくれるんだ。

 僕が食パンを生食いしているのを桜は大層ショックな顔で見ていた。え、もしかして今の僕ねずみ男とかそういうアレに見えるの?

「に・・・兄さん、ごめんなさい。私が帰って来るのが遅れたせいでそんな粗食に。」

酷いや、桜さん。超潤6枚切りの食パンに失礼ってものだよ。何たって超が付くパンなんだ。僕には計り知れないエネルギーが籠っているはずさ。超慎二、英語にすればスーパー慎二だ。う~ん弱そう。僕はそんな事を思いながら手をひらひら振り

「いやいや、朝早くから活動している妹の手間を省く事が出来て良かったよ。時間的に苦しいなら無理しなくても

「駄目です!そんな料理お爺様が許しても私が許しませんよ。」

「は、はい!」

これで僕が兄っていうんだから世の中不思議なものだよねぇ。彼女は衛宮君のもとでしっかり成長していっているんだ。兄としても嬉しいよ、うん。成長であれだけど、その、桜もうちょっと服大きいサイズにして欲しいかな。何か背徳的な何かが僕に湧いてきちゃうし。目のやり所に困ると言うか、ちなみにこれでも僕桜のお兄さんなんだけどね。

「・・・おはようございます。」

あら、ライダーさんが起きてらっしゃった。桜から話を聞くとどうも海外からわざわざ家庭教師としてお招きしたそうで。

「おはようございます、ライダーさん。僕はもう学校に行くのでまた夜に会いましょう。」

 頷くライダーさんをしり目に、僕はライダーさんの視界から逃げるように出て行った。あの人ちょっと美人過ぎるんだよね。何か人間を超えた神々の作りし美の権化と言うか。まぁドキドキしていらぬ事言わないように出て行くのがベストな選択だと思うんだよ、うん。と言いつつ学校に行っても時間有り過ぎてやることないんだけどさ。あ、僕弓道部だし弓でも射ようかな。

・・・

 結局道場に行ったものの鍵が掛かってて入れないし、わざわざ職員室に鍵取りに行くのもめんどくさいから教室に行った。僕は教室に向かいながらライダーさんの事をふと思い返した。

―――何であんなに無口なんだろう

 基本挨拶以外に会話が成立した試しが無いんだよね。あ、もしかして英語の先生なのかもしれないな。髪の毛の色も日本人離れしてるし何よりモデル体型だし。僕はみだらな思考になりそうなので慌てて頭をはたいた。何だよ、モデル体型だしって、全然関係ないじゃんか。

 それにしても桜が元気になって来たのは衛宮君とあのライダーさんのおかげだろうな。だってそれまで桜はいつも怯えたように暮らしていたんだ。とか言いつつ家にいるとちょっと元気無いけど。

 ちなみにお爺様って言うのは臓硯っていうお爺ちゃんが一緒に家で暮らしてるんだ。何か死臭がするっていうか、気持ち悪いんだよねあの人。だから僕は極力関わらないようにしてる。その爺ちゃんが桜を溺愛しててさ、やっぱ桜も気を遣うんじゃないかと。それでちょっと桜も家の中では悄然として余り生気が感じられなかったんだ。何だか得体が知れないもんね、あの爺さん。

 僕はこの通り地味でひ弱なもやし太郎だから、どうする事も出来ないんだけどさ。でもやっぱり爺ちゃんの嬉しそうに話す姿想像したら恐ろしい。桜が助けを求めて来たら手を差し伸べてあげようと思うけど、今の今までそんな事無かったんだよね。恩の押し売りや厄介事避けれるなら避けたいから、それならそれでいいけど。

 そうやって僕が廊下を歩いていると

「よー、酢昆布じゃん、はよーっす!」

短髪で朝から元気な彼は川尻猛(かわじりたける)君だ。運動部の何かに所属していると言ってたな。興味無いから忘れたけど。何せスポーツが得意なんだよ。そして僕の事を度々酢昆布と呼ぶ。これは僕が昼休み眠気覚ましに食べていた酢昆布を見てツボに入ったらしい。彼曰く

「お前、その髪型で酢昆布・・・ククッ、ワカメみたいな髪でお前それ、どんだけ海藻が好きなんだよー。ダーッハッハッハッハ!」

との事らしい。もう僕にはさっぱり笑いどころが分からなかったので「食べる?美味しいよ。」というと更に抱腹絶倒していた。一体何なんだ。

そんな彼の服装はいつも通りずぼらで、今日も教育指導に絞られたと朗らかに話していた。生徒会長の眼鏡の誰だっけ、え~っと

「川尻、貴様またそのような服装で!校内の風紀を乱すなと何度言えば気が済むんだ。」

「まぁま柳堂、そうカッカしなすんなって。寺の息子はもっと泰然と構えにゃならんのじゃないのか?」

 そうそう柳堂君だ、柳堂一成君。学校で屈指の堅物で知られる彼は、住職の息子さんだそうだ。僕の知識における住職は葬式以外ではスクーターで風俗に行くという偏った認識があるので別に尊敬はしてない。そしてふと見れば隣りに衛宮君も一緒だった。どうも今日は知り合いに良く遭遇する日だ。

「おはよう、川尻に慎二。川尻はともかく慎二、お前今日は早いんだな。」

「あーうん、何か家に居ても二度寝するだけだから。」

「ハハ、確かにな。」

「あ、衛宮君。いつも家の妹がお邪魔してごめんね。」

「ん、ああいや。寧ろ俺が助けて貰ってるくらいだし。逆に感謝しなきゃいけないくらいだ。」

 衛宮君と会話を始める時いつも桜の話題をワンクッション入れるのが通例となっていた。ありがとう桜、地味な僕でも彼と話す事が出来るのは君のおかげだよ。衛宮君は神の手を持つスナイパーとして弓道部で名を馳せていた。

 生徒会のたらい回しにされている彼だけど弓道部に置いてはもはやカリスマ的存在なんだよ。彼の純朴さ故か余り皆から注目を浴びてないようだけど、僕は彼を尊敬してるんだ。そんな衛宮君がなぜ弓道部を辞めたのかは、僕の中では学校の七不思議の一つになっている。どうもバイトが忙しいって言ってたけど。大きい家だし家賃高いんだろうねぇ。

 隣りでは柳堂君と川尻君が仲良く言い争いをしている。もう日常風景なので全く気にならない。その隙を見て僕は衛宮君に弓道に付いて話を聞こうと声を掛けようとすると

「何だ遠坂ずいぶん早いんだな。」

 と、学園のマドンナに普通に話しかけている。僕はもう美男美女のカップリングに慌てふためき戦々恐々とするしかない。僕は何も悪い事していないのに、いたたまれなくなってその場を後にするのだった。衛宮君はやっぱり凄いなぁ。遠坂さん何て見ただけで発情しちゃう僕では駄目だ。ちなみに遠坂凛さんって言うんだけど、この人は頭も良いしスポーツも出来るし日頃の行いまで良い人だ。

 僕なんか視界にも映らないだろうけど、それでも目線がこちらに向くだけで卒倒してしまいそうになる。遠坂さんなんだから遠くから見ないと、何ちゃって。それでも見れて良かった、今日は良い事あるかも。

 こうして僕は今日も健やかに学校生活を営むのだった。





―続く―








はい、どうも皆さん、こんばんは。初めてFateSS書いてみました。覚えている一番最初のシーンを用いて地味慎二を登場させてます。後川尻君はオリジナルですね。まぁ生徒Aと何ら変わり無い感じですけど、これから続けるようであればまた登場するかもしれません。

 僕としては慎二がこんな感じなら心安らぐのになぁ、という思いです。声が無い分そこまでイラつかされる事は無いんですけどね。Fateやった方なら分かると思いますが、この話序章も序章、聖杯の欠片もありませんね。ていうかあの時点でライダーが居たのかどうかすら記憶が曖昧で申し訳ないんですが。


本日もこのような駄文をここまで読んで頂き誠にありがとうございました!(謝)



[24256] 怖いけど震えながらも行く、それが慎二クオリティ
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/12 05:51
 時計に目をやると良い時間になって来た。僕は今日も無為自然に生活出来た事に感謝しながら布団に入ろうとした。その時家の門が開く音にビックリして僕は窓から外をこっそり覗きこんだ。もしかして泥棒だろうか、爺ちゃんなら持って行っていいけど他の金品はちょっと・・・。

「あれ、桜じゃないか。こんな夜遅くにどこに行くんだろう。」

僕はそ~っと出ようとしている桜に分かるよう窓をコンコン叩いた。桜は肩を震わせ音の方に顔を向け、僕だと分かるとほっとしたようだった。僕は窓に出来るだけ近くまで来るように手招きして、小声で下に行くから待っているように言った。

外に降りて来ると桜が闇に浮かびあがるように立っていて何か怖い。桜は自分がいけない事をしている自覚があるのか、ちょっとしょんぼりしていた。僕はそんな彼女の緊張を解そうとおどけるように話そうと思い

「桜、いくら成長したとはいえこの時間帯に出歩いていいのは企業戦士だけだよ。僕達学生は明日に備えて寝なきゃいけないよ。」

僕は桜を諭すように言ったつもりだが、桜は自身の目的をはっと思いだしたようで途端に浮足立った。僕は無理にあれこれ詮索せず桜からのアクションをじっと待っていると

「あの、兄さん。私先輩、衛宮先輩の所に行こうと思うんです。」

 僕はその言葉を聞いた時に全身に稲妻が走るような衝撃を受けた。ショックのあまり数百個の細胞がどこかの部位で死滅したかもしれない。ちょ、ちょっと待っておくれ妹や。確かに僕は、僕は頼り無いし女性ともろくに話す事さえ出来ない小心者だよ。嫌いな爺ちゃんとも徹底的に距離を置いて暮らしているし。だからってそんな・・・いきなり過ぎるじゃないですか。

 いくら花嫁修業だからって、花嫁にクラスチェンジを果たすのは時期尚早じゃない?そりゃあ僕だって相手が衛宮君なら文句無しだよ。でもそれにしたって夜這いや夜伽みたいな真似されたら兄ちゃん悲しいよ。体を武器にしちゃ駄目だよ桜、愛の深さで正々堂々挑んで欲しいんだよ。

 それ以前に良く考えて下さいよ。ただでさえ辛気臭いこのお家、名前の通り桜という華があるからこそ何とか空気の清浄化に成功しているんだ。僕と爺ちゃんの二人暮らし何かしようものなら、近日中にはカビや埃にまみれて家中にツタや触手が絡みつく惨状になるよ。しかも僕パンを焼く事すらしない無精者なのに、老い先短い爺ちゃんにはあんまりな食生活になっちゃうよ。

 僕は突然の桜の家出を聞かされ、歯の根が合わずガタガタ震えていた。どうやらそれは僕の杞憂だったようで、桜が慌ててかぶりを振った。

「ち、違います。何か嫌な予感がして、その、とにかく先輩が心配なんですっ!」

 必死の形相で訴えかける妹を信じてあげず、何が兄と言うのか。分かった、僕も夜の外怖いけどちょっと頑張ってみるよ。最近事件が多発しているこの町を、妹を一人で行かせるのは危険だもの。だ、大丈夫。世界は僕たちが思っているより、少しだけ優しいはずさ。何事も起こらないよきっと、うん。

 そうやって自分に言い聞かせていると既に桜は駆け出していた。ま、待って怖いから待って!結局僕は兄としての威厳もへったくれも無い理由で、慌てて愛する妹の後ろを走って行くのだった。


・・・


 桜、持久走苦手なんだね。うん、見りゃ分かるよ。僕は桜の重い足取りを支えながら衛宮君の家に向かっていた。最初こそ突き放されると思う猛スピードで先を行く桜だったが、すぐに充電が切れたようで喘ぐように走り始めた。もう今では走っているのは形だけで、歩いている速度と変わらない。僕はその気概を見せて貰えれば十分だよ、うん。

 衛宮君の大きな屋敷が見えて来たけど、何やら人がいる。どうも二人いるようで一人が見覚えある姿なんだよ。ん~?あの髪形どこかで見た事ある気が・・・。遠目に見て僕が知ってるかも知れない女性は地面に尻もちを付いていた。その首に向けてもう一人甲冑の人が手を差し出している。何だ優しいシーンなのかな。さぁお手を・・・っていう所に出くわしたのだろうか。

 その時桜が普段まず出さないような活力に満ちた声で叫んだ。

「ライダー!」

 ・・・目上の人にはきちんと敬意を払いなさいって。いくら給料支払って勉強を教わってると言っても相手は年上なんだよ?僕は突然桜がライダーさんを呼び捨てした事の方が気に掛かり、咄嗟にそのような悪態を付いていた。そもそも良く考えればお互い呼び捨てにし合ってたじゃないか。今さら何言ってるんだろう、僕は。

しかしそれ以前に

――――ライダーさん居たっけ?


 僕は怪談が嫌いだ。そして残念な事に桜は怖い話大好きだ。滅多に出ない桜の茶目っ気が発動したのかと思い桜の方に振り向いた瞬間

ガキーーーン!

 な、何事?僕はもう一度前方に視線をやるとライダーさんが甲冑の人に、鎌みたいなので斬りかかってる。え、ええ?!こ、これって第三者的に見たら通り魔による猟奇殺人の現場にしか見えない。しかし何やら見えない壁が展開されているのか、甲冑の人に刃先は届いていないようだった。

 そして僕は今ふと思ったんだけど、ライダーさん桜のボディガードまで勤めてんの?ともすればかなりの金額を弾まなければならないと思うんだ。うち、そんな余裕あったっけ。その辺の事を今後桜と二人で話し合おうと思いながら、地面を蹴って桜と一緒に走る僕だった。

 どちらとも緊迫した表情のまま拮抗し合っている内に、僕たちは現場付近まで近づいた。しゃがんでいる女性は見覚えあるも何も、遠坂さんだった。もう一人の鎧を装着している人は女性のようで思っていた以上に幼い顔立ちだった。遠坂さんは僕達の登場がよほど意外だったようで呆気に取られた顔をしている。僕は珍しい遠坂さんの表情に思わず見とれてしまった。

 そんな中開門して一人の男がつんのめりながらはい出て来た。彼こそが主人公たる衛宮君です。僕はもう早く物騒な空間から解放されたい思いが全身に蔓延していたので、衛宮君の登場に一人感激した。敬愛する衛宮君に飛びつこうかと思ったけど余りに場違いな行動なので止めた。

僕は桜の兄だとアピールするように桜の側でひっそり佇んでいた。だってライダーさんにせよ剣士さんにしても、さらには遠坂さんまで目をギラつかせているんだもの。油断していると喉元を掻き切られる勢いだよ。

「セイバーもういい、もう止めてくれ!」

 普段衛宮君からそんな悲痛な声を聞いた試しがない僕は、驚きから目を見開いていた。セイバーと呼ばれた甲冑に身を包む少女は一度戸惑う素振りを見せた。しかしこの辺が潮時と判断したのか武装を解除して、衛宮君を守るように側に悠然と佇立した。桜は遠坂さんに手を差し伸べ立たせてあげていた。

 その後何やらセイバーさんと衛宮君は押し問答みたいになっていた。敵がどうとか、サーヴァントが何とか断片的に聞こえる単語はよく分からない言葉がほとんどだ。でも僕に分かることは先ほどまで命のやり取りをしていたって事。そして遠坂さんが殺されかけたと言う事が何となく分かった。

 遠坂さんは立ち上がり桜に感謝の言葉を言うと、同時に僕の襟元を引っ張った。

「何で桜がここにいんのよ。」

小声にしていても憤りがたっぷり濃縮された響きが伝わって来る。そもそもまともに話すのはこれが初めてなのに、いきなり敬語抜きで来られるとは思って無かったよ。ともあれ僕は遠坂さんを意識しないように背景に焦点を合わせ

「ち、違うんだよ。桜が胸騒ぎがするって外に飛び出したんだ。それで僕も心配だから一緒に着いて来たんだよ。足手まといになるのは分かってるけど、身代わりくらいにはなれると思うし。」

 数秒間遠坂さんの懐疑に満ちた視線を全開に受けながら、僕は頬を引きつらせながらも耐え抜いた。隣りで静観していた桜も困ったように微笑みながら

「遠坂先輩、兄さんの言う通りです。何だか突然心配になっちゃったんです。でも結果的に先輩を助ける事が出来て良かったです。」
 
 遠坂さんは鼻から不機嫌を表す息を噴出した後、今度は衛宮君に矛先を向けたようだ。何にせよ僕は無実が証明されたのだ、ありがとう桜。感極まって桜に握手を求める僕。桜は事態を飲み込めないが、僕が嬉しそうなのに釣られて笑っていた。

 事態をよく飲み込めていないのは衛宮君も同様のようで、唖然としながら僕達全員を見渡している。ライダーさんは忍びの血を引いているのか、音も気配も無く自然に桜の背後に立っていた。服装の露出度の高さと唐突な出現二つの意味で僕は驚きのけ反った。

 僕にはあんなにドスの聞いた声を発したのに、衛宮君には小川のせせらぎのようなゆったりした口調で遠坂さんは挨拶をしていた。それも極上の笑みまで漏れなく付いて来るものだから僕だってちょっとは嫉妬した。言われた所で鼻血を流してゆっくり後方へ倒れるのが目に見えてるからご遠慮願いたいですけど。

 それからの会話はもはや一方的と言って相違ないに等しかった。つまり完全に主導権は遠坂さんが握っていた。衛宮君は基本的に人が良いから、イニシアチブを相手に委ねてしまうんだ。最後は遠坂さんに馬鹿扱いされつつも門内、衛宮家の敷地内へと入って行くのだった。遠坂さんは衛宮君にお茶でも淹れといてと使い走りにした後こちらへ振り返り

「桜、どうやらあなたもこっちの世界に踏み込んでいるようね。」

こちらの真意を探るように凝視しながら意味深な事を言っている。平凡で無気力に生きて来た僕には無縁過ぎる世界なので、当然知る由も無い。帰ろうという催促のため、僕は桜の手を取ろうとした。しかしタイミングを合わせたかのように僕の手をかわし、桜は胸の前で右拳を左手で包むように組んでいた。伸ばした僕の手は所在なさげに空中を飛びまわり、最終的に壁の選挙ポスターの顔に着陸した。頑張ってこの町を住みやすくして下さいね。

「遠坂先輩、私も一緒に中に入って話をさせて下さい。」

強気な遠坂さんの眼力に負けないように口を結びながら振り絞るように声を出す桜。本当にいつの間にこのような凛々しい姿にまで成長したんだろう。もう兄として誇らしい。正直僕はいらないかもしれないと思ったので、桜に

「ぼ、僕外で待ってようか?変な人が来たらどうにか応対するし。」

僕は内心怖くて仕方ないけど、入って役に立つとも思えないので外の見張りを買って出ようとした。しかし桜はゆっくりかぶりを振り

「いいえ、私より寧ろ兄さんに聞いて貰いたいんです。兄さんは今の出来事の意味、何も理解出来てないでしょう?」

「う、うん・・・恥ずかしいけど、物騒な事だとしか。」

「私も話を伺ってみて、兄さんにご助力を乞う事になるかもしれません。多分聞いてしまったら後戻りは出来ないと思います。それでも、よろしいですか?」

 何やら今後の人生に大きく左右されそうな事を聞かれて、返事に窮してしまった。当たり前だよ、だってこんな展開想像すらしてないんだもの。衛宮君の家に行って、先輩来ちゃいました、エヘヘ~な感じになると思ってたんだし。

でも僕はこんなんでも一応桜のお兄さんなんだ。妹だけに危ない橋を渡らせる訳にはいかない。今まで言いたい事も言えずに耐え忍んできた桜が、ようやく僕に協力を仰ごうとしているんだ。桜の平穏は僕が守らないといけない。だから僕は大きく頷くのだった。その時ライダーさんの頬が少し緩んだ気がしたのは、僕の見間違いだったのかもしれない。


―続く―







はい、どうも皆さんこんにちは、自堕落トップファイブです!さてさて一番最初だけ書くのもあれなので、本編に入る手前くらいまでは進めてみました。確か桜と凛は姉妹でそれをまだ隠してるというのは覚えているんです。しかし引っ込み思案の桜が、ここまでアクティブな行動に出るかどうかは甚だ疑問です。あくまでも仮定での話、どんだけ勘の鋭い子なんだよと自分で思いました。

後駆け付けた時は魔弾を弾き飛ばし、突きつけられたその時です。まぁシロウ君出て来るの遅れたのは作者のせいって事で。ともあれライダーが凛を守る形にって、この時点ではまだ姉妹だと互いに知っているのか?う~ん、知っていればライダーに指示するのは必然でしょうが、認識していなければ一抹の違和感が残りそうです。僕の記憶違いで無ければ互いに遠慮して姉妹だけど他人を装うというスタンスだった気がします。まぁ何かおかしいと思ったら逐一文をいじくる気ではいますが。それでは今回はこの辺で失礼します!

本日もこのような駄文に目を通して頂き誠にありがとうございました!(謝)



[24256] 仮マスターになった僕
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/12 07:57
 衛宮家の勝手知ったる桜が僕と遠坂さんを居間まで導いてくれた。遠坂さんが桜をまるで身内のように大事にするのは、何か訳ありな事情があるのかもしれない。それから僕はつい先ほどの彼女の立ち振る舞いから、頂いて勝手な印象を直ちに改めていた。

 どうも遠坂さんは今の威風堂々と大股で歩く姿が本来の姿みたいだ。人目が多い所でこっそり人知れず見ていたけど、僕の知らない彼女がそこにいたんだ。僕は別にそれが悪い事だと全く思わないし、寧ろ地を見せてくれた彼女に感謝していた。ありがとう、僕に自然に接してくれて。

 桜も遠坂さんに僕と同じ印象を抱いていたのか気になった。ちらりと彼女に目をやるといつも通りの桜だ、彼女は遠坂さんの事を僕よりずっと精通しているのかもしれない。僕があちこち視線を投げるのを半目で遠坂さんが睨んでいるのに気付き、慌てて下を向く。僕はきっと彼女から軟弱者に見えてるだろうし、とても恥ずかしい気持ちだった。

 それでも桜を守るためなら、僕は何だってやろうと心に決めていた。両親の温もりもなく、家事全般を一挙に引き受けてくれた桜には返し切れない程の恩義があるんだ。女性の心理や気持ちを察するのは疎いけど、僕だけが兄として桜を守ってやれるんだ。僕は内心で気持ちを固めながら、出来るだけ目を動かさないように努めた。

 僕たちが居間に入ると家庭が崩壊したようなシーンがそこに広がっていた。寒さに震えながら散らばっている窓ガラスの破片を拾う衛宮君。それを余所にお茶を上品に啜るセイバーさん。彼は完全に尻に敷かれているのだろうか。一緒にガラスを集めようか、僕がそう思い始めた時、遠坂さんが身を震わせ驚きの顔を浮かべて

「寒っ、何よもう、って窓全壊してるじゃない。」

 僕とは違い自身の寒さから窓にしか意識が向かっていないようだ。心なしか衛宮君、恨めしい顔浮かべてるよ。何があったのか知らないけど、とりあえず順当に夫婦喧嘩と見ていいのだろうか。にしてはセイバーさんの行動が淡泊過ぎやしませんか。

 全開に開いている窓を見て僕は駄洒落な気分になってきた。しかし僕がその事を指摘した場合風による身体的寒さに加えて、メンタル面でも寒くさせそうなので思いとどまることにした。単なる役立たずが更に場を白けさせる発言を行うなんてもっての外だよね、うん。

「仕方がないだろ、ランサーって奴に急襲を受けて俺も必死だったんだから。」

 僕の構える散り取りにガラスの細かい破片を箒で掃きながら、溜め息混じりで語る衛宮君。こう言っちゃ失礼だけど、衛宮君ってつくづく苦労多そうな人柄だよねぇ。僕は君子危うきに近寄らずを実践倫理として胸に秘めているから同情しちゃうよ。遠坂さんは興味深そうに衛宮君の顔を眺め

「へぇ、それじゃあセイバーを呼び出すまで、あなた一人で彼とやりあったの?」

「やりあって何かいない、ただ一方的に打ちのめされただけだ。」

「ふうん、変な見栄とか張らないんだ。そうかそうか、あなたって本当に見た目通りな人なのね。」

 無念そうに自身の無力さを苦々しく話す衛宮君に、遠坂さんは好印象を抱いたようだ。僕はそんな事よりも気にかかる言葉を耳にした。

―セイバーを呼び出す―

 ・・・一体何だろうこの纏わりつくような違和感は。単純に帰国子女と見て良い物か。夫婦ではなく単なるホームステイに訪れた欧州の女性と認識して良いのか。それにしても・・・あまりに状況が似すぎている。セイバーさんとライダーさん。

 そもそもだよ、彼女らの名前が本名とは到底思えない。コードネームないしはハンドルネームのようじゃないか。先に衛宮君が発言したランサーという人も引っ掛かる。僕はもう一度チラリとライダーさんとセイバーさんに視線を投げかけた。彼女達は圧倒的な存在感を尚も発し続けている。

 僕は自身の考えにぞっとした。もしかしてこの人達は『人ならざる物』じゃないかと思い始めたからだ。ゴクリと喉を鳴らし、僕は散り取りを置いて再度桜を守るように立った。桜は決して僕より先に死なせはしないよ。死ぬのはまず僕からだ、いわゆる年功序列って奴さ。年配者からこの世を去るのが世の常として正常な事なんだよ。桜は僕の心情を察してくれたのか、ぎゅっと裾を握ってくれた。ありがとう、君はここぞという時に気持ちを汲んでくれる本当に優しい子だね。

 そんな僕の想いとは別に事態はさらに進み、というか言葉通り遠坂さんは窓ガラスの直前まで歩み出て行った。僕は窓ガラスの破片が刺さったら危ないと内心ヒヤヒヤしながら見ていたが、彼女は軽やかに歩いて行きゴミ袋に詰まっているガラスの欠片を手に取った。それから何と彼女は窓を直したんだ、え、す、す、凄い!指から血を垂らして窓直した、うわっ、これは世紀末。も、もしかして彼女は死者までも聖なる血液で、蘇生させられるとかいうアレな人なのではないか?!

 僕は人智を超えた神の領域と思える所業に口をあわあわさせていた。僕が震えながら戻った窓を指しながら桜を見ると、そんな僕を楽しそうに見ていた。え、もしかして僕、物凄くみっともないの?

 ふと周りを見れば誰一人として驚嘆している人物など居ない。相変わらずセイバーさんにライダーさんは無機質な雰囲気を醸している。遠坂さんも何やら不機嫌そうだ。ただ一人僕の憧れで、弓道に関してのみ私淑している衛宮君だけは僕と同じ気持ちだったみたい。でも驚きの度合いは僕の方が重篤だったんだけどね。

「衛宮君、あなたいくら突然の出来事に混乱してるからってこの程度の修復はしなさいよ。」

 ええ!?何で怒られてるの。ていうか僕今現代の日本にいるんだよね。今みたいな魔法を学問としてるような時代や世界観に居ないよね。と言う驚きの目で桜を見ると桜は僕に母親のような慈しみの目で微笑んでいた。いいよね、美人の笑顔、今僕はほっこりしたよ。それから僕は何かそういう世界観にいるみたいだよ。何か遠い目で外を眺めてしまうよ。僕本当呑気だなぁ・・・。

 未だに頭を垂れてちょっと不満そうな衛宮君と、それを諭すように話しかける遠坂さん。遠坂さんって結構世話好きな人なのかもしれないね。でも僕は怒られるとしなびたキュウリみたいになっちゃうから駄目だ。調理方法にも困らせるしとんだ厄介者なんだ、しなびたキュウリ可哀そう。

 僕たちはテーブルを囲んで腰を下ろして話をした。と言っても喋るのは殆どが遠坂さんと、相槌を打つ衛宮君だけだ。僕はというと顔色を伺うように視線をあちこち彷徨わすばかりで、予想通り何の発言も行えなかった。でも僕は誰かが不審な動きをして桜に危害を加えないかだけは注視するようにしていた。

 そんな僕も遠坂さんの懇切丁寧な口調でようやく事態が掴めてきた。何でも今遠坂さんがやったのは「魔術」だそうです。そして魔術師が何やら喧嘩をするみたい。魔術師らしく召喚の儀式を行った後、出現したサーヴァントで競い合うんだって。ちなみに遠坂さんのサーヴァントは瀕死らしいよ。え、展開早くない?

 そしてどうも家庭教師やホームステイなどでは無くここに鎮座するセイバーさん、ライダーさんもそのサーヴァントにあたる人達らしい。その毅然とした態度から、僕の数兆倍は有能だと言う事が図り知れる。僕の肝はミクロの世界に達する小ささなので、そんな立派な人達を呼び捨てに出来ようはずが無かった。

 それからちなみに遠坂さんが腕を捲り見せた模様はタトゥーではなく、令呪と呼ばれる刻印なのだそうだ。僕はそれを聞いて桜に一度、大喝一声した事を申し訳なく思った。僕は以前桜の腕に傷があるように思われたので見せるように言うと、桜は酷く拒否反応を起こしたんだ。これはただ事じゃないと思って無理やり見たら、タトゥーが。もう僕は憤怒の形相で桜を叱ったんだ。だってせっかくの綺麗な肌に傷を付けて模様を書くなんて悲しいじゃない。

 ともあれ僕の勝手な思い込みで桜に怒鳴った事を謝る事にした。ごめんなさい、桜。桜が大変な思いを抱えてるのに僕と来たら。桜はニッコリ笑いながら「嬉しかったからいいんです。」何て優しいフォローを入れてくれた。それでも僕は謝るんだけどね。悪い事をしたら謝る、この心を忘れたら人間お終いだと思うんだよ。

 聞く所によるとこの令呪はサーヴァントに命令出来るんだそうだ。ただし3回限り。僕は寧ろ3回もでかい口叩いていいのだろうか、と凛々しいライダーさんを横目に見ながら思っていた。何でも聖杯戦争って言うのが開催してるらしくて7人で殺し合うそうです。本当に言葉に発するのも気が引ける話ですよね。

 そして戦争に勝った人が何でも願いを叶えられるんだって。僕の願いはたった一つだけだよ。桜は養子として家に来たんだ。両親の温もりを知らず、寂しい想いを胸に秘めて来たに違いないんだ。だから僕は叶うなら桜が一般家庭に生まれ、人として生きるために必要で当然与えられるべき愛情を親から受けて育って欲しいと思う。と言っても僕は魔術何て使えないし、パシリくらいにしか使えないんだけど。

 衛宮君も自身がサバイバルなゲームに巻き込まれたを知り驚愕に打ち震えている。僕だって突然殺し合いするから頑張って生き延びてね、とか言われたら思わずお漏らしするよ。何たって覚悟も理解も出来てない内から、命のやり取りを突き付ける何て過酷にも程があるじゃないか。だから他の誰が認めなくても衛宮君の震えは僕が認めるよ。

 衛宮君は自身で入れたお茶を一気に飲んで気を落ち着かせる事にしたようだ。僕のお茶はとうの昔に飲み干されている。僕は何も入って無い湯のみに口を付け、間を持たせるために飲んでる振りばかりしていた。

 二人(衛宮君と遠坂さん)の会話式の講釈は尚も続行していた。今日の僕は驚いてばっかりだ。何でもサーヴァントの人達は英雄だというじゃないか。僕はもう何度盗み見したか分からないけど、またしてもセイバーさんとライダーさんを一瞥してしまった。ライダーさんは桜の身内だけど、セイバーさんは・・・。渇く唇を舌で湿らせながら僕は自身の恐怖心と闘っていた。

 本心で言えばやっぱり死にたくない。何で憎悪も恨みも無いのに殺す必要があるんだろう。でもそういう物だと言う遠坂さんの瞳に冗談の色は見えなかったんだ。だったら観念して覚悟を決めるしかないじゃないさ。僕は自分の覚悟を示すかのように、床に置かれた桜の手を上からしっかりと握ってあげた。桜は驚いたように僕の顔を見たが、まなじりを下げて握り返してくれた。

 それから先のライダーさんが瞬く間に出現したのは、霊体化させていたからというのも分かった。僕は霊体だったら銭湯とかで大活躍じゃないか、凄い。などと男性的発想をしていたがすぐに頭を振って打ち消した。そんな妄言は家で寝る前にたっぷりすればいいじゃないか、僕の馬鹿。

 ともあれようやく話が終わったようだ。遠坂さんは今度はセイバーさんに向き直り、ニヒルな笑みを浮かべて話しかけていた。衛宮君が半人前とか、正規のマスターじゃないとかファンの僕が聞いたら悲しい発言ばかりだ。言われっぱなし衛宮君も見るからにふてくされた感じで憮然と座っている。衛宮君は隠忍自重というか、とにかく辛抱強い人だ。

 何でもセイバーさんの力は完全じゃなくて霊体化も出来ないそうだ。なるほど隠密行動や斥候要員としては致命的な痛手に思えるね。僕からすれば霊体化していても、その膨大な生命エネルギーは隠せないんじゃないかと思ってしまう。と言えどもライダーさんの気配を全く感じなかった僕には何も言えないんですけどね。

 話がまとまりそうになっている所で今まで口を閉ざしていた桜が声を出した。

「そろそろこちらもお話に加わってもいいですか、遠坂先輩。」

 別に無視されていた訳ではないだろうけど何と言うか、黒い笑顔だった。ライダーさんもちょっと顔を引いて主に怯んでいる感じ。でもそうだよ、僕達間桐兄弟だって聖杯戦争の参加者なんだ。話し合いをしなくちゃいけないよね。遠坂さんは怯みも驚きもせず勝ち誇ったような不敵な笑みを浮かべ

「ええ、そうね。丁度私もそうしようと思っていた所だし。」

「ぼ、ぼぼ、ぼ、僕からも提案がっっっ!」

 僕はこの部屋に入って初めて声を発したので、不完全燃焼な始まりで言葉を発した。桜は思わず吹き出し、つられて遠坂さんにも笑われた。馬鹿にされてるみたいに思えるけど今はそんな事気にしてる場合じゃないんだ。

「さ、桜、今すぐ僕にそ、その令呪を渡しなさいっ!」

 僕は可能な限り悪漢を演じようと声を張り上げた。提案どころか命令になってる事すら気付かない僕は、相当テンパっているんだよ。桜は突然の僕の命令調にきょとん顔になっていた。僕は更なる説得性を持たせるために話を続ける事にした。

「ぼ、僕は叶えたい事があるからね。さ、ささ、桜に美味しい思いはさせないよ。だからその令呪を僕に譲って下さい!」

 もう最後は懇願していた。というか譲る方法があるかどうかも知らずに、一体僕は何を口走っているんだろう。腕を組んでニヤニヤ見ていた遠坂さんがそれを受けて質問をして来た。

「へぇ~・・・慎二あんた何が望みなのかしら?」

 ・・・しまった、考えてない!いや、考えてたけどそれは言うの恥ずかしい。僕は一人でえ~っと、え~っと、言いながらうんうん唸り

「き、決まってるじゃないか遠坂さん!世界征服だよっっっ。」

 僕は桜のためなら喜んで汚名を被ってあげよう。桜に危険な真似を絶対にさせるもんか。本当に世界征服したらすぐさま国民の皆様に返還するんだろうけどね。そして何故か止まる世界、今この時点で僕間桐慎二が既に世界を征服したような錯覚を覚えた。え、何僕もしかして凄い事言い過ぎて引かれてる?僕は途端に恥ずかしくなり、手をワタワタ振りながら慌てて弁明した。

「あ、や、今のは凄すぎたかも。えっと、日本支配、いや冬木市一帯でいいから支配したいんだよ、僕は!」

 僕が真っ赤になって色々どうしようもない事をまくし立てていると、耐えきれなくなった遠坂さんが呵々大笑の声をあげた。それにつられて震えながら下を向く桜。ライダーさんもはっきり頬を緩めているのが分かる。衛宮君はポカンとして、セイバーさんは全く表情を崩さなかったけど。

 ヒーヒー言いながらもどうにか体勢を整えた遠坂さんは、涙が出るほど愉快だったのか指で目元を拭いながら

「いや~桜あなた、良いお兄さんに恵まれてるじゃない。」

「ええ、本当に。」

 何やら僕そっちのけでほのぼのした会話をしている。勢いのまま立った僕だけど恥ずかしさに耐えられなくなり、勢い良く座りなおした。そして遠坂さんと桜は崩れた表情をもう一度引き締め

「・・・にしても令呪を移す何て芸当が出来る人物、私には一人しか思い当たらないわね。桜、あなたは何か良い案でもあるのかしら?」

「・・・ええ、これを。」

 桜はどこから出したのか何やら曰く付きがありそうな書物をテーブルに置いた。僕はしげしげと眺めたが、どこから見ても外国版の学術書程度にしか見えない。一体どういう使い道をするんだろうか。

 桜の話によるとこれは偽臣の書と呼ばれる物だそうで、仮のマスターになる事が出来るんだって。元々聖杯に興味無い桜は僕にマスター権を譲りたいけど、罪悪感を覚えて考えあぐねていたそうだ。何だ、僕恥ずかしい思いまでして骨折り損も良い所じゃないか。いいよ、いいよ罪悪感なんて覚えなくて。桜には前線は似合わない、家庭の台所で包丁握っている方がよっぽど堂に入っているじゃないか。

 とりあえず僕はすんなり仮マスターの権利を桜から譲り受け、話の話題が呆気無いほど早く終わってしまった。というかライダーさんがさっきから僕の真横に居て緊張するんですけど。

 衛宮君は僕達のホームコメディみたいな話を静かに聞いてくれていた。そして話が終わったのを見計らって握手を差し出して来た。僕は何がどうなってこんな状況になったのか分からないけどとりあえず握手をした。衛宮君は「ん」と言いながら握り返し

「慎二、お前って何か格好いいな。桜を大切にしてくれてありがとう。」

 などとお褒めの言葉を頂いてしまった。僕は照れくさくなって俯きながら、小声でありがとうと言うしか無かった。妹を大事にするのは当然じゃないかと思ったけど、最近良く分からない人が多いしね。でも僕に格好良いなんていう形容詞似合わないよ、格好良いのは笑顔で握手を差し出して来た衛宮君の方じゃないか。

 そしてそんな僕達のやり取りが終わったのを見て遠坂さんが一言

「それじゃそろそろ行きましょうか。」

 と至極当然の事のように言ったのだった。え、どこに?僕と衛宮君は当然分かるはずも無いので、お互いに顔を見合わせ横に振り合う事で共鳴するのだった。





―続く―





 はい、どうも皆さんこんばんは、自堕落トップファイブです!Fateの小説は余りに大手過ぎて難しいと認識していましたが、実際ゲームをやりながら書けばそこまで複雑でもありませんね。ただ設定が細かく、その点に関して細心の注意を払う必要はあるようです。

 作者としては原作の雰囲気を残したまま、慎二だけキャラを変えたいと思っています。よって辻褄が合っていなかったり、違和感を感じれば感想にて報告して頂ければ幸いです。ともあれ僕はこんな慎二好きですね、やはり主人公は良いキャラじゃないと楽しくありませんものね。読者の皆さんも楽しんで頂ければ言う事ないのですが。それでは今回はこの辺で失礼します!

 本日もこのような駄文に目を通して頂いて誠にありがとうございました!



[24256] ライダーは僕、僕はライダー
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/13 07:38
 僕達は夜道をひたひたと歩いていた。行き先は教会なのだそうだ。別に僕達は懺悔をしに行く訳でも洗礼を浴びに行く訳でもないんだ。遠坂さんによればそこの神父さんが聖杯戦争の事を良く知っているんだとか。知識を提供してくれるのは大変ありがたいんだよ。でも僕は何でそこの神父さんは人殺し何かを容認しているのかが不思議で、また悲しかった。神や教祖を崇めるのなら命の尊さを謳うのが神官の仕事だと思っていたんだ。

 恐らく僕のような一般人を欺くために神職に就いているんじゃないかと思う。そう考えただけでも何とも嘆かわしい気分になる。真剣に悩んで訪れた人に対して舌なめずりするような神父だったら、嫌でしょう?少なくとも僕はそんな人面獣心な人は勘弁願いたいです。

 言峰神父と呼ばれる方がおられるのは隣町だそうだ。こんな冷える夜道に行くような場所じゃないと思ったけど、鉄は熱い内に打てとも言うし。とりあえず僕らは集団で夜の散歩をしているんだ。

 桜は遠坂さんとお喋りに夢中だ。うんうん、仲良き事は実に素晴らしいね。僕は遠坂さんが桜の話し相手になってくれた事が純粋に有りがたかった。こんな僕だからあまり話すのが得意じゃなくて、いつも黙々と歩くハメになるんだ。だからああやって気さくに話をしてくれれば桜も楽しいだろう。

 僕はそれよりももっと気になる事が一つあった。

「・・・あの。」

「何か?」

「さ、さ、桜は前にいますよ、ライダーさん?」

「ええ、それが何か?」

「い、いえ・・・それだけです。」

「・・・」

僕は未だにライダーさんに慣れていなかった。というより一生女性に慣れる気がしなかった。失礼な話女性なら誰でも上がってしまう僕だ。この際美人だからとか言うのは、言いっこなしにして貰いたいんだよ。と言っても僕の周りの女性は容姿端麗な人ばかりなんだけど。

僕は何故ライダーさんが好きこのんで、僕なんかの傍を歩くのかが理解出来なかった。周囲には足音と前方から聞こえる会話が仄かに聞こえるだけだ。義務なんか有る訳では無いけど、僕と一緒に歩いていて不愉快な思いをさせるのは申し訳ないじゃないか。

「ら、ライダーさん?」

「何か?」

「あ、あ、あの僕ちょっと靴ひもに違和感感じるので、桜と一緒に話しながら歩いていいですよ?」

「・・・靴ひもの違和感と桜に何の因果関係が?」

「あ、いや、その、僕がほらしゃがんで靴ひも直す間に桜の元へ・・・その。」

「・・・」

「ご、ごめんなさい!」

「何を怯えているのです、あなたは。」

「い、いえ、その英雄とか偉人みたいな凄い人に会った事無くて・・・。」

「我々はサーヴァント、寧ろあなた方の方が高潔に当たります。」

「現代は、じ、実力社会ですから。能力がある人間の方が、やっぱり偉いんです。」

「・・・それは命令ですか?」

「・・・え?」

「ですから、私が桜の下に行けというのは主としての命令なのですか?」

「いえ、命令だなんてその・・・。ただ僕はライダーさんに申し訳無くて。」

「先ほどのセイバーの言葉を借りる訳ではありませんが。シンジ、あなたは知識は言うまでも無くもう少しマスターとしての自覚を持って頂きたい。」

 僕はそれどころじゃなかった。マスターでもマスタードでもレオタードでもいいよもう。ぼ、僕、女の人に呼び捨てにされてる。もう僕は口をパクパクして戦慄していた。僕はもしかして他人の空似で、別の誰かに言ってるんじゃないかと後ろまで振り向く始末だった。

「シンジ、何か不審な点でも見つけたのですか?」

僕は再三に渡り自らのファーストネームを呼ばれ、周囲を見渡すも自分以外に人影は見当たらない。僕は喉を鳴らし、震えながら自身に指を指して

「ライダーさん、も、もしかして僕を呼び捨て、で呼んでるの?」

「・・・寝ぼけているのですか、あなたは。」

 僕自身もボケた発言という自覚はしてるんだ。でもそれでも女性とろくに話した事の無い僕が、名前で呼ばれる日が来るだなんて思ってもみなかったんだ。それからライダーさんはアゴに右拳を当てながら考えていた後、こちらを向いて

「シンジ、一つだけ言わせて頂きたい。」

「は、はい!なんなりと。」

「どうしてあなたは私をさん付けで呼ぶ必要があるのですか?サーヴァントである私が主を呼び捨てにしてにしている行為が無礼に当たります。」

「と、と、とんでもない!無礼どころか光栄です。」

「ではライダーと呼び捨てで今後お願いします。」

「それは、その・・・おいおい検討いた

「シンジ。」

「は、はい。」

「ライダーと呼び捨てでお願いします。」

「その、いくら何でもいきなりは、その・・・。」

「シンジ。」

「あ、あ、何か頭が痛く

「シンジ。」

「・・・。」

「シンジ。」

何で僕追い詰められてるんだろう。ライダーさんにはライダーさんのこだわりがあるのかもしれない。でも女性を呼び捨てにするのは、何か気恥しいというか、うん。

「と、ところでライダーさ

「シンジ。」

駄目だテコでも呼び捨てにならないと先に進ませないつもりだ。僕は大きく深呼吸を数回して精神を安定させた。そしてもう一度覚悟を決め

「ライダー・・・・・・・・・・・・さん。

「シンジ。」

 駄目だった。あれだけ間を空けたというのにNGを喰らうなんてあんまりだ。僕の最大限の譲歩と言っても良いくらいなのに。でもこのままだと完全にライダーさんに呆れられてしまう。僕は最後の手段に出る事にした。

「ラ、ライダー・・・ゴホッ、さ、ケホ、ん。」

「・・・・・・」

「ど、どうですか?」

「もう一度お願いします、念のため。」

「え・・・ライダー・・・コホ

「ストップ。」

「え、どうして・・・あ・・・い、言えた。」

「呼び捨てにするだけでどれだけ手間を掛けさせるんです、あなたは。」

「え、あ、う、その・・・ごめんなさい。」

「いえ、いいです。それがシンジの良さかもしれません。」

 何かサラっと恥ずかしい事言われた。僕は頭から湯気が立ち上ってるかも知れない。顔が熱くてしょうがないよ。僕は咄嗟に話を変えようと試みた。

「あの、ライダーっっっっ、くっ、っ。」

 もう僕の中で「さん」付けないといけないという気持ちが強すぎて我慢するのに必死だった。そんな僕の様子にライダーはクツクツ笑っていた。

「本当にシンジ、あなたは奇妙な人だ。」

「は、はぁ・・・それはどうも・・・。あの続きなんですけど。」

「何か?」

「ライダー・・の望みって何かあるんですか?聖杯で叶えられるとかって・・・。」

「・・・」

「あの、別に言いたくなければいいんです、けど。」

「シンジと同じです。」

「・・・え?」

「私も桜に幸せに生きて貰いたい。」

「・・・ありがとう、ライダー。」

「いえ、そのためにもあなたも強くなってもらわないと困る。」

「う、うん。僕頑張るよ。」

「桜にとってもあなたは掛け替えのない兄ですよ。きっとシンジが死んだら桜は悲しむ。」

「僕だって死にたくないけど・・・桜を守るためだったらしょうがないよ。」

「『守る』とは命と引き換えにする事ではありません。軽々しく死ぬ気にならないで頂きたい。そしてそうならないための私なのです。」

「・・・ごめんなさい。でも僕何の取り柄もないし・・・。」

「いいえ、取り柄はありますよ。桜への愛情なら誰にも負けていません。」

「・・・うん。」

「だから、あなたは桜と共に生きて下さい。そしてそのためにも私を利用して頂きたい。」

「・・・利用なんてしないよ。桜を大事にしてくれる人は桜にとっても大切な人なんだ。だから僕はライダーが傷つかない道があるならそれを探すよ。」

「・・・あれば、の話ですが。」

「良く言うじゃない、道は探している内に自分で切り開いてて作ってたって。だから諦めなければきっと活路は見出せるよ。」

「シンジは自信が無いのかあるのか本当にハッキリしない人ですね。」

「自信はこれっぽっちも無いけど、愛情で補ってるのかもしれないね。」

「ふふ、かも知れません。」

 僕はライダーが桜の幸せを願ってくれていると聞いただけで自然に接する事が出来た。だって桜の幸せを願うなら僕と同じじゃないか、自分に向かって敬語で話すなんておかしいと思うんだ。だからライダーは僕で、僕はライダーなんだ。こうして僕はライダーと固い絆で結び付き、桜を絶対に二人で守ろうと誓うのだった。





―続く―





はい、どうも皆さんこんにちは、自堕落トップファイブです!今回は会話ばっかりですね。そしてライダーメインです。僕の記憶の中でのライダーなのでちょっとキャラ違ってたら申し訳無い。慎二もきょどり過ぎてるのも何か微笑ましい。これでちょっとは慎二も聖杯戦争で活躍出来るかもしれないですね。ライダーとの関係が強まったので。人見知り激しい彼だけど、仲良くなればそれなりに話はしますからね。



[24256] セイバーと停戦条約の締結
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/12 16:13
 僕はライダーと話せた事で少し自信が湧いた。でも他の女の人はやっぱり怖い。それでも僕は言うって決めたんだ。目の前で雨合羽に身を包むセイバーさんに言わないといけない事なんだ。セイバーさんは衛宮君に雨具を羽織らされてすこぶる不快感を感じたのか、輪をかけて仏頂面になってしまっていた。もし下手な事を言おう物なら薙ぎ払われるかもしれない。

 でもこんな所から弱腰になってたんじゃ、今後もっと窮地に立たされた時に逃げ出してしまう。逃げて楽なのはその瞬間だけだ、良心の呵責に耐えきれず僕は自我を失うかもしれない。強さとは肉体だけを示す事じゃない、精神的にも太く厚くならないといけないんだ。筋肉なんて微塵も感じられない僕はまずメンタル面を強化しないと。

僕は意気込んだ癖にコソコソとセイバーさんの付近まで近寄っていった。セイバーさんは幸運にも一人で淡々と歩いている。衛宮君が先頭、次に桜&遠坂さん、そして僕とセイバーさん、最後尾にライダーの並びだ。僕は桜に聞かれたくないのもあり、声を潜めながらセイバーさんに話しかけた。

「あ、あの・・・セイバーさん。」

「・・・何か?」

「っ・・・その・・・。」

 圧力が半端じゃないんだ。平常時でさえ緊張で喉が枯れそうになるのに、ピリピリしている彼女は空中の大気を切り裂くようなプレッシャーを放っている。大丈夫、僕はライダーとも仲良くなれたんだ。皆話せば分かる人なんだよ、きっと。

「ぼ、ぼ、ぼぼぼぼ・・・。」

「・・・・。」

 話せば、分かる。しかしまず話にならないのはどうしよう。「ぼ」までしか言えない僕を未知なる生命体のように眺めているセイバーさん。僕は堪らず後ろに振り返った。ライダーは一直線に僕の方を見ていて、眼帯で何考えてるのか分からないけど期待してる感じがたっぷりだ。歩き方に張りがあるというか、さりげない動作で僕に檄を送ってくれている。

「・・・あの。」

「・・・」

「さ、桜は正規のマスターだけど、今のマスターは僕なんです。」

「そうですね。」

「・・・だからその、桜にだけは手を出さないで欲しいんです。かの、彼女は戦いなんて望まない優しい子なんです。だから、えと・・・。」

 僕がとりとめもなく桜を守ろうと必死に言葉を紡いでいるとセイバーさんは溜め息をついた。

「つまりあなたは私が勝つために、桜を狙うかもしれないと思っているのですか?」

「え!・・・いや、その、そんなつもりじゃ無いん、ですけど。」

 相変わらず会話もままならない僕に、セイバーさんはもう一度息を吐き出し

「安心なさい、私は戦意の無い者に危害を加えるつもりは毛頭ありません。そして仮であったとしてもマスターはシンジ、あなたです。したがって私が標的とするのはライダーとシンジだけです。」

 胸を張り、当然だと言うようにはっきりと断言してくれた。僕は桜に危害を与えないという言葉を聞いて安心した。後名前で呼ばれてちょっと心臓が跳ねあがりもした。

「あ、ありがとうセイバーさん!僕、それを聞けただけでも十分だよ。」

思わず僕は相手が英霊だと言う事をすっかり忘れて手を取り感謝の念を露わにした。セイバーさんはいきなり元気になり、溌剌として手を握って来た僕に少なからず驚いていた。有難い事に拒むような事はせず、しかし至って真剣な顔で

「・・・あなたはご自身の置かれている立場を理解しているのですか?今の私の発言は敵対すると言っているも同然なのですよ。それをどうしてこのように手を繋ぐ事が出来るのか、私には到底理解出来ない。」

「いえ、あなたは僕の申し出を承諾してくれた。僕はその感謝からこうして握手をしている。何ら疑問の余地などないですよ。僕にとって危険であろうが、桜にとって危険でなければそれは感謝すべき事なんです。」

 セイバーさんは呆気に取られたように僕を凝視なされていたけど、諦めたように目を瞑り頭を左右に振っていた。

「あなたと言いシロウと言い、どうにも今回は一癖も二癖もある方々ばかりのようだ。」

「・・・褒め言葉と受け取っておきます。」

 その言葉を最後に僕は後ろにずりずり下がってライダーに事後報告をする僕だった。

「シンジ、時間が掛かり過ぎです。」

「で、でもライダー僕言えたよ。やった、あんな凄い人と話が出来たんだ。」

「ふむ、その点は確かに評価できます。今回は及第点と言えるでしょうか。」

「うんうん、もう一回行けと言われても僕には同じように話す自信ないもの。」

「じゃあ行って下さい。」

「・・・え?」

僕はまさかそんな藪蛇を掴まされる事になるとは思わず、驚いてライダーを向いてしまった。ライダーはそんな僕の反応が楽しいらしく、手に拳を当てて声を出さずに笑っていた。酷いや、仲良くなったから別にいいけどさ。

「ライダーも人が悪いよ。」

 そういう僕にも笑みが浮かんでいた。人と話すのはこんなに楽しい事なんだ。普段あまり人と接する機会が無い物だから、そんな当たり前の事だって僕は嬉しかった。そんな事をしている内にもう歩道橋まで辿り着いていた。もうここまで来れば目的場所まであと一息と言った所だ。

 駅から離れ郊外を歩き、高台の地に協会は豪華な様相を呈していた。神を称える場とは言え、チャリティー精神を持った人間が高台を全面に活用して建てる物だろうか。この広大な敷地を惜しみなく利用している事を、誇りに思っていない事を願うばかりだ。

いくら外見ばかり見繕っても、内面の汚れや汚泥は拭い去れない。だからこそ僕達は宗教に頼り心を清潔に保とうとするんだ。頼られるべき存在の精神が、泥にまみれているなどあってはならない。涅槃の境地に達し、明鏡止水な人こそが相応しいんだ。どうか師事を乞えるような人格者でありますように。僕は協会に入る前から祈り始めるのだった。

教会の入り口にまで達した時セイバーさんが残ると頑なに言い張った。衛宮君が最後には折れ、さて行こうとなった時にライダーまで残ると言いだした。僕はどうしたのとひっそり聞くと

「いえ、私は少しセイバーと話をしてみようと思います。出来るだけ穏便に事を進めたいでしょう?シンジにしても、桜にしても。」

 僕はライダーの手をしっかり掴んで任せる事にした。ライダーは短期間の付き合いだと言うのに僕達兄妹を本当に理解してくれているなぁ。感謝の気持ちで一杯だよ。僕は少しジト目で見て来る桜の手を取り仲良く協会へと向かうのだった。


・・・


「・・・どういうつもりです、ライダー。」

「どうもこうも、あなたと同じ気持ちですが?」

「あなたがどういう思惑があるのかは知らないが。・・・私は勝ちに行きますよ、いつだって全力で。」

「ええ、それなら好都合です。」

「?・・・どういうことです。」

「ここは一時停戦と行きませんか。お互い友好的な関係を保っているようだし。」

「ふざけるな!私からの発言が聞こえなかったのか。」

「いいえ、至って真面目に私は言っています。我々は今とても不利な立場にいるのですから。」

「・・・。」

「よく考えてみなさい。あなたは不完全な状態の上に未熟なマスター。そして私の主もまだまだ頼り無い。そして桜を守りながらという制約まで付いている。我々単体では戦力は1にも満たっていないのです。」

「し・・・しかし、それでは情が

「情、あなたこそふざけているのですか?」

「何!?」

「手段を選んでいられる余裕も無い癖に、勝率を少しでもあげようとしないのは怠慢です。」

「・・・クッ。」

「まだ手の内さえ見せていないサーヴァントは後3人。それらをまず片づける方が先決ではないですか?それとも私情に身を委ねて先にリタイアしますか?」

「・・・いいでしょう。同盟という事ですね?」

「ええ、そうです。」

「ただし不穏な動きや寝首をかこうとした場合その首、直ちに切って捨てられる事をゆめゆめ忘れないで頂きたい。」

「それはお互い様の事です。では今後は桜とシンジを連れて衛宮邸に行かせて頂きます。」

「な・・・!」

「おや、同盟などと言ったのは口だけなのですか?」

「い、いや・・・それはいくらなんでも。」

「なるほど・・・寝首を掻かれるのが怖い、と?」

「・・・痴れ事を。全くマスターがマスターならサーヴァントも出鱈目だ。」

「ふふっ、あなたは分かっていませんね。シンジの本当の怖さを。」

「・・・何?」


―彼は気付けば心の隙間に入り込んで来るのですよ―


「いえ、直に分かるでしょう。」

「良く分からないが、どうやら私はまんまと口車に上手く乗せられてしまったようだ。」

「人聞きの悪い、騙してなどいませんよ。少なくとも今はあなた方に敵意を向けるつもりはありません。それに・・・」

あの屋敷にいるのは桜にとっても良く無い

「?」

「いえ、それにしても彼らは一体何の話をしているのでしょうか。」

「それは我々の知る所では無い。」

「それもそうですね。」

こうして僕が知らない所で停戦条約が結ばれたのだった。





―続く―




はい、どうも皆さんこんにちは、自堕落トップファイブです!やはりここは同盟を結ばせないと展開的に厳しいかと思いましてね。慎二によって出来る限り懐柔させて行く方向で話を考えて行こうと思います。それではこの辺で今回は失礼します!セイバーとライダーの会話とか地味に難しい物ですね(汗)

本日もこのような駄文に目を通して頂いて誠にありがとうございました!(謝)



[24256] 殺す覚悟、殺される覚悟(シリアス風)
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/13 06:58
ギィ・・・

 重々しいドアの開閉音を耳にしながら、僕達は教会の中へと入っていった。厳かにして神秘的、日常とは違う世界に圧倒され僕は思わず息を呑む。全ての物が左右対称に理路整然と並び、全ての物質が均等だった。

 温かみを感じない、とても、とても無機質だ。僕の率直な思いだった。何もかもが正しく、ここに懺悔しに来た人間はこの静謐さよりも冷然と感じるここで内情をあらん限り吐露出来るのだろうか。

 ・・・それは僕の勝手な思いに過ぎない。真剣に悩み多き人を救う神父さんに失礼というものだろう。大体木を見て森を見てどうするんだ。第一印象で全体像を割り出す何て傲慢というものだよ。

 それでも胸が締め付けられるような圧迫感を覚え、安らぎのために桜の手を強く握った。彼女も僕と同じ気持ちか、鼓舞してくれたのか強く頷いてくれるのだった。

 遠坂さんはエセ神父とかアイツとか言いたい放題だ。それほど親しい仲なのか、果たして単純に気に入らない人物なのか。どうも硬い表情から察すると後者の気がしてならない。かと言えそれは遠坂さんの好みに適さなかっただけで、まだどんな人かなど推測の域を出ないんだ。だからまだ酷い事言っちゃいけないよ、僕。

 僕がそんな事を考えてる内に衛宮君が驚愕の声をあげた。

「神父さんが魔術師で、遠坂の兄弟子に当たるってのか?!」

 そう、神父さんは容認どころの話じゃなかった。自分の手を完全に汚している人物なんだ。僕は深く祈った、否定的な想いは全ての行動に支障をきたす。もしそれが本当だとしてもやむを得ない事情があったのかもしれない。僕はそうであって欲しいとここで神に祈るのだった。

 義憤の怒りを声を荒げて熱弁を振るう衛宮君。彼は本当に素敵な人だ。どうして会ってさえいない人物へ、そこまで感情を出せるのだろう。僕には出来ない、だから素敵なんだ。きっと彼はその澄み切った心で多くの人の心を安らかにして来たと思うんだよ。

 僕はいつも我田引水な解釈をして、都合の良い事ばかり考えてしまう。良い事なのか、悪い事なのかそれは分からない。でも憎んでもけなしても、そして悲観したとしても人間の本質は変わらない。それは万物に当てはまる普遍的な物だと僕は思っているよ。だから僕は好意的に捉えるしか無いと思うんだ。偽善でも良い、僕はどんなに偽物の気持ちから始まったとしても最後には善になると信じているよ。

 それにしても、相反する魔術協会とここ教会。皮肉な物だ、手段のためなら殺人をも許可してしまう魔術師。そのような方が教会を管理しているんだ。僕は暗い冗談に陰りのある笑いを漏らした。でも、と思う。そんな人だからこそ、人の弱い部分、暗い過去、非業の末を体験してきた方達の心を救えるのかもしれない。善人に悪人の気持ちなんて逆立ちしたって分かりはしないのだから・・・。

「・・・にしても言峰、さんだっけか?」

「そう、言峰綺礼よ。もう十年以上顔を付き合わせてる腐れ縁。出来れば知り合いたく無かったけど。」

 衛宮君の呟きに吐き捨てるように言い放つ遠坂さん。嫌い、というよりも憎いとでも言うような物言いに僕は身震いした。僕は悪意に弱いんだ、苦手な言葉は「迷惑」な僕は本当に心の弱いちんけな男に思える。

「――同感だ。私も師を敬わぬ弟子など持ちたくは無かった。」

 ダンディーな低い響きでその言葉は礼拝堂に響いた。彼こそが言峰綺礼さんなのだろう。祭壇の裏側、壇のすぐ付近から悠揚迫らぬ物腰で現れた。足音がやけに響き渡る。心の中に入り、心の深淵を覗かれているような錯覚に目眩がした。僕が頭痛に手を頭に押さえると桜が慌てて心配して、僕の顔を覗きこんで来る。僕は出来る限り平然を装い笑顔で大丈夫、と一言言うのだった。駄目だな僕は、本当に心配掛けてばかりだ。桜の前だけでは良いお兄ちゃんをしたいのに丸っきり体が言う事を聞かない。

 一言で表すなら言峰神父は長身痩躯だった。いや、決して痩せ細っている訳ではない。ただ長身故にそう見えるだけなんだろう。その目は安心立命とし、確かに神父に相違ないと思わせるだけの雰囲気をその身に纏っていた。しかし人の顔色ばかり伺う僕だから見える獰猛さが垣間見えた。



―――あの人は躊躇無く一切の逡巡も無く人を殺せるだろう―――



 背筋が凍るような感覚だった。自分でそんな事を考えたのが信じられなかった。しかし僕の直感がそう告げているんだ、あの人はいつか災いをもたらす、と。しかし警戒心を見せれば逆に興味をそそる対象になるだけだ。普段通り存在感を消してひっそりしていよう。

「・・・なるほど彼らが新たな参加者、で良いのかな。」

 遠坂さんに簡易的な説明を聞き、緩慢な動作でこちらを向く綺麗神父。衛宮君も先ほどの話で警戒心を剥き出しにしているようだった。駄目だよ、衛宮君。その対応は非常に不味い・・・得てして残虐な人と言うのは怯えや恐怖を快楽に変えてしまうんだ。だから下手に彼の好奇心を刺激しちゃいけない、衛宮君は本当につくづく苦労を背負う方に行動する人なんだ。

 僕は一切の感情を遮断し、直立不動の構えを解かなかった。いや解けなかった。それでも礼儀として会釈だけはした。余計な事など一切話してはいけない、僕の数少ない人生経験から学んだ処世術だった。

 衛宮君はマスターになった覚えなどない、と精一杯の強がりを言っていた。遠坂さんの話を良く脳に入れておけば出るはずの無い言葉なんだよ。衛宮君、君の理想は高すぎるのかもしれないね。なるべくしてなった物をねじ曲げても思い通りに行く事など本当に稀なんだよ。寧ろ事態を悪化させる事の方が多いんだ。衛宮君、物事の摂理をもう少し学んだ方が良いかもしれないよ。

 予想通りというか予定通りと言えは良いのか、言峰神父はサディスティックな笑みを浮かべている。愉悦に歪むあの表情をとてもでは無いけど清廉潔白とは呼べない。寧ろ残虐性や、冷酷な印象の方が色濃い。尚も獲物をいたぶるかのように、言葉の毒で衛宮君をじわじわ追い詰めて行く言峰神父。

 対岸の火事じゃない、いつ矛先が僕に向くとも限らない。そして何より友人の衛宮君を放って置いて自己保身に走る自分が情けない。しかし僕は桜を守る使命があるんだ、例え衛宮君が喉に牙を付き立てられようとも情にほだされる訳にはいかない。何かを守るために何かを犠牲にする、得てして人生とは無数の選択肢からなるものだ。だからこそ軸を定め一番大切な物に焦点を当てていないと、気付けば消失してしまう。エゴでも偽善でもクズでも良い・・・僕は桜をただ守りたいんだ。

 実際会話の内容はそこまで凄惨な物では無い。ただ僕の視点から見ると、言峰神父から撒き散らされる糸によって衛宮君が絡め取られるように見えていた。僕は桜の腰に手を回し、強く自分から離れないように身を寄せて話を聞いていた。

 しかし言峰神父の話は有益な情報源でもある。虎穴とも呼んでも違い無いようなこの場所だから聞ける話があるんだ。そうしている内に衛宮君はどんどん恐慌状態に入っている。どうにも噛みあっているようで噛みあわない会話。第三者だから良く分かる、あの神父は元より相手の意思を尊重する気などない。意見の押し売りをしているだけなんだ。

 僕らの常識にある神父ではない。衛宮君気付いて欲しい、あれはもう人の皮を被った荒い息を吐く獣だということに―――

「綺礼回りくどいことはしないで。私は彼に事情を説明して欲しいだけ。誰も傷を開けなんて言って無い。」

 その一言に衛宮君は自身を取り戻したようだ。遠坂さん、あなたは本当に勇敢な人だ。僕にはとてもじゃないけどそんな真似も、そして余裕もゆとりも無いと言うのに。言峰神父は横やりが入った事すらも愉快そうに尚もマイペースに話を進める。いたぶれる時にはいたぶり、無理な時には潔く身を引く。だからこそより一層、凶悪さが引き立つんだ。

 今の今まで何の話をしていたのか、言峰神父はようやくここに来て本題などという言葉を用いて話し始めた。僕にはもうこの言峰神父を尊敬する気が起きなかった。だってそうだろう、僕達は生きるか死ぬかの狭間に立たされているんだよ。いつどこで死ぬかもしれない恐怖と不安に脅かされながら、どうして長々と世間話を興じる事が出来るだろう。時間にしても、もう夜更けなんだ。人の心が少しでも汲み取れる人であれば、清々しい明日のために可能な限り早く会話を終わらせようとするだろう。

 僕は怒りよりも呆れの気持ちが濃厚になっていた。元より誰かに切れる事など数回あるかないかの僕だ。身内の桜くらいしか本気で叱った事などない。本題と言いつつ表現を変えて聖杯戦争の説明を繰り返す言峰神父。僕達に刷り込ませようとでも思っているのか、何度も何度も違う言葉で説明を施す。僕達に戦争と言う物を許容させようとでもするかのように・・・。

 衛宮君は尚も言峰神父に食い下がっていた。どうして彼は自身の心身よりも恒久的な平和に向けて行動出来るのだろう。僕は桜、そして僕の平和があればそれでいいんだ。だから必要なのは生き残る手段、防壁、策なんだ。何もかもを受け入れる僕だからこそ、人を当てにしないよ衛宮君。最終的に人は、自分のために容易く他人を犠牲に出来る。だから言峰神父に必死に妥協案を出して皆を救おうとするのは・・・とてもむごい。決して敵わないだろう強敵に、立ち向かう様はアニメや映画では勇敢だ。しかし現実にその場面に遭遇するとそれはただただ無謀だし、哀れ、そして滑稽にしか映らないんだよ・・・。

 さらに不幸なのはその滑稽さをエサにして君を食い散らかそうとする人物が、正に目の前に立っているんだよ。聖杯を分け合えば良い?幾度と繰り返されて来た事実を加味して言っているのかい。セイバーさんが居間で申し上げてたじゃないか「これが初めてでは無い」って。出来るなら最初からやっていると考える僕は、とても無気力なのかい。安易に現実を受け入れてしまうのは諦観の念から来るものなのかい。

 僕は目を細め、懸命に活路を開かんとする衛宮君をただただ眺めた。憧憬、羨望と慈悲の心を持って。でも助けない、彼が望んでする事、彼が助けを求めない事、何より桜を守る大義のために。

 柳に風、馬耳東風、ノレンに腕押し、会話にならず、決して耳を貸さず、全く意に介さない言峰神父。そんなに僕らの縋るような声、表情、態度が楽しいですか?僕達はあなたの家畜でも食糧でも無い。姿形意思ある人の権利を持つ人間なんだ。僕は依然両手を広げ、ご高説を説いておられる言峰神父を冷めた目で見ていた。

 同感だとも、ああ同感です。遠坂さん、僕もあなたの心中をお察しします。邪心と悪意に満ち溢れた彼と共生し、よくぞそこまで立派に成長なされた。僕は心から敬意を表する事としましょう。残念ながら彼の嗜虐心は僕の心に不快な感情しかもたらしません。爺ちゃん同様、彼もまた闇を愛する人なのでしょうね。

 彼のトークは饒舌さを増し、今度は殺人を我々に勧めて来る。何でも聖杯戦争に勝つために、マスターを殺れば良いとの事だって。自分の体はいくらでもくれてやるけど、桜の体だけは認められない。ライダーも言ってたけどもう僕は一人だけの物じゃないんだ。僕の体に密着するか弱い妹が僕を必要としなくなるその時まで、僕は死ぬ訳にはいかない。

 出来る事なら誰も殺したくないに決まってる。それでも、それでも無理なら・・・?


―――殺すしかないじゃないか―――


 何を考えているのだろう、僕は。これでは言峰神父の思うツボじゃないか。殺人者に決して平穏は訪れない、少なくとも僕には。それはだって殺害という十字架が僕の良心に深く突き刺さるものだから。誰であろうと他人の命を奪う権利など持たない、その逆もまた然り。桜、ごめんよ。僕は危うく暗黒面に堕ちそうになっていた。人殺しの兄ちゃんなんて嫌だよね、本当に申し訳ない。

 僕はいつまで続くとも知れない茶番に愛想が尽きて来た。結局言いたい事はいつも一緒なんだ。


―聖杯戦争でただ一人の勝者になれば良い―


 馬鹿げた結論のために一体こんな真夜中にどうして拘束されているのだろう。不愉快以外の適当な単語が見当たらないけど、ここは静観を貫き情報収集に努めるのが得策だね。何にしても不用意な言動から意識がこちらに向く方が危険度が増す。怒りに身を任せて火に飛び込む訳にはいかないんだよ。

 結局コールド負けした衛宮君は聖杯戦争へ宣戦布告する事になった。当然衛宮君は切歯扼腕たる振舞いで苦渋に満ちた顔をしていた。彼は自分の気持ちにとても素直なんだ。だからより傷つき、利用され、心を乱されていく。君がもし僕の身内だったのなら、どれだけ手を差し伸べられたか分からない。それでも助けない理由はただ一つ、僕達は赤の他人だからね。自分の身は、自分で守って欲しい。

 僕は風を肩で切りながら出て行く衛宮君と、それに続く遠坂さんの後を追う前に神父さんに感謝の言葉を述べようと思った。

「・・・とても実になる話、今日は本当にありがとうございました。」

「ふふ、君はとても良い。とても世の理を正しく理解している。」

「ありがとうございます、それじゃ、桜行こうか。」

僕が深くお辞儀をした後、桜は会釈をし教会を後にするのだった。





―続く―





はい、どうもこんばんは、自堕落トップファイブです!う~ん、慎二がちょっとキャラ大丈夫かなぁ~と心配になったり。彼は他人には怒りをあらわにするというよりも、一線を引いて逆に折り目正しくなります。下手に挑発したり、ふっ掛ける事などしません。それは自身に破滅をもたらすと漠然と心得ているからです。書いている内に気付けばこんなキャラになったのですが、まぁ有り、かなぁ?

皆を懐柔するつもりでしたが、何やら雲行きが怪しくなりました。それではまたお会いしましょう。

本日もこのような駄文に目を通して頂き誠にありがとうございました!(謝)



[24256] 魔人現る
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/12 22:02
 僕は扉を閉め、外気に晒された安心感から膝がカクリと折れた。当然桜は素早く僕の身を留めてくれる。もう彼女は僕と長い付き合いだ、僕の緊張が途切れた瞬間にへたる事を予測していたのかもしれないね。僕は何とか彼女に身を支えて貰いながら、長い溜め息を吐き出した。

「・・・怖かった。」

「兄さん、立派でしたよ。」

 僕は何も言う事も出来ず、ただ突っ立ってた木偶の坊だというのに桜はどうしてこうも優しいんだろう。僕は力なく首を振り

「いや、僕は不甲斐ない自分が悲しいよ。こうして桜に支えて貰っていないと何も出来ないんだ。」

桜はそれでも笑みを絶やす事無く

「いいえ、兄さんは誰が何と言おうと立派なんです。妹の私が言うんだから間違いありません。」

胸を反らしながらえっへん口調で誇らしげに言うのだった。ありがとう、僕は桜がいるから自分を保ち、困難に立ち向かう気構えが出来るんだよ。僕は感謝を噛みしめるようにしっかり顔をあげ

「ありがとう、桜。君は僕が絶対に守るからね。」

 と言うのだった。桜も満開の笑みになり

「うふふ、兄さんに守ってもらえるなら私安心できますね。」

 と相槌を打ってくれた。よし、僕ももう迷っていられないよ。でもその前に

「桜、ちょっと衛宮君に言わなくちゃいけない事があるんだ。」

 僕はそう言って桜の傍からそっと離れ、もつれる足をどうにか支えて衛宮君の元へ走っていった。

 桜は僕の言葉を受けて慎ましく少し離れた所を小走りで付いて来ていた。僕は一人むっすり歩いている衛宮君に向かって声を掛けた。

「え、衛宮君っ!」

 声に気付き、不思議そうに背後を振り向く衛宮君。あの神父さんには怒りを胸に持っていても、僕には憤りの念は持って無いようだ。

「?・・・どうした慎二血相変えて。」

「あ、あの、その・・・ごめんなさい!」

「あ~・・・話が見えないんだが?」

「ち、違うんだよ。そ、その僕中で何も出来ずに・・その。」

「ああ、何だそんな事か。慎二は何も悪い事してないじゃないか。」

「ううん、何もしてないから悪いって言う事もあると思うんだ。」

「慎二がそう言うならそれでいいけど、俺全然気にしてないぞ?」

「・・・うん、衛宮君がそういう人っていうのは僕も知ってるよ。でも謝らせて、ごめんなさい。これは僕のけじめなんだ。」

 そう・・・衛宮君をダシにして情報を引き出そうとした僕はとても悪い奴なんだ。それに自分に飛び火しないように、衛宮君を生贄みたいな扱いしたのも酷い話だもの。だから僕は衛宮君に謝らないといけないんだ。衛宮君の善意を利用する人間にだけはなりたくなかった。それに衛宮君は桜の思い人になりそうだし。

「・・・不思議な奴だな、お前。」

衛宮君はポカンとした顔でそんな事を言った。僕が何を謝っているかすら分からないんだからそう思っても仕方無いのかもしれないけど。僕も笑みを携えながら

「そういう衛宮君もね。」

「違いない。」

 僕達は二人で笑い合うのだった。それから僕はライダーの許に向かって行った。と言っても後ろに下がったんだけどね。彼女はいつも後方支援に徹していて見ていて少し不憫に思えたりもする。僕はライダーと喋るために近寄ると、後ろから付いて来た桜が通り様に

「兄さん、いくらサーヴァントだからってライダーばかり構ってたら私泣きますからね。」

 といたずらっぽく言って遠坂さんの許へ駆けて行った。大丈夫だよ、桜。僕もライダーも一心同体みたいな物なんだ。桜の身を案じるために僕達は一生懸命に知恵を絞っているんだよ。僕は笑顔で桜に手を斜めにして、敬礼みたいなポーズで肯定のサインを出した。それを見た桜も同じポージで対応し、それからクルリと前を向いて遠坂さんの隣りを歩きだすのだった。全く、本当に可愛い妹だよ。

「ふふ、だそうですよ、シンジ?」

「ライダー、君までからかうのは止めてよ。僕だって慣れたとは言え緊張してるんだから。」

「そうですね、からかうのは今度にしましょう。それよりも上手く行きましたよ。」

「え?」

「セイバーとの和解に成功しました。これで戦力は大幅に増すはずです。」

「・・・良かった。でもライダー

「分かっています、最後には倒さなくてはならないのは勿論の事。私もこれで一応サーヴァントですから心得くらいはあります。」

「・・・君は察しが良すぎるよ。」

「シンジは表情で何が言いたいのかが丸わかりなのです。」

「そうかぁ、まぁ話が早くて良いかもね、ふふ。」

「そう言う事にしておきましょう。」

「うん、でも和解の件ありがとう。これで少しは展望が見渡せるよ。」

「・・・そこまで頼りにされてないのも傷つきますね。」

「ああ、違う違う違う!ぼ、僕がこの通りどうしようもないから。ライダーは何も問題も不満も無いよ、悪いのは全部僕!」

「・・・ふふっ、分かっていますよ。シンジは本当に分かり易い。」

「・・・」

 もう、すぐ僕をいじりに走るのは止めて欲しい。ライダーって結構いたずらっ子なのかな。でもお姉さんが居たらこんな感じなのだろうか。ライダーは僕や桜にとって、良いお姉さんなのかもしれない。

 それより僕は行きと帰りで全体の雰囲気が変わった事に気付いていた。些細な事かも知れないけど、セイバーさんの立ち位置が衛宮君のより近くにいるようになったんだ。本格的に聖杯戦争が始まったという実感が、セイバーさんを見てようやく持ててきた。ありがとうセイバーさん、あなたは謹厳実直を体現されたような方だから気が引き締められるよ。

 僕も慣れない端然とした姿勢を取り、限界まで威厳を表す顔を整えた。しかしライダーには

「どうしたのです、シンジ。突然変な顔をして。」

「・・・酷い。」

 やはり慣れない事はする物じゃないと僕は思い、いつも通り豆腐みたいなたるんだ顔になっていた。そうこうしている内に大きい交差点まで戻って来た。僕ら間桐一味と遠坂さんは同じ方向、衛宮君とセイバーさんとは一時お別れだ。先ほど衛宮君に住み込みの事でお話させて貰ったけど快く引き受けてくれた。彼の寛大さは大海原よりも尚壮大かもしれない。僕も微力ながらアルバイトして、家賃や食費分くらいは払おうと思う。とにかくタダ食いだけは男として恥ずかしいから何か手伝いたいと思った。

 遠坂さんは衛宮君とお別れの挨拶する時に衛宮君に好きだと告白されていた。うわっ、凄い、何気なく凄い事真顔で言うね、衛宮君。僕には額に第三の目が出来て操られない限り、言えそうにないよ。それに衛宮君うちの妹が切なそうな顔してるんだけど?これはもう責任取ってお嫁に貰ってくれないと僕としては気がすまないかな。

 そして流石の遠坂さんも頬を染めずにはおられなかったらしく、衛宮君に悪態の言葉をチクチク突いていた。ああ、何だか癒されるなぁ。照れ隠しっぽいわざとらしい批判が、どうにもホットな気分にさせるよ。最後は感情を振り払うように

「せいぜい殺されないように気を付けなさい。」

 と衛宮君に忠告した後、進行方向に向いた時、彼女はその動きをピタリと止めた。進行方向にいる僕としては何故彼女があのように目を見開いているのかが分からなかった。僕を見ているようだけど・・・いや、その後ろ?

「うん、ちょっとあなた邪魔ね。やっちゃえ、バーサーカー♪」

 僕が振り向いた時そんな声を聞いた。そして僕が見たのは大気中の全てを巻き上げる程の闘志を持つ真っ黒い大男だった。男はゆっくり動いているのに尚僕には見えない速度で戦斧を振るった。見えるはずも無ければ避けれるはずもない。空気の振動が聞こえ、後から遅れて薙ぎ払われる風の音を聞いた気がした。





―続く―





はい、どうもこんばんは、自堕落トップファイブです!とうとうバトル編に入ってしまった。戦闘シーンを書いた事が無いので悪戦苦闘するさまが目に見えるようです。とりあえず次回は本格的な殺し合いが始まろうとしています。手に汗握りますね、バーサーカー。それではまたお会いしましょう。

 本日もこのような駄文をここまで読んで頂き誠にありがとうございました!(謝)



[24256] 荒れ狂う狂人
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/15 08:36
 歪む景色、巻き込むように渦巻くようにバーサーカーと呼ばれた男の周囲の風景が崩れる。崩れてみえる部分にバーサーカーの腕が高速で動いているんだろう。余りにも咄嗟な事なので、怖いという感覚さえ今の僕に持たなかった。

「兄さん!!」

 桜の悲痛な声まで聞こえる。しかしライダーの動きは早かった。少女が「あなた邪魔ね。」と言った時には跳躍をし始めていた。おかげで僕は死なずに済んだのかもしれない。僕が死んだと思った時には世界が反転し、突然の景色の切り替わりに脳が付いて来なかった。

 ライダーに抱えられ、そっと下ろされる僕。照れてる場合じゃないのに、頬を赤くしながらごめんと謝ってしまう。マイペースというか危機感が無いと言うか。でも体は正直だ。ガクガク震え始めているんだもの。僕は電柱に寄りかかりながらどうにか身を立てていた。桜が死に物狂いで僕の傍に駆け寄って来る。桜、淑女たるものそんな大股で走っちゃ行けないよ。僕は混乱し過ぎて本当にどうでも良い事を考えてしまっていた。

 これが、これが殺し合い・・・。命のやり取りというのは本当に一瞬で決まる物なんだね。ライダーが居なければ僕は呆気なく上半身が無くなっていた事だろう。だってそうだろう、バーサーカーの払った一撃は塀に大穴を開けてるじゃないか。僕の貧相な肉体なんて、瞬く間に分解してしまうことだろうさ。

少女はちょっと不満そうに眉をひそめて

「せっかく楽になれるのにもったいないなぁ。」

 ありがとう、僕を気遣ってくれて。でももうしばらく僕は生きなくちゃいけないんだ。だから桜を物影にやって僕は前に一歩歩み出した。どこに居たって当たれば死ぬんだ。それだったら気持ちだけでも強く持って、ライダーに勇気を与えよう。ライダーは僕と桜のためにあんな化け物と闘ってくれるのだから。少女は鼻を鳴らし僕から視線を背け、衛宮君へと笑顔を向けた。

「こんばんは、お兄ちゃん。会うのは二度目だね。」

 フレンドリーで邪気の無い笑みで話しかける少女。だからこそより狂気の色が際立っている。彼女もまた異常者なのだろうね。我々人間の命を蟻と同等程度にしか考えていない。僕は背後からの桜の決意ある表情、ライダーの勇姿から度胸を分けてもらっていた。お兄さんの僕が桜より怯えた態度を取る訳にはいかないよ。

 衛宮君は自身に向けて話しかけられたというのに、声すら発する事が出来ないようだった。それもそうだろう、僕だってさっきから震えが止まらない。こうして立っているだけで、相当の精神を摩耗して行くのが分かるんだ。きっと衛宮君も死の恐怖と悪寒を振り払うのに精一杯なのかもしれない。

遠坂さんは僕達よりもう少し心にゆとりがあるようで、額に右手を当て焦燥感を出していた。

「・・・バーサーカー、こんな所で出くわすなんて本当についてないわ。」

 溜め息何か付く余裕があるというのも、彼女は相当修羅場を潜って来たに違い無いと思うんだ。そんな遠坂さんの呟きが耳に入ったのかロシア系の白髪の少女は

「な~んだ、つまんないの。あなたのサーヴァント居ないのかぁ。今日は大漁だと思ったのになぁ。ま、今日は2匹いるし良しとしましょうか。」

 ・・・え?2・・・匹?あの子は英霊を昆虫扱いしているのか。無骨で強そうなおじさんと一緒にいるからって、えらく夜郎自大な物言いだなぁ。ライダーは僕のお姉さん何だから、その辺の節足動物と一緒にしないで貰いたいよ。僕は子供に強大な力を与える事は教育上よろしく無いと、改めて思い知らされた。

 その間少女は行儀よくスカートの裾を両手で持ち、お辞儀をしながら遠坂さんに向かって挨拶をしていた。彼女の名前はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンだそうだ。何だか僕の周りに登場する女性、どれもこれもカタカナ表記の人ばかりじゃないか。そう考えただけでも僕は不思議な世界にいるんだと思い知らされる。

 そして彼女の名を聞いて、遠坂さんは喉を鳴らし冷や汗を流していた。いたずらが成功したような無邪気な顔でイリヤと言う少女は、廃棄処分の宣言をした。・

「じゃあ殺すね♪片づけて、バーサーカー。」

 瞬間弾丸のように吹き飛ぶ黒い塊。もう早すぎてサッカーボールが舞っているようだ。同時にセイバーさんとライダーも粉塵を巻き上げながら跳躍した。距離などおかまいなしに、数十メートル坂の上から肉薄するバーサーカー。無論それを阻止するのはサーヴァントの領分だ。せめてもの援護として親指と人差し指を口に加え

ピイイイイイイイイイ

強烈な音波を鳴らした。別に音による攻撃じゃないんだよ。これ魔法とか魔術じゃないんだけど・・・

バサバサバサバサバサッ!カーカーカーカーカーカー!

 一斉にバーサーカーに襲い掛かるコウモリとカラスの群れ。何の役にも立たないかもしれないけど目くらましになってくれればそれに越した事は無いよね。口寄せ、とはちょっと違うかもしれないけど音の出し加減によって、僕は小動物程度なら操る事が出来るんだ。動物虐待を感じて滅多に使った事ないんだけど。ごめんね動物達、お墓はしっかり作ってあげる。だから今この時だけはライダーに力を貸してあげて!

 飛び散る死骸や肉片、しかしそれも一瞬の事ですぐにバーサーカーはサーヴァント達に斧を振り回す。何せラグがない、もう竜巻のように振り回す物だから僕の援護なんて塵程度も役に立ちやしない。それでも僕は精一杯出来る事をしようと、ひたすら周辺の小動物を巨体にまとわりつかせた。

「・・・あいつ。」

 遠坂が驚くのも無理からん事かも知れなかった。一番役に立たないと思っていた奴が、真っ先にサーヴァント目掛けて後方支援なんてしているんだから。そのためかライダーの動きにもキレがある。彼の行動は一見無駄に思えるが、しかしそれでもライダーに力を与えていた。真っ赤な顔で一生懸命吹く姿は、やはり身内の心を震わせる物があるのかもしれない。

 セイバーの魔力の籠った一撃に、その背後から忍び寄るライダーの武器。互いの相性が良いのか近距離、中間距離と上手く連携が取れていた。更には地味に慎二の小動物の目くらましも役に立っていた。というのも飛び散った残骸がやはりいくらかバーサーカーの視界を遮るのである。そのため振るわれる戦斧は、時として全く的外れな方向に振るわれる事も多々あった。

 とは言え、生き物も限りはある。そして長時間口笛を吹く事も無いため、慎二の出番はもう終わりを迎えていた。先の口寄せを使うと勢い良く息を吹き出すために強烈な頭痛に苛まれるのだ。彼は頭痛から来る吐き気と闘いそれでもまだ、掠れた笛を吹いた。

 ・・・僕に出来る事をしないと、ライダーに申し訳立たないじゃないか。だって彼女は死に隣り合わせで僕らのために戦ってくれているんだ。それなら僕も死に物狂いでやらないでどうするんだよ。もう出し方を間違って自身にまとわりつくネコが多数だったが、それでも出せる所まで出していた。

 大よそ化け物染みたアクションバトルが展開され、もう交差点も荒れ放題になっていた。平らに舗装を保つ箇所はほとんどなく、至る所にその傷跡を残している。一発喰らえば致命傷となる重量ある斧撃を彼女ら二人は巧みな剣、足さばきでいなしていた。いなす程度では風圧で吹き飛ぶ攻撃なので、跳躍して距離を取っていると言えば良いのか。

 男と女だから負けたのではない。バーサーカーの独壇場だったのだ。彼の肉体は硬度が異常なのか、何を喰らっても火花を散らすばかりで内部に傷がつかない。これでは子供が父親にじゃれつくのとそう大差ないではないか。

 僕はもう頭痛と吐き気で立つ事が出来ず、ネコ達にニャーニャー囲まれながらへたりこんでいた。もふもふの毛並みを撫でながら僕は一体どうすればライダーが勝てるのかを懸命に考えた。やはり少女を狙うしか道がないのだろうか・・・。

 それに何よりセイバーが本調子で無いというのも大きな要因の一つかもしれない。彼女は最初こそ、正確無比な斬撃を放っていた物の、息が上がって来るにつれその精度も落ちて来ている。ライダーはまだ行けそうだが何分セイバーの援護だ。前方の動きに合わせて攻撃するので、後手に回る攻撃になる。それにセイバーが受け切れず身を反転させて、かわせば背後にいるライダーに必然的に襲い掛かる。ライダーは構えを取って避ける物のその速度と破壊力の凄まじさで、どうしても被弾してしまう。

 もう互角とは言えず、じわりじわりと敗北の影が迫って来ているのだった。荒れ狂う暴風、一体この台風はいつまで続くのか。彼女が血塗れになって倒れる時、ようやく終わりを迎えるのだろう。コンクリートの破片や、ガードレールの一部が雨となって降り注いでいる。魔術師なんていらないじゃないか、これはもう、僕ら人間の出る幕じゃないよ。

 そして何とか保っていた均衡が脆くも崩れ去る時が来た。後手に回り続けたセイバーがとうとう防ぎきれず、無理な姿勢で剣戟を捌いた結果吹き飛ばされた。寧ろ今まで良く持っていたと褒めるべきだろう。はなから勝機の見えない肉弾戦に真っ向から立ち向かっただけで称賛に値する。セイバーの胸当てにはいつから出たのか血が滲んでいた。

 もう僕は呆然と絶望的な気分で今の状況を傍観するしか方法が無かった。お墓作ろうにも塵や粉になってこの世を去った数多の小動物。ごめんよ、全くもって結果が伴わないのに非業の死を遂げさせてしまった。これでは報われないよね。でも大丈夫、もしかしたらその報いを僕も受けることになるから・・・。

 その時遠坂さんが魔弾を連射していた。何を撃っているのか分からないけど、それでも人間相手なら風穴が開きそうな攻撃だ。だがセイバーさんの攻撃やライダーの蛇釘を全く意に介さないバーサーカーには、豆鉄砲程度にしか感じていないようだ。

・・・って僕は何を一人で諦めようとしているんだ。僕は猫布団から体を勢いよく上体起こし、桜の方を見た。彼女は尚も真摯な瞳で行く末を見届けようとしている。僕は無性に恥ずかしくなった。つくづく僕って駄目兄貴だなぁと思い知らされる。

 そう思い僕も桜に倣ってしかと見届けようと思った時に、最後に最も近い光景を目の当たりにした。セイバーさんが血潮を胴体から吹きながら飛ぶ姿。見るからに致命傷だ。誰がどう見たってここから逆転劇は考えられない。僕は桜の元に近づき

「終焉が近づいているようだ、万が一ライダーが地に伏す事になったら逃げるんだよ。」

 と優しく言った。桜は当然グズっていたけど、僕が何も言わずにずっと見つめたら萎れていた。生きていれば必ず良い事がある、だから桜には幸福と言う物を味わうために生き延びて欲しいんだ。自分勝手かもしれないけど、桜の最期だけは見届けたくないし。

 そんな時、ライダーがこっちに飛び込んで来た。え、どうしたの。ライダーは至って平坦な声で

「引きましょう、潮時です。」

「・・・え?」

僕が呟くのと同時に眩い光を放ち僕達を抱き上げ、一直線に白馬を出して空を駆けた。どういう経路を辿ったのか分からないけど、気付けば僕と桜は間桐の屋敷に戻って来ていた。ライダーはペコリと頭を下げ

「すいません、出来れば大量に魔力を消耗するのを避けたかったのですが。」

 もう僕からすれば命の恩人なのに何を言っているんだろう。というより僕達もしかして衛宮君達見殺しにした形なの・・・?桜を見ると僕と同じ感想に至ったようで悲痛な表情を浮かべている。ライダーは心を鬼にして僕達の身の安全を最優先してくれたんだ。確かに悔しいし情けないし、顔向け出来ないけど、それでもライダーには感謝しないといけないね。

 それからライダーは一切衛宮君達の話題を出さずに自室に戻っていった。彼女なりの配慮なのかもしれない。考えるだけで気が重いのに口に出すと尚憂鬱になるよ。これからもこういった場面が増えるんだろう。誰かが死ぬのをみたり、見殺しにしたり、そして殺したり。

 桜は俯いて涙を堪えて衛宮君達の心配をしている。もしかしたら今頃真っ二つになっているかもしれない。それは分からないけど、タダでは済まないはずだ。サーヴァントすら支えられぬ剣戟を、生身の人間風情にどう耐えろというのだろう。僕らはライダーの大技で逃げ抜いた。たが今いる彼らに果たしてあの巨神兵から逃げられるものだろうか。

「桜・・・明日衛宮君の家に行ってみようか。」

 桜は顔をあげた、涙は耐えきれなかったようで止め処なく溢れ出ている。僕はこんな悲しい顔をさせるために、決意した訳じゃないのに。

「分からないけど、彼女達が一体どうなったのか・・・気になるだろう?」

 コクリと頷く桜。本当なら直ちに駆けつけたいのかもしれないけど、無駄死にになるだけだもんねぇ。せっかくライダーに延命して貰ったんだ、その分だけでもしっかり生きないと・・・。僕は暗くなる自身の心も励ますために明るく声を出した。

「さぁ、明日朝に衛宮君の家に行くんだ。お風呂に入ってゆっくり今日は休もう。」

 桜は僕の気遣いに弱々しく笑みを返し部屋を出て自室に籠るのだった。僕はあの桜の姿をみて自分の進もうとする道が、果たして桜の幸せに繋がるかが不安に思えて来た。犠牲と殺人の上に果たして幸福な未来が成り立つのだろうか。しかし今日現場に居合わせて分かった。あれは和平などと言う平和的交渉など一切受け付けない。どちらか一方が死ぬまで戦斧を振り続ける戦闘狂だ。

 そして令呪がある限り僕達は命を狙われ続ける。令呪を持つ限りこの呪縛は解かれない。バーサーカーは正攻法では攻略できないと、今確認したばかりじゃないか。やはりあのイリヤという少女しか抜け道が・・・。そもそもどうして未来ある少女が聖杯何かにこだわるんだ。君ぐらいの歳ならいくらでも叶えられる時間があるだろう。僕は無邪気な顔で笑うイリアを想像すると良心がキリキリ痛む。無意識の内に平和的手段が無いかと探している。僕がイリアの声を思い返していると

「・・・殺すね・・・か。」

 そうだよ・・・そうだよね。僕達は分かっていたはずなんだ。殺し殺される関係であると言う事を。桜、兄ちゃんは桜の平和のために血で血を洗う事も厭わないよ。何故殺しに来た相手の保全何か考えていたんだろう。既に衛宮君は屍になっているかもしれないというのに。どれだけおめでたいんだ、僕は。

 桜には申し訳ないけど家に居て貰おう。明日衛宮君が居なければこの屋敷に幽閉させよう。やはり危険過ぎたんだ、僕の想像を遥かに上回る死線だった。とは言え桜がどう返事を返すかによるけど。僕の気持ちを押しつけて、桜を悲しませては本末転倒だし。

 僕は衛宮君達がどうか逃げ延びてくれている事を祈りながら、布団の中に身を横たえるのだった。。





―続く―





 はい、皆さんおはようございます、自堕落トップファイブです!逃げんのかよっ、という非難の声が聞こえそうな内容ですが・・・。やはりバーサーカーは圧倒的過ぎたと言う事で勘弁して下さい。最初から逃げとけよ、と思われるかもしれませんね。依然コメントにもあったのですが、ライダーの魔力にも限りあるのではないかと考えましてね。それにあわよくば倒す事が出来ればそれに越した事無いと言う事で戦ったんですね。

 ああ、後慎二の能力を少し付け足してみました。余りにも何もしてないのでは、このSSの主人公としてあれかなぁ、と思ってしまって。とは言えそこまで主人公補正を付ける訳にもいかないので、適度にしょぼい能力にしました。いや、実際日常生活では結構凄いんですけどね。それではこの辺で失礼します。

本日もこのような駄文をここまで読んで頂き誠にありがとうございました!(謝)
 



[24256] 奇跡の生還を遂げて
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/14 15:07
 そこにいる誰もが間桐一味を臆病だとか、卑怯だなどと思ってなどいなかった。寧ろ良く今まで健闘してくれたとさえ評価していた。しかし結果として戦況は更に悪化した事には違いない。剣を地面に付き立てながらでは無いと、もう満足に立つ事すらままならないセイバー。

 士郎は彼女のようなうら若き女性が、何故このような仕打ちを受けねばならないのか疑問で仕方が無かった。自身を見捨てれば生き残れる体を、自身のために失おうとしている。その現実があまりに辛く、悲しく、そして悔しかった。

 士郎はサーヴァントを人として見ていた。故にセイバーが死に体に鞭打ってまで死に立ち向かう姿は、彼の心を酷く痛めつけた。もう十分だとでも言うように直立不動のバーサーカー。主のひと声でセイバーの尊い命が天に召されようとしている。

 圧倒的な戦力差。そこから生まれる余裕からか、イリヤは自らのサーヴァントの正体を晒していた。分かった所でどうにも出来ない。今現在に置いて、著しい格差があるのだから。ギリシャの英雄、ヘラクレス。その場にいる死亡フラグが乱立する彼らに、更なる絶望をもたらす言葉だった。

 不敵な笑みを浮かべ、最後の悪あがき、死ぬ直前の負け犬の姿を愉しむイリヤ。そんな生きる希望も未来も無い状況に置いてなお、衛宮士郎はセイバーの安否を心配していた。それでこそ士郎と言えば良いのか。彼は迷うことなくセイバーを救う道を決断していた。

「いいわよ、バーサーカーそいつ再生するからね。首をはねてから犯しなさい。」

 この野郎・・・言いたい放題言いやがって!良いだろう、どうせ何をしても死ぬ身。それなら何でも出来るじゃないか――――

 とち狂ったとしか言えない士郎の疾走。ここでの常人の行動は明らかに失踪の方だ。しかし彼は違う、彼だからこそ死の門番に向かって突進出きるんだ。自分の肉体は後回し、それよりも自分のために誰かが死ぬなんて事はあってはならない。だから彼は―――

 グチャ

 俺はセイバーを飛ばす事だけを考えていたのに地に伏し血にまみれていた。俺は何をやっているんだ、早くセイバーを助けないといけないというのに。って、何故か皆一様に驚いて・・・その時口から血が溢れて来た。ゴポリと口から血を吐き出した所で自身の異常にようやく気付いた。

 腹が・・・無い?良く見れば人間に必要と思われる臓器や骨が周囲に散乱している。明らかに自分の物なのに、痛覚と神経が麻痺して痛みがもはやない。混乱した頭で彼はようやく突き飛ばすに至らず、セイバーと戦斧の間に入り、一撃をその身で受けて盾となった事に気付く。

 自らに毒づきながら致命傷となる傷からもう一度吐血する士郎。そんな時になっても、自分が死んだらセイバーはどうなるんだろうなどと考える別の意味で大物だった。だが彼の異常な行動はイリヤに思わぬ動揺の効果をもたらしていた。

「な・・・んで?」

 死ぬと分かってて飛びこむなんて昆虫くらいな物だ。誰だってそう考えるだろう。それなのに目の前の彼は無謀にも首を突っ込んだ。そして腹の臓器を撒き散らし、床に伏している。当然の結果だからこそ混乱する。全ての辻褄が合うからこそ狼狽する。なぜ、なぜ命を投げ出してまでサーヴァントなどを守ろうとするのか。魔術師としては半人前以下の愚行だから、イリアの思考を混乱させる事に成功したのだ。

 イリヤとしては士郎を我が手中に収めようと思っていたのに、壊してしまいそうになった事が不服だった。だから彼女に取って非常に不本意な結果になってしまったのだ。彼女は眉間にしわを寄せ

「もういい、つまんない。・・・リン、次に会ったら殺すから。」

 と捨て台詞を残してバーサーカーを連れ、闇へと姿を隠していったのだった。



・・・



「寝れる訳ないじゃないか。衛宮君は僕の大切なお友達なんだから。」

 僕は身を起こし、衛宮家に向かって行こうとしていた。頭痛が酷く壁伝いに歩く姿はみっともない。でも何かしていないと未だに死の淵に立っている彼らに、申し訳が立たないと感じたんだよ。もしかしたら僕の行為は全くの徒労に終わるかもしれない。それでももし、万が一生きていたら。そう考えればせめてもの贖罪として、精一杯手当をしなくちゃならない。それが逃亡者たる僕の役割だと思うんだ。

 僕は衛宮君の外門の壁にもたれしゃがみ込んでしまった。誰かに不審者と思われたらどうしよう。衛宮君のお友達なんです、の一辺倒で行くしかないや。でも本当に情けないなぁ。僕は結局何が出来たって言うんだろう。

気付けば次から次へと濁流のように涙が溢れて来る。敗者特有の、それも卑怯にも逃げた者の自責の念からの涙だった。泣いてる場合じゃないと腕で何度も涙を拭っても、全く止まる気配が無い。

 もういいや。泣きたい時は全部出しちゃえば良いんだ。だって出るんだから仕方が無い。排泄物みたいに異臭を放つでも無し、もう感情に委ねてしまおう。僕はいつものように焦点の定まらない目で空を見上げていた。



・・・



「慎二・・・あんた、何やってんの?」

血塗れの方々のご帰還に僕は更に洪水となって涙が溢れだした。こんなに嬉しい事はないよ。やっぱり無駄だと分かっても来て良かったんだ。僕は嗚咽を漏らし声にもならない声をあげて、何度も頷きながら衛宮君の・・・え?

「え、え、え、え、衛宮君!!!」

 い、意識がないじゃないか!こ、このままじゃ死んでしまう。衛宮君が死んじゃうよ!僕は途端に動きが機敏になり、遠坂さんと一緒に衛宮君を寝室へと運んで行った。遠坂さんもやはり焦っていたようで、軽口を叩く事など一切なく懸命に衛宮君の治療に専念してくれた。やっぱり遠坂さんは感情表現が不器用なだけで本当に優しい女の子なんだ。

 「本当にごめんなさい、何を言っても許されないかもしれないけど。それでも申し訳ありませんでした!!」

 僕は誠心誠意を込めて土下座を遠坂さんとセイバーさんに向かってしていた。謝って許される事じゃないし、そもそも許されるとも思っていない。でも許されないから謝らないのは違うでしょう?今後僕が生きて行く上で同じような事があったら、また謝らなくなっちゃうから。だからその時々しっかり生きなくちゃいけないんだ。

 腕を組む遠坂さんと満身創痍なのに未だに威厳を保つセイバーさん。両者とも背筋を伸ばし僕の謝罪に目を向けているようだった。遠坂さんは鼻から息を出し半目になりながら

「誰もあんたらを責めてないわよ。あの場に居た誰もが、バーサーカーと応戦してたの見てたんだし。ねぇセイバー?」

 それを受けたセイバーさんもゆっくり頷き

「ええ、確かに私はライダーの息使いを肌身で感じました。あれは手など抜いてなどいない、紛れもなく本気で闘っていました。そしてシンジ、あなたの貢献も当然私は知っています。だから何ら気に病む事などないのです。」

「そうそう、まさかあんたがあんな能力持ってるなんてね。流石に驚いたわ。」

「え、あ、いや、隠しててごめんなさい・・・。」

「なぁに言ってんのよ、馬鹿。私たちは敵対してるんだから手の内隠してて当然じゃない。」

 その時さて、と声を出してセイバーさんは立ちあがった。

「リン、シンジ申し訳ないが私も少々疲れている。お先に失礼してもよろしいですか?」

 僕は当然ブンブン縦に頭を振り、遠坂さんもヒラヒラ手を振ってさっさと休むように促していた。敵対しているのに、どうして今この時を好機と見ないのか。やっぱり遠坂さんは心優しい人に違いないんだ。

 それから僕は今までの経緯を遠坂さんから話して貰った。と言ってもあれからそんなに物事の進展は無かったようで、衛宮君に大穴が開いたくらいなものだけど。僕は耳を疑っちゃったよ。あんな巨人に立ち向かえるなんてやっぱり衛宮君は偉大な人なんだ。僕が感嘆の声をあげていると、遠坂さんもちょっと気分が良さそうだった。

 愚かで哀れで無様かもしれない。でもやっぱり格好良いかもしれないね、無謀で無茶な突貫というのも・・・。僕は少しだけ自身の考えを改める事にしたんだ。だってあんなにも遠坂さんが眩しそうに笑うんだもの。

 僕もそろそろお暇しよう。また桜とライダーを連れてここに来なくちゃいけないんだ。僕は遠坂さんに帰るように言うと、珍しく感謝の言葉を頂いてしまった。どうしたの?と言うと真っ赤な顔で頭を叩かれた。ごめんなさい、好意を棒に振るってしまって。でも本当に嬉しかった、だから僕も感謝の言葉を返すのだった。





―続く―





 はい、どうも皆さんおはようございます、自堕落トップファイブです!ちょっと本編と被ってしまって申し訳無いですね。やはり進行的に同じにしないと分からなくなりそうになるので(汗)

 ちなみにお腹修復されるんですね。僕はすっかり忘れていたので、慎二に「お腹がない!」と叫ばした所を変更しました。やはりゲームを進めながらやるとこういう事がチラホラ出てきますね。まぁ違和感感じたら言って下さい。書き直しますのでね。それでは失礼します。

本日もこのような駄文をここまで読んで頂き誠にありがとうございました!(謝)



[24256] ライダーは僕達のお姉さん
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/13 12:56
 僕は間桐家に帰ったものの、やっぱり眠れなかった。だって朝桜の悲痛な表情を、真っ先に治してあげないといけないんだ。それに今寝ちゃったら丸二日くらい起きそうにないんだもの。僕はソファー身を委ねて一人じっと闇を見つめていた。

「寝ないのですか?」

「えひぃ!」

 物音一つ立てずに声を掛けられたら誰だって驚きの声をあげると思うんだよ、うん。気付けば僕の背後にライダーが立って居た。僕は右手で心臓を押さえながら

「ビ、ビックリした・・・。もうライダー、気配消して話しかけるのは心臓に悪いよ。」

「いえ、私は普段通りでしたので。恐らくシンジが完全に気が抜けていたのでしょう。」

 ・・・まぁいいや。ライダーが忍び系のお姉さんなのは重々承知の上さ。それよりも丁度良い話し相手が来てくれて僕は嬉しかった。

「あのさ、ライダー。ちょっとお話しようよ。僕眠れそうにないんだ。」

「一向に構いませんが、体の方は大丈夫なのですか?それに明日も部活なのでは。」

 僕は思わず笑ってしまった。学校なんてとっくに忘れてたよ。僕達は戦争なんて禍々しい物をしているのに、唐突なライダーの現実味溢れる言葉が僕の笑いを誘ったのだ。ライダーは珍しく僕に笑われたものだから拗ねてしまった。

「ごめんね、でも嬉しかったんだ。そういう感覚を取り戻せた事が。そうだね、僕は学生で弓道部員だったんだ。でも明日はちょっと休むよ。桜にも吉報があるしね。」

「吉報・・・とは?」

 僕は屋敷に帰って来た後に起きた事の顛末を、かいつまんでライダーに説明した。

「・・・すいませんでした。」

 そしてライダーは僕が話し終わった後、開口一番謝罪の言葉を口にしたんだ。どうして謝るのかさっぱり理解出来ない僕は動揺してしまった。僕が慌ててライダーに事情を聞くと

「いえ、シンジと桜を連れて戻った私の不始末をシンジに押し付けた形になったようですから。その事に遺憾の念を覚えていた所なのです。」

「不始末だなんてそんなライダー、自虐的過ぎるよ。僕の中ではもうハイライトシーンなんだから。」

「・・・ありがとうございます。」

 ライダーはちゃんと自分の過ちを認め正す事の出来る誠実な人なんだ。だから僕は信頼出来るし、信用してるんだ。僕は今後の方針や内情をライダーに懺悔するように話す事にした。

「教会で神父さんの話聞いてる時、僕は酷い事してしまったんだ。」

「というと?」

「うん、神父さんがとっても怖く見えちゃって。それで衛宮君に押し付けてしまったんだ。」

「怖い、とは。」

「何だろう、家にいる爺ちゃんも大概怖いんだよ。怖いっていうか気持ち悪さの方が先に立つけどさ。でもね、あの人の老獪さは見たまんまじゃない?その、目にした途端にああ悪い人だなぁって分かるんだ。」

「・・・。」

「でもね、あの神父さんは違うんだ。一見真面目で優しいおじさんなんだ。でもね、その瞳がとても濁って見えるんだ。笑みの歪み方が怖いんだ。そう、とても得体の知れない恐怖を感じるんだよ。外装を人で繕ってその内面にドス黒い物が渦巻いているように思えたんだ。もし僕の見解が正しい物じゃ無かったらとても酷い事を言っているよ。でもね、僕の直感がそう告げてるんだよ。・・・あの人は獰猛な捕食者に他ならないって。」

「・・・シンジが言うのならそうなのでしょう。あなたがとてもただの好き嫌いから、そのような事を発言する男性には思えない。」

「ありがとう、ライダー。でもこの事は誰にも言っちゃ駄目だよ?」

「ふふ、桜に嫌われてしまうから?」

「分かってるなら言わなくていいじゃないか。」

 僕達はしばし笑い合った。そして僕は桜の事でふと思ったんだ。

「ねぇライダー。桜、これからどうすれば良いと思う?」

「・・・彼女が、どう感じているか次第でしょう。桜のためを思うなら、桜の意思を尊重するのが我々の最適な行動です。」

「・・・ふふっ、僕と同じ結論だ。やっぱりライダーは僕だね。」

「かもしれませんね。」

 僕はどんな回答が来ても参考にしようと思っていたけど。ここまで同じならやっぱり僕達は、お互い良いパートナーだと思えてとても嬉しかったんだ。



・・・



 朝まで取りとめの無い話をした。沈黙も多々あったけど、ライダーと居ると僕は安らいだ。ライダーに何故最初話さなかったのか聞いたけど、爺ちゃんに桜を差し出してると思って気に入らなかったんだって。その事を少し不機嫌そうに言われたので、僕はまたいつものように慌てて謝った。そしてライダーはやっぱり最後は笑って許してくれるんだ。ライダーは僕にとって、とても気立ての良い優しいお姉さんだよ。

 さて、もう頃合いだろう。桜を呼びに行こう。僕は少し充血した眼に目薬を差した後、桜の部屋に向かった。ノックをしても返事が無い、桜はまだ寝ているのかな。僕は一声断わりを入れてから桜の部屋にゆっくり入った。

 桜もまた眠れない夜を明かしたようだ。呆然と椅子に座りぼんやり虚ろな目で僕を捉えていた。

「・・・にい、さん。」

「駄目だよ、桜。寝ないと肌に悪いし、何よりせっかくの美貌が台無しじゃないか。」

「でも・・・眠れないんです。」

「そうか・・・じゃあ僕と同じだね。」

「・・・兄さんも?」

「うん、まぁでも桜すぐに元気になる薬があるからね。そろそろ行こう。」

 そう言っただけで瞬時に合点が行ったらしい桜は一気に元気になった。

「行きましょう、早く!」

 げ、元気過ぎるよ。僕とてもじゃないけどそのテンションに付いて行く自信が・・・。

「兄さん何やってるんです、ライダーも呼んでお見舞いに行きますよ!」

「は、はい!」

 僕はすぐに立場が逆転して桜の言う通りに従うのでした。あ、お見舞いじゃないからちゃんと準備しないといけないじゃないか。僕がその事を伝えると桜も仰天したようだが、何か凄く喜んでいた。うんうん、やっぱり爺ちゃん嫌いだったんだね。

 桜は徹夜明けにも関わらず一生懸命走ったせいで、すぐにライダーにおんぶしてもらう結果になっていた。疲れと恥ずかしさで顔真っ赤だ。私ったら恥ずかしい~!と言いながら、ライダーの背中に顔をグリグリ擦り付ける姿は微笑ましかった。そんな僕も足ふらふらしてたけどね。そうして僕達間桐一家(祖父除く)は衛宮家へと歩を進めて行った。





―続く―





 はい、どうも皆さんこんにちは、自堕落トップファイブです。今回は教会での行動をライダーに懺悔させました。まぁちょっと悪いキャラ出てたんで、自粛の意味も込めてね。それでは失礼します!

 本日もこのような駄文に目を通して頂いて誠にありがとうございます!(謝)



[24256] 新たな同盟国
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/14 11:52
 桜は衛宮君の家の敷居を跨いだ後、靴を脱ぎ散らかして一直線に衛宮君がいると思われる部屋にダッシュして行った。僕とライダーは苦笑しながら、桜の靴を揃え家の中を歩いていた。

 僕は衛宮君の家にお邪魔するのは、まだ今日で2度目なので良く道が分からない。でも桜の感極まった泣き声をもとに辿って行けたので迷う事は無かった。この道は前と同じだから居間かな。開け放たれた障子から声が駄々漏れで感動の再会みたいだ。

 ひたすら衛宮君の無事をワンワン泣きながら喜び、謝罪をしている桜。良かったね、桜。やっぱり君と衛宮君は相性バッチリだと僕は思うんだよ。

 僕は困ったようにライダーに目をやると、彼女はゆっくりかぶりを振った。僕もその気持ちには同意見なので、僕は縁側に二人で並んで座り、彼らが落ち着くまで待つ事にした。僕もまた寝不足だったので、そのままうつらうつらと船を漕いでいた。


・・・


「・・・ん、う・・・うぅん?」

 僕は何やら後頭部に柔らかい物を感じる上に、何やら横たわっているようだ。薄ら瞳を開けていくと、ライダーの端正な顔を捉えた。柔和な表情に見えるけど、ぼやけて良く分からない。ハッキリ表情が見える頃にはいつものライダーだった。

「目が覚めましたか?」

「・・・うん・・・ここは。」

「衛宮邸ですよ、私達はしばらくここに住まわせてもらうために来たのです。」

「あ~うん、そうだった・・・って、え?!」

 そんなほのぼのした会話をしてる場合じゃないよ。僕、ライダーに膝マクラしてもらってるじゃないかっ!僕は意識が覚醒した瞬間に、恥ずかしさがこみ上げ勢い良く身を起こした。僕は緊張からの動悸を鎮めていると、ライダーは少し寂しそうな顔をして

「すみません、余計な事でしたね。」

 と全然見当違いな事を言ったので、僕の混乱は更に加速した。慌てて首や手を振り

「ち、ちちちちち違うんだよ。そういう意図でしたんじゃなくて、その・・・。」

 僕自身何で恥ずかしいか説明するのに窮し、口籠ってしまった。ライダーは冗談なのか本音なのか、尚も物憂げな表情を浮かべ

「いいんです。私のようなでかい女がお淑やかな真似をした所で、気味悪がられるのは知っていました。」

 い、一体どうしたって言うんだ。ライダーがそんなオセンチな事言うなんて僕は想像もしてなかったので、口の開閉の速度も増した。とにかくフォローを、フォローを入れないといけない!

「ライダーの膝、気持ち良かった!」

 もうストレートに僕は叫んでいた。ライダーはハッと顔をあげ僕の顔を見て、それでもしつこく表情に影を射す。僕の見えない方の唇の端が歪むのなんて、僕に分かるはずないじゃないか。

「お世辞ならいいんです、私は所詮サーヴァント。女として欠陥品ですから。」

 こんな極上級の女性が言うと、実に嫌味ったらしく聞こえるけどどうしよう。僕はその後もどれほどライダーが魅力的なのかと言う事を、何度も叫ばされる事になった。ライダーは最後クスクス笑いながらこっちを見て

「ありがとうございます、シンジのおかげで自信が付きました。」

 と絶品の笑みを浮かべる物だから、僕の顔は体内全ての血液を集めたように真っ赤になった。何か僕ライダーに告白したみたいで無性に気恥しい。僕もライダーに謝らないといけないと思って

「ラ、ライダーそれにしてもごめんね。僕の頭重かったでしょ。」

「いいえ、慎二の寝顔が穏やかなのでとても癒されましたよ。」

 僕は優しげな表情とともに言われた物だから、目眩を覚えたたらを踏んでしまった。駄目だ、最近ライダーが妖艶を武器にからかってくる。時たま冗談とも思えない事をサラリと言う物だから尚タチが悪い。僕は泥沼に嵌まりそうな気がしたので、根本的に話を変える事にした。

「そ、そ、そういえば桜は?」

「ああ、彼女もシンジと一緒で寝不足でしたから寝室で寝かせてますよ。士郎が連れて行ってました。」

「・・・なるほど。そ、それで衛宮君はどこに?」

「さぁ・・・私もずっとここに居たので分かりませんが。少なくとも見てませんね。」

「分かった、僕も衛宮君の調子見たいから行くね。ライダー、その、ありがとう。」

 僕はぶり返すのも何だと思ったけど、やっぱり心地よかったので感謝の言葉を口にした。ライダーはやんわりと微笑み

「シンジが望むのでしたら、いつでもして差し上げますよ。」

「~~~か、考えとくっ!」

 僕は恥ずかしさから湯気を頭部から上らせ、衛宮君を探し回る事にした。



・・・



「あら、慎二じゃない。」

 僕が声の方へ振り返ると、ボストンバッグを片手に持つ遠坂さんがいた。何だろう、彼女もしかして衛宮君と同棲するつもりなのかな。大変だ、桜の最大のライバルになっちゃう。僕は嫌な予感を感じ、ゴクリと喉に唾液を流した後確認を取る事にした。

「ね、ねぇ・・・と、遠坂さん?一体その重そうな荷物は一体・・・。」

「ええ、ちょっとね。訳ありで士郎の家に住まわせて貰う事にしたの。」

「な・・・え!?」

 なんてことだ、桜はあれで嫉妬深いんだ。いくら学園マドンナ遠坂先輩とは言え、僕はタダで済むとはとても思えないんだよ。僕はこれから起こるであろう天変地異を想像したら怖くなり、カタカタ震え出していた。不思議そうにそんな僕を眺め、遠坂さんは手を出して来た。

「士郎から話は聞いたわ。何でもあなた達も同盟を組んだんですってね。ま、短い間だろうけどその間だけでも仲良くしましょう。」

 僕は遠坂さんって「衛宮君」と呼んでいたような気がするけど、指摘した所で飄々と流されるだけな気がした。それならもう最初からそう呼んでいたと思うしかないよ。それに彼女もごく当たり前のように言うなら、僕に汲み取れと逆に彼女から叱られそうだ。

 僕は服の裾で手に付いた不浄な物質を落とすべくゴシゴシ拭き、慌てて手を差し出した。遠坂さんの手はとても柔らかく、その人の心を顕すようにとても温かかった。僕は握手してから何だけど、はたと疑問に思った。

「・・・あの、と言う事は遠坂さんも?」

「ええ、半人前の士郎とサーヴァントが負傷中の私だったらピッタリかなって。」

 ・・・僕には「相性ピッタリ」の響きが感じられ、桜が少し可哀そうになって来ていた。大丈夫、桜。懐の深さが肝要なんだ、少しくらい男のデレデレは黙認してあげないといけないよ。なんてったって、学園のアイドル的美女が目の前にいたら誰だって腰砕けると思うんだ。

 そうして僕達はマスター三人、サーヴァント三人計六人で構成される打倒バーサーカーチームを結成した。それぞれ三者三様で文殊の知恵が出ると思えば、かなりの勝率になると思うんだ。遠坂さんはまだ衛宮君にご挨拶に伺って無いらしくて、今から道場に向かってるらしい。何故道場なのかと言えば、そこでセイバーさんと話し込んでいる可能性が高いんだって。僕は遠坂さんのボストンバッグを持ち、一緒に道場に向かって行った。





―続く―





 はい、自堕落トップファイブです。皆さん、こんにちは!

 やはり、慎二を基点に置くためライダーの出現率が高いですね。そもそも彼はセイバーを怖がってる節がありますからね。まぁ生活に慣れて行けばその分接触も増えるので、今は耐え忍んで下さい。ライダー以外で好きな人の出番を待ち望んでいる人に言いました。それでは今回はこの辺で失礼します。

 本日もこのような駄文をここまで読んで頂き誠にありがとうございました!(謝)



[24256] 慎二の回顧録(シリアス調)
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/14 23:33
 僕はライダーの温もりのある膝の上に頭を乗せていたためか、遠い記憶の隅に追いやった過去を思い出していた。過去の思い出で良い事なんて有りはしない。感傷に浸る以外に何も無い過去をどうして掘り下げようとするのだろう。今までの僕は嫌な事には目を背けて生きて来たと言うのに。やっぱりライダーは僕に一握りの勇気を分けてくれたんだ。過去の傷を直視するだけの勇気を・・・。

 僕が記憶として覚えている事は、難しい本をたくさん読まされる事ばかりだ。何をやるという説明も無く唐突に渡され、ただそれだけだった。両親も見た記憶は無いし、爺ちゃんは子供の目から見ても異彩を放って見えた。僕にはこの世界があまりに窮屈だったんだ。

 僕が一番最初に逃げたのはそこからだったと思う。術式とか五大要素とか、僕には何の感慨も興味も与えなかった。だから何の勉強しているのかも知る必要が、はなからなかったんだ。向き合っていれば僕は魔術師としてもっと威風堂々としていられるのかな。

 僕は勉強の振りをして哲学書やライトノベル、恋愛小説ばかり読み耽った。本さえ読んでいれば怒られる事は無かったんだ。人の生み出す世界、創造力、感情の発露、全てが新鮮で僕は魅了された。爺ちゃんや当時居た使用人から教わらなかった人間らしさ、と言う物は全て書物から学んだんだ。

 命は尊く、そして人を愛する事は生きる希望になる。愛情を受けなかった僕は自身すら愛せないのに。家族と言う物を僕は熱望していたように思う。暖かく、心地よく、愛おしい家族が。

 学校に行き始めてまず分かった事は、皆一人が寂しくて群れるということ。僕は寧ろ周囲の目が怖くて一人が安心出来る事。愛情を知った物と、知らずに育った物の違いがここに置いて明白になったのかも知れない。自分の常識が他人の常識に通用するかが分からない。だから僕は喋る事が出来ず、気付けば口下手になっていたんだ。

 程良い相槌と適度なおべんちゃら。僕が学校に置いて不自由無く生活出来た理由は、ただそれだけだった。皆自由に振舞い、そして楽しそうに笑う。僕は皆が楽しいから、僕も楽しいはずだろうと笑う。友情なんて僕には存在しなかった。そもそも僕は果たして、一個人として存在していたのだろうか。それでも異端者は格好の餌食と分かっていたから、そう振舞うしかなかった。

 皮肉にも影の薄さのおかげで苛めの被害を免れていた。僕は決して一人で居る訳じゃなくて、数人集まる集団の後ろで意味も分からず笑っていたのだから。だから一人で本を読んだり、喧嘩をふっ掛けたり、先生に告げ口するのも勇気ある行動だと思うんだ。

 苛めの構造を理解すれば、決して目立つような事をしないのが正しい事だと僕は思っていたから。苛めを肯定しては駄目だけど、否定すればもっと苦しくなる。我が身可愛さは誰だって同じだと自己保身に走る。一番苦しい被害者には目も向けず傍観者になり下がる。一番良いのは目立たない事なんだ。良くても悪くても杭は打たれる。口が達者じゃない僕は、どっちに転んでも食いものにされてしまうんだ。

 僕は本を多数読んで来たおかげか、他人への悪意に対してはある程度の耐性が付いていた。だからこそ苛められている人が可哀そうだけど、助けて身を危うい場所に放る事はなかった。その分自責や悔恨の遺恨は残る。意気地が無くて、臆病で、薄志弱行だと嘆く。

 自分が嫌で、本に逃げ込む日々。学校では誰かの影となって同調するように笑う生活。何が楽しくて、どこに希望があるんだろう。僕はもう段々考える事さえ億劫になっていた。無気力だけど慣性にしたがって状況に合わせて周囲に揺れ動き、感性にしたがって笑う、それで僕の完成だ。くだらない駄洒落が出来あがるくらい、つまらない人生だった。

 そんな悲観と諦観と無気力な少年の僕と同じくらい生気を失った子が来たんだ。

「面倒はお主が見ろ。」

 たったそれだけで事情説明などいつも通りありはしなかった。でも僕にとっては、生きる源を与えられたも同然だったんだ。僕は爺ちゃんは怖くて気味が悪いけど、今この時ばかりは心の底から感謝した。

「よ、よ、よろ、よろしく。」

 僕は喋る事、それ自体がままならない男だったので緊張もあってか噛みまくりだった。手を出して握手を求めてみたけど、やはり警戒されているのか少女は人形を抱きしめてじっと見つめて来る。

 その時僕は直感的に感じたんだ。

―――君も両親の愛情を知らないんだね――――

 だから決心したんだよ。この子には僕が愛情を与えて立派に育てようって。そのために僕は生まれてきたのかも知れないね、ううん、そう思いこまないとやってられないんだ。僕は同類と言っちゃ失礼だけど、この少女に親近感を抱いたんだ。僕はようやく遅まきの成長を果たしたんだ。未だ怯える少女を抱きしめ

「よろしく、桜。僕は今日から君のお兄さんだよ。仲良くしようね。」

 そんな気障な事が言えたんだから。桜は表情が固まったまま、涙を浮かべゆっくり頷いてくれたんだ。大丈夫、もう怖くないよ。これからは僕が君の傍に居てあげるんだから。僕が君の支えになれるような、そんな兄になってみせるから。

・・・

 僕は妹桜のおかげで、学校生活にも張りが少しは出て来た。親友とまではいかない友達も出来たし、ある程度言いたい事は言えるようにはなったんだ。いじめっ子だろうと思われる人には近寄らないけど。僕にとっては大きな進歩で、また学校ってこんなに楽しい場所だとも知らなかった。僕は帰って何度桜に感謝の言葉を言ったか分からない。桜は万歳して欣喜雀躍する僕と一緒になって、満面の笑みで万歳をしてくれたんだ。

 進学し、弓道と言う物は一体どんな物だろうと見に行くと筋が良い!と煽てられ気付けば入部していた。その煽てた部長さんは猛々し過ぎて、僕はどうにも言葉を上手く繋げる事が出来ない。また同級生の女の子(名を美綴綾子さん)にも「シャンとしなっ!」なんて笑顔で背中をバシバシ叩かれるけど、僕は何だかとても眩しい存在に見えたんだ。どんな人であれいきいきしている人を見ると、どうしても羨望の眼差しになってしまう。あの快活さは僕には持ち合わせてない物だから。

 でも僕は大会何かではいつも準決勝止まりなので、美綴さんにいつも叱られる。

「どうして本気を出さないんだい?あんたの実力はそんなもんじゃないはずだよ、慎二。それともあたしの目が節穴だとでも言いたいのかい?そりゃ部員の呼び込みには気合入れたけどさ、これでも人を見る目は有る方なんだよ、あたしは。」

「い、いえ、違うんだよ。ぼ、僕、その、本番に弱くて。」

「い~や、弱く無いね。準決勝までの腕は文句無しなんだ。射形も息も集中力も乱れちゃいない。なら最後までどうしてその気構えで行けないんだ、あんたは。」

「そ、そんな・・・過大評価だよ。ぼ、僕は初級レベルの脳無しで

 その時、襟をグイっと手で掴まれて美綴さんの顔まで持っていかれ

「・・・あんたに敗れた出場者が初級レベルの脳無しと言いたいのかい?」

 僕は慌ててかぶりを振って、手をワタワタさせながら弁明を試みた。

「あ、ち、ちちちち違う、違う!こ、言葉の綾でその・・・。」

 美綴さんは内心呆れたように息を吐きながら

「ったく、練習態度も心得も出来てるあんたは逸材だと思うんだけどねぇ。いかんせん腕に性格が付いて行って無いと言うか何と言うか・・・。」

「きょ・・・恐縮です。」

「言っておくけど、褒めちゃいないよ。あたしゃあんたがどんな重圧を準決で感じてんのか知らないけどさ。この前言っただろ、弓道は『礼記射義』にあるって。全ては己と的との闘いなんだ。その中に他の誰かを介入させてどうするんだい。他の子に間桐を見習えって言ってるあたしの立場無いじゃないか。」

 僕が頭をガックリ下げ、「申し訳無い」とボソボソ言っているとプッと美綴さんが笑いだした。

「まぁいつもの事だからあんまり言ってもしゃーないか。でもあんた練習の時でもそうだけど、人に気遣い過ぎなんだよ。もっと話せばいいじゃないか、コソコソしてないでさ。」

「僕はその・・・上手く喋れないので。」

「・・・ふぅん、ならあたしで練習してみるかい?」

「・・・え?」

「人ともっと交わる事が出来れば、あんたの本番とやらでも気を強く持てるだろうさ。あたしの見立てでは慎二、あんたは相手に遠慮してセーブしている節があるからね。人ってのは皆が皆狭量じゃないってのを、あたしが証明してやる。」

 人懐っこい笑顔で手を差し出してくる美綴さん。僕は何でこんな良い人に対してまでおどおどしているんだろう。つくづく情けない奴だと自身を罵りながら、おずおずと握手のために手をを差し出すのだった。これで1年生だと言うのだから大物にも程があると思う。

・・・

 早いもので今では僕は副部長。当然美綴さんは主将になっていた。僕は相変わらず準決勝止まりだけど。ただ準決勝では腹痛による不戦敗による敗退なので、そこまで何も言われない。だけどたび重なる腹痛を引き起こすので、副部長ならぬ腹(はら)部長と揶揄されていた。でもいいんだ、練習の時はしっかり頑張って自分を磨けれるし。美綴さんのおかげで部員達とも軽口を叩き合えるくらいには僕も成長したんだ。

 そうして桜も僕の話に感化され、弓道を始めて。今こうやって戦争に巻き込まれていく訳だけど。



・・・



 うん、ろくでない人生に思えたけど大した事無いじゃないか。寧ろ幸せな方だよ。だって僕には心の拠り所となる妹もいるし、心優しい人にも出会えているじゃないか。だから頑張ろう、まだまだ物語は序章の部分をようやく過ぎようとしている程度なのだから。

「何言ってるのよ。今日からここに住むんだから荷物持って来て当然でしょ。」

「なっ!!!!」

 遠坂さんは本当に奔放な人だなぁ。衛宮君の承諾取って無く、住むと自分だけで決めてたんだね。美人は本当に得だと思うよ。僕や川尻君辺りがそんな事言おう物なら、即時豚箱行き確定だもの。ハハッ、分相応って言うか想像したら笑えて来ちゃった。衛宮君の驚愕の声を余所に僕はのほほんとそんな事を考えていた。





―続く―





 はい、どうもこんにちは。自堕落トップファイブです!慎二の良さが伝わらないのは過去が無いからなのか、と思い急遽作ってみました。さてどういう反応があるのか楽しみでもあり、不安でもあります。それでは失礼します。

 本日もこのような駄文に目を通して頂いて誠にありがとうございました!(謝)



[24256] 時機尚早、好機逸すべからず
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/14 23:49
 道場に付いてからの会話はさぞ和やかにして、微笑ましい会話だった。衛宮君がセイバーさんと同じ部屋は道徳的にも男性的にも、色々な問題が生じると身を下げながら力説。しかしセイバーさんは腰に手を当て、然諾を重んじる委員長のような顔になり

「それは困る、就寝時は最も油断している時です。サーヴァントたる私がシロウと同じ部屋で寝るのに議論の余地などありません。」

 ・・・うん、使命感からの言葉だと分かっていても僕には羨ましいような、素晴らしいご提案だ。いや、実際同じ事言われたら衛宮君の数百倍は慌てふためくんだろうけど。衛宮君はとうとう令呪という最終兵器まで用いて、セイバーさんをどうにか退けていた。僕にしろ、衛宮君にしろ何か通ずる物があるよね。精神的不能という意味に置いてだけど。

 でもやっぱり衛宮君はモラリストだし、心配りが本当に大した物だと思うんだ。僕にとっては未だにセイバーさんは荒くれ武者にしか見えない。あのバーサーカー相手に、一歩も引けを取らずに斬り合う姿を見たのだから。だから衛宮君が彼女を普通に女の子として接する事は豪胆の域だ。そして女性配慮もバッチリなのだから、まさに胆大心小と言えるのかもしれない。

 最終的にセイバーさんの部屋は衛宮君の部屋付近と言う事で場は収まったようだ。セイバーさんは依然険しい表情で衛宮君を見つめていたけど、遠坂さんによる衛宮家の警報システムの話もあり沈着したようだ。遠坂さんはそれより私の部屋どこ?と衛宮君に聞き、彼が唖然としている間に

「どこでもいいなら勝手に選ぶわよ。行くわよ、慎二。」

と鼻唄混じりで歩いて行った。何だか僕配下みたいになってる、もしくは下僕。小市民らしく僕は会釈をして去ろうとしたけど、言うべき事があったので振り返った。

「あの!衛宮君、僕達先に逃げちゃってごめんなさい!三人の分を僕が代表して謝らせて欲しい。」

 衛宮君はおかしそうに笑い、後頭部をポリポリ掻き出した。

「いや、まぁ慎二。俺なんてただ無茶して突っ込んで自爆して、結果迷惑を掛けただけだ。それにお前、あの時一生懸命闘ってたじゃないか。」

「うん、それでも僕は

「慎二~、あんた何やってんの。まさか私の荷物漁ってんじゃないでしょうねっ!!」

 後ろからの怒号に僕は思わず飛び上がった。それを見て衛宮君はまた忍び笑いを漏らしながら

「ほら、遠坂も呼んでるぞ。俺はもう既に許してるから無罪放免だ。早く行ってやれ。」

 僕は両手にバッグを持ち腰を90度折って謝罪を示した後に、ヨタヨタ遠坂さんの許へ駆けて行った。

「ったく、つくづく面白い奴。」

 そんな衛宮君の呟きなんて聞こえるはずも無かったんだけど。

・・・

 お、お、重いよ遠坂さん。やっぱりこのボストンバッグとても重い。僕の貧弱な腕だと重量挙げのバーベルに感じてしまう。両手で抱えてガニ股で走りながら僕はそう思った。歩きたいのは山々だけど衛宮家の間取りに明るく無い僕は、遠坂さんを見失ったら大変だ。僕は散歩で疲れた犬のようにハヒハヒ言いながら必死に彼女の後を追った。

 滑って2回ほど転倒しながらも、どうにか遠坂さんが選んだ部屋まで運ぶ事が出来た。どうも縁側を進んだ先は客室みたいで、旅館としてやっていける気がする。こう見どころさえ何かあれば、ねぇ。清潔感漂ってる上にきちんと整備されてるんだから、活用しないと何かもったいないと思う。桜が一度掃除が大変と言ってたのも頷ける話だよ。僕なんて花瓶割って仕事増やすような男なのに。

 ようやく遠坂さんの荷物持ちが終わった僕の腕は完全燃焼していた。そのため曲がらないのでダラリと両腕を垂らして、不審な人物を演出する事になった。ノーガード戦法を取る訳じゃないんだけどね、足もガクガク笑ってるし。遠坂さんは部屋の中央に陣取り、左見右見してどこに何を置くか思案しているようだった。追いついて来た僕に

「ありがとう慎二、助かったわ。荷物持ちついでに物を置くの手伝ってくれない?後、勝手に私の私物に触れたら殺すから。」

 凄い爽やかな笑みで物騒な事を言われ、僕は背中に寒い物がよぎった。疑問口調で聞いて来てるけど、拒否権僕に無いんじゃ・・・。気付けばそれをそっちに、これをあっちにと現場監督と業者みたいに手分けして行動していた。あれ僕何も言って無いのに、どうしてこんなコキ使わされてるんだろう。

 遠坂さんの持ち物は魔術関係がほとんどで、関連書物が分厚いため重かったんだ。衣類なんかは多分家に帰って着替えるとか、そういう事なのかもしれない。僕は頼まれた書物を鞄から取りだすと布地の下着を見つけてしまった。

 僕としては桜の下着とか普通に洗濯したりするので、あまり抵抗が無かった。それに職場を共にしたというのもあって、警戒感が薄れていたのもある。僕は恐れることなく地雷を踏もうとしているのだった。

「遠坂さん、こんな重たい本の下に下着敷いてたら傷んじゃうよ。」

 何食わぬ顔でひょいと遠坂さんのパンティーを掲げて説明する僕は大馬鹿だろう。遠坂さんの黒目は喪失し、呆然と今の状況を整理し始めた。黒目が戻ってきた時には、烈火の如く赤みを帯びた顔もセットに付いて来た。

「あ、あ、あんた何勝手に触れてんの!」

「え、あ、はっ、僕は一体何をやってるんだ!」

 桜に対するノリを遠坂さんにやってどうするんだ。僕はそのまま高速土下座をして謝罪した所、後頭部をゲシリと足で踏まれてゴリゴリされていた。

「あ~ん~た~。死にたいなら死にたいと、ハッキリとそう言いなさいよ。」

 照れなのか本音なのか分からないけど、とりあえず手加減気味に僕を踏みつけながら折檻を加える遠坂さん。僕は痛いけど自業自得なので何度もスイマセンを連呼していた。何でもMと呼ばれる人達には楽しいらしい。けど僕には恐怖と苦痛しか無いので、僕がMじゃないということなのだろうか。

 飽きたのか遠坂さんは自身の下着を鞄の奥深くにねじ込みながら、溜め息を零した。

「・・・あんた普段あんなにおどおどしてるのに、どうしてそう変な所で度胸あるのよ。」

「まぁ・・・桜でちょっとは免疫が付いてるのかもしれないね。」

「ふぅん・・・桜の方が良いって?」

「ちょっと待って、その話の飛び方は流石におかしいよ!」

「だってね、桜で慣れてるから私の下着を拾い上げる根性があった訳でしょ。あ~あ、何か傷つくなぁ。誰にも見せた事ないのに。」

 い、今のは色んな意味で問題発言なんじゃないだろうか。誰にも見せて無い未踏の地を僕が勇んで踏み込んだと言う事か。そんな神秘的な土地に足を踏み入れながら、世辞の一つも言えないなんて。これは彼女の尊厳のために褒めなくちゃならない。

「と、遠坂さんのパンティー可愛、ブゲラッ!!」

 最後まで言わせて貰う事無く腹に蹴りをお見舞いされて悶絶する僕。一度失った信用は取り戻すことは出来ないのか・・・無念だ、悲しいよ。真っ赤な顔をして遠坂さんは肩を怒らせながら

「そういう事言わせたくて言ったんじゃないわよ!ああ、もう調子狂うなぁ。」

 僕は蹴りによって受けた内臓器官の修復を図るために蹲っていると

「それであんたはどうすんの、慎二。」

遠坂さんは唐突に質問を繰り出して来た。もう彼女はいつもの様子で先の事は水に流そうと言う雰囲気を纏っている。

「聖杯戦争、の事でいいのかな。」

コクリと頷く遠坂さん。僕は気持で負けないように唾を飲み込みながら、絶対に噛まないように気持ちを引き締めた。

「僕達ももしかしたら衛宮君と同じような結論かもしれない。聖杯の信憑性が明らかで無い以上、全てをなげうって他のマスターを皆殺しに何て出来ない。」

「信憑性も何もあなたも見たでしょう、バーサーカーとの戦を。あれこそが聖杯の奇跡を物が立っている何よりの証じゃない。」

「だからこそ僕は信じがたいんだよ。こうも考えられないかな、サーヴァントを作るのに聖杯は力を使い果たしたって。」

「・・・後ろ向きな発想ね。」

「僕は・・・どっちを向いているかなんて分からないよ。無闇に殺し合いをした所で得た物なんて、それは僕達の望む物じゃないと思うだけだよ。」

「ふ~ん、まぁいいけど。それじゃ基本スタンスとしては後手に回るって訳?」

「相手の素性が分からない以上攻めようが無いしね。逆に先手を打とうとして返り討ちに遭う方が恐ろしい。ホームグラウンドじゃないにせよ、罠を仕掛けている可能性だって十分あるんだから。命が掛かっているんだ、それこそ手練手管を弄して来ると考えるのが自然じゃないか。」

「言うわね。それになるほど、確かに一理あるわ。じゃあとりあえず今はバーサーカーへの対抗策を練ると言った所かしら?」

「うん、僕としてはバーサーカーにサーヴァントを仕向けて、マスターを人質に取るのが一番手っ取り早いと思ってる。」

「あら、案外えげつない事考えるのね。あの少女を殺そうっての?」

「出来るなら無力化を図りたいけど。あの様子じゃ彼女は聖杯戦争の虜になってる。殺す事に罪を忘れた人間の末路はいつだって悲惨なものだよ。それに下手な情を掛けていると僕らの身が危うい。一度殺されかけた身なんだ、同情の余地を残している場合じゃないよ。」

「ふふっ、何だあんた案外物分かりいいじゃない。普段と別人みたいよ?」

「何だろう、スイッチが切り替わるというのかな。桜が危険だと思ったら思考がクリアになるんだ。」

「なるほど、ね。本当桜とあんたは良い関係で羨ましいわ。」

 何故か物憂げな感じでそんな事を言い始める遠坂さん。らしくないというか、君も桜と非常に仲良くやってるじゃないか。しかし僕は遠い目をしている彼女に、その言葉を掛ける事が出来なかった。第6感が言えばより彼女の傷を抉ると言っている気がして。

 そんな少しメランコリックなのも一瞬の事ですぐに普段のサッパリした笑みを浮かべ

「でも安心したわ、慎二。その様子じゃすぐに他のマスターに倒される心配はなさそうね。まぁ最後は私があんたを倒すんでしょうけど。」

 ニシシシという感じで猫のように気まぐれな事を言いつつ笑う遠坂さん。この話題は一旦ここで打ち切られたようだった。もう物々しい雰囲気は霧散し、気楽なムードになっている。僕はやらないといけない事を思い出したので、挨拶をしてそそくさと遠坂さんの部屋から出て行った。

・・・

 僕は交差点でひたすら歩きまわって居た。本当に魔術というのは凄い物で、この世の果てみたいになっていた光景が今ではスッカリ元通りだ。僕は黒毛やら動物の破片、肉片と思える物をピンセットで丁寧に摘み袋に詰めて行った。あの現場には全く関係の無い物も含まれるかもしれない。でも僕は一つ掴む度ごとに「ありがとう、ごめんなさい」と呟きながら拾い集めていた。

 何時間集め続けたか忘れたけど、とりあえずバーサーカーが立っていた周辺の場所に落ちている物証はあらかた集めた。それを小さい木箱に収め歩行者の邪魔にならないよう、電柱のすぐ傍に置いた。そしてその前にお皿を置き線香をあげ、謝罪と感謝の意味を深く込めて弔った。さらに周囲に花屋で買ったプルメリアを置いた。死者の花と呼ばれ、白く気品がある美しい花だ。

 僕は通りを歩く人に不思議そうに見られ、直接聞かれもした。その度にここで不幸があったと言うと、何となく察した人は憂慮そうに僕を気遣ってくれた。中には手を合わせてくれる人さえ居た。僕はまだまだ人間は素晴らしい人が多いと言う事を知る事が出来た。

 動物達の命、そして彼らの生活を脅かす影を野晒しにする訳にはいかない。何より僕の大切な物に危害を加える者は誰であろうと断じて許さない。僕は心を鬼にして少女と敵対すると心に決めて衛宮家へと戻っていった。





―続く―





 はい、どうも自堕落トップファイブです!結構書くのに手間取り疲れました。焼香の作法とか色々調べて書いたんですが、過ちがあったら指摘して下さいね。直ちに訂正しますので。イリアとはどうなるのか、僕自身も決めかねていますが慎二と一緒に悩み抜いて決断を下そうと思います。それでは失礼します。

 本日もこのような駄文をここまで読んで頂き誠にありがとうございました!(謝)



[24256] ライダーとの念話
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/15 03:55
 時刻は夕暮れ時、僕は衛宮君の帰路を辿っていた。そして僕は決して一人で交差点に行けるほど、自信家でも不用心でもない。勿論霊体となったライダーにも付いて来て貰っていた。ライダーは何も言わずに僕の時間に付き合ってくれた。サーヴァントだからとかそういうのは抜きにして感謝したいと思う。日常の有難みを忘れてはいけない。僕はもう非日常に足を踏み込んで、今後今以上に平穏から遠ざかるのだから。

「ライダー、僕の声、聞こえてる?」

 何ですか、慎二?

 ライダーは霊体の時は念話によって脳に直接的に語りかけて来る。

「や、ちょっと聞きたい事があるんだ。」

 何でしょうか?

「・・・あの、僕が何を考えてるとかって分かるの?」

 ・・・えぇ、分かりますよ。慎二はとても優しい心をお持ちだと言う事も。

「ぶっ!と、突然何言い出すのっ。でも、その、あ、ありがとう。あ、いや、そうじゃなかった。それで聞きたいんだけど、僕も念話って出来るの?」

 恐らくは、というより考えてる事がこちらに伝わっている時点で出来ているでしょう。

「・・・それもそうだね。それで念話での会話って桜には伝わるのかな?」

 ふむ、どうでしょうか。今まで慎二が他の女性に目を奪われて来た事を、私は間接的に知っていますが。それに関して桜に伝わって居れば態度に出ているでしょうね。ちなみに私は告げ口はしていませんので、念のため。

「も、もう、そうやって僕を適度にからかいながら答えるの心臓に悪いよ、ライダー!」

 ふふっ、すいません、うっかりしていました。私も慎二の目に留まるような女性になりたいという想いが、きっと態度に出てしまうのです。ともあれ念話した所で桜の耳に届いていないでしょう。それにしてもどうして突然?

 僕はライダーの言葉を安心したので念話でライダーと会話をする事にした。

 だって僕達が考えてる事が桜に知られたら、いらぬ心配を掛けちゃう事もあるだろう?

 ・・・なるほど、本当に慎二らしい理由ですね。桜が少し焼けます。

 ライダー、僕は君を頼りにしているんだから変な気を起こす必要無いんだってば。それにねライダー、僕は君に聞いて貰いたい話があるんだ。ライダーはどうしてイリヤスフィールが衛宮君達をそのままにして帰ったと思う?

 ・・・なかなか難しい質問ですね。やはり私には単なる気まぐれにしか。

 それだけ分かっていれば十分だよ。でも僕はそれだけじゃなくてもう少し掘り下げてみることにしたんだ。

 ・・・と申されますと?

 気まぐれを起こした理由、って所かな。何が起因して見逃したのかが引っ掛かるんだ。それにもしかしたらそこに勝機が有るかも知れないと思ってね。

 ふむ・・・。

 彼女は衛宮君にバーサーカーが攻撃を加えた後に気まぐれを起こした。ここから衛宮君が重要なファクターになると言うのはいいかな?

 ええ、そこまでは私も理解出来ます。

 うん、そこでだよ。衛宮君とイリヤスフィールの会話をもう一度考えて貰いたいんだ。

 確か・・・「2度目だね、お兄ちゃん」とか言ってましたが・・・。

 そう、2度目だ。彼女は初対面で彼に会った時、何か感じる物があったのかもしれない。例えば彼女の知り合いに似ている、とか。もしくは純粋に彼と話をして興味を持ったか。お兄ちゃんという俗称にも違和感を覚えたけど、遠坂さんにも初対面にして呼び捨てだったからそこは何とも言えないね。

 なるほど、つまり彼女は・・・。

 うん、衛宮君に興味を示していると言う事なんだよ。衛宮君と彼女が手を結ぶ事が出来れば、かなり楽になる。しかし僕には単なる友達としてとか、兄として彼を欲しているようには思えない。

 それはいかなる理由でそう考えられたので?

 普通に考えて友達とか知り合いになりたいなら、その相手に死ねと言えるかい?もし衛宮君以外に発したとしても、友好な関係を望むならそんな過激な発言を衛宮君の前で言わないと思うんだ。だから結論を言えば衛宮君を「道具」「手駒」「玩具」このように考えていると思われるね。まぁ彼女のサーヴァントの強さを考えれば、手駒や道具など要らないだろう。年齢的に考えてもただオモチャが欲しいのだろうね。

 確かにそれは考えられますね。しかし士郎はイリヤスフィールにどう対応するでしょうか。

 教会に行った時の神父と同じような流れになるだろうね。恐らく必死に説得した末に殺される、ないしは完全な道具になり下がるんじゃないかな。彼女はもう独自の価値観を養ってしまっているよ。そして子供特有の唯我独尊な一面も持っているから説得は無意味だろうね。

 ではやはり我々がバーサーカーを引きつけてその間に・・・

 ・・・殺すしかないだろうね、マスターを。もっともそれは僕がこっそり近づいて毒ヘビを使役すれば楽なんだろうけど。

 慎二はヘビも扱えるのですか?

 うん、どうにかね。昔動物園に行って色々試してたから、大体何を操れるか分かるよ。問題はそこまで動物を近寄らせてくれるかどうかと、耐性が有るかどうかだね。毒や怪我による耐性が強ければ、僕は即座にヘラクレス様の逆鱗に触れ肉塊にされるだろうね。

 確かに・・・それに奇襲は一度仕掛けたら、相手は二度と油断してくれませんからね。

 とにかく話を戻すと彼女は衛宮君に興味関心がある。そのため衛宮君を捕獲した瞬間は隙が生まれるかもしれない。ただタイミングがシビアだろうね。衛宮君にじゃれついている彼女を僕らが殺そう物なら間違いなく僕らは悪だ。衛宮君とは決別し、セイバーさんと完全な敵同士になるだろう。ライダー、僕は良識ある彼らと出来れば戦いたくないんだ。

 ええ、分かっています。チャンスがある時を見計らってと言う事ですね。つまり士郎が捕まった瞬間辺りがベストと言う事でよろしいですか?

 うん、それが最善だと思う。仲間を人質、拉致されると思って咄嗟に攻撃したら誤って殺したと言う事にすればいい。衛宮君も正当な理由があれば人殺しを容認する人だからね。要はは納得できる理由があれば良い訳だよ。

 ・・・本人が聞いたら顔を真っ赤にして怒りそうですが。

 ・・・どうかご内密にお願いします。でもとりあえずライダー。僕達も衛宮君と遠坂さんの行動に付き合っていこうよ。どっちみち僕も好戦的に打って出るつもりないしさ。それに僕らが固まって行動すれば向こうもおいそれと攻撃を仕掛けて来ないだろうし。

 そうですね、今の所はそれで良いでしょう。

・・・

 僕達はこうして今後の方針を決めて衛宮邸に帰って来た。既に料理の準備を始めているようで、香ばしい匂いが廊下にまで漂っている。居間の中では遠坂さんとセイバーさんが話をしている。気が小さい僕はとっても入りづらかった。そこで堪らず僕はお姉さんに救いを求めた。

 ラ、ライダー!

 嫌です。

 そ、そんなっっっ

 そんな理由でサーヴァントを現界させるマスターがいるものですか。慎二にはこういう日々の中で度胸を付けていって貰いたい。

 う、うぅぅ、なまじ正論だから何も言えない・・・クスン

 僕は決死の覚悟で引き戸を開けた、数ミリ程。これが今の僕の肝の大きさです。

 ・・・いくじなし。

 酷いよ、ここまで頑張った僕をもう少しは認めて欲しいくらいだ。

 ・・・

バーーン!

 心霊現象のように開け放たれる引き戸。ライダーは一瞬だけ姿を見せ、開け放つと同時にまた霊体に戻っていた。な、な、なぁぁぁぁ?

「らららら、ライダー!」

 僕はもう念話所か叫ぶようにライダーを呼んだ。

 荒療治と言う事です、次からはすんなり入れるようになるでしょう。

 そう僕に言い残し何食わぬ顔で僕の背後に立つライダー。愛の鞭にしてももう少し穏便なやり方と言う物を・・・

「・・・何一人で騒いでんのよ。」

 遠坂さんが呆れたようにこっちを見て悪態を付いて来た。僕だって好きでこんな醜態を晒したい訳じゃないんだよ?ライダーがいじめっ子だから・・・。

「兄さん、早く座ったらいかがですか?」

 あ、不味い。キッチンから出て来た桜の声もちょっと怒り成分が配合されている。恐らく遠坂さんと衛宮君の事で頭を悩ませているんだろうな。桜、僕はいつだって手伝ってあげるからね。・・・出来るだけ血なまぐさい事はさせないで欲しいけど。

 僕はこんなに大勢で食卓を囲むのは初めての事だったから凄く嬉しかった。それに衛宮君の料理はとても美味しいんだ。口からご飯粒を飛ばしながらおいひい、おいひいよ!という僕に衛宮君は親のような包容力のある笑顔で見つめていた。やっぱり僕ってみっともない。桜の料理が一段と上手になったのも衛宮先生のおかげだったんだ。

 僕はやはりこの人達と敵対するなど、あってはならない事だとしみじみ思い知らされるのだった。





―続く―





 はい、どうもこんばんは、自堕落トップファイブです!本編と進み方は同じにしても、表現変えたり、会話を変えたり工夫は施していますが・・・。やはり同じ展開というのは何とも申し訳無いですね。出来る限り内容を変えつつ結果を同じ、にするように精進したいと思います。それでは失礼します。

 本日もこのような駄文をここまで読んで頂き誠にありがとうございました!(謝)



[24256] セイバーと完全和解
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/15 06:30
 僕はよくよく考えてみれば、セイバーさんと今までろくに話をしていない事に気が付いた。ライダーに任せっきりなんて申し訳無い。仮とは言え、今の僕はマスターなんだから僕も責任を持ってセイバーさんと話し合わないとね。・・・でも、やっぱりちょっと怖い。

 セイバーさんは普段から鋭利な刃物のように研ぎ澄まされている一切の隙が無い人なんだ。僕みたいな隙だらけの人間を見て、呆れ果てた末に同盟破棄して殺されやしないだろうか。分別過ぐれば愚に返るとは言うけど、やはり僕はどうしても杯中の蛇影を見て委縮してしまう。

・・・ああもう、下手の考え休むに似たり!こんな事を考えている内にセイバーさんが寝てしまったらどうするんだよ。桜に決して危害を加えないというセイバーさんが悪人のはずないよ、うん。

僕はただ話をしたいなどという理由では門前払いを受ける気がした。そこで僕は衛宮君のご助力を願う事にしたんだ。

「と言う訳で、僕にお力添えお願いしますっ!」

 お得意の僕の全力土下座を目に据えながら、衛宮君は目をパチクリした後に頤を解いた。え、今の僕そんなにアホっぽいの?彼はなおも可笑しそうにクツクツ笑い

「慎二、ありがとう。何だかお前見てると俺まで元気になるよ。ちょっと待ってろ。今お茶菓子と飲み物を用意するから。それから俺もセイバーちょっと苦手だったんだ。どうせだったら3人で話をしないか?」

「え、いいの!?僕はもちろんいいよ。衛宮君が一緒に来てくれるなんて百人力どころか千人力だよ。」

「なんでさ、そこまで凄いか俺?まぁ煽ててもお菓子と茶しか出ないけどな。」

 褒められて満更でも無さそうに明るく話す衛宮君。それから僕達はセイバーさんの部屋、というか衛宮君の部屋に来ていた。セイバーさんの部屋は衛宮君の真横なので、必然的に衛宮君の部屋を介して顔を合わせる事になるんだ。

 献呈の品としてお茶とお菓子の乗った盆を僕が持ち、衛宮君が襖の前に立つ。もう天皇陛下や総大将にご報告申し上げる気分だ。だって目の前の襖から闘気とか高貴さとか香気と言った、とにかく何かオーラが漏れ出ているんだよ。

衛宮君もかなり緊張しているのか、喉に唾液を流し込み深呼吸をしていた。自分の中で落ち着いたと判断したのか、小声で「良し」と掛け声を掛ける衛宮君。彼も内心かなりセイバーさんに気を遣っている事が伺い知れるよね。やっぱり生粋の苦労人だと思うよ、うん。

「セイバー起きてる――

スラーーー

 衛宮君が最後まで聞く事無く即座に開かれる襖。

「起きています。どうかされましたか、マスター。」

 僕達は餌を強請る鯉みたいにお互い顔を合わせて口をパクパクし合った。それでも意図は通じるんだ。もしや僕達って魚人?

 ど、ど、どうしよう衛宮君。僕まだ心の準備出来て無い!

 ば、馬鹿。さっき俺が深呼吸してたの見て無かったのかお前!

 違うんだよ、まさか襖の前でセイバーさんが待ち構えているなんて夢にも思わないじゃないか。

 俺だってもう頭真っ白で随徳寺をきめたいくらいだ。しかしここまで来て36計を発動させる訳にはいかない。そもそも俺セイバーのマスターなんだぞっ。

 そ、それもそうだね。ああ、そうだまずは食べ物で釣ればいいじゃないか!

 そうだぞ慎二、盆を上下して慌ててる場合じゃない。早くそれを彼女に!

 僕達の見事な以心伝心で、僕は彼女に自分達の分も乗っているのにも関わらず

「ど、どどっどどどうぞ!!お供えの品ですので、どうかお納め下さい!」

 風を切りながら頭を下げ両手でお盆を差し出す僕。何だか苛められたくないから、お金を渡すいじめられっ子になった気分だ。もしくは逆カツアゲ。逆カツアゲとはカツアゲされている訳では無いのに、被害妄想の果てに自ら金品を差し出す行為である。

 セイバーさんは無表情に僕達をただ眺め冷えた声で

「・・・あなた方は私を愚弄するためだけに呼んだのですか?」

ゾクゾクゾク

 本格的にやばいオーラが放たれ、僕と衛宮君は互いの距離を更に密着させた。そしてこんな時にさらに僕はえらい事に気が付いた。僕は衛宮君に小声で

「え、衛宮君!ヒソ」

「どうしたんだ、慎二。ヒソヒソ」

「僕セイバーさんと話そうと思っていた話題リスト居間のテーブルの上に置き忘れて来た。ヒソ」

「ば、馬鹿!そんな事を命の分かれ目の際に立たされてるこの状況で言うな!ヒソヒソ」

「で、でででもこのままじゃ、僕達完全にセイバーさんを小馬鹿にしに来た痴れ者に・・・。ヒソ」

「大丈夫だ、そこは俺が何とか―――

「・・・楽しそうな所悪いのですが、もう下がってもよろしいか?」

 その瞬間、僕達は瞬時に姿勢を正し息を合わせたように首を横に振った。

「ま、まぁ何だ。せっかくお茶菓子も用意したんだ。ちょっと俺達との小話に付き合って欲しい。」

「・・・マスターがそう言うのであれば従いましょう。」

 釣られてる、釣られてるよ衛宮君。セイバーさん滅茶苦茶見てる、お菓子見てるよ!僕は内心歓喜の声をあげながら、事態が好転した事に喜んだ。

 僕と衛宮君はお詫びの印として、お菓子を全部セイバーさんにあげた。セイバーさんはお菓子で陥落する私ではありませんよ。と言いながら自分の下に全部のお菓子を手繰り寄せていた。当然命知らずな突っ込みは入れません。その後はむはむ美味しそうに食べ、時折頷いているセイバーさんだった。セイバーさんの機嫌が直った所で僕達は話をする事にした。

「セイバー、もう傷口の方は大丈夫なのか?」

「うん、本当に。お腹から出血していたようだから僕も心配していたんだ。」

 質問を受けセイバーさんは頬に膨らんだお菓子をお茶を飲み込んで一気に流し込んだ。ほっぺに付いているお菓子のかすへの突っ込みも当然入れません。

「はい、問題はありません。バーサーカーに受けた傷なら概ね回復しています。ですがランサーの傷は少々厄介でまだ癒えていません。それでも今の状態であれば、バーサーカー以外のサーヴァントには引けを取らないでしょう。」

「へぇぇ、サーヴァントの人って本当に凄いもんだねぇ。僕なんてあんな傷負ったら数カ月くらい入院してそうなもんだよ。」

「いえ我々は個人差があるので一概には何とも言えませんが。私には自然治癒が備わっているだけですね。そしてシンジ、あなたは感心している場合では有りませんよ。そもそも本来我々は対立する関係。こんな所で無駄話に興じてないで対策を練ったらどうなんです。」

「そう言うなってセイバー。今はまだ慎二もライダーも仲間だろ?ならお互いの交流を深めたって別にいいじゃないか。」

「・・・ふぅ、マスターのあなたがそんな認識では先が思いやられる。聖杯を取ろうとお考えなら仲間であれ身内であれ、最終的には剣を付き立てなければならないのですよ。」

「お、お前――

 セイバーさんに食い下がろうとしている衛宮君を僕は片手で制した。ここは僕に任せて、衛宮君。僕がそういう決意の籠った目で衛宮君を見つめると、衛宮君は心得たように頷いてくれた。

「・・・確かに。セイバーさん、別に僕は馴れ合うとかじゃれ合うために話し合いに来た訳じゃないので安心して下さい。ただあなたが未熟で半人前以下の僕と手を結んでくれた事に心から感謝しているんです。そしてあなたの事をもっと深く知っておきたいんです。」

「ほぅ・・・それは私の人となりを知って優位に事を運ぶためですか?」

「その一面も否定はできませんが・・・。しかし僕と衛宮君は本質的に考え方は同じなんですよ。そして恐らくその中にセイバーさんも含まれている。」

「持って回った言い方はよして頂きたい。何が言いたいのです、あなたは。」

「無益な争いや流血は望んでいないはずですよ。ここにいる三人はね。」

「・・・。」

「ああ、そうだセイバー。サーヴァントだからマスターだからって理由で殺すなんて絶対駄目だ。慎二や遠坂みたいに良い奴かもしれないってのに。」

「・・・まぁその考えには僕も概ね賛成だよ、衛宮君。セイバーさん、出来る事なら僕達だけでも諍いは無しにしませんか?聞く所によるとあなたは無抵抗な人間に危害は加えないそうですね。」

「・・・ええ。」

「ならば僕とライダーは喜んで全面降伏いたしましょう。セイバーさんや衛宮君を殺してまで、聖杯を欲してなどいませんから。そして何より桜が悲しみます。だから可能な限り僕達と一緒に争い以外の道を探しませんか。あなたの願いを存じ上げていないので何とも言えないのですが。」

 僕の顔を真剣に凝視していたセイバーさん。しばらく経ち彼女はゆっくり目を瞑り大きく頷いた。

「いいでしょう、私もシンジの行動をさりげなく見てきましたが姦計を巡らせているとは思えない。親睦の証として私の事をセイバーとお呼び下さい。そして普段通りの口調で接して頂いて結構です。」

 僕は喜色満面の笑みを浮かべ、手を友好の握手を差し出しながら

「これからもよろしくね、セイバー。」

固い握手を交わすのだった。それから衛宮君に

「何で俺だけ衛宮『君』なんだよ。不公平だぞ。」

 とちょっと不機嫌そうに言われたので今後は士郎君と呼ぶ事になった。そっちじゃないよ、と笑いながら怒られたけど、何も言われなかったので不満は無いみたい。じゃあ士郎君で良いって事にしとこう、うん。

 これからどう進展するのか分からない。けど僕達は頑張ってやれる事をやるしかないよね。





―続く―





 はい、完全和解完了致しました。最後どうなるのかはまだ考えてませんが、とりあえず今の所はこれで良しとしましょう。それでは失礼します。

 本日もこのような駄文に目を通して頂き誠にありがとうございました!(謝)



[24256] 士郎君は人の味方、正義のヒーロー(になる予定)
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/15 08:41
 僕と士郎君とセイバーの会話はまだ続いていた。だいぶ空気も緩み、あまり会話としては弾んで無かったけど。でも僕と士郎君はセイバーが美味しそうにお菓子を咀嚼しているのを見ているだけでも楽しかった。時折見られてる事に気付き「言っておきますがあげません。」と言った時は二人で吹き出した物だ。セイバーもまた感情を素直に出す人なんだろうね。根が真面目だからちょっと怖く見えるだけなんだ。

 セイバーはお菓子を食べて一息付いた後に急に真面目な顔をして士郎君に向き直った。

「シロウ一つ訊きたい事がある。」

「な、何だよ。もうお菓子ならそれで最後だぞ。」

見た目の数倍食欲が旺盛とは言え何とも失礼な発言だが、僕は止める間も無かった。そしてセイバーさんは当然羞恥と怒りに声を荒げ

「そんな事を申し上げるつもりなど最初からありませんっ!・・・コホン、昨夜でのバーサーカーとの一件。あなたは両断されたのを覚えておられますね?」

「・・・あまり思い出させないでくれ。今でも吐き気を催して来るんだから。今後からはあんな無茶は控えるから。」

「それは私とて同じ事。ですがこれはあなたの人柄を知る上で、聞く必要があると判断しました。何故あの時バーサーカーに向かっていったのですか?いくらあなたでもタダでは済まない事は理解出来たはずです。」

「それは――」

 口籠る士郎君。僕には分かり切った事だったけど、本人を前にして言うのが恥ずかしいんだろうね。しかも相手はセイバーだもん、そりゃ言葉も上手く繋げなくなるよ。じゃあやっぱりここは僕の出番じゃないか。僕はゆっくり諭すように話しかけた。

「セイバー、君が士郎君を守るのと同じ事だよ。」

「サーヴァントが自らのマスターを守るのは当然であり、義務です。しかしその逆は成り立たない。」

「そうだろうね、でも家族なら成り立つだろう?僕はきっともし桜が同じような目にあったら何が有っても飛び込んで行くよ。それこそ死を顧みずにね。」

「しかし、私は――

「聞いてセイバー。そこが衛宮君の長所でもあり短所でもある所なんだよ。彼はね、きっと他の誰よりも人の命を重んじている人なんだ。きっとセイバー自身、サーヴァントは人では無いと割り切っているかもしれない。でもね、士郎君が君を助けたと言う事は人間として認めている何よりの証なんだよ。」

 ね?という風に士郎君に意見を求めると、彼は照れたように染めた頬をポリポリ掻いていた。そしてぼそぼそと

「あ~・・・うん、いや、まぁ、うん、別にそんな大層なもんじゃない。ただ俺は咄嗟に体が飛び出しただけだ。」

 と結局言葉を濁していた。何て言うか、僕ですらいじる人の気持ちが分かる。指をこね回しながらモゴモゴ呟く衛宮君って、こんな事言うのもなんだけど結構愛嬌あるんだよ。でもいじられる人属性なのは僕も同じだからね、うん。だから何も言わないし、手も出しません。

「つまりシロウは自然に私を助けようとした、と解釈してよろしいのですか?」

「・・・それは分からない、気が動転してたから。だから次はガタガタ震えてるかもな。」

「それが正常な人間と言うものです。自分の命を無視して赤の他人を助ける事など通常あり得ない。それは英雄でさえも決して例外では無いのです。そのような人間は内面のどこかが欠落しているでしょう。」

 士郎君を試すように深緑色の瞳で彼の奥深くを覗き見るセイバー。ただ僕はやはり彼女の物言いに憤りの念を覚えた。

「セイバーストップ、僕からも言いたい事があるよ。」

「む、何でしょうかシンジ。」

「士郎君だからとかに関わらず、人の内面を勝手に欠陥品呼ばわりするのは頂けないよ。誰にだって欠陥はあるというのに。悪い部分だけを取り上げるのは違うんじゃないかな。僕の知るセイバーはもっと公明正大に物事を捉えられる人だと思っていたのだけど違ったのかな?」

 僕の指摘を受け一度目を瞑り沈思黙考し始めた。そして彼女はゆっくり士郎君に頭を下げた。

「確かに不用意な発言でした。その件についてはお詫び申し上げます。ですが聖杯戦争に置いてマスターがサーヴァントを安易に庇う事は有ってはならない事なのです。」

「・・・分かってるよ。俺だって死ぬの怖いんだから。」

 士郎君は不貞腐れたようにそう返事をした。僕は彼がセイバーに対し好意を持っていると言う事は、既にこの時点で把握していた。まぁ当人同士の問題なので口を挟む余地などありはしないんですけどね。士郎君に気を遣ってか、セイバーは少し頬を緩め

「しかしシロウは臆病です。正しい道を歩めば素晴らしい魔術師になりますよ。」

「何だよ、それ。俺って臆病か?」

「ええ、とても。自身の立場を受け入れようと懸命に努力する辺りが特に。その賢明さを人は時に臆病と呼ぶのです。恐れを知らない者は賢者になれませんし、苦杯をなめた者だけが一流になるのと同じ事です。」

 何気ない会話だったが、僕にとっては刃物で刺されるような気分になった。士郎君は魔術師として向かい合っている。僕は・・・一体何をやっているんだろう。ふと立ち返ってみると自分自身何もしていない現実にようやく気が付いた。僕はこれではいかんと思い、セイバーの笑みにまだ見とれている士郎君に向かって

「そうだ士郎君。僕とライダーなんだけどバイトしようと思うんだ。住ませて貰うお礼と言っちゃなんだけど、いくらかお家にお金を入れさせて貰う事にするよ。」

「いや、慎二。そんな気を遣わなくてもいいぞ。遠坂なんてさも当然のように居座ってるんだから。」

「彼女は士郎君の魔術の師匠として、ちゃんと恩を返すじゃないか。僕見たんだよ、彼女が魔術師の本を一杯持って来てるの。あれ衛宮君に伝授しようとして持って来たんじゃないの?」

「いや、まぁそれもあるかもしれないけど。多分殆どが自分の私物だろ。それに桜だって家事の手伝いしてくれてるし。」

「桜は桜、僕達は僕達さ。士郎君、優しいのと甘やかすのは別物だと言う事を知っておいた方がいいよ。恩を仇で返すような人間に僕はなりたくない。だから親しき仲にも、ううん、親しき仲だからこそ礼儀と節度を持って接したいんだ。」

 珍しい僕の強気な態度に押されて、結局士郎君は

「いや、悪かった。凄く助かるよ、ありがとうな慎二。」

 いつも通り妥協してくれ、笑顔付きで感謝の言葉までくれるんだ。僕とライダーはもう働き口を決めてるから、日を追って電話を掛けてみるとしよう。よく言うでしょ、働かざる者食うべからずって。それに僕は自分自身の能力を磨く訓練もしようと思っているんだ。


・・・


 僕と衛宮君は結局同室で寝る事にした。変な誤解を招きたくないから先に言うけど、アブノーマルな関係じゃありません。至ってプラトニック、いやそれも何か違うな。とにかくお互いを嘱目し合う事で、両名における身の潔白を周囲に証明するためなんだよ。

何せこの屋敷に男二人に女四人、それも飛びきり上玉の女性ばかりだ。どんな劣情を催して強襲を掛けるとも知れないので、互いを諌め合う事にしたんだ。どこまで自分を信用していないんだと、ちょっと笑ってしまったけど。

でも僕自身、気味悪いとは言え住み慣れた場所から離れ、違う部屋で寝るのは修学旅行くらいでしか経験が無い。だから一人で輾転反側として嫌な夜を過ごすより、断然ここで一緒に居る方が有りがたかった。

それは士郎君にしても同じようで、セイバーに聞こえない声量で寝ながらボソボソ話し合っていた。

「どうしたの、士郎君。腕なんかを天井に掲げちゃって。」

「いや、遠坂に言われるまで気付かなかったな~って。令呪を隠す事。」

「ああ、それねぇ。ふふっ、僕もこの本包帯巻いた方がいいのかな?」

「・・・馬鹿(笑)」

 そんな本当にどうでも良い軽口を叩き合って笑い合っていると余計に目が冴えて来た。士郎君はムクリと身を起こし

「やっぱ眠れそうにない。慎二、悪いけど俺ちょっと土蔵に行って来る。」

「何しに?」

「ああ、俺は寝る前にいつも魔術の鍛錬をしてるんだ。」

「・・・僕も見に行っていい?」

「ああ、それは構わないけど。何も面白い事無いぞ?」

「いいんだ。だって僕も寝れないんだもの。」

「そうか、じゃあこっそり行くか。」

 僕達は小声で会話をした後、ソロリソロリと忍び足で闇の世界を歩いて行った。

「案外、ばれないもんだねぇ。」

「ああ、何か拍子抜けだな。」

 そもそも起きていれば僕達が会話を止め歩きだした時点で、呼びとめに入られるだろうけど。それでもやっぱり彼女は何か油断出来ない人なんだよね。年季の入った土蔵は趣きが有って、というか何かが封印されてそうだった。多分怖がりの僕は夜中ここだけは入らないでおこうと思うだろう。もしかして士郎君の度胸って、ここで身に付いたもの?

 そんな僕の想いを余所に普通に土蔵に入っていく士郎君。夜が怖い僕としては慌てて彼の後に付いて行った。中に入ると物が至る所に置かれていて足の踏み場も危うい状況だった。ただ彼が修行する場所だけポッカリスペースが空いていた。僕の踏み込む場所も無いし、彼の邪魔をしちゃ悪いので、僕は土蔵の入り口から下る階段の下段に腰を下ろして座っていた。

 もう彼は一切無駄口を叩く事無く真剣に鉄くずを握っている。きっとあれを加工させたりするのが彼の魔術なんだろう。

「―――トレース・オン(同調・開始)」

彼の言葉はそれっきりで僕にとっては、何が変わったのかさえ分からない。ただそれでも僕は彼の後姿を焼き付けようと、ただじっと凝視していた。この懸命に生きる努力をする彼を。夢を追い続ける様を。そして何より自分自身を鼓舞するために。そうやって士郎君と僕は夜を明かすのだった。






―続く―





 よしよし、なかなか良い感じに物語は進んでいますね。とりあえず今の所で僕からの不満な点はありません。誤字脱字に関しては見直しして治す事にして・・・。まぁ本編と似たりよったりな会話も多々ありますが、勘弁して下さい。それでは失礼します。

 本日もこのような駄文に目を通して頂いて誠にありがとうございました!(謝)



[24256] 猛犬、いえ猛虎注意
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/15 16:58
2月4日
 僕は自身のクシャミから目を覚ました。うぅ、何だよ。誰、僕の布団取っちゃったの。と寝ぼけた頭で寝がえりを打とうとすると

ゴロゴロゴロゴロ、ガシャーン!

「・・・い、痛ぁ・・・。」

 痛いけど、痛すぎてか細い声しか出ないほどの激痛だった。寝起きだってのもあるんだけどね。うーん、それにしても僕階段で寝てたの?縮こまって寝てたせいか、体の節々が関節痛によって悲鳴をあげているよ。士郎君も僕によって引き起こされた喧騒のせいで安眠が妨げられたようだ。周囲の外敵に気を配る鹿みたいに毛布から身を起こし、こちらを呆然と見つめている。そして僕達がお互い虚ろな目で見つめ合ってたっぷり1分近く経ち、士郎君が一言

「・・・何やってんだ、慎二?」

 と、答えようの無い質問が飛んで来た。僕は昨日の夜中から話した方が良いのか、今しがた発生した出来事を話せば良いのか悩んでいると

「あ~、あ~・・・そか、そうだった。」

 どうやら士郎君の脳が活性化されてきたみたい。全ての記憶が一つの線となってまとまったようで、体の埃やゴミを払いながら立ち上がった。僕も簡易焼却炉みたいな鉄の塊に抱きついていた体をどうにか剥がし、よろよろ立ち上がった。

「おはよう、慎二。何だ結局そんな所で寝てたのか。俺が言えた義理じゃないだろうけど風邪ひくぞ。まだ俺は毛布があるけど、お前それ絶対体冷えてるだろ。何だったらシャワー使って来ていいぞ。」

「うん~おはよう。ありがとう、大丈夫。でも今日は早めに寝ようかな。何か体が重たいや。」

 士郎君は馴れているのか普段と変わらない足取りだけど、僕はもうアメーバみたいな動きだ。足をあげるのさえ億劫になりナメクジみたいにズ~リズ~リ歩く物だから、石に躓いて転んだりしていた。

 でもやっぱりまだまだ春には程遠い気温だね。庭に転がりながら土の上の霜と風の冷たさを全身で感じていたよ。士郎君は最初こそ心配していたけど、回数を重ねる内に耐性が付いたみたいだ。「先行って飯作るから手汚れたらしっかり洗えよ」と母親みたいな事を言って先に行ってしまった。僕も寝起きの息子みたいに「は~い」なんて返事をしながら庭のど真ん中で大往生していた。体も調子良くないし、外は寒いし、戦争の真っただ中だし。それでも一日は始まるんだ。

 グイッと自分の体を叱咤しながら起き上り、背伸びを思いっきりした。病は気から、じゃあ気分さえ良ければ病も治るのも道理だよね。僕は頬をパチパチ叩いてから

「よし、今日も僕は元気です!」

 と庭に生えている名も知らぬ木に向かって宣言して、朝食が待っているであろう居間に向かって走っていくのだった。・・・とと、その前に手を洗わないと。士郎君にどやされちゃうな。僕は自然と笑みが零れているのを感じていた。だって嬉しいじゃないか、例え家族ごっこだとしても一緒に食卓を囲む人が増えるというのは。やっぱり今日は素晴らしい一日になるに決まってるよ。だってあんなに太陽が輝いてるんだもの。

 ・・・とはいえ手を洗う時に見た時の僕はやはり病人みたいな面構えだった。うん、見る物じゃないよ、こんな顔。本当気持ちって大事だなぁ、何だかもう元気無くなって来たよ。とりあえず石鹸を目の下の隈に塗りつけて少しでも艶を出そうとしたら、目に染みて涙がボロボロ出て来た。いくら白い石鹸で目の下を白くしたって、ウサギの目をしてたんじゃ意味無いよ。僕はもうやり過ぎというくらい洗顔していると

「おはよ、慎二。そしてどいて。」

 僕に負けじ劣らずの表情を浮かべながら、不機嫌な遠坂さんが起きて来た。何があったのか知らないけど、下手に刺激したらヤバイと僕の警笛が鳴り響いている。

「お、おはよう。今日は何だか気分が優れないようだけど?」

「・・・朝はいつもこんなもんよ。うぅ・・・寒いし眠いし、だっるいわぁ。」

 あわわわ、学園のアイドルなんて最初に紹介した僕の面目丸つぶれだ。厭世単語を連発しながら、蛇口に向かう彼女。こう水面下で必死にもがく白鳥の例じゃないけど、これもそれなんだろうねぇ。でも僕は幻滅どころか寧ろ好感を抱いていた。だってやっぱり素直な心で接してくれた方が嬉しいじゃないか。バシャバシャ水を顔に叩くように当てて、水気をタオルで拭いた時にはいつもの名前通り凛とした顔になっていた。

 僕の呆気に取られた顔を捉えると、彼女はちょっと申し訳なさそうに笑って

「あーごめん、慎二。私寝起き酷くて、いつもあんな感じなのよ。それから横取りして悪かったわね、使ってたんでしょ?」

「あーいや、うん、大丈夫だよ。僕も眠気取ろうとして石鹸を目の下に擦りつけてただけ。」

「アハハハ、朝から何愉快な事してんのアンタ。」

「いや~病人みたいな顔してたから、ちょっと艶を出そうとしたんだけどねぇ。逆に涙が出て大変だったよ。」

「プッ、ククッ、やっぱアンタ面白いわ。まぁいいわ、それより早く居間に行きましょう。きっと士郎達が待ってるだろうし。」

 そして僕達は居間に行き、美味しい朝食を頂く事になった。その時でも桜に「兄さんを泣かせるなんて遠坂先輩酷い!」と色々大変だったけど、まぁ概ね平和です。やっぱり僕は前回と同様においちい、おいちい連呼しながら礼儀も作法もそっちのけで食べていた。違うんだ、料理もさることながら僕はこの空間が好きなんだよ。だからきっと食パン一枚でも喜んで食べるに違いないんだ。僕はずっとこういう和気藹藹な家庭を望んで生きてきたんだから。

 僕が卵焼きにソースをかけて慟哭の声をあげたり、卵焼きにかけるつもりの醤油を味噌汁にぶっこんで吹き出したり。基本的に僕はドジだった。その度に桜に散々謝り倒しながら雑巾を取りに走って行くので、次の日からは僕の席に雑巾が折り重なって用意されていたという。それでも皆楽しそうに食べていたので僕は至上の幸福を感じていたんだ。いつ殺されるともしれない我が身、楽しく生きないと損だよね。

 「あらぁ、今日は賑やかじゃない。えへへ、わたしも混ざっちゃお~っと。」

 それは突然の登場だった。というかそもそも初めての登場だった(SS的に)。人懐っこい笑みを携えながら僕の隣りに陣取る彼女は、僕らが通う穂群原学園の英語を担当する教師なんだ。名を藤村大河、僕と士郎君の担任でもあるんだけど、ここだけの話最初名前を見た時は男性かと思った。いや、男性顔負けの剣道の達人なんだけど。皆影でタイガータイガー言うけど酷いし気の毒だと思う。

「士郎、わたしもご飯~!って人こんなに居たっけ?」

姿勢は大人発する口調は子供の藤村先生は、だいぶここに馴れ親しんでおられるようでさも当然のように士郎君に声を掛けていた。残念ながらご所望の士郎君は今、居間にて石化魔法が掛かっておられる模様ですが。完全に新たな住人の紹介を失念していたと見て間違いないと思う。

「「おはようございます」」
「「おはようございます、藤村先生」」
「お、おはようございます・・・。」

 上から順にサーヴァント二人、次に女生徒二人、最後僕がそれぞれがほぼ同時に朝の挨拶を行った。先生はいつも通りにこやかな笑みを浮かべて

「はい、おはよう。ん~たくさんの挨拶素敵だわぁ。」

と言った表情のまま固まった。僕は何やら隣りで口を開けている藤村先生が心配になり

「せ、先生この卵焼き美味しいですよ。どうぞ。」

 おずおずと先生の口の中に卵焼きの切れ端を口に送り込むと、あむあむと食べ始めた。

「ありがとう間桐君。ほ~んと、いつ食べてもあなたの妹さんの料理は絶品よう。」

 とウインクをしながら人差し指を立ててまたしても硬直した。器用な人と言うか、相変わらず理解し難い不可解な行動を取る人だ。そこがまた素敵だと評判ですけど。まぁ僕も面白いと思うのでそれでいいと思います。

「って何であなたがここにいるのよーーーーーーー!!」

部屋所かこの広い家中に響き渡る程の雄叫びを挙げたのだった。





―続く―





 いや~そういえばタイガー出てませんでしたね。ネタキャラ丸出しのキャラで僕はやりやすいんですが(笑)まぁ次は散々士郎がいじられ、殴られ、叱られる話になりそうです。それではこの辺で失礼します。

 本日もこのような駄文をここまで目を通して頂き誠にありがとうございました!(謝)



[24256] 虎タイフーン
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/15 19:35
 突如として発生した熱帯低気圧(藤村1号)は超局所的(衛宮家のみ)に甚大な被害と混沌をもたらしていた。依然として猛威を振るう食器の数々、住民は直ちに避難を勧告されたものの既に手遅れな状態だった。とは言え食の安全に関しては抜かりは無く、セイバーとライダーの手によって大物(鍋や主菜)は救助されていた。

 頑固親父には誰しも備わるちゃぶ台返し。しかしこの場のテーブルはそれ以上の重量感があるはず。それを事も無げに半回転させる藤村先生はやはりタダ者じゃないよ、うん。遠坂さんは桜を連れて非難しているし、僕としてはそれだけ分かれば十分かな。

 熱湯並みの温度のお茶を喰らった士郎君は声にもならない叫び声をあげている。僕も暴風域のど真ん中にいるので、頭に卵焼きを乗せ顔面にご飯の入った茶碗がめり込んでいた。衛宮家は完全に修羅場と化しもはや地獄絵図だ。修羅場というか、修羅になった藤村先生が場を支配していると言った方が正確かもね。

士郎君の側頭部を両手でガッシリ掴み上下に振りまくりながら

「士郎あんた、いくら女の子に興味無いのかとお姉ちゃんが心配してたからって、幾らなんでもこんなに大勢連れ込まなくても良いじゃないっっっ!!それともわたしへの当てつけかあああああ!!衛宮家がいくら大きいからって乱痴気フェスティバルを開催する何て絶対に許しません!!」

「ま、ままままま待てぇぇ、ふ、ふ藤ねぇ、お、俺のはな、話を、き、きき聞け!!」

 うわぁ、えらい事になってしまっている。というか藤村先生が叫びながら地団駄を踏むと、二次災害として地震が起きて家全体が揺れてるよ。この分だと下手すれば津波まで襲って来るかも知れないよ。僕は野次が飛び交う国会議員を諌める議長ように空鍋を盾にしながら

「せ、先生。どうか落ち着いて。ご静粛に、ご静粛にお願いします!」

 予想通り「うるさぁい!」とカウンターとばかりに熱い茶の入った急須が飛んで来たけど、どうにか鍋でディフェンスしていた。そして士郎君は完全に目を回してあちら側に飛び立ってしまったようだ。そりゃあんなに揺さぶられ続けたら、三半規管の機能が停止して頭おかしくなるよねぇ。そして一時的とは言え完全に藤村先生はバーサーカー状態になっている。僕のような一平民にこの天変地異を止められるはずも無い。僕は胸の前で両手を組み、天佑神助を信じて祈る以外に手段が無かった。

「同年代の若い男女が一つ屋根の下で下宿なんて絶対駄目~~~~!!」

 轟きの声をあげながら、気絶中の士郎君をグラインドさせる藤村先生。まぁ事の発端は士郎君の監督不届きというか職務怠慢だけど。いや、それ以前に昨日今日に決まった事を先生に知らせるのはいささか無理があるでしょう。それにしたって死人に鞭バシバシ入れてる先生容赦ないなぁ。それほど士郎君の事を大切に思っているという裏返しなんだろうね。

 涙を撒き散らしながら耳をパッタリ閉じた藤村先生は、もはや自然災害としか思えない。時折意識を取り戻した衛宮君が何を弁明、説明、釈明を唱えようにも全部「うるさい!」ではじき返している。バーサーカーが最強とするなら、今の藤村先生は最狂だった。なおも頭を冷やせと言いながら士郎君に花瓶の水をぶっ掛ける藤村先生。せ、先生こそ完全に頭に血が登ってます!

 と、その時今まで静観を保っていた遠坂さんが臆することなく歩み出た。何と言う、何と言う挑戦者。彼女の勇気に神のご加護が有らん事を。僕はまたしても八百万の神々に祈りを捧げるのだった。

「先生駄目も何も既に私は1泊させて頂いたのですが?」

 それは実に格式ある上品で見た者の心を奪うような素晴らしい笑顔だった。更には先生の脳に冷水としての冷却鎮静効果ももたらした。ブラボー、ハラショー、エクセレントだよ遠坂さん!僕はたった一人で暴風に立ち向かった勇気ある行動に感動し、気付けばスタンディングオベーションをしていた。

「・・・え?」

 藤村先生は戸惑いと疑惑が未だ晴れない様子で、目の前の力尽きた士郎君に目を向けた。そして遠坂さんに今一度顔を向け

「遠坂さん、ごめんなさい。もう少し詳しく説明してもらってもいい?」

「はい、ですから昨日泊めさせて頂いたんです。いえ、正確には土曜日の夜にはお邪魔していたので2泊ですけど。今は別棟の客間をお借りして、荷物も運び込んだ所です。」

 あまりの手際の良さに藤村先生は事後報告としてただ聞くしかなく、口をパクパクさせながら衝撃を受けているようだった。何でも良いけど討ち捨てられた士郎君が気の毒でならないよ。

「な・・・な・・・。」

「そしてその事(宿泊)はここに居る新参者全てに言える事です。どうでしょう、客観的に見て我々は下宿している状況下に置かれているのですが。」

 藤村先生は自責か無念か後悔か、とにかく顔じゅうに負の青い波紋を広げて行った。う~ん、士郎君って本当に大事に思われているんだなぁ。僕はしみじみ藤村先生がガクガク震えているのを見てそう感じていた。ようやく一段落付きそうなので皆でテーブルを戻し、再度食卓を囲んでいた。

 藤村先生は背後に陰りを帯びさせ、仰向けに倒れ伏している士郎君の真横に座って、彼の寝顔をじっと眺め

「・・・士郎が不良になっちゃった・・・。」

 とぼそりと呟いていた。僕は士郎の尊厳と名誉のために申し開きをしようと背後に近付くと、先生はブルブル震えていた。そ、そんな先生。泣くほど酷い事彼にしろ、僕にしろ何もしちゃいないですよ。それは僕達お互いが証明出来るんですから。僕は先生を宥めようと

「ふ、藤村先生僕達はただ―――

「士郎のあんぽんたーーーーーーん!!」

グシャア!

 僕が先生の肩に手を置こうとしたその瞬間だった。衛宮君に強烈な藤村先生のチョッピングライト(振り下ろし右ストレート)が炸裂していた。うわ、鼻陥没したんじゃ・・・。僕はその恐怖映像を生で思いっきり見てしまったせいで声を掛けるのが躊躇われた。しかし流石に士郎君に馬乗りになる藤村先生を見た時は、慌ててレフェリーストップとして僕は先生の両脇から手を回し止めに入っていた。

 桜も慌てて救急箱を持って来て士郎君の手当てをしながらキッと先生を睨みつけた。

「先生、幾らなんでも暴力を振るうなんてあんまりです。先輩に謝って下さい!」

 未だに不満があるように腕を左右にブンブン振って桜に無言の抗議をする藤村先生。しかし桜がムスッとした顔で

「先生のこれからのご飯作ってあげませんよ。」

 と言われると同時に士郎君に駆け寄って、彼をいい子いい子していた。なんて現金な人というか、いやはや餌付け済みでしたか・・・。桜は時として逞しいからお兄ちゃん参っちゃうよ、えへへ。

 遠坂さんは見かねたように溜め息を付いて、藤村先生の隣りに行って説得を試み始めた。

「先生、少しよろしいですか。時間も差し迫っている事ですし、手短に商談をまとめましょう。」

「・・・遠坂さん、先生悲しいわ。聡明なあなたならこんな馬鹿な真似しないと思っていたのに。これでもわたしは列記とした教師なんだから。風紀上の上でも断固として下宿なんて認めません!」

「教師としてお考えなら生徒の自主性を伸ばすと言う、我が校の方針に従うべきではありませんか?そもそも下宿している生徒は少なくありません。」

「学校や道徳を盾にしようったってそうはいかないんだから。ここは士郎と私と桜ちゃんくらいしか利用してないのよ?治外法権の下宿先で自主性なんて芽生えるはずありません!自動で出るご飯やお風呂、洗濯物。こんな楽園空間、3日と立たずに堕落しちゃうんだから。」

 ・・・ここに入り浸る藤村先生がそれを言うと、えらく問題な気がするのは僕の気のせいだろうね。教師として誇らしげに腰に手を当てる藤村先生に限って、ねぇ?という目で今しがた目覚めた士郎君を見ると、さめざめと泣いていた。うん、先生もうちょっと自粛した方がよろしい、かな?

 結局以下の理由で我々は下宿する事を許される事となった。

 まず遠坂さんは自宅の全面改装の間、ホテルに泊まるつもりがここに泊まって良いと士郎君に言われた事になる。そしてセイバーは帰国子女でホームステイで右も左も分からないためここに宿泊する設定になる。次に僕達間桐姉妹は祖父の陰湿な虐待と、日々物騒になる世の中なので士郎君の家にお世話になるという設定になる。ライダーは桜の家庭教師で間桐家に住んでいたが、もうついでだしここに住めよという事になる。まぁ一応こういう訳だ。

 残念ながらここですっと引き下がらないのが、生徒想いで情緒溢れる藤村先生の良さだ。宿泊に当たる敬意を聞いても、汗をタラタラ流しながらも困ったように

「話は分かるけど・・・そのう、皆さん美人揃いじゃない?士郎も間桐君も一応男だし・・・。何か間違いがあったら色々責任とか問題が発生しちゃうのよ。」

 そこでスッと何も話さなかったライダーが一歩歩み出た。僕達のお姉さんはここぞと言う時に決めてくれるんだ!

「ご心配にはおよびません、タイガ。シロウとシンジはホモですから。」

 やったーー!決まったよ、問題発言、凍りついちゃった。僕の頭にもビッシリ霜が生えてるし、士郎君も鼻から氷柱を垂らしているよ。ライダーは本当にお茶目っていうか、驚きのタイミングで場を荒らしてくれるんだから・・・アンポンタン!

 当然僕達男二人は仲良く氷結している場合じゃない。完全に黒目をどこへか捨て去った藤村先生を救出、もとい誤解を解かねばならない。僕らの必死の訴えが通じたのか、先生の黒目が戻って来た。そして一人うんうん、頷きながら

「・・・分かった、皆さんの下宿を認めましょう。」

 僕と士郎君は二人して抱き合い大喜びしていた。そして微笑ましい理解ある母親のような目で僕達を見る藤村先生。

「士郎、間桐君。・・・ほどほどにね?」

 通じてくれたのは部分的な物だった。藤村先生の中では晴れて僕と士郎君のカップルが爆誕してしまったようだ。教師としてそれこそ止めなくちゃ駄目でしょう、先生!僕らは溜め息をユニゾンしながら吐き

「慎二、悪いな。俺はもう色々疲れたからそういう事にしといていいか?」

「・・・うん。もう何でもいいよね。」

 二人して天を仰いだという。





―続く―





 久しぶりにコメディな会話を描けて大満足な気分です。いやー自分で書いて笑ってしまった。皆さんも楽しく読んで頂けたらと願いつつ後書きとします。それでは失礼します。

 本日もこのような駄文をここまで目を通して頂いて誠にありがとうございます!(謝)



[24256] 心配しないで桜ちゃん
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/16 15:35
 とても違う意味で非日常的な朝食がようやく終わりを迎えた。罰としてというか当然の事だけど、後片付けは全て藤村先生が泣きながら一人でやっていた。

「士郎ごめんなざーーーい!」

 泣きべそを掻きながら床に零れた味噌汁やら、お茶と言った諸々を雑巾がけする先生はやはり真面目な人だと思う。士郎君は殴られた鼻に絆創膏を貼り、ムスッとしていたけど大きく溜め息を吐いて先生の後始末を手伝っていた。

「藤ねぇの横暴はいつもの事だけど、今日のはちょっとばかりやり過ぎだぞ」

「うぅぅぅ、だってお姉ちゃんだって女の子なのにあんなに大勢のたおやめを目にするとは思って無かったんだもん。ウワーーーン!」

 幼児退行を遂げつつも後処理を進めて行く点に関しては大人だと思いますよ、先生。士郎君は手慣れた物で、食器を一つにまとめながら藤村先生の背中を擦って宥めていた。ううん、姉と弟というより寧ろ兄と妹・・・と思えてしまう。まぁ士郎君しっかりしてるもんねぇ。何だか他人事に思えないんだよ、僕は。

 それから思っていた以上に片づけが済んだ事が嬉しいらしく、藤村先生は楽しそうに士郎君の頭を抱えて撫で撫でしていた。士郎君は真っ赤になりながら

「や、止めろ藤ねぇ。皆が見てるだろっっ!」

 と非難の声を浴びせるも、逆に嗜虐心を擽るようで

「うふふふふ、これはお姉ちゃんの特権なのだー。ウリウリー♪」

 ことさら楽しそうに士郎君の頭をホールドしていた。う~ん、微笑ましいねぇ。僕は思わず桜の事を思い出してしまっていた。


―――桜も僕にあんな事されたいとかって


・・・有る訳ないよねぇ。僕みたいな八方美人が桜のような純粋な美人に何をやろうって言うんだ。ハハッ全く自分の愚かさにほとほと呆れるよ。そう僕が自嘲し、桜を何気なく見るとバッチリ目があってしまった。

 何と言うか、美人だなんて意識したせいで変に緊張するな。あまりそういう意味で見ないようにしていたというのに。桜は僕の顔をぼ~っと見てたけど、チラリと士郎君と藤村先生の方に視線を移し、また僕の表情を見つめ直した。普段良く桜と接する僕だから分かるけど、あれはねだってますね。私にもアレが欲しい的な。

 僕は素早く周囲を見渡した。僕の右隣りでいじられる士郎君&藤村先生。左隣りでミカンを剥くセイバー。そのセイバーの斜め前に座るのは読書に勤しむライダー。ライダーの斜め前、セイバーの対面に座りお茶を飲みながらテレビを見ているのが遠坂さん。そしてなおも僕を見つめる桜が遠坂さんの隣りに座っている訳だ。

 ピ・ピ・ピ・ピーン!ブッブー!←バツマークのパネルが跳ね上がる音

 無理です。その要求には答える事が出来ません。回答は即座に弾き出されたので、僕は立ちあがった。何か訴えかけるような目をしても無駄だよ、桜。公序良俗という言葉があってね。それに藤村先生から見ると僕と士郎君の仲良し子良しだってさ。そんな僕が妹の桜にまであんな事やこんな事をやろうものなら、今後ミスターアブノーマルと呼ばれるかも知れない。

 そして桜、もし士郎君が取られたように感じて助けを乞うたとしても同じ事。兄弟や姉妹愛の素晴らしさは僕達も良く理解しているはずだよ。だからここは彼らを好きなようにさせてあげなさい。そういう思いを込めて桜に渇いた笑みを返した。桜は僕の理解が得られなかったとしょんぼりしていた。僕達は兄妹の関係で、僕は桜の恋を応援する団員の一人なんだ。桜も俯いてないで勇往邁進するんだよ。僕も頑張るからね。

 僕はそんな事を思いながら皆に「それじゃお先に失礼します」と声を掛けてから、自室となった客間へ向かって行った。学校にも行かないといけないし。今日は、というか今日こそは弓道部に顔を出さないと美綴さんにどんな仕打ちを受けるか分からないぞ。何たって僕は副部長だというのに。

 そう考えると藤村先生にまた怒られる事になるのか・・・。いや実際にはさっき怒られたの僕じゃないけど、あんな剣幕見た後だと怖いよ。あ、もしかして桜先に藤村先生と部活に出かけちゃったかなぁ。しまったな、そう言えばちゃっかり準備出来てたよあの二人。僕はいつもどうしてこうすっとろいんだろうね。さて、とっとと準備を済ませて行くとしよう。

 だけどとっとと済ませたのが不味かった。曜日感覚が完全に麻痺していて違う曜日の時間割を用意していることに、出る直前気付いたのだから。

 ・・・全くあなたと言う人は。

 ご、ごめんよライダー!僕っていつもどうしてこうなんだっっっ

慌てふためき転げまわるように授業の用意をし、気持ちマッハで廊下を駆け抜けて行く僕。もうこの調子じゃ弓道部遅刻しちゃうよ。だから僕は門を超えた時に、凄く驚いたんだ。だって桜が僕を泣きそうな顔で待ってるんだもの。

・・・

 桜は衛宮邸の門前で兄が出て来るのを待っていた。彼女には一抹の不安が内心にあった。

 最近兄さんが忙しいようであまり構ってくれなくなった。それに比例するように増える知り合い。いえ、違う。兄さんはいつも通り、でも周りが変わって行くから怖いんだ。衛宮先輩と兄さんはどちらも優しい。衛宮先輩はぶっきら棒だけど、何気ない心遣いや家事全般を私に教えてくれた。兄さんは私に愛情と言う物を教えてくれた。どちらが大事とかじゃない。どっちも私には必要不可欠なんだ。

 最近ライダーも兄さんと親密だし、セイバーさんとも和解したとの事だし。遠坂先輩、姉さんだって兄さんにちょっかいを掛け始めてる。私には無い魅力的な女性からのアプローチに兄さんはいつまで耐え続ける事が出来るのか。そもそもよく考えて見れば弓道部に美綴先輩という猛者もいるではないか。

 ふと自分がどうして自身が彼女達を兄の恋敵みたいに考えているのか不思議になった。また意識した途端に猛烈に恥ずかしく思い始めた。

「これじゃ・・・まるでわたしブラコンじゃない」

 言葉に出すと余計に恥ずかしくなり桜は赤面したまま俯いた。そもそも藤村先生と一緒に行くのを断わって兄を待つ辺り既に重傷な気がしてくる。桜自身自分の感情を持て余していた。兄に対する想いと、士郎に対する想いが余りにも酷似しすぎているせいかもしれなかった。

 彼女としてはどちらも自身の傍に居て欲しい、ただそれだけだった。一度得た温もりを失い、また心を閉ざす生活を想像したら怖くなる。でも自分に彼女達のような積極性は無いし、逆に周りの女性は活発的過ぎる。多感な年ごろである桜としては今の危うい関係が怖かった。

 特に桜にとって慎二の存在は余りに大きすぎた。彼は無上の愛を義妹へ一心に注いだために、彼の温もりの無い生活が考えられないくらいまでに桜を虜にしていた。だからこそ桜は片思いの衛宮士郎よりも、兄の気持ちを一刻も早く知りたかった。そして温もりを味わいたかったのだ。だからこそ朝食後の一時に慎二に流し眼を送ったのかもしれない。しかしその結果として困ったように愛想笑いで済まされ逃げるように去った兄の姿。

「もしかして・・・私って迷惑掛けてるの・・・兄さん」

 彼女は泣きそうな声で一人ごち、孤影悄然と兄を待つのだった。

・・・

 僕は当然急ブレーキを掛けながら桜の姿を捉えた。・・・って、ええ?!さ、桜泣いてるじゃないか。僕は当然桜を強く抱きしめながら背中を撫で

「ど、どうしたの桜。もしかして居間での事で怒ってるの?それだったらごめん!だってあんなに大勢の前で恥ずかしいじゃない」

「ち・・・違うんです、グス、私が、全部悪いんです」

 もう全く要領が得ないし、何だか物憂げな桜を連れて部に行く気もしないので今日は朝連休ませて貰おう。って良く考えたら自由参加なんだけどね。まずはもうちょっと桜とこうやってしていよう、何も言わずに身を寄せていると言う事は、僕の判断が間違って無いって事なんだから。

 そうやって数分ほど経ってようやく桜の嗚咽は聞こえなくなった。僕は桜に

「それじゃ、行こうか。桜もう大丈夫かい?」

 と安否を尋ねると桜はコクリと前髪で表情を隠したまま頷いた。僕が身を離すとビクリと震え桜は怯えたように縮こまった。僕は安心を与えるために右手を差し出すと、すぐさま縋るように手を取って来た。どうも今の桜は情緒不安定みたいだ。

 僕達は言葉も無くただ歩いた。ライダーに聞こうかと思ったけどそれは隣りに歩く桜に失礼な気がしたので、結局何も言わなかった。桜は気落ちしたようにトボトボ隣りを歩きボソリと一言呟いた。

「・・・兄さん、ごめんなさい」

 僕には何故、何を彼女が僕に謝っているのかが理解出来なかった。だけど僕は桜が謝るんだから許す義務があるんだ。

「うん、いいよ。桜が謝るなら僕は許すよ。きっと桜の謝罪には多くの意味が含まれているんだろうね」

 そう僕が言うと桜はかぶりを緩慢に振り

「違うの、何だか兄さんが遠い所に行くような気がして・・・」

 僕は何となく桜が何を考えているのか分かりかけて来た。僕は何だかんだ言って桜に甘かったから、桜は兄離れ出来なかったのかもね。聖杯戦争で色んな人と打ち解けて行く僕が嫌なのかもしれない。

「桜、僕が遠い所に行くのが嫌なんだね?」

「・・・はい」

「でも僕達は生きるか死ぬかの生活を送っているんだ。この世とは最も遠い所に行く事になるかもしれない。」

 僕の言葉を聞いても彼女はそんなに心を揺さぶられていなかった。というか元からそんな事は承知の上とばかりに、普通に頷くだけなんだ。あれ、死ぬとかそういう事で悲しんでたと踏んだんだけどな。僕は桜の反応があまりに淡泊なので混乱してきたぞ。まぁいいや、実際に本人の口から聞くしかないか。

「桜、僕の考えた遠い所はあの世だけど、どうも桜には違う場所が思い当たるようだね?」

「・・・(コクリ)」

「ちょっと今の僕には思い当たる点が無くてね。差し支え無ければ教えて貰っていい?」

「・・・・・・」

 桜は言うべきか悩んでいるみたいだった。というよりも何やらもじもじしていた。この感じは照れが窺い知れるんだけど、その類の回答なんだろう。僕は辛抱強く待っていると

「・・・兄さんは」

 お、何か話し始めた。これを逃せば次は無いという気概で聞くんだぞ、僕!

「うん」

「女の人に告白されたらどうするの?」

「ぶっっ!!」

 ま、まさかの色恋話に飛ぶとは。いや、まぁ照れの具合からして赤裸々系とは構えていたけど。しかしウブな僕にはちょいとばかり厳しい話題だなぁ。僕は空を見上げながらう~んと唸り

「・・・僕みたいな小心者に告白するような人いないよ」

 あまりに想像付かないものだからそんな事を言っていた。だって本当にそう思うし。

「兄さんの悪口を言うのは止めて下さい!」

「は、はい!」

 兄さん本人が自虐するのも桜には悪らしい。でも僕は今ハッキリと分かったんだ。桜が何を気にしてるかって。

「桜、大丈夫だよ。僕は好きな人が出来ても、彼女が出来ても、君が立派に誰かを愛するまでは面倒見るつもりだから。というか士郎君好きなんじゃないの?」

「~~~そ、それは・・・。そうです、けど。でも兄さんも同じくらい大事なんですっ!」

「僕はそれを聞いて安心したよ、僕だって家族より大切な物は無いと思っているからね。だから桜、何度も言うけど何も心配しなくて良いよ。だって僕達はどんなに距離が離れても間桐という絆で繋がっているじゃないか。」

「・・・そうですね」

 桜はようやく目を細めて笑ってくれたんだ。必要としてくれる、必要とする。僕達はいつだってお互いを求めあっているんだ。だって僕らは愛情を受け無さ過ぎたんだから。まだまだ足りないんだ、だから彼女が不安に思うのは何ら不思議な事じゃない。そうやって僕らは結局二人揃って大幅に遅れて部活に顔を出し、美綴さんのゲンコツを頂戴した。

「来るなら来る、来ないなら来ない!あんたらたるみ過ぎだよ、全く!」

 それでも大遅刻の部員を練習に参加させてくれるだけ温情処置だと思う。今日も一日張り切ってやるしかないよね。桜の垢抜けた表情を見て、自身の気合を入れ直す僕だった。





―続く―





 はい、それではちょっと希望があった桜の内面を執筆してみました。まぁ恐らくこんな事思ってるだろう程度ですが・・・。違和感を感じたらまた仰って下さい。訂正して表現変えて、思考錯誤を重ねますので。何か上手くまとまったかが不安なので、ちょくちょく訂正を加えるかもしれません。ともあれこの辺で失礼します。

 本日もこのような駄文をここまで読んで頂き誠にありがとうございました!(謝)



[24256] まさかの美綴ルート?
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/17 00:24
 僕達間桐兄妹は一発ずつ有難い一撃を貰ったというのに、僕は個人的にさらに呼ばれる事になった。腕組みをする美綴さんの目は直視出来ない程の迫力を持っている。

「・・・慎二、あたしの言いたい事が分かるね?」

「す、すいませんでしたっ!」

「へぇ、殊勝な態度でこの場を乗り切ろうってか。はーん、あたしも随分とまぁ舐められたもんだ」

「ち、違うんだよ。美綴さん、こ、これは全部僕の怠惰さが原因なんだ。ただそれだけの話なんだよ。何も話す事なんてこれっぽっちも無いんだってば!」

「語るに落ちてるよ、慎二。何だい、その話す事ってのは。本当にあんたら自身の怠慢が招いた失点なら、あたしもそこまで気に掛けないよ。でもね、今の今まで欠席どころか遅刻すらしなかったあんたを、心配するのがそんなにおかしいことかい?」

「だから、その節は申し訳・・・って、え、心配だって?」

「そうさ、だからあたしに相談できる事があるならこの場で聞いてやるから。自慢じゃないけど相談件数だけなら熟練者並みになってるんだ、あたしは」

 ハハハと豪快に笑う美綴さんは本当に姉御肌な人だとしみじみ思う。しかし流石に戦争について教えれば、危ない目に合わせてしまう・・・。う~ん、じゃあ今日の朝の事を相談してみようかな。確かにちょっと困ってた所ではあるし。

「うん、それじゃあお言葉に甘えて話すけど」

「よーし、どんと来なっ!」

・・・

「・・・という訳なんだ」

「はぁ~、あんたら妙に兄妹仲が良いとは思ってたけどまさかそこまでか。それで慎二としては桜と衛宮がくっ付いて貰いたいんだったっけ?」

「まぁ・・・桜としてもそれが望みではあると思うんだよ。でも何か今日の朝話した感じだとどうもまだしこりが残ってる感じなんだよねぇ。一応説得出来たには出来たんだけどさ」

「その『しこり』ってのは具体的に何か分かる?」

「そうだねぇ、僕と桜の愛情に隔たりがあるというのかな。僕は単純に家族愛なんだけど、何か桜のはもっと深そうなんだよねぇ。」

「・・・はぁ、そこまで分かってんなら気付いてやんなよ。桜はあんたの事が好きなんだって」

「うん、知ってるよ。それはまぁ僕達は二人で力合わせて――」

「じゃなくて!あたしが言ってんのは男として、異性として意識してるって言ってるんだよ」

「あぁそういう・・・え?」

「そうやって目を瞑って見ない振りばかりしてるのが、桜に余計な不安を与えてると思うんだけどねぇあたしは」

「いやいや、見ない振りも何も考えた事も無かったよ。大体兄弟で恋愛なんてするのはおかしいよ。視野狭窄も良い所じゃないか。・・・まぁそんな事言ったら士郎君に絞らせる事も問題かもしれないけどさ」

「まぁ世間じゃそうだろうさ。桜には違った、ただそれだけだね。そんな一般論はどうだっていいんだよ。重要なのはこれからあんたがどう桜に接するか、だろ。違うかい?」

「・・・仰る通りです」

「まぁそういうこと。ちなみにあんた好きな子いんの?」

「いや・・・いないけど。それに居たとしても釣り合わないよ、きっと」

「ったく、辛気臭い事言ってんじゃないよ。見た所顔も悪くないし、性格だってひん曲がって無い。配慮だってピカイチなのに、どうしてそう自己否定型なのかねぇ」

「色々な要因があると思うよ、うん。そんな事も別にいいじゃない。僕の好きな子と桜に何の関係があるのか聞きたいんだけど」

「あーそうだった、そうだった。じゃあさ慎二あたしの彼氏になってよ。悪い話じゃないと思うんだけどさ」

「別にいいけど・・・って、え?」

「うんうん、それでこそ慎二ってもんだ。これであたしは遠坂に勝てるし、あんたの妹も兄貴離れ出来るってもんだ。」

「何言ってんのか良く理解出来ないんだけど、え~っと、美綴さん?」

「全く、恋人だって言ってんだろ?綾子でいいよ、綾子で」

「でぇ?!ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ。展開があまりにも早すぎて脳が付いていけてないんだってば」

「今さら何言ってんのかねぇ、男に二言なんて無いんだよ。あたしが告白してあんたが承諾、はいこれでお終いじゃないか」

「こ、ここここ告白?!そもそもしたのいつなの?」

「だーもう、恥ずかしい事聞いてくんじゃないよ。何度も言える程あたしの肝も丈夫に出来てないんだ」

 ・・・何かとりあえず今カップルが誕生しました。僕とあ、あ、綾子さんだそうです。僕はとりあえず大事な事を確認しておきたいので

「えーっと、あ、綾子さん?」

「ふ~ん、綾子「さん」ねぇ?ほぉ~へぇ~はぁ~誰だろうねそいつは」

「あ・・あ・・・綾・・・子」

「プッ死にそうな声出してんじゃないよ、全くおかしな奴だね」

 楽しそうに僕の肩を叩くのはいいんだけど、ちょっと確認させてってば。僕は未だ馴れない呼び捨てに真っ赤になりながら

「綾子とりあえずその・・・弓道部で一緒ってだけの僕をどうして・・・?」

「んー別に深い理由なんてないよ。ただまぁしいて理由をあげるとするなら楽なんだよ。それに慎二、あんた普段頼り無いけどいざとなったら頼りに出来そうじゃないか。じゃなけりゃ大会で準決勝まで行けないと思うんだ。ま、これはあたしの勝手の推測だけどね。だからお試しって感じで付き合って、駄目なら駄目でいいじゃないか、な?」

「・・・うん。というか呼び捨てにして本当にいいの?」

「まだそんな事言ってんのかい慎二。いいかい、何でも形から入ってみるもんなんだよ。真似てみてやってみて初めて分かる事ってのも良くある事なんだ。あんたがどーーーーしても呼びたくないってんなら無理強いはしないけどさ」

「そ、そそそそそんな事は無いけど、だってご両親に申し訳無くて・・・その」

「うじうじ禁止!」

「は、はい!」

「今日からあたしの前に居る時だけでも『あの』『その』とか言って言葉を濁すんじゃないよ。濁したら・・・」

「わ、分かった。分かったから指ボキボキ鳴らすの止めて!折角の美人が台無しじゃないかっ」

「・・・お、あ、あんた案外そういう事言えるんじゃないか。へぇ~こいつは本当に掘り出し物かもしれないよ、ふふ」

 何やらご満悦の綾子を余所に何故か僕は一日で彼女が出来た。もしかしたら聖杯戦争で死ぬ前に美綴ファンに殺される気がしてならないけど。綾子はこれで用は済んだとばかりに鞄を持って

「さて、行くよ慎二。あんた今日から一応彼氏って事なんだからね。広まってもピーピー言うんじゃないよ。寧ろ桜に知らせなくちゃならないんだからさ」

「・・・ゴクリ、い、一応覚悟はしとく」

「ようし、その粋だ。さてもう良い時間だ、そんじゃ行くとするか」

 僕は綾子にガッシリ手を掴まれて引っ張られるように校舎に吸い込まれて行った。





―続く―





 はい、何か愛されてる美綴さんの話と仮恋人って感じにするつもりが本格的になってしまったアレです。どう影響をもたらすか分かりませんが、勢いで作ってしまってすいません。僕の美綴綾子のイメージは大体こんなんですが、お気に召すかどうかも分かりません。それではこの辺で失礼します。

 本日もこのような駄文をここまで目を通して頂き誠にありがとうございました(謝)



[24256] 初日に広まる僕らの付き合い
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/16 23:41
 僕は前例に漏れずいつも通り悩み抜いていた。いや、だって余りにも唐突過ぎる展開だし。何よりそう簡単に告白を受けて良い物なのだろうか。とは言え綾子のノリは途方も無く軽かった。友達だけど恋人でもある、という呼び名以外何も変わらないのではないか。僕がそうやって綾子と教室で別れ、一人で黙々と考えていると

「酢昆布ううううううううう!」

 何やらえらい剣幕で川尻君が接近して来た。テンションが高いのはいつもの事だけど、今日は何やら僕に敵愾心を剥き出しにしている。え、え、え・・・?

「ど、どうしたの川尻君?」

 僕は思いっきり何故か抱き寄せられ、そのまま川尻君にメリーゴーランドのようにグルグル回された。感情表現が特殊過ぎて、相変わらず何を考えているか分からない。

「とうとう、とうとう俺に妹さんを譲ってくれる時が来たってかぁ!?」

 なおも回転しながら何やら酷い勘違いをしているようだった。そして闘争の意味合いではなく、共闘の意味で僕を引き入れんとしているようだ。いや・・・桜に川尻君は流石にいくらんなんでも・・・。彼女は慎ましい可憐な女性なのに、蛮勇と呼ぶに相応しい川尻君は、いたずらに桜の心を引っ掻き回しそうなんだよ。

 いや・・・待てよ。しかし逆に桜を元気にさせる上だと川尻君って最適なんじゃ。彼の美点であるエネルギッシュさは、人の悩みを吹き飛ばしてくれるかもしれない。僕がそう考えていると、突然川尻君は冷静になり僕を椅子に優しく座らせてくれた。

「・・・悪い、俺もちょっと興奮して変な事口走ったわ。昆布の妹ちゃんが衛宮好きなの俺知ってっから。真面目に考えてくれなくてもいいよ、ありがとな」

 彼は案外気配りが出来るというか、友達想いなのです。そのため人望も厚いし皆に好かれてる。そんな彼がどうして僕に構ってくれるか不思議だけど。聞けば何でも安らぐんだそうで。僕ってヒーリング効果持ってんのかな。メンタル的なあれで。ともあれ桜の事をそこまで知ってくれてるなんて、僕も嬉しいよ。

「いや、いいんだよ川尻君。それにしてもどうして突然興奮しちゃったの?」

「ああ、そうだった。おめでとう慎二君!君ならいつかやってくれると信じてたよ」

「・・・?僕そんな大それたことした覚えが・・・」

 強いて言うなら最近殺し合いが始まったくらいしか記憶に残っていない。川尻君はまたまた~と言いながら肩をグイグイ押しつけて来る。

「俺はもうしっかり情報収集済みだぜっっ!」

 そう言いながらウインク付きで親指を突き出して来る川尻君。そして僕の耳に顔を寄せて来て彼は言った。

「美綴を物にしたんだろ?」

「・・・」

 早い、幾らなんでも早いよ。まだ一時間も経過していないのにどこから仕入れたの、その情報は。しかも正確だというんだから尚の事恐ろしい。僕の顔が赤みを帯びて動きが止まるのを受けて、川尻君は確信を持ったようだ。はっ、鎌を掛けられたのか僕は!?とは言え嘘を付いても綾子に怒られるだけなんだよね。

「そうかぁ、やっぱり本当だったんだな。でも良かったじゃないか、お前らお似合いだって。俺は美綴に一サジも興味無いから嬉しいんだよ。酢昆布の匂いに釣られてあらゆる女が虜にされると思ったら俺は・・・!」

 握り拳をギリギリ握りしめながらたぎる想いを語る川尻君。え、僕あだ名だけじゃなくて匂いまで酢昆布だったの?そして僕が奴隷になるとしても、彼女達を虜には・・・。僕はとりあえず情報源を彼から聞く事にした。

「それは良いけど川尻君。それ誰から聞いたの?僕とあや、美綴さんがお付き合いの関係だと言う事」

 危うく綾子と言いかけてどうにか僕は踏みとどまった。早く慣れさせようとしているせいで、日常でも呼び捨てにしてしまいそうだ。呼んでもいいのかもしれないけど、やっぱり学校内では公にしたくないというか。とにかく僕は恥ずかしいんです、はい。

「ふ、ふふ、ふひひひひ、ひゃっほう!隠せてないよ、隠せてないぜ純情ボーイ!」

 突然跳ねあがり、猛りの声を挙げて右手を天に突き出す川尻君。僕は彼の揺れ動く感情の波に付いて行けず、ポカンとするばかりだ。とりあえず円滑な会話のための潤滑油として

「な・・・何が?」

 と一言添えるのが精一杯だった。彼は僕の両肩をガッシリ掴みまたしても愛を囁くかのように、耳元に近づき

「あ・や・こ♪」

「~~~」

 川尻君、君もいつになく人が悪いよ。からかうのは毎度の事だけど、この手のいじり耐性は僕備わってないんだ。そもそも女性の方と付き合うなんて初めての経験なのだし。茹で上がった顔で目を見開く僕をひとしきり笑い飛ばした後、彼は無邪気に白い歯を見せた。

「わ~るい、悪い!この分だと俺も人で無し類に属してんね。話を戻すと、だ。俺は薪寺から聞いたぜ。薪寺・・・あ~楓だったかな?お前でも流石に知ってんだろ」

「あ~・・・」

 確かに知っている。良くも悪くもよく周囲の話題にあがる人だから。僕とは面識無いはずだけどね。体育の時にずば抜けて早い子が居た時も大概彼女だ。噂好きらしい彼女は色んな人の話を聞いては場を盛り立てているらしい。女生徒の人も良く「これ楓から聞いたんだけどさー」という枕詞を付ける物だから印象に残るんだ。彼女は基本は自由人だけど仲間内三人でいつも一緒に行動しているそうだ。うんうん、仲間想いの素晴らしい人じゃないか。

 ともあれその薪寺さんが噂話をすると、瞬く間に全校生徒に伝播するのは周知の事実となっている。悪いイメージを避けるために言うけれど、彼女は悪評を流すという事は僕の耳に入った試しはない。ただお祭り騒ぎが好きなだけだと思うんだよ。

 僕は川尻君にありがとうと感謝の言葉を述べると川尻君は僕のノートの一番最後のページに

突き合えよ!

 とでかでかと書き「突」に何重も丸をしてことさら強調した。その後太陽の笑みを浮かべて去って行った。・・・学生身分で僕に何を求めてるんだ。奥手の僕がそんなハードで難易度の高いパートに挑戦出来るはずないじゃないか。本当に彼は豪放磊落な人だよ・・・。僕は消そうかと一瞬悩んだけど、そのまま残す事にした。少しでも友人との思い出を残したかったんだ。明日にでも死ぬかもしれないのだから。

そう思った傍から川尻君が駆け寄って来た。気まぐれにも程が・・・

「お、おい。酢昆布何やら絶世の美女で有名な遠坂嬢からお声が掛かってるぞ。粗相の無いようにな!お、俺も流石に緊張したぜ。何度おかずにしたか分からん奴から声を掛けられる事になるとは思わなんだ」

 最後の方は何を言っているのか解読不能だったけど、とりあえず遠坂さんがお呼びのようだ。チラリと廊下に目をやると日頃とは違い皆に笑顔を振りまいている遠坂さん。こう見ると本当に家柄の良いお嬢様だよ。僕と目が合うとギラリとその目が光って人差し指をクイクイ曲げてお呼びだけど。ハ、ハハ・・・今日は女難なんだろうか。

 僕は腰を低くして、そそくさと遠坂さんの下に駆け寄ると

「ごきげんよう、間桐君。教科書ありがとう、返しに来たわ」

 何の冗談か、笑顔で1年生の教科書を差し出す彼女。僕、凄い馬鹿にされているんだろうか。僕が顔を引きつらせながら「い、いえいえ」と言いながら受け取ろうとすると、遠坂さんは教科書を下に落とした。・・・これはもしかして奇特なプレイと見て良いのだろうか。

 僕が取ろうとすると「あっ、ごめんなさい!」とあたかもドジっ子振舞いで一緒にかがんで来る。何の仕掛けか分からないけど、教科書から数本転がって出て来る鉛筆やシャーペン。

「・・・慎二、昼に放課後。言いたい事は山ほどあるけどね。それから来るのが遅い」

 いつもの強気で勝気な態度で鉛筆を優雅に拾いながら囁いた。なるほど・・・これを言うためにわざわざ。何とも優等生ぶるのも苦労するのだと僕は変に感心してしまった。・・・って

「え・・・午後サボって何かするの?」

「・・・昼に屋上」
 
 単なる言い間違いのようだ。頬を赤らめてムスッと言い直していた。照れからそっぽを向く遠坂さんは、そそくさとポケットに鉛筆類を突っ込みながら悠々と去って行った。何だろう、もう嫌な予感しかしないんですけど。





―続く―





 はい、どうも。いつも読んでご愛読感謝するばかり。薪寺、氷室、三枝出そうとも思ったんですが、いかんせん記憶が曖昧なので後回し。とりあえず桜よりも先に遠坂先輩を先に動かしておきました。

 ちなみに今ようやく本編の慎二が登場いたしました。桜に暴力を振るうなんて酷い話です、はい。まぁそんな奴は放っておいて、これからも弱気だけど心優しい慎二で進行して行きたいと思います。

 それから感想にも頂いたんですが、これは本編を根底から変えようとしているSSではありません。Fate stay nightの世界観を残しつつ、慎二だけを平凡にしたいだけなのです。ですのでまぁ並行世界と言う奴でしょうか。

 とりあえず慎二は士郎の行動に出来るだけセットになるように話を進めるつもりです。まぁ無理やりくっ付けるのもアレなので逐一理由を考えますけどね。したがって進行は大前提としてオリジナル通りに話を進めて行くつもりです。それでは今回はこの辺で失礼します。

 本日もこのような駄文をここまで読んで頂き誠にありがとうございました!(謝)



[24256] やっぱり僕はマイペース
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/17 12:20
 やはり学園で名の知れた有名人と付き合うと、学園で時の人として扱われてしまう。僕は覚悟していたつもりなのに、結局教科書で顔を隠して座る小心者だった。話しかけられる事が無い日常から一変し、あれやこれやと根掘り葉掘り聞かれる休み時間。もう僕は一人あうあう言いながら、覚えたてのような拙い言葉で説明するのだった。

 真っ赤になった僕は女子に可愛いと言われたり、男子からは俺にもモテ技能を伝授してくれよ、とせがまれたり。こんなに皆から囲まれたのは一重に綾子のおかげなんだ。ありがとう、僕綾子のおかげでたくさんの人と接する事が出来るよ。

 人間関係に置いても奥手な僕は、他者に自発的に話しかけたりしない。だから日常に置ける必要最小限のドライな関係ばかりだった。でも話しかけられるようになると、案外相手に気に入られたりする。僕は今日で今まで居た人数の倍以上知り合いが増えたんだ。綾子って本当に凄い人なんだよ。

 僕は嬉しい反面複雑な心境だった。僕はこの通り何の取り柄も無いし、赤面症だし、口下手だし。生徒の中には「どうしてコイツなんだよ」という事を鼻息荒く言う人だっている。僕は自分の事を見下されているにも関わらず、その人の言葉を納得していた。

――本当、僕の何が良いんだろう・・・

 僕はプルプル頭を振り、邪念を振り払った。駄目だよ、そんな事考えちゃ。だって綾子は何故か知らないけど、僕の事を気に入ってくれたんだ。だったら僕が自分を否定したら綾子を否定する事になる。それじゃ綾子が可哀そうじゃないか。あんな素敵な女性に悲しい思いをさせるなんてあってはならない事なんだよ、うん。

 友達が新たに出来たり、ライバルというか嫌がらせ集団が出来たり、良くも悪くも騒がしい午前中だった。休み時間にトイレに立って戻った時に帰って机を見ると、張り紙が置かれ「美綴さんを返せ」とか「死ね」とか書かれていた。やる事が幼稚というか、何だか微笑ましい物じゃないか。綾子本当に皆から好かれてるね、というか執着されてると言った方が良いのか。

 僕はとりあえず最後に「ません」を書いて机の中に仕舞っておいた。そして次の休み時間にまたその紙を引っ張り出し「死ね『ません、そう焦らなくてもその内死にますよ』」「美綴さんを返せ『ません、そして彼女は物じゃないです』」と書き加えた紙を置いて、また席を立ってトイレに行った。帰って来ると何故かその紙は消えていた。そしてガムが一個ポツンと代わりに置かれていた。やっぱり人と言うのは過ちを認められる人が大多数なんだよ、うん。

 僕も聖杯戦争という戦地に立たされて多少度胸が付いたのかもしれない。人の好奇の目や悪意には苦手に違いないけど。そして人に迷惑を掛けるのも依然として何が何でも避けたい事だけど。得手勝手や厚顔無恥な人にだけはなりたくないものですね。

僕は昼休みを告げるチャイムが鳴った後に士郎君の席に向かった。

「士郎君、お昼どうするの?」

「あ~そうだな。俺遠坂に呼ばれてるしな、食堂のパンでも買って屋上に行くとするよ」

「あ、僕も呼ばれてるんだ。じゃあ一緒に行こうかな」

 そう会話をしながら僕達は席を後にし、売店へ向かって歩き出した。

「それにしても、慎二。今日はヤケに絡まれてたな。何かあったのか?」

「うん、どうも僕、美綴さんと恋人になったようなんだ」

「へぇ~・・・ってマジか?」

「・・・うん、それ何度も他の人に聞かれてるよ」

「いや、悪い。別に他意はないけど。にしてもその様子じゃ美綴から言った感じか?」

「そうなんだよ、手近な所に居た僕で手を打ったようにも見えないしねぇ。何分僕自信無いから、皆の反響を見ると不安になっちゃうよ」

「それは分かるけど、でも慎二は別に駄目とかそういう奴じゃないぞ。ただ自分を過小評価し過ぎなんだよな」

「ありがとう、士郎君。士郎君に言われると何か他人事に聞こえないから嬉しいよ。」

「・・・俺に何か思い当たる節有るって事か?」

 士郎君と僕ってどこか似たような所あるからねぇ。自分より他人を優先する所というか。まぁ過小評価してるのは僕だけかもしれないから何とも言えないや。

「さぁ、それは士郎君本人が気付かないと意味無いよ。それにしても相変わらず凄い人だよ、おばちゃん汗掻いてるじゃん」

「ああ、毎度の事ながらここも戦場だ。気付けば食パンとか人気の無い商品が取り残されるからな」

「・・・いつも食パン食べてる僕に謝って下さい」

「!わ、悪い、でも慎二お前、もっと頑張って上目指せよ」

「僕に取って食パンにマーマレード塗ったらそれが頂点だからいいのだ」

「前向きっていうか大らかだなぁ。やっぱ俺お前みたいな奴、好きだけどな」

「あのう、そういう事言う時は『嫌いじゃない』にしといた方が無難だよ」

「?・・・俺何か変な事言ったか」

「・・・どうだろう、深読みすると変な事なんだけどね。う~ん、分からないなら別にいいや」

「って、もうほとんど取られてるぞ慎二!急げ、下手すりゃ全滅しかねん」

「いやいや、士郎君何を言うんだよ。食パンなら大量にあるじゃないか、アッハッハ」

「~~~!」

 士郎君は人の群れに飛び込み、僕は遠くからそれを眺める事になるのでした。

・・・

 僕達は各自昼食となる品を持ち、遠坂さんへのホットの飲み物を選んでいた。というのも

 「寒い中僕達を待ってたら、鳥肌以上に絶対髪の毛逆立ってる」

 という互いの合意の基だった。僕達は修学旅行で家族へのお土産をあげるように、喋りながら選んでいた。この事が余計に遠坂さんを待ちぼうけにする事は言うまでも無いけど。

「僕、やっぱりこれが良いと思うんだ。」

 僕が選んだのは午後の紅茶のストレートだった。赤い色が遠坂さんに似合うし、一番飲んでいる所が想像出来た。

「いや、昼時ならこれだろ」

「伊衛門とは渋いの選ぶねぇ、士郎君」

「いや、まぁ一番無難だろ?」

「僕今それ遠坂さんが飲むの想像したら、白髪になってしわがれてたんだけど」

「ブハッ、ハハハ、それ面白いな。ってそんな理由で選んだら殺されるぞ、俺達。」

「ええ!?何で僕まで殺されんの、選んだの士郎君じゃないか。」

「そう言うなよ慎二。今の俺達の命運は互いが握ってるも同然だろ。それに合意の元の伊衛門なら、お前にも幾分かの責任はある」

「なるほど・・・今のが屁理屈なのは分かったよ」

「ああ、やばい、時間がないぞ慎二!もう間を取ってこれで行けばいいだろ」

 士郎君が素早く手にして買いに行ったのはホットのウーロン茶だった。・・・士郎君、8割くらい君の意思が尊重されてるのは、僕の気のせいでいいんだよね。そもそもウーロン茶と伊衛門って兄弟なんじゃ・・・。少しだけ恨めしく思いつつも士郎君の後を追うのだった。



・・・



「遅い!」

 第一声はやはり罵倒の声でしたか。ええ、我々はそんな事既に分かっていましたとも。遅いと言われても全く動じない士郎君はやはり芯の強い人だと思う。僕は思いっきりのけ反って、屋上のドアに頭をぶつけているというのに。

「悪いとは思ってるから、そう怒鳴るなよ。その様子じゃコレいらないか」

 ウーロン茶をひらひら振りながら気を引く衛宮君。う、上手い、これなら遅れた事よりも寒さによって冷えた身体を温めたいという気持ちで感謝に向くはず。流石士郎君、伊達に女性に囲まれた生活をしていないよ。とっても心理を掴めているじゃないか。

「・・・気が利くのは良いけど・・・何でお茶なのよ」

「いや、工事現場に居る人とか良くこれ飲んでるし、定番かなと」

 僕は驚愕のあまり、またもや震えあがった。工事現場のおっちゃんを何故出したし。それはセットの弁当を嚥下するために置かれた、弁当の相方みたいなものだよ。それ以前に遠坂さんに差し上げる飲み物を、ドカチン連中と同じ視点で考える辺りハイレベル過ぎる。

「あ・ん・た・ら・は0点!」

 口から煙を吐きながら高速で差され、何やら無能扱いを受けた僕達。それを聞いた士郎君は神妙な面もちになり

「・・・いや、俺は0点でいいけど。慎二は午後の紅茶が良いって言ってたから、20点くらいやれよ」

 優しさには素直に感謝するけど、それでも赤点間違いなさそうな点数なんだね。すると遠坂さんは存外正解に近い選択を僕がしたようで驚いていた。

「次からは慎二が選んで。それから紅茶はインスタントだったらミルクだから、覚えて置いてちょうだい。それ以外だとありがたみはランクダウンするから注意すべし。と言っても今回は最底辺だけどね」

 そう言いながら士郎君からお茶をぶん取りながら物影に移動していく遠坂さん。底辺に相応しい感謝の欠片も無い強奪っぷりだ。衛宮君が不満そうにしてるのを見て「ま、まぁ感謝くらいはしてるわよ」という辺り、根は良い女性だよね。

 何やら人に聞かれては不味い事みたいなので僕達も彼女に倣って身を隠す事にした。士郎君も寒いのが嫌なのか、単刀直入に遠坂さんに質問した。

「それで遠坂わざわざこんな寒空の下に呼び出したって事は何か話あるようだけど。一体何の話だ」

「・・・士郎と慎二に一つ、慎二に一つあるわ」

 僕はお腹がクゥクゥ鳴っているので食パンにマーマレードを塗りながら話を聞いていた。

「じゃあ俺と慎二の話を聞いたら、俺戻ってもいいか?」

「ええ、いいわよ。寧ろそっちの方が有難いし」

「?・・・まぁいいけど、話ってなんだよ」

・・・

 僕はパンをハムハム食べながら聞いていると何やらこの校舎に結界が張ってあるようだ。その目的とする所は分からないけど、とりあえず見張られてるのかもしれないんだとか。だから注意しろ、と再三に渡り口酸っぱく言い聞かされた。危険な物かもしれないと言われても、僕なんて結界の存在すら分からないのに。もっと初心者向けの結界を張って欲しいよ。

 そんな物張る馬鹿はいません。

 ライダーに叱られちゃった。ごめんね、ライダー。今のは僕の失言でした。

 でも確かに士郎君は危ないよ、だってセイバー霊体化出来ないから単独行動だもんねぇ。どうもこの結界はサーヴァントが張ったものらしくて、何やら高度らしいです。

 話が終わり、彼は不承不承と言った具合に頷いて教室に戻って行った。結局買った物教室で食べるのかな。僕がレモンティーを舐めるように飲んでいると、遠坂さんがこちらに向き直って

「慎二あんたもライダーがいるからって先走った事するんじゃないわよ。・・・と言ってもあんたは何も問題無さそうだけど。逆に何もしなそうだから問題かもしれないわ。」

 溜め息をついて何やら僕を分析している遠坂さん。問題児ばかり相手にさせているようで申し訳無い気分でいっぱいだよ。だから僕はレモンティーをあげる事にしたんだ。

「はい、お茶飲んだ後だとちょっとは美味しく感じると思うよ」

「ありがと」

 飲んだ瞬間に噴き出した。え、何すんの、もったいないじゃない。いまだにゲホゲホむせてる遠坂さんだったけど、赤い顔をしてすぐに僕の飲み物を返して来た。

「あ、あんたと何で間節的な接触しないといけないのよ!危うく飲む所だったわ。」

 ふぅ~・・・と溜め息をついて腕を額の汗を拭う仕草をする遠坂さん。どうも彼女にとっての間接キスは食道に通った時点で成立するらしい。

「それより慎二、話ってのは他でもないわ。綾子のパートナーになったそうじゃない」

「うん」

「止めときなさい」

 両肩をガッシと掴んで顔に黒い影を作り迫ってくる遠坂さんが怖いです。忠告痛み入る話だけど、今朝になったばかりでもう僕達破局するの?それは波乱万丈君じゃなくて単なる行きあたりばったり君じゃないか。

「な・・・何で?」

「理由はとても言葉で表せない程根が張っているのよ。分かってちょうだい、でも慎二のためを思って言ってるの」

「僕のためを思うなら理由も無く美綴さんを振る、僕の気持ちを汲み取ってよ」

「・・・っていうか、あんた何でそもそも引き受けちゃったのよ」

「何でだろう。あまりにも会話の中に告白が溶け込み過ぎてて、気付いたらすんなり承諾しちゃってたんだ。ああ、誤解されたくないから言うけど僕は嫌だとは思ってません。」

「はぁ・・・やられたぁ」

「どうしたの?何で僕と美綴さんが恋仲になると、遠坂さんが困るのか理解出来ないんだけど」

「・・・慎二は知らなくていいわ。それよりも絶対に尻に敷かれるわよ。運気も下がるし、色々大変な事だって抱える事になるんだから」

「まぁ・・・今十分大変な状況だけどね」

「何よわたしといるのが大変だっての?」

「いやいや、それは誤解だよ!今は楽しいよ、うん。けどさっきの結界の話じゃないけど、常に周囲に気を配らないといけないって話だよ」

「・・・ふん、わたしなんてどれだけ普段から周囲の目を気にして生きている事か。甘ったれた事言ってんじゃないわよ」

「・・・気を配るのと気にするのは・・・どうなんだろう。意味的に一緒なのかなぁ」

「一緒じゃないの。人の目や動作に敏感になるって事なんだから。外見を飾るってのも案外大変なのよ?」

「うん、たかが僕に伝言しに来るだけでわざわざ仕掛け用意するくらいの苦労は知ったよ」

「分かればよろしい」

 結局僕は何の話をされたのか分からなかったけど、昼休みが終わる鐘の音が鳴ったので戻る事にしたのだった。とりあえず僕と綾子をくっ付けたくないと言うのだけは伝わったよ。その理由は依然として謎だけど。乙女心は複雑なんだなぁ、なんて事を考えながら教室に向かう僕でした。





―続く―






 いやはや、中身が無い話になって申し訳ない限りですね。ライダーが常人なので結界はキャスターが張ったって事にしときます。高度過ぎて何の結界か分からんけど、とりあえずあるのは分かる、という事で一つよろしくお願いします。

 今一つ士郎と遠坂のキャラが安定しないというか。口調は似せてもやはり贋作っぽさは出ますね。本編を全部通してから、もう一度風を通す意味で全体をちょこちょこ訂正したいと思っています。それではこの辺で失礼します!

 本日もこのような駄文をここまで目を通して頂き誠にありがとうございました!(謝)



[24256] 真実の愛よ、永遠に(シリアス的)
Name: 自堕落トップファイブ◆d6d23546 ID:8c53522d
Date: 2010/11/17 21:37
 何事も無くいつも通り授業が進行し、放課後となった。僕はたったそれだけの事でも有難い事だと思う。だってこうして平穏な日々を過ごせるのが後何日継続できるか分からないんだ。こうして無事に平和に過ごせる時間というのは貴重なんだよね。

 士郎君はアンニュイな表情を今も浮かべながら歩いている。僕はもったいないなと思う。心配しても、焦っても、後悔しても、懺悔しても、どんな苦しい思いを内心に抱いても過去は変えられないし、未来は分からない。一寸先は闇なのだから、事の問題が生じた時の対処法さえしっかり決めていればそれでいいじゃないか。

自分の出来る範囲で頑張ればそれでいい。自分の不甲斐なさやちっぽけさに目を奪われて焦ってはいけないよ。だって人は個人の観点で見れば誰だって矮小なんだから。僕には士郎君の地面を見ながら歩く姿が、どうしても気で気を病んでいるように見えてしまう。諦めは心の養生、士郎君やっぱり君は一人であまりに多くの人を背負い過ぎているんだ。遠坂さんに言わせれば心の贅肉に当たるのかもしれないね。

「士郎君、悩んでいるのかい?」

「・・・ああ」

「思いを聞かせて欲しいな。僕は少しでも君の気を楽にさせてあげたいから」

「・・・もしあの結界が人に危害与える物だったら、慎二どうする?」

「多分士郎君とは見解が異なるよ」

「構わない。是非聞かせてくれ」

「桜と川尻君、それに美綴さんと言った懇意な間柄の人は何が何でも助ける。それ以外の人は場合によっては助ける・・・かな。結界をどうにかする術なんて知らないし分からない。だから僕は救助する方に心血を注ぐつもりだよ」

「・・・だよな。やっぱり全員を救うなんてのは虫が良い話なんだろうな」

「理想、だけどそれだけの力が僕達には無いよ。魔術にいくら携わっても結局の所、僕も君も生徒の一人でしかないんだ」

「・・・そうだな」

 僕はこれ以上話しても分かってくれるとも思えないし、余計傷の根を広げる気がした。だから話題を変えたんだ。

「そう言えば士郎君、屋上での話でバイトしてるって言ってたけど。何のアルバイトなの?」

「ああ酒屋でバイトをしてるんだ。商品の棚卸しとか、荷物運びが主な仕事なんだけどな」

「へぇ・・・何だか重労働な所そうだねぇ。僕の枯れ枝のような腕じゃとてもとても」

「ははっ、慣れれば案外そうでもないぞ?職場の人も良い人揃いだし」

「やっぱり良い人達の多い職場だと楽しいよねぇ」

 僕はこうして士郎君からバイトであったトラブルやネコ(蛍塚音子)さんと呼ばれる人の話を楽しく聞いていた。士郎君も語る相手が今まで居なかったのか、普段の彼とは違い頬が弛緩していたように思う。

 うん、良かった。少しでも士郎君の気分を紛らす事が出来て僕嬉しいよ。現実を直視するのも大切だよ。でもずっとずっと辛い思いをしてたら人生全てが辛くなっちゃうから。だからたまには全てを忘れて楽しんでもいいんだ。君にもその権利はあるんだよ、士郎君。寧ろ義務とさえ言えるかな?現実逃避と罵られるかもしれないけど、生命活動には必要な事だと僕は思っているよ。

喜びや多幸福は生きる糧にもなるし、生きがいにも繋がる。そして今後生きる源にもなりえるんだ。サーヴァントに魔力というガソリンが要るように、僕達人間にも希望という活力が必要なんだよ。君は強いけど、強いからこそ無理をし過ぎてしまっているよ、士郎君。

大丈夫、僕と共闘関係を結んでいる間は君も僕に取って大切な人なんだから。だから無理せずに明るく、楽しく暮らして行こうよ。泣くも一生、笑うも一生、それなら笑おうよ。僕だって人に尽くす事で生きている事を実感するのだから。


・・・


 僕と士郎君の歩く前には遠坂さんと桜の姿があった。彼女達も女の子同士お互いの心証を語り合っているんだろうね。桜が何やら俯き加減なのが気になるかな、僕としては。と、そんな事を僕が思いながらも士郎君と話していると、遠坂さんが唐突に振り返り一足飛びでこちらに肉薄して来た。え、何その身のこなし・・・猫の皮被るどころか猫そのものだよ。

 驚いている僕達男陣を余所に遠坂さんは士郎君に向かって

「士郎、あんたは前!」

 ドンッと桜の方に押しのけて士郎君の場所に遠坂さんが陣取っていた。僕としてはいきなりの場替えにただただ驚くしか無く

「え・・・遠坂さんどうしたの、急に?」

 僕が聞くと遠坂さんがポカリと頭をはたいて何故か溜め息を付いた。

「あんたねぇ・・・気持ちは分かるけどそんな理由で付き合うんじゃないわよ」

「え・・・?」

「桜に話を聞いたら全て読めたわよ。聞けば今朝桜と一悶着あったみたいじゃないの」

 目の前で俯く桜と、戸惑いから後頭部を掻きむしる士郎君を見ながら僕は今朝を思い出していた。

「でも・・・僕達兄妹だし」

「ふぅん、別にそれでいいならいいけど。でも桜のあのしょぼくれた姿があんたの望みなの?」

 僕は普段以上に小さく縮こまった前方を歩く可愛い小動物に目をやった。彼女は何も喋って無いようで、士郎君が実に挙動不審になっている。僕は桜の傍にいると言いながら、その実他の女に走ったように思われているのか・・・。

「・・・望んで無いよ。それでも僕達はお互いの人生を自らの足で歩かなくちゃいけないんだ。」

「まぁ・・・ね。でももうちょっとやりようを考えなさいよ。幾らなんでも行動起こすのが早すぎたわ、慎二。」

「確かにね・・・今朝の話をした後すぐに付き合う。学校にもすぐ広まったし、考えてみれば不自然にしか思えないよね。」

「ええ、あの子凄く今傷ついてるわ。慎二、あんたが桜の事を本当に大切に思うのなら、綾子と付き合うにせよ、まず桜を説得してからにしなさい。それがあんたの義務」

「そう・・・だね」

「・・・たく、見てるこっちが恥ずかしくなるくらいシスコンなんだから。わたしも人の事言えないけど」

「え・・・?」

「何でもないわ。それでどうすんのこれから?」

「そうだねぇ、何はともあれまた家族会議と行くしかないかなぁ。美綴さんとお付き合いする事は本当だし。桜に好かれて嬉しいけど、僕に依存するような愛はいらないよ。もし桜と本当に向き合う時が来るなら、それは今のお付き合いを笑顔で見送れる桜さ」

「きっつい事言うわ。正論は時として言葉の暴力って本当ね。まぁ赤の他人が口出しするような事じゃなかったかもね。方法は慎二に任せるけど、出来るだけ早く消化しなさいよ」

「うん、ありがとう。桜にも良い相談役となる人がいて良かったよ。優しいね、遠坂さん」

「・・・別にあんたのためにやった訳じゃないわよ」

「それでも桜に心やり所となる人がいるのといないのとでは大きく違うんだ。これからも桜をよろしくお願いします」

「ちょっ、ばっ、頭あげなさいよ!別にそんな大げさに考えなくていいのよ。単純に女友達として親しみ合ってるんだし。そんなの世間一般的なことじゃない」

「ふふ、遠坂さんも色々苦労抱えそうな人だね」

「・・・はぁ、全くそれについては同感だわ」

 その後僕は遠坂さんに魔術の事や、今までの苦労話を聞かせて貰う事になった。教える事や喋る事が好きなのか、ほとんど一方的だったけどそれでも楽しかった。遠坂さんと打ち解ける事が出来た事がまず嬉しいんだ。


・・・


 一人が沈んでいるとそれは周囲にも侵食して行くものです。衛宮家の夕飯に置いてもそれは例外じゃ無かった。セイバーも何故か静かな一同に少し不審に思いつつも箸の動きは変わらずだった。控えめな咀嚼音と箸が容器と擦れる音、器を置く音。本当にひっそりとした団らんの場になっていた。

 桜は沈痛、とは違う無機質な顔だった。能面のような桜を見るのは心が抉られる。初対面であった顔など僕はとっくに忘れていたと言うのに。僕に最初出会った桜は世界を見てさえおらず、ただ虚無に支配される女の子だったんだ。

 そうして桜はご飯を半分以上残し、一人早々と居間を離脱して行った。僕は一時桜に時間を与えようと思った。そして僕自身も考え抜いて結論を出さなくちゃいけないんだ。士郎君は桜の異変に疑問を抱いているようで

「・・・桜どうしたんだ?調子でも悪いのか」

 何だか癒された。僕は士郎君の見当違いな回答に心に刺さっている棘が少し払拭された気分になり

「そう、とっても調子が悪いんだ」

――心の調子がね

「そうか・・・しっかり休んで早く元気になるといいな。やっぱり元気な桜が一番だ」

「そうだね、本当にそう思うよ」

 遠坂さんもこれから用事があるとかで出かけて行き、セイバーも体力温存のために寝てしまった。士郎君は今お風呂に入っている。僕はライダーに話しかける事にした

「ライダー、やっぱり僕は上手く出来ないね」

「いえ・・・それも桜を思っての事なので問題はありませんよ。ただちょっと強引すぎました」

「うん、全ては安請け合いした僕の責任なんだ。しっかり桜と向き合わないといけないね。」

「はい、それは否定できません。」

「はは、相変わらず手厳しいね、ライダーは。うん、でもありがとう。ライダー、もし僕や桜が半狂乱になったら止めて欲しいんだ。だから霊体になってまた付いて来てくれるかい?」

「勿論です、マイマスター」


・・・


 僕が何度ノックしても桜からの応答は無かった。そして僕がドアの前で話をしようかと思い始めた時に

「兄さん、どうぞ」

 桜からの初めての応答がそれだった。あまりにも平坦で抑揚のない声に一瞬たじろいだ僕。けど負の連鎖を止めるためにもここで食いとめなくちゃいけない。僕は喉を鳴らしながら桜の部屋へゆっくり入って行った。

「お待ちしていました、兄さん」

 僕は驚愕と羞恥によって半ば口を開けて呆然としてしまった。桜は何故か扇情的な下着姿で僕を迎えた。ランジェリーショップに売られる、男心をくすぐりそうな際どい下着を身に付けている。何より恥ずかしげも無く寧ろ見せつけるような姿は、僕からすれば異様で桜が別人に思われた。僕はすぐさまライダーに厳戒態勢を取るように指令した。

「桜・・・服を着なさい」

「いいえ、兄さん。強がっても無駄ですよ。今日あなたは禁忌を破り、わたしの虜にするんですから」

「・・・いいから早く服を着るんだ」

「うふっ、兄さん・・・照れる兄さん素敵。ねぇ、もっと見たいでしょう?」

 全く話がかみ合わないなんてのはこれが初めてかもしれない。確かに劣情を催した事は否定しないけど、それ以上に悲しみや不甲斐なさが僕の全身を覆っていた。桜をここまで追い詰めたのは、全て僕の判断の甘さが原因なんだ。だからこんなヤケになったような桜に屈する訳にはいかない。自分で撒いた種は自分で刈り取るのが道理というものだ。

 桜は一人勝手に盛り上がり、背中のホックを外して半裸にまでなろうと、その手をライダーが掴んだ。いや、掴ませたの僕なんですけど。

「ど・・・どうして、ライダー?」

 ゆっくり左右に首を振るライダー。その手には桜の着替えが持たれている。

「桜、いくらあなたでもやり過ぎですよ。もう少しご自愛して下さい。」

「・・・どうして、あなたは・・・あなただけは私の味方で居てくれるって。ライダー、もしかしてあなたまで兄さんに――

「桜!!」

 僕は堪らず怒声を発していた。僕は何を言われても構わないけど、桜を本当に大事に思ってくれるライダーがあまりに不憫に思ったからだ。桜はビクリと体を震わせ涙をポロポロ流し始めた。

「桜、話をするのはまず君が身だしなみを整えてからだよ。ライダー、桜が一人で着れないようなら手伝ってあげて。僕は外で待機しているから、用意が出来たら呼んでね」

「はい、マスター」


・・・


 僕が次に部屋に入った時、うつ病患者のようにピクリとも動かずに桜はベッドに腰掛けていた。僕はそれを見た途端に涙が溢れそうになったけど堪えた。身だしなみ所か声もろくに出ずに話なんて出来やしないんだ。

 僕は煮え立つ自身への憤りを抑え込み、桜の隣りへゆっくり座った。それを機にライダーは部屋を出る前に一礼して出て行った。ありがとうライダー、後は僕で何とかしてみせるから。

 僕は桜に自分の思いの丈を全て語った。桜が好きだけど、僕達が兄妹であるという葛藤。それに僕は家族として桜を愛しているという心の溝。そして桜に諦めさせようという思いからお付き合いをした訳ではない事。話せば話すほど、僕は自分の短慮な行動に吐き気がし気付けば涙ながらに話をしていた。

 桜は僕のだみ声とも言える尻切れトンボの口調を最後まで聞いてくれた。もう最後はお互いワンワン泣きながら謝り合っていた。こうまでしないと心を通わせ合う事も出来ない僕は本当に情けない男だよ。桜は僕の気持ちが伝わったのか分からないけど

「兄さんが幸せになるならもう何でもいいです」

 泣き笑いを浮かべてくれた。僕はその言葉によりさらに涙量を増やすことになった。こんな素晴らしい妹、世界にもう一人とも居ないとさえ思っているんだ。僕達は色々今までの事や、学校、友達の事を散々語り合った。そうしている内に気付けば二人で眠ってしまっていた。向かい合い両手をしっかり握りあっていた。この手の温もりこそが兄妹の繋がりとでも言うかのように。

 ライダーはゆっくり僕らの体に布団に入れ、掛け布団を被せて微笑みながら呟いた。

「純粋な愛というのは本当に美しいものですね」

 僕はとても満ち足りた夢を見た気がした。





―続く―





 はい、どうもとりあえず作りました。ちょっと桜をヤンデレ風味にしてみました。今となってはもうちょっと改良の余地ある、かな?と思ったり思わなかったり。でもまぁ一応これで良しとしましょうか。

 こう読み返すと慎二って本当に「人に優しく、自分に厳しい」奴だと思います。何と言うか、やっぱり作者的にこんな慎二が好きです。それでは今回はこの辺で失礼します。

 本日もこのような駄文をここまで目を通して頂き誠にいありがとうございました!(謝)


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